タイトル:【Gr】海峡航路マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/30 18:42

●オープニング本文


「強行上陸、でありますか」
「‥‥そうだ。イベリアの先端を回って要塞南西地点へ上陸する‥‥と、見せかける」
 海軍少将が幕僚に告げる。
「それはつまり、囮である、と」
「‥‥少しでも本命の成功率を高める為、誰かがやらねばならん事だ」
 冷徹な言葉を突きつける少将に、幕僚の誰もが沈黙する。
 確かに、理解はできる。戦術として、それは正しい。小を捨て、大を取る。軍司令部としては当然の事なのだ。自分達もまた規模は小さいながらそれを行ってきたのだから。しかし。いざ自らが犠牲となる番がくると、どうしても感情がざわついた。
「――が」少将は勿体つけて、「無理にでも接岸せねばならん、というわけではない」
 ずっと参謀畑だった男が救いを求めるように少将の方に顔を向けると、彼はにやりと笑って続けた。
「司令部もこの戦力不足の中、無駄死にしろとは言えんらしい。以前ジブラルタルで同胞が手酷くやられているしな。我らは秘かに海峡付近まで進み、発見され次第敵軍としばらく交戦、派手に敵の目を引きつけたのち帰還せよ、との事だ」
「‥‥それはそれで困難を極めると思われますが」
「希望があるだけ幸せだろう」
 言うと、少将はコピーした地図を広げ、予定航路を書き入れる。戦力は、偽装した強襲揚陸艦2、護衛駆逐艦5。小規模とはいえ、隠密裏に裏から上陸せんとするかのようなこの戦力を無視するわけにもいかないだろう、との狙いがあった。
「敵はジブラルタルの戦力に要塞、さらにアフリカ軍と、三方向から押し寄せてきますが」
「それこそが我々の目的だろうが。できるだけ要塞の戦力をこちらへ向ける。それが第一だ」
「掩護はどうなっているのでしょう」
 続けて幕僚から質問が出る。少将は初めて自信なさげな表情を浮かべ、再び地図にペンを入れる。
「‥‥我々と同行するのが、傭兵8人、だそうだ。あとは撤退掩護に多少来てもらえる事は確約してもらった。それ以外、緊急時にも連絡を入れれば本土から飛ぶそうだが」
 それは期待できないだろう、とばかり、憎々しげに口元を歪めた。
「その撤退についてですが、本格交戦開始から何分後などの具体的な目安を定めておいた方がよろしいのでは?」
「それはそうだが、あまりに早いと陽動の役割が充分に果たせなくなるしな。‥‥忌々しい事だが‥‥」
 彼は一旦言葉を区切り、目を瞑ると、自らの感情を落ち着かせるように深呼吸をする。
「‥‥残念ながら、我々正規軍より傭兵の方が、敵との効果的な戦闘を多く経験しているのは確かだ。ひとまず任せてみようと思う。艦隊の対空砲火の大まかな目標等についても話を聞く価値はあるだろう」
 一瞬、少しだけ高い波が停泊する軍港に寄せ、僅かに船が揺れた。
 それきり質問が途切れる。この陽動艦隊が考えられる事など、僅かしかないのだ。戦術と、決行時刻、傭兵との打ち合わせ、等。
「‥‥大した効果もないかもしれんが、午後に開戦となるよう調整するか」
 西日を背に戦えば、もしかしたら海峡や要塞から西に向かって来る敵の照準が少しくらい狂うかもしれない。そんなちょっとした事にでもすがりたい。
 少将は投げやりな様子で赤いペンを持つと、地図に書き込まれていた艦隊の進行方向へ、3つの大きな矢印を書き足した。そうしてキャップを締め、机に放る。少将が大股で扉へ歩いていく。幕僚達も各自解散の流れとなるが、誰もが押し黙り、すぐには出て行く気力も湧かないようだった。
 そんな彼らの目の前で、何かを暗示するように赤いペンが机を転がり、床に落ちた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
シリウス・ガーランド(ga5113
24歳・♂・HD
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「重大な任務ね‥‥」
 旗艦、艦橋。海軍少将に軽く目礼しながら、小鳥遊神楽(ga3319)が口を開く。
「ふん。2階級特進も間近だ」
 傭兵を一瞥しただけで答える少将。高速で突き進む艦が多少揺れた。
「そんな事にはならないわ。私達が護るから、全力で」
「とはいえ上層部の命令もある。どれだけ突っ込めるか、だな」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)が少将の背にある種挑戦的な言葉を投げかけると、月影・透夜(ga1806)が続けて作戦のバランスを指摘する。
「耳目を引き付ける囮‥‥」
「それも敵陣真っ只中だ」
「どの程度の戦力がこちらに来るかしらね」
「群となって殺到するであろう。‥‥空も、海も」
 恐怖でなく、純粋な興味のようにアズメリア・カンス(ga8233)が独りごちると、少将に負けない貫禄でシリウス・ガーランド(ga5113)が答える。じき訪れる物量の波にすら動じた様子はない。
「全方位警戒が必要だな」
「艦隊への‥‥被害は最小限に‥‥抑えたいですねぇ‥‥」
 透夜の後に、本人としては精一杯緊張感を孕んだ声で告げる幸臼・小鳥(ga0067)。近くのクルーが子猫を見るように振り向いたのは気付いていない。
「貴重な海上戦力ですからね。できれば無傷で帰還させたいところです」
 フォル=アヴィン(ga6258)が揺れる艦内を軽々と歩きながら。彼はそのまま司令席の真横まで行くと、如才ない微笑で話しかけた。
「万一艦隊への被害が出たら、少将の判断で撤退して頂いて構いません」
「そうならんよう守るのが貴様らのし‥‥」
「誰一人」静かな、しかし耳朶に響く声で「‥‥艦を残しての撤退など考えていません」
 少将が声の方を向くと、無表情のアグレアーブル(ga0095)。何か言うかのように数秒少将を眺め、視線を外へ転じた。
「‥‥と。勿論こちらも最善は尽くしますが。ま、保険ですね。信頼してます」
 取り繕うフォル。そこまで言われては押し黙るしかない。少将は苛立ちを隠して部下へ指示を飛ばした。
「正直気が重いけれど」
 本気なのか解らない台詞を吐く神楽。それに反応してロッテが「これで多くの戦友が‥‥」と言いかけるが、
「誰かがやる必要がある。そして任された以上は全力を尽くすわ」
 解ってるとばかり神楽が遮った。
 と、その時。
「そろそろイベリアの先へ出る。仕事は果たせよ」
 少将の言葉と前後して速度が落ちる。
 ここを過ぎれば、任務を完了するまで留まる事は許されない。敵に上限などなく、限界まで戦い、生きて撤退する事が目的なのだ。俄かに艦橋が騒がしくなる。通信士が幾度となく交信し、僚艦の防空火器が僅かに角度を変えた。8人もKVの許へ向かう。
「小鳥、透夜」
 ロッテが同小隊の2人に声をかける。
「‥‥無傷で帰還が私達の誉れ。頑張りましょう」
「はぃ‥‥今回も一緒にぃー‥‥」
「当然だ。俺達も、艦隊もな‥‥!」
 8人は甲板に出ると、相棒の待つ格納庫へ足を踏み入れた。

●砲撃集中
『α‐2、正面ジブラルタルよりHW群確認!』
『要塞より高速接近する熱源!!』『アフリカは最後にお出ましって事みたいだ‥‥』
 索敵を頼んだ艦載機から次々情報がもたらされ、艦隊上空で防衛網を敷く7機が各々の機動で艦の南北へ機首を向ける。と同時に、
「敵捕捉ですぅ。射程圏内‥‥今ぁ!」
 ガァン‥‥! 小鳥機バイパーのライフルが火を噴き、海峡先頭のHWを穿った。ロッテと小鳥が遊撃に出る。
「――交戦開始。データリンク良好。海峡方面にHW群。次いで要塞、アフリカ方面軍。艦隊11時の方角へ砲撃お願いします」
 最も艦に近い空を飛び、アンチジャミングを展開するアグレアーブル機ウーフー。さらに
「俺達は光学迷彩も考慮に、奇襲を警戒しましょう。シリウスさんは大丈夫でしょうか?」
『問題ない‥‥』
 フォルとアズメリア、2機の雷電が主に艦の後方に意識を置き、海中ではシリウス機テンタクルスが孤軍奮闘する。この歴戦の4機が艦隊を守り、残る4機が打って出る。
「南はやや遠いようだが‥‥俺達も出るぞ!」
「了解。先制して焼き尽くしてあげるわ」
 良い作戦だと言えた。敵の物量に、呑まれさえしなければ。

「小鳥、呼吸を合わせていくわよ!」
 ロッテ機ワイバーンがロールしながら急降下すると、剣翼をHWに衝突させる。酷い衝撃。通り抜けた瞬間に操縦桿を引き上げた。対して小鳥は斜めから進入、軌跡を交差させ同様の刃をお見舞いする。一瞬の空白、爆発。爆風を背に、さらに2機が群に向かう。
「魔弾の連携‥‥見せてあげるのですぅ!」
 機首を合わせ小鳥の白い指が重機の引鉄を絞る。
 6機並んだHWの中央に弾幕が張られる。それに気を取られる敵に、ロッテ機が鋭い剣翼で強襲する!
 1機中破。と、翻ったロッテの視線がモニタの一部を明確に捉えた。
「小鳥、9時にキューブ!」
「後でゼリー‥‥作ってあげますねぇ‥‥!」
 左旋回。狙撃銃がHWの群を抜けて立方体を射抜いた。一旦停止する青。が、代償にそのHW達から嵐のようなプロトン砲が返ってきた。あるいはロールし、あるいは空を滑り落ちる機動。機体上部を衝撃が掠めた。
 先制攻撃で敵の動きは鈍ったものの、やはり北東側は基地も近く増援が早い。艦隊の方へ自然と目が行く。その時ようやく
『北、一斉砲撃準備完了。退避に合わせます』
 アグレアーブルの澄んだ声が。
 スライスバック、フェザー砲を尾翼に喰らいながら一気に舞い戻る。
「追って‥‥来てますよねぇ」
 ブースト。2機が射線から左右に散る。
「さあ、観客には全力でお礼しないとね‥‥!」

「お願いします‥‥!」
 アグレアーブル機が正確にデータを送り続ける。彼女の合図が司令部へ届き、少将の命令が全艦へ轟く!
『ッてェ!!』
 轟音‥‥!
 鳴り止まぬ砲声。圧倒的な火力がHWとキメラへ襲い掛かる。空に絶叫が鳴り響く。
『吶喊!』
 朦々と漂う白と黒の煙の中に、2機が再び躍り出た‥‥!

「神楽、南東の中型を追い込む!」
 鋭く旋回して風を切る透夜機ディアブロ。彼がその火力を発現させる寸前、先制して神楽機アンジェリカが中型を囲むようにG放電を解き放つ。敵機から漏電。しかし中型HWは狙われたと悟るや、不規則な動きで高度を上げ、強烈な光を撃ちだした。二条。三条。一条が艦隊脇へ。海水を蒸発させる。
 透夜機両翼にもまともに命中するが飛翔速度は変わらない。操縦桿横のスイッチを押し、螺旋ミサイルを発射する。白煙が中型へ向かう。大音響。黒煙が混じる。透夜機はそのまま角度をつけ一気に駆け抜けた。剣翼が空間を斬り裂き、視界が拓けたところで中型が爆散する。幸先良好。が。
「単調すぎる。別働た‥‥」
 神楽機の機関銃が2羽の巨大鳥の羽を散らせた、まさにその時。
『こちらα‐1、西南西より接近する敵影確認!』
 真南でこちらを引きつけ、半分が迂回したか。
「やってくれるわね」「艦砲まだか!」
 くく、と喉の奥で笑う神楽と、小さく舌打ちする透夜。そこに、ようやく後方から轟音が響いた。
 北へ向けた、第一撃の音が。
 ――ッ、第二射まであと‥‥!?
「護衛班、次の一斉射撃まで‥‥」
『解ってるわ。そう簡単に崩させはしない』
「ああ、頼む!」
 透夜は高高度から降ってきたキメラの突撃を受けながら、アズメリアに西南西を託した。

●押し寄せる波
 静謐な、耳が痛くなる世界。時折外界から墜ちてくる物体が波紋を起こし、その度に自己と世界の繋がりを意識させられる。そんな孤独な空間でじっとソナーを見つめる。少しの異常も逃すまいと。
 一条の緩和された光が海中に飛び込んできた。敵光線か。
 ――我ならば空に奇襲をかけ、さらに。
 敵側となって考えようとしたその瞬間
「上に気を取られている隙に下から‥‥常套手段の一つであるな。爆雷申請。艦隊より225度――」
 案の定、ソナーに光点の集合が。南に1つ、南西に2つ。多い。だが。
「我が名はシリウス・ガーランド。餌に喰らいつきたくば我を沈めてみよ」

『深度60――』
 シリウスの超長波通信が届き、フォルの指が流れるようにコンソール上を踊る。水中はアフリカの敵のみらしい。ならば。
「アズメリアさん、まずは俺の爆雷で。多少艦から離れますが、その間お願いします!」
 充填、そして発射。フォル機の集積砲が頼もしい音を立て極太のエネルギーを放ち、HWを巻き込む。周囲のキメラすら慄き退り、その隙を突いてフォルは急降下しながら所定位置へ飛ぶ。
「設定完了。安全圏へ退避を。投下5秒前、3、2‥‥」

 南西群の鼻先に泡を立て投下される爆雷。それが前方頭上から次第に沈み、
 ッ‥‥!
 群の中心で爆発した。衝撃が上に抜け水柱を作る。シリウス機は艦隊付近で限界深度まで潜り、余波が続くうちに早くも動き出す。真南の一群に魚雷を放り込むや、南西へ。さらに南に爆雷を依頼しておくと同時に、南西の激しい水泡から脱出してきたマグロに機関銃を浴びせる。
 直後。
 白い幕を抜けたもう1つの群が、海流となって眼前に現れた‥‥!

「なるべく敵を‥‥一点に集めてぇ‥‥」
 小鳥機の重機から放たれる弾雨がHWにまともに命中し、黒煙を上げて墜落する。一方でロッテは激しく操縦桿を操り接近する。衝撃。右翼先端に両爪を喰らいながら至近の超小型竜を両断した。
 艦砲によって小破したHW、数を減らしたキメラを相手に、ロッテと小鳥の2機は対となって勇戦する。
 だがモニタにはバグア軍なら程なく飛来するだろう距離、北東の空に蠢く大質量がはっきりと映っている。
「来るだけ来なさい‥‥!」
 ロッテが僅かに口角を上げた。

 次々と増援押し寄せる南。情報管制に従事していたアグレアーブルまでが南西に対応せざるをえなくなってきた。
「30秒で南に砲撃開始します。準備を」
 アグレアーブルがG放電で中型を縫い止めた隙に、スラスターライフルを放ちながら南へ急行するアズメリア。爆雷設定、高度を下げ投下しようとした刹那。抜け出たHW2機のプロトン砲が‥‥!
『ッ回避行動!』
 割り込めるか。
 空を滑らせ機体で受けようとしたアズメリアだが間に合わない。二条の光が駆逐艦右舷、甲板に直撃した。その2機をフォル機が横からの集積砲で押し返す。
「これ以上近づかせない!」
「‥‥投下」
 混沌とした中でスイッチを押すアズメリア。爆雷が海面に吸い込まれると共に、彼女の戦場たる南西へ引き返した。

「30秒‥‥」
 流石に引き伸ばすのも限界か。
 艦対空砲準備時間中に来た敵が多すぎた。それが透夜の思惑を僅かに狂わせていた。
 水柱が噴きあがるのを斜め後方に感じながら、透夜は重機をばらまく。相互支援する形で神楽機の放電。HW1機撃破。その周囲のキメラの動きが緩慢になる。
 四方を囲まれていく2機。透夜機が敵の間を縫って凶刃の翼を翻し、青く半透明な何かが視界に入るや、そちらに機首を差し向ける。
 敵フェザー砲の軌跡が空間をカットするように多重交差する。うち数条が神楽機コクピット付近に命中、下方に伸びた光線が偽装揚陸艦の船腹に穴を開けた。艦の方は幸運にも喫水線の上。それを横目に確認し、神楽機はバランスを崩しながら試作型G放電を周囲へ展開する。
 透夜機左翼端に亀裂が走る。それでも続くドッグファイト。全方位からの攻撃が狭まってくる。キメラまで手が回らない。次々抜けていく飛行型が光弾を放つ。甲板に損害。さらに数羽がそのまま1隻の艦橋へ特攻した。自爆。黒煙が立ち上る。
『ッ転進!』
 少将の怒鳴り声。
 そして、待ち望んだ時がようやく‥‥!

「秒読み開始。退避して下さい」
 アグレアーブルの指が目まぐるしく動く。レーザーが突撃するキメラを撃ち落とす。
「一斉射撃後転進します。皆さん準備を」

●撤退掩護
「私がM12を放ったら後退よ」
「うー、艦の損耗率も‥‥上がってきましたしねぇ‥‥」
 艦首から要塞側にかけても敵増援が到着しつつある。だが先制して艦の砲撃が炸裂し、間隙を突いて第1波を四分五裂にした北は、他方に比べると優勢だった。が、それでも2機の装甲は塗装が剥れ所々溶解しかかっている。
 小鳥機が前に出て弾幕を張る。東から北東へ。敵光線の束が飛来する。逆噴射から高度を下げロール。主に敵に剣翼で仕掛けていたロッテ機の主翼が悲鳴を上げる。漏電し始めた。
『6、5‥‥』
 アグレアーブルのカウントが続く。ロッテの粒子加速器が凄まじい電圧を帯びた。
「小鳥!」「了解ですぅー!」

「さあついて来い‥‥!」
 透夜と神楽が螺旋ミサイル、G放電の集中で西へ敵中突破を敢行する。
『2、1‥‥』
 ブースト、急降下して速度を稼ぐ。キメラが機体にぶち当たった。骨が軋む。空が滑る。前が拓けた。残るミサイルを南西の群に放り込む。そして
「発射」
 大気震わす一斉砲撃。アグレアーブルの号令に合わせて全艦全砲門が南に火力を集中する。周囲を覆わんばかりの白煙が艦を薄く包み、種々の銃砲と対空ミサイルが、至近に迫っていた軍勢を迎え撃った。

「燃え尽きなさい‥‥オ・ルヴォワール!」
 臨界突破。ロッテの粒子砲が唸りをあげて一直線に放たれる。直撃して爆散するHWと辛うじて逃れる敵。ロッテはそのまま操縦桿を無理矢理左に、旋回を開始した。細くなり始めたビームの残滓が群を横に薙ぎ、強烈に牽制する。
 それをモニタに捉えつつ、ロッテと小鳥は北西へ機首を向けた。

 艦が徐に取舵の方向にUターンし始める。猛烈に熱を発する砲身を携え、煙の中で必死に生き残るべく。
 その動きを背に、流線形の魚の体当りを人型で受止めるシリウス。
「貴様らに遅れを取る我ではない」
 鋼鉄爪を懐に突き立て止めを刺す。その時爆雷が海中へ侵入してきた。それは直前に要請した位置と違わず、群やや上部に到達し。
 音なき衝撃が群を襲った。
 シリウスは深くからそれを見上げて確認すると、漏電する機体を変形、平然と艦隊の真下へ向かう。後は、生き残った敵との速度勝負だった‥‥。

 アグレアーブル、アズメリアが弾幕を張り、フォルが最後の爆雷を切り離す。フォル機はそのまま敵陣に近い位置からミサイルで攪乱し、さらに煙幕を展開した。
 殿となる3機。各機が弾幕とG放電で群の鼻先を抑えていく。幾筋ものプロトン砲が放射されるが、咄嗟にアズメリア機が艦との射線に割り込んで盾となる。即座に応射する3機。
 その遅延行動を厄介と感じたか、元より深追いしないのか。
 強固で見事な殿軍を前に、敵はいつの間にか追撃を止めていた。
『ご苦労だった。これだけやれば文句も言われんだろう』
 どれ程経ったか。イベリアの岬を越えた辺りで、傭兵嫌いの少将が精一杯の褒め言葉を発した。
 そこでようやく一息つく一行。
「何とかなったわね‥‥私達も本隊へ合流しましょう」
 東の空を見つめ、ロッテが全機に言葉をかけた――。



『本格交戦時間、14分 艦隊被害、中破1小破3。――我、陽動に成功せり』