タイトル:【DR】ペルミ撤退戦マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/28 22:04

●オープニング本文


 爆煙と埃が視界を覆い、着弾の衝撃が鼓膜を破る。
 空を切り裂く嫌な音が聞こえたと思ったその時には既に敵ミサイルは獲物に喰らいついた後で、必死に市街戦を展開していた各師団は僅か数分にして意思疎通もままならぬ状況へと陥っていた。
 生々しい感触が腿に当たる。視線を下げると人だった物らしき肉片が転がっていた。唾を吐き捨てる。
「いきなり敵さんのお出ましと思えば、何なんだよこれは、クソ!」
「貴様! 無駄口叩く暇があれば1匹でも多く敵を殺せ! 命を賭して敵を殺‥‥」
「るせェんだよ無能!」
 激戦の最中の乾いた銃声。他の兵が止める間もなく、緊急に徴用された1人が口煩い自称軍事顧問の額に鉛玉をお見舞いした。
 そんな混乱をよそに、軍司令部にまで大型キメラが接近する。
 指揮装甲車前面の物陰から歩兵の弾幕が注がれる。次いで誰かが放った柄付の手榴弾の塊が転がり、四足歩行の黒い大熊が血の霧を噴いて飛び散った。と思えば次の瞬間には、いつの間にか頭上に姿を現していたHWからのフェザー砲が、周辺を焦土と化す。直撃を避けた少数は全身を埃と言わず血と言わず、薄汚い何かで真っ黒に染められ、命からがら離脱する。
「ッ畜、しょ‥‥! ‥‥んだって、突然、こんな、‥‥‥‥」
「空軍は何してやがんだ!!」
 陰から陰へ。崩れかけた建物を頼りに、完全に崩壊した軍司令部と総予備が我先にと西へ敗走する。
 かつて街だった戦場は白煙と黒煙の入り混じった雲に遮られて薄暗く、咳と涙の止まらない埃の中を大型キメラが闊歩する。
 そこに煙を吹き飛ばす勢いで飛来するのは、人類側でなく敵側の対地ミサイル。
「‥‥ハ、ハ。なんだってクソムシの攻撃ばっか続いてんだよ‥‥‥‥突然近くに奴らの基地ができたってか?」
 建物ごと吹っ飛ばされた青年が、そのまま大通りで大の字に横たわる。
 彼は最期、霞む視界に自分を喰らわんとする羽の生えた蜥蜴を見た‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 ロシア、沿ヴォルガ連邦管区、ペルミ北西郊外。突如襲ってきた敵軍から損害少なく逃げ出した第2軍の緊急司令部が、ここにあった。逃げ出すというより、南と東からやって来た敵に味方の軍が押され、その影響で市街北部に陣取っていた第2軍は押し出される形で脱出できたのではあるのだが。が、何はともあれ辛うじて機能しているその司令部に、傭兵は赴いていた。
「着いて早々申し訳ないが、市街に軍、市民が残されておる。全て救援‥‥とは言わん。が、せめて、彼らが撤退するのを直接的にしろ間接的にしろ援護してやってくれんか」
 簡易ボードに張り付けた市街地図を指差す中将。地図上で数cmだけ指を動かす。真直ぐ南東に行けばカマ川を挟んで市街中心部があり、真東に行くと街の外縁部が点々と続いている。また多くが破壊されてしまったが鉄道も走っており、そこに縋る市民もいるかもしれない。
「それと、だ」
 早速簡単に作戦を練り始める傭兵達に、中将がこれは私の推測だが、と前置きした上で話す。
「市街より南東からの敵増援、支援砲撃が目立つようだ。もしやすると敵の総攻撃か、あるいは何か新たな脅威が迫りつつあるのか‥‥」
 言葉を区切る。今はまず味方の事を考えるべきかと、頭を振って再び口を開いた。
「‥‥我々は諸君らがある程度の友軍と共にこちらへ撤退してくるのが見えれば、ここで支援砲撃を始める。効果の程はそう期待できんが‥‥そうして敵の追撃の出鼻を挫いたのち、必ず、堂々と、西へ撤退しようではないか!」
 中将はそう言うと、軍帽を取って禿げ上がった頭を下げた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 S‐01、シュテルンの2機が最後に飛び立たんと轟音を上げる。街からは微かに悲鳴と怒号が聞こえ、黒煙が風に乗って漂う。先に飛んだ4機の軌跡が鮮やかに残る。
 微動だにせず敬礼で傭兵を見送る中将を横目に、ルクシーレ(ga2830)は目の奥が熱くなるのを感じた。同胞を想い、一傭兵に礼儀を尽す姿を胸に刻む。
「中将に頭を下げてもらえるなんて勿体ないです。精一杯やらせてもらいます!」
 行こうぜアークちゃん、と外部出力で呼びかけると、アーク・ウイング(gb4432)が寂しげに「アーちゃん」と呟いた。
「アーちゃん?」「ん!」
「んじゃ、行こうぜアーちゃん。俺が二番機だ」
「うん。数万の人がいるんだから、皆で頑張ろ」
 2機が動く。アーク機が前、ルクシーレ機が後。地上の振動が不意になくなり、空が広がった。
 ――こんな状況は初めてだけど、やるしかないね‥‥。
 アークは操縦桿を握り締めた。

 4機が飛ぶ。眼下を郊外の街が流れていく。
 速攻。20mm機関砲の振動がシートを伝う。ディアブロから放たれた弾幕が幸先良くCWを蜂の巣にした。
『ど‥‥スか、通じ‥‥?』
 墜ちゆくCWを見届け、植松・カルマ(ga8288)。ロッテを組む篠崎 公司(ga2413)はカルマ機の後方で翼を振る。
『‥‥ちら‥‥ノイズ‥‥』
 公司が機内で素早く指を動かす。計器その他を忙しなく見やり、徐に引鉄を引いた。D‐02が同じくCWを貫く。100m先には大きな川と橋。ここを確保せねば撤退もままならない。
 遠くない空、黒雲の如き敵の群を正面から睨めつけ外部出力をオンにする。
「自分が援護します。まず小物から排除しましょう」
「こんだけ群れてりゃ狙わなくても当りそうッスけど、ね」
 機関砲が火を噴く。直撃。爆散するCW破片の中を、ロールして左旋回する。
「橋の制空権奪回がおそらく最重要‥‥」
 公司機は低速となって橋の真上へ到達。突出を避けてレーダーを見つめる。後方低空、追いついてきたルクシーレ達の機体から景気づけのAAMが放たれた。
「なら、精々敵機の雨でも降らせて元気付けてやろうぜ!」
 白煙が公司機、カルマ機の間を抜けCWに炸裂する。
 それを見上げ、ロッテ・ヴァステル(ga0066)は右前方に操縦桿を倒した。
「ここはお願い。1人でも多く、救うわよ‥‥!」
「‥‥私達は‥‥鉄道の方にぃ‥‥」
 アヌビス、そして幸臼・小鳥(ga0067)機シュテルンが右翼を下に高度を下げていく。その2機を追って極太のプロトン砲が地上から飛来した。
「ポイント――不明。CWを減らさない事には情報管制もできませんね」
 公司は驚異的速度で迫ってきたHWを真正面から狙撃した。

「‥‥何があろうと。ここは守りきる、ぞ」
 無骨な人型が歩を進める度、道に亀裂が入る。梶原 暁彦(ga5332)は空を、前を見据えた。リッジウェイ機内、モニタが地上各所の瓦礫を映し出す。この橋だけは絶対に瓦礫にしてはならない。
 これが、生命線なのだ。
「作戦行動を開始する」
「‥‥参りましょう」
 暁彦機に並び、シエラ(ga3258)機アンジェリカ。暁彦は橋中央に陣取り、シエラ機がより前、橋を渡りきり市街へ入る。流石に敵地上部隊はまだ見えないが、倒壊したビルの陰にいないとも限らない。
「お待たせしました。援護しますので、軍の方は民間人を誘導してここを渡って下さい」
 試しに外部へ声を発し、辺りを探るシエラ。普段からの不可視を捉える感覚に、輝く視界が加わる。
 パキ。
 物音がした瞬間に右へ光子機関砲を構える。
「‥‥出てきても大丈夫です」
 おずおずと現れたのは数十人の民間人のようだった。安堵してこちらへ促しかけ、その刹那、
 ガァン‥‥!
「レーダーもまだ頼りにならん。互いに警戒しよう」
 左から飛び出してきた翼竜を、暁彦が撃ち落とした。

●瓦礫の街
「小鳥! 10時、3階、距離100!」
「‥‥っ」
「早く!」「は、はぃー!」
 ビルの窓から飛び出してきた黒豹を小鳥が空中で穿ち、その隙にロッテは線路から街に入った方向へ機体を進める。川の地下に通じるトンネルを背に、次第に南下していく2人。線路沿いを確保すれば民間人も脱出しやすい一方、街中心にあまり足を伸ばせない事になる。が、少しでも救わねばならない。少しずつ南南東――1番敵の多い方へ。
 ロッテ機が40m先の十字路へ滑る。スラスターを噴かせ急制動、接地した左脚を軸に機体を反転させた。
「周囲を見る頭くらい持ちなさい‥‥!」
 遠心力充分の刺突が角にいたゴーレムを貫く!
 二撃。同時に小鳥の機関砲が角の壁ごと撃ちぬいた。崩れる建物とゴーレム。
 砂煙の中、微かに人の声が聞こえた。ロッテはモニタで周囲を探る。
「無事?」
「助かった‥‥?」
 左。煉瓦の玄関前で震える数十人。彼らの周囲に40人程の武装した死体が転がっていた。抗戦し、散った後。小鳥が十字路中央で警戒しつつ、左を向かず問いかける。
「一般の方‥‥ですかぁ?」
「は、はい」
「軍人は?」
「じ、自分は第‥‥」
 集団から進み出た1人の言葉を遮り、ロッテが線路の方を示した。
「なら貴方が先頭よ。軍人なら、戦えない人達を守る」
「っ了解!!」
 数十人がロッテらの来た方へ走っていく。だが要救助者はあの数でも1%に満たない。敵はこの街を焦土と化し、そして次の街を襲うのか。よく見ると瓦礫の下にも数え切れない死体があった。
「あぅ‥‥」
「小鳥」
 つい先日の事が尾を引いているような小鳥に、ロッテが機体を寄せた。
「ここで立ち止まれば、彼女に何を言われるか解らないわよ」
「っ‥‥」救えない命。眼前で散る命がある悲しみを堪える小鳥。「あの人の道を奪ったから‥‥私達は戦い続‥‥らいとぉ‥‥っ」
 涙声を聞きつつロッテが十字路から南東へ機体を向けた。感傷に浸る間もなく敵の気配が接近する。遥かな空には群が蠢き、時折それを突き破ってミサイルが街へ飛んでくる。
「そう。可能な限り命を救い、私達の最善を貫くしかない‥‥!」
 ロッテがペダルを踏みつける。跳躍頂点からスラスター全開、南東の気配へ一直線に跳んだ。

「皆さん早く‥‥」
 シエラの赤い視界に影が過る。正面の道を逃げてきた集団を跳び越えるや、中空から影――ゴーレムに光線の嵐を降らせた。着地と同時に盾を構える。
 衝撃!
 盾をずらし、敵の大剣を左下へ逸らす。瓦礫を打ちつける剣。盾を突き出し敵姿勢を崩す。瞬間、シエラが粒子斧を叩きつけ‥‥ようとし、ゴーレム肩部の隆起から飛び出したスライムに至近で爆発された。
「捨て身っ」
 激しい光に斧の軌道が狂う。その間にゴーレムは剣をシエラ機に叩き込んだ。次いで別角度からの銃撃が襲う。レーダーには光点3つ。揺れるモニタで後方を見やる。避難集団は橋に差し掛かっていた。
 一歩退くと同時に敵が突っ込んでくる。盾で剣を弾き、砲弾を受け。もう1体が背後に回り込んできたその時
「下がれ。橋を防衛すれば俺達の勝ちだ」
 暁彦機の長距離狙撃が、敵機を正確に穿った‥‥!
「は、い!」
 シエラの愛機――リラが脚を滑らせターンすると共に、右の粒子斧を背後の敵へ叩きつけた。漏電する敵機の脇を跳んで橋へ後退するシエラ。道と橋の境界へ着地、暁彦機に並ぶ。
 無論暁彦とて余裕はない。低空から橋へ飛来するキメラ、CWを右に左に狙撃し、最終防衛を勤め続ける。川面へ墜落する敵。時に橋へ特攻する鳥型から身を挺して守り、人々を通す。人の無事な姿を瞳に映し、暁彦は力を漲らせる。どれ程が脱出してきたか。橋防衛という確実な選択をしたが故、こちらから救助には行けていないのだ。多くは、ない。
「まだここまで敵本隊は到達しないようだな」
「今のうち‥‥」
 暁彦とシエラが安堵しかけた時。
 すぐ近く、ビルの向こうから空へ、極太の光線が放たれた。

●瓦礫の空
 朦々と街の黒煙が空を覆う。
 ルクシーレ、アーク、カルマ。3機が橋を中心とした300mを所狭しと旋回し、その度に突っ込んできたHWとCWが散っていく。公司はそれら全てをモニタに捉え、その時空いた方向へ機首を向け銃弾を送り込む。
 が、敵増援は尽きない。遂にHW2機が前衛3機の間隙を突いて公司機に迫ってきた。
「捌ききれなくなってきましたか」
 すれ違い様に公司が引鉄を引く。1機の姿勢が揺らぎ、逆に2条のフェザー砲が公司を襲う。ロールしながら急降下する公司。左翼被弾。敵機が上を通過した瞬間、操縦桿を引き上げた。高度を取り戻す公司機。さらにそのまま機首を上げ反転、停止しているHWへ逆さまから銃弾を撃ち込む。
「援護を‥‥!」
「んじゃオイシイトコ頂くッスよ!」
 多少クリアになってきた通信に声が流れるや、公司を狙うHWの3時方向にカルマの翼が翻る!
「オルァ!」
 輝く銃身から必中の鉛が飛び、それを追いかけるように機体が滑る。次いで公司機と挟み込むように左旋回しながらレーザーを照射、1機を屠った。
 残る1機が不利を悟ってプロトン砲を地上に放つ。だがそれだけでは橋を落とすに至らない。ブーストして逃げかけたHWに南北から実弾を叩き込んだ。
 公司はその爆発を見る事もなくスライスバック、寸暇を惜しんで市街中心の方を少しでも観測すべくモニタを拡大する。
「流れは順調なようです。念の為に橋から300m地点に降り‥‥」
 公司が言いさした瞬間、市街からの光線がカルマ機を灼いた‥‥!

「天使とダンス、か」ルクシーレがAAMをぶっ放す。「俺なんかには荷が勝ちすぎてるかもだけどな」
「ペアがいるから、アーちゃんも行けますっ」
 CWを墜とす毎に回復する通信で言葉をかわす。南東から迫り来る敵群の矢面に立った2人は、カルマが後方へHW処理に行った後も次々と撃ち続けていた。アークのマシンガンが溜まってきたキメラ群を散らし、そのアーク機尾部に特攻するHWをルクシーレが誘導弾で確実に牽制する。その間にアークは群を突っ切りスライスバック、AAM2発をHWに発射した。
 すれ違う瞬間に爆発。爆風に煽られつつアーク機はロールして旋回する。がその瞬間、雷音と共に2条の対空砲が空を破った。
「降り‥‥でも」
「ッ俺が抑えられるうちに戻ってくれよ、アーちゃん!」
 S‐01が空を翔る。機首を上げ僅かに空へ向かい、次の瞬間に操縦桿を押し倒した。
「コイツでも少しは保つからよ!」
 AAMを解き放つルクシーレ。仮面奥の瞳が輝き、通信に彼の気迫が乗った。
「‥‥頼みます」
 この場をルクシーレに託しアークは急降下、先程観測した2条の1つへ突っ込む!

 コカトリス。狼。ゴーレム。中心へ行くにつれ多くなる敵群をロッテ機は左右へ、いや上下すらスラスターで自在に動き、駆け抜けていく。後には神槍に貫かれた敵と位置を捕捉できない敵が残るばかり。さらに人が隠れそうな場所にまで目を通す。
「邪魔よ、貴方達」
 ――Les Salauds vont en Enfer!
 三角跳びの如く機体を操り、中空から真下のゴーレム頭部を突き刺す!
「ロッテさん‥‥今回は前に‥‥出過ぎないようにぃっ‥‥」
「なら」ロッテは左脚で狼を潰し着地、前を見据えた。「ついて来れるわよね?」
「ぅー」
 小鳥がゴーレムを狙い撃つ。右腕が吹っ飛ぶ。
 が、突如至近のビルが爆発した。レーダーに目を落とす2人。光点は考えたくない数に達しつつある。轟音と共にミサイルが着弾した。
「‥‥このまま進むか、根元を断つか」
 思案するロッテ。小鳥は回り込んできた後方のキメラ群に徐に粒子砲を喰らわせ、言い放った。
「行きましょぅー‥‥一矢報いるのですぅ!」

 アーク機が減速する。運よく残るビル屋上へ。視界が狭まる。逆噴射。恐ろしいGが解放され、体がベルトに猛烈に食い込んだ。速度が限りなく0に近付く。
 その瞬間、変形した。
「すぐ片付けるから」
 着地。脚が屋上を削り、50mの亀裂を作っていく。止まらない。狙撃銃を構える。脚関節が嫌な音を立て、潤滑油が跳ねた。
「絶対‥‥!」
 スラスターで姿勢制御。勢いよく縁に脚をぶつけ、強引に止まった。次の瞬間には。
 銃声。俯角60度の狙撃が亀を貫く。3、4。位置を変え撃ち続ける。敵光線が足場を崩す。さらに一射が左腕部を直撃した。跳ぶアーク機。高さを力に、右の黒刀を振り上げる。落下の浮遊感が血を逆流させる!
 斬。
 速攻に反応しきれなかった亀本体を両断した。刀を引き周囲を探る。幾多の目がアークに集まる。が、彼女はその爪が届くより早く変形、バーニアを全開に風の如く舞い上がった。
「‥‥もう終ったのか?」
 誘導弾の白煙と大破したHWがアークの視界に入り、
「これからだってのによ」
 その向こうに、敵に囲まれ黒煙を上げるルクシーレ機の姿があった。

●暴虐の城
「何が出るか‥‥小鳥、はぐれないようにね」
「大丈夫‥‥ですぅ!」小さく多分と付け加え、小鳥が操縦桿を握り締める。「ビッグフィッシュが出ても‥‥頑張りますぅ」
 一旦南西に向かい、改めて東へ回りこむように。敵を避けて飛行する2機だが、交戦は避けられない。身軽に動くHWと取り巻きの怪鳥。ひたすらロッテは緩急を主とした空中機動でやり過ごし、時に小鳥の迎撃システムが火を噴き。それでも街と比べると優先順位が低いのか、敵の数の割に襲ってくるHWは少ない。
 そうして街へ向かう敵を横目に1km程南東へ行っただろうか。2人は地平線よりややこちら側の地上に、何かの影を発見した。
「‥‥戦艦?」
 モニタを拡大するとそこには、土を巻き上げる無骨な移動城があった。甲板の膨らみから翼竜やキメラが飛び出していく。画面を下へ動かすと横に突き出た恐ろしい筒の群。
 さらに観測を進めようとした2人。が、突如。
 気持ち悪い数のキメラの目が、こちらを向いた‥‥!
「ッ小鳥!」
「今‥‥ですぅ!」
 粒子砲が唸りを上げる!
 強化粒子が群を貫く。電子を撒き散らす残滓はそのまま小型戦艦に衝突し、霧散した。
 戦艦の防衛圏内に入ってしまったのか。即座に反転する。対空砲らしき音が連続し、衝撃が2人を襲った。レーダーの光点が中央に集まる!
「退くわよ‥‥!」
 ブースト、一気に後方を突き放す。前に立ち塞がるはHWばかり。大型のフェザー砲がロッテ機右翼を削る。姿勢を崩しつつ北東に進路を取る。小鳥の自動迎撃が多少敵を乱すが、数には勝てない。大型の後ろに潜んでいた小型3機の光線が2人を撃ち抜いた。ロールして右へ滑空するが、次々被弾が増えていく。機内を警告ランプと音が支配する。
 再度大型が前を塞ぐ。沈み込んで回避しようとするロッテだが、もはや捕捉から逃れられない。目前にHWの砲身が迫った。瞬間

「残念ですが我々も撤退です。支援砲撃のあるうちに戻って下さい」

 公司率いる空戦4機が大型HWを粉砕し、シエラ、暁彦の先導する軍の砲撃が他のHWを縫いとめた‥‥!
「撤退状況は?」
「恐らく半数程かと」
「こちらも‥‥戦艦? の発見に留まりましたぁ」
「大戦力が接近しつつあると解っただけマシよ‥‥」
 そして各機は傷だらけの機体で、砲撃の下を北西へ戻っていった。

<了>