タイトル:駆動訓練マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/10 15:46

●オープニング本文


 カンパネラ学園の教室では今日も今日とて様々な授業が行われている。本日の授業は‥‥。

「高速戦闘における訓練だ」
 実戦的な講義を行う轟 豪人が教卓の前でそう言った。
「戦闘時において『速度』というものは非常に重要である。敵への奇襲、味方への支援、そして仲間の救助。また、情報伝達の面で言ってもそうだ。速さがなければ敵に先手を取られてしまうし、逆にこちらの速度が上回っていれば敵の攻撃を受けることなく殲滅させることも可能である」
 モニターに実際の戦闘映像を映しながら講義を続ける。
「だが、人間の肉体では限度がある。どう頑張っても敵軍の扱う動物型のキメラには敵わないだろう。そこで、我々は様々な乗り物に乗り、自身の速度を補う。車や飛行機、そして言うまでもなくKVも我らの速度を補ってくれる。
 しかし、KVは主に大規模な戦闘や敵の強大な戦力に対して使うものだ。もし、市街地などの局地戦闘ではKVは非常に扱いにくい。周囲に市街地があってはKVは使えないからな。
そこで、君たちの出番だ」
 豪人はモニターの画面を変えた。そこには学生たちには馴染み深い機体が映っている。
「AU-KV。局地戦闘で唯一使うことのできるKVだ。このAU-KVを自在に使いこなすことが出来たならば、そこで戦局は一気に変わると言っていい。これからの戦争の鍵を握っているのは君たちだ」
 豪人の講義を聞き、生徒たちは息をのむ。
「AU-KVが実戦で使用されてもう一年以上が経過するが、ここでまた改めてAU-KVでの戦闘訓練を行いたいと思う。これから配る資料が、その訓練の内容だ」
 そこで豪人は一枚のプリントを生徒に配る。
「生徒たちにはぜひ奮って参加をしていただきたい。この訓練を見事達成したら単位をやろう。学業以外にうつつを抜かしてて単位の足りないやつもいるんじゃないか?」
 豪人はにやりと笑った。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
兄・トリニティ(gc0520
24歳・♂・DF
ファング・ブレイク(gc0590
23歳・♂・DG

●リプレイ本文

●訓練開始前
「さて、今回の訓練の会場はここだ」
 轟豪人が案内したのは、街を模した訓練場だった。一つの都市が丸々入ったような場所である。訓練場の中でもかなり広い場所であろう。
「授業のときに配布した資料の通りの場所だ。ここでバイクに乗り、訓練に励んでもらう。もう的は離してあるから、いつ始めてもらっても構わんぞ」
 豪人が見守る中、参加者たちはまず作戦会議を始めた。
「まずはこの訓練場の地図を貸してもらえませんか?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はそう言った。豪人は無言で地図を差し出す。そこには碁盤の目のように均等に区画整備がされた街並みが描かれていた。
「ありがとうございます。さて、まずこの地図の見方だけど、東西の道路にアルファベット、南北の道路を数字を振ろう。その組み合わせで的や自分の位置を知らせるようにしよう。あと、担当地域を東西南北と中央の五つに担当の箇所を分けよう」
「それでは、私は西を担当します」
「僕は東を担当するね」
 石動 小夜子(ga0121)と世史元 兄(gc0520)はそれぞれそう言った。
「私は観測係になります。皆さんに行動を指示しますね」
 自分のKVの点検しながらナンナ・オンスロート(gb5838)は言う。
「俺はホアキンさんと二人で中央を担当するよ。で‥‥そこの二人はどうする?」
 ソード(ga6675)は隣にいた須佐 武流(ga1461)とファング・ブレイク(gc0590)に聞いた。
「俺か?俺はまぁ、遊撃って感じにしようと思ってる」
「俺も決めてねーな」
「そうか。だったら、二人には北と南を担当してもらおうかな」
「ここに籤引きを作った。二人に引いてもらおう」
 ホアキンの作った籤引きを引いた結果、武流には北、ファングは南の担当となった。
「よし、始めようか。っと、その前に豪人さん。俺の乗るバイクにサイドカーをつけてもらってもいいか?ソードがアンチマテリアルライフルを使いたいみたいなので」
 ホアキンの提案に豪人は少し顔を歪ませる。
「アンチマテリアルライフルか‥‥。まぁいい。使ってみなさい」
「ありがとうございます。それじゃあナンナさん、よろしく頼む」
「わかりました。行きます」
 ナンナはAU‐KVに跨り、エンジンを吹かす。そして、アクセルを入れると同時にブースト・スキルを全開にして走らせた。一瞬にしてナンナの姿が小さくなる。
「さて、俺たちも行きますか」
 全員バイクに跨り、行動を開始した。
 駆動訓練が始まる。

●訓練様子
 ナンナは猛スピードで駆け抜けていた。街の景色が飛んでいく。目指すは街の中央部にそびえるビル。ぱっと見た限り、一番高いビルだ。なるべく速いスピードでビルの屋上まで上り、すぐに指示を出さなければならない。
 と、高速で道路を走らせているナンナの前方に何か変なものが走っているのが見える。丸くて、小さくて‥‥
「あれが‥‥的?」
 そう。参加者の今回のターゲットは文字通りの『的』である。ちょうどダーツの的のような丸い形をしたものに何重にも円が描かれ、車輪が付いて走っている。
「‥‥‥‥」
 一種異様な光景だが、ナンナは迷うことなく拳銃「アイリーン」を用意する。的はなかなかの速度で走っているが、ブースト・スキルを使っているAU‐KVに速度は敵わない。みるみるうちに的に近づいていく。ほとんどゼロ距離まで近付き、片手で撃つ。
 見事的に命中し、的に大きな穴が開く。そして的は動きを止めて機能を停止した。
「よし」
 止まった的を置き、先を急ぐ。
 中央部のビルに到着。AU‐KVを降り、最上階を目指す。
 屋上に着くと早速、軍用双眼鏡で的の位置を探る。周りを見回すと、北西のビルに的を発見した。すぐにアンチシペイターライフルを装備し、狙いを定めて撃つ。
 見事に命中。これで残りは14個となった。
「こちらナンナです。中央ビルに到着しました。移動中に地上の的を1個と屋上の的を1個破壊しました。これから他の的の探索に入ります。どうぞ」

「もう2個も的を壊したのですか。さすがナンナさん」
 小夜子はバイクを走らせながら呟く。彼女はまず、標的を探しながらもバイクに慣れることに重点を置いた。西の担当地区に向かいながら広い通りに出て、試しに全速力で走らせる。安定性のあるバイクを選んだとはいえ、全速力で走らせるとかなりの空気抵抗がかかる。これでは武器を構えるのは難しそうだ。
 次に、狭い路地に入りなるべく速い速度で走行する。バイクの安定性と小夜子の操縦能力もあり、気をつけていれば問題はなさそうだ。しかし、常に気を配らなければいけないため武器を構えることは出来ない。
 一通りバイクの運転を試していたところで、三階建てビルの屋上に的を発見した。
「こちら小夜子。Cの2付近で屋上の的を発見。これより撃墜しますわ」
まずはナンナに連絡をし、かなり広い道路に面したビルなので、小夜子は一気に加速。ハンドガンを構え、時速70キロで撃った。
 が、銃弾はわずかに的を外した。Uターンして戻ってき、次は時速60キロで慎重に撃ってみる。
 今度は命中。的は崩れていく。
「うーん、これくらいですか。やはり難しいですね‥‥こちら小夜子。Dの1で屋上の的を破壊しました」
 ナンナに報告をし、次の目標を探す。その間にも小夜子はいろいろな乗り方を研究し、自分のものにしていった。
 西エリアをうろついていると、地上を動き回っている的を発見した。
「こちら小夜子です。Cの2で地上の的を発見。追跡します」
 だが、的はかなり速い。安定性が重視されているこのバイクでは追いかけるのが精一杯だ。
「仕方ありません。こちら小夜子。Dの2の的を追跡しているのですが、追いかけるだけで精一杯です。誰か応援を頼みます」
『こちら須佐。近くをうろついてるんで、俺が向かうぜ』
 須佐からの連絡が入る。ほどなくして、対向車線に武流の姿が見えてきた。
 須佐と的が交差する瞬間、脚爪「オセ」で的を蹴りつける。的は粉々になって吹っ飛んだ。
「ナンナさん。須佐さんのお陰で先ほどの的は破壊されました。武流さん、私はUターンして戻りますので」
『はいよ』

 須佐は先ほどの的を破壊後、北地区に戻って探索を開始した。モータースポーツが得意なので、バイクの運転には慣れている。安定性に欠けるバイクだが、そこは経験でカバーしながら器用にバランスを取る。
 と、視界に何かが映る。先ほど破壊した的に、今度はプロペラが付いていた。ゆっくりと空中を旋回している。
「あれが空中の的か」
 一旦速度を落とし、片手でもハンドル操作ができるようにする。細かくブレーキとハンドルを操作し、機械巻物「雷遁」を取り出して、放った。
 的の周辺に電磁波が発生。その影響でプロペラの動きが止まり、的は墜落。破壊された。
「こちら武流。空中の的を破壊したぜ」
『お疲れ様です。あ、須佐さん。Bの3のビルの屋上に的が見えます。破壊出来ますか?』
「わかった」
 すぐさま指定された場所に向かった。バイクに乗ったまま建物の屋上を目指す。
「ぐっ!」
 階段をバイクで直接上ろうとするのだが、そう簡単にはいかない。段差を上るたびに細かな振動が襲い、そのたびにバランスを崩しそうになる。そこを須佐のドライビングテクニックがなんとかカバーし、屋上まで辿りつくことが出来た。屋上につながる扉をバイクで破る。
 視界に入った的にすぐ「雷遁」を放った。
「屋上の的もぶっ壊したぜ。下に戻って遊撃を再開する」
『了解しました』

 東エリアの兄は安定性に欠けるバイクを選んだため、運転に予想以上の苦労を強いられていた。スピードは出せるのだが、そうすると武器を構えるのが難しくなる。追いかける時には武器をしまっておいた方が良さそうだ。
『兄さん。Dの5辺りに地上を動く的が見えました。迎撃をお願いします』
 ナンナからの通信が入る。
「はいな。D・5だね?すぐ向かうね?」
 スピードを上げ、指定された場所へと向かう。
 到着すると、ちょうど対向車線から的が向かってくるところだった。先ほどの経験から、スピードを落としてソードを構え、迎撃体勢を取る。的は猛スピードを維持して突っ込んでくる。
 交差一閃。
 的は見事に切り捨てられた。
「ハイハイ。こちら兄。東エリアでターゲットを破壊したね」
『了解です。ありがとうございました』
 武器をしまい、再び移動を開始する。すると、少し進んだ路地裏に空中に浮かぶ的を発見した。早速報告に移る。
「ハイハイ、東エリアの兄だね?C・5の上空に的を発見。後は任せたよ?」
『わかりました』
 報告を終え、兄はバイクを走らせた。

『ホアキンさん、ソードさん。Cの5の上空に的があるそうです。お願いしてもいいですか?』
「了解〜。ホアキンさん。Cの5の上空にあるそうです。そっちに向かってください」
「わかった」
 ホアキンはソードと二人乗りをし、訓練を行っていた。
 ほどなくして目標の位置に到着。ソードはアンチマテリアルライフルを構える。
「目標、射程内。狙撃始めます」
 バイクの速度と目標との位置関係を把握し、タイミングを合わせ、発射。
 的に見事命中した。だが‥‥。
「?!」
 アンチマテリアルライフルの衝撃をモロに受け、バイクはバランスを大きく崩した。ホアキンが必死でバランスを取るも、転倒をしてしまった。
「いてて‥‥。ホアキンさん、大丈夫ですか?」
「ああ‥‥。サイドカーをつけても駄目だったか。衝撃が強すぎる」
「ですね‥‥バイクに乗りながらアンチマテリアルライフルは無理みたいです。今後は使わないようにしましょう。俺はブリッツェンを使います」
「そうだな。気をつけよう」
『どうしました?大丈夫ですか?』
 転倒の様子を見ていたのか、ナンナがすぐに通信を行ってきた。
「大丈夫です。転倒しましたが問題ありません。バイクも動きそうです」
『よかった‥‥それではDの4辺りに地上の的を見つけましたので、そっちに向かってください』
「了解しました」
『こちらファング。地上の的に遭遇したんで、破壊しといたぜ』
 途中でファングの通信が入ってきた。

 南地区を担当することになったファング。AU‐KVを走らせながら的を探す。二度目の依頼。気を抜かないように警戒を怠らない。
 先ほど地上を走る的をすれ違いざまに切り捨てた。
 バイク上で武器を構えておいて仲間に怪我をさせるなんてドジを踏まないように、しっかりと武器を鞘へ納める。
 探索をしつつ、先ほどの遭遇を思い出した。
 まだ傭兵としての経験が浅い彼はまだ上手くAU‐KVを操作しきれないらしく、攻撃のため片手を離した際にバランスを崩しそうになった。そこであえてスピードを上げて機体を安定させて体勢を立て直し、的と交差する瞬間を狙い、斬った。
 なんとか上手くいったが、自分の運転技術の未熟さを痛感することとなった。完璧にコントロールするには技術を磨くしかないだろう。
 反省をしながらも索敵を続ける。すると、前方に空中を浮遊する的を見つけた。
「こちらファング。F・3で空中の的を発見。破壊する」
 彼にはもう一つ、この練習で確認したいことがあった。それを実行するため、直接目標に向かわずに辺りを窺う。
 すると、空中の的の少し手前に路上駐車をされた車を発見した。
「あれがいいな。よし!」
 AU‐KVのブースト・スキルを発動させて一気に加速。そのまま車を踏み台にしてジャンプをした。
 上手く空中を飛び、眼前まで的が迫る。一瞬で忍刀「鳴鶴」を抜き、切り裂いた。
 左手で「鳴鶴」を持ちながらもハンドルを抑え、衝撃に備える。
 衝撃でAU‐KVが歪む音がする。
 もう一度機体が地面から離れ、二度目の空中浮遊。
 その後地面に着地するも、衝撃は消えない。タイヤが軋み、装着していた武器が外れて飛んでいってしまう。
 コントロールがうまくいかずにそのまま数メートルほど真っ直ぐ進んでしまった。一度体勢を立て直すために急ブレーキを踏み、止まった。
 ファングは慌ててAU‐KVを点検する。衝撃の影響であちこち痛んでいる。普通に乗るくらいならなんとかなりそうだが、もうこれ以上の無理な運転は出来ない。
「ふう。かなりの衝撃だったな。飛んだあとすぐに攻撃に移行するのは無理‥‥というか、これはいざという時にしか使えないな。この後AU‐KVが動かなくなる覚悟もしてから使わないと‥‥」
 吹き飛んだ武器を回収するファング。確認は済んだようだ。
『こちら小夜子です。ただいまDの2から南に向かって地上の的を追跡中です。誰か来られませんか?』
「Dの2か‥‥近いな。こちらファング。俺が行こう。小夜子、引き続き追跡を頼む。挟み撃ちだ」
『了解しました』
 ファングは再びAU‐KVを走らせた。

「久しぶりの狙撃ですが、腕はなまっていないみたいですね。こちらソード。Dの4の的をホアキンさんが破壊し、更にCの4の屋上の的を破壊しました」
『了解しました。先ほどファングさんから地上の的の破壊連絡を受けました。これで地上の的は全て破壊しました。あとは空中の的2つと屋上の的1つです』
「‥‥おい、ソード。あれを見てくれ」
 バイクを操縦するホアキンから声がかかる。ソードが前方を見ると、右側のビルの屋上に的があり、左側の道路の空中にふわふわと的が浮いている。
「‥‥同時にいけるか?」
「任せてください。こちらソード。Dの3で屋上と空中の的を発見。同時に破壊します」
『はい。先ほど兄さんからの連絡で、須佐さんが空中の的を破壊してくれました。ですので、その二つで最後になります。よろしくお願いします』
「了解〜」
 ソードはスキルの狙撃眼を使い、狙いを定める。ホアキンもソードが狙いやすいようにバイクの位置と速度を調節する。
 二発の銃撃音が街に響く。
「ふぅっ」
 ソードが一息つく。ホアキンが確認すると、屋上と空中の的に見事な穴が開いていた。
「こちらソード。無事2つとも破壊しました」
『お疲れ様です。みなさん、これで全部の的が破壊されました。訓練は終了です』
 ナンナの声がそれぞれの無線機から響いた。

●訓練終了
「諸君、ご苦労だった。バイクに乗りながらの訓練はいかがだっただろうか?意外と苦労したんじゃないか?」
 豪人は訓練を終えた参加者を迎え、嬉しそうな声を出した。
「この訓練を生かし、戦場で更なる成果を上げて欲しい。君たちの武運を祈る。以上だ!」
 参加者に喝を入れ、豪人は去っていった。
「さて、それじゃあ皆さん。使った車両はきちんと洗車して返しましょうか」
 小夜子の提案で参加者たちは各々の使ったバイクを洗い始めた。
「ここはこう洗うんだ」
 須佐の指示のもと、バイクはみるみるうちに綺麗になっていった。
 それぞれが新たな課題を胸に刻み、駆動訓練は修了した。