●オープニング本文
前回のリプレイを見る『首なし地蔵』
大昔からこの山にはお地蔵さんがいました。誰が置いたのかわかりませんが、人々が気付いた頃にはお地蔵さんは山道で旅人たちを見守っていたそうです。
しかしある時、心無い山賊がやってきました。山賊はお地蔵さんを見るなり「汚い地蔵だ」と言って、そのお地蔵さんを蹴ってしまいました。
当たり所が悪かったのでしょうか。蹴られた衝撃でお地蔵さんの首は折れて、どこかに転がっていってしまいました。
げらげらと笑う山賊でしたが、次の瞬間、山賊を追っていた武士に首を切られて死んでしまいました。
そのままお地蔵さんは首がない状態でしたが、いつの間にかその隣には別の首のあるお地蔵さんがいました。
しかしそのお地蔵さんも、通りかかった貴族に気味悪がられ、同じく首を切られてしまいました。
その後誰かが、ここを通りかかった貴族が首をはねられて殺されていたことを耳にしました。そのとき、お地蔵さんは3体になっていました。
次は農民が首をはねられて殺されているのが見つかりました。
首なしのお地蔵さんは3体になり、隣には新しいお地蔵さんが置かれていました。
次はお坊さんが首をはねられて殺されているのが見つかりました。
首なしのお地蔵さんは4体になり、隣には新しいお地蔵さんが置かれていました。
次は若者が首をはねられて殺されているのが見つかりました。
首なしのお地蔵さんは5体になり、隣には新しいお地蔵さんが置かれていました。
お地蔵さんはどんどん増えていきます。犠牲者もどんどん増えていきます。
理由はわかるでしょう?
お地蔵さんが首を、首を、首を、首を、首を。
探しているのです。
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「うわぁ‥‥」
宮原ルイカは思わず声を上げた。不気味な感じのする話である。
「それに犠牲者が出てるのよね‥‥って、わかんないか。これも全部、誰かが作った話なのかもしれないし‥‥」
そう思うのだが、やはり背筋が冷たくなる。
「‥‥あら?そういえばこの前の検証会で首なしの地蔵を見つけていたわよね。しかもそのときは、6体全部の首がなかったような‥‥」
う〜んと唸るルイカ。
「と、とにかく調査よ!調査してもらわなきゃ始まらないわ!」
勢いよく立ち上がり、歩いていた傭兵をびしりと指差してこう言った。
「そこのあなた!七不思議を解明してみない?!」
●リプレイ本文
■昼の映像
今回も七不思議を解決しにやってきた傭兵たち。まずは2人1組のペアとなり、情報収集から始めることとなった。
「ったく。そんなに怖えぇならやめりゃいいのに‥‥」
溜息をつきながら恋人のことを見つめる相賀翡翠(
gb6789)。隣にいる沢渡 深鈴(
gb8044)は、
「でも‥‥」
と小声で言う。先日の七不思議の調査が終わったのちについつい同棲中の恋人に零してしまい、心配に思った翡翠が今回は依頼に同行してきた。巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちと心強い気持ちになった深鈴は、改めて気を引き締めた。
まず2人が向かったのは警察署である。この町で首刈りなどの地蔵の話と似たような事件はないか調べに来ていた。
しゃんと気を引き締めたものの、やはり警察署という場所は苦手な深鈴は翡翠に表立ってもらって警官から話を聞くことにした。
「首刈り事件ねぇ‥‥。そういう話は聞いてないけど、もしかしたら最近出ている行方不明事件の中にそういうのがあるのかもしれないねぇ。行方不明者は井戸から発見された方々以外はまだ見つかっていないからさ‥‥」
というのが警官の回答だった。明瞭な答えをもらえず、顔をしかめる2人。
次に向かったのは図書館だった。2人は地蔵の言い伝えと首刈り事件に相違がないか、地道に資料を探して調査していく。
新聞や雑誌などから見ていくが、やはり行方不明者の事件は何個か記事になっていた。時期を照らし合わせてみると、比較的最近‥‥特に2000年代からが多いようだ。
「バクアが攻めてきた時期と一致しますね」
深鈴は思案する。やはりバクアの仕業なのだろうか。しかし、それ以前にも行方不明事件は起きているようだ。『神隠し?!』『天狗が現れたか?!』などと騒ぎ立てているのが実に一昔前の田舎っぽい。
次に地元の郷土史で伝承や童話などを調べてみる。
「えっと、これは‥‥」
深鈴が見つけたこの地域に限定した歴史資料によると、現在廃校がある場所付近にも昔から学校のようなものがあったらしい。そこでは勉学を教えるともに武芸も教えていたのだが、その道場は実戦に長けすぎていた。
「負ケタモノハソノ首ヲ斬リ落トサレ‥‥え?」
そう。負けた者はその首を斬り落とされていた。
しかも決闘場所は裏山の近くらしい。今回聞いた七不思議の話と違いはあるものの、首を斬られているという点では似ている。
深鈴は若干の寒気を感じつつ、このことを翡翠に報告しようとした‥‥が、
「翡翠さ‥‥あら」
が、当の恋人は本を片手に椅子に座りながら寝息を立てていた。
「おやすみですか?うふふ‥‥寝顔も素敵です‥‥♪」
と先ほどまでの寒気が少し和らぎ、優しい気持ちになって翡翠の顔に見惚れた。すると、翡翠の体がびくりと震え、ゆっくりと目が開いた。
「‥‥ん?‥‥‥起こせよ」
じっと見つめている深鈴を確認し、照れくさそうに言う。深鈴はまた少し笑い、先ほどの調査結果を告げた。
その頃Letia Bar(
ga6313)と月読井草(
gc4439)は廃校の近くに住む老人たちから地蔵に関する話を聞いていた。井草は地元の老人たちの家を回り、質問を投げかけていく。
「あのお地蔵さんは何の為に置かれたの?」
「さぁ、わからないねぇ。私たちが物心ついたときにはすでに置いてあったはずだからねぇ」
「昔、山の麓か峠道に住んでた人は居たかな?」
「麓に人ねぇ。‥‥それも聞いたことないのぅ」
「お地蔵さんにイタズラして怒られたことあるー?」
「あの山道のお地蔵さんか‥‥。イタズラ?あんの異様な光景を見てしまえば誰もが怖がって、イタズラどころじゃなかったわい」
「お地蔵さんの近くで何か変わったことや人の話を見たり聞いたりしたことある?」
「さぁ‥‥元々、あそこには誰もほとんど近付かないんじゃよ。昔から学校の先生たちにもあまり近付かないように言われてきたからのう」
町のどの老人に聞いても、同じような答えしか返ってこなかった。どうやら昔からあまり『良くない場所』として伝えられてきていたらしいが、その実態は誰も知らなかった。
Letiaと井草は集合時間まで老人たちの話を聞いてまわった。
天野 天魔(
gc4365)はまた、依頼人の黒宮佐貴子の家へと向かっていた。手には白い造花とケーキを持っている。道中、先ほどまで調べていた佐貴子のことを思い出した。
前回出会ったときに感じた独特な雰囲気は、彼女の通っている学校でも同様であるらしい。学校では彼女は『変わり者』として少し有名らしく、基本の無口な状態と『不思議』なことが関わったときの饒舌ぶりとのギャップに誰もが驚かされるという。
「そういえば、あの廃校をじっと見つめているときがあったっけ‥‥」
と、廃校に興味を示しているところも目撃されているようだ。が、七不思議に関わっているかどうかはわからなかった。誰も彼女の動向など知らないのだ。
前回と同じく家を訪ね、部屋に入れてもらう。彼女の部屋を開けると、
「ホホゥ!なるほど!そういう話もあるのですネ〜」
「それほど珍しい話ではない。むしろ一般的になったほうだ。もともとオカルトといったものは‥‥」
真っ白な部屋には真っ黒な佐貴子と、峯月 クロエ(
gc4477)が存分に語り合っている姿があった。
「や、やぁ、少女。また来たよ」
天魔は2人の異様な熱中ぶりに押されつつ、挨拶をする。
「遅いですヨ、天魔君。もうクロエさんたちはオカルト話に花を咲かせていますヨ」
とクロエ。佐貴子はまた突然止まったように静かになり、ほんの少しだけ髪を揺らす。どうやら頭を下げたようだ。
「すまんすまん。少女、これはお土産だ」
手に持ったケーキと白い造花を渡すと、佐貴子はまたほんの少しだけ髪を揺らし、
「‥‥ありがとう」
と小さな声で言った。天魔は白いカーペットに腰を降ろし、2人の話に加わる。
「そういえば、佐貴子君。今回の七不思議について聞きたいのですガ‥‥なんかこう、由来とか弱点とか知りませんカ?」
クロエがそう聞くと、佐貴子は長い髪を揺らしてこう言った。
「由来や所在についての言及はそれほど大した意味がなく昔話からの派生であったりその場所を見た者が膨らました勝手な創作であったりと様々なパターンがあり区別がつかない。情報が錯綜し特定は困難。弱点とはどういうものかによるがだいたいは話に出てくるモノの望むモノが鍵であったりするから今回の場合は」
ここで一呼吸置き、
「首首首首首首」
と佐貴子は断言した。
「首ね。なるほど。ところで俺も質問があるんだが、この白い部屋や黒に統一した衣装は何か拘りがあるのかな、少女?もし違うのなら次の土産は他の色の何かを送ろうと思うんだが?」
佐貴子は急停止し、ただ一言。
「好きだから」
と小さく答えた。
「そうかそうか。じゃあ次に、何故少女はこの依頼を出したんだい?自分で調べようとは思わなかったのか?」
「ULTに興味があった。キメラバクア能力者UPC。人間とはまた1つ次元を超えたモノたちは実に興味深いしその人たちと不思議というものがどのような結びつきがあるかが知りたかった」
天魔は頷きつつまた質問する。
「ふむふむ。ところで、この依頼の後検証会をやるんだが来るかい、少女?」
「検証会に来ますカ?」
クロエも目を輝かせて言う。が、佐貴子はまた停止した。思案しているようで、少し経ったあと小さな声で、
「大勢は苦手」
とだけ言った。どうやら来ないようである。天魔とクロエは残念がりつつ、佐貴子に別れを告げて家を後にした。
今回の舞台になる山ではヘイル(
gc4085)とキヨシ(
gb5991)が調査を行なっていた。
「では裏山探検隊出発だ。キヨシ、フラグの準備は十分か?」
「って、どんなフラグやねん。何もなければええんやけどなぁ‥‥」
などと言いつつ、まずは山道の入り口の竹林から調査を始めた。ヘイルはキヨシにカメラを渡し、先んじて進んでいった。方位磁石と歩数で地図を作りつつ、50mごとに布を裂き、近くの竹にくくりつけ目印にする。念のため、竹を掻き分けるときは槍で行なっていった。
150mほど進んだところだろうか。
「イタッ!」
「どうした?」
ヘイルが後ろを向くと、ビデオカメラを持つキヨシの手の甲から血が流れていた。
「大丈夫。ちょっと切っただけや。でも、どうして切れたんやろなぁ?竹で手を切ったんか?」
ぺろりと流れた血を舐め、先を促すキヨシ。
その後竹林を抜け、分かれ道を西側のルートに進み、さらに川のほうへと出る。道中も注意を怠らなかったが、何も出る気配がなかった。が、
「なーんや、よう注意して見てみると‥‥」
「ああ。不可解な足跡がいくつかあるな。重そうなものが歩いたものだ。やはり何かあるな‥‥。慎重に行くぞ」
ぐるりと山を一周したところで時間が来た。傭兵たちは再び合流し、首のない地蔵の下へと集まった。
■夕方の映像
傭兵たちは作戦通りA班とB班に分かれ、囮役である天魔に何かあったら飛び出す作戦を取った。天魔は首なし地蔵の前で待機だ。
班で分かれて身を隠そうと移動を始めたとき、
「キヨシっ!」
Letiaは歩き始めたキヨシを呼び止めた。
「ん?なんや?」
振り向いたキヨシに向け、Letiaは前回もらったプラチナリングをつけた指を見せ、会心の微笑みを浮かべた。そしてそのまま照れて小走りでA班の方へと走り出す。
「い、いまのはっ?!」
「キヨシ!俺たちはこっちだぞ!早く!」
ヘイルに呼ばれるも、しばし呆然とするキヨシであった。
■夜の映像
風が吹き、周囲の木々がざわめく。三脚で固定されたビデオカメラは首なし地蔵と、その前に立つ天魔を映していた。
「今回はどんなコトが起こるのか楽しみですネー!」
A班のクロエはわかりやすく楽しそうにしていた。その真逆に、深鈴は恐ろしくて地蔵を視界に入れられずきょろきょろとしてしまう。
「怖ぇだろうが警戒は怠るなよ」
それに気付いた翡翠が安心させるために手を握りつつ声をかける。そのお陰で深鈴はだいぶ落ち着くことができた。
(‥‥その幸せ守りたいねぇ。大事な人が傷ついたり消えてしまうのは、悲しいから)
2人の様子を見てLetiaは守る決意を固める。
B班のキヨシ、ヘイル、井草も警戒を怠らない。
囮役の天魔は不自然にならない程度に盾と剣を構え、地蔵を中心に周囲の警戒をする。
「‥‥物音!‥‥って風か」
く‥‥
「‥‥気配!?‥‥狸か」
くび‥‥
「‥‥殺気!!‥‥何だ敵か」
首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首!!!
「って、出たぁあ!!敵襲!!」
天魔が叫び声を上げる。闇の中から現れたのは人の大きさほどの地蔵型キメラだった。
手には地蔵と全く結びつかない大鎌。
そしてもちろん‥‥首はない。
大鎌が天魔の首へと迫っていたが、首への攻撃に特に注意を払っていたためガードをすることができた。
そこでA、B班の両名が飛び出す。
「深鈴頼む!」
翡翠は飛び出しながらLetiaに声をかけた。
「よ、よろしくお願いいたします」
とお辞儀をする深鈴にLetiaは胸を張って、
「任せとけっ!」
力強く答えた。
「‥‥‥」
覚醒したクロエも無言で飛び出していく。
B班はヘイルがまず敵の前に出る。
「貴様が首刈りか。‥‥自分が刈られる覚悟はあるのだろうな?」
仲間が集まり始めたところで、なんとか敵の攻撃を受けていた天魔は後ろに下がり、ヘイル、クロエ、翡翠の3人が首なし地蔵キメラと直接対峙する。その援護にキヨシ、Letia、天魔が回り、サポートの井草と深鈴が味方の強化と回復をしていく。
石のような硬さを持つ敵であったが、その分動きは速くない。傭兵たちは大鎌に警戒しつつスキルを使いながら攻撃を加えていった。
攻撃を受けるたびに体が欠けていった地蔵キメラは、最後の一撃を受けるとバラバラに砕け散ってしまった。
■朝の映像
キメラを倒した後の朝。井草はまた現場に戻ってきていた。地蔵の首を捜すためである。
首なし地蔵たちの周辺を捜索していると、ふとキメラの足跡が残っているのが見えた。足跡を辿ってみると‥‥
「あった」
不思議なことに6体の地蔵の首が落ちていた。
1つ1つ丁寧に首を運んでやり、地蔵本体の周りの落ち葉や埃を借りてきた箒で掃く。周りが綺麗になったところで川から水を汲んできて、雑巾で地蔵を水拭きしてあげる。
「さぁ、これで綺麗になったよ」
見違えるくらい綺麗になった地蔵たちの前で線香にあげ、地蔵菩薩真言を唱える。
「おん かかか びさんまえい そわか」
最後に地蔵に笠を被せてあげた。
「これなら日差しも雨雪も防げるからさ」
井草が満足そうに言うと、山道からLetiaが歩いてきた。
「あれ?井草、何やってるんさ?」
「首を捜してたの。あとほら、雨ざらしじゃかわいそうだから、綺麗にしてあげた」
「おおっ!見違えたねぇ、お地蔵さんっ!」
「Letiaはどうして?」
「いやほら、最後に手を合わせておこうと思ってさ」
それから2人で地蔵の前に座り、静かに手を合わせる。
「これからはまた山を守って下さい」
Letiaは前よりも立派になった地蔵に向けて祈る。すると気のせいか、地蔵が微笑んだように見えた。
「まぁ、お地蔵さんだって笑いたい時はあるよね」
「そうさねっ」
2人は笑いながら山道を下っていった。
□鑑賞者
――ちょうど映像の中の映像で、天魔に首なし地蔵キメラが飛びかかるシーンで、キヨシがLetiaに背後からのしかかる様に抱きついている。
「首をおくれ〜」
「きゃあぁぁぁ〜!」
ちょうどその隣で映像を見ていた深鈴が驚いて思わず、翡翠とやらの手を強く握り締めているな。
「こ、怖いです‥‥」
と涙目でさらに寄り添う深鈴。
「怖ぇなら、覚醒してたっていいぜ?」
翡翠はそう言って声をかけるが、深鈴は涙を浮かべつつも首を振っている。翡翠はもう片方の手で優しく深鈴の頭を撫でてやっている。
ふぅん。
「‥‥怪奇・裏山の塩水洗浄男‥‥に、なる?」
またキヨシというやつはLetiaに追いかけられているな。懲りない男だ。
「今回も色々と面白い物、良い者が見れてよかったですヨ」
クロエはまた、地蔵とは別の何かを見ていたようだ。
「今回はキメラが地蔵の首を刈っていたってことなのかしらね?」
ルイカがキメラとの戦闘を見ながら聞く。
「そうみたいだ。行方不明者もこいつにやられていたのかもしれない」
天魔はそう予想しているようだ。
まぁ、当たりでいいだろう。
地蔵を置いていったやつが誰かはわかっていないみたいだが。
ん‥‥ヘイルがやってきた。ということはこれで終わりかな。
「以上が首なし地蔵の調査記録となる。例によって、映像は廃棄予定。
さぁ、残りは4つ。いずれ『貴様』にもたどり着くか?
『首を洗って』待っているといい」
――ぷつん。
まぁ、貴様ら次第だ。
<続>