タイトル:【CO】PB要塞防衛戦マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2011/12/25 22:04

●オープニング本文


『A mali estremi estremi rimedi.大変な病巣には思いきった処置が必要であると言う通り、我々は之を以て停戦を破棄、諸君に宣戦を布告するものとする』
 その放送が突如として無線に流れたのは、12月11日0600時の事だった。
 前線では不寝番の者達が緊張感を漂わせて周囲を警戒し、寝惚け眼だった兵も無線を耳に当てる。要塞では佐官級以上の者達が1人残らず副官に叩き起こされ、有無を言わさず無線を渡された。
 アフリカで戦う多くの人類が、固唾を呑んで無線に聴き入る。
 そんな中、嗄れた――かつての忠臣が聞けばすぐにそれと判る声色で、現在のバグア・アフリカ軍総司令ピエトロ・バリウスの布告は続く。
『そも先日来、緩慢に守られてきた停戦なるものは一時的なものに過ぎず、我々の行うあらゆる活動は宇宙の摂理に基づく絶対不変のものである。然るに諸君は今以て我々を受け入れぬばかりか、あまつさえ寛容なる我々に一矢報いた事をしたり顔で誇る始末。故に我々は現時点を以て人類生誕の地を再び奪還し、むずがる子らに灸を据えてやることとしたのである』
 淡々と紡がれる言葉はともすれば右から左へ抜けそうになる。
 が、前線で聴いていた者達にはこの宣戦布告が厳然たる事実であるという証拠を早くも突きつけられる事になった。というのも、
『――諸君の健闘と、従順なる成長を祈る』
 無線が切れるより早く、南の彼方から、黒い波濤が押し寄せてきたのである‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 ピエトロ・バリウス要塞。
 前線に布陣する様々な軍団が連絡を取り合いながら戦場を整理し、唐突な敵の進攻に対して最小限の被害で食い止めんとする。それらの種々雑多な連絡は当然要塞の通信室にも伝えられてきており、そこはさながら戦場のようだった。
 通信が溢れ返り、膨大な量の情報が流入してくる。それを司令や参謀らが取捨選択し、適宜必要な指示を出していく。
 また、そんな電波の戦争と別の場所でも、戦闘準備という名の戦争が始まっており、格納庫や宿舎や要塞の至る所で怒声が響いていた。
「グズグズしてる奴ァセーヌ川に叩き込むぞォ!」
「帰れたら喜んで飛び込んでやるさ!」
 怒りをぶつけるように素早く点検する整備士達である。
 一方、戦略の修正を余儀なくされた上層部は、作戦室に行く手間も惜しむように通路を大股で歩きながら議論を戦わせていた。参謀の1人がわざとらしく吃音を鳴らして早口に語る。
「こ、こ、こうなればヴァルキリー級‥‥ジークルーネの帰還が間に合ったのが有難い。あ、あの艦をこのまま前線の移動要塞のように活用し、で、できるだけ敵進攻を遅らせましょう」
「しかし。‥‥傭兵との共闘も不可欠となる、な」
 先日より広まった噂は把握している。当然兵卒達には、敵の策略だ捏造だとする話を出した。逆にアフリカ南部偵察の成果という明るい話題もあった。けれども、一度揺らいだ感情を全く元と同じに戻す事はできない。
 表面上協力する事は、命令すればおそらくできる。が、戦闘で大切なものの1つは本当の信頼、阿吽の呼吸である。それができるかどうかは、戦闘が始まってみなければ分からなかった。
「それは信じるしかあるまい。我々が今やるべき事は‥‥」
 その時、やや後退しながらも奮闘を続ける前線から、新たな情報が舞い込んできた。すなわち。
 敵編隊が前線の一角を突破、この要塞へ向かっている、と。

 前線から戦力を引き抜き、要塞へ集結させて防衛する。
 その決定は可及的速やかに実行に移された。しかし戦闘中に各々の部隊を整理し、整然と別所へ救援に向かわせるのは存外時間がかかる。敵の方が先に要塞に到着する事は確実だった。
 だからこそ、まずは現有戦力だけで何とかせねばならない。少なくとも、その気概で臨む必要がある。
「ララ・ブラント、ASH‐01アッシェンプッツェル、出ます」
 格納庫から飛び出すKV。さらにウーフー2、ヨロウェル、ディアマントシュタオプ2機、クノスペと同小隊の5機が続けて飛んでいき、地上を歩兵戦闘車が砂塵を上げて走っていった。他にも多くのKVが迎撃に上がり、自走砲や対空ミサイル搭載のトラック等が次々出撃していく。
「こっちに来て早々こんな事になるなんてな‥‥」
 スペインより渡ってきた傭兵が軽く舌打ちし、自らのKVを駆っていく。
「時間が空いた時にでも、ね。‥‥がんばって」
 民間の菓子商の少女がわざとらしくしなを作って軍の能力者にエールを送り、ミニサイズのスニッカーズを手渡す。
 傭兵達はそれらを視界の端に収め、足早に自らの機体に乗り込んだ。
 操縦桿を確かめる。コンソールを叩いて起動手順を消化。武装確認、完了。深呼吸。首を右左と鳴らし、前を見据える。自身、愛機、共に暖まってきた。操縦桿を押し倒す。ペダルを踏んだ。戦場の煙たい臭いが意識を覚醒させる。
 さぁ、行こうか。
 傭兵達の機体が速度を上げていく――!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 響く警報。回る赤色灯。滑走路は人、KV、車輌等でごった返し、エンジン音が暴虐の限りを尽していた。
 そんな、離陸までの僅かな間隙。含みを持たせた視線を幾度となく浴びせられた舞 冥華(gb4521)はフェイルノート機内で操縦桿をいじいじしていた。
「冥華‥‥あいどるなのに。あいどるさんはにんきものじゃなきゃまねじゃにおこられるのに」
『そこエルロンだの装輪だの動かすな!』
「んー」
 誘導員に怒られる冥華である。その冥華に代るように、無線に呼びかける少女がいた。
 少女――愛梨(gb5765)が人物と周波数を指定し7秒、目的の相手がそれに応じる。
『こんな所で私を呼び出すなんて、余裕なのね』
「最近ここで何かあった、よね。何があったの。教えて」
 妙な軍の雰囲気を感じ、愛梨が訊く。そこで漸く彼女らは知る事となった。先の戦闘が悪意を持った誰かに撮影されていた事。そしてその映像が一部に流れ、噂が広まっていた事。
「‥‥成程、居心地悪い訳だ」
 同じく気になっていた黒木 敬介(gc5024)が鼻を鳴らす。ムーグ・リード(gc0402)が引き結んだ口を重々しく開く。
「ソンナ、事、ヲ、一体‥‥」
「あいつだ‥‥ドゥアーギ」
 ムーグが訊くより早く、愛梨は答えを告げていた。
 脳裏に浮かぶのはスーツの男。先の戦闘で男が懐に何かを収めた。それがカメラだったのだ。あの時奴を撃っていれば、壊せたかもしれない。
 忸怩たる思いで愛梨が奥歯を噛み締める。様々な苦いものが胸から込み上げ――溢れる前に、誘導員の合図が鳴った。
「――さて。事実を知り何を成すか、といったところかね。まあ、私は――」
 揺ぎ無い何かを表すように漆黒のK‐111、UNKNOWN(ga4276)機は離陸していった。

 一方でこちらも無線に呼びかけるのはロッテ・ヴァステル(ga0066)だ。内容は、
「アロンソ! いるのは判ってるわ、出てきなさい。隊長命令よ!」
 呼びかけでなく命令だった。幸臼・小鳥(ga0067)が苦笑して言う。
「まさか‥‥こんなとこ」『すまない、もう空なんだが‥‥降りないとまずいか?』「ぇぇー、あやや‥‥!?」
 機内で1人わたわたする小鳥である。その間にロッテが手早くこちらの作戦を伝えた。ロッテ機スレイヤー、La mer bleueの機関が唸りを上げ、出撃を待つ。
「貴方は爆撃型を。そして聞いているか判らないけど、ララ小隊の友軍へ」
 前の機体が横に滑り、滑走路が空いた。ロッテがペダルを踏み、舞い上がりつつ無線に話しかける。
「私達が率先して敵を崩す。貴女達は要塞を守って。‥‥信じてるわ」
 噴炎激しく南へ機首を向けるロッテ機。
 月影・透夜(ga1806)機ディアブロ月洸弐型――もとい影狼が、力強い軌跡を描いて続く。
「『影狼』の初陣だ。派手に行かせてもらうぞ」
 ブーストで一気に高高度まで突き抜ける影狼。
 空は青。眼下に見えるは広大な大地と要塞、そして――バグア軍。

●殴り合い
「はっはぁ! いざ参れ人間ども! 我と存分に闘り合おうぞ!!」
 HWの上に仁王立ちする男が猛ると、声そのものが衝撃波の如く大気を貫き、届いた。飯島 修司(ga7951)機ディアブロがロッテ機の斜め後ろにつけ、敵軍を見据える。彼我の距離は1000m。修司が引鉄に指をかけ、
「いやはや全く、アレはどういう理屈で立っていられるのか‥‥」
 指を引く、寸前。素早く横隊となった敵軍が一斉にプロトン砲を解き放った。
 迸る光の嵐。傭兵各機がバラバラとロールして空を滑るが、圧倒的質量を前に回避しきれない。Anbar(ga9009)機シコン、ルムアが敢えて沈み、すぐさま機首を上に転じた。
「むざむざ要塞を落とさせる訳にはいかねえな。不協和音はまぁ、全力で吹っ飛ばしてやるさ!」
「その意気だ。よいせっと。では、道を――作ろうか」
 軽快に先頭へ躍り出たのはUNKNOWN機。さらに冥華機、Anbar機が機首を敵軍ど真ん中に向けるや、3機が無数のミサイルを発射した。白煙を曳いて正面から敵に迫る誘導弾の嵐。それが敵軍中央で炸裂し、大量の煙を吐き出した。
 乱れる敵軍。ケイ・リヒャルト(ga0598)が僅かに覗いた青い立方体を狙撃してみるが手応えはない。ケイ機、透夜機が高度を上げて敵軍へ向かう。時任 絃也(ga0983)機R‐01がブーストで2機に追従、3機が翼端に水蒸気を曳き高空を駆ける。
「アレは腹に何を抱えているか判らん。不気味な戦力は落すに限る」
 狙いは敵後衛、BF3機。

 砲声砲声砲声!
 散開と集合を繰り返し直進してくるHW編隊。BFへ向かわんとしたムーグ機があまりの敵の多さにそれを諦め、先に敵前衛へAAMを放ちまくる。合せて愛梨機が直掩HWにやはりAAMを撃った。
 命中。早くも要塞南方の空は白と黒の煙で溢れ返る。敵光線。被弾。補助翼制御、白煙に紛れて敬介機フェンリルが敵へ一気に肉薄した。続くAnbar機。見る間に距離がなくなる。敵フェザー砲を潜って躱し、至近から光線連射。交錯寸前、Anbarが種子島の引鉄を引いた。
「折角のコイツだ。使わんと勿体ない!」
 宙を貫く一条の光。遅れて敵が小爆発する。さらに後方、小鳥機が警告と共に粒子砲を解き放つ!
「伏せて‥‥下さいねぇー!」
「新発見だね。戦闘機って伏せられるんだ」
 軽口を叩く敬介が翼を翻し戦果確認。敵は最小限の迎撃に留め直進を続けている。敬介がAnbar機と共に再突入せんとしたその時、横合いから、軍の4機がシュヴァルム編隊でHWに突っ込んできた。
 ――できれば先に言ってほしかったね‥‥。
 速度を緩めて友軍の一撃離脱をやり過ごす2機。
 が。
「うむ、心地良い混沌だ! 我もゆくぞ!!」
 大音声が轟いたと思うや、小さい影が白煙から飛び出してきた。その影は離脱せんとした友軍の1機に飛び乗ると、風防を踏み抜いた。3度、4度と繰り返したのち、影――ガンボは再び跳躍する。
 そして敵が跳躍の頂点で次の標的を見定めんとした、瞬間。
「地獄でやれと言った筈よ、戦闘狂!」
 ロッテ機ブルーの翼が、巨躯を正確に吹っ飛ばした。修司機がそれを追って機関銃をばら撒く。
 地に落ちる敵。ロッテ、修司が操縦桿を押し倒す。
「さて、バケモノ退治といきますか」
 低空へ向かう2機。逆に敬介、Anbar両機はHW編隊を後方から突き上げる。そこに。
 初めのK‐02を受けた地点で動きを止めていたタロス達が、一斉砲撃してきた‥‥!

●乱戦
 高高度でHW等の敵前衛を飛び越えたケイ、絃也、透夜の3機が戦場を見晴るかす。
 前衛は銃砲火の応酬で乱戦。敵後衛はBFと、さらに後ろにティターン、CW、キメラ群。ケイが徐にCWを狙撃した。
 1発で爆ぜる立方体。だが全てのCWを撃つ暇は、ない。
「パワーダイブ、行くぞ!」
 透夜の号令を合図に3機が唸りを上げて急降下した。
 BFの迎撃装置が火を噴く。カンカンと装甲を叩く銃弾。絃也機がミサイルポッドを解放した。タロスが気付き、3機がこちらに光線を放ちつつ接近してくる。ケイがついでにCWまで射程に入れK‐02を放った。透夜機影狼からBFに力の奔流が駆け抜ける!
「一気に終らせる!」
 3機が各々BFへ。透夜が撃つ。絃也が敵後部へ回り込む。ケイ機トロイメライはさらにミサイルを撒き散らす。敵応射は装甲に任せ、タロスが来るより先に片付けんと3機がBFと交錯。
 敵砲撃がケイ機右翼を直撃。ラダー制御、機首を上げ背面飛行となった。絃也機がBF後部を撃ちまくってハッチを潰す。
 透夜は機首を上げるや、そのままBFを下から突き上げた。
「今までの信頼が足りないなら、今の行動で示してやるさ‥‥!」
 KA‐01を至近から発射、翼で裂くように空へ駆け抜ける!
 一瞬の後、爆発。
「残るは2機、さっさと‥‥」
 透夜が勢いを駆って別のBFに向かわんとした、その時。
『――!』
 人間には聞き取れぬ音が大気を震わせ、直後、BFから大量の小型キメラが放たれた。それらは3機に絡みつくと、なんと硬化していくではないか。
「っ、‥‥面倒ね」
 操縦桿を傾けるも反応が鈍い。ケイは紅い唇に舌を這わせ力場展開、軋む機体で強引に変形し、ハッチの壊れたBF直上に飛び降りた。そして練剣を突き刺す!
「万一同じキメラを排出されたら困るの。さようなら」
 敵を蹴落とすように跳躍、再変形するケイ。彼女はそんな無理をしれっとやってのけ、微笑した。
「タロスのお出ましね、優しく歓迎してあげるわ」

 乱れ飛ぶ光線。絡み合う機体。タロス10機が面で押してくるのをぎりぎりで躱し、あるいは受け、傭兵達は直進するHW編隊へ執拗に一撃離脱を繰り返す。
「今、隙を作ろう」
 BFを狙うケイ達が敵後衛へ噛み付いた事を視認したUNKNOWNは自らを囮とするようにタロス眼前で急旋回、HW編隊へ突っ込んだ。合せて愛梨機が敵直掩を撃ちまくる。
「っ‥‥うー、うぅうう!」
「愛梨、サン‥‥!」
 やや強引に撃つ愛梨機にムーグ機が追従、直掩HW目前で左旋回すると、2機を追ってHWがフェザー砲を放つ。そのHWを個人傭兵のアロンソが銃撃した。
 そうして拓いた穴に、間髪入れず4機が突撃した‥‥!
「要塞を守るのが‥‥最優先ですぅ!」
「せんせー、にゃんこせんせー」
 小鳥の集積砲が火を噴き、冥華の黒猫ミサイルが爆撃型を直撃する。Anbarが弾幕を張ると、敬介機から伸びたレーザーが敵機を貫いた。
 一瞬の交錯と離脱。7機の銃砲火がHW編隊に炸裂し、猛烈な黒煙を噴き上げた。が。
 墜落する影は7。UNKNOWNが観測――直掩4、爆撃型3。黒煙の中からHWが飛び出していく。残るHWは直掩2、爆撃型6。冥華機、敬介機がスライスバック、素早く敵背後につけるやスイッチを押した。
「『誰か、アツクルシイ友軍』へ。敵編隊が抜ける、要塞より方位2‐0‐0高度3000。緩降下で接近中。‥‥頼んだ」
 噂? 不信? そんなもの、結局目の前の事実さえ見誤らなければただの世迷言だ。
 敬介の光線が敵を穿つ。冥華機からK‐02が放たれた。撃墜、HW1と爆撃型2。そして、
『――ララ小隊、了か‥‥れより戦‥‥る』
 暑苦しいバカの言葉が、確かに聞こえた。

「ッらァ最後の切札イケメンきたッスよぉ!」
 植松・カルマ機ディアブロ昇天盛りカスタムがララ小隊に従いポイントへ急行。敵影が見えたと同時に引鉄を引いた。
 敵先頭の姿勢が傾ぐ。ララ小隊の2機がAAM発射。が、敵進攻が速い。牛歩の如く伸びるAAM。加速する敵。AAMが真横から敵編隊へ突っ込んだ。
 一瞬の静寂と、爆発。カルマは一気にペダルを踏み込む!
「抜かせてたまるかよ、ア? 死んでほしくねェ人が、あそこにゃいるんでねェ!!」
 リニア砲発射。機体が後ろに引っ張られそうな反動を肌で感じ、直後、爆撃型へ着弾した。爆煙。そこにララ小隊が撃つ撃つ撃つ!
『観測、最新データを。これでは視認‥‥!?』
 ララが仲間と通信せんとした、その時。何かが、駆け抜けた。断末魔の如き唸りを上げて俯角からカルマ達を襲ったそれは、KVに留まらず要塞の外壁までぶち抜く。
「ックソでけぇプロトン砲‥‥!?」
 カルマが顔を歪めて機体制御した隙をつき、HWが最大加速した‥‥!

●幕間
 要塞上空に到達したのは、2機の爆撃型だった。
 カルマ達を一瞬で置き去りにし、外縁へ。激しい対空砲火の中、1機が腹に積んだ脅威ごと墜落する。弾薬庫に突っ込んだそれは臓腑を灼く衝撃と共に爆発、黒い茸雲を作り出した。残る1機はそれも掻い潜り要塞中央部へ。そして迎撃ミサイルが飛来するより早く、敵はそれを投下した。
 それを見た者にとって、永遠にすら思える一瞬。
 重力に引かれて要塞に吸い込まれたそれが、息つく間もなく破壊を撒き散らす。上空のHWは直後に爆散したが、それが些細な事と思える程の地響きが、要塞を震わせた。
 警報。次いで被害報告。
『A――区画炎上、隔壁――、ネーリング少将及び幕僚7名死――』
『第67機械――大隊全滅、第――』
 通信室は、混乱の坩堝に叩き込まれた。

 低空で紙一重の巴戦を繰り広げるロッテと修司は一進一退の攻防を続けていた。
 弾丸の如く突っ込んでくるガンボ。修司機が真っ向から主翼で受けると、敵は強靭な膂力で翼にしがみ付いてくる。右左下上と振って引き剥がすと、修司はD‐02、R‐703と立て続けに発射した。
 宙で両手をクロスして受ける敵。強烈な赤い光が敵体表を一瞬覆った。
「修司、援護お願い!」
「了解」
 G放電を放つ修司。敵が電磁波に包まれた。直後、敵頭上から人型となったロッテ機が急襲する!
「墜ちなさい、この空から!!」
 大上段から振り下される大剣。圧倒的質量のそれをしかし、敵は白羽取りするかの如く両手で掴んだ。が、ブーストしたロッテ機が上から物理的に押え込む。僅かな拮抗の後、敵体躯が弾かれ砂地へ吹っ飛んだ。
 砂塵を巻き上げ埋まる敵。そこにロッテが連射!
「一気呵成に攻めますか」
 オマケとばかり修司機からあらゆる砲弾が吐き出された。ロッテ機が再変形して修司機に並ぶ。
 朦々と土煙が舞い、敵影すら見えない。反応もなし。とはいえ奴がこれで死ぬとは考えられなかった。
 ロッテが一言断り、補給に戻る。
 主戦場から僅かに外れた高空を巡回する鷲羽・栗花落機西王母、キナロイデス。その巨体はそこにあるだけで安心できた。
「産地直送だよ〜、ちょっと早めのクリスマスプレゼントだよ〜」
「栗花落、お願い」
「かしこまり! 速度を合せて‥‥むー、失敗しちゃうかもしれないけど大目に見てほしいかも?」
「大目に、見ると思う?」
 ひぃんと悲鳴を上げつつ、栗花落はコンソールを眺める。慎重に操縦桿を傾けシステム作動、補給開始。
 戦闘の合間の僅かな休息。雑音混じりの無線で戦況を把握せんとした、その時だった。要塞が、爆撃されたのは。
 通信が溢れ、混乱の度合いが逆に解る。ロッテは空を見晴かし、突撃したHWが既に撃墜された事を確認した。
「完了っ」
「了解。‥‥栗花落」
「うん?」
「ありがとう、支援に来てくれて」
 ロッテ機がブーストして戦線に復帰していく。その後姿に、栗花落は唇を尖らせ反抗した。
「そーいうフラグっぽいの禁止!」

●彼と彼女の戦争
 戦場は目まぐるしく流転する。
 HW編隊の一部の突破を許してしまった主迎撃班だが、それを悔やむ時間もない。小鳥、冥華機が補給へ戻り、正面はUNKNOWN、Anbar、愛梨、ムーグ、敬介の5機と軍の3機と個人傭兵。対するタロスは10。敵は各個射撃に移り、四方八方光を撒き散らす。
 ロールを打って左に滑る愛梨、ムーグ。正面切って残る3機とアロンソが敵に向かい発砲、敵群の下を潜って旋回する。それに敵が食いつくと思いきや、軍の3機が右翼から切り込んだ為、逆にそちらに敵が集中してしまった。
「全く世話が焼けるね。軍内部での練度に差がありすぎるよ」
 敵光線を次々浴びる軍KV。敬介がAシステム及びMブースト起動、鋭角に急旋回して敵に突っ込む。光線の応酬。交錯、チャクラムの如き敵の刃で機首から縦一文字に機体を削られた。
 機体制御、辛うじて群を抜け翼を翻し――た時、雑音だらけの筈のオープン回線に男のクリアな哄笑が響いた。
『――く、はは‥‥ははは! 見ましたか、先程の攻撃を! いや恥ずかしながら私、これに乗るのは初めてでしてね。しかし素晴らしい! どうですか、皆さん。私は無駄が嫌いです。早くこの地から去っていただけませんか』
「ドゥアーギ‥‥!」
 愛梨が操縦桿を強く握った。声は続く。
『ねぇ、皆さん。すぐに去り、静かな抵抗を繰り返すだけならば私は何もしません、ある程度の安全を保障しましょう。ですからどうか、どうか帰ってほしい。‥‥あぁ、タダで帰すと言われても信用できませんか? ではこうしましょう、傭兵を差し出して下さい。そうすれば私は皆さんの棲処を保障します、閣下にも掛け合いましょう!』
 調子に乗って長広舌を振るう敵。UNKNOWNがタロスに砲弾を叩き込みつつティターンの位置を確認する。愛梨機の機動が直線的になり、3度の衝撃が機を襲った。ムーグが機関砲を乱射する。
『どうですか。皆さんの安全と、人非人の命。簡単な事です。‥‥私もね、例の映像を観ました。いや敵ながら酷すぎる。私は今、威嚇の為に外壁のみを破壊するという手段を取りましたけどね、そんな私より奴らの方が野蛮だと思いませんか! 皆さんと一定の関係を築きたい、私はそ』

「ッ、ドゥア――――ギ!!」

 愛梨の咆哮が、無線を通じて敵と要塞の時を止めた。少女特有の、割れそうで不安定な声。
 たん、たたん、ひゅるる。
 銃砲声だけが戦場に響く。愛梨がゆっくり口を開いた。
「‥‥皆が観たって映像は、事実。もしかしたら事実より酷い編集とかあるかもだけど、大筋は本当。あたしはその場にいた。救いたかった。救えないと思った。だから‥‥殺した。アフリカを取り戻したいから」
 愛梨機から伸びたAAMがタロス胸部を直撃する。UNKNOWN、Anbar、ムーグが物量で撃破。爆発に煽られ愛梨機がフラついた。
「ただ信頼してなんて今さら言っても無理だって、解ってる、だけど! だけど、あたしはアフリカを取り戻したい。その為にはあたしだけじゃだめで、傭兵だけじゃだめで。みんなじゃなきゃ、だめなの‥‥だからお願い、力を貸して‥‥あたしは、アフリカを取り戻したいの‥‥っ」
 堪えきれない何かが愛梨の胸に溢れ、熱いものが瞳を濡らす。零れそうなそれを愛梨は拭い、ひた隠した。
 タロスの光線が愛梨機に集中する。尾翼損傷、全補助翼欠損。風防に亀裂が走り、コンソールから漏電した。ムーグが懸命にフォローするも手が足りない。UNKNOWN、敬介が敢えて囮とならんとするが敵攻撃は揺らがない。また1機減った軍KVが戸惑うように敵を撃った。
 ティターンが遠くの高高度で力を充填する。砲撃準備か。UNKNOWN、敬介は見逃さず、機首を転じた。
『全く。こうしていたいけな少女を演じて貴方達に命の強要をするのが奴らなんですよ。いいですか皆さん、騙さ』
「私、ハ。‥‥私、ハ、今、嬉シイ、デス。皆サン、ト、志ヲ、共ニ、戦え、ル、事、ガ」
 たどたどしくドゥアーギを遮ったのは、本来ならこの地で生き、この地で死ぬ筈だった男。彼――ムーグは慣れない言葉で必死に仲間に話しかける。
「私、ハ、皆サン、ヲ、信頼、シ、マス。皆サン、ト、ナラバ、コノ、地ヲ、救う、事、ガ、デキ、マス」
 UNKNOWNが対空砲をティターンに放つ。躱す敵。タロスが攻勢を強めた。
『はは、皆さん、今度は具体性も何もない夢物語ですよ。あの手この手で篭絡せんとするこの見苦しさ! いい加減に見限ってやりましょう!』
「何故、ナラバ」
 何故ならば。
 子供を虐殺し、拷問した映像を観て、悼んでくれたから。だから自分は、共に戦いたいと思った。この地の事を本気で考えてくれているから、だから。
「私、ハ、皆サン、ヲ、信頼、シ、マス。皆サン、ト、ナラバ、コノ、地ヲ、救う、事、ガ、デキ、マス」
 ムーグ、愛梨、Anbar機が撃ちまくる。5機へと数を減らしていたタロスだが、その5機が一斉に砲撃してきた。避けきれない。傭兵が自機の制御に手一杯な間隙を衝き、ドゥアーギの指示か、敵は軍KVを狙った。
 愛梨機がブーストして射線に割り込み光線を受けると、爆発して墜落していく。敵がさらに砲口を向けた。その時。
「むずかしーこと冥華よくわかんない。でも愛梨いじめるなー」
 冥華のK‐02と小鳥の粒子砲が、敵を貫いた‥‥!
「絶対に要塞は‥‥やらせないですよぉー!」
 2機が加わり、混戦が再び始まる。そして
『――傭兵各機。我々は一時的に諸君の指揮下に入る』
 空飛ぶ友軍が翼を振った。
 これで全てが上手くいく訳ではない。だがそれでも、その言葉は彼と彼女の耳に快かった。

●形勢逆転
 透夜機影狼が強引に飛ぶ。絃也機が風を掴む。ケイ機トロイメライは無理な機動が祟ったか、高度を下げる。
 敵はBF1機、CW2機、タロス3機。タロスの砲撃が影狼左翼を叩く。ラダー制御、透夜が右左と機体を振ってキメラを剥がさんとするが、硬化した敵は全く離れない。絃也がいっそ構わずBFに弾幕を叩き込む。
「当初の作戦に従い、BFを撃破する」
「補給に戻りたいところだけれど」
 ケイ機はタロスに牽制射撃して反転し、BFの陰に隠れんとしていたCWを素早く中央に収めた。即座に発砲。低伸する砲弾。命中、パッと青い粘液が散った。それを見届ける暇なくケイは左旋回。
 遠くの空を栗花落機西王母がのびのび飛んでいた。今は破暁とフェイルノートが行っているようだ。
「あそこまで戻るとなると、考えものね」
「なに」透夜機がブースト、一気に高高度へ舞い上がるや反転して急降下!「さっさと落せばいいだけだ!」
 力の奔流がBFを穿つ。初撃の再現の如き一連の攻撃が敵を屠り、透夜は当然のようにタロスに機首を向けた。銃弾をばら撒き3機に肉薄。敵は編隊を組み相互支援を密にしている。
 ケイ機が最後のCWと飛竜型キメラを蜂の巣にした。絃也、透夜がシザーズから銃撃。そこで、ドゥアーギと愛梨達の駆け引きが始まった。
 この時ティターンに最も近いのは彼らだった。が、3機はまず敵を減らす事を優先した。その選択が結果的に愛梨達の対話を助け――
 次の被害を生んだ。
 タロス2機を撃破し最後にかかろうとした瞬間、上空の敵が再び大型プロトン砲を解き放った。断末魔の如き砲声。大気を突き破る衝撃。圧倒的な奔流が頭上を越え、俯角に要塞へ向かい、破壊を振り撒く。
『はぁ‥‥情に絆されず現実を見ましょう。お願いします、私は無駄が嫌いです』
「抜け抜けと」
 説得は無理と判断したか、ドゥアーギがほざく。透夜が奥歯を噛み締めた。絃也がタロスを狙撃し、既定事項の如く言った。
「R3を撃破後、可及的速やかにT1へ向かう」

 2度目の激流。それは要塞を狙うと同時に射線上のUNKNOWN、敬介両機をも狙ったものだった。
 瞬く間に増大する禍々しい光。咄嗟にUNKNOWNが操縦桿を前に倒し、敬介が右に倒す。滑らかに沈むUNKNOWN機と、左翼を完全に呑まれる敬介機。
 敬介が懸命に機体制御するがもはや飛行も危うい。
 ――ま、仕方ないね。あの時あの場で、1番撹乱しないといけなかったのが敵指揮官機だったんだから。
 自嘲する敬介。螺旋を描いて黒煙を噴く機体を騙し、一瞬だけ機首を持ち上げた。
「UNKNOWNさん、後は頼むよ」
「――ふむ。後でカサブランカでもご馳走しよう」
「何、それ」
 その一瞬でプラズマを放つ。が、あえなく敵機の前で消失した。敵の応射。実弾が風防を貫く。緊急射出。
 UNKNOWNは敬介が脱出したのを確認し、再ブーストした。
「ジュース――だよ。さて、と」
 翼端に水蒸気を曳きUNKNOWN機が迫る。その動きを見て取ったティターンは上昇しつつ銃撃。ひらりと舞って回避、UNKNOWNが引鉄を引いた。
「汝の信じる神に祈れ。私は私の神に祈ろう」
『‥‥誠意の証として、私は引きます。軍の皆さん、ご一考頂ければ幸いです』
 2機が絡み合って要塞から離れる‥‥!

「全く、タフなバケモノですな‥‥!」
 ロッテが補給に戻り土煙が晴れた後、そこに立っていたのは『痛そうな』ガンボだった。痛そう、であって五体満足。あの連撃を受けて尚その状態となれば、どこかのタイミングで強力なFFを張っているに違いない。でなければ‥‥悪夢だ。
「よいぞ、やはりその玩具は面白い!」
 跳び上がって何かを投げつけてくる敵。修司機が躱す。敵が懐から出した何かをさらに投げた。避けきれない。修司機右翼に絡みついたそれは。
「ゆくぞォ!!」
 鎖、というより投網。がくんと姿勢を崩した修司機に、網を伝って敵は主翼へ。修司が翼を振って急上昇。敵が翼を掴んで耐え、その翼をへし折らんとしてくる。ロール。落ちない。ガンガン殴りまくる敵。みし、と聞こえた。拙い。修司が眉を顰めた、その時。
「修司、耐えて‥‥!」
「‥‥素手でやられるよりマシです」
 真正面からロッテ機ブルー。交錯直前、ロッテが主翼ごと敵を撃ちまくる!
 宙に投げ出される敵。ロッテ機はスライスバック、自動攻撃装置が敵を撃ち、翼が敵に直撃する。が。
「軽いのう、先の一撃をよこさんかぁあ!」
 剣翼を直接掴んだガンボが四つん這いでコクピットに近付いてくる。今度は修司がロッテを救出せんと撃つも、敵は突如駆けて回避した。そして風防に4発、5発と鬼の形相で拳を振り下し続け、遂に風防をぶち破った。
 強風が吹き込む機内。ロッテとガンボの目が合った。歯茎を剥き出しにして笑う敵。ロッテの腹を抉り、首を掴んだ。
「最大の一撃を続けるべきであった。なれば我も楽しめたものを」
「‥‥急‥‥所を狙‥‥知恵はあ‥‥み、なお、した‥‥」
 頚椎を粉砕され脳髄を潰され、血と脳漿を垂れ流し、惨たらしい骸を陵辱される。
 そんな未来が確定――する、その時まで。彼女は、生への戦いをやめない。体のロック解除、渾身の力で敵の腹を蹴り上げる!
「ぬおぉ!?」
 外に投げ出される敵。間髪入れず修司が撃つ撃つ。ロッテが霞む視界で高度を下げ、不時着へ。敵は墜落するが、この調子ではまだまだだろう。ロッテが修司に後を託した、そこに。
 負け惜しみの如き『最後通牒』をのたまうドゥアーギと、救援に駆けつける主迎撃班の通信が届いた。

「ルムア、最後の難敵だ‥‥頼む!」
 開発初期から関わってきたシコンに全幅の信頼を置くAnbarと、それに応えてくれる機体。誘導弾が正確にガンボ墜落地点に着弾し、砂塵を巻き上げる。冥華機が最後のK‐02をばら撒いた。次いで小鳥、ムーグ、アロンソと軍KVの弾雨が降り注ぐ。修司も加わり計8機の猛ラッシュ。
 圧倒的な飽和攻撃。主迎撃班はタロス編隊を撃破した代償に各々が心身機体全て疲弊している。だがティターンがUNKNOWNとBF班3機の猛攻に曝され本格的に逃亡に入った今、ガンボだけでも討たねば。
「バケモノは先に消しておくに限りますからな」
 修司が先頭となって急降下、狙撃銃の銃口を予測地点に合せて煙に突入せんとした。瞬間。
「‥‥は、っはぁ! まだだ、まだ我を楽しませろぉおおおおおお!!」
 流石に満身創痍のガンボが煙を破って跳躍してきた。その姿は人型を保っているもののどこか崩れ、限界突破とまではいかないがかなり追い詰められているのは確かだった。
 敵が最後尾の小鳥機に目をつける。小鳥、アロンソが撃つ。小鳥機に着地した敵が両手を組んで機体中央をぶち抜いた。途端に姿勢を崩し、墜落する小鳥機。
 敵がさらに跳躍する。次の獲物を見定めんとし――四方八方からの集中砲火!
「ッ、ぬ、ぉ、お‥‥!!? 我が、我が‥‥いや、我は猛者と闘えて満足‥‥しかし、いや、だが!!」
 地に落ちる敵。咆哮が轟いた。
「ッ、足りぬ、足りぬ足りぬ足りぬゥ!! 我はいつまでも闘い、嬲り、血を啜り続ける、続けねばならんのだあああああああああ!!」
「死を前に怖気づいたか!」
「死ハ、万物、ニ、平等、death‥‥!」
 Anbarとムーグ。最後のAAMが砂に吸い込まれ、爆発した‥‥!
 ‥‥‥‥
 ‥‥
 ‥

●経過報告
 ティターンを追った4機が深追いによる思わぬ損害を考慮して帰投したのは、それからすぐの事だった。追跡した先で前線から流入してきた敵味方の戦闘に巻き込まれたのだ。
 また、ガンボの行方は判らず仕舞いだった。死体すら消し飛んだのか、逃げ果せたのか。ともあれ、その状態から再度襲撃するとは考え難い。ひとまず脅威は去ったと言えた。
 対して要塞の被害は、南に面した外壁と滑走路の一部が半壊。弾薬庫1つが消し飛び、中央区画の一部も炎が吹き荒れた。その影響で通信に若干不具合があるらしい。人的損害は要塞奇襲という大戦略を受けた割に少ない。最後までHW編隊を追った冥華、敬介、そしてララ小隊等の功績だろう。とはいえ将官級にまで被害が及んだ為、衝撃は小さくない。
 そして各々は。

 医務室で眠るロッテと小鳥。透夜、栗花落、アロンソは脇に座り、安堵したように談笑する。栗花落が喋りつつ兎リンゴを剥いていた。
「次はこっちのターンだ。解ってるな、アロンソ」
 透夜が逆襲に燃える。

 比較的早めに緊急脱出できた為、怪我は少ない敬介。彼はUNKNOWNに連れられ、バーの一角に座っていた。
「ていうかさ、俺飲んでいいの?」
「ジュースだよ。――うん、ジュースだ」
 試飲したUNKNOWNが薄く笑った。

「お疲れ様」
 格納庫で傭兵達やララ小隊、多くの戦士を労うヒメ。その光景だけを見ると、いたいけで無垢な少女のようだ。
「マジ俺大活躍だったんじゃね!? だからほら、ご褒b‥‥」
 華麗にスルーされるカルマである。

「愛梨、サン」
 車椅子に点滴。無理して医務室から抜け出した愛梨の後ろを歩くムーグが、声をかけた。
 要塞の中庭。茜色の日差しが影を伸ばす。煙と鉄の臭い。近くに、破壊の残滓が見えた。
 愛梨はそれをじっと見つめる。呼吸した拍子に肺が痛み、顔を顰めて目を瞑った。
 強く、瞑った。
「‥‥ぁ、たし‥‥」
 辛抱強く次の言葉を待つムーグ。愛梨がふと、大切な何かを手放したように、息を吐き出した。
「‥‥何でもない」
 どうしようもない現実を受け入れるしかない。愛梨が笑う。激情も憎悪も、歓喜も哀切も、親愛も恋愛も、苦痛も嘆願もなく、ただ諦念を以て笑う。それを見て、ムーグは心が泥沼に沈むような感覚を覚えた。
 少女が浮かべる表情ではない。浮かべていい表情では、ない‥‥。
「愛梨、サン。アフリカ、ハ、大丈夫、デス。愛梨サン、モ、皆、モ、イ、マス、カラ」
「‥‥」
「デス、カラ‥‥皆、デ、背負イ、マショウ‥‥デス、カラ‥‥」
 愛梨の手を自身の大きなそれで包むムーグ。愛梨はそれを――優しく振り解いた。
「‥‥なれないこと、しないほうがいいよ。ばか」
 乾いた笑いが風に消える。
 寒々とした風はそのまま空へ舞い上がり、茜色の雲を瞬く間に流していった‥‥。

<了>

 戦端は開かれた。後は進むしか、ない。

 ――the Counterattack of Observed people