タイトル:バレンシア急襲マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/30 23:36

●オープニング本文


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「もう一度訊く」
 制圧したターミナルビル内を急ぎ掃除して簡易司令部とした一角で、アロンソ・ビエル(gz0061)が男に尋ねる。声色は普通だが、横に2人の兵をつけアロンソ自らも幕僚に借りたP226の銃口を向けながらである為、もはや尋問と言ってもいいかもしれない。
 しかしそれも仕方ない事だろう。なぜならば、この男を発見したのはキメラだらけだったこのビル内、しかも管制塔だったのだから。
 一応椅子に座らされた形の男が、無気力に口を開く。
「‥‥フリオ」
「出身は」
「‥‥バレンシア」
「では何故、ここにいた?」
 無言。虚ろな瞳でアロンソを見る男――フリオ。先程幕僚が質問した時と同じ答え。
 自分の名や出身、年齢等については気だるげに答えるのだが、肝心の部分が解らない。こうなってくると一般人ではなく敵側の人間である可能性が濃厚になってくる。念の為に軽く持ち物と身体の検査はやって異常なかったものの、敵側だとすると未知の武器の存在は否定できない。
「お前は、バレンシアの現状を知っているか?」
「‥‥バグア‥‥支配‥‥」
 こいつ――フリオから情報を引き出すのは骨が折れそうだ。
 アロンソは肩を竦めて嘆息した。

「斥候の情報によると、だ」
 アントニオ・トーレス大将がバレンシア州の地図とバレンシア市街の地図を並べて傭兵に言う。幕僚達は一旦落ち着いた無線で状況把握に努め、もしくはこれからの戦闘への対策に奔走しており、傭兵との打ち合わせに臨むのは大将の副官だけとなっていた。
「ここからバレンシアに至る途上の田畑にもキメラはおる。が、それは我々が引き受けよう。諸君の力を借りねばならんのはその先――市街への突入だ」
 地図を指差す。現在地はバレンシアから数km。自動車道に程近い事から進軍は容易だろう。そして大将の指が東――バレンシアに滑っていく。
 ところが、市街中心に向かう前に止まった。
「敵に指揮官がいるとすれば。バレンシア郊外に防衛線が敷かれているか、あるいは本格的な迎撃部隊が来るか‥‥その両方か、あると思う。諸君はそれを破る矛となってもらいたい」
 大将が言うと、副官がその郊外に大きな丸や三角、次いで文字を地図に書き込み始めた。斥候が視認できた敵情報。ほぼそれだけを頼りに都市へ侵攻せねばならない。傭兵は最も重要になるこの情報を食い入るように見つめる。
「それだけでしょうか?」
 アロンソが尋ねる。大将は地図上でここからほぼ南、バレンシア市街からは南西となるトレントの街にちらと目をやり、考え込むように口元に手をやった。
 位置的に果てしなく気になるトレントだが、負傷者も多い現在の戦力でそちらにまで主要兵力を差し向けると郊外の突破力を削る事になる。とはいえトレントにこのまま兵をやらなかったとすると、そこに敵がいたら確実に挟撃される。この段階で総予備を動かす訳にはいかない。
 面倒な局面だった。
「いや。迫撃砲を中心に後方支援の用意は充分ある。加えて現在出撃可能なKV隊も出そう。その時々で適切に指示してくれてもいいし、彼らに任せてくれても構わんが、ともあれ彼らと共に思いきりやってくれ」
「了解」
「うむ。可及的速やかにバレンシアの寡婦を迎えに行かねばな」
 大将は舞踏会にでも赴くかのように、微笑して立ち上がった。

 ◆◆◆◆◆

「俺ァどうするかね、と」
 ビル屋上の金網に寄りかかって、黒髪の男が独りごちる。傍に侍るは雄々しき幼竜のみ。地球の神話を読んで一目惚れし、矢も盾もたまらず彼自身が製作にまで携わった、息子のようなものだったのである。
『――■■!!』
 咆哮を上げる幼竜を軽くあやし、思索に耽る。
「上の奴らみてェに敵勢力のド真ン中に突っ込んで軽傷で楽勝、なんて事ァ流石に俺無理だし」
 ここは大人しく敵戦力を削りながら隙を見て大打撃でも与えるか?
 頭から策を捻り出さんと髪をぐしゃぐしゃ弄るが、これといった妙案は思いつかなかった。
 ――考えるとすれば、打撃の与え方か。手はいくら準備してもいい。最終的に俺がオイシく頂けるなら、な。
 男は口端を僅かに歪め、幼竜に近寄った‥‥。

▼簡単な位置関係
            北

                         バレンシア西郊外(北部)

現在地

                         バレンシア西郊外(南部)


      トレント

            南

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG

●リプレイ本文

 出撃直前の喧騒が司令部に伝う。滑走路でKVの最終点検が行われる中、葵 宙華(ga4067)は相棒の許へ赴く前にフリオを見た。
 虚ろに座した姿。何か、ある。
「ね。君は今、何が視えてる?」
 無言。宙華は酸味の強い飴を舌で転がしつつ、鞄からオレンジの飴玉を取った。彼に放る。
「そぇ、あぇる。オレンジ」
 バレンシア州で多く栽培されるオレンジ。その音を耳にした瞬間、彼の瞼が動いたのを宙華は見逃さない。
「それはミセカケの作り物だけど、あたしは必ずホンモノを皆と食べる。地中海を見て、街の人も一緒に」
「オレ、ンジ」
 小刻みに震えだす彼。呻き声が聞こえた。
「だから、教えて。今も街で生きてる人はどこにいるの?」
「ァ、ガ‥‥カテド、ラル、のち‥‥ァアアァアア■■!!?」
 彼が頭を掻き毟り絶叫する。兵が両脇から押えつけた。
 洗脳? でも何で。
「宙華、時間だ」
「‥‥街の人に伝えたい事、ある?」
 龍深城・我斬(ga8283)に急かされ宙華が最後に言った言葉は、フリオに届かず霧散した。

●空陸明暗
「これ以上犠牲を増やさない。解ってるわね、小鳥」
「私達が‥‥頑張るのですぅー」
 眼下にひしめく兵や兵員輸送車を見ながら、ロッテ・ヴァステル(ga0066)と幸臼・小鳥(ga0067)は操縦桿を握る。2人のアヌビスとフェニックスに遅れアロンソ機岩龍が続く。
 舞 冥華(gb4521)とファブニール(gb4785)は小鳥機と並ぶように。
「ん、冥華のにゃんこみさいるももーいをふるう」
「僕達は最善を尽すのみです。軍の方達も頑張りましょう!」
『了解。見せ場取られっ放しは癪だしな』
 軍のR‐01が3機編成で追いついてくる。計8機。それが突破を試みんとする郊外北部の航空戦力だった。
 前方、遥かな空を見やる。こちらに気付いているのかいないのか、敵小集団は3つ。
 この地中海に溶けそうな空を奪い返す。その為に。
「行‥‥!?」
 速度を全開にした瞬間、開戦の合図の如きプロトン砲が飛来した。

 路上の竜牙兵2体を我斬機雷電と佐賀十蔵(gb5442)機N・ロジーナが斬り捨てる。宙華は周囲に気を張り、1時方向の畑の窪みに潜んでいた犬型を穿った。
 進む。進む。北側を主に突破する作戦といえ、南も敵支配を断つに越した事はない。田畑だらけの道を抜け、疎らに建物が見え始めた。
「建物は破壊しない、か。どこかにいるかもしれん一般人を探してく余裕がなさそうなのが悔しいぜ」
「損壊に注意せんといかんだけで面倒だ。引き連れるような酔狂な真似、わしァせんぞ」
 次々キメラを屠っていく我斬と十蔵。光線と実弾が乱れ飛ぶ。前進するにつれ頭痛が強くなる。いよいよ敵領地に入った実感。
 我斬が鎖鋸を竜牙兵に叩きつけた刹那、前方から無数の銃弾が飛来する!
 金属音。機盾で完璧に弾く。と同時に、
「我斬兄、上!」
「了解ッ」
 30m上空から猛然と突っ込んでくるゴーレム。我斬が正対して鎖鋸を振りかぶる。
 激突。剣戟が響く。宙華が素早くペダルを踏み位置を変え撃ちまくった。滑るように十蔵機が回り込む。
「ドリル‥‥」螺旋の右腕が唸りを上げる!「ハリケェェェンッ!!」
「初っ端から苦戦してたまるか!」
 合せて我斬が鎖鋸をぶん回す。斬。敵腰部から漏電。隙を逃さず我斬と十蔵の連撃が腕と胴を貫く。ドリルと化した両腕を溜め、十蔵が一気に操縦桿を倒す!
 瞬間、最初に弾幕を送り込んできた敵が道路前方、中距離から重機をぶっ放してきた。宙華が不鮮明なレーダーから目を離さず応射。硝煙が郊外を覆っていく。
「他のももうこっちに集まってきてる。『皆』がどこにいるかは‥‥まだ解んないけど」
「増援が来る前にこの2機潰すぞ!」
 突撃してきた方に我斬が斬りかかるのを援護しながら、宙華は空を見た。
 酷く閉塞的な、青空を。

「貴方達に構っている暇はないの」
 智久 百合歌(ga4980)のワイバーンが南部の空を駆け巡り、擦れ違い様に飛竜を斬り裂く。奇しくも同じ名を冠する機体とキメラ。だが数多の戦場を乗り越えた百合歌にとってそれは冒涜に等しい。
「軍の皆さんはキメラの排除をお願いします」
『了解』
 頭痛に多少苛立ちつつ軍の4機に指示すると、彼らは即座に2組のロッテとなってロケランを発射した。
 安心してCWを探る百合歌。数は5。至近に機首を向けた。
「狙撃はワイバーンの得意技よ!」
 射程限界。引鉄を絞る。再装填。引く。青2つが爆ぜた。旋回。飛竜の爪が左翼に触れるが構わずCWに意識を向け、撃つ。400mを一瞬で翔る銃弾。また1つ弾けた。
 頭痛も回復してくる。百合歌は残るCWを見定める。河に近い。
 多少先行しすぎるが仕方ない。接近し、淡々と屠った。がその直後、河向こうの陸から伸びた光線が右翼の上を過ぎていった。
 ――市街に亀、ね。
 百合歌は急旋回して高度を下げる。
「こちらMusa――これより陸戦に入ります」

●北部戦力分散
 プロトン砲の嵐が8機を襲う。正面、1時、10時。北部に広く展開された中型HWから各個に放たれた光線が全てのKVに降り注ぐ。
「まずは敵の‥‥数をぉ!」
「散開!」
 ロッテ機がロールしながら左に滑る。追従する小鳥とアロンソ。主翼を削られる衝撃が脳を揺さぶる。ファブニール機は軍KVと共に右へずれ、冥華は一気に操縦桿を倒した。
「ぐ‥‥ッ!」
 光線から逃れた僅かな間隙を突いてロッテの誘導弾とファブニールのAAEMが飛ぶ。至近の2機にぶち当たるや、次々誘導弾が放たれる。紛れて冥華が機首を上げつつ黒猫ボタンを押すと、こちらに突撃してくるHWに炸裂した。
「早くもにゃんこせんせー大活躍」
 一方で軍KV2機が敵を右翼から絞める形で銃撃する。小鳥とアロンソはロッテが狙うHWを撃った。黒煙と白煙が支配する空間に、敵味方16機が入り乱れる。
 戦況は一瞬にして格闘戦に移行した。

「景観を損なうのよ、貴方達の存在が!」
 ロッテが先陣を切って3機を剣翼で斬りつけ、すり抜けた。挑発された3機はロッテにフェザー砲を放つ。左翼に衝撃。が。
「私も‥‥いるのですぅー!」
 注意の逸れた敵へ小鳥とファブニールが突っ込んだ。弾雨時々ミサイル。2人は猛然と撃ちまくる!
「早く空を何とかして地上にコレを‥‥!」
 フレア弾投下スイッチにちらと目をやるファブニール。
 その間にもロッテはスライスバックして舞い戻り、3機を翻弄していく。気付けば少し下では軍KV2機がHW1機を挟撃していた。優勢。だが。
「ッ、アロンソ、警戒!」
 残るHWは‥‥!?

 白煙を抜けて現れる敵複数。回避する間もなくフェザー砲が冥華機を掠めた。トリストラムを撃ちながら離れんとするが、逆に背を取られてしまう。紫光線が尾翼を直撃。さらに1機が冥華機に迫る!
「舞サン!」
 アロンソとR‐01が横合いから銃撃してHWの体勢を崩すや、大きく宙返りした冥華が黒猫ミサイルを敵にお見舞いする!
「あろんそ、かんそくお願い」
「解った。だが」
 絶対的に数が足りない。
 言い差した刹那。2人の下を素通りしたHW2機が、無慈悲な紅を解き放つ‥‥。

●南部過剰戦力
「ハ――! 潤滑油の味が染みてきそうだぜ!」
 十蔵のドリルが敵胸部を貫く。飛び散る破片と液体。十蔵は敵の腕が払われるより早くめくるように背後へ回る。驚異的機動でそれを追うゴーレム。刺突が十蔵機の左腕を捉えた。
「チィ!」
「こっちだ雑魚!」
 我斬が鎖鋸を振るう。敵機に触れた瞬間刃は傍若無人に蹂躙し、その振動は我斬のシートにまで直に伝う。さらに零距離で光線を放ちながら盾を構える我斬。
 ガァン!
 回転斬りを真っ向から受ける。
「おっちゃん!」「解っとるわ!」
 ドリルと鎖鋸、2つの浪漫がゴーレムを前後から貫いた!
「我斬兄、余韻に浸らないで次っ」
「おお妹よ、兄ちゃん悲しいぞ」
 軽口を叩きながら盾を掲げる我斬。その横に滑りこみ、宙華は付かず離れずのもう1機にスラスター銃を撃ちまくる。敵の応射。1機に拘らず夥しい量の銃弾が飛来する。うち数発が偶然を伴いまともに宙華機風防を抉った。ヒビが入る。再装填して反撃。
「あたしが援護するから――」
「突っ込みゃいいんだな!」
 宙華の弾幕を頼りに2機が道路を滑る。敵機関銃が火を噴いた。衝撃。盾の裏に隠したワイヤーを我斬が構える。
「整備の連中にまた小言貰いそうだ‥‥!」
 十蔵の声が通信から漏れたその時、ワイヤーを射出する。それが敵に触れるや、思いきり引っ張った。
 こちらに向かって傾ぐ敵と得物を突き出す我斬、十蔵。真正面からぶち当たる!
「好き勝手やってくれやがった礼だ!」
 止まる事ない連撃。右、下、上、刺突。そして慎重に前進した宙華機が銃弾を腰部に集中し、敵が対処しようとした時には十蔵のドリルが頭部を貫いていた。爆散する。
『‥‥より陸戦に入り‥‥』
 百合歌の通信を受けてレーダーに目を落とした、その刹那だった。
 慣性の軛を振り払った加速で家屋の陰を飛び出した敵が、必殺の凶槍で十蔵機を貫いたのは。

 強烈なGに耐え、百合歌が急降下し続ける。不自然に集まる血流。暗くなる視界。構わず操縦桿を押し倒し地上を睨む。11時方向。色違いのゴーレムが突撃するのが見えた。
 逆噴射。味方と自分、東西で敵を挟む形で着陸した百合歌機が少しのロスもなく獣型となって駆ける。
「貴方の敵は‥‥」
 まさに超低空を跳ぶ百合歌機。揺れすら先読みして狙撃する!
「こっちよ!」
 一瞬で敵膝部を砕く弾丸。十蔵機を大破せしめた直後、宙華に繰り出さんとした槍の軌道がずれた。
 風防僅か左をまともに貫いていく穂先。紙一重。だが動ける。宙華が退きながら連鎖剣を振るい、イビルアイズのボタンを押した。間隙を突き、我斬が横から鎖鋸で突く。
「おっちゃんまでやりやがって‥‥今度は俺が貴様等にとびっきりの悪夢くれてやる! 覚悟はいいか! 答えは聞かねぇがなぁ!!」
 鎖鋸と凶槍が交錯する。肩口を貫く両者の刃。素早く引いて一閃した時、宙華が口を開いた。
「貴方は誰? 強化人間? ‥‥バグア?」
 返答なし。覚悟を決めたように宙華が機体を操る。
「解った。言わないのなら‥‥ナナシのまま死ぬだけ!」
 右の剣で槍を弾くや、柄の鎖で腕を絡め取った。同時に敵背後から雪村を携えた百合歌機が突っ込む!
 轟!!
「どう? これでも‥‥」
 が。
 渾身の刺突を受けて尚、敵は動く。槍を左に持ち替え宙華を払った。緩む拘束。さらに敵が槍を繰り出す。瞬間。
「あら。まだ動けたご褒美よ」
 雪村、連撃‥‥!
 溢れ出す力の奔流が敵機を胸部から両断した。
「流石にこれは効くでしょう?」
 冷笑する百合歌の姿を知る事なく、色違いは爆発した。
 それを見届けると、宙華は黒煙を上げる十蔵機の様子を窺い、我斬は周囲を見回す。
 北部の破壊音が遠く聞こえる。他のゴーレムは? 指揮官らしき色違いが死んだ事で退いたのだろうか。
 十蔵の生存を確認し、宙華が告げた。
「こっちは無理に行く必要ないし、索敵しながら一般人探そ」

●戦術的失敗
 2条の光が軍に降り注ぐ。兵が次々呑まれ、輸送車が爆発する。真上に噴き上がる爆炎はどこか緩慢で、現実感が薄かった。4条。直撃した戦車から砲塔が吹っ飛び、空の自分達と同じ高さまで上がって落ちる。
 そんなコマ送りの如き光景を各々が目の当たりにし、次の瞬間、唐突に時が動き始めた。
「ッ‥‥総員、何としてでも止めるわよ!」
 冷静を心掛け、ロッテ。言うまでもなく動き出す8機。各々が一斉に解き放ったミサイルと銃弾が白煙を曳き、辺り一面を白く染める。
 衝撃衝撃衝撃、大気震える大轟音!
 瞬く間にHW2機が落ちた。陸軍からも控えめな支援砲撃が飛来する。冥華達の裏に潜り込んだ2機の周りを対空砲が過った。動きの鈍ったその2機にファブニールと冥華がミサイルを放つ。小爆発。それでも地上への放射を止めぬ敵。ロッテと小鳥が焦れる思いをぶつけるように目前のHWを斬りつける。
「フレア弾は‥‥後回しですぅ!」
 翻って銃撃。白煙の中のHWが漸く墜ちる。ロールしながら一直線に飛ぶ。敵の巻き起こす爆風に翼を煽られた。逆さのまま引鉄を引く!
「ぐ‥‥!」
 軍KVと連携しアロンソがフォローに走り、その間に4人が撃ちまくる。突破した敵2機を冥華、ファブニールが潰し、残る2機をロッテと小鳥が何とか処理する。
 軍は7度蹂躙されていた。いくら敵光線が対地の広範攻撃でなかったといえ損害は少なくない。
 突破という状況で『最初から』均等に面制圧に出た事が、最前線の一時的戦力不足を招いていたのだ。一点突破した後、他方へ穴を拡げていれば。誰ともなく奥歯をギリと噛む音が通信に乗った。
「‥‥ん。とにかく今は、ふれあ弾」
「です、ね」
 促され、小鳥、冥華、ファブニールが投下していく。半壊していた建物が壊れ、瓦礫が溶ける。キメラも多くが炭化した屍を晒す事になった。
「これで‥‥」
 終了か。思った刹那、レーダーが東から高速接近する何かを捉えた。
「ッ行く、わよ‥‥!」
 操縦桿を握り締めたロッテが一気に上昇する。
「ロッテさん‥‥待って下さぃー」
 小鳥とファブニールが続く。後備に冥華とアロンソ。
 上空には前回も姿を現した幼竜。一瞬で間を詰める。
「あれはぁ‥‥」
「この間の‥‥!」ファブニールがぶっ放して凄絶な笑みを浮かべる!「久々に熱くなれそうです!!」
 前回の借りとばかり、珍しく真先に粒子砲で先制する。2、3。敵右翼に穴が開き、体勢を崩した。すかさずロッテと小鳥のブースト。灼熱が3機を襲うが止まらない。
「やるわよ、小鳥!」「いっけぇーですぅ!」
 2機が同時に左右へ分かれ竜を挟み込む。爪を構える竜。剣翼が煌いた。同時に竜へ突撃する!
 斬。浅い。ロッテがループ、再度接近する。粒子砲と冥華の黒猫ミサイルが今度は胴にぶち当たった。吼える竜。ロッテが急降下して頭を狙い――
「せめて‥‥!?」
 交差気味の牙がロッテ機左翼を噛み砕く!
 衝撃。拙い拙い拙い。後方から迫る爪。黒煙を目晦ましに敢えて墜ちるロッテ。爪が尾翼どころか後ろ半分を粉砕した。咄嗟にロッテが脱出装置を起動した直後、機体が爆発する。
「おおぉぉおおおお!!」
 代ってファブニールと冥華、アロンソが攻め立てる。あらゆる兵器を放ち量で攻める3人。
 その勢いに圧されたか撃墜に満足したか。幼竜は傾きながら市街へ後退していった。
 嘘のような静寂が辺りを支配する。
「ひとまず戻る。ろってもみんなも、ちりょう」
 良い意味で空気を読まない冥華の声が、戦火の空に虚しく溶けた‥‥。

<了>

 傭兵に言われトレントに飛んだ軍KVが発見したのは、先遣隊らしき少数のキメラと小型HW1機だった。彼らは街に潜むそれらを倒し、帰還したのである。後顧の憂いを1つ断ったと言える。
「再会を懐かしみたいところだけど‥‥そうもいかないみたいね」
 20人弱の一般人を発見、保護した南部組のうち百合歌が、アロンソに言う。
 バレンシア攻略戦は、峠に差しかかろうとしていた。