タイトル:【海】本当の最後マスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/21 15:08

●オープニング本文


●タウンズヴィル・港
 普段は静かな漁港だが、その日は朝から物々しい空気に支配されていた。今となっては珍しい大型魚雷艇が4隻、そして補給艦1隻と、やや特殊な組み合わせの軍艦が停泊し、積み込み作業をしているのである。
 それをやや遠巻きに、腕を組みながらぼんやり眺めていたミル・バーウェン(gz0475)。
 その後ろから、誰かが声をかける。
「やっと準備ができましたね」
 振り返ると、スポーティーな銀髪に茶色いスーツの優男が立っていた。
「ラインか――ふむ、そうだね。やっとだ」
「奔走した甲斐があるというものです」
「それは結果次第さ――情報としては決して満足のいくものではないからね。場所はほぼ特定したにしても、敵戦力の全体像がはっきりしないのだから、やや危険な作戦だろう」
 苦笑し、軍艦に視線を戻す。
「それでもアジア軍が引き受けてくれたぶんだけ、ずいぶん安心できるね。それに、私の長旅についてきてくれた豪州軍若手メンバーの動きが、わりといいというのが幸いだ」
 キメラ討伐からゴールドコースト、そしてここ、タウンズヴィルまで一緒に行動してくれた豪州軍の若輩者達。彼らは率先して積み込み作業を手伝い、中には不足している人員の穴埋めにと、志願する者までいる。
 だいぶ変わってきたと言うべきか、若い分だけ成長著しいと言うか――とにかく豪州軍もまだまだ捨てたものではないと思わせてくれる。
「北の危険海域を避け、南方周りで来させた分、ずいぶん時間がかかってしまったが――やっと君の望み通りの戦闘だ」
 くるりと振り返り、ラインの横にいる男性――蒼 琉(gz0496)と視線を合わせた。
 ゴールドコーストから津崎 海とともに連れてこられた琉は、神妙な面持ちで頷く。
「講師として呼ばれただけかと思っていたが、ありがたい限りだ」
「何とか特定できたのだ、海賊バグア達の拠点が。傭兵の活躍でかなり狭い範囲に特定できた分、より正確に特定できたのだよ」
「その分、敵戦力の調査依頼を出す暇もありませんでしたがね」
 ラインの言葉にそこは私の都合だなと、苦笑するミル。
「早めに対処せんと被害が広がるし、調査した影響で拠点が移動しないとも限らんからな。後手後手よりは、多少危険でも先手を取るべきだろう――もっとも、危険を冒すのは私ではないのだがね」
「危険は承知さ。参加した時点でそれは了承済みなのだからな――それで、俺達の仕事は今回なんなのだ?」
 バグア関連であるからにはバグア退治なのだろうが、戦艦が用意されている事で、今一つ予測がつかない琉である。
 その質問に、彼女は指を3本立てた。
「うむ、大きく分けて3つ。
 1つは敵の拠点破壊だが、おおよその座標は特定してあるものの、実際海中で探ったわけではないので正確な座標がわからん。
 そこで君らが特定し戦艦へ知らせ、ありったけの爆雷と対潜ミサイルを叩き込んでもらい、拠点を滅ぼす。
 もちろんそれをするためには魚雷艇が残ってなければ、話にならんがな」
 薬指を曲げ、残り2本。
「2つ目は、敵の数がだいぶ多いのでね。一部海域に機雷群を仕込ませるから、なるべく多くの敵をそこに誘い込み、一網打尽にしてもらう。全てでなくてもいいから、とにかく数を減らしてくれ。徒党を組んで気が大きくなっているような輩は、数が減ると途端に意気消沈するからな。場合によっては投降もあるだろうが――殲滅するかしないかは君らの判断に委ねるとしよう」
「なぜ君がそんな軍の作戦を?」
「なに、私は少しもちかけただけさ。実行するかまでは聞かされていないが、あの装備を見る限りほぼ間違いはない。指揮官もたぶん、ほぼ同じことを言ってくるはずだ――もっとも、投降の呼びかけなしの先制攻撃など世論がうるさいから我々民間は『知らない』作戦なのだがね」
「なるほど、な」
 軍属ではない彼にとって少しだけ気分の悪い話ではあるが、そんな甘い事など言えないのが現場であるとも理解をしていたので、それ以上は何も言わなかった。
「そして最後に――敵の大将撃破。これに関して、君が大いに係わってくる」
「俺が倒せ、という訳ではなさそうだな」
 大きく頷く。
「そうだ。そこはメイより察しがいいな。
 君の機体で撃破は難しいだろうが、君の機体はある意味目立つからね。しかも敵はきっとこだわってくるのだろうと、容易に想像がつく」
 残った1本の指で小さく円を描きながら、視線が上に向くミル。何が言いたいか、琉は察した。
「おびき寄せろ、囮になれと言うところか」
「その通り。君もすでに理解しているのだろう?
 こと海戦闘では経験値が高いかもしれんが、1人で長くやりすぎた。自分は集団戦に向いていない、とね」
 はっきりと指摘されたが、自覚はあるのか反論しない。
「君を囮になんていうと、彼女や津崎、はては渚にまで何か言われそうだがね」
「‥‥先生を知っているのか?」
 言われてから一瞬だけハッとするミルだが、すぐに開き直って笑みを浮かべる。
「津崎――おっと、娘とかぶるから渚と呼ぼうと思ってたのに、まだ微妙に慣れんな‥‥とにかく、彼女の事は知っているさ」
(生嶋亮一と水城凪についてもよく、ね)
 心の中でそっと付け足す。
「まあ全てが終われば、君の知らない事も話そうではないか」
「つまり生きて帰ってこい、と」
「そういう事だ――と言っても、今回の作戦に私は直接関与できないのでね。もう少ししたらカルンバに帰るから、お話はまた後日、ゆっくりとだね」
 自分の言葉で何かを思い出したのか、ぽんと手を打つ。
「そうだった、メイから面白い話を聞かされたんだったな」
「面白い話?」
 首をかしげる琉に、パタパタと手を振り、薄ら笑いを浮かべる――まさしく悪党のそれだ。
「こっちの話さ。ま、ある傭兵が揺さぶりかけてきたとだけ、教えておこう――そこから先の話は、少々、うん、君らは関わってはいけない領域さ」
 ふふーんと得意げに鼻を鳴らす、武器商人。
「まあ私とて、本来はここまで関われないのだろうが‥‥そんなわけで、私は少しアジア軍の方々と『世間話』してくるのでね、他の打ち合わせやらなんやらは任せたよ」
 そう言い残し、彼女はぶらっと行ってしまった。
 残された琉はラインに顔を向け、そして彼の車の後部シートに座る海に目を向けた。
「海は、君にというか、あの商人に任せていいのだよな」
「ですね。私から説明して、ミル嬢と共にカルンバへお送りしておきますから、ご心配なさらずに」
「頼む――それにしても、サンディ島とはね。確か、ここ最近になっていつの間にか消えた島だったな」
「正確には地図に載っているけど、その場所に島がないというだけですが。バグアの基地にされたと言うなら、納得もしてしまいますね」
 まったくだと、琉はほんの少し笑い、真顔に戻る。
「では、アジア軍に話を聞いてから、皆に説明しに行くか」
 颯爽と彼は歩き出す。
 本当の最後に向かって――。

●参加者一覧

/ ドクター・ウェスト(ga0241) / 榊 兵衛(ga0388) / キョーコ・クルック(ga4770) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 錦織・長郎(ga8268) / 狭間 久志(ga9021) / 美虎(gb4284) / ニュクス(gb6067) / ネーナ・C(gc1183) / リック・オルコット(gc4548) / 蒼 零奈(gc6291

●リプレイ本文

●タウンズヴィル・港
「――以上が作戦の概要だ。各自、自分の役割と担当、そしてアジア軍との打ち合わせを綿密に頼む」
(あの武器商人の言葉通りとはな‥‥先を見通す能力というのは、あれの事を言うのか――)
 軍から聞いた話をそのまま皆に伝えた蒼 琉(gz0496)だが、軍から聞かされた内容が、事前にこの話をもちかけてきたミル・バーウェン(gz0475)の言葉そのままだった事に舌を巻く。
「‥‥この作戦で長きに亘る因縁を是非断ち切りたいものだな」
 これまで共に何度か一緒に戦った事のある榊 兵衛(ga0388)が、琉の内心をそのまま代弁していた。
「そうだな――これで終わりにしたいものだ」
 彼の言葉に力強く頷く、兵衛。
「その為にも全力を尽くす事としよう」
「ここまで関わっちゃいましたからには、最後まで付き合いますかねと」
 因縁でここにいる訳でもない狭間 久志(ga9021)が、頬を人差し指でかきながら会話に加わる。
 ただ、傍らのビーストソウルを眩しげに見上げ、その脚部に触れる彼の横顔はどことなく寂しげだった。
「お前は買い取ってやれなかったからなァ‥‥乗れる機会は大事にしなきゃ」
「なんだ久志、今日はハヤブサではないのだな」
 彼の代表機ではない事が意外だと、琉の顔は物語っていた。
 言われてしまい、苦笑する久志。
「やぁ、ちょっと自前だから修理費怖いし‥‥それに、今回は牽引しなきゃいけないからね。移動力が必要なんだ」
 ちらりと傍らに寄り添うように立っている、メイド服に赤いショールという出で立ちの狭間 キョーコ、旧名キョーコ・クルック(ga4770)に目を向けると、彼女は笑みを作り、彼の手を両手でしっかりと握る。2人の指にはプラチナリングが光っていた。
「久志だけ危ない所に行かせるわけには、行かないからね〜♪」
「‥‥君は結婚していたのだな」
「まあ、そうですね――ではちょっと失礼します」
 眼鏡をいじりながら、久志とキョーコは離れていく。その手をしっかり握りあって。
 2人に少しあてられた琉は、ポケットの中の小箱に触れ、ぼんやりとしてしまう――と、そこに誰かが背中に飛びついてきた。
「やっほ、師匠♪」
 彼を師匠と呼ぶ刃霧零奈(gc6291)であった。2人に気を利かせたのか、兵衛は作戦の打ち合わせでもしてくるかと他の傭兵の所へと向かう。
「零奈か――やはり来ていたか」
「当然だよぅ。絶対に無理しないでね? 無茶もダメだからね‥‥?」
 眉根を寄せ、心底心配そうな顔をしている零奈だが――彼女にそう言われると、苦笑してしまう。
 苦笑されるのは心外とでも言わんばかりに頬を膨らませ、抗議する様に回した腕に力をこめた。
「なんで笑うかな? かな?」
「いや、無茶は君もだろうと思ってな――無理はするなよ」
「どちらも同じであります」
 雰囲気もなんのその、会話に割って入ったのは今回の拠点座標特定の立役者、美虎(gb4284)であった。
 この作戦に参加したがっていた他の姉妹を差し置いて、代表としてここに来た彼女だが、自分で締めくくる事に少し感慨深い思いもあるせいか、ずいぶんと張りきっている。
「さて、いよいよ大詰めであります。敵の後を追跡して大体の座標を突き止めたのは美虎の手がらな訳なので、今回も自分の仕事を果たしに来たのであります」
「ああ――そういえば君がなにやら情報提供したのだったな」
「やっぱり美虎は天才なのであります」
 ふんぞり返っているちみっ子の頭を、なでまわす琉――まさしく子ども扱いそのままだが。
「くっくっくっ‥‥自信があるのは結構だが、足元だけはすくわれないようにね」
 肩をすくめた錦織・長郎(ga8268)が、いつの間にか背後に立っていた。琉自身、顔合わせは初めてではないものの作戦中に会うのは初めてであった。
「海での作戦で一緒になるのは、初めてだな。よろしく頼む」
「まあミル君の依頼とあれば、だね。こちらこそ、よろしく頼むよ――挨拶もそこそこで悪いけれど、顔を見せる相手がいるのでね。僕はこれで失礼するよ」
 本当に短い挨拶をしただけで、すぐにどこかへと立ち去る長郎。その方角はアジア軍と『世間話』をしに行ったミル・バーウェン(gz0475)に向いていたので、ミル関連の誰かに会いに行ったのであろう。
「さて、そろそろ俺も打ち合わせと行くか――」

「作戦中にお手数をおかけするかと思いますが、よろしくおねがいしますっ」
 補給艦の部隊と綿密な打ち合わせをしていたネーナ・C(gc1183)が、ぺこりと頭を下げる。その手には作戦地域の詳細な海図が握られていた。
「がんばって覚えよう‥‥平和を守らないと、海で遊べないからねっ」
「本星が無くなったと言っても、まだまだ大変そうですからね」
 黒い日傘を差し、微笑を浮かべるニュクス(gb6067)。彼女もまた、海図を眺め、記憶している最中であった。
 そして数字を書き込み、兵士にそれを見せては若干の手振りもいれて説明している。
「着艦時はこのように、細かい部分はその場の状況でお願いしますわ――それと、こんなことは可能かしら?」
「データのリンクですか‥‥」
「その手は美虎と錦織さんに任せるであります」
 ぴょこっと美虎が、顔というか頭から割り込む。その手の話は自分の専売特許と言わんばかりの自己主張である。
「あら‥‥ではお願いしますわ。ブイの投下も致しますので、その情報も合わせてお願いしますわね」
「ボクも投下するから、お願いしますっ」
 ふんすと鼻を鳴らし、任せろでありますと胸を張る――と、その頭にリック・オルコット(gc4548)が手を置いた。
「俺の方にも情報提供よろしくだ。危なくなったら離脱はするが‥‥まあ、報酬のためにも頑張るさね」
 その頑張るという言葉にピクリと反応した白衣の男――ドクター・ウェスト(ga0241)は、珍しく深々とため息をついていた。
「モウ水中戦はやらなくて済むかと思っていたのにね〜‥‥」
 自分のリヴァイアサンを見上げ、うんざりという表情である。彼にとってこの機体は、かつて自分達が守るべき存在である人類の少女を殺してしまったという、トラウマの塊なのだ。
 いつまでも乗りたくない――そう思うのも当然だろう。
「すみません、ドクター‥‥」
 申し訳なさそうに謝罪を述べるクラーク・エアハルト(ga4961)を睨み付ける。
「君から『緊急事態』という連絡を直接もらっては、行くしかないだろう〜」
 依頼は無視しようと思っていた彼だが、実際に『直接』連絡を受けてはさすがに無視できなかったようだ。嫌々ながらも機体に乗り込んだ彼は、音声を集め、様々な言葉と作戦、情報を黙って集約していく――その処理能力はさすがの一言だが、なんのことはない。能力者と同じ場所にいたくないがために身に付いただけでもある。
 申し訳なさで一杯であったが、それでもこの作戦にかける意気込みが人一倍あるクラークは海を――いや、凪の残した因縁に目を向け、呟いた。
「さあ、行くか‥‥これで最後にしよう」

●タウンズヴィル・東の海域
 基地があるであろうおおよその海域にアクアブルー色のオロチ改『ドッポ』に乗る美虎がソナーブイを投下――そこからまっすぐ潜航――もう1つを投下し、120度進路を変更、そして再びまっすぐに潜航。美虎の護衛にリヴァイアサン『興覇』の兵衛がつき、ビーストソウル改のクラークとリヴァイアサンのウェストが美虎の描く三角形の中へ踏み込んで、じっとその時を待つ。
 その間に魚雷艇は機雷を設置し、戦域から少し離れる。補給艦はほぼ作戦区域外に近い所で待機している。
 機雷群の近くの海底では、ビーストソウル改『深穿』の久志と彼にに牽引されてここまで来たアンジェリカ『修羅皇』のキョーコがひっそり身を静めていた。
 オロチ改『ケツァルコアトル』を駆る長郎はというとオロチの特性を生かし、海での機雷群と海流の情報を得ては空へと上がり、高速で移動しては着水、情報を得ては離水を繰り返し、ある程度情報を整えたところで、全機へデータをまわし、そして美虎と合流する。
 S‐01HSC『月影』のニュクスとコンテナを外し身軽になったクノスペBのネーナは空から海域を区分けし、低空でソナーブイを静かに投下――リックはグロームbisで優雅に空を旋回していた。
 海底部分でゆっくり、静かに進撃しているノーヴィロジーナの琉。別機体のように見える真紅のビーストソウル『紅蓮・海』に乗る零奈は、距離を置きつつ琉の後を付いていた。
(これでホントに最後、か‥‥師匠と一緒に生きて帰らなきゃね)
 通信はほとんどのものが控え、静かに、黙々と準備に取り掛かっている――。
 おおよその準備が完了したか、というところで通信機からいつものそのフレーズが流れてきた。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
「‥‥来たか」
 ウェストのオープン回線が届いたのか、敵機が姿を見せ始め、クラークは操縦桿を強く握る。
「作戦通りに行きましょう」
「ビーストソウル6機、アルバトロス4機、クラーケン4機、テンタクルス5機を確認であります」
「こちらでは標準的なゴーレムを9機、情報にあった純白の奴も確認。それと多数のキメラもだね――データを送るよ」
 美虎と長郎がお互いのデータを統合し、美虎は海にいる者達へ、長郎は空を飛び空にいる者達へと、敵機の細かな情報を伝達。それと同時に美虎は煙幕を展開する。
 兵衛、クラーク、ウェストが一気に進軍を開始し、自分達への注目を高めるために小型魚雷ポッドの掃射に、ガウスガンとアサルトライフルで牽制をかけていた。
「偵察が遺漏なく遂行できるよう、尽力せねばな」
 美虎の進行方向の射線に自身を置き、護衛しながらも囮として兵衛は立ちまわっている。
 クラークは少し潜行し、地形を利用し身を隠しながら牽制を続けていた。
「囮として動くからには、それなりのフリをせねばね〜」
 前に出ると見せかけ、足を止めて魚雷ポッド――それを撃ち落し、大量の気泡をまき散らすと突撃せずに静かに後退して敵の出方を探る。
「敵も愚かではないだろうから、そろそろ有効な手段ではなくなってきただろうね〜」
 言葉通りに、敵は気泡には飛びこまず足を止め、見える限りの彼ら3機をひたすら、長距離から狙い撃ってくる。
 加えてカジキキメラがまとまって突撃、戻ってはまた突撃を繰り返す。
 戦力差がありすぎて、彼らは射程ギリギリの所から牽制を続け、カジキの突撃を流しながらも、じりじりと後退を始めていた――それこそ計算通りに。

 空でニュクス、ネーナ、リックに追加情報を伝えた長郎が、再び海に潜ろうとした時、ニュクスが声をかける。
「ソナーブイの反応差から割り出した情報を、お送りいたしますわ」
「くっくっくっ、了解だね――すぐに美虎君へ伝えるよ」
 そして海に潜るのであった――。

「来たわね‥‥」
 見つからないよう待ち伏せを続けるキョーコ。近くでは愛すべき旦那の久志もスクリュー音を抑え、息を潜めているはずである。
 通信から流れる声に耳を傾け、じっと自分の出番を待つ。
「数が多い上に、小癪だね〜」
 そう言いながらもしっかりと全ての攻撃をディフェンダーで受け、合間を縫って牽制をかけるウェストは言葉と裏腹にずいぶんと余裕があった。
「さすがにこれだけの数となるとな‥‥」
 兵衛も言葉とは裏腹に、連携をとらせずに、かつ距離を縮められないよう絶妙な位置で後退している。
 彼らの声は敵にも聞こえているはずで、それが一層敵の油断を誘う。
「さあ、そのままついてこい」
 決して聞こえないよう、小声で独りごちるクラーク――そこに美虎の声が。
「発見であります!」
 ポーンとモニターに拠点の位置情報が転送される。ニュクスの予測情報も取り入れた美虎が、予想以上に早く拠点を発見したのであった。
 その後すぐに美虎は海面近くへと浮上し、アフターケアでありますと煙幕を展開し、魚雷艇の存在を隠すのであった。
 こうなってくると時間稼ぎの必要もなく、3機は牽制を続けながらも深度を合わせ大きく後退を始める。
 それに釣られて進軍も早めてくる敵群勢――そのど真ん中に爆雷が投擲され大爆発。
「さて、お仕事といくかね?」
「今のうちに離脱をっ」
 ニュクスの言葉で一気に散開する3機――かわりにじっと待ち続けていたキョーコと久志が敵群勢の後ろに姿を現し強襲を仕掛ける。
「さあさあ、ずずいっと行っちゃってっ」
「下がらせはしないよ」
 キョーコの魚雷ポッド掃射に久志のガウスガンが当たり、小爆発を引き起こして混乱している敵をさらに押し込める。
 もう一息、というところで再び爆雷が投下された。
「みなさんの行き場所は、こっちだよっ」
 ネーナの誘導通りにさらに機雷群へと押し込める――が、寸前で気づきそこから離脱しようと動きを見せ始めるが、時すでに遅し。
「伊達に、盾を持ってきた訳ではないよ」
 盾を構えて近くで待機していたクラークが、機雷に向けて1発――その直後、これまでとは比にならない大爆発があたりを飲み込んだ。
 それと同時に、情報を受け取った魚雷艇がありったけの爆雷をピンポイントで敵拠点へ。
「全弾着弾確認――あれだけの被害を受ければ、あとは水圧が片を付けてくれるだろうね」
 くっくっくっと低い笑い声を漏らす長郎の言葉は、作戦の第一弾階が完了したことを告げていた。
「残敵、けもたま2、アホウ3、大王イカ2、ゴーレム5であります」
 誘い込みに追いこみ、そして爆雷の連携により機雷群で半数以上の敵が削れた――作戦の第二段階もかなりの成果であった。
「キメラはほぼ駆逐された気配でありますが――白いのがいないであります」
「そいつなら、こちらに向かってきているっぽいぞ」
 琉の声――そこも読み通り、純白のゴーレムに乗ったリリメリは来ているであろう琉を探し彷徨い、彼を発見してまっすぐに向かってきていた。
「――行かせてもらってもいいですか、ドクター、それに榊さん」
「‥‥良くも悪くもけじめを付けるべき人間がいる以上、それを邪魔するのは無粋だからな」
 クラークの申し出に、兵衛は敵に立ち塞がる形で答えを示す。ウェストに至ってはもはや目の前の憎きバグアを倒す事だけで一杯のようで、聞く耳などなかった。
「そのお膳立てだけは、きちんと済ませる事としようか」
「すみません、お願いします――」
「因縁というか、関わりで言えば僕にもあるので行かせてもらいますか」
 ズンと久志の後ろに迫っていたゴーレムの胴体にベヒモスを突き立て、両断――そして兵衛は戦場だが不敵に笑みを浮かべる。
「ここは十分だ――行くがいい」
 数の上ではまだ圧倒的に不利だが、それでも兵衛には十分すぎる勝算があるのだ。
「それじゃあ、失礼します」
「久志が行くならあたしもついてくわ――エスコートよろしくね♪」
 久志が巡航形態に変形するとキョーコがビーストソウルに装着させた牽引用フックにつかまり、いくらか引き付けるため魚雷ポッドを発射して久志と共に後にする。
 ゴーレム3機が2人の後を追い、残る兵衛にウェスト――そこに美虎と長郎が合流する。
 それでも数的には不利だが――兵衛はベヒモスを振りかざし、己を奮い立たせた。
「槍の兵衛――推して参る!」

 通信を切り、一歩退く琉。その足元に小型魚雷が着弾。岩を爆砕し、巻き上げる――その中からぬっと純白のゴーレムは姿を現し、ディフェンダーで斬りつけてくる。
「お前だけは殺すぅぅぅぅう!」
 まるで冷静さを感じさせないリリメリの声。盾で受けベヒモスを突き出すが、さすがにそれに当たってくれるほどではなかった。
「凪ほどではないにしろ、凪と同じような動きを‥‥」
「凪姉様の名前を、お前が口にするなよぅぅ!」
 再び斬りかかろうと距離を詰めようとするが、その前に零奈が立ちはだかりガトリングで邪魔をする。
「最後の決戦だね! 存分にやろうじゃないの!」
「お前もコロス殺すころすぅ!」
 勢い余って衝突する白い機体に真紅の機体――レーザークローの一撃を蹴りでそらし、後退しながらもバルカンで零奈を撃ち続ける。
 一時的にエネルギーを高め、装甲を強化し自ら盾となりバルカンを受けて、叫ぶ。
「師匠は落とさせないよ! あたしが守るんだからぁ!」
 それが零奈の貫き通すべき、意地であった。

「進路‥‥速度‥‥良し。着艦しますっ」
 補給艦に着艦し、ネーナが補給を受けている間に、リックとニュクスが水中からの連絡に合わせ爆雷を投下しつつ、周囲を警戒していた。
「対潜攻撃も、だいぶ慣れたね‥‥いい機体だよこいつは。おっと、敵の動きに注意しなよ? 海面にいつ顔を出すかわからないしね?」
 その直後――海面からクラーケンが浮上する。
 即座にガトリングで対応するリックだが、ニュクスの視線はクラーケンではなく、補給艇に向かっていく影であった。
「ちょっとまずいですわね‥‥!」
 その影を追いかけ、スナイパーライフルで進路を妨害する。
「この反応はテンタクルスですわね‥‥機雷群で全滅していたわけではなく、最初からこちらに向かっていた者もいたのですか――こちらニュクス、リックさんがクラーケン2機と応戦、それと補給艦が狙われておりますので援護を要請いたします」
 その直後、機体が揺れる。進路の妨害に注視しすぎてほんの少しだけ回避がおろそかになっていた彼女の背後で、クラーケンが触手を向けていた。
 2撃目は撃たせまいとリックが上からガトリングで触手を撃ち落し通り過ぎ去ると、リックの後ろをクラーケンは追っていった。

 空組の連絡を受け顔を曇らせるキョーコ。
「ちっ、人手が足りないか‥‥ごめん、久志。援護してくるわ」
 手を離し、その場に止まる事を選択――キョーコを置いて行く事に一瞬躊躇を見せた久志だが、それでも止まらずに進み続ける。
「キョーコさん、無理はしないでくださいね」
「久志こそね♪」
 互いを信頼しているからこその、やり取り。
 残されたキョーコは移動力が足りなくとも、3機のゴーレムの攻撃などかすらせもしない見事な立ち回りで引き付け、魚雷ポッドをテンタクルスの進むであろう方向へ派手にぶちまけると、ネーナの回線を開く。
「ちょっと敵が多いんで、手伝ってもらえるかな? 30秒後に落してもらうだけでいいから」
「タイミングわかりました。30秒後に」
 爆雷の補給だけを受け垂直離陸で再び空に舞い上がるネーナ――ニュクスとすれ違い、長郎ともすれ違う。
 その直後、予想外の射程からクラーケンの一撃をもらってしまったが、それでもキョーコの要請通り、30秒後に指定座標へ爆雷を投下。
「どんぴしゃ♪」
 回避と牽制だけでゴーレム3機をまとめ、そこに爆雷が丁度投下され爆発。その爆圧に乗ってキョーコは上昇し、海面に姿を現すとピアッシングキャノンの水を抜いて構える。
 2対1と不利な状況で、損傷を受けながらもガトリングで応戦しているリックだが、周辺状況の確認を怠らない彼はキョーコが構えているのに気づいていた。
 高度を落し、角度とタイミングを見計らい――ロールしてキョーコの射線上にクラーケンを晒す。
「やらせるかってのっ!」
 キョーコの放った一撃が、機雷とガトリングの損傷で弱ったクラーケンを貫通、爆散。それに驚いたのか、生き残ったクラーケンが急速浮上――その腹部にガトリングの雨が降り注ぎ、鈍った所へ再びキョーコの一撃が襲う。
 2機のクラーケンはこれで片付いたが、リックの損傷具合も軽いものでもない。さすがにまだ四十五度で叩くほどではないにしろ、彼は補給艦へと向かうのであった。
「自分の身が第一だよ。まあ、決着は因縁の深そうな奴らに任せるさね」

 スナイパーライフルでニュクスが足止めしている隙に追いついた長郎が着水し、カメラ映像を解析、遠方から進路上へ派手にまき散らされた魚雷に気を取られ、まだ気づいていないテンタクルスの横合いからガトリングで足を鈍らせ、上空からのスナイパーライフルの間断に合わせ急速接近、すれ違いざまにソードフィンの一撃で葬り去る。
 だがきっかりと置き土産の魚雷ポッドを放っていたテンタクルス。多数の魚雷は真っ直ぐに補給艦へ――。
「やらせはしませんっ」
 魚雷の進路上に爆雷を投下。爆発の連鎖が始まり、多数あった小型魚雷はすべて誘爆して補給艦へたどり着く前に消え去ったのであった。
「くっくっくっ、お見事だね」
 長郎の賛辞にどう返していいものか、あまりしゃべりの得意でないニュクスは悩み、結局無言のまま補給艦へと着艦する。
 肩をすくめた長郎は再び空を飛び、まだ続く戦闘区域へと戻っていった――。

 エンヴィー・クロックで急制動をかけ、ウェストは真っ青な顔で魚雷を回避した。
「うう、すまない、すまない‥‥」
 そしてトラウマを思い出させた怒りをぶつける様に、今しがた撃ってきたアルバトロスへ小型魚雷ポッドで魚雷をばら撒き、回避方向を予測しアサルトライフルで撃ちぬく。
「我輩だって、『嫌だ』と言って何が悪いかね〜!」
 半分、八つ当たりである。
「数も多く連携も仕掛けてくるが――いかんせん、経験が全然足りんな。その程度では当たってやれんよ!」
 海流を読み対潜ミサイルで遠くの敵の足を止め、小型魚雷ポッドで弾幕を形成して敵の弾幕に対抗、その間を縫って接近してくる輩は――それこそ兵衛にとって格好の獲物である。
 兵衛を挟み込むビーストソウル。前の敵がバルカンを掃射し、アクティブアーマーで受けさせ注意をそらしているうちに背後からディフェンダーで斬りかかる――その腕をベヒモスの柄で打ち付け、腕をからめ捕ると機体ごと回転させて背後のビーストソウルを振り回し、正面の1機に叩きつけ2機まとめて両断――2対1であっても、まるでものともしない。
「その程度の動きでも、2対1なら勝てると思ったか? 槍の兵衛も舐められたものだな」
「雷撃、開始なのであります!」
 美虎の言葉に合わせ、ウェスト、兵衛が魚雷ポッドを残敵へ向けて掃射する。ちょうど3人は三角形を描くような位置から中央の残敵へ向けての掃射である。
 三方からの魚雷弾幕に押される形で上に逃げる――それこそ、狙い通りに。
「ネーナさん、今でありますよ」
「投下しますっ」
 上昇したその先に、ネーナの爆雷が。回避する事も出来ずに、彼らは無残にも散るばかりであった。
「雷撃結界改、成功であります。やっぱりやっぱり、美虎は天才なのであります」

 零奈の隙を琉が、琉の隙を零奈が補完しつつ、リリメリを抑えているうちに、雑魚を掃討した知らせを受ける。
「残りはお前だけのようだぞ」
 琉が言葉と共にベヒモスで刺突。
 ディフェンダーで受け止め零奈のレーザークローを身を沈めてやり過ごし、脚に足を絡め零奈を浮かせると至近距離からバルカンで撃つ――が、それは琉の盾でさえぎられる。
「あんな寄せ集めの屑どもなんて知った事じゃないっ! 分断させるためだけの奴らなんかぁぁぁあ!」
 とてもじゃないがまともな精神状態とは思えなかったが、それでも2対1の超近接戦闘だというのに、純白のゴーレムは類まれな回避を見せる。
「凪に比べれば攻撃も予測しやすく避けやすいが、回避は凪と同等か‥‥」
「そうさ、凪姉様の真骨頂はこの動きだったのに! この機体が一番しっくりくるはずなのに! それなのにあんな自分の特性を殺すような機体に乗って――凪姉様を返せ返せ返せ返せ返せ返せ!」
 特性を殺す機体――パピルサグの事だろう。確かにパピルサグに乗った凪に攻撃を当てる事の出来た零奈が、いまだ決定打どころか、かすってもいなかった。
 しかし零奈とて闇雲に攻撃しているわけではない。
 ガトリングで牽制し、ブーストで距離を詰めるとこれまでと同じようにクローを振りかぶり、回避の方向を予測してその腹にアンカーテイルを打ちこんで動きを止めてみせた。
「捕まえた‥‥さぁ、これでラストぉ!」
「捕まったのは、お前の方だ!」
 当たったと思ったアンカーテイルをリリメリは脇で固め、お互いに至近距離でミサイルとガトリングとバルカン、そしてディフェンダーとクローによる応酬――圧倒的に零奈が押されている。
 直撃を受けている零奈の機体はひしゃげているのに、純白のゴーレムはというと、傷は付くもののさしたるダメージになっているようには見えなかった。
「攻撃力を落した分、硬くしてるのか‥‥!」
 アンカーテイルをベヒモスで斬り払い、2機を分断すると琉は盾を構えたまま零奈を抱え後退する。
(凪の模倣、というだけではなかったか)
 1機でも逃げ切れる速度ではない上に、零奈を抱えての後退。分が悪すぎるが、置いていくつもりはない。
「師匠‥‥」
「俺にも守らせろ、零奈」
 彼女が積極的に自分を守るよう動いていたのは、わかっていた。だからこそ、自分も零奈を守る為に動く。
 それが今の琉が選んだ道だった。
「逃がさないよ、逃がすもんか、逃がしませんよぉう!」
 言動にまとまりがないリリメリが動き出す。
 が、その前にガウスガンが2発撃ちこまれ、足を止めさせる。
「大丈夫ですか、蒼さん」
「刃霧さんも、何とかご無事のようで」
「クラークに久志か――すまんが後退する」
 人型へと変形した2機のビーストソウルのパイロットが誰なのか声で理解したリリメリは、手負いの零奈と足の遅い琉を残し反転し、一気に襲い掛かる。
「お前らもいたのかよぅ!」
「君との戦いも、これで最後にしたいねリリメリ? 君の心中はわからないでもないですが、こちらとて、負ける訳にはいかない‥‥全力でいかせてもらう」
「そういう事――本来ならハヤブサでお相手するのが礼儀だろうけど‥‥」
 生嶋 凪(gz0497)の意思を汲んで最後まで見届けた相手に、久志は敬意を払っていた――だが、それはまた別の話である。
「今回も勝たせてもらうよ――大事な人がいるからね」
 ガウスガン、水波、小型魚雷ポッドの速度差と潮の流れを考慮し、着弾のタイミングを変えて牽制を続ける久志。
 ディフェンダーで払いのけ、バルカンで魚雷を撃ち落しながらも魚雷のお返し――それをクラークは左右だけでなく上下の立体的な動きで回避してみせる。
 その動きに、リリメリは過剰に反応を示した。
「なんでお前が凪姉様の模倣するかなぁ‥‥!」
「凪さんから学んだのは、なにも君だけではないと言う事さ」
「姉様を呼び捨てにするな!」
 唇を噛みきり、吠える――綺麗な顔立ちも、鬼神の如き形相であった。
 海流に乗りブーストで距離を詰め、ハイヴリスを突き出すが、予測通りにそれは回避され、それを見越してその先をクローで迎え撃つ。
 だがそれすらも受けるどころか急下降で回避し、ディフェンダーで斬りかかってくる。
 クラークは盾で受け流しそこに常に優位な深度を保つ久志の射撃が割って入り、再び距離を置いて対峙する3機。
「流石は、凪さんの部下か‥‥だが、負けられない」
 家族の顔がよぎる――。
(家族のもとに帰る、それだけです)
 久志の3種射撃牽制を加速してかわし、クラークに詰め寄る――かと思いきや、方向を変え、久志に向かって真っすぐに向かってきた。
(やはり決めるなら接近か‥‥!)
 そこは読み通り――あとは覚悟だけだ。
 強化型アクチュエータをフル稼働し、機体全体のエネルギーを上昇させ待ち構える久志。
「ここか!」
 踏み込みを見切り、相対速度を合わせてレーザークローの一撃に全てを賭ける。
 接近は自分の領域という絶対の自信を持っての一撃は、ディフェンダーをかいくぐり、胸部を突き刺す――はずが、ギリギリで体を捌き、肩で受け止める純白のゴーレム――腕が飛びはしたが、まだ動ける。
 回し蹴りで久志を蹴り離し、魚雷ポッドを近距離で着弾させた。
「くぅぅっ!」
 装甲を硬くしていた分、多少はマシだがそれでもダメージは免れなかった。
 至近距離の爆圧に押されそれに加速をかけて離脱を試みるリリメリだったが、2人に気を取られ遠方からの大型魚雷に気づくのが遅れ、背中に直撃――足が止まってしまった。
 クラークが魚雷を発射した先に目を向けると、遠方にアクアブルーのオロチ――美虎の姿が見えた。ぐっとサムズアップしている姿が、幻視される。
「ここで決めます!」
 久志と同じように強化型アクチュエータをフル稼働、機体全体に行き渡るエネルギー量を上昇させる――ただし、機動力ではなく攻撃力を底上げさせてブーストで距離を詰めると、盾を海流に合わせ視界を塞ぐように投げつけた。
 目視頼りの近接戦闘をするリリメリにとっての、致命的な空白。
 そこへハイヴリスを突き出す――それを読んでかわした先に、レーザークローが待ち構えていた。
「眠れ、安らかに‥‥凪さんが待ってる」
 その言葉と一緒に、レーザークローは深々とコックピットを貫くのであった――。

●タウンズヴィル・港
 全員が無傷というわけではないが、それでも全員が無事生還できた。誰もかれもが生還第一に、連携、協力し合って動いたおかげであろう。
「おっつかれ〜♪」
 無事生還できたキョーコが久志に抱きつく――笑顔で抱き返すが、身体の所々が少しだけ痛い――それでも我慢してみせるのであった。
「キョーコさんも無事で、なによりです。海での戦闘、お疲れ様でした」
(これでやっと決着、というところかな――刃霧さんもこれで一安心か)
 この騒動に関わるきっかけとなった戦友の弟子を思い浮かべ、彼はひっそり安堵するのであった。

「ドクター、今回は助かりました」
「これっきりにしてもらいたいものだね〜‥‥」
 リヴァイアサンを憎々しく見上げ、さっさと高速移動艇に乗り込むウェスト。協力はすれども、いまだ彼は能力者とはなるべく一緒にいたくないのだ――いつしか、と思うほどに。
 頭を下げウェストを見送り、振り返って琉にも顔を見せようかとも思ったが――やめた。
 今回で一番負傷した零奈の側にいるのだろうから、野暮な事はしない。なにより、これからは戦場以外でいつでも会えるのだから。
 そして凪とリリー、メリーが消えていった海を眺め、穏やかなれと願い、視線を前へ戻した。
「さあ帰ろう、我が家に――」

 真夏の海が楽しくて海岸を駆けているネーナを、眩しそうに眺めている黒い日傘のニュクス。どちらも腕に包帯を巻きほんの少しだけ軽傷を負っていた。
 空から眺めていた海を砂浜で間近に眺めていた2人よりも少しばかり包帯の多いリックは、いつもの様にスキットルで喉を潤し、傷の痛みを忘れさせる。
「まあこんな仕事だし、こういうこともあるさな――あいつは怒るかもしれんがね」
 愛しい人の顔を思い浮かべ、彼は海岸を後にする。

 砂浜を眺め、この時期にこの気温と雪がない事に今一つ馴染めない兵衛――そんな彼の後ろから長郎が声をかける。
「日本人としては、やはりこの時期に熱いというのはいささか違和感を感じる、そんなところかね」
 気配は察していたので驚かずに兵衛は振り返り、まあそんなところだと苦笑した。
「まあ僕もだがね――さてミル君ももういないようだし、早々にお暇させてもらうかね」
 その2人の前をとっとことっとこ、琉の名前を呼びながら探し回っている美虎が通過。
 2人は服の肩口をつまみ、美虎を引き止める。
「なんでありますか」
 ぶらーんとしながら、美虎は首をかしげて2人を見上げた。
「まあ、なんだ――無粋な真似はよせ」
「くっくっくっ、そういう事だね」

 だいぶ怪我の目立った零奈が治療を終え建物の外へと出ると、琉が待ち構えていた。彼にしては珍しく、ほんの少し怒っているようである。
「また危ない橋を渡ったものだな‥‥」
「‥‥ちょっと反省してるよぅ」
 琉の護衛にまわり、他の者と連携しようにも近くに誰もいないのは彼女にとっても誤算だったようである。ただ、琉が側にいたからこそ今回は生還できた。
 1人だったらと思うと、ぞっとする――死ぬ事が怖いのではないが。
 気を取り直し、咳払い。少し頬が熱いのは、日差しのせいではない。
「これで全部終わったね‥‥でね、そろそろ‥‥あー‥‥一緒に住みたいなぁ‥‥って‥‥」
 その言葉に、琉の表情が曇る。
 その反応は拒絶なのかと顔を赤くしたまま手を振り、冗談だようと笑ってみせるが、そんな彼女の前に琉は小さな箱を差し出す。
「いつも後手に回ってばかりというか、先に言われっぱなしだな。あまり気の利いた言葉でなくてすまないが――結婚してくれ、零奈」
 因縁が終わったら言おうと思っていた言葉を、口にする。
 この瞬間、まさに長きにわたった彼の因縁が『本当の最後』を告げたのであった――。

『【海】本当の最後 終――完』