●リプレイ本文
●学園集合
影の噂の究明に乗り出した六人は早速カンパネラ学園に集まった。
「学園か。学生生活というものはいいものだな」
UNKNOWN(
ga4276)は目を細め、羨ましそうに校舎を見つめる。
「そうだ。誰か学園の見取り図持ってませんか?僕初めて来たから、どうも学園の施設の場所とかよくわかんなくって‥‥」
アルティ・ノールハイム(
gb9565)は学園を見渡しながらそう尋ねた。
「あら。それでは私が持ってきましょう。確か職員室の近くに、学校案内のパンフレットがあったはずですから」
そう言うと、加賀 円(
gb5429)は校舎の方に走っていった。確かに、謎の影の場所を突き止めるには地図らしきものがあったほうがよい。円の帰りを待つ間、それぞれが自分の行く場所を確認していたのだが、
「あーもう。まどろっこしい!」
突然赤い頭をかき乱した風間 千草(
gc0114)。
「えと、千草さん。どうしたです?」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)は心配そうに尋ねた。
「私はちまちま考えるよりまず行動するよ!考えるのはその時で十分!先に行かせてもらうわよ!」
と一気に言うと、校舎の内部に駆けていった。
「取って来ましたわよ。‥‥あら?」
戻ってきた円は身を固くした。このメンバーで唯一の女性であった千草がいない。男性が苦手な円は一気に緊張し、頬を赤らめながら学校案内をそれぞれに手渡した。
「‥‥ボク、大丈夫かなぁ」
初任務に少々緊張気味の大田原・ジョンソン(
gc0338)はそう呟く。
「んと、大丈夫大丈夫。今回は危険が無さそうだしね。‥‥そういえば、えと、UNKNOWNさん」
「なんだ?」
「えと、言いにくいのですが、学内は禁煙ですよ」
「‥‥すまん」
UNKNOWNは咥えていた煙草をそっとしまった。
●加賀 円の調査
円は校舎の外をぐるっと回りながら探索をしていた。男性恐怖症のため女性にターゲットを絞り、声をかける。
「あのー、突然すみません」
「はい。なんでしょうか?」
「私、最近学園で噂の影について調べているのですが、何か知りませんか?」
「ああ、あの影ね。私も噂で聞いたわよ。友達が目撃したって言ってたわ」
「え!?本当ですか?どんな姿でしたか?」
「えーと、確か‥‥小さいらしいわ」
「小さい?」
「そう。あとは、尻尾が四本も生えているとか‥‥」
「わー。貴重な情報をどうもありがとうございます」
「いえいえ。正体がわかったらぜひ教えてね」
●ヨグ=ニグラスの調査
何処に出るかわからない影に困惑しつつも、自分のペースで情報を集めるヨグ。廊下を当て所なく歩いていると、生徒会長の龍堂院 聖那が現れた。
「あー。生徒会長さんじゃないですか」
「ん?あなたは‥‥確かヨグさんでしたね」
「はい、お久しぶりです。そうだ、生徒会長さん。最近噂の影について知りませんか? ボクたち、今影の噂について調査しているんです」
「その噂なら生徒会でも何度か聞きましたわ。なんでも、翼が生えていてものすごい速さで移動するらしいですわよ」
「つ、翼ですか?」
「あとは‥‥そうですね。その影が現れるところでよく鈴の音が聞こえるという話も聞きましたね」
「それは有力な情報です!ありがとうございます!」
「いえいえ。お役に立てて光栄ですわ。それでは、私は仕事がありますので。これにて失礼いたしますわ」
「えと、ありがとうございましたー」
ヨグは何度も頭を下げながら聖那と別れた。早速、得た情報を仲間に伝える。
調査を進めようと歩き出すが、そこでヨグのお腹が大きな音を立てた。
「うー。お腹がすいたです。そういえば、この近くに調理室があったはず‥‥」
きょろきょろと辺りを見回すと、すぐ近くに調理室があった。しかも、中からはなんだかいい匂いが漂ってくる。
「わー、いい匂いがします。んと、失礼しまーす」
早速調理室に入ると、数人の女子生徒が料理をしていた。
「えと、何やってるんですか?」
「おせち料理を作っているの。お正月だし、学食でおせちパーティでもしようと思って」
エプロン姿の女子生徒が丁寧に答えた。
「そうですか!んと、ボクも料理していいですか?」
「いいわよ。一緒に作りましょう」
「わーい。でもボクはおせち料理が作れないんで、プリンを作ってみんなに配ります!」
●アルティ・ノールハイムの調査
「ふーん。小さくて、尻尾が四本で、翼が生えてて、鈴の音がする‥‥ねぇ。でもまだこれじゃよくわかんないな」
アルティは情報を整理しつつ、地下のKV・AUKVの整備場を目指していた。KV好きの彼にとって、カンパネラ学園のKV・AUKVの整備場はぜひ見学してみたい場所であった。「影の調査とはいえ‥‥楽しみだなぁ」
思わずにやけてしまうアルティ。エレベーターで地下に下りると、そこには広大な空間が広がり、目の前には多数のKVが並んでいた。
「すごい!見たことない機体だぞ!あ、あそこにあるのは最新鋭のAUKVじゃん!うわー、雑誌で見たやつもある‥‥」
などとひとしきり興奮していたのだが、
「はっ!こんなことばかりしてはいけない!ちゃんと影の調査をしないと」
ちゃんと現実に戻ったアルティ。整備士などから話を聞く。が、情報は得られない。目撃情報ばかりか噂を知らない人が大半であった。
「もしかして、ここには影は現れないのかもしれないな‥‥」
場所を移動し、今度は同じ階の実験施設へと足を運ぶ。年明けのこの期間でさえ、大勢の研究員が忙しく歩き回っていた。
「すみません。ちょっといいですか?」
アルティは大勢の研究員の中から、一人コーヒーを飲んで休んでいる研究員に声をかけた。
「何かね?」
「僕、最近学園で噂になっている影について調査しているんですけど、何か知りませんか?」
「なんだい、その影ってのは?」
「えーと、僕もまだ姿を把握しきれてないんですけど‥‥。とりあえず集まっている特長は、小さくて、尻尾が四本あって、翼が生えていて、現れるところの近くで鈴の音が‥‥」
と、そこまでアルティが言ったところで、研究員は飲んでいたコーヒーを吹きだした。
「わっ! どうしたんですか!?」
「げほっげほっ‥‥い、いや。なんでもない。なんでもないんだ」
コーヒーにむせる研究員。なんとかこぼれたコーヒーを拭き、続きを答える。
「ふぅ。すまないね。驚かせてしまって」
「い、いえ。それで、何か知っていますか?」
「知ってるといえば知っているんだが、もしかしたら違うかもしれないのでどうとも言えないとは言い切れないような‥‥」
「なんですか、それ?」
「えーっと、つまりだなぁ‥‥」
研究員は自分が知っている情報を話し始めた。
●大田原・ジョンソンの調査
ジョンソンは学園の見取り図を見ながら図書館を目指していた。
「とは言っても、影の正体にはあまり興味がないですね。しょせん噂ですし、怪我をしなければよしです」
と独り言を言いながら歩く。仲間には申し訳ないが、自分は安全第一でいかせてもらおうと思っていた。
図書館はジョンソンの予想していた以上に広い場所であった。
「司書さん、優しい人だったらいいなぁ〜。可愛い人だったらもっといいなぁ〜」
影の情報を集めるためにこの図書館を訪れたはずだが、ジョンソンの目的はもう別のものへと変わっているみたいだった。司書を探し、図書館の中をうろうろする。と、文庫本のコーナーに、大量の本を抱えた司書を発見した。長い黒髪をみつ編みでまとめ、顔には理知的な眼鏡を着けている。典型的な図書委員といった具合だが、そこには大人の魅力も携えていた。きりっと締まった表情だが、優しく丁寧に本を棚に戻している。
一瞬見とれてしまうジョンソンであった。
「あら。こんにちは。何か本をお探しですか?」
ジョンソンに気付いた司書が声をかける。ジョンソンは我に戻った。
「あの、ボクは本を探しているんじゃなくてですね、その」
「本をお探しじゃないの? それでしたら、なんの用かしら?」
「えーと、この学園で最近はやっている影の噂について、お話を聞かせてもらえればと思いまして」
「影の噂? 聞いたことありませんね。私、ずっとこの図書館にこもりきりですから、あまりそういう噂は聞かないんです」
「そ、そうなんですか」
「ええ。そういう噂に流されるよりも、ここで本を相手にしていた方がいくぶんかマシですわ」
「あはは。そうですね。ボクもそういう噂には興味が‥‥」
リン‥‥。
ジョンソンが言葉を発したとき、近くで鈴の音が聞こえた。その瞬間、ジョンソンと司書の足元にサッと何かが現れた。その何かの一部が司書の足首を撫でる。
「きゃっ!?」
司書は驚いて、思わず手にしていた本を投げてしまう。その投げた本は不運にもジョンソンの方へと飛んできた。
「わぁ!?」
「きゅぅぅ?!」
何かの叫び声と共に本がばさばさと音を立てて落ちる。
「す、すみません!」
司書が慌てて謝る。文庫本ばかりだったのでジョンソンに怪我はない。
「いえ。大丈夫ですよ」
そう言って床に落ちた本を拾おうとしたジョンソン。だが、本の下に何かが挟まっているのが見えた。それはまるでコウモリのような翼であった。
「え、これって‥‥」
そう言った瞬間、本を吹き飛ばして何かが飛び出していった。目にも止まらないスピードで動いたソレは、姿を見せず残像だけを残していくかのようだった。
「ジョンソン?どうした?!」
そこへ息を切らせた千草が現れた。本当に学園内を駆けずり回っていたようで、その額には汗がにじんでいる。
「千草さん!あいつが噂の影ですよ!」
「何?!どこ行った?」
「一瞬しか見えませんでしたけど、多分廊下の方へ!」
「よし!逃がさないわよ!」
千草はそう言うと、図書館を飛び出していった。ジョンソンもその後へと続く。
「あ!図書館内では静かに!」
残された司書はそう言いながら、床に散らばった本を拾い上げた。
●風間 千草の追跡
図書館を出た千草は、すぐさま影の行方を探した。すると、廊下の先に翼の生えた小動物のようなものが見えた。
「あれか!」
すぐさま全速力で駆け出し「スコール」を構える。走りながらペイント弾を装填するのだが、
「早っ!?何よあいつ」
装填時に目を離した隙に影は廊下を曲がってしまい、目視できなくなってしまった。銃を構えたまま、千草も影が曲がった廊下を曲がる。翼の生えた影はちらりと千草の方を見ると、開いていた窓から飛び出していってしまった。
「あ!ちくしょう!」
すぐさま無線機を取り出し、仲間に連絡をする。
「こちら風間千草!影の姿を見つけたんだけど外に逃げれらちゃった!誰か外にいない?」
●UNKNOWNの捕獲
UNKNOWNは屋上の給水塔の上にいた。風にコートを翻しながら校舎を見下ろし、学生を眩しそうに見る。眼下の学生はふざけながらも楽しそうにキャンパスを歩いている。
(「私も学生時代にもっと馬鹿をしておけばよかった‥‥かな」)
そんな思いにかられながらも、注意を怠ることはない。先ほどから入っている仲間からの情報に耳を傾けながら、学園を見渡す。
と、窓から何かが飛び出すのが見えた。同時に無線機から千草の声がする。
「こちら風間千草!影の姿を見つけたんだけど外に逃げれらちゃった!誰か外にいない?」
UNKNOWNは瞬時に噂の影だと判断。荒縄を給水塔にくくりつけ、屋上から飛び降りた。幾多の戦場を経験しているUNKNOWNにとってみれば容易いことであった。
影の飛び出した方向とタイミングを合わせ、アクション俳優のように飛んだ。
「ふぅ」
コートとマフラーをなびかせ、見事地面へと降り立った。その腕には翼の生えた生物がもがいている。
●影の正体
地面に降り立ったUNKNOWNの元へヨグ、円、千草、ジョンソンが集まってきた。
「さすがUNKNOWNさんですわ」
「すごいですね!」
「いや。千草が追い詰めてくれたからだよ」
UNKNOWNはずれた帽子を直しながらあくまでクールに答える。
「さてと、噂の影ってのはどんなやつなのかしらね」
千草は興味津々といった様子でUNKNOWNの腕でもがいている生物を見る。
「な、な、なにこれー!」
「えと、どうしたんですか千草さん?」
「きゃわいいいーーー!!」
思わずUNKNOWNから生物を奪い取り、ぎゅーっと抱きしめる。
「きゅう!きゅうー!」
千草の腕の中では、見たこともない生物が暴れていた。
コウモリのような漆黒の翼を生やしているのは、同じく漆黒の色をした猫のような生物であった。ちょうど子猫くらいの大きさで、愛くるしい瞳をしている。しかし、鳴き声はネズミのようである。首には鈴のついた首輪。そして、尻尾は何故か四本も生えており、それぞれが意志を持つように動いている。
「かわいいですわね。これが影の正体ですか?」
「おそらくそうだろう。目撃されている特徴も一致している」
「でも、どうしてこんな生物が学園に?」
「それは、この人が教えてくれますよ」
そこへ突如現れたのは、アルティとアルティが出会った研究員であった。
「あなたは?」
「私はシビリウス。ここの研究員だ。主に生物化学を担当している」
シビリウスは千草に近づくと、千草に抱えられている生物をそっと撫でた。
「こいつは私が研究用に飼っていた新種の動物さ。でも、この前研究室の大掃除をしているときに部下の研究員が誤って逃がしてしまってね。その部下に捕まえるように言っておいたんだが、まさか学園の噂の主になっていたとは」
「えと、じゃあ、お金がもらえるとか事故に遭うとかっていう噂は‥‥」
「それは根も葉も無い噂話だろう。こいつはすばしっこいから姿もろくに確認できない。だから変な噂が付いたんじゃないかな」
「なんだー。がっかりです」
シビリウスは残念がるヨグを見て、微笑を浮かべた。
「そんなわけだから、そいつを返してくれないかな?」
千草は愛くるしい動物を手放したくはなかったが、仕方なく持ち主に返した。
「ありがとう。さて、あとで部下のやつをこらしめてやらないとな」
そう言うと、シビリウスは研究室へと戻っていった。未練がましく影の主を見つめる千草。仲間の視線が突き刺さる。やっとその視線に気付いた千草は、取り繕うように、
「ふ、ふぅ〜ん。なるほど。こういうことだったわけね。め、迷惑な話ですわね」
と言ったそうな。
こうして学園を賑わした影の噂の正体が判明された。
●その後
「‥‥ということがあったのだ、よ」
ここは学食。UNKNOWNはお手製のSOBAを打ちながら、学生たちに影の正体を話している。周りでは先ほど調理室で作られていたおせち料理と、ヨグ特製のプリンが並べられていた。学生が主催したおせち料理パーティーにメンバーも参加させてもらっていた。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、みんな気持ちいい新年を迎えることができた。
だがその新年会でも‥‥
「ねぇ、知ってる? あの噂話のこと‥‥」
噂話は尽きぬようである。