●リプレイ本文
●学園勝負
「ん?良治、その人たちは誰なんだ?」
教室で本を読んでいた平井武典は、国川良治の後ろにいる総勢10人に目を向けながら言った。
「へっへーん。この人たちは、お前を倒すために集まってくれたのだ!お前も年貢の納め時だな!」
「なんで君が自信満々なんだよ。‥‥で、何で僕を何で倒すって?」
「もちろん、ポーカーでだ!」
びしっと指を立てる良治。
「へぇ、君たちもポーカーに興味があるんですか。いいですね、やりましょう。いつも僕たちがやってるルールでいいですよね?」
武典はにやりと笑いながら、机の中からトランプを取り出した。
「じゃあ、まずは私がお相手しますわ。よろしくお願いしますね、武典さん」
そう言って前に出たのは、如月・由梨(
ga1805)だ。一時期、遊技場のブラックジャックに熱をあげていたので、面白がって参加をした口である。
「うん。よろしく。じゃあ早速やろうか」
武典は慣れた手つきでカードを切る。由梨はその様子を用心深く見ていた。彼女は遊技場のブラックジャックに熱を上げていただけあって、イカサマの手段を少しだけ知っていた。イカサマを見過ごす気はない。
「はい、切ったよ」
「ありがとうございます」
山札からカードを引きながらも、警戒を怠らない。由梨は自分のカードを見る。揃っているのはツーペアだ。
「私は1枚捨てます」
「僕は‥‥そうだな。捨てなくていいや。これで勝負するよ」
対する武典は捨てずに、そのままの役で勝負するようだ。
由梨は山札から1枚引く。が、カードはスペードの7。
「私はツーペアです」
「僕は3カード。うん、僕の勝ちだね」
武典が見せたカードは5が3枚。武典の勝ちだ。
「‥‥負けました」
顔を歪ます由梨。負けず嫌いの彼女にとっては痛い結果となった。
「も、もう一勝負しましょう!!」
思わず由梨はそう言った。
「う、うん。いいよ」
武典は彼女の気迫に圧倒されて、思わず勝負を受けた。
しかし、2回戦も武典は3カード。由梨はワンペアとなり、由梨はまたしても負けてしまった。
「‥‥っ!」
(イカサマはしていないはずなのに‥‥)
運悪く2回も連続で負けてしまい、更に悔しがる由梨。
「由梨。次は俺がやりましょう」
由梨の肩に手を置いて宥めたのは終夜・無月(
ga3084)だ。
「重要なのは勝敗ではないですよ‥‥ゲームは、楽しんだ者勝ちです‥‥」
「無月さん‥‥」
恋人の言葉を聞き、由梨は少し落ち着いた。無月に席を譲り、後ろで待機する。
「それじゃあよろしくお願いしますね」
「うん、よろしく」
山札からカードを引きながらも常に微笑を崩さない。
(無月さん、頑張って!)
由梨は心の中で応援しつつ、武典のイカサマを警戒して、背後で覚醒。赤い瞳と凶悪な目つきが武典に突き刺さる。
居心地が悪そうな武典を尻目に、無月はカードを見る。手札には3のワンペアのみ。そこで無月は2枚捨てる。対して、武典は1枚捨てた。
2人ともカードを引いたところで、勝負。
「僕はワンペアだよ」
武典がカードを見せる。Jが2枚しかそろっていなかった。対する無月は‥‥。
「ね‥‥」
と微笑を浮かべながら見せたのは3カード。無月の勝ちだ。
「無月さん!やりましたね」
由梨は自分のことのように嬉しそうだ。
「負けてしまったな」
「なんだよ武典。ふつーに負けるんじゃん」
横で良治がちゃちゃを入れる。
「‥‥僕だって運が悪ければ負けるさ」
武典はカードを回収しながら言う。
「じゃあ、今度は自分の番ですね」
次にクラーク・エアハルト(
ga4961)が席に着く。
「ポーカー、好きなんですよ。軍にいた頃はよくやっていたものです」
と言いながら、クラークはカードを取り出した。
「最近ポーカーが流行ってると聞いて、カードは持ってきた物があるんですがどうです?」
「いいですよ」
武典は素直にうなずく。
「じゃあ‥‥そうですね。そこにいるお嬢さんに切ってもらいましょう。いいですか?」
そう言うと、クラークは勝負とは無関係の、珍しがって見物をしていた女子に頼んだ。
「え?私ですか?別にいいですけど‥‥」
女子は慣れない手つきでカードを切っていく。武典はわけがわからないといった様子でクラークを見る。するとクラークは、
「運を逃がすような事はしたく有りませんからね」
と微笑を浮かべて言った。
「えと、切り終わりました」
女子はカードを机の上に置く。クラークはありがとう、と言いながら上着を脱ぎ、シャツの袖も肘まで折り曲げた。イカサマをしない、というアピールだ。
「さて、始めましょうか?」
それぞれが5枚のカードを引いていく。クラークの手札は2のワンペアとジョーカー、他の二枚はバラバラだ。そこでクラークは2枚のカードを捨てる。
「2枚チェンジです。何も問題ありません」
ポーカーフェイスを崩さない。だが、首から掛けたドッグタグをしきりに弄る。
対して、武典は2枚のカードを捨てた。
2人がカードを引き、手札をさらす。その結果、武典はツーペア。クラークは3カード。
「自分の勝ちですね」
先ほどと変わらぬ表情でそう言った。
「2連敗か。運がないな」
武典は少しくやしそうだ。
「どれ、俺もやらせてもらおうかな。どんだけツイてるか‥‥試してみるか」
煙草を口に咥えながら席に座ったのはブレイズ・S・イーグル(
ga7498)だ。煙草に火をつけようとするが、武典が注意する。
「カンパネラ学園は禁煙だよ」
「‥‥仕方ねぇな」
火をつけるのは諦めたブレイズだったが、煙草は咥えたままである。武典もそこまでは注意せず、山札から引く。
手札を見ながら、ブレイズは考えていた。
(やれやれ、イマイチ盛り上がりに欠けるな‥‥。ジョーカーもきたことだし、いっちょやるか)
ブレイズは前もって、煙草のケースの下にカードを隠してあった。
カードを切り、山札からカードを引く。その後、口に咥えていた煙草をケースに戻すついでに、カードを入れ替える。
「ほらよ、ストレートフラッシュだ」
ブレイズは手札を見せる。おおっ、と良治は歓声を上げる。‥‥が、
「イカサマは駄目だよ」
武典はブレイズのイカサマを見破っていた。
「ほぅ、よく見てたな?」
イカサマがバレたというのに、ブレイズは態度を崩さない。
「ま、僕も少しは手口を知ってるからね。でも、イカサマは反則負けだよ。ちなみに、僕の役はこれ。イカサマがわかんなかったら負けてた‥‥かな」
武典が見せた手札はたったのワンペアだった。
「仕方ないな、ブレイズさんは」
横で腕を組んで見ていた鈍名 レイジ(
ga8428)は思わず声をかける。
「こういうのは盛りあがらねぇと楽しくないだろ。じゃあレイジ、次はおまえがやってみろよ。ウチのエースの運はどんなもんかな?」
「ま、俺自身にブッ飛んだ運があるとは思ってないが、時の運ってのも侮れないぜ?」
レイジは席に着く。
「よろしく頼むわ」
武典がカードを切る間、レイジは覚醒しながら武典の様子を見ていた。レイジは牽制程度にしか思っていないが、赤銅色の瞳と火花状のオーラに武典は落ち着かない。
「なんかいろいろ勘違いされてるみたいだな」
苦笑をしつつカードを机に置いた。
レイジの手札はスペードの1、2、3とクラブのJ、K。そこでレイジはストレートフラッシュを狙い、JとKを捨てた。武典は3枚のカードを捨てる。
2人ともカードを引き、手札を見せあう。
「僕はワンペアだ」
「俺は‥‥役無しだ。引けると思ったんだがな。ま、またやろうぜ」
覚醒を解き、席を離れる。
「次は俺だな」
続いて席に着いたのはユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だ。椅子に座り、スキル『GooDLuck』と『探査の眼』を使う。『探査の眼』はイカサマ警戒用『GooDLuck』は運を上げるためだ。
「ところで良治、わざわざ依頼で出す事か?」
武典がカードを切っている間、ユーリは良治に声をかけた。
「う‥‥。そ、それだけ俺は武典を負かせてもらいたかったんだよ!ま、まぁさっきから普通に負けてるけどさ‥‥」
しょんぼりとする良治。
「‥‥でもまあ、面白そうだからいいんだけどさ」
淡々と話しつつ、カードを引いていく。手札にはジョーカーとワンペアが揃っていた。彼はフルハウスを狙い、2枚カードを捨てる。武典は1枚カードを捨てた。
2人は互いにカードを引き、手札を見せる。
「僕は3カードだよ」
「俺はフルハウス。狙い通りだ」
「おお!ユーリさん、やるじゃん!」
良治が嬉しそうに声をあげた。
「次は私。よろしく」
間髪入れずに席に着いたのは時枝・悠(
ga8810)。彼女はイカサマ目的でやってきた。テレビでイカサマのテクニックを見ておもしろいと思い、個人的に練習してきたのだが、使い所がない。そんなときに絶好のチャンスが訪れたというわけだ。
他の人たちが勝負をしている間にこっそりと服にカードを仕込んでおいた。山札からカードを引いたときに、いらないカードを捨てて仕込んでいたカードを取り出す。
悠の器用さが幸いしたのだろう。武典も今度は気付いていないようだ。彼は2枚カードを捨てた。悠はカードを切らない。
「運がよかったな。僕はストレートフラッシュだ」
「残念。私はロイヤルストレートフラッシュ」
「おおっ!?」
見物人全員から喝采が起こる。2人共が綺麗に並んだカードを出したが、悠の方が間違いなく強い。さすがの武典も驚きを隠しきれない。
「初めてみた‥‥すごいね、時枝さん」
悠の方は、自分の技術が上手くいったようなので満足げだ。
「なんかやりずらくなったな‥‥」
頭を掻きながら麻宮 光(
ga9696)は言った。
「確かにさっきのはすごかったけど‥‥気にしないで始めよう」
武典は先ほどのカードを回収し、山札を切って言う。
「そうだな。こっちはこっちの運を試そう」
山札からカードを引く。手札にはAのワンペアがある。そこで光は手堅く3枚を捨て、3カードを狙った。相手は2枚捨てる。
「僕は今回、普通にツーペア」
「俺はワンペア。どっちも弱い役だが、負けは負け‥‥だ」
光は席を離れる。次に現れたのは、妙にノリの軽い男、楽(
gb8064)だ。
「ポーカーするだけでいいんでしょう?安全な依頼なら楽さん大歓迎さー☆よーろしっくねん☆」
飄々としている。顔も糸目の笑顔で本当の表情が知れない。その糸目が人知れず紅く染まる。楽は覚醒をして、スキル『GooDLuck』と『探査の眼』を使っていた。自分の運の強化と、イカサマへの一応の警戒だ。
武典も、今まで見たことないタイプの人物に興味と警戒の両方を合わせた視線を送る。
「さーてっと、いいカードは出るかなん‥‥おぉ?!」
手札を見るなり大げさに驚く楽。それが本当のことなのかどうかも知れない。
「それじゃあ楽さん、3枚捨てるよーん」
「僕は2枚捨てます」
それぞれカードを捨て、山札から次のカードを引く。引いたカードを見た瞬間、楽は声を上げた。
「あららー。ストレート狙いだったのにん。ワンペア止まりだわん」
「残念。3カードで僕の勝ちだ」
「イヤーン、楽さん運がなーぃ」
と悔しそうに、しかし飄々と言う。
「でも、ドキドキしたわん。また遊んでねー」
席を離れた楽。結局よくわからない人だなと武典は思う。
「最後は僕だな。よろしく!」
勝負の最後を飾るのはソウマ(
gc0505)だ。
「それにしても、ポーカーで無敗ですか。ひょっとして僕と同じキョウ運の持ち主かな?」
「いや。そんなことないと思うんだけどね。さっきから負けてるし」
武典は肩をすくめる。
「本物かどうかは、勝負してみればわかりますよ」
微笑を浮かべながら、覚醒をして『GooDLuck』を使う。虹色の精霊達が祝福するかのように舞った。
2人とも山札からカードを引いた。武典は2枚カードを捨てる。ソウマも同じく2枚のカードを捨てた。2人共、ゆっくりとカードを引いていく。
「えっ‥‥」
武典は思わず声をあげた。対するソウマは、ポーカーフェイス。表情を出さない。
「それじゃあ、勝負ですね」
2人共、同時に手札をオープンにする。
「おおっ!?」
「ええー?!」
見物人たちから歓声が起こる。
武典が見せた手札には、5が4枚にジョーカーが1枚。
ソウマの手札は‥‥7が4枚とジョーカーが1枚。
世にも珍しい、5カードの引き分けだ。
「ジョーカーって、2枚入ってたんですか?」
「そういえば、1枚抜くのをすっかり忘れてた‥‥」
しばしの沈黙のあと、武典とソウマは思わず吹きだし、笑い始めた。
「このままで終わりなのもなんですから、もう一勝負しましょう」
「そうだね。いいよ」
ソウマの提案に、武典も快く乗る。今度はよくカードを切り、再び山からカードを引いていった。
次も武典は2枚カードを捨てた。ソウマは1枚だけカードを切る。
2人ともカードが揃った。今回は武典も普通の澄ました表情だ。
「さて、それでは勝負」
2人共カードを表にする。結果、武典はワンペア。ソウマは見事フルハウスだ。
「キョウ運のせいかな、勝負事では負けたことがないんですよ。不落のツキ、なんて呼ぶ人もいますね」
ソウマは得意げに言った。
こうして、本日の勝負は終わった。
●学食休憩
「結局5勝5敗の引き分けか。残念だな。もうちょっと勝てるかと思ったけど、皆さん意外と運が強いんだね」
武典と良治は傭兵たちをつれて学食へと向かっている。勝負に勝った人は武典におごってもらい、負けた人は武典に奢る‥‥ということだったのだが、
「5人分も奢ってもらっても仕方ないから、負けた人はそのまんま勝った人に奢ってよ。それでチャラにしよう」
という武典の提案に従うことになった。
「って言っても、勝った人が頼むやつ意外と高いんだよなあ。申し訳ないけど、負けた人はちょっと多めに払ってもらうよ」
結果、終夜はオムライス、クラークは今日のお勧めランチ、ユーリは生姜焼き定食、悠はA定食の大盛り、ソウマは特大チョコパフェを頼んだ。
「でも、どうして国川さんは平井さんに勝てないんですかね?もしかして、国川さんが滅茶苦茶ポーカーが弱いだけだったりして」
ソウマはパフェと格闘しながら尋ねた。
「うう‥‥なんか俺もそんな気がしてきた。これからは俺ももっと考えてポーカーするよ。やっぱ適当に捨てちゃだめだよな」
良治はがっくりと肩を落とす。
「仕方ありませんね。私が自衛手段として、何個かチーティングを教えてあげましょう。でも、絶対に自分から使ってはいけませんよ」
由梨はそう言い含めながら、良治にイカサマを教えている。
「よし!これで俺も武典に勝てるはず!勝負だ武典!」
「いいですね、俺とももう一勝負やりましょう」
終夜はにっこりと笑う。
「俺らもやろうぜ、ブレイズさん。どっちのツキがまだマシか、ってな」
「おもしれぇじゃねぇか」
にやりと笑いながら、カードを切るブレイズ。どうやら、そのまま食堂で大ポーカー大会になってしまったようだ。