●リプレイ本文
●雪山付近の村
依頼を請けた傭兵たちは、早速グリーンランドへ飛んだ。依頼があった村に向かうが、吹雪のせいでなかなか村までたどり着くことが出来ない。村に着いたころには、かなりの時間が経過してしまっていた。
「お待ちしておりました!」
地元の警察官が歓迎をする。が、その暇も惜しいレベッカ・マーエン(
gb4204)は早速救出に関する質問をした。
「早速ですが、この周辺の地図を貸してもらえますか?それから、山小屋の位置と安全なルートも教えてもらえます?」
傭兵たちの手際の良さに関心をしつつ、警察官は地図を開き、説明をする。
「この付近は以前、観光用の登山コースがあったんです。キメラが増えてしまってからは閉鎖してしまいましたが。そしてガイツさんから連絡があったのが、この頂上付近の山小屋です。この山小屋までは登山コース沿いに行けば問題はないと思います。雪で道が隠れていなければよいのですが‥‥」
「それじゃあ、この地図に山小屋の位置と安全と思われるルートを書いてください」
「わかりました」
警察官がルートを書き込む間、傭兵たちは陣形の打ち合わせをしていた。前衛と後方支援、ガイツを助けたあとの護衛役も決まっていく。
「行きは私がナビゲーターをやろう」
御沙霧 茉静(
gb4448)はそう提案するが、ライフェット・エモンツ(
gc0545)がこれを遮る。
「いえ‥‥ボクがやります。茉静さんの方が強いので、支援をしてもらったほうがいいと‥‥思います」
「‥‥そうですね。あなたに任せるわ」
「書き込みが終わったみたいです!行きましょう!」
沖田 護(
gc0208)が地図を持ってやってきた。あとは救出に向かうだけだ。
「コールサイン『Dame Angel』、雪山行軍にて救助敢行。途中で現れるキメラ群を撃退するわよ」
アンジェラ・ディック(
gb3967)は防寒服に身を包み、ランタンを手にして雪山へと躍り出た。
●雪山登山
雪はまだ降り続いているが、先ほどよりは止んできたようだ。だが、寒冷の空気は今も続いたままだ。
「寒い‥‥初依頼が雪山とは‥‥」
片柳 晴城(
gc0475)は銃を構え、ナビ役のライフェットの前を歩く。初の依頼に緊張をしながらも、警戒を怠らない。
「へましたら誤射するかもよ〜? なんてな」
晴城とは真逆の態度で歩くのはアローン(
gc0432)だ。その言葉に晴城はびくりとする。
「アローン君、あまり新人君をいじめない方がいいんじゃないかな」
番 朝(
ga7743)は、先ほど警察官に借りた蛍光テープを目印として木に貼りながらそう言う。その言葉を聞き、晴城は少々安心したようだ。
「溝‥‥や崖、には‥‥気をつけようね。あ、そこ‥‥危ないかも」
ナビ役のライフェットは地図と方位磁石を見つつも周りの様子を観察し、指示を出す。ところどころ迂回をしたりはするものの、基本的には登山コースから離れないように進んでいく。
「この‥‥調子だと、すんなりと‥‥行けそうだね」
無類の雪好きの彼女は、緊張感の無さそうにのんびりと言う。晴城とは違って初依頼という緊張感はないので、景色を楽しむ余裕すら感じられる。
「ライフェット殿。そんなにうまくはいかないみたいよ」
アンジェラの感覚に何かがひっかかった。アンジェラの言葉を受け、他の傭兵たちも臨戦態勢を取る。すると、前方の雪にまぎれて狼型のキメラが4体、姿を現す。
「あれが敵か‥‥見た目には普通の動物、なのか?」
「姿はいろいろ。共通してるのは‥‥俺たちの敵ってことさ」
大剣を構えながら晴城の問いに答える朝。春城も慌てて銃を構える。
「血気盛んなこったで。こんな日は家でのんびり寝ていようとかおもわねーのかい?」
アローンも銃を構える。キメラは今にも飛びかかってきそうだ。
「‥‥ま、兵器に天気も糞も関係ないか」
その言葉が終わらぬ間にキメラは襲い掛かってきた。前衛のアンジェラ、朝、レベッカはすぐさま覚醒し、応戦する。
アンジェラが「制圧射撃」で撃ち、飛びかかってこようとしたキメラたちの動きを止める。
「朝殿!レベッカ殿!頼みます!」
そこへ間髪いれずに朝の大剣が襲い掛かる。遠心力を使って振り回し、1匹のキメラの体を両断する。
辛うじて逃れたキメラに対して、レベッカはエネルギーガンを放つ。バランスを崩していたキメラは直撃を受け、倒れる。
残りの2体はアンジェラの射撃を受けたものの、一旦距離を取って再び攻撃をしかけようとした。そこにAU‐KVを身にまとった護が飛び出し、キメラの攻撃を防ぐ。
「誰も、傷つけさせはしない!今です! 撃って!」
アローンの射撃と茉静の斬撃がキメラを討つ。
「ハッ、ばかみてーに突っ込んでくるからだよ」
アローンの討ったキメラは蜂の巣にされたのだが、茉静の斬ったキメラはまだ完全に息の根を止めてはいないようだった。キメラは狼のそれに似た遠吠えをあげるが、その瞬間に晴城の銃弾が息の根を止める。
「どうしてとどめをささなかったんですか?」
晴城は疑問を問いかける。
「‥‥私は命を奪わないと決めている‥‥。たとえそれがキメラだとしても‥‥だ」
複雑な顔をする茉静。晴城はそれ以上何も言わずに銃をしまった。
「さ‥‥先に進もう。早く‥‥ガイツさんを助けないと」
ライフェットは準備していたハンドガンをしまい、すぐに地図と方位磁石を見比べた。
●山小屋救出
幸いにも、あの後キメラに襲われることはなかった。傭兵たちは慎重に、かつ迅速に歩を進めていったお陰かもしれない。
警察官に渡された地図通りに、曲がりくねった登山道を進んでいくと、視界の先に山小屋が見えてきた。大きいとは言えない、簡素な作りの山小屋だ。この先の頂上へ進むために一休みする‥‥ただそれだけのために作られた山小屋のようだ。
防寒設備が整っているようには思えない。嫌な予感が傭兵たちの中に浮かぶ。
しかし、よく見ると山小屋の屋根から黒い煙が立ちこめている。どうやら無事のようだ。
アローンは周囲を見回し、キメラの気配がないか探る。
‥‥どうやら、大丈夫のようだ。少々乱暴に扉を開け、声をかける。
「よぅ、まだ生きてっか?」
「わぁ!?」
大声を出して驚くガイツ。彼は暖炉の前で小さくなっていた。その体に銀色のシートのようなものを包んでいる。ガイツの様子を確認し、ライフェットは声をかける。
「ガイツ・ランブルスタイン‥‥さん、だよね?もう、大丈夫‥‥だよ。安心、してね」
「あ‥‥ああ。救助に来てくれた人たちか。やれやれ、今回もなんとか命を繋げられたみたいだな。助かったよ」
「ガイツさん、コーンポタージュです。よろしければどうぞ」
「ありがとう」
茉静に手渡されたコーンポタージュをありがたく飲むガイツ。暖かなスープが冷えた体の中に染み渡り、ふぅと一息つく。
「さて、ガイツさん。早速ですが山を下りましょう。ここは予想以上に危険です。先ほどもキメラに襲われましたし、ここもいつ襲われるかわかりません」
アンジェラの提案にガイツは無言で首肯する。
「怪我とかはありませんか?」
見た目に怪我は無さそうだが、レベッカは一応聞いておいた。
「大丈夫だ。体もスープで温まったし、すぐにでも出発できるよ」
「それじゃあ行きましょう。ガイツさん、僕らが守りますから安心してください」
護はAU‐KVを装着しなおす。
「めんどくせーが、あんたを連れ帰るのが仕事だからな。帰るまで死んでくれるなよ?」
「大丈夫さ。私もそれなりの修羅場は潜り抜けている。これくらいは日常茶飯事さ」
ガイツの頼もしい答えに、アローンはにやりと笑った。
●下山戦闘
山小屋の外に出ると、先ほどよりも強く雪が降り始めていた。これからだんだんと天候が悪くなっていくことが容易に想像できる。急ぎたいところではあるが、油断は禁物である。
ガイツを中心に円形の陣で歩みを進めていく。ライフェットは地図と方位磁石をしっかりと確認し、朝がつけてきた目印を頼りにして道を見定めていった。
周囲に気を配りながら、アンジェラはふと疑問だったことをガイツに聞いてみた。
「ねぇ、ガイツさん。そもそも何に興味を持ってここにきたのかしら?」
「ああ。このグリーンランドは今、バクアに乗っ取られるかどうかでかなり微妙な位置にいるだろ?この場所の取り合いで激しい戦闘も行われていると聞く。そういう場所は‥‥こう、冒険者魂がくすぐられるんだ。一度気になったらいてもたってもいられなくなって、それでここに来たってわけさ」
「なんというか‥‥すごいわね」
「能力者として適合してればもう少し楽なんだが‥‥どうやら俺はそうはいかないらしい。かといって家でのんびりしてるのも癪だから、こうして世界を旅してる‥‥っておい。あれ‥‥」
ガイツが指差す方を見てみると、そこには先ほどの狼型キメラと熊型のキメラが何体も集まってきていた。こちらに気付いたキメラたちは獲物と確認すると、すぐさまこちらに向かってきた。
「おいおい‥‥もしかして、さっきの狼キメラが呼んだんじゃねーのか?」
傭兵たちは武器を取り出し、戦闘に備える。
「ガイツさん!僕たちから離れないでください!」
「わ、わかった!」
キメラたちは一気にこちらとの距離を詰めてくる。アローンとアンジェラ、晴城が一斉に射撃を行い、朝が大剣を振り回して近づいてきたキメラたちを吹き飛ばす。
だが、キメラの勢いは止まらない。護が熊キメラの攻撃を受けるが、ふんばりが効かずにすべってしまう。
護が止めている間に、レベッカがスキルを使い攻撃力を上昇させ、エネルギーガンを撃つ。なんとか倒すことが出来たが、その隙に狼キメラの接近を許してしまう。
茉静の残撃だけでは止められず、晴城も機械剣βを抜いて近接戦闘を行う。ライフェットも刀を抜いてキメラに切りかかった。
なんとか防ぎきることは出来るが、その間にも狼と熊のキメラたちは仲間を呼び、数を増やしていく。1体1体はそれほど強力ではないが、連続で現れてしまうと先に進むことが出来ない。
「これじゃ埒があかない!みんな!全員覚醒して強行突破するわよ!」
レベッカが叫ぶ。他の傭兵たちもうなずいた。
「ちょっと!さすがの俺でも覚醒状態の能力者についていけるほど‥‥」
「あー!めんどくせえ!ほら、行くぞ!」
アローンはガイツを強引に抱え、すぐさま走り出した。朝が無言で大剣を振り回し、活路を開く。更に茉静がエアスマッシュを使って援護。前方のキメラが一斉に倒れた。
「こっち‥‥です」
ライフェットが道を示す。朝の付けていた蛍光テープが雪の中で小さく光っている。後方から追いかけてくるキメラを最低限に撃退しつつ、傭兵たちは雪山を走り抜けた。
●雪に浮かぶ灯
随分と走っただろうか。気が付くとキメラの追撃は終わっていた。諦めたのだろうか。それとも‥‥
「みんな大丈夫?はぐれてない?」
レベッカが声をかける。
「なんとか」
「ワタシは大丈夫よ」
「私も大丈夫だ」
「僕は平気です。皆さんは怪我していませんか?」
「かー。まさか雪ん中で汗まみれになるまで走るとはなー」
「俺も怪我はないけど‥‥傭兵の仕事がこんなに大変だとはな」
「ボクも‥‥ちょっと甘くみてたかも‥‥」
みんなで声をあげる。どうやら欠けている人はいないみたいだ。
「いやー。さっきのはちょっとヤバかったなぁ。はっはっは」
「はっはっは‥‥じゃねぇ!早く降りろ!」
アローンは抱えていたガイツを雪に落とす。
「ぐわっ」
傭兵たちはまた改めて周囲に気を配る。
‥‥どうやらキメラの気配は無い。振り切れたみたいだ。
「さて、それでは帰りましょうか。といっても、ここがどこだかが問題ですが‥‥」
「それなら‥‥大丈夫。ほら‥‥あれを見て‥‥」
ライフェットが指差した先には、村の温かな光があった。
「おお!ガイツさん!無事でしたか!」
「すみません、いろいろと迷惑をかけてしまって」
警察官が安堵の表情で出迎える。ガイツは椅子に座り、改めて一息ついた。そこへ春城が声をかけた。
「ガイツさん、これ。ウォッカです。体が温まりますよ」
「ありがとう。‥‥くー。効くなぁ。生きてるって感じだ」
強いアルコールに身を震わせるガイツ。
「みんな、今回は本当に助かった。ありがとう」
「‥‥まぁ、これに懲りずに似たような騒ぎを起こすんだろうがね」
「ははは‥‥。多分そうなるだろうね。冒険者はやめられないさ。ま、これからはあまり迷惑をかけないようにするけどね。また何かあったら、今度も君たちに頼もうかな」
あははと笑うガイツ。アローンだけでなく、その場の全員が頭を抱える。そこで、護が口を挟んだ。
「冒険者かぁ‥‥。ねぇ、ガイツさん。冒険記とか書いてないんですか?」
「冒険記か。そういうのは書いたことないけど‥‥それもいいかもしれないな」
「書いた方がいいですよ!あ、もしよかったら今までやった冒険のお話を聞かせてください」
「うん、構わないよ。‥‥そうだなぁ。今まで一番危険だったのは、去年の砂漠かな。あんときはさすがに死ぬかと思ったよ。砂漠を渡っていたら、超大型のキメラに突然襲われたんだ。もう死ぬって時に、空からKVが舞い降りてきてね。そこからがもう‥‥」
いつの間にか、ガイツの冒険譚に全員が聞き惚れていた。雪はしんしんと降り続け、夜がだんだんと更けていく。