●リプレイ本文
12機のグロームから吐き出されたフレア弾や巡航ミサイルが街に吸い込まれ、破壊の力を解放する。
その光景を拒絶、あるいは心に刻むように、彼女達はコマ送りの破壊を網膜に焼き付ける。
閃光、少し遅れて轟音。
遥か高高度を飛ぶ自分にまで爆風が届きそうな錯覚がして、智久 百合歌(
ga4980)は操縦桿を押えつけた。
「‥‥複雑ね。いくらバグアの拠点となってはいても」
「あたし達だって小規模の避けられない破壊をずっと繰り返してきた。それと、変わらないのにね」
自ら言い聞かせるように愛梨(
gb5765)が呟く。
核と空爆が云々、空爆と大量の砲撃が云々。そんな問答に意味はなく、きっと、欺瞞だらけの自分を各々の手段で騙すしかないのだ。愛梨はだから、こう口にした。
「皆、苦渋の決断なんだよね。立ち止まれないから」
「‥‥、損害が減るのは確かだしにゃー。でもほらっ、ぜーんぶ壊れたら好きに作り直せるのよ? ボク神様? カヘンバの女神様になっちゃうのさね!」
リズィー・ヴェクサー(
gc6599)が息を呑み、次の瞬間には小動物のようにころころと笑う。平和に近付くその為に。
見下す光景は黒煙ばかりで街の様子は判らない。ゆっくり街を横断しながら一行は絶え間ない破壊を振り撒いていく。大型ミサイルがいち早く中央部に向かい、爆発した。
ロッテ・ヴァステル(
ga0066)は舞 冥華(
gb4521)機ピュアホワイトから送られてくるデータを精査し、ララに声をかける。
「鬱陶しい花火の打ち上げ場は此方で片付けるわ‥‥爆撃隊をお願い」
『了解』
「ん、よろしくっ☆」
リズィーが高い声を意識して、言った。
●大戦果
絨毯爆撃を行う本隊と、至近に付き添うララ達2機。やや離れて傭兵達といった陣形で順調に横断する彼ら。
眼下で広がる破壊を見つつ冥華は短い指でコンソールを右左と叩く。目だけで追いきれず、首まで左右に揺れる姿は人形のようだ。
「ん、ぅー。あたまぐるぐるするー。でもかめらでさつえーしなきゃだし、くるしみます? ばれんたいん? に冥華のあいをこめておくらなきゃーだし」
Xmas仕様の機体各部が暗く輝く。
その冥華機から高度を下げ、リズィー機ソルダード――ベガ・バッドと赤木・総一郎(
gc0803)機アッシェンプッツェルが並び飛ぶ。
「しかし。やはり好かんな‥‥こういうのは」
「どゆ事?」
「腕1本でどうにもならん戦い、という事だ」
「んにゃらば腕1本の範囲に引きずり込めばいいのよー」
恐ろしいバイタリティである。
その2機の脇を幸臼・小鳥(
ga0067)機破暁、ルナフィリア・天剣(
ga8313)機パピルサグ、愛梨機シラヌイが急降下していく。目指すは中央部。ロケランのスイッチに指を重ね、じっとその瞬間を待つ。射程に入り、照準が敵施設と重なった直後、
「迎撃のないうちに‥‥私も手伝うのですよぉー!」
「久々の出番‥‥力を示せフィンスタニスッ」
3機から一斉に大量のロケランが吐き出された。機体がふわと軽くなる。各々が操縦桿を引いて高度を稼いだ。3人が後ろを確認せんとした、その時。
圧倒的な衝撃と轟音が、大気を駆け抜けた。
「誘爆?」
誰かの疑問が無線に乗るが、ただ1人愛梨には解っていた。確かな手応えを感じていたから。
黒い茸雲が噴き上がるのを背景に、愛梨が言う。
「格納庫っぽい所、1コ潰せたと思う。これでBFでもいなくなれば儲けものよね」
「よくやったわ‥‥この調子で叩けるだけ叩くわよ!」
ロッテや本隊指揮官の賛辞が愛梨の耳朶を打つ。百合歌が安堵や罪悪感や複雑な何かを示すように、息を吐いた。
「初撃は上手くいきそうね。これも潜入部隊のおかげかしら」
その部隊も市民救出に続いて無事脱出したとの報が入っている。まさに完璧に近い初撃と言えた。
『これからが諸君の本番だ。頼んだぞ』
「承知。仕事はきっちり果たそう」
漸く街からHW等が離陸し、付近からも敵が集まってくる。それらを睥睨し、総一郎が指揮官に返答した。
●2次爆撃
計器に記される重力の歪み。見る間に敵性戦力で染まっていくそれを見つめ、冥華の指は忙しく動く。
ルート予測、カメラ拡大から敵ロック、敵機動――対空プロトン砲が迸り、主翼を削られた。舞い上がる敵はキメラ、HW、タロス、MR。MRを撮影して冥華がデータ転送する。
「ん、冥華よくわかんないからまるっとおとどけー」
ララ達と共に本隊直掩につく冥華機。2次爆撃が始まるより早く、360度からHWとキメラが飛来してくる。冥華がいつもの黒猫でない普通のミサイルを発射した。
乱れ飛ぶ光線。にじり寄るHWとタロス。
ルナフィリア、総一郎、リズィーの3機は本隊より低高度で敵を迎撃する。陸と空、十字砲火のような形となった敵光線は逃れる隙間もない連続砲撃となり、3機は集中砲火を浴びる事となる。が、
「やはり防衛ラインは厚い、が‥‥」「まぁ、役目通りと」
それこそ総一郎とルナフィリアの思惑通り。2機――同じく高度を下げていたリズィーも流れ弾を喰らっていたが、彼らが囮となった分、本隊は楽になる。
3人が衝撃に耐えて応射する眼前で、大量の爆弾が落ちていく。
その先には――4機のMRが固まって浮遊していた。
「! も、もしかしてあれであいつ増えちゃったりなんかするのかな‥‥!?」
「どうだったかなぁ。ただ対処した方がいいのは確実だ‥‥っ」
爆弾が一斉に閃光を発して熱を放射する。
鮮やかな光が視界を覆うその中で、ルナフィリアとリズィー、さらに直掩から百合歌機と愛梨機が飛び出した。
冥華機から送られた直前データを頼りに、4人の目が光る。そして爆発の余波で煽られたMR4機へ、彼女達の火砲が集中した。2機が弾け、2機が増殖。反射された力を風防に直に浴びた愛梨機を庇うように百合歌機が前へ躍り出た。
「頭痛くて嫌になっちゃうわよね‥‥っ愛梨さん!」
再装填された百合歌機のD‐02がコアを撃ち抜く。残る1機へルナフィリア機とリズィー機が肉薄する。翼端に水蒸気を曳いた2機がシザーズで交差、ロールを打って銃弾をばら撒いた。
最後のコアが弾け飛ぶ。後は子機を街ごと吹っ飛ばせばいい。4人が各々元の高度へ戻らんとした、その時。
『へんなのでた。たぶんかすたむ? ゆーじんたろすー』
冥華の通信が聞こえるや、街中央から2つの影が飛び出してきた‥‥!
「RC確認‥‥ロッテさん‥‥地上に撃ち込むので‥‥後はお願いしますぅー!」
小鳥が操縦桿を倒してRCの小集団がいると思しき地点に照準を合せると、粒子砲の引鉄を引いた。陸へ一条の光が伸び、土煙が膨れ上がる。すかさずロッテ機スレイヤーLa mer bleueがそこへ急降下、溢れる力場に守られ、人型へ姿を変えた。
敵応射が煙を突き破って3、4と走る。スラスター全開、ロッテ機が大剣を振り下す!
「Cadeau――贈り物は素直に受け取りなさい‥‥!」
1機2機と斬りつけていくロッテ機。RC3機が彼女に光線を放ち、ロッテ機もダンスの如き鋭い機動でRCを翻弄する。
その戦闘は豪快で、確かに敵対空砲火の一部を抑える事にも繋がる。が、彼女が降りれば少なくともそちらへの爆撃が躊躇われるという面もあった。
そしてロッテが1機を撃破した時、冥華の通信が入った。
カスタム機が出た、と‥‥。
「さ、いっくよ〜!」
「離陸直後、討つなら今かねぇ」
ルナフィリア機が前、リズィー機が後。間髪入れず、2機が有人機へ突っ込んだ。ベガバッドが左へ膨れる。フィンスタニスが大量のミサイルを放つ。苛烈なエネルギーが2機のタロスに叩きつけられ、
「取って置きの最大火力、持ってけっ」
鋏から放たれた光線が雨霰と降り注いだ。
敵がルナフィリア機へ照準を合せる。まさに、そこへ。
「ルナルギばっちり! ボク達シンクロ率400%なのよっ」
左からリズィー機が抉りこむように突撃、M‐HM6FTを連続発射した。
「リズィーと溶け合いたくはないなぁ」
「溶けたらボクが包み込んであげるにゃーっ」
2機と2機がぶつかり合う‥‥!
●3次爆撃
旋回と目標選定。本隊は2度目のそれをこなし、3度目の爆撃に入っていく。
街は絶えず煙に包まれ詳しく観測できないが、冥華は地表が見えた瞬間をぎりぎり捉えて情報の断片を手に入れていた。
「ん、しゃしんおくったー」
『了解。‥‥次は街南東部だ』
「それもいいけど‥‥そろそろ西の空も危うくなりそう」
本隊につく愛梨が警告するが、まだ撤退はしない。
百合歌機と共にHWに当る愛梨。タロスがほぼいない事が不可解だが、今は初撃で思わぬ戦果を得たと考えるしかない。フェザー砲を敢えて受け、狙撃銃で応射。百合歌がそれに合せてAAEMを放った。
白煙を曳いて敵機へ向かい、爆発するそれ。敵編隊が乱れた隙に急加速、飛竜が敵を喰らうが如く、すれ違い様に重機を乱射した。
「しつこい男は嫌われるわよ?」
「こんな男、絶対やだ」
「あら、私もよ。それに‥‥」
百合歌の白い指に光る結婚指輪。その左手で、AAEMのスイッチを押した。
2機爆散。百合歌と愛梨が本隊へ舞い戻ると、総一郎機やララ達と隊伍を整えた。
加速度的に敵攻撃が苛烈になってくる。それを彼女達は受け、1機ずつ対処するが、流石に手数が足りない。遂にグローム1機が黒煙を噴いて高度を下げた。総一郎機がその機を庇うように敢えて隊先頭へ躍り出る。
「お前達の獲物は俺だ、存分に喰らえ!」
言葉を理解した訳ではないだろう。が、敵は恰好の標的へ殺到する‥‥!
翻る翼。交錯する銃弾。敵味方4機の空の舞踏は連綿と続く。
一撃離脱で速攻に移りたいリズィーだが、敵は人型と慣性制御の利を活かし、絡みついて離れない。ルナフィリア機がリズィーと敵の間を遮って宙返り、AAMを放つ。敵2機の間で破裂したその爆煙を突っ切るルナフィリア。
ぞく、と何かを感じ、ペダルを踏んで横滑り。直後、光線が3、4と彼女を襲った。
「っ、リズィー」
「1機集中っ!」
3発の誘導弾が前後して飛翔する。操縦桿を一気に押し倒すルナフィリア。突如急降下したパピルサグを追わんとした1機へ、それらが一斉に着弾した。溢れる爆煙。追撃とばかり2人が弾雨を叩き込む。
黒煙を噴くも舞い上がる敵。カスタム2機が密着して後ずさった。そこに、
「貴方達と戯れている余裕はないの‥‥速やかに墜ちなさい!」
陸から急上昇してきたロッテ機ブルーが再び人型となって斬り上げる!
が。
『――‥‥』
人ならぬ言語で何かを伝え合う敵。そして小爆発を繰り返すも未だ健在な2機は、距離を取って3人と対峙した。
まるでここを放棄し、自分達だけ脱出せんとするように。
●4次爆撃、途上
『西にも敵が集まってきてるわ。そろそろ脱出する心積もりで!』
百合歌の警告は右から左へ。ロッテ、ルナフィリア、リズィーはカスタム2機と巴戦を繰り広げる。
ルナフィリア機が最至近で飛び回ると、死角からリズィー機が抉りこむ。銃弾の嵐が敵を阻害すれば、ロッテが主翼を煌かせてすれ違う。もはや完全に逃げに転じた敵は最低限の応射だけで徐々に南へ移っていく。
機体が軋む高速機動戦。互いが互いの裏を取り、両者決め手がない。敵は脱出を確信したように高高度へ突き抜けた。
しかし。
「そうはさせないのよ!」
猛然と追うリズィー機ベガバッド。特徴的な機影が火を噴き天を衝く。押し付けられる体。回る視界。リズィーは懸命に操縦桿を固定、息を止め引鉄を引いた。
敵機に吸い込まれる弾幕。そして、爆発。
「っ、は‥‥!」
3人が残る1機に襲い掛からんとした、寸前。
『潮時よ、撤退して』
愛梨の声が、聞こえた。
4度目の爆撃。それは囲まれつつある中でどれだけ我慢できるか、チキンレースの様相を呈していた。
「グロームへ‥‥手出しはさせないのですよぉー!」
「冥華もーだめ。めがしょぼしょぼする」
小鳥機の粒子砲が本隊進行方向へ迸る。そこに冥華と総一郎が銃砲火を浴びせ、散らばった敵の隙間を本隊が潜り抜けた。次々投下される爆弾。それを確認し、愛梨と百合歌は隊左右で孤軍奮闘し続ける。
「MRやタロスがもっといたら拙かったかも」
「BFは愛梨さんのおかげで潰せたしね」
「そんな、事‥‥!」
眉根を歪めてロケランを放つ愛梨。多数の弾頭が無秩序に空を駆け、敵前面で炸裂する。百合歌は低空から忍び寄ったタロスの砲撃を機体下部に直に浴びた。何とか立て直す間に小鳥が横合いから紅翼を敵に突っ込ませると、敵は銃撃しながら高度を下げる。
撃ちまくって撃破する百合歌と小鳥。
一方で隊前方を独り飛ぶ総一郎機は、遂に設定した損傷限界を超えんとしていた。
「ぬ、ぅ‥‥!」
警告音が煩い。エンジンが悲鳴を上げる。計器は半分以上が真っ暗で、いくら誤魔化しても振動は止まらない。風防もヒビだらけで視界は悪い。遂に左翼半ばへ敵光線が直撃した。
がくんと落ちる感覚。だがまだ飛べる。自分が1秒でも長く留まれば、それだけ爆撃は続くのだ。
やっと街の真ん中を越えた。当初黒煙の中で突き出ていた尖塔が今は見えない。弾幕がキメラを貫く。
さらに衝撃。総一郎が桿を握り締め、そして力を抜いた。
「すまん、限界だ‥‥」
「了解、迅速に撤退しましょ。ちょーっと火力が心許ないけど気力でカバー!」
限界と知りつつ本人が言い出すまで待っていたかの如く、百合歌が即座に反応した。
冥華と愛梨が別班へ連絡してミサイルをばら撒く。ララ達2機も冥華達に合流し、シュヴァルムを成して撃ちまくる。本隊が西へ転進した。総一郎機が何とか旋回すると、両翼に小鳥と百合歌がつく。
地味な、しかし大切な役割を果たした総一郎機の、堂々たる凱旋だった。
●空襲
誰もが疲弊した状態で要塞へ帰る。その道中、脱出直前に冥華の撮った写真が、各機にデータで送られた。
それは白と黒の煙に覆われているものの、街の3分の2程が瓦礫となっているのが判った。敵拠点とされた中央部も高い建造物は1つもない。煙が晴れてみなければ判らないが、上々の成果と言えるだろう。
「‥‥かけがえのない‥‥」
そこの人にとって思い出の詰まる街が、壊れた。でも地道に慎重にやってたら死んだかもしれない兵は、生きた。
「戦争が終ったら、精一杯復興を手伝いましょ?」
百合歌が声をかけると、愛梨は小さく「うん」と頷いた。
要塞上空。
最後に気合を入れ直して着陸を成功させ、逆噴射で停止した。瞬間。
「お疲れ様なのさね〜!」
「うょ?」
機体を降りて真っ先にルナフィリアに駆け寄るリズィー。柔らかい金糸が風に靡く。彼女はそのままどーんと体当りして抱き締めると、子供を高い高いするようにルナフィリアを抱き上げた。
「や、やめ‥‥」
「かかか軽いのよー! 何食べたらこうなるのよっ、ままままさか噂のあれ!?」
「あれって何だ。まぁエミタ以下略」
ああいつものか、と説明すら省くルナフィリアである。
茜色の空。街ごと焼き払う任務。そんな胸の軋みを全く感じさせぬ強さが、そこにはあった‥‥。