タイトル:【DAEB】一般人と村人マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/01 14:02

●オープニング本文


「ん?なんだ?騒がしいな‥‥」
 ここは中国は北京周辺の小さな村。世界を旅する冒険者のガイツ・ランブルスタインは小屋の周りがうるさいのに気付き。眠い目をこすりながら外に出た。
 この小屋は一週間前、村人が貸し与えてくれたものだった。今回は中国を旅しようと思いつき、また無計画で大陸を歩いた。無計画なものだから泊まる宿など決めているわけもなく、雨にさらされた時はさすがのガイツでも焦りを隠せなかった。しかももう太陽も傾きかけ、周りには何もない。そんなときに、この村を見つけたのだ。
 突然駆け込んできたよそ者に、村の人々はほとんど警戒することもなかった。それ以来、ガイツは一週間ほどこの村で農作業などを手伝いながら周囲の散策に繰り出していた。じっくりと一つの場所に留まりながら、周囲のゆっくりと旅をする。それもまた、乙なものであった。
 ガイツが外の様子を見てみると、村人たちが何やら騒いでいるらしい。村人の視線の先には、物々しい武装をした人たちが立っていた。ガイツはその武装に‥‥嫌になるほど見覚えがあった。
「どうしたんだ?」
「あ!もしかしてここの住民の方ですか?助かった〜」
 UPC軍の兵士はほっとした表情を浮かべる。
「いや、俺はここの住人じゃない。ここで少しお世話になっているだけなんだが‥‥そんなことより、何かあったのか?」
「ああ、そうでしたか。でも、一般の方には変わりませんね。実は、これからこの周辺で対バクアの大規模作戦が開始されます。そこで我々は周囲の方々に避難要請をしていたのですが‥‥」
 そこまで言ったところで、兵士同士は顔を見合わせる。ガイツには兵士が困っている様子に心当たりがあった。
「言葉が通じないんだろう?」
「そうなんです。もちろん中国語を話すことは出来るのですが‥‥ここは特に方言が強いみたいで、うまく伝わらないんです」
 国土の広い中国では、同じ言葉を喋っていてもその土地によってかなり言葉が違ってくる。特にこのような田舎の村では、独自に発達した言語を使用している民族が数多くいるという。この村もそういった言語を使っているようだ。ガイツも村に着いたときは言葉が全くと言っていいほど通じなかった。
「どれ、俺がなんとか伝えてみよう」
 ガイツは身振り手振りと滞在中にすこし学んだこの村の言葉を使って、なんとか状況の説明をした。村人たちはなんとか理解してくれたらしく、今度は不安そうな表情を浮かべた。
「助かります。それではこれから我々が誘導しますが‥‥その、あなたも手伝ってくれませんか?どうやらこの村人とうまくコミュニケーションを取れるのは、あなただけのようだ」
 兵士の願いに、ガイツは快く頷いた。
「わかった。最低限の準備を進めるように村人たちに伝えよう」
「お願いします」
 兵士は頭を下げた。ガイツは戦争に怯える村人と着々と避難の準備を進める兵士の様子を見て、
「また戦争か‥‥」
 と呟いた。

●参加者一覧

御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
9A(gb9900
30歳・♀・FC
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
魔津度 狂津輝(gc0914
28歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
海原環(gc3865
25歳・♀・JG
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP

●リプレイ本文

●出発
「ニーメンハオ!我叫海原環」
 言葉が通じようが通じまいが、海原環(gc3865)は元気一杯に村人たちに自己紹介と挨拶をした。
「ガイツさん、お久しぶりです。あの雪山以来ですね」
 沖田 護(gc0208)は旧知のガイツ・ランブルスタインに声をかける。
「お、君は‥‥久しぶりだな。随分とたくましくなったみたいじゃないか」
 ガイツは冬のあの日から成長を遂げた護の顔を見て、微笑を浮かべた。
「はい。あれから、ぼくも氷原や砂漠に行きました。恐ろしい敵や大切な友達と出会って、 良い事も、そうでない事も、たくさんありましたから」
 新米だったあの頃とは違う、精悍な顔つきをガイツに見せる。
「ガイツさん、お久しぶりです」
 環もガイツに挨拶を交わす。
「君も沖縄で世話になったね。今回もよろしく頼むよ」
 ガイツは軽く頭を下げた。
「何としても全員無事に避難したいですね〜‥‥」
 八尾師 命(gb9785)は避難民たちを見て心配そうな声を上げる。
「ふむ、我は少々無力です。ですが、無力なりに出来るだけのことをさせて頂きますよ」
 ネイ・ジュピター(gc4209)は謙遜しながらもガイツにしっかりとした意思を伝えた。
「さて、早速作戦を立てましょう。まずは隊列だけど‥‥」
 神楽 菖蒲(gb8448)は傭兵たちとガイツを集め、作戦を立て始める。
 作戦の打ち合わせが終わり、行動を開始しようとしたところで御沙霧 茉静(gb4448)がガイツに近付き、言う。
「ガイツさん‥‥これだけは伝えて欲しい。『心配しないで‥‥。貴方達は命に代えても私達が必ず守る』と」
「わかった。伝えよう」
「僕も伝えたいことがあります」
 護はガイツと共に村人たちの前に出て、自分の言葉とガイツの通訳を頼りに懸命に伝える。
「ぼくら は あなた たち を かならず たすけ ます」
 心のこもった言葉は言語を超える。
 村人たちは少し安心した表情へと変わり、ガイツの指示で村人たちは進み始めた。

●中華山林
「こう言ってはあれですけど、羊飼いになった気分ですね〜」
 命は村人たちの中心で呟く。その隣にいたネイは子供の手をとりながらにこにこと笑っていた。
 菖蒲の提案で、村人たちは家族単位、近所単位で傍に固められていた。さらに輪の内側から老人、子供、女、若者となるように並んでもらい、その周りを傭兵たちが固めていた。
 中心に位置した命とネイは、村人が混乱したときの収束担当だ。
 隊列の側面を守るのは茉静と9A(gb9900)だ。茉静は心配そうにしている村人に向けて、ややぎこちなくはあったが、優しい表情で力強く頷いた。さらに、子供たちには微笑みながら『ヴェレッタ・オリムのフィギュア』と『ミハイル・ツァイコフのフィギュア』を与えた。子供たちに、束の間の笑顔が咲く。
「嵐の前とは言え、こちらの都合で『出て行け』は‥‥辛いね」
 9Aにはひとかたまりになって避難する村人たちが、昔所属していた劇団のメンバーと重なった。今回は昔と違い‥‥この人たちに指一本触れさせてやるわけにはいかない。
 隊列の前方を守るのは菖蒲と環。
「皆さん名前を呼ばれたら大きく『ダオ!』と返事してください。全員居ますかー?」
環はなるべく村人と話して励まそうと、ガイツと協力して話しかけ続けていた。
 菖蒲は武器を納めたまま、まるで『そんなもの必要ない』とばかりに余裕の表情で隊列の外周と前半分を往復していた。その余裕を持った表情に、村の女性たちは任せても大丈夫そうだと安心する。
 隊列の最後尾を守るのは犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)だ。
(村人と一緒に下山‥‥これは、そう、ピクニックやん!?)
 などと考えていたのだが、列から離れそうになった子供を見るとブブゼラを軽く吹いて声をかける。
「あーあかんて、勝手なことしたら、もー」
 しかし、上手く言葉が通じないので子供は首を傾げるだけだ。
「しゃあないなー。ちょっとネイー。この子のこと頼むわー」
「わかった。ほら、こっちに来なさい」
 ネイに連れられたことを確認すると、犬彦は最後尾に戻って護衛を続ける。
「皆さん。少し休みましょう」
 隊列の少し前を先行していた護は、少し開けている場所で安全を確認すると、そう提案した。村人の疲労を最小限にするため、なるべく休憩は多くとっておきたいという配慮だろう。
 体力のあるはずの村人たちも、この異様な緊張感に晒されていつも以上に疲労していた。疲れている人たちに対し、茉静は『ミネラルウォーター』を、菖蒲は『ぶどうジュース』『りんごジュース』それと『板チョコ』を分け与えていく。 
「‥‥‥」
 村人は手を合わせながら何かを言った。ガイツが村人の感謝の言葉を通訳して2人に伝えた。
 犬彦は村人の様子を見守りつつ、無線機を取り出した。
「あーあー、先行班のお2人さん。そっちの調子はどうだい?」

 村人たちと傭兵の一団から離れ、先に避難ルートの確保と索敵を行なっている2人がいた。
「今のところ異常なしだよ」
『了解。こっちはもうちょい休憩したら出発するわー。ほな、引き続きよろしゅう頼むわ』
 吹雪 蒼牙(gc0781)は通信を切り、AU−KVにまたがる。
「さて。良いルートを確保しないとですね、魔津度さん」
「ああ。しかし‥‥双眼鏡から眺める景色は宜しかねぇ」
 魔津度 狂津輝(gc0914)は双眼鏡を目から離しながら退屈そうに言った。
 2人はAU−KVのエンジンを入れ、索敵を開始する。
 が、予想以上に起伏の激しい山道に苦戦する2人。バイクに乗りながらでは中々思うように進むことができない。
 途中で何度か立ち止まりながら、双眼鏡でキメラを捜す。
「‥‥ん?」
 すると蒼牙が何かに気付いた。双眼鏡で確認すると大きな虎型のキメラが2体、林の中をうろついている。蒼牙はすかさず呼笛を鳴らした。それが仲間たちへの合図となっていた。
「こちら吹雪。キメラを発見した。2体いるので、魔津度さん応援頼むよ」
 さらに無線機で仲間に連絡をする。が、キメラも音に気付いたようだ。蒼牙の方へ向くと、巨体を動かしながら近付いてくる。
「はっ!獣ふぜいが俺たちの邪魔をすんなよ」
 覚醒した蒼牙は荒々しい口調と共にAU−KVを身に纏い、武器を構える。
 虎キメラが襲い掛かってきた。まずはスキル『竜の鱗』を使って自身の防御力を上げて敵に挑む。敵の攻撃が止んだところで、ツヴァイハンダーで斬り、さらにスキル『竜の咆哮』で敵を吹き飛ばした。
 もう1匹の虎キメラが襲いかかろうとしたところで、狂津輝がAU−KVを身に纏って現れた。先ほどの連絡を聞いて駆けつけたのだろう。掛矢を持ち、スキル『竜の瞳』を使って敵に挑む。
「内蔵破裂させてから置物用に加工してやるぜぇ、ヒャッハー!」
 吹き飛ばされてバランスを崩している虎キメラに対し、掛矢を振りかぶる。キメラに命中すると同時に『竜の咆哮』を使い、また虎キメラは吹き飛ばされた。さらに攻撃を加えようと、ドラグーンの2人は徐々に距離を詰めていった。

 2体の虎キメラを倒したところで、犬彦から無線連絡が入ってきた。
『メーデーメーデー。こちら複数のキメラと交戦中。援軍を頼む』
「了解。すぐに向かいます」
「やれやれ。手土産に猛獣キメラの剥製と床に飾る皮状をと思ったが、そんな余裕もなさそうだな」
 連絡を受けた2人はすぐさま避難民たちのもとへ向かった。

 本隊は4体の虎キメラに囲まれていた。すでに傭兵たちは臨戦態勢を取っている。
「大丈夫ですよ〜!全員助かりますから〜!‥‥通じてるかな〜?」
 命はオーバーリアクション気味に身振り手振りでなんとか伝えようとする。ガイツは即座に翻訳し、村人たちに伝えた。ネイも笑顔を崩さないように住民たちに接し、パニックが起こらないように努める。
「大丈夫だ。我らを信じてくれ」
 と声をかける。それでも不安そうな村人たちに茉静は、
(信じて‥‥)
 と言う思いを込め、頷いてから敵に対峙する。
 菖蒲は落ち着き払った態度で優々と覚醒し、武器を構えていった。
「ふっ、ディフェンスに定評のある犬彦さんをなめてもらっちゃ困りまっせ!」
 後方では犬彦が気合を入れる。
 虎キメラは四方からじりじりと近付いてきた。まずは前方の2体に向け、環が弾幕を張る。虎キメラたちが怯んだところで菖蒲と護が対応していく。
「竜の堅さを甘く見るな」
 護は敵の攻撃を受けつつ攻撃をしていった。
 側面の9Aと茉静はそれぞれ敵たちに対処していった。茉静は虎キメラに対し、密着状態を取る。敵に接近したところでスキル『刹那』を使い、眼にも止まらぬ攻撃をしかける。しかし、わざと急所を外して無力化に努めた。
 覚醒によって髪の毛を灰色に変化させた9Aは近付いてくるキメラに対して、接近戦よりも距離が稼げる『エアスマッシュ』で応戦していく。
「フッ飛べェェェッ!」
 衝撃波が虎キメラを襲い、じりじりと近付いてきた虎キメラは吹き飛ばされる。そこへ、犬彦の援護射撃が虎キメラに当たる。
「遠くのもんを狙うのは得意やないんやけどなぁ」
 傭兵たちの攻撃を受けていた虎キメラたちであったが、傭兵たちの後ろにいるか弱い村人たち‥‥獲物を見つけると、そちらに標的を変えようとした。
 その気配を敏感に察知した菖蒲は、自分を振り切ろうとするキメラに向かって『流し斬り』で無理矢理キメラの前に回りこみ、『紅蓮衝撃』で叩き伏せる。
 護は自分の脇を抜けようとする虎キメラに対し『竜の翼』で突進。その勢いのまま剣を構えて虎キメラを刺し貫く。虎キメラは衝撃に襲われ、動きを止める。そして剣を抜き、とどめを刺す。
「ごめんよ」
 串刺しにされたキメラの死体を見て、相手がキメラなのにも関わらず自然と声を上げてしまっていた。
 9Aの攻撃を受けていた虎キメラは村人に襲いかかろうとしたところで、9Aのスキル『迅雷』によって瞬間的に目の前に現れた9Aに攻撃を阻まれる。
 茉静の相手の虎キメラも村人たちに襲い掛かろうとしていた。村人に大きな爪が迫った瞬間、犬彦はスキル『ボディーガード』で村人をかばう。
「村人には指一本、いや、爪の先っちょも触れさせないで!」
 犬彦が村人を守ったところで茉静が改めて近付き、キメラを斬る。キメラは再起不能になったが、まだ動けるようだ。茉静はそこで刀を納めた。もうトドメを刺す必要はないと感じたのだろう。
 しかし9Aは虫の息のキメラにもきっちりとトドメを刺した。彼女はバクアを激しく憎む‥‥そのバクアたちの所有物であるキメラも同様だ。
 茉静は何も言わずにその様子を見ていただけだった。

 蒼牙と狂津輝が到着したときにはもう、戦闘が終わっていた。山道を戻るのにも予想以上に時間がかかってしまったようだ。
 だが、村人には怪我がないみたいで2人はほっとした。
 傭兵たちは決して焦らず、落ち着いて進むため一旦休憩をはさみ、再び避難所へと移動を開始した。

●避難所
 その後はキメラに襲われることもなく無事に避難所まで辿り着くことが出来た。UPC軍と合流した傭兵たちは、村人たちの様子を説明して保護を求める。ガイツが村人たちに助かったことを伝えると、村人たちにようやく笑顔が戻った。
「なんとか無事に辿りつけましたねぇ」
 環は村人たちの笑顔を見て一息つく。護も満足そうだ。
 村人たちがUPC軍の兵士たちに保護されていく中、犬彦はガイツ声をかけた。
「あんなぁ、また大きな戦争があると思うけど、この村も必ず守ったる、そのためにうちらがおるねん。って村人に伝えられへん?無理かな?」
「無理なことはないさ。俺がしっかりと伝えてきてやるよ」
「ほんまかぁ?!おおきに!」
 そこに護もやってきて、ガイツにこそこそと尋ねる。
「ガイツさん。これを何て言うか、すぐに教えてください」
「ん?ああ、それはだな‥‥」
 その間に、村人たちは全員UPC軍に怪我の確認などをしてもらい、全員分のキャンプ地もあてがわれていた。
 村人たちは感謝するように一列に並び、全員で傭兵たちに手を合わせた。
「‥‥‥!」
 護はガイツに教えてもらった『おげんきで!』の言葉を笑顔一杯で村人たちに伝えた。
「それでは皆さん、再見!」
 環の元気な声に、村人たちも大きな笑顔で応えた。

<了>