●リプレイ本文
「よぉ〜!あんたらが傭兵さんか!助かったよ!」
高速艇で現場へと急行した傭兵たちはまず、依頼人のトムを訪ねた。傭兵たちを見ると安心したように顔を緩ませる。
「せっかくライブハウスがオープンするってのに潰させるわけにはいかないからね」
Clis(
gc3913)は自分の過去を思い出し、決意を固める。
「ライブハウスねェ。いいねェいいねェ。いい酒が呑めそうだ――っとくらァな」
シャラク(
gc2570)はこれから始まるであろうライブと旨い酒を想像し、もういい気分になっていた。
「ライブ、盛り上げたいですね」
有村隼人(
gc1736)も前回聞いたジュリアのピアノがもう一度聴けると思うと胸が高鳴るようだ。
「しかし、ゾンビキメラですか。匂いがつきそうでいやですねぇ」
今回の敵のことを考え、水無月 春奈(
gb4000)は少し嫌な顔をした。
「夏の風物詩と言うには少々、っていうかかなり血生臭い相手ですね」
ノルディア・ヒンメル(
gb4110)も同意する。
「とはいえ、人を脅かすものである以上、見過ごすわけにはいかないですね」
と春奈は思い直し、気を引き締める。
「ゾンビ型キメラか‥‥へっ、B級好きの血が騒ぐぜ」
巳沢 涼(
gc3648)はまるで映画のようなシュチュエーションのこの依頼に興奮気味だ。
「街のファッキンゾンビをぶち殺し、イカしたライブを成功させるぜ!‥‥ですね」
功刀探偵倶楽部の初めての依頼人である涼の言葉を聞き、功刀 元(
gc2818)もノリを合わせる。
「さて‥‥仕事の開始、だな」
勅使河原 沙羅(
gc3653)は目を細め、鋭く街の奥を睨んだ。
敵は、そこにいる。
●Battle
「運転荒いぞ。覚悟はいいか?絶対に吐くなよ」
魔津度 狂津輝(
gc0914)は同乗者のClisに念を押す。
「オッケー!いっちゃって!」
Clisの快い答えに、狂津輝は遠慮なくフルスロットルで走り出した。
今回の作戦は2つのチームに分かれてバイクで索敵。見つけ次第殲滅という形である。
α班は狂津輝、Clisペアと鷹代アヤ(
gb3437)、ノルディアのペアだ。
「ジュリアさん、敵の様子はどう?」
アヤは無線機にヘッドセットマイクをつなぎ、ビルの上で索敵を行なっているジュリアに通信を行なう。
『そうね‥‥アヤさんたちの前方にある交差点を右に曲がったところにゾンビ3体とゾンビ犬が1体いるわ。気を付けて』
「魔津度さん、右よ」
「オッケェェーイ!」
Clisの指示を受けた狂津輝は、しかしスピードを落とさずそのままノーブレーキでカーブを曲がる。
続いてノルディアも、こちらは慎重にカーブを曲がる。すると前方に、獲物を探して動く醜悪な姿‥‥ゾンビの姿が現れた。
狂津輝はゾンビの姿を確認すると今度は急ブレーキをかけて急停車。敵との距離を測る。その後、Clisを降ろして自分はAU−KVを装着した。
ノルディアもアヤをAU−KVから降ろし、愛機ヴァイスローゼを装着する。
AU−KVの音と人間の気配に気付き、ゾンビたちは傭兵を食べ物とみなして襲い掛かってきた。
まずはゾンビ犬が肉を撒き散らして走ってくる。
「きやがったわね‥‥みんな、頼んだわよ!」
Clisは味方に『練成強化』をかけ、支援を開始する。
アヤは支援を受けた後、二刀小太刀を構えてゾンビ犬に斬りかかる。ゾンビ犬が反撃をしようとしたところで『瞬天速』を使い、一気に間合いを離す。
そこで2人のドラグーンが同時に攻撃を放つ。ノルディアは素早いゾンビ犬を警戒し『竜の瞳』を使って確実に槍を当てる。
狂津輝も『竜の瞳』『竜の爪』で自身の能力を向上させ、血走った目と狂気の顔で叫ぶ。
「墓穴から這い上がりしモノよ!墓穴に返れ!エィィィメン!」
ゾンビ犬を叩き潰したあと、近付いてきたゾンビにも同様の攻撃を加える。
ノルディアは近付いてきたゾンビに対して刺突と薙ぎ払いながら、
「やっぱりこういう相手の場合、首を落とすのが基本かな‥‥」
と呟き、首への攻撃を加える。
嫌な音が響く。
首が落ち、ゾンビは動かなくなった。
手早く敵を倒したのだが、そこでジュリアから通信が入る。
『皆さん。もう1つのチームに敵が集中しているみたいです。そちらへの支援もお願いします。遊撃の春奈さんとシャラクさんもそちらへ向かってください。場所は‥‥』
ジュリアから通信が入る少し前。
β班の隼人、元ペアと沙羅、涼ペアもα班と同様に索敵を開始した。
「ほんじゃま、ゾンビハントと洒落込むか。沙羅さん、しっかり掴まっといてくれ」
「‥‥わかった」
涼はAU−KVを走らせ、獲物の姿を探す。そこに元の走らせるAU−KVも続いていく。
「‥‥!敵、捕捉しました」
班の連絡係の隼人はジュリアに短く伝える。4人の前方にはゾンビキメラが3体、のっそりと獲物を探している。
「よし。それじゃあ早速やりますか」
元がAU−KVを装着しようとしたところで、涼がそれを止める。
「待った。ここですぐにやるよりも、狭い路地に誘導させた方がいい」
元はその指示を受け、少しスピードを緩めながら狭めの路地を目指した。涼は軽い射撃をゾンビに与え、ゾンビの注意を引く。攻撃は当たらなかったものの、ゾンビは狙い通りこちらに寄ってきた。
細い路地に入ったところで、元は同乗者を降ろしてからAU−KVを装着して戦いに備え、涼は道に対して横になるようにバハムートを止める。バハムートの車体を盾にして迎撃する作戦だ。
「ドキュメンタリー風ゾンビ映画、撮りたかったなぁ」
銃を構えつつ元に話しかける。
「この陳腐な光景をビデオに撮れたら、そこいらのB級ホラーに勝てそうですねー。機材が無いのが残念ですー」
元の同意見のようだ。細い路地でゾンビを迎え撃つなんて‥‥まさにB級映画の展開である。
ゾンビが細い路地を曲がって入ってきた。
「見敵必殺‥‥実行です」
隼人はそう言うと覚醒し、キメラを無言で見つめる。
「鉛弾のセッションといくか。ロックンロール!イェアー!!」
涼はそう叫ぶと、ウィンチェスターを連射する。元も「ロックンロール」の掛け声に合わせて『竜の鱗』『竜の瞳』を使ってガトリングを発砲していく。
「状況、キメラ確認‥‥排除する‥‥」
沙羅も同様にガトリングで撃ち、雨あられの銃弾を浴びせかける。だが、ゾンビは死肉を撒き散らしながら少しずつ近付いてくる。
ガトリングの弾を全て撃ち終えてリロードをする間、隼人は弾幕が薄くなったときを狙ってゾンビに近付いた。
(全力です‥‥!)
口に出さず無言で『両断剣』と『流し斬り』を使って、ゾンビを今度こそ動けなくする。
隼人がゾンビを葬ったところで、4人は違和感に気付いた。
死臭が‥‥強くなっている?
周囲を確認すると、戦闘音を聞きつけて本能のままにゾンビキメラとゾンビ犬キメラが集まってきていた。その数‥‥全部で8体。
「おいおい‥‥こいつはまるで、映画みてーなピンチじゃないか?」
「マジで撮っておけばよかったかもですねー」
涼と元は銃を構えながら、少しだけ汗をたらす。
妙な呻き声を上げながらゾンビたちが近付いてきた、まさにその時。ゾンビの呻き声とは違う、強烈な唸り声が響いてくる。
群青色のAU−KVが飛び込んできた。キメラを発見した瞬間、AU−KVの背からシャラクが飛び降り、そのままの勢いでゾンビを殴りつける。
「ゾンビ、ねぇ。ま、ブン殴れるモンならなんの問題もねェやなァ」
さらに春奈のAU−KVによる突進でゾンビたちを吹き飛ばし、路上に駐車してあった車を利用してジャンプ。空中でAU−KVを装着してそのまま剣を敵に振り下ろす。
「‥‥さて、まだ出番は残っているかしら?」
そう言って、AU−KVの中から加勢してきたゾンビたちを睨みつける春奈。
ゾンビたちはただ、新鮮な肉を求めて再び襲い掛かってきた。傭兵たちもそれに応戦する。
「不浄なるものよ、人に災いをなすことなく土に帰りなさい」
春奈は噛み付いてきたゾンビ犬の攻撃を半歩ずらして避け、そのまま胴体を剣で貫いた。
AU−KVから飛び降りたため、ただ1人味方と離れた場所にいるシャラクは格好の獲物だった。ゾンビに囲まれそうになったシャラクは、自分の前方にズブロフをばら撒き、ジッポライターで発火を試みる。
「んがァ!? あちッ、あちちッ! やりすぎちまったかァ!?」
予想外の火の手に焦るシャラクであったが、ゾンビたちはそのまま炎に包まれて次第に動きを止めていく。
ゾンビ共の数が半分まで減ったところで、連絡を受けてきたノルディア、アヤ、狂津輝、Clisのα班も合流し、すぐさま協力してゾンビを撃退していく。
「これで、全部ですか‥‥」
隼人は眼前に広がったゾンビキメラ共の屍体を見つめ、呟いた。多少の怪我はあるものの、皆無事にキメラを撃退することが出来た。
これからは、生者たちの時間だ。
●Live
ゾンビキメラを全て殲滅したことを伝えると、トムは傭兵たちに感嘆の言葉を送った。
「よーし!今日のライブは最高にイカしたもんにするぜ!」
トムは大急ぎで機材の搬入と設置が始めた。
「どれ、俺も手伝うとしようか」
狂津輝は腕まくりをしながらトラックに向かい、率先して重い機材をライブハウスに運んでいった。
「あたしもやるよ。多少のことはわかるはずだからね」
Clisも自分の経験を活かして機材を設置していく。
「さて。あたしたちは打ち合わせしよっか。こんな頑張ってくれてるんだもん。いいライブにしなきゃね」
そう言うとアヤはメンバーを集め、入念なに打ち合わせを始めた。
「皆さんの演奏、期待しています」
ライブをするメンバーに声をかけ、隼人もライブハウスへと向かっていった。
そして夜。
本日開店のライブハウスの中は喧騒で満ちていた。
すでにステージに上がっているバンドはそれぞれ、気合いの入った演奏をしている。
「未成年なのでオレンジジュースをお願いします」
隼人はバーカウンターで飲み物を頼み、すでに熱気を発しているライブハウスで美味しそうにジュースを飲む。その横では、シャラクが日本酒を片手にライブを楽しんでいた。狂津輝、Clisもそれぞれライブを聴いている。
「このライブもそろそろ大詰めだ!」
ライブハウスの主にしていつの間にかMCまで務めているトムの声が響いてきた。
「トリを飾ってくれるのは‥‥この人たちがいなければオレたちはこの瞬間を迎えることは出来なかった‥‥この瞬間の恩人、傭兵さんたちによるスペシャルバンドだ!!」
トムのMCと観客の歓声と共に総勢7人のバンドが姿を現した。
「みんな、今日はありがとう!あたしたちも新しいライブハウスの誕生に立ち会えて嬉しいよ!」
ギターボーカルのアヤがマイクの前に立ち、挨拶をする。それだけで観客は大いに盛り上がってきた。
「それじゃあ聴いていってください。新しい始まりと共に‥‥『start』」
ドラムのカウントとともに音が重なり合い、始まり合うロックナンバー。
紅き月が 天上に在り
地の下には 眷属が跋扈
混沌とした この世界で
我らは 歩み始める
何を求め ――この世に安らぎを
何処へ向かう ――煌く未来へと
――アヤの歌声が一際強くなり、曲の一番の盛り上がりが現れる。
嗚呼、彼の道程(みちのり)は茨に囲われ
悪意が暗闇から 汝を引き込まん
彼の時 我らは現れん
矛と成り灯火と成り 我らは現れん
――歌い終え、曲が間奏に入ったところでアヤが観客に向かって言う。
「ここでメンバー紹介よ!まずはリードギター!TUKASA!」
TUKASA――元は自分の名前が叫ばれたと同時に鋭い速弾きのソロで紹介に応える。
「次はベース!春奈!」
ベースで呼応しながら客席ギリギリまで進み、キメのフレーズの後に投げキッスをした。客席から歓声が上がる。
「‥‥あんな感じでよかったのかしら‥‥?」
ちょっと照れながらステージに戻って言うと、アヤはウインクでそれに答えた。
「お次はキーボード!ジュリア!」
ジュリアはロックに合うオルガンに音を変え、力強いテンポでしっかり主張するようなソロフレーズを展開する。
「ドラムス!沙羅!」
沙羅は表情を変えず、淡々と正確に精密に、技術の光るソロを叩いた。
「ヴァイオリン!ノル!」
優雅なヴァイオリンの音色を響かせつつも、ロックなフレーズを高らかに響かせるノルディア。
「ブルースハープ!涼!」
ハープ独特の音色と、曲調に合わせたフレーズをしっかりと吹き鳴らす涼。
「そしてボーカル&ギターはあたし、アヤでした!みんなありがとー!」
沙羅が間奏を終えるフィルを叩くと、最後の盛り上がりを見せるボーカルが響き渡る。
嗚呼、彼の道程(みちのり)は茨に囲われ
悪意が暗闇から 汝を引き込まん
彼の時 我らは現れん
矛と成り灯火と成り 我らは現れん
7人の音色が溶け合い、終演を迎えた。惜しみない拍手と歓声が上がり、この日1番の盛り上がりを見せた傭兵バンドの出番は終わった。
「いいライブでしたね‥‥楽器の練習、しようかな‥‥」
隼人は素直な感想とともに、少し羨ましそうな目でステージのメンバーを見つめた。
「‥‥酒も旨ェし、煙草も旨ェ。演奏も洒落てると来たもんだ。命張るにゃァこうでなきゃなァ」
すっかり酒が回り、演奏も堪能したシャラクは満足そうに笑顔で言う。Clisも演奏を聴いて満足したように拍手を送っていた。
「どうだい?俺のダンスはイケテルかい!?ヒャッハー!!」
演奏中に観客からダンスを誘われた狂津輝はまだまだ興奮冷めやらぬ観客とともにモンキーダンスを踊っていた。
「お疲れさん。良かったら一杯どうだい?」
ライブが全て終わってもまだ帰ろうとしない客たちの中に、1人煙草を楽しんでいる沙羅を見つけ、涼は声をかけた。
「‥‥いただくよ」
誘いを快くうけ、2人でポツリポツリと酒を飲みながら話し始めた。するとそこへ‥‥「う〜い!おふたりさんよォ〜。おォ、皆も聞いてくれや!これも何かの縁だ!依頼もライブもうまくいったことだしさァ、打ち上げしようぜェ!打ち上げ!」
すっかり酒の回ったシャラクが大声で今日一緒に戦った仲間たちを誘う声が聞こえてきた。
「おぉ!いいじゃねぇか!打ち上げだ打ち上げ!」
そこにノッたのはもちろん、トムである。今回の大成功で酒を飲まなくてはいつ飲むんだといわんばかりだ。すっかりシャラクと意気投合しているところへ、涼が声をかける。
「そうだ、トムさん」
「ん?どうした?」
「さっき楽屋で俺らのバンドの写真を撮ったんだ。よかったらこの店のどっかに飾っておいてくれないか?」
トムは目を輝かせながら、
「もちろんだ!なにせこの店の恩人だからな!一番いいところに飾っとくぜ!」
と了承した。すぐ近くではシャラクの「酒だ〜!」という声が聞こえてくる。
喧騒は終わらない。
生者の夜はまだまだ続きそうだ。
<了>