タイトル:硝煙の貴族娘マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/21 21:53

●オープニング本文


 ギリシア南部。
 そこは空から海から押し寄せる敵を前に、苦しい防戦を強いられていた。水際、あるいはそこからやや退いた地点で戦線をなんとか維持し、辛うじてバグア軍の大量侵攻を食い止めている。
 そうやって明日をも知れぬ最前線に身を置いて、もはやどれ程になるのか。司令部も、下士官も、一兵卒も。多くの者が等しく疲弊していた。本格的な「戦争指揮」という中で、正常且つ類稀なる頭脳で居続けられる期間は意外に短いと言われる。そしてこの異星人襲来に始まる未曾有の戦争も、初めから数えて15年を超えた。勿論、天才的戦略家、あるいは情熱溢れる軍人も多くいる。しかし判断の鈍ってしまった軍人もまた、存在したのである。
「ッ大佐‥‥! 撤退命令を‥‥ッ!!」
 南東海岸部一角。決して狭くはない地域を担当する大隊が、敵の猛攻を前に四分五裂の状態となる。戦車は撃破され、火の出る前に命からがら脱出した数人が後方にあった兵員輸送車に退避してきていた。
 中尉が遠くの所属師団司令部に指示を仰ぐが、答えは、
『不退転の覚悟で当該地域を絶対死守である、中尉。我々の手に欧州の安寧がかかっていると心得るべし』
 激しい雑音混じりに、命を捨てろとの命令の一点張り。
「ッ‥‥あの老害野郎‥‥!!」
 どうしようもない怨嗟に、精一杯の悪態を吐く。要領も悪ければ能力もないような大佐に。その後、そんな馬鹿の為に自分は死ななければならないのかというやりきれない無力感。
 もはや隣り合った連隊の援護なしには逃げる事もままならない。そして連隊の援護を受けるには、大佐の命令が必要なのである。
「クソ野郎‥‥いつかどてっぱらに風穴開けてやる‥‥たらふく食ってりゃ内臓がめでたい事になるぜ‥‥ッ!!」
 中尉が自らの突撃銃を構えると、周りにいた少数の部下に無言の命令を下す。
 俺と共に散れ。
 感傷に浸る事さえ時間が許さない。キメラはすぐそこまで来ている。
 咆哮。咆哮。咆哮。喉が潰れるほどの中尉の切なる叫び。
 確実な死の恐怖を振り払うように。あるいはそこにある死を必死に押し退けるように。中尉は最期の特攻を仕掛けた――――。

「いくわ」
「かしこまりました、お嬢様」
「爺やは運転を。私は‥‥ッ」
 妙に可愛らしい車が走る。金属板で補強したカブト虫ボディ。その右側の窓から上半身を突き出した少女が、肩に無骨な物を担いで狙いをつけ‥‥‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 ギリシア東部方面第2軍、軍司令部。
 膠着した戦況の中で、展開している師団の一つから極めて危険な報告がもたらされた。一角が崩され、即座に手元の予備戦力でフタをしたものの、数体のキメラが戦線を突破した可能性が高い、と。
「その敵戦力は現在‥‥」
「現在捜索中、との事でして」
「捜索中、だと?」
 幕僚が眉をひそめる。
「何故だ」
「は。崩れた小隊近辺の隊に注意を呼びかけたが敵は一向にやって来ず、かといって後方の司令部の方にも来ていない、と‥‥」
 全くもって分からない。少なくともこの方面を攻める敵兵器は、この戦線を崩壊させる事のみを目的と認識させられているのではないのか。それとも‥‥。
「‥‥そんなキメラでさえ思わず釣られるような餌があったのか」
 幕僚は困惑するばかり。そこで大将が判断を下す。
「現状、姿も見えぬ敵に予備戦力を投入する余力もない。だが捨て置く事もできぬ。‥‥早急に傭兵を呼び寄せよ! 責任は私が持つ!」
「「「了解!」」」
 かくして、ラストホープに緊急依頼が届いたのである。

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
木嗚塚 果守(ga6017
17歳・♂・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
宇月 慎之介(ga8419
20歳・♂・SN
優(ga8480
23歳・♀・DF

●リプレイ本文

「瓦礫に沈む夕陽は紅‥‥俺の胸も燃えるように激しく昂る‥‥」
 廃墟近くの丘から見下ろして、九条・縁(ga8248)が陶酔したように。眼下にはその町へと北上しつつある車と、それを追い回す3体のデカブツ。車には、助手席の窓から身を乗り出して対戦車砲を担いだ少女が付属している。
「‥‥敵の姿を探し当ててみりゃ‥‥」
 何者だ、あの嬢ちゃん。風羽・シン(ga8190)は思わず眉を顰める。
「見たところ能力者ではないようだが」
「なんとも勇ましい事で‥‥」
 木嗚塚 果守(ga6017)と稲葉 徹二(ga0163)は多少呆れ気味だが、
「無茶する人間は嫌いじゃないけどな」
 エミール・ゲイジ(ga0181)が仕方ない奴だという調子で言うと、2人も同意した。
「まー、さすがに女見捨てられないんで、チョッパヤでやるスか! んでその後でお近づ‥‥」
「待て。あのお嬢さんと親しく語らうのは俺だ」
 早くも恋敵となりそうな植松・カルマ(ga8288)と宇月 慎之介(ga8419)の隣には、心なしか冥い炎が瞳に灯り始めた黒曜石の美女。
「キメラ‥‥私の前を堂々と‥‥ッ、‥‥!」
 自らの感情の暴走を自覚し、なんとか覚醒して冷静になる優(ga8480)である。
「‥‥迅速に、抹消しましょう」
「ああ。限界かっ飛ばしちまうか!」
 縁が熱く叫ぶと、全員で駆け出した。
 決戦は瓦礫の町。ヒロインはヤンチャなお嬢様。敵は――侵略者。

 南北に走る唯一の大通りから東に折れる脇道。瓦礫となったまま放置された町角で、8人は大きめの瓦礫の陰に隠れ、奴らが来るのを待つ。先程の進路から十中八九、車は目の前の大通りを抜け、敵もその後を追う。あの車が引き付けたおかげで、完全な予測が可能となったのである。その独断専行が一時ギリシア戦線一角に不確定要素を作ったとしても。
「飛行型は遠距離攻撃で一気に仕留めるであります。一応俺も飛行班で、乗ってる騎士に備える方向で」
 陸上型のダンゴ虫のような敵には陸上班が、銃撃と軌を一にして突撃。徹二が軽く最終確認する。
 この傭兵という世界での経験の浅い者が多い中、彼とエミールは歴戦の強者。だからこそ気を吐かねば。一方で傭兵になりたての者達にも悪い緊張感はない。将来有望だと言えた。
 車が土煙を上げて町に入る。さらにキメラも。近くで見ると妙に大きい。しかし。やらねばならないのである‥‥!

飛行型班:徹二・エミール・果守・慎之介
陸上型班:シン・縁・カルマ・優

●奇襲
 飛行班は脇道の右側、陸上班は左側に潜む。角からの奇襲攻撃。そのまま突き抜けられると厄介だが、そうなる前にカタをつける心積もりをする。
「さあ来るがいい。鱈腹ご馳走してやる」
 果守が突撃銃を脇に構え、敵の方を見て。
「‥‥鉛弾をな」
 それを聞き、
「俺も今回はクールにいっとくか」
 エミールは小さく口笛を吹く。エンジン音が次第に近付く。
「カッコつけねえとな」
 あのお嬢様っぽいのが縦ロールじゃないのは残念だが。慎之介が独りごちる。車が町に入った。いよいよ近くなる。
 緊張感。銃を、刀を持つ手に汗がにじむ。鼓動も早鐘を打ち、それを意識した段階で無理矢理抑え込む。いくら経験しても変わらない決行直前の感覚だった。
「本業が負けるわけにはいかないであります‥‥!」
 徹二は蛍火に映る自身を見つめた。そこに。
 瓦礫を蹴散らして走る車の激しい音。20M。低速で目前の通りを通り過ぎる。刹那、乗り出した少女の目線がこちらを向いた気がした。
 南の方に急いで向く。はっきり見える、3体の敵。飛行型が先行している。やってくる。と思ったその時には開始地点にまで迫っていた。凶悪な姿。陰から飛び出す!
「ッ今日は最初から全開だ‥‥とっとと墜ちやがれ!」
「地べた這いずらせてやるぜ!!」
 エミールと慎之介が吼える。そして4人ほぼ同時の集中砲火が鷹のような飛行型を襲う!
 敵の右翼を徹二の衝撃波が斬り裂く。茶色の羽が舞う中で徹二はそのまま車の方に走った。しかし敵はそれを捕捉する事はできない。何故ならば。
 エミールの神速の発砲、さらに果守と慎之介の弾幕が敵を捉えたのだから。
『――――■■■――!!』
 敵の咆哮。突然の銃撃に上の騎士が制御しようとするが、その程度でどうにかなる攻撃ではなかった。
「ゴングは鳴ってんだよ!」
 爆発的な銃弾、あるいは影の弾丸は過たず敵の翼を、胸を突き抜ける。勢い余り、向こう側の廃墟の壁に貫通する銃弾まである。ガラガラと崩れる音と共に、飛行型がたまらず墜落する。
 3人も徹二に続き、北に行った筈の車との間に入る。が、飛び出した大通りで見たものは。
「遅いのよ! 早くぶちのめせ!!」
 40M先で止まっているカブト虫と、新たな筒を構えようとする女の姿。
「り、了解であります!!?」
「私がここで督戦するからね!」
 勢いで敬礼してキメラに振り返る徹二。慎之介は半身だけ女に向き、
「解ってんじゃねえか。存分に俺を手駒として使ってくれ」
 面白そうに。
「最近の女の子は元気に可愛い娘ばっかだな」
「元気すぎるのもどうか‥‥」
 エミールと果守が小声で話した時、背後から曳光弾が敵に飛んでいった。命中。そして爆風。力を入れて踏みとどまる4人。髪が靡く。
「‥‥明らかに元気すぎるだろう」
 悪ガキみたいだ。果守がゴーグルを額から下ろす。
「ストーム3、早く構え!!」
 女が果守の方を指して叫んだ。

●不退転
 陸上班は飛行班から数秒ずらして突撃する。
「援軍のご到着ッスよぉ! 邪険にしないでネ♪」
 左手で無造作に得物を握ると、転がった瓦礫から飛び降りカルマが車の方を指す。さらに空中で右手に構え直すや、一気に丸い陸上型に向かう。シン、縁が側背気味に、カルマは斜め前を押さえる形。そして優が前方――車との間に立ち塞がってみるが、8Mの質量は尋常でない。2Mもない人間など関係なく転がり続ける可能性も。
「西に突っ込ませます」
 優が機転を利かせて、一直線に北へ向かっていた敵の接地面付近に損害覚悟で斬り込む! 当然自身は回転の勢いで斜め後方に吹っ飛ばされるが、見事45度方向を西にずらす事に成功する。
 轟音‥‥!!
 盛大に煙を撒き散らして崩れ落ちる西側の建物。耳を聾する破壊音が鳴り響き、墜落していた飛行型まで押し潰した。
「おお!? 優、彼女は噂に聞く戦乙‥‥」
「早ぇとこやるぞ」
 縁をはたき、シンが縁を連れて停止した丸い敵に接近する。近くに見ても特別弱そうな所は解らない。ならば。
「速攻!」
 縁が敵を両断せんと突く。半ばまで剣が入り込み、そのまま薙ぎに転換した。続いてシンがその傷口を拡げる形で渾身の一撃!
 だが敵も伊達にデカブツではない。苦しみながらも反撃を企てる。どこにあったのか、いつの間にか生えてきた触手で、近寄っていた陸上班3人を打ちつける。一人優だけ先程の影響で離れていた事で難を逃れたのだ。
 カルマはシン達と別、北寄りでお返しとばかりに、戻りかけた触手の一本を斬り落とす。敵の人語にならない絶叫。構わず丸い本体を斬り上げた。
「誰か最後頼むスよぉ!」
「おぉぉおォァア!!」
 縁が反応して、そこにあった大きめの瓦礫を足場に跳び上がり大上段に振りかぶる。
「俺は飛べる――ッッ!!」
 全開の一撃を叩きつけようとした時。残念ながら敵もそこまで愚鈍ではなかった。触手が縁を空中で叩き、攻撃は不発に終わった。そこに反対側で、
「‥‥滅しなさい」
 カルマの斬り上げた所を、優が冷静に、刃を上に突き刺した。ずぶ。左腕を伸ばした格好で、月詠のみならず自身の手首まで入り込んだのである。生温い体液が流れ出る。さらに踏み出し右手を峰に添えるや、一気に飛び上がった!
 ズズ‥‥細胞を切断していく感触。跳躍の頂点で、左腕を回すように月詠を引き抜いた。
 体液の雨が降り注ぐ。音もなく着地。優が空で刀を振る。腕の柔らかなリングが揺れた。
 おそらく身体の中心近くまで届いたその一撃は、敵の生命を刈り取るに十分すぎた。跡には、弛緩してでろりと動かない多足蟲が転がっているのみだったのである。
 そこに北から盛大な爆発音が響く。見ると。
 巨人相手に下がりつつ戦う飛行班の姿があった。

●ライダー
 飛行型が地に激突する寸前。それに跨っていた巨人は、飛行型を犠牲にするように跳び、その上に降り立っていた。そして陸上班が丸い敵をそこに突っ込ませる前に、北の方に足を踏み出していたのである。
 無傷で車に向かう3Mの巨人。鎧らしき表皮と一撃必殺の両手剣。
 その前に、飛行班唯一の前衛型である徹二が立ち塞がった。近接攻撃を重視した陸上班は未だに別の敵と格闘中。食い止めねばならない。
 と、エミールも2丁拳銃で並び立つ。果守と慎之介より経験豊富な者として、今出来る最善を。
「ま、俺がやるしかないな‥‥」
 苦手なりにやれるだろ。接近戦での防御力不足を自覚しているエミールだが、巨人相手ならば前衛に2人いた方が結果的に全員の損害も少なかろう、との考えだった。
「俺一人で大丈夫でありますが?」
 徹二が答えを解っているようにニヤリ。鍔が鳴る。エミールは、
「ちゃんとやらないとあのお嬢サマに怒られんだよ」
 飄々と、肩まで竦めて。
「では。突撃であります!!」
「時間稼ぎだ、時間稼ぎ」
 徹二が騎士との間を詰め、まずは真っ向から袈裟に斬る。ガギン。しかし硬く、逆に手が痺れた。それならばと、徹二は一転して膝――脛当てとの隙間を狙う。今度は手応え。
「ッ伊達に半年も能力者やってねェんだよ!」
 上手く攻撃できた事で、やや昂る。が、敵はその徹二に向いて大剣を振りかざした。
 蛍火で受けようとする徹二だが、その前に、
 銃声。銃声。銃声。
 エミールが肩に発砲、軌道を逸らした。そして横の瓦礫を粉砕する大剣。粉々に、盛大に弾ける岩。これは正面は危険か。前衛が判断した時、背後から再びヒュルルと不気味な音がした。
「ッ俺巻き添えでありますか!」
 悲鳴と共に下がる徹二にお嬢様、
「能力者ならいける! それより」
 砲弾が巨人に命中し、多少の足止めと軽い煙幕の役割を果たす。ただし、通常兵器に変わりはなかった。それを見、女は唇を噛み締める。
「早く離れる!」
 お嬢様の声と同時に、果守と慎之介も後方から突撃銃で薄く弾幕を張って時間を稼ぐ。
 右へ。左へ。接近したと思えば即座に離れ、あるいは敢えて急接近して削っていく。主に徹二が敵の視界にあり続け、エミールが中距離、果守、慎之介が遠距離。少しずつ攻撃していく。そのうちお嬢様は車輌と共に北上し、邪魔にならないよう配慮する。
 そうして40Mほど北に後退しただろうか。
 突如敵が近くの廃ビルに手をつけた。ガラガラと新たな瓦礫が出来る。そして。
 轟。
 鎧らしき表皮で固められた右足で、それを4人の方に蹴り飛ばした。無差別に、方向も定まらず廃墟を崩していく石礫。その中の数発が偶然を伴なってエミールに飛来した。拳銃では銃把で叩き落とす事もできない。
 これだから接近戦は。エミールが病院行きの覚悟を決めた時、徹二が彼の前に躍り出た。刀を正眼にソレらを見据え、
「チェストォォォォッッ!!!!」
 拳より大きい程度の礫弾2発を間髪入れずに打ち落とす。が、最後の1発を腹部に喰らい、数瞬の空白が生じた。
 追撃‥‥!
 4人が急いで次の行動に移ろうとしたその時だ。南からの銃撃が敵を襲ったのは。

 縁とカルマの副兵装が火を噴く。首筋、兜の隙間を狙ったその射撃は確実に敵の動きを殺いでいた。その援護を受け、飛行班も撃つ。間断なく続く銃声。硝煙が辺りに立ち込める。そして。
『――――――■■■■!!!』
「極上の鉛を噛み締めて往きな」
 果守の落とした弾倉が、戦闘の終焉を報せていた――――。

●お嬢様
 ギリシア東部方面第2軍、軍司令部。幕僚の天幕で、軍団長以下4名に傭兵8名、そして『お嬢様とその執事』が顔を合わせていた。
「ま、適当に飲んで」
 で、適当に話してほしいとこだな。エミール持参紅茶の芳醇な香りが戦場を癒す。
「私は一般人の立場から軍を掩護したまでです。もしあのまま師団司令部に突入されて‥‥」
「それは解るが、無謀な真似は感心しない」
 果守が強めに言う。悪ガキはそうしなければ聞かないとばかり。
「ですが結果的に被害を最小限に留め‥‥」
「その心意気はすげぇとは思う、が、‥‥ッあんたらにどんだけの人間が振り回されたのか解ってんのか!」
 叱る時は叱らねば、とシン。
「不和を恐れて、手を拱いていろと?」
「違う。出来る事を見誤るな。独断専行は成功も失敗も自分だけで責任を負える時だけだ」
「‥‥仕方ないでしょう」
 適性が、ないんだから。慎之介を上目に睨む。そんな空気を読んでか読まずにか、カルマが、
「俺はかっけぇと思うスけどねぇ。1人で真正面からヤりあうとかマジパネェっつーか。あ、俺も刀振る時はマジヤベェけど惚れないでチョーダイよ!」
「ああ。ブラボーだ。そういう真っ赤な感じは俺の大好物だぜ!」
 縁も異様に燃える。
「と言ってまた無茶やるのは止めるべきでありますが」
「私だって死にたくはありません」
「という事ですから、今回だけは不問となりませんか? 敵も微塵に殺れましたし」
 徹二は微苦笑、優が丁寧に不穏当な言葉で大将に許しを請う。
「‥‥うむ。今度からは軍に一言欲しい。君の遊撃的能力は使えるのでな」
「はい。欧州各地で活動してますので、またいずれ」
「名を」
「‥‥ヒメ、とでも」
 了解した。大将が去り、幕僚もどこかへ行く。女――ヒメも立ち上がり、傭兵もようやく仕事が終わる。妙な勢いにどっと疲れた。正直な感想だった。
「それで、何でこんな事やってんだ?」
 ヒメは幕舎の入口を向いたまま、長く淡い金の髪を揺らす。
「一般人が戦っちゃダメ? 貴族とは戦い護る者。違う?」
「いんや」
 エミールがにへら、と。
 ごきげんよう。敢えて慇懃に外に出たヒメに、慎之介がいつものように、
「ヒメ、キメラ対策等で一晩語り明かしてみないかい?」
 彼女は嗜虐的な笑みで中を斜に見ると、紅い唇を開いた。答えは勿論――――。

<了>