タイトル:【落日】傭兵のガス抜きマスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/16 11:58

●オープニング本文


●カルンバ
「ふーむふむ‥‥」
 狭いながらもやや豪勢な作りをしている部屋で、高級そうなソファーにテーブルを挟んで向かい合わせに座っている1組の男女。
 オーストラリア駐留軍責任者である高官と、テーブルに広げた旧ニューサウスウェールズ州の地図を挟んで腕組みをしているメタルのフルリム眼鏡をかけた、銀髪の少女。
 組み合わせとしてはあまりにも不自然だが、それでも2人は至極真面目な顔をしていた。
 複数の公園と森林を指さす少女。
「この一帯に、東オーストラリアほとんどのキメラを追いこんである。そういう事だよね? 君らがやって来たことは」 若干、少女の方が高圧的――いや。高官がただ単に、下卑た笑みのせいで下にいるように感じるだけである。
「そういう事ですね、バーウェン女史。細かく処理していては、ここまで早く各都市とラインの安全性確保はできませんでしたよ」
 自分はエライ! とでも言いたげに誇らしげな高官。そんな高官を、ただ黙って溜め息をつきながらジト目の『バーウェン女史』こと、ミル・バーウェン(gz0475)。
(やるべき事をやっただけで自分偉いと思う奴は、ぬるい仕事しかせん‥‥今回は見事に当てはまってるな)
 地図にとんと指を乗せる、ミル。
「ここにいるのは、ほとんど犬キメラなのかな」
「ほとんどではなく、全て間違いなく犬コロですよ」
「で、その数は随分多いか――」
 目を閉じ、腕を組んでから口元に手を当てる。
(数も多く範囲も広い。そうなると彼らだけではきついな。そうなると、だ)
 渋い顔をして片目を開け、高官の顔をじっと見つめるミル。
「今回、共同戦線と行こうではないかね。君らで追い掛け回し、傭兵の元に集結させ、傭兵はそれを退治する」
「おお、それはいいですな。ただ、私はここを離れる訳にはいきませんので‥‥」
 予想通りの反応に回答。
「わかっている。指示は私が出すから、適当に下士官でもいいから1人、まわしたまえ。それが指揮とったことにすれば面目くらいは立つだろう」
 相手の返答も聞かずに立ち上がる。これ以上、顔を合わせていたくはないのだ。
 地図を握りしめ、踵を返して後にしようとしたミルの背中に、高官がああととぼけたような声を出して続けた。
「他にもまだやる事がありますので、数ばかりはいる若手兵士をまわしますから」
 やる気のない上司よりはましだと思いつつ、ミルはわかったと短く応え、部屋を出るのであった。

「という訳で、遠征せねばならんのだよ。私の護衛よろしく」
「なんでお嬢がそれをするんだ? 依頼なら軍からだって出せるだろうよ」
 白髪交じりの男、グレイにそう言われたミルは腰に手を当てて胸を張る。
「軍よりもというか、あの高官よりも、私の方が傭兵と親しい関係を築けているせいだね! それになんだかんだで、傭兵の活躍により私も随分儲けてるわけだし、還元だよ、還元。
 この前の安全なルート確保のおかげで、さっそく単発だが大口の『お仕事』もして懐もあったかいのだし」
 懐の温まった武器商人が、ニヤリと笑う。
「それとまあ、私からのプレゼント、とでも言うべきかね」
 何を言っているのかわからない、そんな表情の部下達。言い方が悪かったかと、苦笑するミルが続けて説明する。
「平和になった、それは実に良い事だ。だが――根底はやはり戦争屋だと言える者達にとっては、平和もいいが少々味気がないのだね。君らも、結局は銃が撃てる世界が好きなのだろう?」
 首を傾げ問いかけるミルに、部下達はうっすらと笑みを浮かべるだけで、否定の言葉を発しない。
「ちょうど相手は彼らにとって雑魚である犬キメラだし、まとめてドーンとか、少々、傭兵のガス抜きをね。彼らが爆発したら、彼らも困るし、社員として雇い始めた私にとっても困るのだよ」
「まあ最後のがお嬢の本音かしら――とりあえずうちらは、お嬢の部下。文句も言わずにお嬢についてって、お嬢をお守りいたしますよってね」
「ですね」
「それなら遠出の準備してくるッスか」
 シスターの言葉に、スカーが頷き、ボマーが動き始めると、皆が部屋から出ていく――ただ1人を除いて。
 ずっと黙って部屋の隅で座っていたメイ・ニールセン(gz0477)がゆっくりと立ち上がり、片足を引きずったままミルの前までくると、ポケットから手紙を取出し、ミルに差し出す。
「あたしを呼んだ理由って、その退治のためかしら?」
 彼女は今でこそオペレーター業務をしているものの、短い期間だが一時、能力者の傭兵をしていたのだ。そんな彼女をミルは手紙で呼び寄せた――それならば、メイの質問も当然のものであった。
 だが、メイの予想に反してミルは小首をかしげる。
「いや? まるで別件だ。今回のは少々予定外なだけでね、君への用事はこれが済んでからにしようと思っているが、君も私の護衛にくるかい?」
「是非に。というよりは、討伐に参加させて――」
「だめだ」
 ミルの突如とした強い口調に、メイは目をぱちくりさせる。
「言っておくが、私は君にもう対バグア傭兵としての価値は見ていない」
「‥‥錆びたナイフに用はないってことかしら」
「錆びたナイフは砥げばいい。だが君は――折れたナイフだ。折れたナイフは直したところで、また折れる。いつ折れるかわからんナイフなど、私はもう武器として信用できないのだ」
 いつもの薄ら笑いを浮かべ、冷たい言葉を投げかける――だがメイは唇を噛みしめ、何も言い返せない。
 何も言わないメイの横を通り過ぎ、部屋から出ていこうとするミルは足を止めた。
「繰り返すが、護衛としてなら来るぶんには構わん」
 それだけを言い残し、後にする。残されたメイは、ただ拳を強く握っているだけであった。

 外に出ると見知った顔が飛びついてくる――両腕を広げ、がっちりと抱きしめるミル。弟分のエリックであった。
「やあエリック――すまないがしばらく留守にするよ」
「そっかぁ‥‥大丈夫、大人しく待ってるから、早く帰ってきてね」
 可愛い事を言う弟分に、優しく微笑みかけ、親愛の証に頬に軽くキスをする。イギリス人女性であるミルにとっては普通の事だが、エリックにとってはそうでもなく、顔を赤らめる。
「うんむ、君の為にも早く帰ってくると約束しよう」
 頭を撫で離れると、絶対だよと叫んでエリックは広場へと戻っていった。
 その後ろ姿を眺めているミルが、眩しさに目を細める。
(そう、エリックのためにメイを呼んだのだからね)

●旧ニューサウスウェールズ州・山岳地帯
 大部隊を引き連れ、部下達とメイ、それに傭兵達と共にやって来たミル。平坦な土地に停まり、ジープの荷台に立って声を張り上げる。
「これより掃討戦を開始する! 兵士諸君は指示のあったポイントにキメラを、指定された分だけおおよそ連れて行けるようにがんばりたまえ。傭兵達はとにかくキメラを退治、派手にやりたまえ! 活躍した者には金一封だぞ!」

●参加者一覧

/ クラーク・エアハルト(ga4961) / 夢守 ルキア(gb9436) / レインウォーカー(gc2524) / トゥリム(gc6022) / D‐58(gc7846) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086) / ジョージ・ジェイコブズ(gc8553

●リプレイ本文

●旧ニューサウスウェールズ州・山岳地帯
「これより掃討戦を開始する! 兵士諸君は指示のあったポイントにキメラを、指定された分だけおおよそ連れて行けるようにがんばりたまえ。傭兵達はとにかくキメラを退治、派手にやりたまえ! 活躍した者には金一封だぞ!」
 ジープの荷台に立って声を張り上げる、ミル・バーウェン(gz0475)。
 集まった傭兵達の面々は、だいたい覚えのあるものばかりであった。
「ミル君、この地域の地図は貰えるカナ?」
 真っ先に行動を起こしたのは、情報命ともいえる夢守 ルキア(gb9436)だった。
 ジープから飛び降りたミルが自分の部下に合図すると、白髪交じりの男がカラー印刷された紙をルキアに差し出す。
「この周辺の最新地形図だ。まあこの地域での戦闘行為はほぼなかったので、旧地形図と大差ないのだがね」
「ん、アリガト。レイン、ちょっと来て」
 飄々としている男が、ルキアに歩み寄っていく。自らを道化と称する、レインウォーカー(gc2524)である。
「何か用かな、ルキア」
「共闘しない? 効率を上げるためにさ」
 信頼できる戦友の誘いに、道化はニィッと笑い、イイヨとふたつ返事で即答していた。
 そして彼はかくんと首を曲げ、自嘲気味た笑みを浮かべたままミルを見下ろす。
「面白い舞台をありがとう、お嬢。前に言ったように手伝い‥‥もとい暴れに来たよぉ」
「ふふーん、前菜程度のモノしか用意できていないがね。存分に暴れたまえよ」
(そう、こんなものは前菜でしかない‥‥これだけの部隊が動いていても、喰い付いてこないとはね――)
 内心、本当に完全なキメラ退治にしかならなかった事に舌打ちしていたが、そんな事はおくびにも出さない彼女であったが、前菜という言葉でなんとなく勘づいたのか、レインウォーカーは肩をすくめる。
「そうさせてもらうとするさぁ‥‥そうだ、イツハ」
 振り返り、各自装備のチェックをしている傭兵達の中に呼びかける。
「イツハ?」
 参加者名簿の中に、そんな名前はなかったはずとミルは首をかしげていると、D‐58(gc7846)がひょっこりと輪の中から外れ、トコトコとやってくる。
 彼女にも覚えのあるミルは、ああ君かと言って頷くのであった。
「58だからイツハ、ね。なるほどなるほど――」
「ミル・バーウェン‥‥確か、何度か救出依頼が出された方でしたか‥‥」
 何気に酷い覚え方である――が、当人に悪気はない。
 彼女がミルに関わった依頼に参加したのは、2回程度なのだ。
 しかもどちらもろくに言葉も交わしていない。それだけではなく、2回目の時はタッチの差ですでに本人がいなかったのだから、出会ったのは実質1回限りで、会話したのはこれが初めてなのだ。
 彼女が覚えているだけでもなかなかだというのに、もっと大勢の人間と係っているミルが自身の事など覚えているはずもないと思っているので、それほどミルに対して印象があるわけでもないのだ。
 だが思いの他、ミルは違った。
「最初にあった時は二刀使いだったはずだがね、いつの間にかずいぶんごついモノに切り替えたんだな」
 表情は変えないが、少しだけ驚くD−58。
「何を驚いているかね。私が君を覚えているのが、そんなに意外かな?」
 笑顔のミルに、いえ、とだけ無表情に返事をする。だが、レインウォーカーだけは彼女の変化に気付いたようだった。
「ちょっとだけ、嬉しそうだねぇ。イツハ――ところで、ボクらと組まないかい?」
「‥‥構いません」
 そっけない態度で返事をして踵を返し、自分のAU‐KVアスタロトの元に向かう。だが彼には彼女がどこか楽しそうに見えたらしく、自分も少しだけ高揚する。
「組む、というほどではないのですが。自分、待ち伏せしますので追いこんだりしてもらえませんか? 獲物が獲物なので、あまり小回りが利かないのですよ」
 両手で大口径ガトリングを構えてみせるクラーク・エアハルト(ga4961)。
 声からすると苦笑しているような気配はするが、全身スーツのせいでその表情はよく見えなかったりする。
「ああ、できれば俺も便乗させてもらえますかね。こう、参加は一応したけども、どうにも‥‥」
 あまり乗り気じゃない気配のジョージ・ジェイコブズ(gc8553)が手を挙げて、話に加わる。だがそれでも1人で動いてサボるとかではない分、そこそこ意欲はあるのかもしれない。
 2人の申し出に、ルキアがいいんじゃナイかなと軽く答え、レインウォーカに目を向けると、彼も頷く。
「追い込む分には構わないんじゃないかな。
 ‥‥もっとも、僕らだけで殲滅させてしまうかもしれないけどねぇ」
「殲滅できるかどうかはともかく、その意気はいいね。レイン、どっちが多く倒すか競争だよ」
 その提案に、戦場に生きる道化はニタァと笑みを張り付ける。
「負けるつもりは一切なし。望むところさ、ルキア」
 火花のようなモノを散らし、お互いにモチベーションを上げる2人は、地形図を広げ、作戦地域を見渡せるところへと移動するのであった。
 その後ろをジョージがついて行き、クラークもついて行こうとしたところで、1度ミルに振り返る。
「作戦後に時間がありましたら、少々お話したい事が」
 何となくでお話の内容を察したミルは、びっと親指を立てて、了解だ! と力強く頷くのであった。
「私にも地形図、もらえるとありがたいのだが?」
「うむ、もちろんだとも」
 長身の女性、ルーガ・バルハザード(gc8043の疑問にミルが答え、彼女にも地形図を渡すよう指示する。
「例によって、弟子と共に参加かね?」
 弟子――彼女には実の娘のようにかわいがっている、エルレーン(gc8086)という弟子がいたりする。己にも他人にも厳しい彼女だが、弟子の話となると、途端に端正で凛々しい顔立ちが崩れ、優しそうなというか、デレた顔になったりする。
「ああ、その通りだ――エルレーン、はしゃぎ過ぎてあまり遠くに行くんじゃないぞ」
 走り回って遠くへ行ってしまいそうな弟子をたしなめると、では失礼と追いかけるのであった。
「今回もよろしくお願いします、ミルさん」
 先ほどのルーガとうって変わって、ミルよりも頭一つ近く低い少女がぺこりとお辞儀をする。トゥリム(gc6022)であった。
「ああ、よろしく頼むよ――あいにく今回は、マグロとかいないけどね」
 苦笑するミルを前に、頷いてみせるトゥリム。
「大丈夫です――今回は別の目的があっての参加ですから」
 髪を束ねて縛りながら、どこを見るでもなく、ふいと遠い目をする。
(あのド外道を打ち倒す為に手に入れた力なのに――振り上げた拳を何かにぶつけないと、気が収まらないですよ)
 イェーガーとなった理由に思いをはせながら失礼しますとトゥリムが後にすると、ジープの助手席でずっと黙って座っていたメイ・ニールセン(gz0477)が口を開いた。
「お嬢も、随分と傭兵に顔利くようになったんじゃない?」
「そうかね? むしろ無理を言われているのは、だいたいにおいて私のような気もしなくもないのだが」
 やれ交渉の為にバグアの前に連れて行けとか、一般人でもできる毛虫キメラ退治の方法を探れなどの依頼を出してきた当人がシレッとそんな事を言うと、グレイが吹き出して笑っていた。
 前と変わらぬ空気の古巣に、メイは少しだけ懐かしむように目を細め、顔ぶれを改めて確認する。
 いつも飄々としていて、ミルの次に何を考えているかわからないがいざという時の決断力や判断力は頼りになった、黒髪に白髪が混じっているから灰色と言う事で名づけられた、グレイ。
 射撃能力の高さが異常に高く、血はつながっていないが、拾われてからずっと一緒に育ってきた自分の姉にして、一時教会で共にシスターをやっていた、シスター。
 ミルが勢いで潰した組織で、鼻にかすらせたものの、自分が一撃で仕留めそこなった事からミルに気にいられてスカウトされたスカー。
 そして――。
 あれっと、辺りを見回すメイ。
「ボマーとドライブは?」
「ボマーは直前で何やら恩師に呼ばれたとかで、長期休暇を取って寒い地方へ。ドライブは、まあちょっと裏付け調査とでもいうかね‥‥」
 また余計な仕事拾ってこなければいいのだがと、内心ため息をつく。
「そっか――ボマーに30歳おめでとうって言っといて」
「誕生日も年齢も覚えていたのか、マメだねぇ‥‥一応伝えておくよ。本人は怒りそうだが」
 苦笑してから、ぽんと手を叩く。
「そうだ、誕生日と言えばだ――また後でな、メイ」
 ヒラヒラと手を振ると、メイも笑顔で手を振り返し――シートに深く座り直し、天を仰いで顔を手で覆い隠すのであった。

 打ち合わせをしているルキア達の元に、ミルが顔を出す。
「やあ、ちょっといいかな。夢守にほんの少し用があるのだが」
「ナニかな?」
 依頼に関してかと身構えるルキアに、手をパタパタさせると、彼女の前に立って真剣な眼差しで真っ直ぐに見つめ、こう告げた。
「誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとうだ」
 ミルの賛辞に、一瞬、周りが静まり返る。
「12月15日は君の誕生日のようなのでね。書類に書いてある通りならば、だが」
 握手を求めると、虚を突かれていたルキアは我に返り、手を握り返した。
「ん、アリガト」
「実の所、同じように15日が誕生日という者がもう1人いるのだが――」
 ちらりと丘の上で腕組みをし、自愛の表情でエルレーンを眺めているルーガに目を向ける。
「おめでとうと言っていいものか、やや微妙だろうからなぁ‥‥」

●セントラルコースト地区・山岳地帯
「良い地形だ‥‥待ち伏せにはもってこいか。あとは夢守さんたちの追い込み待ちか」
 ミル達の居るベースからだいぶ離れた小高い丘の上に立ち、岩場を見下ろしながらクラークは満足げに呟く。
「そうですね。夢守さんらが追いこんでくるのを気長に待ちますか――とはいえ、来るまでに残っているかという問題もありますし、気楽に。軍人さんが追いこんでくれるかもしれませんが。
 まあ、皆さんの戦いぶりを眺めるのも良いですね。なかなかそういう機会も無いですし」
 ジョージは両手で分隊支援火器MS46 mod 1を持ち、穏やかな笑みを浮かべて皆の様子を窺っていた。
「豪州軍は、アテにしていませんから。信用できません――それにしても」
 ミルの居る方角に、クラークは顔を向ける。正しくは、この部隊を指揮していることになっているお飾りなややお偉いさんを、だ。
(豪州軍の士気の低さは目に余るな。そして‥‥舐められる訳にはいかん)
 気楽にと言われたばかりだが、スーツの中で右目を金色に輝かせ、いつでも即撃てるように岩場にガトリングを向けどっしりと――さながら、映画に出てきそうな殺人機械兵の様に見る者に畏怖を感じさせるような気配をかもし出し、その時を待つのであった――。

「兵士は車に乗り、風下から追い上げて」
 天に指をかざしながら、ルキアは若輩ばかりの兵士達に呼びかける。
「ダメージにはならなくてもいいカラ、弾幕で威圧をかけて。とにかく追い立ててよ――車に乗ってれば少しは安全でしょう?」
 まだ幼いとも言える少女の指示にも、すんなり従う兵士達――かつて、マグロ退治で傭兵の指示通りに動いた者達ばかりだからなのだろう。
「じゃ行こうか――私もイツハって呼んでいいかな?」
 D−58がまたがっているアスタロトの後ろに腰を掛けたルキアが、そんな事を言ってきた。
「いい、ですよ‥‥」
 そっけない彼女の返事――そのはずだが、2人の戦友のやり取りにレインウォーカーは笑って、ジープに乗り込む。
 そこそこ大きな部隊となった一行は、たいして走らぬうちに犬キメラの集団に遭遇する事となった。彼らにとってはごちそう集団、それもこれだけの部隊なのだ。集まっていても不思議ではない。
 肝が据わり始めたと言ってもまだまだ慣れぬ新兵。射程も考えずにいきなり弾をばら撒く。
 狙いも定かではなく、地面を抉り、枝を折る――犬達は動く気配すらない。
 落下してきた枝を払いのけるルキア。
「当てて、死にたくなければ。隙を作ったら私達が撃つ」
 不意にカルブンクルスの一撃――火球が犬を包み込み、ただの一発で仕留める。
 それが彼らの安心につながったのか、乱射するだけだった兵士は了解しましたと大きな声で返事をすると、しっかりとキメラに狙いを定め、撃ち続ける。
 フォースフィールドがあると言えど、生物的本能だろう。これだけの数の銃撃に向かってこないでこちらから遠ざかろうと逃げていく犬達。
「アリガト、助かっちゃう! さあ行こうか、イツハ君」
 減速する兵士達とは逆に、加速するD−58。
「ボクらの出番か。さぁ、2人とも。派手に行こうかぁ」
 同じく加速して、D−58と並走するレインウォーカー。
「ボクの背中を任せる。頼むよ、イツハ――遠慮なく暴れられる機会、派手に踊るとしようか、ルキア」
「‥‥わかりました」
「信頼してるよ、最高の刃!」

「うわあ、ひっろいねえ! ひっさびさに思いっきり走り回ろうか、ルーガ!」
 おおはしゃぎで走り回るエルレーン。発見したと、全力で駆け出す。
 その後ろから1個小隊を引き連れたルーガが、高笑いを上げる。
「はっはっは、勇ましいなエルレーン?」
 手を挙げ、小隊を停止させると――微苦笑のまま腕組みをして、キメラを追い掛け回すエルレーンを見守っていた。
「ほーら、ほーら!」
 走り回りながら、黒色の曲剣を振り回して跳びかかってくる犬を1匹、また1匹と切り捨てていく。だがレインウォーカ達の部隊よりも小規模の為か、犬の集まり方もまばらで、1匹1匹の間隔が広く、元気に走り回っていたエルレーンも、だんだんと加速力が落ちていった。
「はふー‥‥も、もう、飽きちゃった」
 体力が続かなかった、という訳でもなく、そんな理由。相手を探しながら叩く――その効率の悪さに、ようやく首を捻ってこのままではダメだと言う事に、気付いたようである。
 頼れる女師匠のもとに駆け出す。
「ルーガぁ、もっといい方法はないかなぁ?」
 頼られ、頷く女師匠、ルーガ。
「ただ走り回るのも芸がない‥‥少しばかり、違う手を試してみようではないか」
 兵士を集めて指示をだすと、自身は当たりをつけて置いた小高い崖の上で待機する。
 眼下では兵士達とエルレーンが時には追われ、時には追い立てつつ、犬達をかき集めていた。
 そして部隊とエルレーンは合流し犬をまとめると、ルーガの足元を通り過ぎる。続く犬達。
「そうら!」
 網を投擲――大量の犬達を絡め取り、エースアサルトの力をもってして網を引き寄せ束ね上げる。
「撃つがいい!」
 ルーガの号令の下、兵達は一斉に、とにかくありったけの弾を撃ちこむ――響き渡る激しい銃撃音。静かになった頃には、キメラ達もただの肉塊と化していた。
「は‥‥はぅはぅ、いっきにかずがこなせるの!」
 効果のほどと成果に、ルーガは満足げに頷いた。
「さて、次に行こうか! エルレーン、ちょっと来るんだ」
 弾薬を補給したのを確認し、次の号令を出す。
 兵士は散らばり、呼ばれたエルレーンはトタトタとやや興奮気味で走り寄って、跳びかかるように抱きつく。
「やっぱすごいね、ルーガは!」
 尊敬の眼差しで見上げる弟子の頭を撫で――足元のクーラーボックスから肉塊を取り出してエルレーンの背中に括り付ける。
「割と高い牛肉を買ってきたのだぞ、役立てようじゃないか」
「あうぅ、なまぐさいよぉ‥‥」
 しかし頼れて尊敬の出来る師匠に文句は言わず、再びエルレーンは囮となるべく駆け出すのであった――。

 背中にエルガードを背負い、サプレッサー付のクルメタルP―56を右手に山林を駆ける目を赤紫色に淡く輝かせ、髪と肌から光沢がなくなり灰色となっているトゥリム。
 ルキア達が風下からならと、大きく迂回し、自身は風上から動く事にしたのだ。
 左手に、苦無で封を切ったタンドリーチキンを握りしめて。
 途中、犬を追い掛け回して切り捨てているエルレーンに気付き、ほんの少しだけ足を止める。
「あぁータッチーナが居ないと普通の人なんですねー」
 と、普通の人である事を再確認する。
 当たり前の事のようにも思えるが、タッチーナ・バルデス三世(gz0470)を前にした時の彼女の様子を知るものなら、仕方ないのかもしれない。
 ――ほんの一瞬、視界の端で何かが動いた。
 木々に隠れるよう、身を寄せ、注意深く観察する――犬キメラだ。
(距離、約100‥‥岩のせいで真っ直ぐには狙えないですね)
 身を寄せながらも左腕をサポートにし、右手のクルメタルを構えるとガンレティクルの紋章が狙撃スコープと化し、葉と葉の間、枝と枝の間の1本の枝のただ一点に狙い澄ます。
「イェーガーの力、存分に発揮させてもらいますね」
 呟き、トリガーを引く。
 葉と葉の間、枝と枝の間をすり抜け、真っ直ぐに狙いを定めた枝めがけ弾丸は跳んでいく。そして枝に当たった弾丸はその弾道を変え――犬キメラの眉間に吸い込まれていく。
 犬の悲鳴。
「悪いけどお前達、晴らさせてもらいますね」

「あんな鬱蒼とした地域で跳弾での狙撃とは、やりますなー」
 手をかざし、かなり遠目だが偶然、トゥリムの超長距離狙撃を見ていたジョージが感心したように呟いた。
 待ち伏せのポイント近くに随分と見晴らしのいいポイントがあったため、待機している間暇なので無線機片手に皆を観察していたのだ。
「おっと、夢守さん。そちらに犬の大部隊がもう少しでご到着ですぞ――あとエルレーンさん。右側に犬が少量ですが、まとまっています」
 頼まれたわけでもないが、イケメンは善行を進んでやるもの――と思っているのか、わからないが。
 そしてFPS好きの彼としては、犬を見るとどうしても『ある事』が頭から離れない。
「‥‥ドミネ‥‥不利旗スタート‥‥フルパーティ‥‥ブラバ‥‥犬‥‥ダブルスコア‥‥」
 ブツブツ口ずさんでいると、本当に機械兵の如く構えたまま微動だにしていなかったクラークが何の事ですかと尋ねると、彼は片手を小さく挙げて謝罪する。
「いや、すいません。こっちの話です」
 それでも彼は、使われる側なんだよなぁなどと、まだ無意識に洩らしているのであった。

(手数で埋め、次々撃つか。持久力がないのが、気になる)
 車両が入れそうにない地域でターミネーターの弾を撃ちつくし、リロードしながら考えるルキア。不意にカルブンクルス抜き、木の上からレインウォーカーに跳びかかろうとしていた犬を焼き払う。
「今ので22匹くらいかな‥‥最高の刃、を名乗るのは早いんじゃない?」
 ルキアの皮肉に戦場の道化はニヤリと嗤い――自身を薄く発光させ、ルキアに向かって駆け出す。SESの排気音が甲高くなる。
 四方八方の茂みから一斉にルキアめがけて飛びかかる犬達。だがその前には、複数のレインウォーカーが立ちはだかっていた。
 目標をレインウォーカーに切り替え、歯を鳴らして噛みついた犬達――しかしそれは虚像にしか過ぎない。
「‥‥嗤え」
 まだ空にいる犬の横に佇んでいた背中から翼の様な血色のオーラを発現させたレインウォーカーが、酒呑を縦に振るい首を斬り落す。時間差はあれど、ほとんど一瞬にして5匹の犬の首が胴体と別れるのだった。
「名乗るのは、なんだい。最高の銃」
「どーも。この借りは返すよ、最高の刃」
 すいと半歩下がり、背後から跳びかかってきた犬の腹をグラスホッパーで蹴り上げ、前から跳びかかってきた犬と衝突させて一瞬の抜刀――1匹は胴体が泣き別れし、もう1匹は前脚を斬りおとされる。
 そして収束した光の束に包まれ、見るも無残な姿と変り果てるのであった。
「お見事だねぇ、イツハ」
 かなり離れたところから、アスタロトを身に纏ったD−58がエネルギーキャノンを構えていた。彼女は目標が沈黙したのを確認すると、すぐさま足元でスパークを生じさせ、行ってしまう。長距離射撃と高速移動スキルを駆使し、撃ち漏らしの処理と2人の援護と、2人ほど目立たないが地味に活躍していた。
「僕は24匹だけど――終わってみればイツハの1人勝ちだったりしてねぇ」
「ありえるネ」
 銃口で撫でるように動かしながら、隙を見てはカルブンクルスで焼き払う。そしてリロード――その隙を援護するためかD−58がルキアの前に一瞬にして躍り出ては、照準も合わせずに多少無理な体勢で発射。犬達の足を止めて、リロードの時間を稼ぐのであった。
「‥‥こういうのをランアンドガンと言うのでしょうか?」
 忙しなく動いているD−58が、ある意味では愚痴とも取れる言葉を漏らす――かつてからすると、だいぶ人らしさが身に付いてきたのかもしれない。それに――楽しそうであった。
 まだまだ戦いは続くのだけれども――。

 タンドリーチキン片手に、トゥリムは走りながら向かってくる犬達を次々に撃ちぬく。さすがの命中力である。
 ザッ!
 横から跳びだしてきた犬の口に、タンドリーチキンを突っ込むと、眉間に銃口を押し当てる。
「はい、最後の晩餐」
 銃声――新しくチキンを取出し、赤いリボンを揺らし再び駆け出す。
(このまま真っ直ぐならば、夢守さん達と合流できるはず)
 片手で空のマガジンを捨て、腰につけているマガジンを差し込んで止まる事無く突き進む。
 正面から4匹来るのを確認すると、真上にタンドリーチキンを投げつけた。
 犬達の視線はわずかな時間かもしれないが、チキンに向く――その一瞬を利用し、急停止してバックステップ、狙いやすい距離から、1匹ずつ確実に、1発で仕留めていく。
「お前達も弱くは無いけど、運が悪かったね」
 彼女もバグア戦役を生き延びた傭兵。いまさら犬如き、というレベルではある――が。
 背後からの一撃はエルガードによって防がれたが、前のめりになってバランスを崩したところで左腕を噛まれる。だがそれくらいでは声すら漏れない。
 顎下に銃口を突きつけ、発砲。息絶えたそれを腕に食いつかせたまま振り回し、周囲の犬達を下がらせ、緩んで飛んでいった方向に向かって走り出す。
「さすがに多勢に無勢、かな。早く合流しないとね」

「無線で連絡を取って。傭兵と合流出来たら、合流して欲しい」
 無線で犬達を追い立てているであろう兵士達に、走りながら指示を出すルキア。
 ルキア、レインウォーカー、D−58、3人そろって森の中を駆けていく――ジョージの連絡でいち早く察して、犬の大部隊が到着する前に移動を開始する事が出来た。
 この3人なら殲滅も可能だろうが、こんな依頼で無駄にダメージを受けるのは面白くないと、せっかくなので待ち伏せポイントへおびき出す事にしたのだ。
 ある程度離れた距離をキープしつつ、犬達が追いかけてきている。
 借り物のジープに飛び乗り、すぐに発進――D−58はアスタロトをバイク形態にして、最初同様にルキアを後ろに乗せていた。
 途中、近づきすぎた兵士のジープに犬が狙いを定め向かいそうになると、ルキアは自分の腕に犬歯を突き立て、引き裂き、血の臭いで再び注意をこちらに向けさせる。
 距離を保ちつつ走るジープの荷台に、誰かが飛び乗る――軽傷ばかりだが、そこそこ傷だらけのトゥリムであった。
 ぷうと息を吐き、覚醒を解く――なかなかギリギリまで粘ったものである。
 多少怪我はしたものの、十分うっぷんは晴らせた――否、これでしばらくは大丈夫――そう自分に言い聞かせるトゥリムであった。
「そろそろ兵隊の諸君は離脱を開始してね。クラーク君のトコロに集結しておこうか」
 こうして笛吹きの如く、犬を大勢引き連れてポイントを目指すのであった――。

「きましたねっと」
 構えるクラークの近くで時折姿を見せる犬を、ジョージが倒していた。小型の単体に対してはあまり向かないクラークの穴を、補填する形である。
 だがそれももう、なくなるであろう。兵士達が1人、また1人と集結しつつあるからだ。
 それでも構えを解かないクラーク――兵の中には面白半分で声をかける者もいるが、一切返事はしない。本当に人が入ってんのかと、失礼極まりない発言をする輩もいる始末であった。
 ――と。
 無線から流れる声と共に、静寂をつんざく、けたたましい轟音。大口径のガトリングが火を吹く。
 恐ろしいほど集結しつつあった眼下の犬達は次々と肉塊を通り越して、ミンチとなっていく。地獄絵図のようなその光景を前に、それでもクラークは無言で、ただひたすらに一方的な殺戮を続けるのであった。
(自分達がどのような存在を雇って運用しているのか、再認識して貰わないとな)
 あまりにも一方的に地獄絵図を作り上げるクラークを、兵士達は青ざめた表情で凝視を続けるのであった――。

 一方的な殺戮が終わった後、レインウォーカが運転するジープの荷台に不眠の機龍モードのアスタロトとD−58、それにライトスピアを持参してきたジョージを乗せ、縦横無尽にドライブしていた。
「イツハ君、反応はないかな?」
「‥‥今の所、ありません」
 そう言った側から、アスタロトがクラクションを鳴らす――犬の影がちらりと見える。
 ジープが停車すると、ジョージが飛び降りる。
「では俺が、これを使ってちょっと――長物は銃の扱いに応用できますし」
 本当かどうかはわからない願望を述べ、ライトスピア片手に生き残りを処理しに向かう。
「索敵が楽でいいねぇ。お手柄だよぉ、イツハ」
 戦友を褒めると、無表情ながらも彼女は照れたらしく、いえ別にとそっぽを向いてしまった。
 苦笑するレインウォーカ。
 彼はシートに座り直し、目を閉じる。
(戦争が終わってもボクは戦い続ける――この場所から、戦いから、ボクは逃げられない。逃げるつもりもない。
 ここがボクの生きる場所、これがボクの選んだ道‥‥選んだ以上はこの命尽き果てるまで、進み続けるだけだ)
 薄目を開け、隣に座る最高の銃と、ある戦友から受け継いだ刀に目を向ける。
(幸い、頼りになる相棒達がいるしね、ボクにはぁ)

「ミルさん、雇用条件の確認がしたいのですが?」
 冷酷無比な機械兵から、いつもの礼儀正しい青年に戻ったクラークが、ミルにそう問いかける――彼はミルの会社への就職を保留していたのだ。
「常に一緒に行動する必要はありますか?」
「いや、現地スタッフとか色々な役割はあるよ」
 クラークに向ける兵士達の畏怖の視線に気付いていたが、ミルはまるで気にせず、クラークは実に心地よかった。
「自分が住んでいる地域での仕事がある場合での非常勤スタッフでもよいですか? 出来れば護衛・防諜要員よりも戦闘要員の方が良いのですが」
 ニッと笑うミル。
「それこそ問題なし――私の周囲では常に戦闘有だからね。規模や敵がどうかにもよるがな――今回は出先なんで手続きできないが、もし就職する気があるならまた声をかけてくれたまえよ」
 彼はそれを聞くと、満足げに頷くのであった。
「それにしても、強化人間やHWを見かけないのが気になります」
「‥‥うむ。実はこれだけの部隊を動かせば、アクションを起こしてくるだろうという目論見もあったのだが、ね。
 もっとも、ワーム系統は多分もういないと思う。ここは強化人間をメインに研究しているから、そこら辺の戦力はほとんど別部隊に持っていかれたと、楓門院の会話から拾えたのでね」
 かつてこの地域を統括していたバグア、楓門院 静紀に誘拐され、ともに行動して気に入られた彼女は、そんな事まで知っていた。
「ロシアの掃討作戦に反応して、自暴自棄になって一大攻勢というのも考えられますよ?」
「だねぇ。各地では割と物資強奪事件があるが、こういう部隊には手を出してこないからな。以後、そういう事態が起こりうるかもしれないので、覚悟はしておいてくれたまえ」
 覚悟という言葉を察し、苦笑する。
(ロシアで大きな掃討作戦が開始、こちらも掃討作戦の可能性が高い――まだ稼ぐ機会は多いという事か)
「死体処理は、契約外。あー、お腹すいた。バーベキューしようよ」
 生き残り探索を終えて戻ってきたルキアが開口一番、兵士達がギョッとするような提案を申し出た。
 犬の死体を前に、バーベキュー。その発案に意図はどうあれ、ミルはいいねぇと乗り気になって、バーベキューの準備を部下に指示する。
「‥‥お嬢、いい加減あたしをここに連れてきた目的を教えてよ」
 大柄のはずのメイが音もなく、ミルの背後にいつの間にか立っていた。というよりは、誰も気がつかなかった事実が、彼女の能力の高さをうかがわせる。
 だが驚かずに振り向くミルは、薄ら笑いをけし、まじめな表情を作り上げる。
「この近くの観測所に、リズ=マッケネン(gz0466)が現在泊まり込みで働いている。話はつけてある、しばらく共に暮らしたまえ」
「リズが――」
「停滞する君と違って、彼女は前向きに自分のできる事を探している。そんな彼女に会い、そして君の伝えるべき事をしっかり伝えてこい――折れたナイフはナイフとしてはもうだめだが、護身刀として打ち直せる。君にやってもらいたい事があるのだから、しっかりとけじめをつけてきたまえよ」
 自分勝手な言い草だが、ミルなりの優しいお節介であった――ミルにとって、自分に多大な変化をもたらしてくれたメイは、感謝しても感謝しきれぬ相手。
 だから、頑張ってほしい――それが彼女の願いである。
「また世界が荒れる前に、大事な妹と話をつけてくるのだね」

(今回も特にいい男もなし、か。寂しい誕生日だ)
 疲れ果てて自分のひざまくらでスヤスヤと寝ているエルレーンの髪をくしゃっと撫で、溜息をつくルーガ。
 そこに煙草を咥えたグレイがひょっこり顔を出す。
「いよぉ。あんた誕生日なんだってな、おめでとさん」
 微妙な年齢になりつつあるルーガは、誕生日の話にキッと睨み付ける。
「ああん? 気になる年齢ってやつか――俺から見たらまだまだ小娘なんだからよぉ、素直に誕生日は祝っておけばいいじゃねぇか。あんまつんけんしてると、俺みたいにこんな年齢で独りモンになっちまうからよ、焦らず気楽にな」
 ルーガよりやや大柄なグレイは、ルーガがエルレーンにしているようにルーガの頭を撫でると、バーベキューの買い出しに行ってしまった。
 少しだけ良い事があったかもなと、ルーガは天を仰ぐのだった。

 さまざまな思惑もあったが、こうして無事、小物キメラ掃討作戦は完了したのであった。

『【落日】傭兵のガス抜き 終』