タイトル:願いを掛けた、その景色マスター:樟葉

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/19 19:46

●オープニング本文


 世界には本当に素晴らしい景色がある。
 見る者の心を癒し、時には勇気づけ、そして夢や希望をさらに膨らませてくれるものだ。

 そんな世界の景色に魅了された一人。

 ‥‥写真家、室生和成。


 彼の作品には定評があった。
 しかしバグアの地球侵略から数年、現地へ行くのにも命懸けとなり、彼の写真仲間たちの中にはバグアやキメラによって命を落とす者も出始め、そして彼も妻を失った時から写真家としての活動は完全に停滞していた。

 象牙色の壁にかけられた木製の素朴なフォトフレーム。
 そこには、よく晴れ渡った青く美しい空の写真が一枚収まっている。

 キメラに襲われ命を散らせた亡き妻が、最後まで守りきった形見の写真だった。


「・・・・そうだな。この世界の美しさを俺はまだ撮り続けなければならないと思う。俺は無力だが・・・・ようやく再開する決心が付いたよ」
 助ける事の出来なかったかつての仲間達。そして最愛の妻。
 自分はあまりにも無力だった。

 しかしそれでも・・・・と思う。
 それでも、自分はこの世界の景色を撮り続けなければならないと思うのだ。
 大切な者を失い、絶望に打ちひしがれ、・・・・それでも夢や希望を持つ事を諦めない人々の笑顔のために。

「あの地から、もう一度始められたら・・・・」







 UPC本部に依頼が舞い込んで来た。


 アジア地域のとある山のふもとから、写真機材を持った1人の日本人男性が山中へと足を踏み入れたという。
 最近この山には黒い毛に覆われた豹(ヒョウ)のようなネコ科のキメラが群れで6匹目撃されたので、ふもとの住人が依頼を出そうとした矢先の出来事だったらしい。
 写真家の姿を見たのが村の子供だったので、キメラ出現の注意も出来なかったようだ。

 キメラは群れをなして山を移動する姿を村人が双眼鏡で捉えたという。
 しかも夜行性というわけでもないらしい。

 山頂までの道は広く緩やかで舗装もされているが、周囲の背高い草や木々が死角となっているらしい。
 しかし山頂は低い草が生えているだけで見晴らしも良く、休憩や仮眠を取る事の出来る小さな山小屋もあるという報告。
 山頂までは迷う事のない一本道で、3時間もあれば登りきる事が出来るようだ。


 黒豹型のキメラ退治と、山頂へと登って行ったと思われる写真家の保護という形で、依頼を受けてもらいたいとの要望であった。

●参加者一覧

フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
月宮 瑠希(ga3573
17歳・♂・FT
坂崎正悟(ga4498
29歳・♂・SN
風(ga4739
23歳・♀・BM
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
雪村・さつき(ga5400
16歳・♀・GP
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

 依頼を受けた者達には見知った顔もあった。
(「瑠希と同じ任務か‥‥いや、今は任務に集中しろ‥」)
 皐月・B・マイア(ga5514)は早まる鼓動を抑えつつ、平然を装い任務に入ろうとした。
 しかし見知った顔を見て、月宮 瑠希(ga3573)が笑顔を向ける。
「マイアもベルさんもよろしく。皆さんもよろしくお願いします♪」
「‥‥一緒ですね。よろしく‥‥」
 壁に背をつけ自動小銃を点検していたベル(ga0924)も、顔を上げて挨拶を返した。
瑠希に笑顔を向けられたマイアも、「あ、あぁ足手まといになるなよ! 置いて行くぞ!」と思ってもいない言葉を返しながら、高速移動艇へと乗り込む。
「こちらもよろしくー」
そんな光景をほのぼのと見ながら、諫早 清見(ga4915)も挨拶を交わした。

「しっかし無線機が3台か。もっと気前よく貸しやがれ、でありますにゃー」
 使い古された無線機の状態を調べながら、フェブ・ル・アール(ga0655)が本気なんだか本気でないんだかの口調で不平をもらした。
「ですねー。かなりの年代物っていう雰囲気がヒシヒシと感じられちゃうなー」
 フェブの言葉に頷きながら、風(ga4739)も同じように本部から借りた懐中電灯をカチカチとつけて点検する。使い古しだが問題無さそうだ。
 2人の会話に笑いながら、雪村・さつき(ga5400)も持ってきた照明銃を確認した。

 そしてもう1人。
「写真家か‥‥被写体がそこにあれば撮らずにいられない。‥‥性、だな」
 コピーした依頼書に目を通しながら、坂崎正悟(ga4498)が呟いた。
 写真家の名前は分からないが、何となく親近感を覚えて苦笑いする。

 そんな一行を乗せ、移動艇は空を駆けた。


●写真家を探して。
 山の麓は自然に囲まれていた。そんな山村へと足を踏み入れる。
 まずは依頼人の村長と写真家を見た子供、そしてキメラを見た村人への聞き込み班を分けることにして情報を集める事にした。

「初めは野生が逃げてきたのかと思ったんだがなぁ」
 そう言って村人が山の中腹を指差した。
 清見、ベル、瑠希が、キメラを見たと言う人物の話に耳を傾ける。
「今の時間帯から夕方頃に中腹を移動する姿を見かけるよ」
 その言葉に、清見がうーんと唸った。瑠希も口を開く。
「写真家が朝早くに登ったとしたら遭遇する確率は低いと言えるけど‥‥写真を撮り終えて、山を降りてくる時に遭遇してしまうかもしれない」
「キメラの行動時間とタイミングが合うと‥‥危険ですね」
 瑠希の言葉に、最悪の事態を想定してベルも相槌を打った。
「うん、すぐにでも行動すべきだね」
 と、清見も2人の言葉に頷く。
「どうもありがとうございました」
「気ぃつけてな」
 村人と別れた3人は集合場所へと向かう事にした。


 坂崎とフェブ、そしてマイアは、村長の家で話を聞いていた。
 年代を感じさせる家屋。案内された客間には、そこには様々な写真が飾られていた。
 青い空の写真。村の風景だけの写真。山の頂上から撮られたと思われる写真。
 そして、村人達と一緒に写っている日本人男性の写真。
「このおじちゃんだよ」
 そう言って、子供が写真の日本人男性を指差す。
「遠くからでも分かったよ。同じカバン持ってたんだもん」
 写真の男性も、肩から写真機材用の大きなショルダーを提げていた。
「‥‥室生和成、か‥‥?」
 その写真を見て坂崎が呟く。マイアも心当たりがあるように風景の写真を眺めた。
「おや、室生さんをご存知ですか?」
「あ、ああ。風景写真では名のある写真家だが‥‥ずいぶん若いな」
 村長の問いに、戸惑いを見せながらも坂崎が言葉を返す。
「室生さんは気さくな人でねぇ‥‥昔は何泊もして周辺の風景を撮っていたんです。奥さんも一緒にね。この写真は奥さんが撮ったんですよ」
 そう言って村長が村人達と一緒に写っている男性の写真に視線を向けた。ずいぶん若い頃の写真なのだろう。
「依頼の件、よろしくお願いします」
 そう言って村長は深々と頭を下げた。「あぁ」と坂崎が返事を返す。
「何としても救出する‥‥あの人の写真は‥親も好きだった」
 マイアが気合を込めて頷いてみせた。
 そして山周辺の地図を2枚借り、3人は村長の家を出た。

 村人や子供の話を聞いてきた風、さつきが戻り、全員が集まったところで情報を1つに纏める事にした。
 写真家の特徴。名前。山頂と写真ポイント。キメラの時間行動範囲。山の天候。
「この周辺の地図だ。山頂に着いてから二手に分かれよう」
 情報を纏めながら、坂崎が瑠希にもう一枚の地図を手渡した。


●山頂を目指して。
 菱形の陣形で周囲を警戒しつつ、一行は山頂を目指す事にした。
 まずは前衛にフェブ、中衛に清見、さつき、そして後衛に坂崎のA班。
 そしてB班には前衛に風、中衛にマイア、瑠希、後衛にベルという陣形を組む。
 力の分散は危険だとの判断だ。
 数時間ほど歩き、山の中腹周辺にさしかかった頃、全員がふと嫌な気配を感じ取った。
「狙われている気配がするよ。気をつけて」
清見がやや緊張した声を出した。
「上です!」
 風が木の上に潜んでいたキメラの気配に気づいて武器を構える。
「側面にも居ます!」
 側面の草むらに警戒を向けていたさつきとマイアも、その気配に感づき、注意の声を掛けた。
 同時に木の上から、1頭の黒豹キメラが坂崎と風の間に急速な速さで飛び降りてきた。
 そして道の両側からも5頭の黒豹が踊り出る。
 坂崎は瞬時に覚醒し、小銃で二班の真ん中を陣取った黒豹の太腿を狙い撃った。
 そして同じく獣化し獣の皮膚で防御を固めた風も、その黒豹の体に氷雨で切りつける。
 咄嗟の事だったがダメージは与えたようだ。
 しかしその傷をものともせず、黒豹は坂崎へと鋭い爪で襲い掛かってくる。
 坂崎は受け流すように回避するが、それでも少しのダメージを食らった。
 真ん中を陣取る1頭を相手する坂崎、風への援護を阻むかのように、散らばった5頭が同時に他の者達へと襲い掛かってきた。

 清見が瞬時に獣の皮膚で防御を固め、武器を黒豹に繰り出した。
 覚醒したフェブも豪破斬撃を発動し蛍火で狙う。ダメージを与えると同時に黒豹も鋭い爪をフェブへと繰り出し、少しのかすり傷を与えて着地した。

 坂崎がもう一度強弾撃で真ん中に陣取るキメラを狙う。弾が命中し、黒豹がバランスを失った隙を付いて、風が氷雨で切りつける。
 その攻撃で致命傷を負った黒豹は地面に倒れた。
 仕留めたようだ。

 体勢を整えたフェブが小銃を引き抜き、キメラ目掛けて撃ち抜く。痙攣した様子で黒 豹が地面へと倒れ落ち、同じく2頭目を仕留めた。

 さつきは疾風脚で一時的に回避と命中を上げ、自分の手前にいる黒豹の攻撃に備えた。
 近くに陣取る黒豹がさつきを襲う。メタルナックルで鋭い爪を受け流しつつ、同時に攻撃を仕掛ける。
 黒豹は草むらへと下がった。
 一方、後列のベル達も応戦する。連携しダメージを与えてキメラを一頭、倒す事に成功した。

 3頭目が倒れた所で、残りの3頭が距離をとるように下がり始めた。
 そして身を翻し森の中へと走り出し、山中へと消えていく。
「‥‥混戦を狙ってきたみたい。今のうちに室生さんの身柄を確保できれば話は早いけれど」
 と、さつきが周囲を眺める。だが、他に人が襲われた形跡は無かった。
 一行はさらに警戒を高め、山頂を目指す事にした。



 村人達の言うとおり、山頂は見晴らしの良い場所だった。
 フェブ達A班は坂崎の示す写真ポイントを、ベル達B班は山小屋の方を探す事にし、 山小屋方面への探索を開始した4人は、懐中電灯で山小屋の中を探し歩いた。
「‥‥いませんね。見た限り血の跡などは無いから、怪我をして小屋へ逃げ込んだと言う事は無さそうだね。ただ‥‥外で襲われて倒れている可能性も十分にある」
 様子を見ながら瑠希が言った。マイアも頷く。
「気を付けて下さい‥‥逃げたキメラが潜んでいる可能性も同じようにありますから‥‥」
 ベルの言葉に、風達も更に周囲を警戒しながら小屋周辺を探し歩いた。


 一方、坂崎が山頂を写真ポイントとして捉えて探していると、少し外れた場所に人影が見えた。
 怪我をしている様子も無く、山の方を見つめている。
 4人は急いでその人物の元へと駆けつけた。
「室生和成さん‥‥ですよね?」
 清見が尋ねる。
「そうですが‥‥あなた方は?」
「私達は依頼を受け、キメラ退治と貴方の保護を任務として来ました」
 キョトンとしている人物に、さつきが言った。
「私の?」
「村長の依頼でね。山でキメラを見つけた同時期に、あなたが山に入ったと連絡を受けた」
 坂崎も2人の言葉に付け足すように説明を入れる。
「あなたは確か個展で会ったことのある‥‥能力者になったと噂で聞いたのですが本当だったんですか‥‥」
 室生は驚いたように坂崎を見た。旧知ではないが、室生も知っているようだった。
「まぁ色々と‥‥」
 坂崎が苦笑する。室生も「そうですか‥‥」と言って口を閉じた。
「風さん達も呼び寄せますね」
 さつきがB班に無線で連絡をいれる。その間にフェブと清見が更に詳しい事情を説明した。
「すまない‥‥あなた方にも、村の皆さんにも迷惑を掛けてしまったようだ。下山してから宿を借りる予定でしたから‥‥先に挨拶しておけば、迷惑を掛けずに済んだかと思うと心苦しいですな」
 そう言って室生は苦笑いした。

 小屋周辺を探索していた4人もこちらに駆けつけた。
「良かった。無事に発見できたようだな」
 マイアがホッとした表情で呟いた。
「さてこれからどうするかだなー。守りながら山を降りるのは危険か」
「うーん‥‥山小屋で待っていてもらう間に、キメラを探し出すっていうのはどうかな?」
 フェブと風が下山と退治の天秤を計りだす。
「‥‥もう少しここで時間を貰えないだろうか」
 だが予想に反して室生がこの場所を指定した。
「貴方の写真は好きだ。だが、まずは貴方の無事を確保したい。キメラを排除するまでは、どうか安全な場所に‥‥」
 マイアも室生の安全を第一に説得にかかる。
「なに、景色は逃げやしません。命あっての物種であります」
 フェブも言葉を付け足す。
 そんな2人の言葉に、室生は困ったように微笑んだ。
「私がここに来たのは‥‥自分の心をもう一度確認する為なんです‥‥」
 そう室生が話し始めた。
「大切な者達を失ってから、私は本当に気力を無くしていた。立ち直るために撮った写真も、悲しみに沈んだ心では、どんな美しい景色でも悲しみの色しか写せなかった。‥‥私自身が立ち直るために、この原点の地へと足を向けたんです」
 山頂からの景色を眺めるその瞳には、未だに悲しみを吹っ切れていない様子が伺える。
「お恥ずかしい話をしてしまいましたな‥‥しかしもう少しここにいさせてもらいたい‥‥もう少しで山の顔が変わる時間なんだ。それを撮ってみたいと思う。それまで居てはならないだろうか」
 室生が懇願した。
「私が撮る、私の心の新たな一枚目として」

 ザリッ。
 その時、3頭の黒豹キメラが森の中からゆっくりと歩き出て来た。
「キメラ‥‥」
 室生が緊張した面持ちになる。
「‥‥景色を撮ることがあなたの役目というなら‥‥あなたを守るのも僕達の役目」
 二刀を引き抜き、瑠希が静かに言う。
 全員が同じように室生を護る様に陣形を組む。
「あんたは写真家としてシャッターを切れ。俺は‥‥傭兵としてあんたの背中を守る」
 坂崎がキメラに向けてスコーピオンを構えた。左目の網膜に照準が浮かび上がる。
「‥‥護ります。必ず」
 同じく、ベルも室生を護る様にして両手に銃を構えた。

「皆さん‥‥」
 迷いはあった。だが、自分に掛けられる言葉には、ゆるぎない強さがある。
 意思を決したかのように、室生は背中を能力者達に預ける事にした。
 山の顔が変化するのは僅か数秒。
 室生はカメラを構えた。

 そしてキメラが一斉に襲い掛かってきた。
「‥‥左右、狙います」
 そう合図したベルがすかさず狙撃眼と強弾撃で強化したフォルトゥナ・マヨールーとスコーピオンを、2頭の黒豹の太腿に命中させた。坂崎が残りの1頭の脚を撃ち抜く。
黒豹の脚力を奪った所へ、風が流し斬りで黒豹へと斬りつけた。
 そして瑠希が追い討ちをかける。
「死蝶に誘われて‥‥逝くがいい。夢霧幻流・氷霧」
 二刀が華麗に舞う。黒豹は2、3歩ほど歩いた後、地面へと倒れ、動く事はなかった。

「あの人のファインダーに‥貴様等は邪魔だ!」
 マイアがレイ・バックルを発動させ、イグニートでキメラを突き刺し引き抜いた。
 かなりの傷を負っているにもかかわらず、黒豹はマイアへと鋭い爪で攻撃をし掛けながら、遠くへと着地する。
 しかし、フェブが着地したその黒豹の脚へと銃の照準を向けた。スコーピオンから放たれた弾丸が、キメラの前足を貫いた。
 そして畳み掛ける様に、風とさつきが連携を取りつつダメージを与える。
 ようやく2頭めのキメラも地面へと倒れた。
「‥‥あと1頭です」
 ベルが呟き、強化した小銃をキメラの腹へと撃ち込んだ。
 それでもキメラは鋭い爪を清見へと向ける。清見も受け流しつつ応戦する。
 そしてさつきがメタルナックルでとどめを刺すと、最後の1頭も地面へと崩れ落ちた。


●写真家の想い。
 日が傾き、凛としていた景色が、優しい色に変わっていた。

「今の私に足りなかったのは、強い意志だったようだ。‥‥ありがとう。山のいい表情が撮れたよ。そして優しい空の色もね。‥‥妻が笑って祝福してくれているように見えた」
 穏やかに室生は言った。
「綺麗な景色ですね‥‥あたしの故郷も綺麗‥‥だったんです。この綺麗な星の姿を伝える為にも、あなたには撮り続けて欲しい。だから無茶しないで下さい、ね?」
「ありがとう。肝に銘じておくよ」
 風の言葉に、室生も穏やかな笑顔で頷いた。
「ここから‥‥世界中を回っていく予定なんだ。景色だけではなく、人々の笑顔も撮っていきたいと‥‥そう感じたよ。人々に希望を与えるような写真を撮れればと思っている」
 室生がそう言って、新たな決意を言葉で伝えた。
「僕もあなたの想いに魅せられた一人ですから‥‥これからは僕達を誘って下さいよ♪」
「ああ。これからは皆さんにもお願いするかもしれない。その時はよろしく頼みます」
瑠希の言葉に、室生も笑う。
(「俺の場合は歌とかだけどそういうの目指してる‥‥ん、負けてらんないね」)
 清見も景色を見ながら、心強く決意を胸に秘める。
「おっし。話が綺麗に纏まった辺りで、下山準備よろしく。村長に報告せにゃあならんと思うのであります」
 ニヤリと笑うフェブの言葉に、全員の雰囲気が明るく変わった。
 村長への報告のため山を下ることにし、全員が踵を返して歩き始める。

(「‥‥心の強さ、か‥‥」)
 傭兵と、未練の残る写真家としての自分。心の中に押し止めながら、坂崎も景色を背にして歩き出した。