タイトル:雪と、白い小動物マスター:樟葉

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/29 00:56

●オープニング本文


「わ〜! お兄ちゃんー! 雪が積もってるよ〜!」
 妹の花音(かのん)が外庭に出るなりキャッキャと楽しげにはしゃいで、白い雪に足跡をつけていた。
 昨日から降り続いた雪は、解けずに降り積もったようだ。
 俺、西枝葉音(にしえだ はおん)は地面に積もった雪と、楽しそうに雪をさわる妹を見て、笑顔がこぼれた。
 以前、キメラに占領された街に取り残され、俺達は能力者と呼ばれる人々に助けられた。
 恐ろしい巨大なカマキリのキメラだったが、能力者の皆が妹を気遣ってくれたおかげで、心に深い傷を負うことも無く、こうして妹は笑顔を見せて毎日を過ごしている。
 占領された街は未だにカマキリに占領されており、その数も半端ないらしいので街は封鎖され、俺達も疎開して今は父さん側のおじいちゃんの家に置いてもらっていた。
 父さんも母さんも立ち上げている会社の仕事の対応に追われて、毎日が忙しそうだ。


「お兄ちゃんお兄ちゃん、あそぼ〜」
 そう言って、花音が雪を手の平ですくって持ってきた。
「霜焼けになるよ。ほら、手袋」
 妹の手が霜焼けで真っ赤になる前に、俺は引き出しから小さな手袋を取り出して妹に着けてやった。
「お兄ちゃん広場に行こうよー! ゆきだるまさんを作るの」
 手袋とマフラーを着けさせた花音がにこにこして言う。
「うーん‥課題がもうちょっと残ってるんだけどな‥まぁいいか‥」
 机の上に放り出している課題集を横目で見つつも、結局は妹のお願いを聞くことにした。


 雪の積もった広場で、花音と雪だるまを作って遊んでいると、近所の子供たちも外に出て来た。
 子供たちも一緒に雪だるまを作る。

「わぁ! 見て!! カワイイのがいるよ〜!」
 ふいに花音が雪の方を指差した。
 声につられてそちらの方に視線を向けると、確かに雪の中からイタチのような小動物が顔を覗かせていた。
「‥‥あれ‥? この辺りにオコジョなんていないよな‥東北地方や中部地方ならまだしも‥ここ九州だし‥」
 その小柄な小動物は、以前絵本か何かで見た事のある、冬仕様の白い小さなイタチのようだった。
 つぶらな瞳に可愛い外見だが、俺は怪訝に思い、妹と子供達を自分の方へと呼び寄せた。
「‥みんな‥その動物は危険かもしれない‥お兄さんの方にゆっくりと歩いてきて‥」
 そう子供たちに指示を入れると、花音も子供たちも小動物を見ながらも、ゆっくりと俺の方に歩いてきた。
 だが、小さな女の子が1人だけ、その小さなイタチに近づいた。
「!! ダメだよ! 離れて!!」
 俺が思わず声を張り上げると、小さな女の子はビクリとして足を止めた。
 そして、その小動物が雪の中から姿を見せる。
「な‥‥鎌!?」
 俺は呆気に取られた。
 そのイタチの尻尾、どう見ても鎌のように鋭い刃物のようなのだ。
「ま、まさか‥イタチと鎌で‥カマイタチとかいうオチ? でもカマイタチって、つむじ風の事だろ?」
 思わずツッコミを入れてしまったが、悪い冗談のような現実がそこにあった。
 キメラって、どこにでもどんな姿でも出てくるんだなって、つくづく思う。

 雪の中から顔を出していた時は小さく見えたが、いざ体が雪から出てくると、その尻尾部分が異様に長く、全長80センチほどはありそうだった。
「う‥やっぱり尻尾が鎌だ‥」
 しかも刃物は硬そうなイメージがあるが、そのキメラの鎌の尾っぽ部分はゆらゆらと動いていた。刃物にしてはありえない柔らかさだった。
「‥とにかく離れよう。離れなきゃならない。確実に」
 独り言を呟きながら、俺は小さな女の子をそのキメラから遠ざけるために、ゆっくりと歩いた。
「あ、もう一匹いるよ!」
 その時、その女の子が少し離れた雪から顔を覗かせているカマイタチを発見した。
「やばい。2匹もいるのか」
 思わずそう口に出しながらも、小さな女の子を自分の背後へと隠す事に成功した。
 だが、俺の様子を見たカマイタチっぽい1匹目のキメラが、瞬時に雪の中から消えた。
「え?」
 その一言を呟く間に、俺の長袖が引き裂かれた。
「‥‥っ!?」
 厚着だったにも関わらず、皮膚さえも裂けていた。
 赤い血が滴り、真っ白な雪へと落ちる。
 しかも雪へと着地したその表情は、先ほどまでの愛らしいものではなく、威嚇しているのか鋭い牙を見せて、恐ろしい形相になっていた。

 やっぱりカマイタチだ!

 俺はその瞬間にそう感じ取って、小さな女の子を急いで抱えると、花音と2人の子供達を広場から全力で走らせた。
 広場の近くの家へと子供達を先に押し込み、出て来た主婦らしき女性に、俺は大声で叫んだ。

「キメラ! キメラ! カマイタチのキメラがいるんです! UPCに連絡入れてくださいィィ!!」

 子供たちをカマイタチのキメラから護り、血と切り傷でボロボロになっている俺の姿を見て、血相を変えた女性はすぐに連絡を入れてくれた。
 俺がキメラの形や大きさ、諸々の様子を女性に伝えて、女性が本部へと伝える。
 そしてキメラ出現時の連絡網を伝い、付近への住民に危険を伝えてから、俺の手当てをしてくれた。
 花音も子供たちも、全員無事のようだ。切り傷ひとつ無くてよかった。
 能力者たちがやって来てくれたら、きっと、あのカマイタチを退治してくれる。


 俺はそう思いながら、意識を手放した。

●参加者一覧

リズナ・エンフィールド(ga0122
21歳・♀・FT
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN

●リプレイ本文

 一行は移動艇でカマイタチ型キメラが出たと言う町に着いた。
「雪靴を‥借りてきました‥。これで足場も‥不安定じゃなくなると‥思います」
 そう言って、幡多野 克(ga0444)が借りてきた簡易雪用靴を、全員に渡した。
 足場の悪さを少しでも緩和する事が出来るだろう。
「報告ではそのキメラは、カマイタチという妖怪の姿をしているとありましたね」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)が目を通した報告書のキメラの姿を口にした。
「ええ。鵺、カコクと来て今度はカマイタチと。バグアは妖怪の類がお好みのようね」
 数々の妖怪型キメラと対峙してきたリズナ・エンフィールド(ga0122)も苦笑いする。
「ちなみにカマイタチの伝承は日本各地にあり、飛騨地方の伝承では最初に人を倒し、次に刃物で切り、最後が薬をつけていく3人組の悪神として伝えられ、出血がなくまた痛まないのが特徴と言われてます。また三神は親子、兄弟のイタチであると考えるようです」
 カマイタチにまつわる話を思い出し、玖堂 鷹秀(ga5346)がその伝承を皆に語った。
「なるほど‥つまり2匹以上は居る可能性もあるという事ね。報告書では2匹がいた事もハッキリしているし、十分気をつける事に越した事は無いわね」
 ファルル・キーリア(ga4815)が鷹秀の語る伝承に留意した。3匹目がいるかいないかにしろ、どのみち何匹いるかは町を捜索してみないと分からない。
「2匹以上の認識ですね。了解しました」
 伝承を心の中に留め、ティーダ(ga7172)も頷いた。

「キメラが出た広場は町の中心部にあるようだな。隠れそうな場所は‥民家の密集地帯などがそうか。だがキメラが鎌を振るうとしたら広場の方が都合がいいのか‥」
 百瀬 香澄(ga4089)がコピーしてきた地図を確認しながら言う。
 地図を見る限り、町はそれほど広く無さそうだ。
「もしもー、民家周辺にも居るようでしたらー、外に逃げられないようー、外から内へ‥広場へ追込む方がー、良いと思うんですよね〜」
 今回の敵は小回りが効きそうなので、逃走の恐れも視野に入れてラルス・フェルセン(ga5133)がそう提案した。
 広場を中心にエリアを分割し、遠方から捜索を始めて広場にキメラを追込む形の寸法だ。
 そこで捜索A班に克、ラルス、ティーダが組み、B班はリズナ、リゼット、香澄で組んだ。
 そして情報を収集するために、ファルルと鷹秀が別行動として赴く事となった。


 情報収集班は広場に向かうB班と途中で別れて依頼を伝えた民家へと足を運ぶ事にした。
 十分に警戒をしながら民家へと移動していく。
 広場に近い家の窓から女性が顔を覗かせていた。玄関先に辿り付くと、すぐさま女性が出てきて家の中へと案内してくれた。
「あちらの部屋に攻撃を受けた子が居ます。それほど深い傷では無いのですが、何箇所も切られているので町医者の方にも連絡を入れてますが外は危険なので、ここで静養してもらっているんです」
 そう言って、女性が隣の部屋へと案内した。
 そこには腕や足など数箇所に包帯を巻いた少年がベッドに上半身を起こし、小さな女の子と話をしていた。
 怪我の状態はそれほど深刻ではないようだ。
「被害者の名前を聞いたとき、まさかとは思ったけど、やっぱり‥。元気にしてた? ‥って聞いてもこの状況じゃ意味無いわね」
 ファルルがその様子を見て、ふわりと微笑んだ。
「お久し振りです葉音くん。‥ですが、この様な再会はしたく無かったですね」
 鷹秀も微笑みを向けて葉音と花音を見る。
「え‥? あ‥! 助けてくれたお姉さんに‥ホットミルクのお兄さん?」
 葉音が目を丸くして言う。花音も「あ!」と気が付いたようで2人の方に駆け寄ってきた。
「もう1人、リズナも来ているのだけど、今はキメラ捜索しているわ」
「本当‥ですか? 後で‥会いたいです」
 葉音が言う。見知った顔の能力者である彼らが来てくれた事にホッとした表情を見せた。

「怪我をしている所、悪いと思うのだけど、少し傷を見せてもらえるかしら‥。キメラの攻撃方法を知る手がかりになると思うの」
 ファルルの言葉に、葉音が頷く。
 少し血の滲んだ包帯を取り外すと、裂けた傷跡が見えてきた。
 幸運にも厚着のおかげで皮膚の傷は深いほどではなかった。血も止まっている。
 これが半袖なら重体、もしくは命さえも危ぶまれたかもしれない。
「ありがとう。痛いのにゴメンね」
 ファルルがすまなそうに言う。葉音が首を横に振った。
「だいじょぶです」
「攻撃特性も分かりましたし、傷を少し塞いで痛みを和らぐようにしてみましょう」
 そう言って鷹秀が超機械を取り出した。瞬時に覚醒し、髪が蒼くなる。
「大人しくしてな? すぐ治してやるからよ」
 鷹秀が練力を消費して治療を施す。
 その変化よりもむしろ、痛みが引いていく方に葉音が驚きを見せた。
「痛みが‥引いてく」
「覚醒した自分を抑えるのは、苦労しますね」
 葉音が驚く様子に覚醒解除した鷹秀が苦笑する。
「覚醒‥これが‥。でも痛みが治まってきた気がします。ありがとうお兄さん」
 感謝の意を述べ、葉音が先ほどよりも元気ある口調になった。
 そして怪我をした経路をなるべく詳しく2人に話した。

「成程‥。しかし今回も冷静に判断できた様ですね、ぐっじょぶ。ですよ」
 葉音の説明が終わり、鷹秀が親指を突き出してにっこりと笑う。
「ええ。その状況で犠牲者が出なかったのは、葉音くんの判断と勇気ある行動のお陰ね」
 ファルルもそう言うと、葉音も照れくさそうに笑った。



『厚着だったから傷が抑えられたみたいね。あとキメラは白いから保護色の雪の中に逃げ込まれないように注意して。こちらも今から広場に向かうわ』
 外に出たファルルが、無線で葉音から聞いた情報を全員に伝えた。

 A班も警戒しながら捜索を進めていく。
 民家周囲に隠れていないか確認しつつ、広場の奥側入り口を目指しながら歩いていた。
 その時、サササと広場の方に駆けていく白い姿を3人が発見した。
 カマイタチだ。小さな姿だが尻尾が長く、報告通り刃物のような不思議な形状だった。
 そしてこちらに気が付いたようでキメラの足が止まった。小さな瞳がこちらを見る。
「寒冷地の動物は馴染み深いですがー、カマイタチというのはー、初めてですね〜。生態‥というか伝承もー、興味深いです〜」
 覚醒するだけでも練力が少しづつ減っていくので、キメラが出現した時点でラルスが瞬時に覚醒した。
「――が、キメラ且つ危害を加える存在である時点で、申し訳ありませんが消えて頂きます」
 先ほどまでのノホホンとした雰囲気が消え、ラルスの緑色の瞳がダークブルーに変化する。
 広場へは駆け込まず、こちらに向きを変えたカマイタチに、ペイント弾を詰め込んだ小銃を構えて、ラルスが狙いを定めた。
 放たれた弾はカマイタチの身体に届く寸前に、尻尾部分で払われる。
 だが払われた瞬間に、もう2発目が白い体に命中していた。白い体がカラフルな発光色に染まる。
 これでキメラは雪の保護色に紛れる事が出来なくなった。
 鋭い牙を剥きながら、キメラが瞬発力を生かして空中から襲い掛かってくる。
 克が壁になり、キメラの鎌攻撃をバックラーで受け止め、そして直刀月詠で攻撃を仕掛ける。
 だがキメラも鎌で応戦してきた。
 接近攻撃にカマイタチが気を取られている隙に、ラルスが小銃でキメラの足の付け根を強弾撃で狙い撃つ。
 カマイタチの反応が一瞬遅れ、足に弾丸が命中した。
「キメラを攻撃します」
 その隙を突き、格闘爪ファングを構えたティーダが攻撃を仕掛けた。そして急所突きを発動させた克も連携に持っていく。
 武器を変えたラルスもレイ・バックルで槍「ミルキア」を強化させ、弱点を狙った。
 だが、ヒラリと身を翻し、カマイタチはその強靭な鎌をラルスに向けてくる。
「如何に速くとも、攻撃される事が分かっているなら――待受ければ良いだけです」
 ラルスも攻撃の流れを読みながら、鎌攻撃を槍で流す。
 逃走されないように気を配りながら、ティーダも隙を突いて攻撃を加えた。
「動きは素早いかもしれない‥だけどそれだけ、だ」
 そして、動きを読んだ克がカマイタチに致命傷を与え、キメラは雪の上へと倒れ落ちた。


 A班から1匹目が倒されたとの連絡が届く。
 B班も雪の保護色で隠れているかもしれないカマイタチを警戒しながら捜索していた。

 広場の端。雪の上からこちらを観察しているようなイタチがいた。尻尾は見事なまでに鎌だ。
「あれか。鎌つきのイタチ‥昔話通りだけど、駄洒落みたいな姿だよな」
 その姿を目の当たりにした香澄が肩を竦めて言う。
「ですね‥。でも幾ら外見が可愛らしくても危険なものに変わりありませんし、キッチリ退治しておかないと‥」
 そう言いながら、リゼットが覚醒して武器を構えた。
「確かに厄介そうだわ。でも‥これ以上大きな災いにならないように、確実に仕留めなくてはならないわね」
 リズナも同じく覚醒する。
「だな。だが不運の後ろには幸運がいるらしい。不運は、私達が薙ぎ払ってやるさ」
 そして覚醒した香澄が槍「カデンサ」をキメラに向けた。
「行くわ」
 まずはリズナが先手必勝を使って両手剣で流し斬る。しかしカマイタチも素早く身を翻し、鎌尾部分で攻撃を止めた。
 リゼット、香澄もそれぞれに武器にスキルを発動させ、カマイタチを狙う。
 だがキメラは小さな身体のせいか小回りがきくらしい。ちょこまかと素早く動いてゆく。

 その時、ファルルと鷹秀がリズナ達B班と合流した。
「助勢するわ!」
 ファルルが攻撃範囲まで移動し複合弓を構え、接近戦の合間を縫って、強化した弓で前足の付け根を狙った。
 弓矢が貫通し、流れる赤い血でキメラの足元が染まる。
 機動力を削がれ、カマイタチのペースが弱まった。そして鷹秀がすかさず練成強化で武器を強化する。
 両手剣を強化したリズナが攻撃を加え、リゼットが連携を取った。
 その連続攻撃にカマイタチが身を翻そうとする。
「逃げられると思うなよっ!」
 だが柔らかい身体の部分を狙って、香澄が疾風脚と瞬天速で回り込み、とどめの一撃を食らわせた。
 やがてキメラはフラフラと歩いた後、力尽きたのか雪の上に倒れ、それ以上動く事は無かった。

『こちらB班で1匹を倒しました。続けて警戒しながら広場を探索します』
 リゼットが無線でA班に連絡を入れる。
 2匹倒したといえど、まだ油断ならない。
 伝承では3匹であるし、3匹どころかもっといるかもしれない。
 一行は用心しながらキメラ捜索を続けた。公園を中心に周辺を探っていく。

 キメラ発見の為に女性から貰ってきたタンバリン猿のおもちゃを、鷹秀が投げ放る。
「鬼さんこーちら、手のなる方へ♪っと」
 数回投げた時、ひょこりと3匹目のカマイタチが姿を見せた。
「やはり3匹目がいました」
 そう知らせながら鷹秀が瞬時に覚醒する。
「ガキに手ぇだすたぁイイ度胸だな!? 黒コゲんなって反省しろや!!」
 口調が変わり、練成強化で武器を強化しつつカマイタチにも攻撃を加えた。
 ダメージは小さいが、電磁波にカマイタチがその動きを止めた隙を突き、ファルルが複合弓を再び強化し前足を狙って命中させる。
 そこへA班も到着した。
 カマイタチの逃走経路を断つように背後を取る。
 ラルスが残りのペイント弾が詰め込んだ小銃を、キメラに悟られないように構えた。
 そして、接近戦に気を向いているカマイタチ目掛けて弾を放つ。
 カラフルな発光色がキメラの身体に付着した。
 A班でキメラが逃げないように陣を構え、接近戦武器を持つリズナ、リゼット、香澄がカマイタチに戦いを挑んだ。
 小さくて素早いカマイタチも機動力を削がれた後では、その瞬発力も衰えが見え始めてくる。
 リズナが流し斬りで攻撃を掛け、リゼットも急所突きで弱点を狙いながら、豪斬撃破で重い一撃を与える。
 香澄も連携を取りながら、カマイタチの攻撃を受け流しつつ攻撃を加えると、やがてカマイタチが雪の上へと倒れこんだ。

 3匹の退治を終え、再び2班に分かれて他にも隠れていないか地図を見ながら、町全体を調べ歩いた。
 だが、カマイタチは3匹だけだったようだ。
 安全を確認して、一行は任務を終えることにした。



 その後、町の医者を連れてきて葉音の傷を見てもらった。治癒のおかげで、この調子なら後遺症なども残らないようだ。
 「よくキメラから‥子供達を守った‥ね‥。もう大丈夫‥だから‥ゆっくり‥養生‥して‥ね」
 勇気ある行動の葉音に克が微笑み、傷具合を労わる。

 香澄は持参したコーヒー豆を使い、借りた珈琲メーカーで本格的に珈琲を入れた。
 挽きたての良い香りが漂う。
 雪景色を見ながら冷えた体を温めている他の者達に、香澄がカップ類を借りて珈琲を皆に振舞った。
「お疲れ様」
 キメラとの戦闘後も緊張の面持ちを解けずにいるティーダに、香澄が珈琲を手渡す。
「ありがとうございます」
 ティーダもおずおずと受け取った。
「とても美味しくて、温まります」
 一口飲み、その深い味わいにティーダもホッと一息つけたようだ。

「雪景色を見るとー、国を思い出します〜」
 香ばしい珈琲を口にしながら、ラルスが雪を眺めて懐かしむように呟いた。
「お兄ちゃんの国ってどこなの?」
 子供が尋ねてくる。
「スウェーデンなのです〜。雪合戦にー、雪だるま、雪うさぎ♪ 楽しいですよね〜」
 ラルスの言葉に、子供達もワクワクとした様子を見せた。
「ゆきだるま作りたい!」
「ゆきうさぎ〜」
 平和になった雪景色に、子供達の心も動いている。
「あとでー、雪遊びに出かけましょうか〜」
「でも怖いのは出ない?」
 子供達が先ほどまでの元気さに陰りを見せた。
 その様子に、珈琲を味わっていた克も、子供達に微笑みを向ける。
「大丈夫‥怖いのはもう‥いなくなった‥よ。だから‥外でも雪だるま‥で‥遊べるよ。小さいのも‥大きいのも‥。たくさん‥雪だるま作ろう‥?」
 克が優しげな表情でそう言うと、子供達も遊びたいとの声が出た。
「雪遊びってあまりした事が無いのよね。色々教えてくれるかしら?」
 リズナが子供達に尋ねると、花音や子供達も笑顔を見せて頷いた。

 再び広場。
 ラルスと子供達が器用に、雪だるまや雪うさぎを作っていた。ファルルも子供達の様子に微笑みを零す。
「見真似ですけど、私も作っちゃいました」
 リゼットも器用に可愛い雪ウサギを作ると、花音や女の子が大いに喜んだ。
「ふふ。やはり子供は可愛いな。女の子は特に華やかでいい」
 そんな花音や他の女の子の姿を見ながら、香澄の表情が綻ぶ。

「一日も早く穏やかな日常に返してあげたいですね‥」
 ふと、鷹秀が子供達の様子を眺めて呟いた。
「そう願います」
 その呟きに、子供達には自分と同じような悲しみを背負わせたくない‥と、ティーダも強く頷いた。