●リプレイ本文
依頼を請けた傭兵たちは、北アフリカ戦線のとある駐屯地に到着した。
「通信がきたときは驚きました。まさかあの町にまだ生存者がいるなんて‥‥」
駐屯地の兵士は言う。しかもそれがただの一般人というからなおのこと驚きだった。
「助けに行こうとも思ったのですが‥‥あいにくこちらも人手不足でして。すみませんが、よろしくお願いします」
兵士が頭を下げる。
「了解です。拾える命は‥‥意地でも拾って帰りましょう!」
金城 エンタ(
ga4154)は力強く答えた。
「救助を求められたら助けに行くに決まってる。あたりまえだろ。それがどんな状況でもな」
翡焔・東雲(
gb2615)はぶっきらぼうに答える。だが、その心には『必ず助ける』という強い意志があった。
「しかし、通信機器が生きていたのは幸運でしたね〜」
八尾師 命(
gb9785)は見つかった兵士の幸運に感謝をした。が、その様子を聞くかぎりでは助けられるかどうか‥‥多少不安な気持ちもあった。
それぞれの傭兵たちが出発の準備を始める中、櫻小路・なでしこ(
ga3607)は現場の兵士に尋ねた。
「えと、現場周辺の地図とかはありませんか?それから、現場の情報とかも教えていただけるとありがたいのですが」
「はい。こちらが作戦で使用した地図のコピーになります。それから周辺の情報ですが‥‥戦闘時には多数のコブラ型キメラがいたそうです。戦闘で撃退をしたようですが‥‥まだ生き残りがいるかもしれません。注意してください」
兵士は地図を渡しながらそう言った。
「そうだ。担架とかを貸してもらえないか?救助者を運ぶのに必要だからな」
レベッカ・マーエン(
gb4204)が兵士に聞く。
「了解しました。すぐに手配します」
そう言うと、兵士は近くにいた救助班に声をかけに行った。その間、傭兵たちは救助の手順や目的地の場所を手早く確認した。
「ほな、助けに行こうかいな」
荒神 桜花(
gb6569)は熱射対策にヘルムに茶色の布を被せ、うなじを隠す様に日除け布を垂らし、顔面を日焼けしないように鬼のお面を被った。
「報酬分の仕事はきっちりとこなしていこう」
生きているのならできるだけ助けてやろう、と思いながら桂木 一馬(
gc1844)は言った。
「それじゃあ私たち先行班は現場に急ぎましょう」
風代 律子(
ga7966)は兵士のことを思いながらもクールに言い放つ。
「そうだな。よし、出発しよう。‥‥シクル、行こうか」
リヴァル・クロウ(
gb2337)が声をかけると、シクル(
gc1986)ははっと我に返る。
彼女は過去を見ていた。自分の目の前で傷付き倒れた友。なにも出来ない無力な自分‥‥。だんだんと友の姿が、まだ見ぬ兵士の姿と重なる。
焦燥と不安。
だが、仲間の声が現実に引き戻してくれた。
「‥‥そうだったな。私はもう独りじゃないんだ‥‥」
そう気持ちを持ち直した彼女の瞳には強い意思が戻っていた。
先行して町に入り、救助を行なうのはエンタ、律子、リヴァル、シクルの四人だ。
拠点から町へと全力で走る。体力に劣るシクルはスキル『迅雷』を使ってなんとか3人に追いつこうとする。
町の入り口までたどり着いたその時、律子が何かの気配を察知した。町と荒野の間に、何かがうごめくような音がする。
「‥‥来る」
律子がそう言うのと同時に、2体のコブラ型キメラが姿を現した。
「出たな」
リヴァルが武器を構えて臨戦態勢を取る。
「私たちが食い止めるから、あなたたちは救助者をお願い!」
律子がエンタとシクルに向かって鋭く言う。
「わ、分かりました!」
「気をつけて‥‥」
律子の指示に答え、2人は先に町の中へと入っていった。その様子を見届けつつ、律子は無線機を取り出す。
「こちら先行班。キメラと遭遇したのでエンタさんとシクルさんに先に救助に向かってもらいました。私とクロウ君でキメラを食い止めます」
後続班に連絡をし、すぐに臨戦態勢を取る。
「‥‥ここで足止めをされるわけにはいかない。素早く仕留めてしまおう」
そう言うと同時にリヴァルはスキル『紅蓮衝撃』と『急所突き』を使う。一気に攻撃力を上げ、素早い動作でキメラへと斬りこむ。
さらに律子もアーミーナイフで応戦する。
数回の斬撃で、リヴァルはキメラを真っ二つに切り裂いた。
「‥‥なんだ。大したことないな」
斬り捨てられたキメラを見て、律子は少し目を細めながら無線機で連絡をする。
「こちら律子。クロウ君のお陰でキメラを即時撃退できたわ。すぐに救助者の下へ向かうわね。‥‥よし、行きましょう」
律子はそういうと、スキル『瞬天速』を使って真っ先に町の中へと飛び出していった。リヴァルもすぐに走り出し、律子の跡を追う。
先に町の中に入ったエンタとシクルは、警戒を止めることなく素早く移動しつつ進んでいく。エンタは警戒のため、交差点を通過する際に『瞬天速』を使用して先行。危険を確かめつつ移動していった。
町の中心部に差し掛かったところ、
「おーい、こっちだー!」
男の声がした。声のするほうを見てみると、そこには大きな瓦礫とその前に立つガイツ・ランブルスタイン(gz0339)の姿があった。2人はすぐさま近付いていく。
「随分と早かったな。助かったよ‥‥あれ?2人だけか?」
「あとでたくさん来るよ。それよりも救助者は?」
シクルが瓦礫を見回すと、ガイツの足元辺りに人の顔が見えた。エンタも救助者に気付き、声をかける。
「僕たちは先行班です。全員の到着までもう少しかかります。その間に安全を確保してきます。シクル、お願いしますね」
「わかった」
エンタは一声かけると、周囲の安全を確保するため一度瓦礫の山から離れた。その間にシクルはスポーツドリンクを取り出す。
「さあ、これを飲んで」
「う‥‥俺は‥‥助かるのか?」
傷付いた兵士は呻き声を上げる。
「必ず‥‥助けます」
シクルの声には強い意思があった。兵士はその言葉を信じるように、ゆっくりと飲み物を飲む。
たっぷりと水分を補給させたところでエンタと、キメラを相手にしていた律子とリヴァルが戻ってきた。
「様態はどうだ?」
リヴァルは早速、ガイツに兵士の様子の確認を行った。
「‥‥決して良いとは言えないな」
ガイツは自分の無力さを噛み締める。兵士の目には先ほどよりも精気が戻ったようだが、それでもまだ予断は許さない。
「そうか‥‥」
リヴァルは焦らずに瓦礫全体の様子を確認した。かなり微妙なバランスで瓦礫の山が立っているようだ。
「よし。まずは邪魔になりそうなものから少しずつ撤去していくことにしよう」
リヴァルの指示の下、5人は細かい瓦礫から除去していった。そこへ、無線連絡が入る。
『こちら桂木だ。町に到着した。救助者の様子はどうだ?』
「あまり芳しくありません。すぐにこちらに来てください。場所は‥‥」
律子が無線で応答した。
砂漠の町の太陽が、容赦なく照りつける。
後続班が到着したところで、次は撤去班と警戒班に分かれた。警戒班のなでしこ、エンタ、一馬、シクルは瓦礫の山から少し離れたところで四方に散らばり、警戒を行なっている。
「ガイツ、オマエか‥‥今回は人命が係っているんだ、一般人だろうが依頼者だろうが出来る限りの事は手伝ってもらうぞ」
レベッカはガイツの姿を認めるとそう言った。
「ああ、俺の出来ることなら‥‥なんでもやるさ」
ガイツも力強く返事をする。
「うう、これはまた凄く大きい瓦礫ですね〜‥‥」
命は瓦礫を見上げながら観察を行なう。
「それで、瓦礫の様子はどうなんだ?」
「先ほど確認したのだが、かなり微妙なバランスみたいだ。無闇に動かすと危険だな」
リヴァルが瓦礫の様子を伝えた。
「補強が必要か?」
翡焔は簡易工具セットを取り出して言う。
「そうだな。翡焔、こことここを少し補強してみてくれ。他の人は周りにある細かい瓦礫を片付けよう」
他の者が作業している間、リヴァルと命、レベッカの3人で瓦礫の様子を詳細に調べ上げる。
「できたぞ」
「よし。それでは、この瓦礫をてこの原理で押し上げよう。そこで俺たちが瓦礫を支え、その隙に一気に引っ張り出そう」
「ガイツ、オマエが力点を動かすんだ。あたしたちが支えてる間に引っ張り出すのも手伝うんだぞ」
レベッカの指示に、ガイツは深く頷く。
「はい、ガイツさん。これを使ってくださいね」
律子がハルバードを手渡した。受け取ったガイツには、まるで兵士の命のように重かった。そのハルバードを兵士の横にセットする。
「そうだ、命。撤去するときに瓦礫の全体を見ておいてくれないか?崩落の危険があるかもしれないからな」
リヴァルが頼むと命は頷き、
「わかりました〜。それじゃあ私が合図を出しますね〜」
と言った。
「ここまで頑張ったんだ、あともうちょっと頑張ってくれ」
翡焔がぶっきらぼうながらも力強い口調で兵士を励ます。
「すぐに除けたるさかい、あんじょう待っときや」
桜花はにやりと笑いかけながら励ます。
「もう少しの辛抱よ。こんな美人達が貴方の為に汗を流しているんだから、諦めずに頑張って」
律子も声をかけて兵士を元気付ける。
「そう‥‥だな。まだ‥‥死ねないな」
兵士もまた、にやりと笑う。
準備は整った。
「タイミングを合わせて一気に上げよう」
「いきますよ〜。3、2、1‥‥ゼロっ!」
命の合図で、ガイツがハルバードを一気に下げる。てこの原理で瓦礫が少しだけ、浮いた。
そこへ傭兵たちが瓦礫を支える。兵士のやや上で瓦礫が固定される。
「今だ、ガイツ!引っ張り出すんだ!」
役目を終えたハルバードから手を離し、兵士の体を持って引っ張り出そうとする。しかし‥‥
「何かひっかかってる!」
ガイツの悲痛な叫びが響く。
「大丈夫ですか?!」
そこへ警戒班のエンタが駆けつけ、ガイツと2人で兵士を必死に引っ張り出す。2人の力でなんとか瓦礫から兵士を引っ張り出すことに成功した。
「あ!危ないです〜!」
瓦礫の様子を見ていた命が声を上げた。瓦礫の山のバランスが徐々に崩れていく。傭兵たちは急いで瓦礫の山から離れた。
傭兵たちは、とりあえず瓦礫から助け出せたことに安堵した。しかし、それほどゆっくりとしている暇はない。すぐさま次の行動に移った。
兵士の治療のため、なでしことレベッカ、命は兵士に駆け寄った。
その周りを警戒のためエンタと律子、リヴァルが固める。
一馬、桜花、翡焔、シクルはキメラの脅威を防ぐため周囲の見回りを行なう。
「ガイツ、あんたは大丈夫か?」
翡焔は見回りに行く前にガイツに一声かけた。
「あ、ああ。俺は大丈夫だ」
その言葉を聞き、翡焔は少し嬉しそうに、
「あんたみたいの、嫌いじゃないね」
と笑った。
「さて、後顧の憂いを絶ってくるか」
翡焔は武器を構えて出発した。他の傭兵たちも周辺へと散っていった。
「さあ、すぐに治療をしますよ。少しは楽になるはずですからね。頑張って」
なでしこは兵士に声をかけながら治療の準備を始める。
「ごめんなさい〜。今はこれで手一杯ですよ〜‥‥」
命はまず怪我を負っている部分を消毒しようと傷口にミネラルウォーターをかける。思わず兵士が呻く。
「命、目の前の成すべき事に集中なのダー」
レベッカは兵士を診察し、救急セットとエマージェンシーキットを用意する。まずは外傷の手当てを行なう。止血をしたあと、覚醒し『練成治療』を行なう。併せて、命も覚醒し『練成治療』を行なった。
3人が治療を続けている間、見回り班は町の中を歩きながらキメラの気配を探していた。
「砂と言うか、埃っぽい町やなぁ」
水分を少しずつ飲みながら警戒を行なう。
別の場所で一馬は『隠密潜行』を使い、隠れながら移動していった。
「ん‥‥?」
妙な気配に気付き、物陰から町の外を窺う。するとそこにはコブラ型のキメラが4体、砂に体を這わせて移動しているのが見えた。
「こちら桂木。キメラを4体発見した。場所は町の入り口付近だ。先に戦闘を開始するが、援護を頼む」
短く用件だけ伝えると、銃に『貫通弾』を込め、さらにスキル『鋭覚狙撃』を使い、狙いを定める。
砂漠の町に、妙に小気味のいい音が響き渡った。
一撃で仕留めようと試みたのだが、まだキメラは生きているようだ。攻撃に気付いたキメラが一馬の方に向かってくる。まだ距離があるため、一馬は続けて銃を撃ち続ける。
そこへ無線連絡を受けてやってきた翡焔、桜花、シクルが駆けつけ、戦闘に加わる。
「キメラがなんぼのもんじゃい、いわしたるわい」
桜花は合流するなりそう言うと覚醒し、『両断剣』でキメラを切りつけて手傷を負わせる。相手が怯んだところで敵側面に回りこみ『流し斬り』で斬りつけた。
翡焔はスキル『紅蓮衝撃』と『急所突き』を使い、短期戦を狙って一気にキメラに攻撃を加える。
シクルもヒットアンドアウェイで細かく動きながらキメラにダメージを与えていく。
敵を全滅させるのに、それほどの時間はかからなかった。
見回り班が戦闘から戻ってきたところで、ちょうど応急処置も終わるところであった。傷付いた兵士を先ほど借りた担架に乗せて、傭兵たちは警戒を怠らずに町を後にした。
駐屯地へと戻った傭兵たちはすぐに兵士を医療テントへと運んだ。レベッカは輸送艇への搬送要請と、兵士の置かれていた状況や応急処置の内容を伝えた。
「わかりました。至急病院に搬送できるようにしましょう」
「あと‥‥これを」
なでしことエンタはタグやペンダント、時計などを取り出した。どれも砂にまみれている。
「瓦礫の下の‥‥遺体とともにあったものです。なるべく個人がわかるものを持ってきたつもりです。これを出来れば遺族の方々に‥‥」
「ありがとう‥‥ございます。必ず、届けます」
駐屯地の兵士は仲間の痕跡を、大事そうに受け取った。
「任務完了だ。彼ら2人はこのまま最寄りの医療施設まで護送する」
リヴァルは輸送艇の到着を待ち、ガイツと兵士を送り届けるようだ。確かに、ガイツも今回はかなり疲労したようで、兵士と同じく医療テントで休ませてもらっている。
「よかった‥‥」
シクルは兵士がもう大丈夫とわかると思わず呟いた。
「あの時とは違う‥‥今の私には助け合える仲間がいるんだ‥‥」
雪月花を手に持ち、空を見上げた。そこへ丁度、UPCの輸送艇がやってきた。
「ガイツさん!」
エンタは輸送艇に乗り込もうとするガイツに声をかけた。
「僕たちは、実際の脅威と‥‥。貴方は、挫けそうになる人々の心と‥‥。戦う相手は違いますが、僕たちは戦友、ですよね?」
エンタの言葉にガイツは強い笑みを浮かべた。
「そうだな。一般人の俺でも、やれることはある。場所は違っても、やれることは違っても、共に戦っていることには違いない‥‥な」
エンタは満足そうに手を出した。
一般人と兵士は、強い握手を交わした。