●リプレイ本文
●カルンバ
ミル・バーウェン(gz0475)から緊急の仕事があると、急遽呼び集められた傭兵一同。
だが肝心のミルがいない事を訝しみ、彼女の部下グレイから初めて事の顛末を聞かされた。
「ミルさんがー‥‥誘拐っ?」
「いやぁちょっと違うかねぇ。子供助けるのに自分から乗り込んで、そのまま連れてかれたって言うっつーかな」
「え、違うー? で、でも早く助けに行かなくちゃなんだよ!」
慌てる高縄 彩(
gc9017)とはうって変わって、他の傭兵達の反応は冷ややかというか、呆れた空気も感じる。
「久々にオーストラリアと思ったら‥‥まぁ、今回は少年を助ける為ってだから仕方ないんだろうけどねぇ‥‥お嬢は弄られキャラに加えて、攫われキャラも目指してるのかねぇ‥‥?」
「だんだん面倒見きれなくなってくるのである」
わりと長い付き合いの刃霧零奈(
gc6291)と美紅・ラング(
gb9880)は、ミルの予想通りまたかという顔をしていた。 それでも同じくらい付き合いの長い、春夏秋冬 立花(
gc3009)やエドワード・マイヤーズ(
gc5162)は呆れた顔はしていなかった。心配もしていないが。
「最近の同士は本当に休まる暇もないね」
「そうだね。それでこそという感じもしなくもないけど――とにもかくにも、残党達から助けなければだね」
「ま、残党の末路なんてこんなもんだよねー♪ どうせ生活に困って行く当てもなく物資盗もうとでも思ったんだろうけど、それが運の尽き?」
集まった中で唯一、ミルとの面識がないエレナ・ミッシェル(
gc7490)が実に軽く楽しそうに話す。当然ながらミルへの思い入れもないため、集まった中では一番マイペースを貫いていた。
彼女の行動理念はキブ&テイク。報酬さえ出るならちゃんと仕事をする、それだけなのだ。
「運の尽きなのは確かだろうねぇ――偶然とはいえお嬢を攫っちゃうんだもん。物資だけなら捨て置けくらい言いそうな本人を連れてっちゃあねぇ‥‥」
「助けに行かざるをえないのである」
呆れつつもだが、助ける事はさも当然のようである。それこそがミルの確信していた信頼関係であった。
「まあよろしく頼まぁ‥‥それと空爆の可能性もあるから、よくてワンチャンスか。手早くな」
結構重要な事をさらっと付け足す。だがその言葉でようやく、傭兵の表情は少しだが引き締まってきた。
美紅と彩は地形と道を確認するために周辺の地図を探しに行き、その間にエドワードは車を調達し、準備ができ次第傭兵達はすぐに出発するのであった。
「もしもし、聞こえる?」
エドワードの運転するトラックの中、助手席に座っていた立花が無線機でミルに呼びかける。
「おー会長。聞こえるよ」
「まだ無事だね。よかった。すぐに助けに行くから、バレない範囲でいいから、段ボールの中に毛布を敷き詰めて隠れる準備しておいて。もしくは毛布にくるまるとか。
あと、右と左のどっちに乗っているか音で判る?」
「左右ではなく、前後だね。後方の車両のはずだよ――段ボールのサイズはちょっと小さいから‥‥よし、毛布は何とか引っ張り出せるから、くるまっておくとするよ」
「ん、オッケー。じゃ、少し待っててね」
無線を切ると、走行したまま窓から身を乗り出しルーフによじ登ろうとすると、すでにルーフで待機していた零奈が手を貸してくれる。
「同士は後方の車両だってさ」
「ん。あたしは先頭車両制圧するって皆に伝えといて」
こくりと頷き、幌を伝って横からに荷台に飛び降りる立花。荷台ではエレナと彩が、幌の骨組みの左右から顔を出して双眼鏡で捜索し、美紅は襲撃の準備をしていた。
「刃霧さんは先頭車両を制圧するそうです。あと、同士には毛布にくるまってもらいました」
「了解である。では美紅と立花でミルの身柄確保と後方車両の制圧であるな――応答願うのである」
無線機で呼びかける美紅。こちらミルだと、すぐに反応が返ってくる。
「襲撃の際にもう一度、声をかけるのである」
それだけを言うと無線機を切ろうとして――彩がじっと見ているのに気付き無言で差し出すと、彩は嬉々としてひったくるように無線機を受け取ると呼びかける。
「ミルさん大丈夫ー?」
「――その声はふれんどか。こういう事には巻き込みたくはなかったんだがね‥‥怪我には気を付けてくれたまえよ?」
「大丈夫、一応能力者だし、むしろミルさんが気を付けてほしいんだよー。それじゃ見つかっちゃったらダメだから、もう切るねー」
そう言い、名残惜しそうに無線機を切って礼を言いながら美紅に返す彩。落ち着くためと気合を入れるために、深呼吸1つ。そして拳をグッと握る。
「あ、ちなみに乗りこんだりするのはいいんだけどー、私は当てにしてないから最初っからタイヤ狙うよ♪ そのあと助手席の強化人間やっちゃうから」
前方を確認しているエレナが、急にそんな事を言い出す。もともとは個人で動いているのが傭兵なのだから、当てにするしないは当然各自の判断である。
そこは理解しているのか、誰もそのことに異議を申し立てたりはしない――だが、別件で立花が口を開いた。
「強化人間に関しては――できれば私の見えないところで、お願いします」
そんな立花のお願いが聞こえているのか聞こえていないのか、エレナはマイペースに双眼鏡をのぞき続けていた。
やや気まずい空気の中、無線からエドワードの声が流れてきた。
「ところで、先回りかそれとも後をつけるか、どっちなんだい?」
「後を追って狙撃後、立花と美紅が乗り移るであります」
無線越しで返す美紅。ルーフの上にいた零奈は直接聞こえたのか、窓から車内を覗き込み、直接エドワードに言葉をかける。
「その後先回りしてほしいかな。あたしが先頭車両に乗り込むからさ」
「了解――途中での進路変更も、そこは皆の判断に委ねておくよ」
「発見〜♪」
「見えてきたんだよー」
エレナと彩、2人の声にエドワードの瞳は金色に輝き始める。地図で逃走経路を割り出しただけあって、意外と早く追いつくことができたのだ。
「できれば脇道のないところでかつ、両側が斜面に挟まれた谷底のようなところで襲撃をかけるのである。最悪、片側崖のような危険なところでなければどこでもかまわないのでありますが」
「それは任せてくれ。もう少し先に行けば渓谷のようなところがあるはずだ」
一段とシリアス口調になったエドワードは襲撃ポイントを合わせるため一定の距離を保ちつつ、速度を調整して追跡を続ける。
「さて、ERにしては身軽で体力あるとこ見せたげますか――美紅さん、これ使います?」
準備運動をしていた立花だが、トリコロールを見せて問いかける。
美紅はいらんのであるとぶっきらぼうに言い放ち、眼帯から鮮紅色のオーラを噴き上げ、閃光手榴弾を取り出してピンに指をかけていた。
「エレナさん私がまず前の車のタイヤ狙って、そのあと後ろの車両の進路を牽制するよー」
「おっけ、彩さん。ハンドル切った所を私は狙っていくね」
左の瞳の前に十字の紋章を浮かべたエレナと、背に刃物の様な銀色の鋼翼を展開させた彩がコートとジャケットをはためかせながらも、車両の左右の端に腰を掛け、身を乗り出し時が来るのを待った。
「さて‥‥強奪犯始末といこうかねぇ‥‥♪」
ルーフの上の瞳を真紅に染めた零奈も、妖艶な笑みを浮かべ松風水月を抜刀するのであった。
予定ポイントが近づき、速度を上げる一行を乗せたトラック。エドワードが大きく息を吸って――吐き出す。
「さて、目的のトラックに近づいて来たな。奪還の確実性を考えるとここが唯一のワンチャンスか?」
エドワードの言葉に誰も応えない。それだけ緊張が高まっているのだ。
それはエドワーズも同じ事。彼は自分を奮い立たせるためにも続けた。
「それでは奪還ミッション開始だ!」
速度を上げ追い立てるとさすがに敵も気づいたらしく、速度は変わらないものの助手席の強化人間が単発で発砲し、牽制してくる。
「そんなミエミエ、当たってやるわけにはいかないね」
アクセルを踏み込みながらも、ほんの少しハンドルを切って右へとかわす――と、彩が天狗ノ団扇を2度、仰ぐ。
小さいながらも激しい旋風が先頭車両の右後輪をズタボロに引き裂き、それよりも規模の大きな旋風が後方車両の前方に吹き荒れる。
急停止する事はなかったものの先頭車両の速度は激減し、後方車両は旋風と先頭車両に驚き、かわそうと左にハンドルを切っていた。
「バーン♪」
そこを狙ってエレナがNL‐014で後方車両の左後輪を撃ちぬく。先頭車両と同じように停車する事はなかったが、その速度は激減する。
「もう一発♪」
狙いをよく澄まして、もう一発。その銃弾はピンポイントでサイドミラーに当たり、軌道を変えて助手席の強化人間の眉間に――のつもりだったが、サイドミラーの強度が弱かったせいか思ったほど弾は跳ねずに、目を掠める程度に止まってしまった。
だがそれでも十分である。
「とう!」
シーザーハンズから射出されたワイヤー付の矢尻を後方車両の後ろにひっかけると、荷台から姿をかき消すように一瞬にして飛び出し、同時にワイヤーを巻き取らせ後方車両の荷台に乗り込む立花。
着地後、すぐに呼びかけると、ひょっこりとミルが顔を現す。
「やっほ、助けに来たよ」
後ろの美紅に親指を立て発見を知らせると、ミルと少年に近づく。
「わざわざすまないね、会長」
「同士だしね」
微笑む立花――そんな立花の胸元を見て、少年が首をかしげて疑問符を浮かべる。
「‥‥男?」
無言で拳骨。
「おっと、こんな事してる場合じゃないね」
後ろに向けて親指を立て発見と保護を知らせると、入りきりはしないが2人にはとりあえず段ボールの中に毛布と共に入ってもらい、自分の身体で固定するのであった。
立花の合図を確認し、エドワードは加速させてトラックを並走させた。
美紅はピンを抜いていた閃光手榴弾を車両の前に投げ、同時に後方車両の幌の上へと飛び移る。
閃光と轟音。
音と光に紛れ、ルーフの上に移動した美紅は助手席側の上に立ち、ケルベロスを下に向けたまま無線で一言。
「伏せてろ、火傷するのである」
そして数発、発砲。
SESを活性化させ通常よりも高い威力の貫通弾が、ルーフに穴を開け、助手席の強化人間は反撃の暇もなく無残な姿へと変貌を遂げる。
しゃがみ、伏せると、ゴツンと中に聞こえるように銃口をルーフに押し当て声を張り上げる。
「狙っているぞ、やけを起こすなである。言う通りにすれば殺さない」
「振り落されないようにしっかり掴まってくれたまえよ!」
美紅の活躍で後方車両が停車するよりも先に、エドワードは銃撃を巧みにかわし先頭車両との距離を縮める。
エレナは1人、激走するトラックから軽く飛び降り、路面に靴跡をつけながら停止するとターミネータを手に取り、後方車両にゆっくりと向かって歩いていた。
エドワードのトラックが並走すると、助手席の強化人間が運転席に銃口を向け――突如白く淡い光に包まれ、その動きを止めた。
「させないんだよー」
彩が白く淡い光に包まれていた。呪歌が効いたのだ。
「ナイスだよ、高縄さん」
ドアを斬り落とし、強化人間めがけて飛び移り、クッションにすると同時に小太刀を突き立て絶命させる。
「はい、アンタ邪魔とっとと降りるっ!」
運転席の強化人間を蹴りつける零奈――当然FFでダメージはほとんどないだろうが、衝撃などが防げるわけでもなく力押しでドアごと車外に蹴落とされる。
そしてハンドルを手に取り、挙動を制御しながらも運転席に座るとブレーキを踏んで停車させた。そして即座に飛び降り、まだ地面で転がっている強化人間の元へと一瞬で詰め寄ると、心臓に狙いを定め、小太刀を構える。
「あは‥‥トラックから降りたんだからさぁ‥‥ついでに人生の舞台からも退場しちゃいなよぉ‥‥♪」
停車した後方車両から、美紅が銃口を運転席に向けたまま飛び降りると、荷台からも立花とミルと少年が降りてくる。
「制圧完了。無事のようであるな」
「うむ、ご苦労だったね」
ミルが笑顔で返すと――すぐ真剣な表情をして少年の目を塞ぐように抱き寄せ、耳を塞ぐ。
運転席の前でエレナがかわいらしく、ニッコリ笑う。
「こんにちはっ、それからさようなら♪」
ターミネーターの弾をありったけ、運転席にばら撒く――響き渡る銃撃音に悲鳴――銃声が止むのと悲鳴が止まるのは同時であった。
立花が顔をそむけ、なんて事をと、悔しそうに呟いていた。
「生かしておくメリットもないし、得られるのがリスクだけじゃねー」
「まあ、もっともであるな」
生きていようが死んでいようが構わなかった美紅が、ケルベロスを収める。
小太刀を納めた零奈がやってきて、少年を開放したミルの前に立った。
「無茶するのはいいけど、心配させるのは頂けないねぇ?」
「うむう、それについては反省の限りさ」
苦笑するミル――そこに彩が飛びつき、思いっきり抱きしめる。
「本当に、心配したんだよぅー」
何やら照れているミルを尻目に、零奈は少年にも声をかける。
「無事で何よりだったね、よかったよ♪」
笑顔を向けると、少年は安堵したのか、泣きだして零奈にしがみつく。その頭を撫で続けていると、Uターンしたエドワード車両が声をかける。
「早めに引き上げよう。空爆の餌食になるのは絶対にゴメンだからね」
●カルンバ・後日
奪還成功を彩が軍に連絡したおかげで、車両は空爆される事もなく無事に回収、そして物資はシドニーへと運ばれた。
詫びと礼もかねて傭兵達を、改めて食事の席に呼んだミル。少年もその場の席にいた。
「やあやあ、今回は実にご苦労様だった」
「今回はくたびれたね。ワンチャンスだっていうからさ」
苦笑しながらもやり遂げた顔をしているエドワード――と、ミルのポーチからグレイの声が聞こえる。
ミルが失礼と言いポーチから無線を取り出し、応答する。
「やあグレイ。無事に届けたようだね――ふむ? 物資がちょうどだっただと‥‥うむ、ご苦労様。ゆっくり帰っておいで」
口をへの字に結ぶ、ミル。
「どうしたの、同士?」
「余分に持ってきたはずの物資が、ぴったりだった――どこかで誰かに『抜かれた』可能性がある」
多少目減りした程度なら避難民が2回受け取っているなどでありえるが、そんな程度ではない消失の仕方である。
(ちょっと調べてみるか‥‥)
難しい顔をしているミル。
そんな空気など関係なしにエレナは、零奈に同士と呼んだ立花とミルの関係を聞き、ナイムネ同盟の事実を知ると、ミルの横に並んで比べていた。見た目で言えば、エレナの方が『じゃっかん小さい』。
「うん、まだ私若いし? 成長期だし? この歳で大きかったらおかしいし? 将来に期待!」
しかし、こっそりミルの方がダメージがでかかった事は、言うまい――。
『【決戦】お嬢がまた 終』