●リプレイ本文
「やー。よく集まってくれたね。助かるよ」
研究室に集まったメンバーを見て、ノールは安堵の声をあげた。論文の作成がうまくいっていないのか、目の下には大きな隈がある。
「じゃあ早速だけど、この子たちを外に運んでください。この子たちの遊び道具やら好きな餌やらもあるから、自由に使っていいよ。あ、ちなみに俺は忙しくてついていけないから何か質問があるんだったらここで聞くよ」
「じゃあ質問。この子たちの健康状態ってどんな感じなの?ストレス解消だけでいいのかな?」
時枝・悠(
ga8810)はメンバーを代表して質問をぶつけた。
「体調に関しては問題ないよ。怪我も病気もない。だから思いっきり遊ばせてもらって構わないよ。むしろその方がこの子たちも喜ぶはずさ」
「わかった」
それじゃあ頼むよ、と言い残してノールは去っていった。
「依頼っていうか、小学生のお手伝いみたいですね」
そうソウマ(
gc0505)は呟いた。
カンパネラ学園の広場に移動した八人と八匹は、それぞれ思い思いに遊ぶことにした。
石動 小夜子(
ga0121)はゴールデンレトリバーのニサのお世話をすることにした。が、その心境は決して明るいものではなかった。先日、依頼でミスを犯してしまい、自身に傷を負っただけでなく仲間にも迷惑をかけてしまった。そのことがまだ頭から離れずにいる。
だが、ニサは小夜子の様子に全く気付かない。久しぶりに広い場所に出たので、若干興奮気味だ。早く遊んで!と言わんばかりに大きく尻尾を振り、小夜子に抱きついてくる。
無邪気なニサの様子に笑顔を取り戻した小夜子は、早速ニサに挨拶をする。
「こんにちは、ニサ。私は石動 小夜子よ。短い間だけど、私の言うこと聞いてね」
「わんっ!」
挨拶が終わると小夜子は、普段からニサが愛用しているボールを用意した。先ほどノールに借りたものである。
「それじゃ、早速遊ぼうか!それっ!」
ボールを勢いよく投げる。投げた瞬間にニサも走り出しており、あっと言う間にボールに追いつく。芝生を跳ねるボールを口で掴み、一直線で戻ってくる。
「すごいすごい!」
小夜子が無邪気な歓声をあげる。戻ってきたニサからボールを受け取り、頭を撫でると、
「わんわん!」
「きゃっ!?」
ニサは思いっきり小夜子に飛びついてきた。巨体に飛びつかれた小夜子はバランスを崩し、芝生の上に倒れてしまった。その上に乗り、ベロベロと小夜子の顔を舐めるニサ。
「ちょ、ちょっと、やめてよー」
と言いながらもニサの身体をぎゅっと抱きしめる。ふさふさした毛並みと共に、彼女は一時の至福を楽しんだ。
(も、もふもふ‥‥)
「はじめまして♪こんな狭い檻じゃ満足に翼も広げることもできないだろ。今日は思う存分飛んでいいからね?」
新条 拓那(
ga1294)はケージ越しに挨拶をする。相手は鷹のクロだ。クロは拓那のことをじっと見つめる。相手のことを観察しているみたいだった。
早速ケージからクロを出し、合金軍手をつけて手に乗せる。ずっしりとした重さを感じ、拓那は少し驚く。
「さぁ、行け!」
拓那が腕をさっ、と振るとクロは大きな翼を広げてふわっと飛び立った。その姿は美しく、また同時に力強くもある。空を優雅に飛ぶ姿はまさに圧巻であった。
(やっぱり鷹は雄々しく飛ぶのが一番似合うなぁ)
と考えて、嬉しくなる。
数十分ほど自由に飛ばせていたのだが、校舎のほうに飛んでいくクロを見て、拓那は慌てて指笛を吹いた。響き渡る音。指笛を聞くと、クロはゆっくりと旋回しながら戻ってきた。拓那を視認すると、徐々にスピードを落として綺麗に拓那の腕に止まる。
「はは、凄い凄い。お前ちゃんと戻ってくるんだな。あったまいいね〜。よっしゃ、これ食べな。ご褒美ご褒美」
先ほどノールからもらった好物の生肉を与える。クロは上品に一つ一つ肉をくわえて、食べていく。
「さ。それじゃあもっかい飛んでいきな!」
クロが餌を食べ終わると、掛け声をかけながら飛ばした。クロはまた、優雅に飛んでいく。
ルアム フロンティア(
ga4347)は芝生に寝転がり、キャンキャンと叫ぶチワワのサキの目線に合わせて挨拶をする。
「‥‥こんにちは、サキ。僕、ルアム。‥‥よろしくね」
と言いながらサキを撫でつつ、ルアムは今後のために吠え癖を直そうと考えていた。吠えたときに的確に注意をすれば、吠えるべきと吠えないべきところの分別がつくはずである。
まずはサキを連れて散歩に出掛ける。一応リードをつけているのだが、サキがすばしっこく走り回るのでルアムはそれにつられて引きずられてしまう。彼は異常なほど非力なのだ。
散歩をしている間、サキはいろいろなものに吠えてしまう。特に人には過剰に反応した。近くを通る人間がいるとキャンキャンと吠えて追いかけようとしてしまうのだ。
人に吠えるたびルアムはサキを止め、目線を合わせてから
「ダメ‥‥だよ」
と注意をした。最初は声をかけてもまた吠え返すばかりだったが、二回三回と繰り返していくうちにだんだんと吠えなくなってきた。
「よしよし‥‥」
そのたびに褒めて、身体を撫でてやる。その繰り返しを続け、広場を一周まわった。そのご褒美としておやつをやろうとしたのだが、ふと思いついて、
「‥‥待て」
をしてみた。しかし、効果はない。これもゆっくりと学ばせる。何度も繰り返していくと、すぐに待てを覚えることが出来た。
「‥‥よしよし。いい子だね」
おやつを美味しそうに食べるのを見ながら、ルアムはブラウエ・ミニ・ハルフェを吹き始めた。サキはリラックスした様子でルアムの演奏を聴き、しまいにはくぅくぅと寝息を立て始めた。
「取って喰いやしない、と言っても伝わらないんだろうなあ」
悠は、すでに警戒を始めているダルメシアンのケリーに向かって呟く。とりあえず広場までは連れてこれたのだが、その間にも何度か物陰に隠れて出てこなくなってしまっていた。極度の怖がりらしい。
だが、悠は隠れたからといって追い回したりしないようにした。ゆっくりと声をかけながら近づき、身体を撫でる。時間をかけて地道に、距離を縮めていく。
ようやく普通に接することが出来るようになったので、リードをつけて散歩をすることにした。時々、通行人に驚き走って隠れてしまいそうになるが、身体を撫でながら落ち着かせていく。
二時間ほど散歩をしたら、休憩がてらブラッシングをしてやろうと悠は思った。ノールの研究室にあったブラシを拝借し、丁寧に撫でていく。痛がる犬も多いみたいなので、丁寧に丁寧に。ケリーは実に気持ち良さそうだ。
その後、少し濡らしたタオルで毛並みに沿って拭いてあげる。
「なぁ。あんた、人間不信になるようなことがあったのか?‥‥私もちょっと前までは人間不信だった。今はだんだん改善されてきたけどな」
目を見ながら、手を動かしてつぶやく。
「ま、犬に言ってもわかんないかな。‥‥はい、おしまいだ。次は何して遊ぼうか?」
そう言ったところで、ケリーは悠の顔をぺろりと舐めた。まるで、感謝の気持ちを表しているかのように。
(動物が‥‥沢山‥‥。どの子も‥‥可愛い、です‥‥)
研究所に着いたとき、井上冬樹(
gb5526)はそう思い、心を弾ませた。人と接するのは苦手だが動物と接するのはとても好きな彼女にとって、この依頼はとても嬉しいものであった。
そんな中、冬樹は柴犬のジュナの世話をすることになった。欠伸をしているジュナの前に立ち、目を合わせてにっこり笑いながら挨拶をする。
「‥‥はじめまして、ジュナ。私は‥‥井上冬樹。今日は‥‥一緒に楽しもうね」
先ほどノールに動物たちの健康状態は聞いたのでなるべく運動をするようにしようと思った冬樹は、さっそくジュナの散歩をしようとした。首輪にリードを付け、歩き出す。
冬樹に合わせてジュナものろのろと歩き始めるのだが、少し歩いては止まって座り込んでしまう。だが冬樹は焦らずにジュナのペースに合わせ、ジュナが止まっても引っ張ることなくゆっくりと散歩をする。
また、ジュナが座りこんだときに水やおかしを少しづつあげて回復をうながすことも忘れない。
たっぷりと時間をかけて広場を一周する。
「よ‥‥し。よくやったね、ジュナ‥‥」
頭をわしゃわしゃと撫でて褒めると、ジュナも満足気に冬樹のことを見つめた。
「じゃあ‥‥今度はボール遊びだよ。ほら‥‥取って来て、ジュナ」
ボールを放り投げたのだが、ジュナは取ってこようとはせず、それどころか冬樹に寄り添って座り、寝てしまった。
「あら‥‥あら」
寄り添われては無闇に動くことは出来ない。仕方ないので冬樹も座り込み、ジュナの寝顔を見る。安らかな寝顔だ。その様子を見ていると、冬樹の方もだんだんと眠気に襲われてきた。
「シゲゾウ‥‥か。同じ名前とは面白い偶然もあったものよ」
片倉繁蔵(
gb9665)は陸亀のシゲゾウを目の前にしてそう呟いた。自分と同じ名前というだけあって、出会ってすぐになのに愛着が湧いてくる。
事前に図書館で陸亀の世話の本を借りていたので、ある程度のことは分かっている。シゲゾウにはまず温浴をさせようと思い、ノールから大きめの水槽を借りてきた。その中に30度くらいのお湯を薄く張る。シゲゾウの首が水から出るようにするためだ。お湯を張ったら、シゲゾウをお湯に入れてやる。やはり、陸亀は重い。
亀の反応はよくわからないが、嫌がる様子もないので大丈夫そうだろう。
10分くらいでお湯から出してやり、次は甲羅干しをさせる。といっても、広場で自由に遊ばせてやるだけだ。太陽のもとで自由に遊ばせる‥‥それだけでも健康になれるだろう。
念のため亀の餌を用意し、繁蔵は自分と同じ名の亀をじっくりと見た。のんびりと歩いている。繁蔵は安心して木陰に移動し、文庫本を取り出した。
「ミレンちゃん、ご飯ですよ〜♪」
ナイア・クルック(
gc0131)は事前にノールからもらった猫のミレンの餌を与え、警戒心を解こうとしていた。少し様子を伺っていたミレンも餌の匂いに誘われてナイアの足元にやってき、餌をむさぼった。その様子を満足そうに見るナイア。
「よーし、ご飯を食べたら次は運動だ!ほ〜ら、猫じゃらしですよ〜」
猫じゃらしを大きく振る。好奇心が旺盛なミレンはすぐに興味を示し、すぐさま飛びかかってきた。右から左。左から右。ナイアが動かす方向に見事につられるミレンがいた。
10分ほど運動させると、さすがにミレンも疲れを見せていた。ここでナイアは運動を止め、寝そべらせてブラッシングをしてあげる。
「ふわっふわでとっても可愛い♪きれいにしましょうね♪」
ブラシで丁寧に毛並みを撫でる。ミレンは抵抗をしようとするのだが、先ほどの疲れとナイアのブラシ捌きには敵わない。みるみるうちに綺麗になっていく。
「綺麗になったねー。よし、それじゃあ今度はこれだ!」
とナイアが取り出したのはマタタビだった。彼女は昔から、本当に猫がマタタビで酔うのかを試してみたくて仕方がなかったのだ。
「さーて、どうかな?」
マタタビを近づけると、ミレンも興味を示して近寄ってきた。マタタビを嗅ぐと、だんだんととろんとした目つきになってくる。そして体をくねらせながら転がり、身悶えるようになった。なんというか‥‥気持ち良さそうだ。
「マタタビで酔っ払うって本当だったんですね。でも、こういう姿も可愛い♪」
苦笑しながらも、暖かい目で様子を見るナイアだった。
ソウマは最初にあんなことを言っていたものの、内心は違っていた。
「一度は引き受けたからにはこの依頼、成功させて見せます!」
不敵に微笑をするソウマ。実は彼はこの依頼のために大量の本やネットで猫に関するあらゆる知識を集めていた。そして、この足元にいる猫のコンのために発揮してよろうと使命に燃えていた。
「さぁ、コン。おいでおいで。一緒に遊ぼう?」
コンの目の前に座り、名前を読んで手を差し伸べる。しかし、コンは警戒心を露わにして差し出された手を咬んでしまう。ソウマは痛みに顔をしかめるが、すぐに振りほどかずに頭を撫でてやった。敵じゃないことをちゃんと知ってもらうためだ。
撫で続けていると、コンはその牙をゆっくりとソウマの手から離した。ソウマはまた手を伸ばすが、まだダメらしく、今度は少し距離を保って吠えた。
ソウマは次の作戦に移る。懐からねこじゃらしを取り出して、
「ほーらコン。ねこじゃらしだよー」
とアピールをする。コンは警戒はしているものの、本能には勝てないらしくねこじゃらしに飛びついてしまう。
これで大丈夫か!そう思うソウマだが、ねこじゃらしを持たずにコンに接しようとすると、これまた距離を取ってしまう。
「これだけは使いたくなかったのですが‥‥」
ソウマはついに最終手段に出た。
「僕は猫、僕は猫、にゃーお!」
演劇部員の意地を見せ、猫の精神になりきってコンに接しようとした!
‥‥しかし、驚いたコンは無情にもソウマの額に爪をたてた。
「ぎゃー!」
その痛みに思わず叫び声をあげ、転がりまわるソウマ。
「うう‥‥コレでもダメか。一体どうすれば‥‥」
地面に頭をつけて思い悩むソウマ。その姿を見て、コンはそっと近づき、自ら傷つけた額をそっとなめる。
「え‥‥」
ぺろぺろと舐め続けるコンの姿を見て、ソウマはおそるおそるコンを撫でる。今度は距離も取らずに素直に撫でられた。それどころか、ごろごろと喉を鳴らしながらすり寄ってきた。
「コン!!」
ぎゅっと抱きしめるソウマ。そこに今まであった壁はなくなっていた。
そんなところに他の人たちもやってきた。それぞれ動物たちとの距離を縮めていたので、動物たち同士が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
ニサとサキは互いにじゃれあい、そこにミレンも加わる。その横でコンとケリーがゆっくりと近づいていく。シゲゾウがのそのそ歩き、その甲羅にはクロが止まっている。そんな中、ジュナだけはそんな喧騒の中でもマイペースに昼寝を続けていた。
参加者たちもそんな動物たちに混ざったり、遠くから見守ったりしていた。
「あ、そうだ!写真撮りましょう、写真!」
ソウマは持っていた携帯電話を取り出し、カメラ機能でぱしゃりと一枚写真を撮る。
「ありがとうございます!待ち受けにしますね!」
戦争を忘れた、つかの間の平穏が訪れる。
「ふむ。こういうのもいいものだな、ノール」
「でしょ!シビリウスさん!」
二人は晴れやかな顔をして、その平和に近づいていった。