●リプレイ本文
●学園祭当日
「にゃー!ひゃくしろ遅いにゃー!」
「‥‥すまない‥‥遅れた‥‥」
いつもより人がごった返すカンパネラ学園校門前。西島 百白(
ga2123)はぷりぷりと怒るリュウナ・セルフィン(
gb4746)に軽く頭を下げた。
「まぁまぁリュウナ様。無事合流できたことですし、行きましょうよ」
東青 龍牙(
gb5019)がたしなめると、一瞬で笑顔となったリュウナは、
「そうにゃ!龍ちゃん!ひゃくしろ!一緒にお祭りを楽しむのらー!」
と2人の手を取って駆け出した。
「うぎぎ、寝坊とかマジでありえん‥‥」
その横では前日に楽しみのあまり、やや眠れず遅刻をしてしまった如月・菫(
gb1886)が駆け足でやってきた。
「あ!えーと‥‥待った?」
「今来たところだよ」
優しく微笑みかける東雲・智弥(
gb2833)。彼の優しさにドキドキしつつも、菫は元気よく、
「よしっ!それじゃあ行くわよ!学園祭!」
と歩き出した。智弥はそっと菫の手を握り、一緒に歩き出した。
「へへへ、リゼ〜。実はこの看板、私が描いたんだよっ!」
「わぁ‥‥レティア様、すごいです‥‥」
校門のところに飾られた大きな看板を見上げ、素直に感心するリズレット・ベイヤール(
gc4816)に向け、照れくさそうに笑うLetia Bar(
ga6313)。
「久しぶりだな2人共」
そこへヘイル(
gc4085)がやってきた。格好はブレイブを改造した騎士風のものとなっている。
「あら、ヘイルくん。カッコイイ衣装だわね」
「ルイカ〜!!」
「きゃあ!」
宮原ルイカは偶然通りかかって挨拶をした瞬間に、Letiaに捕まってハグをされた。
「ちょ、ちょっとレティアちゃん!離しなさいって‥‥あら?」
Letiaとばたばたしていたルイカは、美緒ほえのある人物がこちらにやってくるのが見え、声を上げた。真っ黒に染め上げた、シャツとスカートというシンプルな姿で現れたのは黒宮佐貴子だった。前回、ヘイルが送った招待状を受けてやって来たようである。
「やぁ黒宮嬢。よく来てくれた。今日はよろしくな。宮原。彼女が黒宮佐貴子だ」
「やっほー!サキコ!」
「直接会うのは初めてね!私は宮原ルイカよ!よろしくね」
佐貴子は音も無く近寄ると、ほんの少しだけ髪を揺らして会釈した。
「君の分の衣装も用意しておいた。どうぞ」
ヘイルはアリスを改造した瀟洒な黒い姫風衣装を渡した。
「ほんじゃ、私はちょっち仕事があるから!みんな楽しんでいってね!」
ルイカはそういい残すと、風のように去っていった。4人も学園祭へと入っていく。
「さぁヤクト!そら行くぞ!チョコバナナと中庸な焼きそばとタコ焼きとお好み焼きが待ってるぞ!」
「がってんだ!」
ばたばたと走りながら学園祭に向かっていくのは、怪しげなフードを被ったファタ・モルガナ(
gc0598)と五十嵐 八九十(
gb7911)だ。
「畜生!ロボガル製造に力入れ過ぎて前日準備が出来なかったぜ!もう残ってんのは校庭辺りか‥‥」
走りながら宣伝用のチラシを学園に貼りつつ、看板も掲げながら校庭へと向かうガル・ゼーガイア(gc1487)の姿もあった。
学園祭とは朝から慌しいものである。
「やー、こっちもおいしいし、あっちもなかなか‥‥。こんなに美味しいものばかりで、やーっぱお祭りって最強だね♪」
「新条さーん!こっちも食べていってくれよー!」
「はいはーい」
「新条さん!こっちもこっちも!サービスしちゃうよ!」
「いやー、わるいねー」
学生たちが作った屋台が立ち並ぶ校庭。そこで新条 拓那(
ga1294)はむしゃむしゃと食べながら、準備のときに知り合った学生たちの出す屋台を回っていった。朝も早いのにどこも盛況のようである。手伝ったお礼にと、学生たちもこっそりと大盛りにしたりトッピングをつけたりしてくれ、満足な様子である。
「うーん!このイカ焼き美味いね!」
拓那が舌鼓を打っているところへ、百白たちがやってきた。
「‥‥」
百白はイカ焼きの匂いを感じると迷わず屋台に寄っていき、3本購入した。
「‥‥食べるか?」
「にゃー!ひゃくしろありがとにゃー!」
「私の分もいいのですか?ありがとうございます」
3人とも仲良くイカ焼きを食べながら屋台を見ていく。
「すみません、一ついくらですか?」
Taichiro(
gc3464)は客足のまばらな、カンパネラ航空同好会の模擬店へと足を向けた。
「あ、お客さんだ。はい、フィッシュアンドチップスですね?少々お待ちください」
店番をするのは部長のジェームス・ハーグマン(
gb2077)。丁寧な物腰で商品を渡し、Taichiroは片手でぱくつきながら去っていった。
しかしそのあとの客が続かない。
「‥‥次のお客さん、来ないねぇ〜」
と部員ともども暇をしていた。
「‥‥凄く賑やか」
フェンリス・ウールヴ(
gc4838)は周りを見渡しながら人の多さに驚いている。
「賑やかだねぇ‥‥さ、行こうかフェン」
一緒に歩く吹雪 蒼牙(
gc0781)は手伝うことが多そうだな、と周りの様子を見回していた。するとそこへ、
「あー!困った困った!どうしよう!」
と叫んでいる男子生徒がいた。
「どうしたんですか?」
蒼牙が聞くと男子生徒は、
「予備の商品を教室に忘れてしまったんだ。でも店番から離れるわけにもいかないし‥‥」
と言った。蒼牙はとっさに言う。
「じゃあ僕が店番をしておいてあげようか?」
「本当かい?じゃあちょっとだけ頼むよ!すぐに戻るからさ!」
男子生徒は口早にそう言うと、屋台の射的屋から飛び出していった。じっと見つめるフェンリスは軽くため息を吐き、言う。
「‥‥お人好し。‥‥其処が良い所でも有るんだけど」
「ごめんね。でも僕も、手伝ってくれるフェンが好きだよ」
と、図らずも射的屋をすることになった2人。蒼牙は営業スマイルで次々とやってくるお客を対応していく。逆にフェンリスに笑顔は無く、コツコツと射的用の銃や弾の用意を行なっていった。
大勢で賑わう中、人混みの苦手なリズレットがビクビクとしながら歩いていると、Letiaは優しく撫でて、
「ん、大丈夫だよ。学祭の間、手繋いでこっか♪」
と優しく手を握ってあげた。
「‥‥ぁ‥‥レティア様‥‥ありがとう‥‥ございます」
少し安心したリズレットは、ヘイルや佐貴子と共に屋台を巡っていく。
「さて。お金のことは気にしなくていい。存分に楽しもうか」
ヘイルは皆の分のお金を払ってあげ、焼きそばや綿飴などを買い与えた。みんなで食べながら歩いていると、
「あ、ヘイルさん。こんにちは。どうです?射的、やっていきませんか?」
蒼牙が手伝っている射的屋の前にやってきた。
「やあ、吹雪。そうだな、楽しそうだ。やっていこうかな」
「よしっ!私がリズとサキコの欲しいもの、取ってあげるよっ!」
「む‥‥俺がとってやろうと思ったのだが‥‥よしLetia。どちらが多く景品を取れるか勝負だ」
「望むところだっ!負けないよっ!私は勝ってヘイルをメイドに!」
「いつの間にそんなことに?」
と、わいわいしながら射的勝負にもつれ込んだ2人。結果、Letiaの方が多くの景品を落とし、勝利となった。
「なん‥‥だと‥‥?く‥‥仕方ない。負けは負けだ」
「わーい!それじゃあ、この人形はリズとサキコに。お菓子は、君たちにあげちゃおう!あとは返すよ」
見物をしていた子供たちにもお菓子をあげてやり、取りすぎた賞品は返してあげたLetia。
「すみません。まだ景品の予備が届いてないんで、助かります。‥‥ってかお2人、取りすぎですよ」
蒼牙を礼を言いつつ景品を受け取った。
「あら、射的もあるんだ〜。俺もやっていい?」
「新条さん!お久しぶりです」
屋台にひょっこりと顔出した拓那に挨拶を交わす蒼牙。
「ちょっとやってみるか‥‥」
Taichiroも射的に興味を持ち、賞品を狙いにいく。
「射的とかは‥‥さすがにないかー?」
「射的、やってみると熱中すると思うよ」
菫と智弥のカップルも射的で楽しんでいったようだ。
「こういうのは初めてですが、みなさん楽しそうですね」
「私も‥‥人生初の、学園祭です‥‥」
ファリス・フレイシア(
gc0517)と安原 小鳥(
gc4826)は屋台を見て周りながら、初めての学園祭を楽しんでいるようだ。
「あら?あれは何かしら?」
ファリスの目線の先には、ガルがロボットを出して販売していた。
「どうだいお客さん!!珍しいロボット買わねぇか!!」
大きな声で宣伝をするガルの前では2体のロボットが腕を回したりガルガルを喋りながら歩き回っていた。
子供たちはすぐに興味を持ったらしく、宣伝用に動かしているロボガルを触って喜んでいる。
「意外とかわいいだろ?気に入ったら即買いだぜ!」
「お父さん!これ買って!」
「仕方ないなぁ。1つください」
「まいど!!」
なかなか人気が出たようで、ガルの周りには人だかりが出来ていた。
「ああいうのも売っているんですね」
「‥‥ファリス様。あっちから‥‥音楽が聞こえます。行って‥‥みませんか?」
体育館の方に向かっていくと、そこでは学園祭ライブが行なわれていた。
「さあて、せっかくの学園祭だ。楽しませてもらおうか!」
舞台の上では嵐 一人(
gb1968)がギターを掲げて叫んでいた。芸能人として少しづつだが売れてきているらしく、かなりの盛り上がりを見せている。
自分の持ち歌の曲を時間目一杯使って歌ったあと、長い髪を振りかざして勢いよく言った。
「みんな!学園祭は楽しんでるか?!次で俺のライブは終わりだが、このライブのために新曲を用意してきたぜ!聞いてくれ!『DREAMING』!」
夢を見よう 夢を描こう
明日はきっと夢の先にある
どんなに苦しい時だって 捨てられないものがある
胸の奥で眠ってる譲れない願い
その熱さが背中を押すんだ
その輝きが道を照らすのさ
夢を掴もう 夢をかなえよう
未来はいつも夢の向こうで光ってる
明るいポップス調のライトロックは見事な盛り上がりを見せ、ライブは大成功のうちに終わった。
「にゃー。校内もいろいろあるにゃー。‥‥にゅ?『かしいしょう』なりか?」
「貸衣装ですか‥‥コスプレですね♪折角ですので着ましょうか♪」
「にゃ!コスプレなりか!なら皆で着るのら!」
貸し衣装の出し物教室に来た3人は、思い思いの衣装を手に取り、更衣室に入っていく。
「龍ちゃん龍ちゃん!どうなり?似合ってるなりか?巫女リュウナなり♪」
巫女姿のリュウナがぴょんぴょんと跳ねているのを見て龍牙は、
「リュウナ様は何を着てもお似合いですよ♪」
とにっこり笑いながら答える。龍牙は「ミカガミ」のコスプレで、黒髪ポニーテイルのサムライガールとなっていた。
「リュウナ様のコスプレ姿、写真に収めなければ」
と小声でいそいそとインスタントカメラを用意している。
「男性用はこちらの着ぐるみになりますね」
「‥‥」
同行人の百白はというと、「阿修羅」の着ぐるみに身を包んでいた。
「‥‥これでは歩き回れんな」
と着ぐるみを楽しみ、返却した。
同じ場所にはLetiaたちもいて、こちらもコスプレを楽しんでいた。Letiaは陸上部の快活な子をイメージした「スカイスクレイパー」の衣装。リズレットは猫耳猫尻尾のにゃんこ衣装「阿修羅」に身を包む。
「あはは〜!リゼかわいい!」
「‥‥あ、あまり見ないで下さい‥‥‥‥」
Letiaは手を叩いて喜ぶが、リズレットは恥ずかしさのあまり赤面して俯いてしまった。
ヘイルと佐貴子は話しながら歩いていったのだが、途中で佐貴子はぴたりと足を止めた。足を止めた教室の前には『お化け屋敷』とおどろおどろしい看板が出ていた。
「黒宮嬢、入りたいのか?」
ヘイルが聞くと、佐貴子はわずかに髪を揺らして列へと並んでしまった。あからさまに嫌そうな顔をする女性が2人いたが、結局4人で列に並んだ。
「にゃ!お化け屋敷なり!いざ!とつげきにゃー!」
同じくお化け屋敷の出し物の前を通りかかったリュウナは、一気に列へと走っていった。慌てる龍牙。
「ええっ!い、嫌ですよ!べ、別に私がお化け嫌いとか腰が抜けるほどお化けが怖いとかそんな理由ではありませんよ!?暗いし足元が見えないから万が一転んだりしたら危ないからですよ!?お化け嫌いとかでは決して断じて違いますから!?」
「‥‥行くぞ」
「西島さんまで!?うう‥‥」
ここにも望まずにお化け屋敷行きとなった者がいた。
「4名様‥‥行ってらっしゃい」
まずはLetiaたちがお化け屋敷の中に入る。真っ暗な暗闇の中、小さなペンライトだけを持って進んでいく。
1つ目の曲がり角を曲がったところで、何かがガタンと音を立てた。リズレットは我慢できずにレティアに思いっきり抱きつく。
「リゼ、大丈夫だからね‥‥怖くない、怖く‥‥ひゃうっ」
リズレットの手前、平気なふりをしようとするLetiaだが、怖さに耐え切れず2人でくっついて進んでいく。ヘイルは女性陣たちを庇いながら一緒に進んでいく。
それからも襲い掛かる様々な恐怖たち。そして最後に‥‥。
「きゃああぁぁー!!」
出口から飛び出してきたのは、半泣きのLetiaだった。
「‥‥ぅあ‥‥えぐっ‥‥ひぐっ‥‥」
Letiaに抱えられたリズレットは本気で号泣していた。
「く、黒宮嬢は大丈夫なのか?」
「最後の‥‥すごい」
飛び出しはしなかったものの心臓をドキドキさせながら少し遅れて出てきたヘイルは、平然どころかむしろ楽しそうにしていた佐貴子に尊敬の念を抱いていた。
「えぇ‥‥どんだけ怖いんですか‥‥」
4人の様子を見て不安を募らせる龍牙。
「次‥‥3名様どうぞ」
覚悟を決めてペンライトを握り締め、百白の後ろに隠れながら暗闇の中に入る。その顔にはもう涙が浮かべられていた。だがそこにも恐怖の手が‥‥。
「にゃにゃにゃ!?フニャー!?」
「きゃあぁぁ!こ、腰が‥‥」
龍牙は恐怖のあまり腰が抜けてしまった。
「‥‥乗れ」
全く動じなかった百白はため息をつくと、そのまま龍牙を背負って出てきた。
「うぅ‥‥すみません‥‥」
恐怖のためかそれとも違うのか‥‥龍牙は涙が止まらなかった。
「どうだね?首尾の方は?」
お化け屋敷の受付に話しかけたのは、準備のときに手伝いをしたUNKNOWN(
ga4276)だった。
「あ!UNKNOWNさん!なんとか無事、完成できましたよ!お蔭様で大盛況です!もう、UNKNOWNさんの作ってくれたアレで失神者続出です!」
「そうかそうか。楽しんでいるみたいで何よりだ。忙しそうだから、差し入れを持ってきたぞ。みんなで分けるといい」
「わぁ!ありがとうございます!」
差し入れを渡し、優しい微笑と共にその場を去るUNKNOWN。そのまま校内をぶらりと見学していった。どこの学生たちも学園祭を楽しんでいる。
「おや。あれは‥‥」
UNKNOWNの視線の先には、
「ありがとうねぇ。親切に道案内をしてくれて」
「礼にはおよびません!私は正義のヒーロー、部活戦士ヤミセイバー!何か困ったことがあったらなんでも言ってくださいね!」
鬼道・麗那(
gb1939)は笑顔で老人を送った。
「ふぅ‥‥さすがは学園祭。助けを求める声はいつもの倍はありますね。しかし、ここでくじけるわけには‥‥むむっ!あれはっ!」
麗那‥‥いや、ヤミセイバーを率いる(らしい)美少女隊長、ホワイトセイバーは、2人の男性に囲まれているカンパネラ学園の女子生徒を発見した。
「我が学園の女子生徒を集団でナンパとは‥‥許せん!とうっ!」
ジャンプしてその集団の前に降り立つホワイトセイバー。
「学園の平和を守る熱き魂、部活戦士ヤミセイバー参上!」
腕を十字に組んでキメポーズを放つ。
「ん?なんなんだ?」
「そこの君たち!我が学園の可愛らしい生徒に何をする!」
「はぁ?何言って‥‥」
「問答無用!必殺!『ホワイトダイナミック』!」
ホワイトセイバーは男性たちにむけ、容赦ない正拳の連打を浴びせかける!
「ぐわぁ!」
「ふふふ‥‥悪は去った!大丈夫ですかな、お嬢さん?」
「あの‥‥それ、私の兄たちなんですけど‥‥」
「え‥‥えぇ?!ご、ごめんなさーい!」
そんな光景も目にしつつ、UNKNOWNは喫煙所へと向かった。一服していると、ある学園の教師がやってきた。
「やぁ、UNKNOWNさん。この間は夜間の巡回を手伝ってくれてありがとうございました」
「いえいえ」
「でもなかなかトラブルが絶えないみたいで‥‥僕らも大忙しですよ」
ははは、と笑いながら煙草に火をつける教師。UNKNOWNはもう一本煙草を取り出しながら微笑を浮かべて言う。
「いろいろトラブルはあるかと思いますが、私はなるべく手を出さずに見守ろうかと。そういう時間は今となっては貴重なものですからね。彼らは、若い時だからこそ出来る時間の使い方をする。それはとても尊いことですよ」
当時は研究ばかりだったが、自分にそういう時代が確かにあったのだと、紫煙をくゆらせながら、教師と思い出話に華を咲かせるUNKNOWNだった。
「‥‥皆熱心に練習していたので心配する必要はありませんが、偶々そばを通りがかったので少し覗いていきましょうか」
と、素直じゃないが出来が気になるソウマ(
gc0505)は、女装をして『アドリブ劇』を行なっている教室へと向かった。見た目は長い黒髪で高校生くらいのお嬢様にしか見えないので、誰もソウマだとは気付かないだろう。
「にゃ?あどりぶげき?面白そうだから見てみるなり♪」
ちょうどその時、リュウナは百白と龍牙を連れ立って教室に入っていった。中には人もたくさんいて、飛び入りで出演をしている一般の方もそこそこいるようだった。
「ごきげんよう。なかなか面白い出し物ですわね」
受付にいた演劇部員に微笑を浮かべて挨拶をするソウマ。準備の時に一緒に練習をした部員であったが、ソウマとは気付かず頬を赤らめて照れている。
『アドリブ劇―シンデレラ―』はシンデレラが5人いたり王子様が7人いたり、魔女が12人いたりしてなんともカオスな展開になっていたのだが、なんとか物語は進んでいく。
ついにラストシーン。1つしかないガラスの靴を誰が手に入れるか、という争奪戦になったところでリュウナが突然、
「リュウナもやりたいにゃー!」
と言って舞台に飛び入り参加してしまった。飛び入り参加に問題はないのだが、リュウナの衣装を見て演劇部員たちは固まる。
(み、巫女?)
この物語にどうやって巫女を入れればいいのか。演劇部員たちが悩んでいると、
「おぉ。貴方は異国の魔術師!もしや、この靴にかかっている呪いを解きにきてくれたのですね?」
ソウマも飛び入り参加をし、助け舟を出す。そこからガラスの靴の呪いが解けたことで醜い争いは終わり、世界は平和に包まれた‥‥という完結を迎えた。
無事に劇が終えたことを確認すると、ソウマはこっそりと教室を出た。
「素晴らしい出し物だ!素晴らしい!」
ファタ・モルガナは劇を見て大きな拍手をした。周りにも伝染して、大きな拍手へと変わった。
「ってもうこんな時間か!ダッシュで急行しねぇと!」
ガルロボを無事完売することが出来たガルは、大急ぎで学園祭メインステージへと向かっていた。決して見逃すことが出来ないイベントが始まろうとしていたのだ。ガルがメインステージに到着したところで、アナウンサーの宮原ルイカの声がマイクを通して聞こえてきた。
「大変長らくお待たせいたしました!これより、ミス・カンパネラ学園コンテストを開催します!男子は必見よ!女子ももちろん見においで!目の保養になるわよ〜」
「うお!ギリギリ間に合ったか!」
ガルは両手に屋台で買った食べ物を持ちながら観戦を始めた。
「今回は学園生以外も含めたミスコンになるわよ!無差別級って感じね!それじゃあ早速、エントリーナンバー1番!なんと現役アイドル!如月・菫!」
アイドルらしく慣れた調子でステージに登場する菫。
「みんなー!よろしくねー!」
挨拶をしつつ、ステージから智弥の姿を探し出し、こっそりウインクを送ったりしてみる。智弥も心の中で菫を応援していた。
「エントリーナンバー2!貴族の気品が漂うわ!ファリス・フレイシア!」
胸元が開いたドレスを身に纏い、ネックレスをつけ、しっかりと化粧を施したファリスが登場する。髪の毛は下ろしており、頭には聖なるティアラをつけていた。
「名前はファリス・フレイシアと申します。今回はご友人に推薦という形で、参加させていただきました。」
(‥‥お綺麗です、ファリス様‥‥♪ 頑張って下さいね‥‥応援、しております‥‥!)
ファリスに化粧をしてあげた小鳥は会場で、綺麗な姿のファリスに見とれながらも精一杯の応援をしていた。
「お次は、出演者の希望で2人同時に呼んじゃうわね。エントリーナンバー3と4!Letia Barとリズレット・ベイヤール!」
KV少女のコスプレ衣装のままステージに登場したLetiaとリズレット。ニコニコと元気一杯のLetiaと、その片腕に赤面したままずっとしがみついたままのリズレット。
「純情可憐で超可愛いリゼと、どこにでもいる陽気なお姉さんだよ〜宜しく!」
「4番‥‥リズレットです‥‥‥‥にゃん‥‥」
と言い、2人でポーズを決める。
「最後!エントリーナンバー5!いかにも深窓のお嬢様って感じね!アーウィンクル!」
長い黒髪を優雅に揺らしながらステージに現れたのはアーウィンクルこと、女装したソウマである。
「皆さま、本日はよろしくお願いいたしますわ」
にっこりと微笑むが、内心は女装好きの変態のレッテルを避ける為、必死の覚悟で挑んでいた。
「以上の五名よ!どれもカワイコちゃん揃いだったわね!さぁみんな!ドンドン投票しちゃって!」
その場で投票がされ、すぐに結果を集計する。
数十分後。
「結果が出たわよ!今回の優勝は‥‥しっかりとした準備とドレスが決め手になったみたいね!エントリーナンバー2!ファリス・フレイシア!」
歓声と拍手で会場が包まれた。
「‥‥やりましたね‥‥ファリス様‥‥」
嬉しさのあまり少し涙ぐむ小鳥。
「えと、私などが勝ちを得てしまってよろしいのでしょうか‥‥?」
「もちろん!優勝おめでとう!でも他の人も落ち込まないでね!みんな可愛かったわよ〜。持ち帰っちゃいたいくらいね!それじゃあ、本日はこれまで!みんな来てくれてありがとうございました!」
会場は拍手に包まれ、ミスコンは無事終了となった。
「‥‥凄いです‥‥良い、な‥‥こういうの‥‥」
「本当ですね。なんだか元気が出るアートです」
ミスコン後、2人はLetiaが学生と作ったという階段アートを見学しに来た。明るい色使いで大胆に描かれた様々な絵は、見るものを自然と笑顔にする力があった。
「ファリス様は‥‥次、何処に行ってみたいですか‥‥?先ほどは‥‥その‥‥私のわがままを聞いていただいて‥‥ミスコンに出ていただけた‥‥ものですから。あ、本当に‥‥優勝‥‥おめでとうございます‥‥」
「ふふ‥‥ありがとう。優勝できたとはいえ、あのような場所に立たされたので、あれで罰を受けてもらいましょう」
くすりと笑うファリスの指した屋台には、ロシアンたこ焼きと大きく書かれていた。
「む〜。勝てなかったか〜。‥‥せっかく智弥が応援してくれたのにな」
「まぁまぁ気を落とさずに。菫は十分かわいいよ」
ここはメイド・執事喫茶。ミスコンを終えた菫と智弥の2人はここで休憩をしていた。
「そ、そうかな?えへへへ‥‥」
「うんうん。こういてのんびり菫と一緒にいるだけでも僕は幸せ者だよ。‥‥最近はあんまり構ってあげられなくてごめんね」
と智弥は頭をナデナデした。菫も同じく、幸せな気持ちを共有していった。
「私はいいんだけど、リゼを優勝させたかったな〜」
「惜しかった」
「本当?サキコはいい子だなぁ」
Letiaと佐貴子は喫茶で順番待ちをしながら談笑をしていた。執事に案内されて席に着くと、
「い、いらっしゃいませ、お嬢様。‥‥くっ」
「‥‥いらっしゃいませ‥‥です‥‥」
メイド服姿のリズレットとヘイルが注文を取りにやってきた。ここはメイドと執事が給仕をしてくれるだけでなく、希望すればメイドや執事になることができるのだ。
今回は、射的に負けたヘイルと何故かリズレットの2人がメイドとなって2人にご奉仕をするのだ。
「いやぁぁ〜!リズもヘイルもかわいいぃぃ!!」
「‥‥恥ずかしい‥‥」
「いや、これは恥ずかしいぞ‥‥ん?黒宮嬢、もしかして笑ったか?」
「愉快」
「やっぱり‥‥」
コスプレでわいわいとはしゃぐ4人を、見るのは龍牙とリュウナ。疲れたから休憩をしていたのだが、どうやら2人の視線はヘイルと百白を行ったり来たりしている。
「ひゃくしろも‥‥」
「‥‥場所‥‥変えるぞ‥‥」
何かしらの危険を感じ取った百白は、2人を抱えて別の場所に移動した。
「にゃあー!ひゃくしろもメイドになるにゃー!」
「そろそろ学園祭も終わりさね〜」
「そうだな」
一通り回り終えたところで、そろそろ帰り始める客も出てきた。そろそろ夕方になる頃だ。学園祭の終わりも近い。そこでヘイルは佐貴子の方に向かって言った。
「黒宮。ここでは適性検査もやっている。受けてみる気はないか?」
ほんの少しだけ髪を揺らす佐貴子。
「君がこの先も俺達やバグアに関わっていくのなら備えが必要になると思う。なる、ならないは別にして、『もしも』が来た時のために選択肢は増やしておいた方が良いかもしれない」
佐貴子はほんの少し考えるような仕草をして、小さく、
「いく」
と答えた。Letiaは佐貴子を優しく抱きしめ、
「今日は楽しかったよ。いっておいで?」
と言った。適性検査の部屋に入っていく佐貴子を見届けて、ヘイルに目配せをする。適性の結果はあの子にとってどちらがいいのだろうか?
「何かを失ってからは後悔も出来ない‥‥俺のようにな」
ヘイルは呟いて、彼女の人生がどうなるかを案じた。
カンパネラ学園祭ももう終了の時間であった。生徒たちはだんだんと片付けに入っていく。
「売上どうなの?‥‥ぎりぎり赤字、ああそう‥‥。商品の選択、間違えたかなあ‥‥他にもおいしそうなものたくさんあるから‥‥」
ジェームズは本日の成果を聞き、少し寂しげに答える。
「まぁいいッスよ、部長。暇でしたけど、楽しかったですし。次は航空同好会っぽいものでもやりましょ!」
「あぁ。そうだねぇ」
「学園祭楽しかったが‥‥、売上がなぁ‥‥、やっぱ二万じゃ元取れねぇよ‥‥」
1人屋台の片付けをしながらもの思いにふけるガル。
「けどまぁ子供たちも喜んでくれたし、完売したし、まぁいいか!よし!今度はもっと量産して元を取るぞ!」
新たな目標をかかげ、ガルは勢いよく片付けを始めた。
「にゃー!今日は楽しかったにゃ!でもちょっと残念にゃ‥‥手芸部にあった人形、かわいかったのにおこづかい足りなかったにゃ」
「‥‥」
校門へと向かう3人。そこで百白はぬいぐるみとアクセサリーを取り出すと、龍牙とリュウナに渡した。
「え、わ、私にもですか?あ、ありがとうございます」
「ひゃくしろ!ありがとうにゃ!」
と百白に抱きつくリュウナ。なかなか離れないなと思っていると、リュウナは抱きつきながら寝てしまっていた。
「にゃふ‥‥」
「‥‥まったく‥‥面倒だが‥‥仕方ない奴だな‥‥」
微笑を浮かべながらリュウナを背負う百白。その優しくて頼りがいのある姿を見て、龍牙はそっと手を繋ごうと思ったのだが‥‥。
(‥‥あ)
百白の手はリュウナを背負っているため空いていなかった。
龍牙はほんの少し笑顔を浮かべ、百白と並んで帰途に着いた。
「結局手伝ってばかりだったじゃないか。でもまぁ‥‥楽しかったよ、吹雪」
フェンリスは微笑を浮かべる。
「そりゃ良かった」
吹雪はフェンリスの頭をゆっくりと撫でた。
「さて、それじゃあ片付けも最後までやろうか。ほら、『祭りは最後まで祭り』だからさ」
「今日は楽しかったなぁ」
カンパネラ学園の屋上。他の生徒たちが片付ける様子を上から見ながら、智弥もまた物思いにふけっていた。
「ねぇ、智弥!」
「ん?どうしたの?」
と智弥が振り向いた瞬間、菫から急にキスをした。
「さ、最近は智弥からばっかりだったからな‥‥や、やられっぱなしてのは癪だし」
「‥‥うん」
恥ずかしそうに言う菫を、いつまでも優しい笑顔で見つめる智弥であった。
「ファタさん!大事な話があるんです!」
ひと気も少ない校舎裏。八九十は今までの飄々とした様子とは違い、真剣な声を出した。
「あれから色々考えましたよ、先の未来と、今ある時間の事」
ファタは何も言わずに聞いている。
「でもって決めました‥‥、それがどうした、幸せも悲しみも全部ひっくるめて貴女と添い遂げるって。後悔?自分で選んだ道だろ、上等だよってね」
「‥‥キミも懲りないね。近々死ぬ人間と一緒になったって悲しみが募るだけさ」
ファタは諦めろと言わんばかりに突き放し、立ち去ろうとする。
「先に謝っておきます、御免なさい、諦めの悪い男で」
八九十はそう言いながら少々強引にファタを抱き締めた。
「こうして体温を感じられるのは今だけですしね、やっぱ茨の道とか言われて腰引けて後悔する方が、俺はずっと嫌な性分みたいです‥‥」
「‥‥‥私のどこがいいのさ。出所不明、諸々不詳の怪しい女だよ?者好きにも程があるよ」
今度は八九十の方が何も言わずに、ただ力強く抱き締める。
「ホントにバカだね‥‥‥‥‥。分かったよ。時間を頂戴。未来を創れるか、試してくるから」
ファタは八九十の好意的に受け取りつつ、ゆっくりと腕をほどき、八九十のことを振り返らずに去っていった。
残された八九十は、先ほどの返事を時間をかけて飲み込んだ。
<了>