タイトル:砂丘に潜むキメラマスター:樟葉

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/02 01:04

●オープニング本文


 アジア地域の砂丘に住む貴重な動物達が、サンドウォームというキメラに食われ、数を減らしているという。
 小さな動物達も、この地球に住む一員だ。
 現地の私設動物保護組合から、UPC本部へと依頼が届いた。

「サンドウォーム・・・・砂ミミズと呼ばれるキメラです。とは言っても皮膚は硬いようですし、鋭い牙で獲物を狙うそうです」
 そう言って、オペレーターは依頼主団体が撮って送ってきたと思われる映像を見せた。
 なだらかな砂丘から頭を出し、ゆっくりと半円を描いて再び砂丘へと潜っていく濃茶色の砂ミミズの姿が映し出されている。
「顔表面が全て牙で埋め尽くされています。その体長は3メートル程度のものが平均のようですね。それよりも巨大なものは確認されておりません」
 
 そのキメラが棲息する地帯は砂丘だが、その砂丘の中心部にはオアシスがあり、その水場のあるオアシス周囲は広い乾燥地帯で少しの草木が生えているようだ。
 サンドウォームは3メートルほどの長さで、ドラム缶ほどの胴回りがあるとの情報。
 動きは砂丘から砂丘へと半円を描きながらの移動のようだが、砂丘の真下から牙のある口を開けて小動物や爬虫類を飲み込む事もあるらしい。しかも手当たりしだいに動くものを襲うようだ。

 現地の私設動物保護組合の好意で、水分補給の水と砂避けのターバンやゴーグル、必要ならば捕獲用ロープも用意でき、移動手段として2台の砂漠用四輪駆動車と人数分のラクダを用意できるそうだが、車は砂を巻き込んだトラブルもありますのでご注意下さいとの事。 

「キメラの退治数は3匹です。ただ、貸したラクダを戦闘で死亡させたり怪我をさせた場合は、報酬を減額させてもらうとの連絡事項です」

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
近伊 蒔(ga3161
18歳・♀・FT
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER

●リプレイ本文

(「寒中に砂漠へ出張とはね‥まぁ、仕事というのはそういうものでしょうけど」)
 アルヴァイム(ga5051)がポツリと心の中で呟く。
 一行が高速移動艇で着いたのは、アジア地域の町の近くだった。一面の乾燥地帯に連なる町と、遠くに見える砂丘の光景。
「砂丘か‥三蔵法師の化け物退治っていうところかな」
 黒川丈一朗(ga0776)が砂丘を眺めながら言う。
「確かにキメラという怪物が現実に現れるまでは想像の世界、だったんだけどね」
 丈一朗の言葉に、近伊 蒔(ga3161)も頷いた。

 一行が砂漠の町へ足を踏み入れると、能力者達に気が付いた依頼主と思われる人物がラクダを連れて歩いてきた。
「依頼を受けてくださった方々でしょうか?」
「はい。サンドウォーム退治ですよね。私達が請け負いました」
 と、オリガ(ga4562)が答える。
「依頼で出したとおり、ラクダ達と四輪駆動車の用意は出来ますので、よろしくお願いします」
 保護職員の言葉にオリガが頷いた。
 ラクダがモフモフと口顎を動かす。
「きゃ〜」
 そんなラクダの姿を見たとたんに、黄色い声が上がった。藤田あやこ(ga0204)の回りにハートマークが飛び交う。
「この曲線美‥! 求めていたものが!」
 そう呟きながら、あやこはラクダのコブと比較しながら足元の砂に曲線グラフと意味不明の数式を描き、悦に浸りだした。
 そんな様子をラン 桐生(ga0382)が背後からそーっと覗き見る。
(「んん? ‥何を描いてんだろ‥」)
「このサインカーブを見よ!」
「のわッ!?」
 突然あやこが立ち上がり、ランが両手を同じ方向に揃えて仰け反った。
「‥という訳でらくだちゃんを危険に晒せません。みなさん車で任務に望みましょう!」
「ええッ!? どんな訳だ!?」
 あやこの言葉にランがツッコミを入れる。
「駱駝かわいいよ駱駝」
 だがすでにあやこはラクダに擦り寄り、悦に浸っていた。
「えーと。とりあえず車?」
 ランが呟いた。

「ちなみに車の方は向こうに用意してあります」
 保護職員が言う。ラクダを連れ歩きながら、職員は一行を車の置いている場所まで案内した。
 晴れ渡る空の下。
 オンボロの四輪駆動車が2台、そこにあった。

「これ‥なの?」
 江崎里香(ga0315)が言葉に詰まりながら、その四駆を見つめた。
 どう見ても、ボッコボコのポンコツ。
「‥確かに新品やら中古やら廃車寸前やらの説明は書いてなかったよな」
 フェブ・ル・アール(ga0655)が納得した様子で言う。
「はい。確かに使い古しですが2台貸し出せますのでご自由にお使い下さい」
 保護職員はどこまでも爽やかだ。
「これは‥走れるのか?」
 思わず丈一朗も尋ねてみた。悪いとは思うが聞かずにはいられないボロさだ。
「えぇもちろん走れますよ。ブレーキは多少利きにくくなってますけど‥」
 ハハ‥と笑いながら職員がそう答える。
「この車体状態では砂丘でもし壊れてしまっても、クレームは付かない方向の認識を持ちますが、よろしいでしょうか?」
 アルヴァイムが事務的な口調で尋ねた。
「ええ、さすがにこれの弁償は言いません。車も高性能ではないので‥」
 保護職員が頷き、もしもの時の了承を得た。


「でもこの車‥ちゃんと走るかも心配だな‥」
 依頼人が事務用事で去った後、蒔が車を眺めてうーんと唸った。
「不可能を可能にするのがフェブ姉さんの仕事だ。運転なら任せときな!」
 フェブが親指を自分に当てて胸を張る。見た目は頼もしい。
「それなら私も運転手に立候補したりするわ。メカは友達なの」
 そう言って、あやこも右手を軽く上げた。
「他に立候補がなければ俺はあの2人で構わない。むしろあの車を運転しようとする勇気を買うぞ」
「あたしも別に構わないわ。頼もしそうだしね」
 丈一朗の言葉に里香も頷く。他に異論も無く立候補も現れなかったので、運転手はフェブとあやこに決まった。

「タイヤの空気を抜いておけばいいって聞いたけど‥すでに抜けてたりするのな」
 運転手に決まったフェブが半笑いしながらタイヤをチェックして、さっそく運転席へと乗り込んだ。
 あやこの方もエンジンの調子やブレーキの点検などを行う。
 そんな様子を、ランが真顔でそれぞれの運転手が乗る車を見比べていた。
 脳裏に、車が故障した時の2人の様子がシミュレートされる。
 1人は車に備え付けられた用具で修理に掛かり、1人は呼吸を整え車体に蹴りを入れようとし‥。
「‥‥」
 ランは有無も言わずに藤田の方に乗り込んだ。
 
「さて、乗る班も分けなくてはいけませんね。射撃手をそれぞれ分けて、あとは均等に戦力を分けて‥って、1人足りなくないですか?」
 視界に捕らえた人数の違和感に、オリガが首を傾げた。
「桐生さんなら、すでに藤田さんの車に乗ってるわ」
 里香が視線をそちらに向けて言う。
「早ッ!」
 オリガが思わず声を上げた。

 藤田が運転する車には、近伊、ラン、オリガが乗り込み、フェブが運転する車には丈一朗、里香、アルヴァイムが乗り込んだ。
 車内には取り外し自由な無線も備え付けられている。
「しかし行動が早かったですね‥」
 すでに乗り込んでいたランに、オリガが呆れた口調で尋ねると、
「こっちのほうが信頼性高いもん」
 ランが笑顔を向けた。


●砂ミミズ釣り、出発
 車は平坦な乾燥地帯から、砂丘へと入って行った。
 なんだかんだ言いながらも、2人の運転は安定していた。
 とりあえず走行時速は伏せておこう。
 適切なスピードを保ちつつ、2台の車は砂丘を駆け抜けていく。
 
 やがて、あやこが運転する車の後ろに、サンドウォームが半円を描きながら追いかけてきた。
「砂ミミズ、来たみたいですよ」
 後方警戒していたオリガがその姿を見つけて全員に知らせる。
 サンドウォームが後ろからかなり接近してきた所で、サングラスをかけたオリガが洋弓アルファルで、ランがフォルトゥナ・マヨールーで砂ミミズに狙いをつけた。
 だが皮膚には当たるものの少々のダメージしか負わせていないようだ。
「やはり皮膚は硬いようですね・・。一度、弾頭矢で内部からの爆破を狙ってみます」
 そう言って、オリガが弾頭矢をつがえた。
 だが、サンドウォームは再び砂丘へと潜ると、半円を描きながら後ろを追ってくるだけで、なかなか口を開けるという隙を見せてこなかった。
「向こうも様子を見てるのかも」
 ランが様子を見て言う。サンドウォームは付かず離れず車の後を追いかけてきていた。

 一方、フェブの運転する車の後方距離にも、サンドウォームが姿を現した。
「サンドウォームが現れたわ。気をつけて」
 里香が注意を促す。
「オーケイ。ここからが腕の見せ所ってね! オアシス付近に誘き寄せながら走るよ!」
 フェブが声を張る。速度が上がった。
「まるでダカールラリーだなこれは‥!」
 しっかりと席に固定しながら、丈一朗が素直な感想を述べる。
 サンドウォームは半円を描きながらゆっくりと砂丘を移動してきた。
「遠くからじゃ弾丸の無駄使いかもしれないわね。皮膚も硬そうだし」
 追いかけてくる様子を眺めながら、里香が言う。
「そうですね。どちらかと言えば外側よりも、口からの内部ダメージが効きそうですね」
 アルヴァイムも頷いた。

 やがて、オアシスの風景が視界に見えてきた。
 だが‥。
 ズザザザザザと、砂丘の砂がタイヤに巻き込まれる盛大な音がして、フェブがハンドルを取られた。
「ごめん! 巻き込まれた!! 衝撃くるよ!」
 車体が遠心力でググッと捻り滑る。
 だが、多少の衝撃を食らいながらも、車体はひっくり返る事なく無事に止まった。
「すまない! みんな怪我とか無い?」
 フェブがすまなそうに言う。
「俺なら平気だ。これ位何ともない」
「あたしも平気よ」
「私も大丈夫です。お気になさらずに」
 全員が無事のようでホッとしたのも束の間、車から少し離れた距離でザザ‥っと砂丘が盛り上がり、その中から濃茶色の胴体を持つ生物が姿を現した。
「目敏く来やがったか‥」
 丈一朗がその様子を見て呟く。
「近くで見ると大きいわね」
「そうですね。しかし倒しておかないと前に進めなさそうです」
 里香の言葉にそう言って、アルヴァイムが弓を装着した。
 だがサンドウォームは再び砂丘に潜ると、そのまま姿を現さなかった。
「‥やはり動いているものしか察知できないのでしょうか?」
「試してみよう」
 アルヴァイムの疑問に、丈一朗が車のドアを開けて片足だけを降ろしてみる。
 それを待っていたかのように、サンドウォームが真下から口を開けて砂から出てきた。
「おっ。潜んでいたのか。下手に動けないな‥」
 出てきた砂ミミズから間一髪で足を退けながら、丈一朗が眉をひそめる。

「‥車から降りるのも危険ですし、ここからの射撃でダメージを蓄積してみましょう。試しに弾頭矢で内部爆発を狙ってみます。ちょっと砂丘を撃ってみてくれませんか?」
 そう言ってアルヴァイムが、弾頭矢を番えた洋弓リセルを構えて狙いを定め、フェブが小銃スコーピオンで砂に数発の弾丸を撃ちつけた。
 砂への振動を感じ取り、出てきたサンドウォームの口の中へと、急所突きと鋭覚狙撃を発動させたアルヴァイムが矢を放つ。
 矢が体内へと滑り込んだ数秒後に砂ミミズの内側から衝撃が走った。内部爆破でダメージを与えたようだ。
 再びサンドウォームが砂丘へと潜り、砂から出てきた所を里香が小銃シエルクラインで数発の弾丸を口の中へと叩き込んだ。
 砂ミミズはダメージを食らい、再び砂丘へと潜っていく。
「やはり内部からが有効か。なら‥ちょっと出かけてくる」
 弾頭矢を手にした丈一朗がそう言って、車のドアを開けた。
「‥え? ちょっと‥」
 里香が呆気に取られて言葉を口にした時には、すでに丈一朗は外に出ていた。
 砂に足を取られるが、構わず2、3歩歩く。すぐに近くの砂が盛り上がった。サンドウォームが口を開けて砂丘から出てくる。
 丈一朗はすかさず口の中に弾頭矢を叩き込んだ。そして、瞬即撃と急所突きを発動させてその巨体に拳を抉る様に入れた。
 サンドウォームの体が内部衝撃で揺れる。そしてそのままグッタリと砂の上に体が倒れ込み、そのまま動く事はなかった。
「兄さん結構無茶しますなー‥」
 取りあえず絶賛の意味も込めて、フェブが呟いた。

『車は使えなくなったけど、一匹は退治したよ。でもあと2匹の行方が分からないな‥』
 フェブが無線で蒔に連絡を入れた。
『それならこっちで誘き寄せてみるよ。2匹とも姿を現したら連絡入れるから、その隙にオアシスに直行するってことで』
『オーケー。じゃ、任せるよ!』
 向こうの班の提案に了解し、一旦連絡を切ってしばらく待つと、再び蒔から連絡が入ってきた。
『2匹とも釣れたみたいだから、今からオアシスに向かって行ってみて。こっちは反対方向をグルグル回って、そっちに気を向かせないようにするよ」
『ラジャ。もしミミズがこっちに来そうだったら、また連絡お願いするよー』
『分かった。気をつけて』
 再び連絡を切って、フェブ達は周囲を警戒しながら視界に見えるオアシスへと足を進めた。


 だがしばらくして、オアシスの近くをグルグルと回っていたあやこ運転の車が、急に減速して止まった。
 何かに引っかかったらしく、車が止まったまま動かない様子がこちらからも見て取れた。
 フェブが無線を入れる。
『そっち、何かあった?』
『ミミズが無茶しやがったーッ!』
 後部に座っているランの声が無線まで聞こえてきた。
『‥突撃されてハンドルを取られた時にタイヤが砂に埋もれたみたいだ』
 付け加えるように蒔が言う。 
『今から戦う事にするから、そっちはオアシスに向かって後で合流しよう』
『ラジャー』
 そう言って一旦連絡を切り、フェブ達は再びオアシスへと向かう事にした。

「練成強化祭りです♪ ドンドンぱふ〜♪」
 そう言ってあやこが超機械一号を手に持ち、練成強化を発動させた。
 オリガが洋弓に弾頭矢をつがえる。ランも銃を構えた。
 そして、砂の下から砂ミミズが口を開けて出てくるのを待つ。
「どこに潜ってるんだろ‥」
 そう言いながら、ランが銃で砂を撃ちつけたその振動で、サンドウォームが姿を見せた。
 あやこがすかさず練成弱体をかけ、鋭覚狙撃と強弾撃で強化したランが弾丸をガンガン撃ち込む。砂ミミズは再び砂丘へと潜っていき、今度は反対側へと姿を見せた。
「いいタイミングですね」
 砂ミミズの口がちょうどこちらを向き、急所突きと強弾撃を発動させたオリガが弾頭矢を口中へと放った。
 数秒後に内部から爆破衝撃が走る。
 ダメージの余韻にダラリと口を開けている砂ミミズへと、オリガが畳み掛けるように矢を放ちつけた。
 その隙を突き、蒔が車から蛍火を砂ミミズに突き刺す。
 ジタバタとしていた砂ミミズも、やがて砂地に頭を出したまま動かなくなった。
「一匹はやっつけたけど、あと一匹はどこだろ」
 ランがふとオアシスの方を見る。
 砂丘の盛り上がりが見て取れた。フェブ達の方へと向かっている。
『砂ミミズが向かってる! 警戒しろ!』
 蒔も気づいてすぐに連絡を入れた。

「やべ! 砂ミミズ来たよ!」
 フェブが叫ぶ。
「動くな! 俺が囮になる! 撃て!!」
 オアシスに向かって最後に歩いていた丈一朗がそう言って、立ち止まった3人の真ん中を走り出した。
 ちょうど攻撃範囲へと走り込む丈一朗に向かって、サンドウォームが砂の中から口を開けて飛び込んでくる。
 フェブ、里香、アルヴァイムが一斉にそのサンドウォームの大きく開いた口めがけて弾丸と矢を全力で撃ち込んだ。
 丈一朗が全力疾走でオアシスへと飛び込む。サンドウォームは、あやこ班から食らった傷と、更に追い討ちの弾丸を食らい、丈一朗に歯を向ける事無く砂丘へと倒れ落ちた。


●依頼成功
「とりあえず救援の連絡いれておきますね」
 オリガが無線で連絡を入れる。
「ここに来るまで時間がかかりそうですから、テントで休んでいて下さい」
 キャンプ用テントを設置したアルヴァイムが救急セットを用意して、治療所を作る。
 オアシスに飛び込んだ際に丈一朗が掠り傷を負ったが、とくに大したこともないようだった。
「「「兄さん無茶しすぎ〜」」」
 と、全員に言われたのは言うまでもない。

 数時間後に、保護職員がボロ車で迎えに来た。
 なんとかあやこ班の車も砂地から抜け出させ、詰め詰めで町に帰ることに成功した。


●その後談
「駱駝ちゃん萌え〜。瞳が可愛いの。もうめろめろです〜。掃除洗濯ただ働き‥何でもしますから暫く駱駝ちゃんと居たい〜」
 あやこが至福そうにラクダに懐きながら保護職員に頼み込んだが、全員から無理やりLHに連れて帰られたのも言うまでもない。