タイトル:助けを求める声マスター:樟葉

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/10 18:18

●オープニング本文


 7人目の能力者が虎型キメラの鉤爪の餌食となり、地面の血溜まりへと倒れこんだ。

「ふーん‥3分29秒52。結構がんばった方か」
 その赤茶けた髪の青年は端末機にデータを組み込みながら、キメラの攻撃威力を計っていた。
 キメラが能力者を切り刻んでいく様子を、大きな石の上に座った長い黒髪の古風な美少女が無表情で眺めている。
 死体の周囲に居るのは、虎型のキメラや狼型キメラ、豹型の肉食系のキメラばかりだ。
「足りないな。そこそこ強かったんだけど、この数値じゃ‥データが不十分だ」
 青年がその冷酷な瞳を、能力者男性の無残な死体に向けた。
 その側をキメラたちが闊歩する。
 キメラの腹具合は満足なのか、食べる事はしなかった。

「た‥助けて‥」
 目の前の惨劇に、能力者の女性は嗚咽しながら、ガクガクと身体を震わせていた。
 最後の一人となってしまった。
 生き残る望みなど無いというのに、それでも彼女は生き残りたかった。
 死にたくなど無かった。
 無様だと罵られてもいい。

 ‥生きたかった。

 かっこよく死にたいなんて嘘だ。
 自分は生きたい。生きたいと願う。

 だから、必死に願っていた。
「助けて‥」
 と。

 だが、その言葉に反応したのは慈悲ある神などではなく、人の皮を被った侵略者。
 石の上から降りて、黒髪の少女は無表情に微笑を無理やり貼り付けて、冷酷に笑って見せた。
「じゃあ‥助けてあげる。ほら、本部に連絡するの。能力者を沢山呼んだら助けてあげる」
 そう言って女性能力者の携帯を、ラナ自身の耳元に当てた。
「助けて‥ラナ・レイガスターよ‥助けて‥」
 未来など閉ざされているというのに、それでも女性は頼ってしまう。
 細い細い‥今にも切れそうな糸を。
 彼女は震える声で何度も願った。「助けて」と。

「はい。協力ありがとう」
 能力者の女性にそう連絡をさせてから少女は携帯を切った。そして携帯を地面に落として踏み潰す。
「あ、そうそう。このハンドガン返しておくね。今度の能力者達が負けちゃったら自分でどうにかして?」
 そう言って、少女は弾丸を一発だけ入れておいた小銃を女性の側へと投げた。
 自害するなら自分でしろ。
 ‥そういうことらしい。

「今度のキメラ、もっと人間を恐怖に陥れるような強力なやつを作るほうがいいかな」
 端末機を打ち込みながら、赤茶けた髪の青年が言う。
「任せるわ。人間って弱いんだもの。‥‥さぁ、私のかわいい子供たち。配置について?」
 黒髪の少女がキメラたちに言う。優しい微笑みを向けて。
 キメラを操る少女と、従うキメラ。
 異様な光景だった。
「今度は、能力値の高い人間達が来るといいな」
 そう言って、赤茶けた髪の青年が口元だけに微笑を浮かべた。





 UPC本部。
 その連絡は、少し様子が違っているように思えた。
「助けて‥ラナ・レイガスターよ‥助けて‥」
 今にも千切れそうな声に、オペレーターは緊急事態を感じて応対に出た。
「ラナ、他に生き残っている人は‥」
「私一人‥よ‥助けに来て‥助けて‥助けてッ‥」
 何回かそう繰り返した後、プツリと連絡が途切れた。

 オペレーターが再依頼で集めた能力者に向けて再度説明をした。
「場所はアジア圏の山岳地帯よ。キメラ退治依頼があったの。肉食獣系のキメラが6匹ほど山道に出たと報告があったから、1週間前に8名が向かったわ」
 そう言って、場所の詳しい説明をする。岩や石の多い険しい山岳と不安定な足場。キメラにとっては絶好の狩場のような地形だ。
 そして、救出対象の能力者、ラナ・レイガスターの画面を映し出した。
「ラナは最近能力者のなったばかりなの。でも他の7人は何度もキメラ退治に赴いた事のある能力者だったから‥考えられるのは、他の者達がラナを庇って、ラナだけが生き残ったか‥ラナだけが生き残らざる状況になったのか‥。だから十分に気をつけてほしい。何か‥嫌な予感がするの」
 そこで一旦言葉を切り、考えるような表情をしてから再び、オペレータは依頼を受けた能力者達へと視線を向けた。
「キメラの背後に、何かがいる気がしてならないのよ‥」
 オペレーターはそう付け加えた。

●参加者一覧

リズナ・エンフィールド(ga0122
21歳・♀・FT
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
月宮 瑠希(ga3573
17歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER

●リプレイ本文


 リズナ・エンフィールド(ga0122)は、助けを求めているというラナの心情を考え、精神安定剤のアンプルを手配しようとした。
「ごめんなさい。精神安定の注射器使用は医者の心得がある人でないと危険なの。でも私も何か手伝う事がないかと手配しておいたわ」
 そう言って、オペレーターは毛布や保温瓶に入ったスープなどを持たせた。
「あと救出後に医者に診てもらえるように手配しておくから、貴方達も気をつけて‥」
 数々の依頼を見てきて何かを感じたのだろう。オペレーターはそう言って全員を見送った。

「しかし‥面倒な‥奴だ‥」
 再依頼の報告書を見ながら西島 百白(ga2123)が言う。
 その報告書は短い。依頼を受けた能力者の助けを求める声しか記録されていないからだ。
 それまでの経緯を話してくれたなら、いくらでも計画を立てられるのだが。
「切羽詰まってる人間の心理はそんなもんだろうけど、キメラに重傷を負わされたとか、そういう報告も一切ない辺り‥」
 今回の事件に何か不吉さを感じ、あえて志願したファルロス(ga3559)も淡々と再依頼の報告を眺める。
「まずは前の依頼内容を見直してみる必要がありそうね。下手したらミイラ取りがミイラになりかねないわ」
 移動艇の中で、皇 千糸(ga0843)が以前の依頼報告書のコピーを全員に配布した。

 どういう経緯でキメラが見つかり、誰が依頼したのかを全員が把握する。
 それはごく普通の依頼だった。
 場所は山岳地帯。
 現れたキメラは虎型と豹型と狼型の肉食獣型キメラ。
 依頼主はそこを通った旅人、らしい。前金は支払われていた。

「現れたのは虎と豹と狼型か。だが見境なしに出現するのも変な話だな」
 九条・命(ga0148)が肉食獣型の能力を再確認しながら、そう疑問を出した。
「キメラってのは何でもアリだが、確かに臭せえな」
 沢村 五郎(ga1749)も眉根を顰める。
 種類も違う獣が徒党を組むというのは妙だと沢村は思う。それがキメラだとしても。
「ふむ‥でも、よくある普通の依頼よね‥‥ん?」
 依頼書のコピーを眺めていた千糸が、首を傾げた。
「この付近の山道はほとんど使われていないようね。近くに村さえもないのに旅人が普通に通る道なのかしら‥」
「だが犯罪者が隠れ蓑にするなら絶好の場所かもしれない」
 黒のコートにスーツ、ワインレッドのネクタイ、黒の帽子に黒の手袋をつけたUNKNOWN(ga4276)が、そう言いながら小皿に入ったクッキーを置いた。
「適度の緊張感も大切だが、難題に冷静さを失ってはどうにもならないからな。ちなみに手製だ」

「「「!!」」」

 シックな装いとダンディな雰囲気漂うUNKNOWNの「手製」の一言に、全員が同じ反応を寄こした。
 全員の反応が揃った事に満足げに口の端で笑う。
「美味しいです。あ‥でもピクニック気分って訳にはいかないですね」
 と、手作りのクッキーを貰いながら月宮 瑠希(ga3573)が言う。
「ゆとりがあれば視野も広くなるという事だ」
 そう言いながら、ダンディな雰囲気漂う男も依頼書のコピーに目を通し始めた。



 一行はその山岳地帯の手前に辿り着き、周囲を確認して作戦を練ることにした。
「岩石で死角になってる場所が多いな」
 ファルロスが双眼鏡を使い、周囲を確認する。
 同じく双眼鏡で周辺を探る沢村が状況を計算に入れた。
「手前の岩上に潜んでいるのが4頭‥と、その岩陰に2頭が隠れてるわ。セッティングされたような配置ね」
 千糸はますます前依頼に対する不信感を募らせた。
 そして実際に数えた6頭よりも、数頭の存在を危惧する。
「しかも能力者がやられるほどのキメラだ。奇襲等の危険性を常に意識しておいた方がいい」
 九条がその周囲を様子を眺めながら、起こりうる奇襲手段と、肉食獣型の行動などを頭に叩き込み、それを纏め伝える。
 地図を使い、念入りに作戦を練りながら、同時に双眼鏡でラナの姿も探した。

 地面に力なく座り、目の前の無造作に置かれているハンドガンを、ただ眺め続けている女性。
 その横顔は画像と同じものだ。本人で間違いないだろう。
「‥あれか。‥まだ‥生きている・・な?」
 双眼鏡を借りた百白がラナを見つけ、その様子を見て呟いた。
 だがその目と鼻の先に、前依頼の能力者達であろう亡骸が血溜まりに倒れている。
 精神的にも良くない状況だった。
「ハンドガン‥なぜ無造作に置いてあるんだろう。戦う意思はあるのかな」
 同じく双眼鏡を借りながら、瑠希が首を傾げる。
 その言葉を聞き、沢村が何か思い当たるように眉根を寄せた。
 救出班にリズナ、沢村、百白、瑠希が、戦闘班に九条、千糸、ファルロス、UNKNOWNが陣を組み、行動を開始する事にした。
「また、後でな」
 UNKNOWNが軽く手を上げ、互いの健闘を祈った。



 戦闘班が山岳戦に有利な高所を選び歩き進むと、岩上の虎型と狼型キメラが襲いかかってきた。
 最初の一撃をかわし、九条が疾風脚と瞬天速で攻撃を与え、千糸が鋭覚狙撃でキメラの太股を狙いながら強弾撃で一撃を加える。
 ファルロスとUNKNOWNも、畳み掛けるように強弾撃でキメラへと撃ち込んだ。
「岩陰のキメラが狙ってるわ。気をつけて」
 キメラの動向を警戒していた千糸が声を上げる。
 2匹を相手にしている所へ、もう1頭の豹型キメラが岩の死角から襲いかかってきた。
 だが、その位置も把握しているので攻撃をかわしながらファルロスが足の付け根を撃ち、機動力を奪う。
「ナイスだ」
 UNKNOWNもキメラの体に銃弾を叩き込みながら、声をかける。
 3匹を同時に相手にしながらもキメラには連携を作らせず、1頭1頭を確実に倒していった。



 戦闘班がキメラを引き寄せている間を縫って、救出班がラナの元へと辿り着いていた。
「‥ラナさん? 助けに来たわ」
 キメラに見つからないように近づき、リズナがそう呼びかけると、ビクリと肩を揺らしてラナがこちらを見た。
 助けを求めたと言っても能力者だ。戦う意思があるならと覚醒した瑠希が戦意の有無を聞く。
「戦えるか? 無理なら護衛の対象となる」
 だが、ラナが表情を歪ませた。
「ごめんなさい‥ごめんなさい‥私のせいでまた‥」
 そして虚ろな瞳で、ラナが能力者達を見た。
「‥私一人‥生き残ってしまった‥。わたし‥」
 ふらふらとラナが目の前にあるハンドガンを掴もうとした。
 だが、沢村がその手首を掴む。
「生きたいのなら、最後まで生き残れ。中途半端に命を絶つな」
 ハンドガンを掴もうとしたラナの意図に、沢村が鋭く言う。
 その声にハッとしてラナが顔を上げた。
「わた‥し‥」
 そんなラナの様子に、包み込むような優しい声音でリズナが微笑む。
「あなたの声はちゃんと届いているわ。私達と一緒に帰りましょう」
「わたし‥。‥ッ!」
 リズナの言葉に、正気の光がラナの瞳に宿り始め、ふいにラナが痛みを耐えるような表情をした。
「足を‥切られている」
 ラナの足が人為的に切られている事に気がつき、百白が皆に知らせた。
 これでは一人で立つこともままならない。
「酷い怪我だわ‥。いま治療をするから」
 リズナが救急セットで応急処置を施す。
 ようやく恐怖から我に返ったラナが、口を開いた。
「気をつけて‥! バグア側が‥近くにいる‥っ!」
 足の痛みも忘れたように必死に言う。
「やはりか」
 沢村の脳裏に、以前から追いかけているバグアに組する人間達の事がよぎった。
「キメラが‥向かってきたぞ」
 その時、周囲の様子を警戒していた百白が、キメラの動向を伝えた。
 岩上の他のキメラが、こちらへと向かってくる。
「第一目標達成‥次はキメラか」
 瑠希がキメラを見据えて武器を構えた。
 ラナをリズナが護る配置につき、沢村、百白、瑠希で円陣を組む。
 キメラは虎、狼、豹型と揃っていた。
 そのキメラ達が明らかに狙っているのは、足の動けないラナのようだ。
 沢村達は武器を構えながら好機を探る。
 そこへ、3頭を仕留めた攻撃班がこちらへと合流してきた。

 3頭のキメラが集まった時を見計らい、UNKNOWNが酒2本を空中に投げた。
「さて、火はお好きかな?」
 銃で穴をあけ、スブロフの中身をキメラに浴びせる。
「目を閉じろ」
 そう全員に声をかけて照明銃を撃ち、着火させた。
 広がる火に勇み足を止められ、キメラが隙を見せる。
 絶好のチャンスに、銃に貫通弾を全弾装填した九条がキメラを狙い撃った。
 それぞれの足の付け根に撃ちこみ機動力を削ぐ。
 そして沢村と百白、瑠希がすかさず攻撃へと繰り出した。沢村が豪力発現で強化し一撃を振るい、百白が連携を取りつつ両手剣を使った流し斬りでキメラへと攻撃を加える。
 九条、千糸、ファルロス、UNKNOWNの攻撃もキメラに致命傷を与え、連携を合わせながらキメラを追い詰め沈めていった。
「死蝶に魅入られて‥逝け。‥夢霧幻流・氷霧」
 瑠希が刀でキメラの体を流し斬り、そして最後のキメラが地面に倒れた。


 だが、それで終わりとは思えなかった。
 何者かに観察されている気配を感じるのだ。
 ふとUNKNOWNがその気配を感じて、銃弾を一発、岩陰へと撃ち込んだ。
「っと。見つかった、か」
 岩陰から出てきたのは、薄灰色のコートを着た20歳代前半であろう赤茶色の髪の青年だった。
 だがその瞳の気配は一般人でない異常さを感じる。
「覗きはいかんな、ボウヤ」
 UNKNOWNが軽く片目を瞑り、カチリと銃の標準を青年に向けた。
「遊びたければ、私に声をかけなさい」
 そして素早く威嚇射撃としての一弾を、青年の足元へと放つ。
 青年は一歩後ろへと下がった。
「確かに良い趣味ではないかな。これは失礼」
 赤茶髪の青年が、UNKNOWNに向かって言う。

「なかなか興味深い戦闘でした。こちらの手の内を読まれて手駒が無くなるなんてね」
「‥あぁお前で最後のようだ。さっさと掛かってこい。クソ野郎」
 青年の言葉に、キメラの背後にいる人間だと悟った沢村が声を向けた。
 後ろで構えたスコーピオンをさりげなく動かし、作戦で一案した合図を仲間達に送る。
 狙うのは青年の後ろにある岩だ。数発撃ちこめば、気を逸らせるくらいの落石を作ることが出来るだろう。
「いえ、自分は戦闘向きではないので」
 だが端末機を脇に抱えて、青年がしれっと言った。
「そうか。なら好都合だ」
 そう言い、沢村が青年の背後に向かって銃弾を撃つ。
 と同時に合図を認知していた千糸や九条らが銃で、ファルロスも長弓に番えた弾頭矢を強弾撃と急所突きで強化して放った。
 命中した岩石の欠片が青年の頭上に落下してくる。
 その隙を突き、沢村達は一気に間合いを詰め攻撃を仕掛けようとした。
「‥‥」
 だが、青年は隙を見せなかった。
 落石が落ちてきても微動だにしない。そして落石は青年の頭上に落下する前に、赤い光の壁によって弾き飛ばされた。
「‥なるほど。人間ではないのか」
 全員が武器を構える。相手がバグア側だとしても、この数なら負ける気はしなかった。
 だが。

「追い込むつもりが追い込まれてしまったみたいね」
 少し笑いを含んだ第三者の声が聞こえた。
 堅そうな灰色の外殻を持つ獣型のキメラを左右に従わらせて、一人の少女が岩陰から歩いてくる。
 まだ15、6歳ほどの黒髪の少女だった。

「‥戦ったキメラは下っ端という事か」
 九条が呟き、警戒してその少女とキメラを見据えた。
「姿を見せる予定では無かったのだけど。‥まぁいいわ。貴方を失うと困るし」
 黒髪の少女が艶やかに微笑を浮かべた。
 全員が警戒体制で、2人の動向を監視する。
「貴方達って人間じゃないのよね?」
 千糸が銃を向けながら尋ねた。
「人間だったらどうするの? 見逃してくれるの?」
 黒髪の少女が面白そうに聞いてくる。
「いや、人間なら一応弔ってあげないといけないなぁと思って」
「あら優しいのね」
 クスッと黒髪の少女が笑う。赤茶色の髪の青年もスッと横へと下がった。
「でもそこはお気遣いなく。手駒も使い果たしたから失礼するよ。追うのも引くのもご自由に」
「手駒ならあるのだけどね。まぁいいわ」
 フフっと笑って黒髪の少女が身を翻す。左右に陣取るキメラも後に続いた。
「‥‥」
 隙は有ったが、その余裕が警戒心を仰ぎ、能力者達は深追いする事を止めた。
 彼らの戦闘能力が未知数な上に、深追いした先で大量のキメラに待ち伏せされていては危険だ。
「‥面倒ごとが‥増えそう‥だな」
 2人の姿を見送り、百白が呟いた。
「人間じゃないって頭で分かっていても‥女の子に銃を向けるのは良い気分じゃないわね‥」
 銃を持つ自分の手が微かに震えている事に気がつき、千糸が苦笑した。



 全てが終わった場所。
 そこには、無念にも志半ばで絶命した能力者達が横たわっていた。
「貴方達の想いは僕達が継ぐから‥安心して眠って下さいね」
 目を伏せ、祈るように瑠希が呟く。

 そして、再び呼び寄せた移動艇へと怪我を負っているラナを運んだ。

「‥キメラに傷を負わされた時、足が竦んで動けなかった‥2度の攻撃から先輩が護ってくれて‥でも、それで連携が崩れて‥。私‥動けなかった。その時、後ろからあの2人が現れて‥」
 再び傷の手当てをする能力者達をぼんやりと眺めながら、ラナが口を開いた。
「キメラを操る姿を見るまでは人間だと思っていた‥でも足を切られて人質に取られて‥。皆は私を助けようとして‥私を見捨てようとしなかった‥」
 ポツリと話し出すラナの隣に、リズナが座る。
「私のせいで‥私が動けなかったせいで‥。能力者なのに‥救える力を持っているのに!」
 両手をギュッと握りしめ、ラナが静かな声を上げた。
「怖かった‥動けなかったッ!」
 ラナの瞳に、涙が溢れ出す。
 そうして涙を静かに流しながら、ラナは過ちを悔いていた。
 彼女の心には、仲間を犠牲にして生き残ったという重荷が刻み込まれていた。
「生き残った事実は残る。だがそれは恥かしい事じゃあない。‥確かに重いだろうがな」
 沢村はオペレーターが用意した暖かいスープをラナへと渡した。
 千糸も口を開く。
「その事実から目を背けることの方が、心が痛むのではないのかしら‥」
 そう言葉を付け加えた千糸の瞳は、しかし穏やかだった。
「あなたが戦いから身を引くことを選んでも誰も責めはしないと思う。‥けれど、あなたに立ち向かう意思があるなら」
 リズナがラナを優しく抱き寄せる。
「私が力になるわ。呼んでくれれば何時でも駆け付ける、約束する」
 穏やかにリズナが言うと、ラナは静かに涙を流しながら‥小さく頷いた。


 本部へと戻ってきたラナは医者へと預けられた。あの2人の事も話さなくてはならないだろう。
 失った7名の命の代表として。

 彼女の未来は誰にも分からない。
 だが、7名の命を背負った彼女の瞳には、やるべき事の強い光が宿り始めていた。