タイトル:茨の道を切り拓け!マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/12 02:09

●オープニング本文


 それは、キメラの影に怯え続けた町長の言葉に始まった。
「少しでも自衛の道を探るべきだ! 我々の町を、家を守る為に!」
 そのお触れは瞬く間に町中に渡り、そして町民の知り合い、果ては1発当てようとする国内の貧乏学者にまで。それに便乗してしまったのが近くの研究所だ。SESの研究に勤しむそこが自分達のアイデア不足を補うべく、使い古したエミタ金属を一部提供したのである。
 それによって人々はさらに加熱した。ある者は家財道具を改造し、またある者はわざわざホームセンターにまで出かけて『作品』に取り掛かり。
 かくして2ヶ月後の今日。
 海岸に程近いイタリア某市郊外、2階建て特設会場において、それは開催されたのである。
『1人1殺! 輝けメトロニウム大賞!』
 なる、SES搭載日用品の展示会が。

 ◆◆◆◆◆

 人の群が会場に波を作り、様々な喚声が感覚を麻痺させる。東西にある幅広の階段は、ともすれば阿鼻叫喚の事態になりかねない程の混雑となり果て、展示されている作品を見る事すら一苦労。キメラに生活を脅かされながらも町に愛着を持つ人々にとって、どんな事であれ、宴は重要な事だったのだ。
 無論、ここに展示されている物だけで簡単にキメラと戦えるようになるわけではない。しかし、この展示会の作品を元に安価で使いやすいSES武器ができれば、大切な人を逃がすだけの時間を作れるかもしれない。また製作者にとっても、自分の才能を認めてもらえるかもしれない。
 そんな期待感が会場を包み、その活気が会場を外の世界と隔絶させる。
 だから解らなかった。
 町に、キメラの大群が近付いている事に‥‥。

 夕刻。人ごみも少なくなり、2階は人が少なくなってきた頃。
 最初にソレに気付いたのは、会場を後にしようとした家族連れだった。
「‥‥ん?」
 砲声。そして空を飛ぶ戦闘機の轟音。
 妙に近い。この近くに敵がいるのか?
 一般人とはいえ慣れたもの。旦那は妻と息子を車に行かせると、即座に踵を返して会場の人間を探す。まだ1階は人が多い。5分、10分が無為に過ぎる。
『‥‥‥‥町の人間、‥‥‥‥退‥‥‥‥!!』
 耳を澄ますと、そんな警告が聞こえてきた。早く報せねば。
 と、その時、ようやく主催側の人間を見つけた。人ごみを掻き分け、スーツの人のもとへ。一息で簡潔にその危険を報せると、その男は放送か何かの為にどこかへ走っていく。
 旦那は急いで自分の車へ帰ろうとする。が、その瞬間。
『――――■■ッ!!』
 入口の方から、可聴域ギリギリの不快な音が聞こえた。直後、悲鳴。
 ――キメラ、か。外の俺の車は‥‥!?
 絶望的、かもしれない。しかし、家族の為に行かなければならない。
 旦那は悲壮な覚悟を決めると、近くに展示されてあった、SES搭載の銛がハンドルに括り付けられているらしい自転車に跨った。

 特設会場、2階奥。ここにもまた、素早く異変を察知した人間達がいた。彼ら――傭兵達は周囲に腐るほどある展示品の方を見やると、その中の数種を手に取り、前を向いた‥‥!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN

●リプレイ本文

 吹抜けに掛けられた横断幕が下に垂れ、大賞だの未来研マテーラ支部提供と書かれたそれが無残に食い千切られる。キメラが大合唱を奏でたと思えば、傍若無人な異形は上機嫌に闊歩する。
 上から見る1階はまさに魔境だった。2階も時間の問題。が、そこにいた8人の動きは迅速だった。即席分隊を組み、2つの目的――救助班と脱出口確保班を定める。そして東西に分かれ行動開始したのである。
「息抜きの筈が‥‥大変な事に‥‥なりましたねぇ」
「休暇はまた今度。行くわよ小鳥‥‥転ばないようにね。皆も」
 転落防止柵の間から覗く幸臼・小鳥(ga0067)と、臨戦態勢のロッテ・ヴァステル(ga0066)。付近の展示品をかき集めていた。
「このタイミングでキメラとは‥‥」
 包丁を手に取るや、八神零(ga7992)は我先にと上ってきたハスキー犬らしき敵を薙ぐ。
「実戦で試せという事か」
「民間人も残されています。展示品を精々使い尽し、不良品だった時は嫌味の1つでも言ってやりましょう」
 兵は拙速を尊びます、と瓜生 巴(ga5119)がサーフボードを持ち、西階段を見やる。まだ姿はないが、続々と現れそうな気配が肌を刺激する。
「ラルス! そっちは任せるわ!」
「はい〜」
 気の抜けそうなラルス・フェルセン(ga5133)の返事を聞きつつ、ロッテは西へスケボーを向けた。

「さて」ラルスの額に紋様が輝き、纏う空気がガラリと変わる。「全く騒々しい。バグアものんびり骨休めさせてくれれば、可愛くない事もないのに」
「それはない! ‥‥にしても数が多い。こうなったら完全な退路確保の為に‥‥」
 即答する虎牙 こうき(ga8763)は何やら一方の壁に頭を垂れる。その壁には猫のぬいぐるみ達が。ゆっくりと触れた。
「猫神様、御力、お借りします」
「にゃ、私?」
「ちげーよ! 俺の守り神、それは!」
 猫屋敷 猫(gb4526)の方へ振り返ったこうきの服はいつの間にか、
『猫L☆VE』
 見事なプリント。全身にゃん製品満載、妙に満足げなこうきがいた。ラルスの歓声が聞こえたのは気のせいだ。
 逆に悲しげなのが、
「はぁあぅ‥‥AUKVのない美空はただの美空なのでありますよ‥‥」
 美空(gb1906)である。
「武器もなく周りは微笑ましい品ばかり。楽しくボランティアしてたのに、何故か美空は阿鼻叫喚の地獄に裸で瞬間移動していたのです、まる」
「待て、考えるんだ。ガラクタでも武装しまくれば突っ込める! 以前、盾構えて突っ込んだだろ」
「はぅあ!? な、成程! 早速おっきいのを‥‥」
「早く行くですよ‥‥」
 こうきの助言で蘇った美空に、猫のツッコミ。4人とも極めて真剣なのだが、妙に和やかに見える。その有り様に気付き、ラルスは咳払いして呼びかけた。
「聞こえますか? 私達は傭兵です。今から脱出しますので一般人は此方へ」

●激流下り
 階段を猛烈に上ってくる2つの影。ロッテが一方を蹴り落とした。
「民間人、もういませんか? いたら東階段に‥‥」
 ボードを叩きつけて巴がもう片方の犬を倒し、念の為に声を上げる。2階に敵が殺到する前に1階へ下りたいのが本音だが、そうもいかない。10秒程が何もなく経過する。零が時を惜しむ。
「あまり長居して消耗戦となるのも拙い‥‥行こう」
「そう、ね」
「1階に無事な人が‥‥いるといいのですがぁ」
 頷き、地獄に続きそうな階段を見る。
 強行突破すべくロッテが頼りのスケボーを酷使する決意を固めた。こちらにある他の乗り物はサーフボードだけ。突破力が足りないかもしれない。
「皆さんは先に。私は上から援護しますので」
「な、なら貴女はどうやって下り‥‥」
 それを解っているからこその巴の策。巴は返事を聞く気もなく階段正面まで来るや、ボードを一気に蹴り飛ばした!
「行きなさい!」
 ボードが階段を滑る。先頭の敵にぶち当たる。それでもボードは止まらない。他の敵の体勢まで崩した。
「覚えてなさい‥‥」「話は後だ。行くぞ‥‥!」
 滑り続けるボードの後を、ロッテ、零、小鳥が駆け抜ける‥‥!

「一般人はこれだけですか?」
「いくでありますよー!」
 ラルスの問いに人が頷くより早く、美空は吹抜けから家具を次々落としていた。
 轟音が連続する。
 TV、冷蔵庫、箪笥。多少滑稽な姿だが、その重量は真下のキメラを押し潰し行動不能にする。何事かと1階中央にキメラが集まる。
「命中であります!」
「ふむ。階段にも転がして隙を作りましょう」
「皆さん、行くですよー」
 ラルスがドラム洗濯機を構える。一般人を合わせた9人が視線を交わす。美空のリアカー、こうきの自転車が軋んだ。唾を飲む音が聞こえたと思った瞬間!
「GO!」
 豪快に落ちる洗濯機。70cm幅の道ができた。美空、猫が前を、ラルス、こうきは一般人を守り駆け下りる!
 洗濯機が破裂する。その先には剣牙虎1体。ラルスのSES懐中電灯から発せられる不可思議な光線が虎の足を焼く。悲鳴。飛び掛ってきた虎を美空が体で受ける。そこに猫の包丁が一閃した。
「私の包丁捌き、とくと味わったですか?」
 翻るエプロン。一行が再び走り出す。1階の喧騒はすぐそこに迫っていた。

「邪魔よ貴方達」
 巴のボードが敵を運び、直後、助走をつけたロッテがスケボーに乗って跳び込んだ。威圧的挙動で敵を凍らせ踊り場へ着地すると、膝を柔らかく使った連続跳躍に踏み切る。
「逝きなさい‥‥!」
 捻転。スノボーの如き540°トリック。テールとノーズの刃が中途の敵を斬り裂く。が、残り10段という時。
 巨大な蛾がロッテの顔面を覆った‥‥!

「ロッテさぁん‥‥待って下さ‥‥ひぎゃ!?」
 場違いな悲鳴と共に、最後尾の小鳥が盛大にこける。
 踊り場にいた猫又が迫る。零は反転するや、思いきった踏み込みから紅く輝く両手包丁を突き刺した。
「しっかりしろ」
「はぃー‥‥」
 メイド服のような服を揺らし小鳥が立ち上がった。

 巴は独り2階から戦況を確認する。先程美空が投下したおかげで敵は中央東寄りに集まっている。ならば他の傭兵が階段を下りきるまで時を稼ぐには。
 足下の植木鉢を南に投げつける。甲高い音が注目を集め、東に行きかけた敵が再び南へ戻っていく。
 ――後は、階段で詰る可能性を考え‥‥。
 巻尺の帯を柵に括りつけ本体を左手に持つ。巴はなんとかベッドを投下すると、それと共に飛び降りた。スルスルと巻尺が伸びる。
 大轟音。床に直撃してベッドの脚が砕ける。そこに降下しようとした巴だが流石に1階までは帯の長さが足りなかった。帯が途中から千切れたのである。
「ッ‥‥」
 辛うじて両足で着地、苦虫を噛み潰す。左肘が痛い。
 計算違い。だが敵を引きつける事自体は成功している。という事はすぐ仲間は来る。
 包囲される。巴は近くに転がっていたホッピングとバールを手にし、西階段の方の鹿をホッピングで突く。1匹撃破。
 いける。
 突如横合いから爪が伸びてきた。致命傷を避けねば。痛む左腕で受ける。次。間に合わない。しかし巴が諦めず屈もうとした瞬間、
「狙いは解るけど、せめて一言頂戴‥‥」
「大丈夫‥‥ですかぁ!?」
 神速のロッテと小鳥のDVDが、両脇の敵を吹き飛ばした‥‥!

●物量
「北口より脱出します。お護りしますからついてきて下さいね」
 休日のパパスタイルのラルスが微笑み、一般人を美空のリアカーに乗せる。
「大船に乗っておくであります」
「突破優先で」
 敵は多い。いざという時は身を以て庇う覚悟を決める。
 近寄ってきたカブト蟹の甲殻の隙間へ猫が刺身包丁を突く。
「行きます」
 徐にラルスが宣言すると同時に、こうきの自転車が先頭に躍り出た。鼓舞するが如く叫ぶ!
「猫まっしぐらだぜ!!」

 髪が靡く。近くの小熊を蹴り飛ばす。
 スケボーで勢いに乗ったロッテは敵の間を縫うように先行し、その後ろを小鳥、巴、零が続く。予定ルートは西階段から南、東、そして北。
「制圧されているとはいえ見捨てる事は出来ないな‥‥」
「何より私達だけで脱出したと知れれば、少なからず批判の声は出るでしょうから」
 零に現実的な考えを披露する巴。この群の中、要救助者を求めて東奔西走するのだ。一歩間違えば敵の餌食だった。
 DVDが空を舞い、進行方向の1匹の足を切断する。だが敵の数が減った感じすらしない。
「そういえば‥‥中身は何か映ってるんでしょうかねぇ‥‥」
「持ち帰る? ‥‥にしても数だけは多い!」
 舌打ちしつつスケボー上でスウェーするロッテ。その視界に黄色い何かが映った気がした。
「ロッテ、左の植え込みだ」
 零がいち早く曲がり、深い踏み込みから包丁で斬り裂く。拓ける空間。刹那、だらりと舌を垂らした黒犬が動いた。こちらの動きで逆に気付いたか。植え込みの黄色が震える。犬の方が速い。飛び掛かる!
「絶対目の前でなんか‥‥傷つけさせないですぅ!」
 瞬間、銀に輝くDVDを鷲掴んだ小鳥が、腕を振り下ろした。

「危ねぇ!」自転車から跳び下り、こうきが攻撃を体で受け一般人を庇う。「この野郎‥‥ニャンスラッシュ!!」
 反撃に文字通り猫の手を使う。自らは影となり、ぬいぐるみ――レンの手で繰り出すフック。続いて猫が中華包丁を大上段から叩きつけた。血潮を撒き散らし倒れる豹。
 自転車を起こすこうきに寄る巨大蟻をラルスの光が牽制し、再び前へ進む。横合いから襲い掛かってくる敵にすらラルスは気を配り、美空が必死に自転車でリアカーを曳く。武器として持ってきた炬燵は一般人の乗るリアカーの中。SES搭載の服も重量オーバーで着れなかった。美空が1番危険と言えるかもしれない。が。
「全速前進でありますよー!」
 それを微塵も感じさせぬ猪突‥‥もとい勇猛さ。一般人には絶望的な状況で、その明るさは希望となっていた。
 ラルスがさらに左から突っ込んできた一角獣をデジカメの光で迎撃する。魂を刈られたようにくずおれる敵。
「後少しです。頑張りましょう」
 北から風に乗って外の喚声が聞こえてきた。不意に西日が差し込む。敵の群から伸びた無数の影が、数の多さを再認識させた。

●消耗
「‥‥、やはり包丁は苦手だ」
 4本目になった包丁を左手に取り、改めて零が呟く。彼の前を民間人4人が震えて歩く。
「もう逃げましょう‥‥?!」
「申し訳ありませんが人員不足です。逃げる事は止めませんが‥‥護衛はできません」
「必要なら肩を貸すが」
「いえ、や、奴らの方を‥‥」
 泣き言を漏らす一般女性に正直に話す巴。零が気を利かせるが、それより敵を処理してほしいらしい。殺気を放ち牽制しても蟲は襲い来る。女性の後ろに迫った羽蟲2匹を零と巴が墜とした。
 南口付近。踏み場もない程の惨劇を横目に、素早く東へ駆け抜ける。
 ところが直後、衝撃がロッテを襲った。
 かわし損ねた黒光りする蟲に衝突、スケボーが遂に砕けたのだ。宙に投げ出されるロッテ。黒光りは即座に触手を伸ばす!
「しま‥‥」「っだ、ダメですぅっ!」
 フリルが揺れる。気付けば小鳥は、黒光り本体に体当りを敢行していた。触手がロッテの脇腹を削っていく。
 黒光りは小鳥に鉤爪を振るう。胸付近が裂け、服の隙間から裂傷が現れた。小鳥は背中のハタキで力なく応戦する。
 その姿を見た瞬間、ロッテの視界は、赤く染まっていた。
「ッ害虫如きが‥‥」腰の小型チェーンソーをかき鳴らす!
「囀るな!!!!」
 両断。体液が盛大に飛び、緑の雨が降る。巴、零が4人を連れて前に来る。
 べたつく小鳥の髪をロッテが撫でた。
「守れ‥‥ましたぁ」
「‥‥全く。しょうがない娘ね」
 ロッテが安堵して自身の服を破り、傷口に当てる。と、
『――――』
 意味を為さぬ喚声ばかりのここで、何かが聞こえた気がした‥‥。

 ラルスの高枝鋏が紅犬の顔を縦に砕き、猫の包丁が煌く。美空が前に掲げた炬燵からは本来癒しの筈の暖かさが敵を焼き、こうきの猫は敵と共に1つまた1つと真白に燃え尽きていく。
 北口に着いた一行はそこを確保するのに、想像以上の消耗戦を強いられていた。次々即席武器の素材が壊れていく。
「聞こえるか解りませんが、撤収をお願いしましょう」
 声の限りを尽して叫ぶラルス。だが返答はない。
「はぅあっ、美空の炬燵も壊れたであります! ‥‥かくなる上は」
 早く逃げるであります、とリアカーに縮こまっていた一般人を立たせ、美空はリアカーを前に戦闘態勢を取る。が、そんな時
「あ、あんたら仲間待ってんだろ? 俺も戦う!」
 一般人の男が言い出した。じりじり敵に押されつつラルス、こうきが反応する。
「残念ながら無理です。少なくとも、現状の技術では」
「あー‥‥そこの女子供を確実に逃がしてくれ。重大な任務だぜ」
「だが‥‥!!」
 無言。悔しさを堪えて男が5人で外へ向かう。
 しかしその気持ちだけで戦う者は嬉しくなるものだ。猫は包丁剣舞を披露する最中、勇敢な男の言葉を聞いていた。奥底から何かが湧き上がる。左の菜切包丁で敵の爪を斬り飛ばす。右には逆手で出刃包丁。ギリと腰を捻り見据えた!
「ぶつ切り〜粗切り〜乱切り〜♪」
 瞬間。独楽の如き回転が狼を刻む。前足。両の眼。そして踏み込みから胴へ突き上げ。プラスの感情に敏感な猫らしい絶好調。その勢いが他の敵まで怯ませる。
「どれがいい‥‥て聞く前にやっちゃったです。切り分けられたら食べてあげるですよ」
 即座に後ろへ跳ぶと同時に、その空間を冷気が襲った。トンボを切って着地する猫。向こうを見やり、構える。が、両手に持っていた筈の包丁は先程の斬撃でSES部たる柄を残して砕けていた。
「にゃ、拙いです!?」
「‥‥私も後は花瓶だけです」
 もっと武器耐久力を考えるべきだったか。残る武器はラルスの花瓶、こうきの猫神様・TV、美空のリアカー。180度から押し寄せる敵に対しあまりに心許ない。
 北口から30mを保持していた4人は後退を余儀なくされる。20、10。
「俺は、役目を果たさないといけねェんだ!」
 断腸の思いでこうきが猫神様のストレートを放つ。敵の眼球を抉り、代償にぬいぐるみの綿が弾けた。その最期を焼き付けようとするが、敵はそれを許さない。再び極寒が4人を襲う。どこにいるのか。目を走らせるも見つからない。
「このままではジリ貧であります‥‥美空が!」
 リアカーを盾に突っ込む美空。2匹を飛ばし、1匹を撥ね。10時の方向奥に息を吐く蜥蜴がいるのを確認した時、リアカーは音を立てて四散した。
「このまま逃げられる訳‥‥!」
 せめて遠ざけようと美空が無手で突っ込む。蜥蜴が尻尾を振り回す。腕で受け、それを掴もうとしたその刹那!

 ――無茶をするな。

 何かが蜥蜴を吹っ飛ばす。
 美空が見上げた向こうには、モップを構えた零の姿があった‥‥!
「長居は無用。退散するわよ」
「未探索部分はありますが、仕方がありません」
 小鳥を背負ったロッテ、次いで巴が合流、北へ走る。

 かくして8人は狂乱の展示場から脱出を果たしたのだった。
 ちなみに現在展示された品の製品化予定は、ない。

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