●リプレイ本文
●ビジネス
「ね、ミル君。傭兵ギルドの後見人、になってくれると嬉しいんだケド」
奥まった自室で夢守 ルキア(
gb9436)がミル・バーウェンにそう、告げた。
「戦闘狂には、戦いの場を。揉め事には交渉人を。後見人として、金は入ってくるだろうしー。
ツテはあるんだ。でも、前に纏めてたヒトは高齢で、実務が出来るヒトも死んだ。
私は、実務は知らないしね。平和になじめない戦闘狂に、拠り所をくれない?」
ルキアは机に手を乗せ、ミルの目を覗き込んだ。
「片手間に、どうかな?」
「いいだろう」
凄まじくあっさり引き受けた。
あまりにもあっさり過ぎてルキアが眉根を寄せていると、何かの書類を顔の前に差し出された。
「ハンターライセンス?」
「うむ。キメラを測量して、報酬を出すというものだ。
これと君の言う傭兵ギルド、上手く混ざる気がしてね、なかなかに好都合な申し出なのさ」
●通信
「こいつにエミオンスラスターをつけるでありますか?」
画面の向こうで首をかしげる美虎(
gb4284)。
通信モニターの前にいるルナフィリア・天剣(
ga8313)は頷く。
「んー、できれば。既存の姿勢制御ロケットより、ステーションの安全性を高めれるかなと」
(ステーションに推進力をつけて移動できるようにするのは確かに理想だし、今回のような衝突コースの大型デブリ対策には1つの解決策ではあります。
もっとも宇宙船並みの構造力を持っていることが前提で――)
上を見上げる。ごく普通のコンテナの天井だ。
(構造物の強度そのものはコンテナに依存、接続点だってばらばらにならない程度の物であります‥‥)
「できるかどうか、計算し直すであります」
「任せた。あとは入手ルートだけど、宇宙軍か未来研か、はたまたメガコーポと交渉は必要そうだよね。
戦後の軍縮で余剰になった資材を民間で有効活用とか言や持って来れるかね?」
「いやぁ、無理でしょうな」
「教授」
後ろで会話を聞いていた秋月 祐介(
ga6378)が口を挟んだ。
「余剰と言いましてもまだまだ月や火星での作業の事もありますし、何よりも機密でしょうからね。一介の傭兵や民間企業においそれと分けてはくれんでしょう」
祐介の言葉は的を射ており、崑崙所属予定でもあることから実に説得力がある。
「そこはパチってくるであります。黙っていればバレないであります」
「ちゃっかりとしているようだな、美虎は」
奥の部屋から姿を現したミル。その横にはルキアも一緒である。
「さて諸君。今回もよろしく頼むよ」
「くっくっくっ、大変な現場環境では安全確保に到らす様にしないとね」
いつものように肩をすくめる錦織・長郎(
ga8268)に、おやっとミルは首を小さく捻る。
そんなミルの前にスッとアンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)が覚悟を決めた、そんな表情で前に出た。
「しばらく時間を貰って考えたが、自分の命を使って医療が発展するならその任に力を貸したいと思う」
「ほうほう」
「ただ、それには自分の知識が足りない。通信等を通し大学程度の学習を行いながらその任につきたいと思うのだが、それでもいいだろうか」
「かまわんよ」
即答。
「言ったはずさ。分野違いといえどもその努力のベクトルを向ければ、十二分に同じ領域に到達できるだろうと。
それにその閃きが欲しい、とも言ったはずだよ」
「そう言ってもらえると助かる――それと両親が植物学者だったため、その方面の知識から研究ができればと」
「方向性が定まっているなら、進化も早かろう。期待している」
そしてパンッと手を叩き、皆の注目を集める。
「とにもかくにも、時間だ。がんばりたまえよ」
傭兵達が去って行ったあと、入れ替わるようにシスターがやって来た。
いつもと少し違い、表情が少し引き締まっている。
その様子にピンと来たミルが先に口を開いた。
「長郎にそろそろ話してもらった、そんなところか」
「ええ――私の陰に隠れてコソコソと、そんな取引をしていたなんてね」
「取引と言っても、まだ私は長郎の要望をはっきり聞けていないがね。大方予測はついたが」
肩をすくめるミルを前に、シスターはかけてもいない眼鏡のブリッジを押さえるふりをしながら、語りだした。
「ここまでの話より君の予想範囲内であろうけども、僕として要望するのは業務上社会的に抹殺される必要がある場合におけるもしもの時の偽装工作と、以降を素性を隠れて過ごす為のセフティハウスだね。
勿論その前後では色々迷惑かけるかも知れないけども、安全の保険をしておけば問題の起る事がより小さく互いに収まるだろうしね」
それが長郎の言伝だと、口調でわかる。そしてそのポーズが旦那のマネだということも。
「なので過大かもしれないが、君からの要望込みを受け入れる構えとしてお願いしたい処だね。
まあ、最悪の安全マージンではあるが、僕としてもそうならぬよう自身の業務に全力を尽くして、世界へ貢献したいものさ。
だからこそこの業界に生き甲斐を感じているのだしね」
区切りをつけるように息を吐きだし、笑顔をミルに向ける。
「永い付き合いになるだろうから、その辺は宜しくお願いしたい処さ」
「なるほどねぇ‥‥そして君は納得済みと」
「ま、ね。ちょっと腹ただしい部分もないわけじゃないけど」
肩をすくめる。
「妻だからね。そこは覚悟しなきゃだわ」
「ふむふむ、そうかそうか。
では帰ってきたら伝えたまえ。偽装は大得意だから、安心しやがれこの野郎とな」
●ソラに
ミルステーションで出迎えたのは、有事の保安要員として機体ともども滞在中の藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)であった。
「ようこそ、ミルステーションへ。ゆっくり歓迎をしたいところじゃが、その前にまず一仕事頼むのじゃ」
ルキアがさっと手を挙げ軽く会釈する。
「うん、よろしく。それにしても本星崩壊前かぁ‥‥何らかの兵器かな?」
「なにかしらの事態打開物資に期待であります」
「はてさて‥‥鬼が出るか蛇が出るか‥‥まずは確認してみますか」
「中身が危険物なら破棄、誰かの私物なら然るべき場所へ、それ以外で有用そうなら貰う。
箱も使えるなら再利用の方向で」
(ふーむ、偶然にしては作為を感じるが‥‥まぁ、なんにせよ何が入っているかは気になるの)
懸念を抱いていた藍紗だが、好奇心が勝る。
「そうじゃな」
「異論はないね」
開ける事を前提としているメンバーを前に、アンジェリナはふむと口元を押さえた。
「私としては、開封を軍などに任せておいた方がいいと思うのだが、皆がそう言うならばそれに従おう。
正直、地球製なのかも疑わしいとは思うのだがな」
「処分されるかもしれないゴミのようなお宝もしれませんし、我々善良な一般人が見る分には構わんでしょう。目の保養ですよ」
「そうそう。バグアから見てゴミでも、ヒトからしたらお宝ってコトもあるよね」
納得、とは少し違うがアンジェリナはそれ以上何も言わず、押し黙るのであった。
「みなさんが来る前にあらかじめ、正確なデータを取ってきたであります」
「ふむ、コンテナそのものは地球製なのだな。質量は結構なものだが、中の調査はしていないとみえる」
「そこは開けてからの調査で十分かと思ったであります」
自身としても気にしていたデータに目を通したアンジェリナが呟くと、美虎がすぐに補足する。
「コンテナにスラスターをつけての減速をと思ったでありますが、強度的には大丈夫でも時間と手間がかかりすぎることに加え、廃棄の可能性があるので断念したであります」
「そんなわけで、我からの提案じゃが――」
ルキアが落下するコンテナと平行に動きながら、計算をしていた。
「KVが2機、速度は1200km/sあれば、止められるかな? 祐介センセー、アドバイスないー?」
「正面衝突であればそこまで必要でしょうけど、一度軌道さえ逸らせばあとは緩やかに減速すればいいのでしょうし、速度を合わせて張りつけさえすれば大丈夫でしょうな」
「ああ、そうだよね」
「まあ張りつくのは我とてんてんに任せて貰おうかの。減速の計算は教授にやってもらって、皆は‥‥」
「周囲を警戒しつつ、障害となるものの排除、だね」
長郎が各機の位置情報を皆に回しながらも、この先邪魔になるであろうデブリをロケットランチャーで砕いていく。
ルキアと同じく平行に移動しつつ、センサーで探りを入れていたアンジェリナが結果に目を通して頷いていた。
「中にはエネルギー反応もなく、熱源もない――今の所無害である、そう判断すべきか。ならば私も周囲の状況を観測しつつ、デブリの駆除にまわるとしよう」
「ふむ‥‥そんじゃ、そろそろいっとく?」
「そうじゃな、開始するとしようかの」
少し距離を置き、出番を待っていたルナフィリアのパピルサグが動き出す。他からすると倍以上のサイズで確実にコンテナよりも大きかった。
「デカくて重い機体にはこういう使い方もある、何てね」
ブーストで相対速度を合わせると、脚部のみを展開してコンテナを触腕と脚で挟み込んでとりついた。
徐々に減速し軌道をそらし始めると、タマモでとりついた藍紗が8基のエミオンスラスターで姿勢を微調整する。
「ステーション通過まであと20秒。現在の速度で進入角度算出――うん、もう大丈夫だね。衝突コースから外れたよ」
歩行形態で周辺を警戒していたルキアが告げると、多少なりとも皆の緊張が和らいだ。
だがさすがにまだ気は抜けない。
「教授殿、減速の指示を」
「了解ですよ」
祐介の指示に従い徐々に減速していると、長郎のモニターにデブリの影が映し出される。
「ふむ、そちらにデブリの気配だ。アンジェリナ君、ルキア君、排除を頼むね」
「了解した」
「リョーカイ」
周囲の安全も確保され、つつがなく減速作業も終わる事が出来た。
飛来してくるデブリには気をつける必要があるものの、これでまずひと段落である。
「さて、美虎殿。確認しに行ってもらえるかの?」
「合点承知であります」
同乗していた美虎が、藍紗の太ももから腰を上げコンテナへと向かう。
「自分も少し見させてもらいますか」
祐介もコンテナに張り付き、コンテナのロックを外して美虎と共に中へ――ほんの数分で2人して出てくる。
その面持は決して明るいものではなかった。
「夢守さんが正解でしたな」
「バグア製の兵器と、それを売り払おうとしていた物言わぬ傭兵があっただけであります」
「嫌がらせなのか、自分達に託すつもりだったのか、はたまた本当に偶然だったのか。
状況から見て、戦場で奪ったはいいがコンテナごと流され、そのまま漂っていた。
そして力尽きる寸前、軌道をそらした――そんなところですかね」
道を過った傭兵の末路に、祐介はいつもの涼しい顔ながらも、自分はああはなるまいと固く誓う。
「そうなると遺体位は回収にしても、このままコンテナごと破棄か」
研究したいとも感じるが、リスクばかりの方が無駄に高いと判断したルナフィリアがそう漏らすと、誰もが口を閉じ、沈黙で答えを返した。
こうして謎コンテナは、塵となって消える事となったのである。
●拡張
「まずは母屋になるステーションから増築すべきだとは思いますね。風呂も魅力ではありますが‥‥」
祐介の言葉はもっともだと言う事で、ミルステーションにコンテナを接続する事が決まる。
経験者がいた事もあって、ステーションとコンテナのドッキングは以前よりも短時間で終了し、そのブロックをどうするかの話が行われていた。
「コンテナ1つまるまる、太陽光発電と蓄電ユニットにしたいと思うのじゃよ。電力不足を解消せんと防衛装置も不安じゃからの」
「そこは賛成ダネ。自衛できなきゃ安心して研究できないし」
そこに外から帰ってきたルナフィリアと美虎がやってきた。
「緊急時の姿勢制御用に美虎が拾った、エミオンスラスター付けてみたけど出力が安定しないや。要研究かも」
「美虎の仕事が増えたであります」
「あー、聞こえるかね?」
声が内部に響く。少し遅れ、ミルの姿がモニターに映し出される。
「諸君、まずはごくろう。中身が持つべきものではない兵器だから破棄したと、報告は受けた。その判断はきっと正しいだろうね」
「まだまだ拡張はするのかの?」
「うむ。きっともう数回はあるだろうね」
「ふむ、このままミル殿の下で働くのもよさそうじゃ。傭兵続けつつ、ステーションの保安要員としてどうじゃ?」
「もちろん歓迎さ」
「傭兵続けてれば、強化した機体が使えるからのぅ」
カカと楽しそうに笑う。
今の話を聞いていたアンジェリナは、今後の増設案と聞きある決意を秘めていた。
(できる事なら、宇宙で花を育てよう。父や母の様に――)
ステーションに作られた窓から、宇宙を眺めていたルナフィリアに気付いた祐介が軽く手を挙げる。
「やー、るなみょん」
「誰がるなみょんかっ」
「何だったら、ここで色々と研究というのも面白いんじゃないんですか?
ここなら他では見れないモノが流れてくるかもしれませんよ」
そう言うとルナフィリアの手に何かを握らせ、ではお先にと行ってしまった。
そっと手を開くと、まるで見た事の無い装置――恐らくはエネルギーの収束装置なのだと直感的にわかるが、人類ではまだまだ作れない物だともわかってしまった。
(んー、どうしたものかなぁ。
バグアに可能な事は理屈の上じゃ能力者にも可能な筈だし、外宇宙目指すならバグアの能力と技術及びエミタのより高度な制御と言うか、人間越える研究しときたいけど、邪魔が入りそうな研究内容だし、このステーションは自由にやれる場所としてはいいよなぁ)
「だけどまだ、ね」
ルナフィリアは『ソレ』をそっとテーブルに置き、背を向け、歩き出すのであった。
●帰還
「多分、今後は色々な情報が集まってくると思うんですよ。場合によっては、どう扱うべきか悩む様なものもね。
かといって何もしない訳にもいかない、そうでしょう?」
報告がてら、世間話ですがと切り出した祐介がミルに語りかける。
「少なくとも互いの利害関係をはっきりさせ、見せるべき札は見せる、その種の正直さは必要でしょう」
「利害ね‥‥君の今後も耳にしてはいるが君は、誰の味方なのかね?」
「愚問ですなァ社長」
涼しい顔をしながら肩をすくめた。
「自分は自分の味方ですよ」
「よくまあ、ぬけぬけと‥‥私以外にもずいぶん伸ばしているはずだが、まだ足りないのかね」
「昔から言うでしょう、狡兎三穴とね‥‥」
失笑を漏らすが、眼鏡の奥はちっとも笑っていない。
つられるようにミルも失笑を漏らして、机に肘を乗せるのであった。
「面白い。ならば私も少し正直に話すとするか。君との繋ぎは残しておきたいのだからね」
そしてミルは祐介に話し始める。自分の過去と、そして目的を――
それぞれが色々なその後を思い描き、日々は止まらず過ぎていくのだ。
『【ミル】謎コンテナさん 終』