タイトル:何かの力で連れ戻せ?!マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/29 04:12

●オープニング本文


 ――――ごめんなさい。私、もう、あなたとは‥‥。

 ポーランド東部、某基地。
 その日、彼は人生初の失恋の痛みに泣いた。泣いた。泣いた。目は真っ赤で腫れぼったく、涙で世界が揺らいで見える。
「っ‥‥女だんで‥‥!!」
『人生初の失恋』には2種類ある。1つは今まで相手から別れを切り出された事がなかったという事。そしてもう1つは‥‥まさに、初めての喪失感という事。
「うっ‥‥ぐ‥‥おべにばお前じがいねえよぉぅ‥‥」
 彼が自らのKV――アンジェリカの中で座席にべちゃりと抱きつく。キャノピーを閉じていない為、格納庫中に涙声が響き渡る。
「‥‥誰か、あのバカ慰めてこい‥‥」
 その辺りの整備士班長が、あからさまに肩をすくめて部下に言う。が、我関せずと自分の作業に戻る整備士達。と、班長が1人の部下に目をつけた。
「おお、新入り! お前、行ってこい。可愛らしくよ」
「え、イヤですよ。私、ああいうの大っ‥‥嫌いなんで」
「んな事言ってやんなよ‥‥おら、あんな声があると作業が進まねぇんだよ」
「そんな事言われても‥‥」
 などとなすりつけ合いをしていたその時。
「おでなんがじんぢまえばいいんだぁぁあぁ!!!!」
 エンジン音。ずがんずがん。シュアァァ。装輪逃亡。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥。
「ッだ、誰か連絡しろォ!!」
 かくしてまた1つ、依頼が増えた。

 ◆◆◆◆◆

「あ――‥‥言いにくいんだが」
 例のショックで逃亡した彼の所属する部隊の中佐が、集まった傭兵の前で情けない声を出した。
「‥‥本当に、こんな事に対して申し訳ないのだが」
 ブリーフィングルームの机に両手をついて、こちらまで同情したくなる姿の中佐だが、気を取り直したのか、帰ってきたら彼に教育的指導を施す決意をしたのか、そのまま顔を上げて説明に入った。
「君達にはうちの馬鹿を連れ戻してもらいたい。手段は問わない。が、奴のKVはせいぜい小破程度に留めてほしい。アンジェリカはこんな事で壊すには勿体ないからな」
 中佐が前のホワイトボードに基地周辺地図を広げ、ペンでつー、となぞった。そして南東に少し行った地点で丸をつける。
「奴の現在地はここ。ちょっとした岩山と洞穴が一つずつあるんだが、しばらくここから動いていない。さらに近くには森もある。逃げやすい場所、という事だ。‥‥のうのうと休憩しているか、キメラがいたか、他の要因があるか」
 はぁ、と疲れたようにため息をつき、簡易椅子に座る中佐。このところ、まさにその南東方面からキメラ――最近は空からヒポグリフとそのライダー、地上からケンタウロスが頻繁に来襲しており、中佐もまた家族にも会えず疲労していた。
「ああ、それと。整備士から聞いたが、今、奴の機体は主翼の修理が終わっていないから、飛び去る心配はないそうだ。それに人型での機動もベストではないらしい」
 さらに彼は気だるげに、「とにかく用心してほしい。最近の襲撃で我々も一時的に戦力が少なくなっているから」と続けた。
「自暴自棄な奴を縛って持ってくるってのも難しい話かもしれないが‥‥そうだな、何かで説得して落ち着かせるのもいいかもしれないな。ま、それも大変なんだが」
「え、っと、こういう事でしょうか。‥‥戦争なんてく‥‥」
「ッ言うな!‥‥いや、問題はないかもしれんが、とりあえず、みなまで言うな」
 口を滑らせかけた傭兵の1人に、中佐は即座に反応した。

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

 作戦室。
 何か質問は。中佐が尋ねると、ティーダ(ga7172)と森里・氷雨(ga8490)が周辺地形図と敵機破損状況の件を口に出した。
「そうだな。まず後者。左主翼が半ばから折れ、左肩の修繕が終ってない。脚部は左右無事だがね」
 地形図は格納庫の方で手渡そう、と中佐。
「それとそのバカを振った相手の事を」
 氷雨が尋ねると、中佐は目を瞑り、
「学校時代から片思いだったらしい。好かれたい一心で必死に訓練し、実ったようだが、結局奴の脆さが露呈した、と。技術だけ妙に高いのはその産物だな」
 健闘を祈る、と腰を庇うように歩いていった。

「中佐も、頭が痛いだろうな‥‥」
 八神零(ga7992)が心底溜息を吐く。
「ええ。KVを私事に使うとは兵士にあるまじき行為です。私達が性根を叩き直してあげましょう」
「‥‥人が開発協力までした可愛いリカをこんな事にしやがるバカは半殺し確定‥‥」
 ティーダが軍規的に言うのに対し、氷雨はアンジェリカへの愛で黒い表情を見せる。
「気持ちは解るんですがね〜」
 キーホルダーがチャ、と音を立て、幸せそうなレールズ(ga5293)。それに妙に反応したのが、
「解る‥‥ふ、ふふ‥‥バツイチの私は生きてる価値皆無ですか、そうですか‥‥」
「たかが1度で! わたしがどれだけフラれてると思うの!?」
 失恋と縁深いらしい智久 百合歌(ga4980)と翠の肥満(ga2348)。百合歌は素敵な笑顔をレールズに向け、何故か女の扮装をした翠はよよと崩れ落ちた。
「笑顔が怖いです‥‥あと何でそっちは女装なんですか!」
「今度こそ上手くやってやる」
 見てなさい、と何故か宣言する百合歌である。
「そーだよ! 皆、明日に向かっていざっ!」
 その場で跳ね、月詠を斜め上に掲げる潮彩 ろまん(ga3425)。
「あああツッコミ役が足りない‥‥」
「放置すればいいのでは?」
 嘆くレールズにティーダが一言。
「‥‥様々な意味で、面倒‥‥だな。これも依頼か‥‥」
 やや離れた位置で西島 百白(ga2123)がぽつりと。
「皆、いっくよー!」
「‥‥早くリカをバカから解放してやらないと」
「ヘタレの方はわたしが修正してやるわッ!!」
 バッと立ち上がった翠子が炎を燃やす。
「簀巻きにして持って帰ってあげようねっ」
 ろまんが爽やかに不穏な事をのたまった。

●ファーストコンタクト
『岩山視認。目標は見えないわ』
『通過後、索敵行動に入る』
 上空から百合歌機ワイバーン、零機ディアブロが通信する。一応軍周波数とは変えたが本格的でない為、傍受前提の曖昧な言い回しにする。
「‥‥全く。結局皆失敗を他人事だと思ってるのよ」
 百合歌がグチりながら地上を拡大して探していく。急斜面の岩山があり、東に丸い森。生い茂って捕捉できそうにない。
「今となっては‥‥どうか解らないけど、色々学べたし!」
 指に光るリングが、視界に鮮やかに見えた。
「‥‥僕は南から捜索する。そっちは任せた」
 常時回線を開けていた為、ダダ漏れの百合歌の声。零がやや呆れて右に旋回。風を主翼で切り裂き、軌跡に雲が引かれる。そこに地上班から通信が入る。
『敵機確認。作戦行動開始』
 怒りを押し隠す氷雨の声。
「了解。出来る限‥‥いや」零が岩山に戻ろうとし、「空にも獲物が来たようだ」
 視界の端にキメラの群を確認し、不敵に笑った。

「ボクは順調だけど、そっちはどうかな?」
 単独で森方面から包囲をかけるろまん機雷電が、他の地上5機の様子を訊く。
「わたしのGJr3は今日も良好よ」
 纏まって移動する5機のうち、翠子機ディアブロが。
「そういう意味ではない気が」
「ですから、放置です。この手の人は構ってあげなければ静かですから」
 真理を告げるティーダ。
「か、可哀想というか」
 そんな酷い事しないわよね、などと訴えてくる翠子声を耳に、レールズがコクピットで苦笑する。
「岩山が見えました。リカの為に気合を入れましょう」
 氷雨が微妙に感情を滲ませつつ。
「キメラ班もサポートします」
 岩山を中心にレールズ機が南に向かい、翠子機は北から包囲、氷雨機アンジェリカは北西で押していく。東の森はろまん機。
「‥‥間に合うか?」
 百白が最遠点のろまん機へ。
「も少し待、ってわ、何この虫!」
「‥‥‥‥」
「‥‥えへへ。もうすぐ森を‥‥ぜ、絶対逃がさないぞ!」
 沈黙に負けるろまんである。
 次第に岩山へ近付く5機。慎重に、だが迅速に。ろまん機とレールズ機が各々ハンマーボール、スパークワイヤーを構える。いよいよ。西に向いた洞穴も見えた。そして、
「洞穴入口付近、リカ発見。あの野郎‥‥風防開けてレーダー見ないで、敵に囲まれてたらどうしやがる、リカが大怪我するだろう!」
 つい言葉が多くなる氷雨。
「この先は身を隠せません。一気に押し込み、洞穴に入ればバカ、左右に逃げれば予定通りで」
 私達は不測の事態に備えて周辺警戒します、とティーダ。それぞれの機体から了解との通信。
「いくわよ」
 唇を舐め、翠子。
 3、2、ッ!
 しかし突入直前、奴が突如北東に逃げ出した!
「いい加減に‥‥!」
 ティーダが毒づく。やはり計器はおろか、各機の姿まで見えていたか。北の軽武装な翠子機を狙ってきた。
 なし崩しに追いかける一行。
『北東へ逃亡!』
「ッそこのPM−J8アンジェリカ、直ちに停止しなさい! ‥‥で止まってくれれば楽なんですが」
 レールズが呼びかけるが、奴は当然無視。南東から回り込むべくブーストで疾駆する。
「あら、わたしを抜くって? ッ鬼ごっこでこのGJr3に敵うと思うなよォォッ!」
 豹変するや、北東へ一直線の翠子機!
 氷雨機にティーダ機、百白機も追う。このまま挟めば。だがそこに、空からキメラの来襲が告げられた。

●決死の捕獲大作戦
 南東から数十体のヒポグリフが滑空する。背には大剣を構えた人型が跨り、さながら主人公。
「うるさいわね‥‥!」
 本来の任務に集中できない百合歌が、機関砲をぶち込む。機体が戻る感覚。遠すぎる。だがそれでいい。狙いは弾幕で牽制し、次に狙撃する事なのだから。
「邪魔!」
 やや接近して狙撃。半分に群が分かれる。一方は百合歌機へ、もう一方が零機に斜め前方から。
「利用はできんな‥‥ならば」
 零機がブーストで逆に突っ込む。ソードウイングが数体を切り裂き、次いで零は補助スラスターを全開、制御しループ、四方にバルカンをばら撒いた。
「早々に掃除するとしようか。行くぞ、フェンリル!」
 紅と黒に染められたフェンリルが群内で急旋回を繰り返す。華麗に敵をかわす零機。
「魔狼の牙、その身を以て知れ‥‥!」
 すれ違う馬を驚異の機動力でかわし続け、零機が今度は1体ずつレーザーで狙っていく。零がトリガーを引く度に一条の光が敵を穿つ。
 敵挙動が乱れる。群の半数を撃墜され、本能的恐怖を感じたか。だがここで損傷した馬に乗る騎兵が思わぬ行動に出た。高度を下げたかと思うと、飛び降り、地上戦に合流したのだ。
「‥‥生意気」
 それを視界の端に見た百合歌が操縦桿を強く握る。プレスティッシモ。アジタート。速く激しく、メロディに合わせて機体が風に踊る。
「だったらこうすればいいんでしょ!」
 機体の移動力を発揮、こちらも群に急接近するや、突如左翼を下としてロール途中で停止した。その状態で先頭と右翼交錯。一瞬の後に馬が真っ二つ、さらに連続攻撃の如く騎士まで一撃で屠る!
「マイクロブーストもいっとくー?」
 上空に位置した騎士が飛び乗ろうとするのを回避する百合歌機。その行く末を見届けついでに、百合歌は地上の仲間にモニタを転じた。

 ガァン!
 アンジェリカが北東へ走るのを、横から体当たりで止める翠子機。
「激しく愛されたいんでしょ?」
 翠子が抱きつき叫ぶ。だが例の彼は暴れ、話を聴こうとしない。敵が粒子斧を括りつけた右足から取り一閃する!
「ッ女には優しくするものよ!」
「優じぐじでこの結果だよォ!」
 腕を交差して防御する翠子。もはや突っ込む者はおらず、さらに敵の逃亡を妨げる者も。その瞬間。
「逃がさない‥‥雷電、メカニックスイッチ・オン!」
 叫びながらハンマーボールを投げつけるろまん機!
 ジャラジャラと鎖が引かれていく。ゴォ。『過たず』敵前方に着弾。腕を上にして鎖を高くする。敵は突如現れたソレに反応できず盛大に転ぶ。今!
 ろまん機がその鎖で拘束しようとしたその時。
「あっボク知ってるよ。こういうの泣きっ面に宇宙怪獣って言うんだよね! でもこのタイミングはボクも困るなぁ」
 彼の真上から角騎士が降ってきた‥‥!

「西島さんは北を。私は南で食い止めます」
「キメラ、か‥‥少しだけまともな任務に‥‥なりそうだ」
 ティーダ機、百白機が岩山を中心に左右に展開する。南東から来るケンタウロスは少なめ。問題は低空から降る騎士だった。
「森里さんは予定通りバカを」
 ティーダが1機留まり見据える。敵は10頭程。半分は減らしたい。
「ここからが私の仕事ですね」
 重々しく積んだ粒子砲を起動、発射する。瞬間的に超出力の光が伸び1体を消滅させた。乱れた隙を逃さず装輪接近、粒子斧の一撃で両断する!
 5体がティーダ機を包囲し襲い掛かるが、半月刀で完璧に受け続けキメラではどうしようもない。残り3体がレールズの方へ向かった。
「数が多い鼠ほど煩わしい‥‥」
 機体を半回転、斧で3体を土に還す。防御。敵は無謀にティーダ機を攻め続ける。しかし次の瞬間には、
「他の方はどうなってるでしょうか‥‥」
 暴風の如き斧の一撃によって、最後の敵まで両断されていた。

 百白機阿修羅が無言で駆け、鋼鉄爪の連続攻撃で騎士を撃破していく。獣らしい動きで跳ね、前足が敵鎧を打ち砕く。2体。紅い血潮が機体に付着した。
「‥‥死ぬ覚悟のない奴が‥‥」
 微かに憤るように百白が呟く。同時に降下直後の騎士を倒し、翠子機に合流した。
「奴らはお願いするわ。わたしはバカを」
 2機が背中合わせでアンジェリカに接近、百白機がバカを守るように立ち塞がる。そこに響いてきたのは。

「逃走劇なんてくだらねェぜ、俺達の話を聴けェ!」
 レールズが若干何かに影響されて叫ぶ。その間にも走行から反転、背後のケンタウロスをレーザーで焼き殺し、南から回っていく。
「‥‥と言わなきゃいけないような気がしましたが、俺より知人の方が似合いますね」
 操縦桿脇のスイッチを入れ、一気にブースト点火! 南から東、森前を通過してバカ機の姿を捉える!
 右の剣で騎士を防ぎ、左腕からワイヤーを射出する。
「貴方の為に綺麗な女性? が体張って頑張ってるんですよ‥‥それでも男ですか!」
 一直線に向かう捕縛紐。転んだバカの機体の横を通過しようとした刹那、レールズが左腕を巧みに操り空を泳がせる。
「ボクもやっちゃうよ!」
 近くの騎士を倒したろまん機が、同時に反時計回りで高速移動。急速に締め上げる。そうしてようやく、バカの強制捕獲に成功したのだった。

●ユリカアタック?
 それからじたばた暴れるバカの機体を背から股間、腹部へと甲羅の如く縛り、他の機が合流するのを待った。
 初めに来たのは氷雨機。無言で降りるとバカも地に降ろすや、無表情で胸倉を掴み。
「愛、覚えてませんだって。彼女。‥‥この最低野郎が! ‥‥能力者ならエミたんが嫁だ。そしてリカを愛せないお前にリカという天使に包まれる資格はない。ガキはガキらしく野郎型KVに乗りやがれッ!!」
 別方向の説教が進む氷雨である。掴んだ手を離すと、彼はふらりと地に伏せた。
「そこではうあ、なんて良い衝撃を受けたような顔をする貴方には、熱烈な教育的指導が必要かしら」
 次に駆けつけたティーダが開口一番。風防を開けた時の表情が、例の彼には妙に活き活きして見えたのはきっと気のせいではない。
「さ、帰りましょう。その‥‥なんですか、大丈夫です。今度は優しくて素敵な女性と幸せになれますから」
 ワイヤーを回収しつつレールズ機が近付き、外部出力で伝える。
「ぞんなのおらんだど‥‥おでにはもう誰も帰還を喜ぶ人‥‥」
「バカっ!」
 彼がいじけていると、同じく鎖を辿ってきたろまん機から、勢いよくろまんが駆け降りてきた。
「世の中フラれたりバツイチになったり、いっぱいいる。おにーさんまだ若いんだよっ? 青春はこれからなんだよっ!?」
 熱く肩を掴むろまんだが、その背後で氷雨が「だからリカと帰還を喜びやがれ」と呟いているのは元気すぎて聞こえていない。
「そうよ。わたしなんてフラれ続けて幾星霜、遂に‥‥」
 翠子は咳払いし、降りてきて髪をかき上げる。
「失恋は辛いわ。でもだからって他人に迷惑かけてはダメ。乗り越えなさい。貴方の力で。でなければ新しい恋もまた同じよ‥‥」
 女装姿で妙に含蓄深い事を語る翠子。
「おでひどり、ムリ」
「そこを越えるからこそ、自分が磨かれるの。‥‥ちなみに、わたしに惚れちゃ、ダ・メ・よ?」
 ばっちん、とウインク。彼は急いで目を背けた。
「ちょ、もうやらないわ、特選牛乳!」
「‥‥女々しい奴だ‥‥生きたくても生きられない人間の前で‥‥同じ事が言えるのか?」
 機体に乗ったまま周辺警戒していた百白が、耐え切れなくなったように。
「死ぬ覚悟のない奴が‥‥死にたいなどと口にするな‥‥俺は覚悟を持ち‥‥キメラを討つ為だけに生きている‥‥」
「だ、だっでおでにどっで人生だっだんだ‥‥ぎみだっで仮に体が動がなぐなっだら死にだぐなるよ‥‥!」
「それでも、やれる戦いを続けるだろう。僕は彼の事はよく知らないけどね」
 丁度空戦から戻った零が。少し遅れて百合歌機も真上に到達、逆噴射から緩い旋回に移る。空の敵の方は先制攻撃から終始圧倒、ほどなく歴戦の機動で全滅させていた。
「生きていれば明日はある。人は、生き続けねば、ならないんだ」
「死んでしまえばいいなんて、そんな事ないわ‥‥じゃなくて言ったら死なす。失恋が何? あはは。私離婚されてますけど!」
 空から外部出力で盛大にぶちまける百合歌である。
「失恋で戸籍にバツが付く? 私は、相方なくしてバツもらってんのよ。それでも生きてる私は価値なしですか」
「い、いえそごまでは‥‥その、さびじくて」
 血の気が引いていく彼。
「は。貴方、離婚1週間目に作る1人分のご飯の虚しさ、知らないでしょ!」
「ひっ‥‥はい‥‥」
「素直に返事するな! いい。私が切々と語ってやる。来なさい」
 変形して降り立つのを怯えた様子で見守る彼。そして百合歌がずんずん歩いてくるや、首根っこ掴んで自らの機体に入れて飛び立つ。
「あ、ボクも行く! 一緒に素振りで汗流すんだっ」
「だからツッコミが‥‥」
 追うろまんと苦笑するレールズ。
「‥‥任務完了‥‥」
「放って帰りますか」
 ティーダが呆れて皆に提案。辺りには2機の飛び立つ音が響いていた‥‥。