タイトル:【Woi】密林の遭遇マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/26 18:49

●オープニング本文


●南米陽動作戦
「新型機の目撃情報?」
 UPC南中央軍、陽動作戦の準備に忙しい前線基地司令部にもたらされた情報は「紫色の航空機」の目撃情報であった。
「依頼で現地に赴いた傭兵も目撃しており、ヘルメットワームや今までに確認されている機体でないことを確認しています」
 オペレーターが報告の詳細を伝える。
 北米での大規模作戦「War of independence」に呼応する形で、南米大陸のUPC南中央軍も陽動の為に大きな動きを見せようとしていた。その前段階として戦闘予想地域に割拠する武装勢力の取り込みが行われ、その中には傭兵に託された依頼もあったのである。
「同じく傭兵からの情報ですが、親バグア派の航空機用のエンジンを運んだという話もあるそうです」
「航空機用のだと? 地球製のか? マトゥラーナさん。まさか、あんたの差し金ではあるまいな?」
 オペレーターの話を聞いた士官は、振り向いてメルス・メス社の営業担当であるリカルド・マトゥラーナに疑いの目を向ける。この作戦における武装勢力の取り込みには、メルス・メス社の協力、とりわけリカルド個人の人脈に依るところも大きい。その為、フラフラとあちらこちらに出入りしているリカルドを無碍に追い出すこともできないのだ。
「いやいやいや。俺はバグア相手に商売するほど肝はすわってないですって。ただ、この大陸はバグアと人類の境界線が一番曖昧な土地柄ですからね。いくつかの組織を経由すれば、見つかんないようにバグアとの取引もできなくはありませんな」
 リカルドは手を大きく振って否定するが、不可能ではないとも告げる。
「いずれにせよ、実力のわからん相手がいるのは不気味だ。作戦は予定通り進めるにしても、新型機警戒に割く戦力が必要だな」
 南米での陽動作戦は予定通りに開始され、傭兵に対しても支援の依頼が出されることになる。
「傭兵は正規軍を援護しつつ、敵新型機が出現した場合には速やかにこれに対応せよ。撃退が主任務であるが、可能な限り新型機に関する情報を集めるように」

●ブラジル−コロンビア−ベネズエラ、3国国境近辺
 ぎゃあぎゃあと色鮮やかな鳥が飛び立っていく。その後を追うように突撃銃を構えた人間達が進む。強烈なニコチン臭が漂い、毒蛇など50m先から逃げ出しそうな空気。
 そんな空気を身に携え、武装勢力16名と傭兵は歩き続ける。
「もういつキメラのクソ共が出やがってもおかしくねえ。こっちにゃ傭兵サンがいてくれてるが、ここァ俺らの土地だ。俺らで、やるんだ! 解ったな!?」
「「オオッ!」」
「‥‥‥‥」
 意気軒昂なUPC派武装勢力を、頼もしいような無茶してほしくないような、複雑な感情で眺める傭兵である。
 密林は深く、空は暗い。
 落ち葉の積み重なった地面は踏み込むと数十センチ沈み、木々に遮られた前方は遠くまで見る事もできない。辺りにはキメラらしき獣達の気配。にもかかわらず、敵を視認できない閉塞感。厄介な環境には違いない。
 が、上空の戦闘機やKVのエンジン音、あるいはミサイルの爆発音を耳にすると、この中で自分達だって突き進まねばと思えてくる。
 何かが爆発し、密林のどこかに墜落する音が連続して聞こえた。気にはなるが、今の状況では自分達の方も敵に襲われかねない。どうすべきか。
「リーダー」
「おう、どしたい、傭兵サン」
「ここは慎重に行った方が。敵に囲まれている可能性もあります。まずは体勢を万全にして、やられない事‥‥」
「ア? なに言ってんだ! 俺らァ攻め込むんだろうが!! もうこそこそすんのはやめだ。俺らが戦ったらUPCも動く、なら滅茶苦茶にやってやらんでどうする!?」
「いや、それとは別問だ‥‥」
「いいか!! ぜってぇゴールにぶち込む覚悟で突っ込む。それができねえ奴は俺の前から消えな! 傭兵サンでも、だ」
 周辺に分隊規模で数個展開する武装勢力のリーダーが、木々まで震わせそうな大音声で傭兵に叫ぶ。その気概は誇るべきものではあるが、気概と優秀な行動は別の話になってくる。
 せめて自分達は準備しておこう。傭兵達が嘆息した、次の瞬間、リーダーが思いもよらぬ暴挙に出た。
「このクソキメラ共! 出るなら出やがれ!! 俺はてめえらをぶち殺して堂々とここを抜ける‥‥それが嫌なら俺を止めてみろや!!」
 哄笑が響き渡る。それにつられたかの如く、グル、と獲物を喰いちぎりたい衝動に駆られたような喉鳴りが全方位から聞こえてきた。
 ――なんとかこの分隊を守りつつ、敵を倒すか、一刻も早くここを抜け出すかしかない!
 傭兵達は各々の得物を構え、周囲の気配を探った‥‥!

▼略地図
             北
□密林の切れ目□□■■■■■□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□■■■□□□□□□□□□■□■□□
□■■□□□□□□□□□■□□□■□□□
□□□□□□□■■■■□□□□□□□□□
□□□□★□□□□□□□□□□□□□□□
□■□□■▼□□□□□□□□□■★□□□
■■■□□□□□●■■□□□□□□▼□□
□□■■■□□□□●□□■□■□□□□□
□□□□□□□●□□□■□■□■□□□□
□□□■□■□■□□□□□□□□□■■■
□□□□□□□□□■■□□□出撃 □□■
□□□□□▼□□□□□□□□ 地点□□□
□□□■★□□□□□□□□□■□□□□□
□□□■■■■■□□□■□□□□□■□▼
             南
□:移動可能地点。
■:樹木(移動不可。行動力を3使ってそのマスを飛び越える事は可能)。
★:樹上で待機もできそうな樹木。登る途中で見下ろせばかなりまで戦域を見渡す事ができる。
▼:現時点で確認できた敵キメラ(ピュ−マ型)。
●:食虫植物らしき色彩豊かな植物(?)が蠢いている。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

 密林が蠢く。リーダーの咆哮に同調するように、ここに生きとし生けるもの全てが。
「森は好きですが。ここは少し遠慮したいですね‥‥」
「そうかしら」
 水を口に含んで言うティーダ(ga7172)に、ロッテ・ヴァステル(ga0066)が言葉を返す。
「Ca Sent Bon‥‥この空気。私にとっては丁度良い居心地よ」
 腿に括った短剣を一瞬で握るや、背後から飛び掛ってきたピューマ型の牙を逆手に受ける。前蹴りで蹴り上げた敵の体に短剣を突き刺す。
 敵が怯んだ隙にティーダと幸臼・小鳥(ga0067)がロッテに並び、武装勢力の殿を受け持つ形で敵と相対した。
「でも‥‥直感も狂いそうな森のせいで‥‥はぐれちゃいましたよぉ‥‥?」
 小鳥の言に、敵を見据えながらも自然の匂いを楽しんでいたロッテが気を引き締める。
 敵は自らのテリトリーだと主張するように跳び、樹を蹴ると角度を変えて体当りしてきた。それをティーダがスウェー、勢いで後転して爪を振るう。
「戦力が減ったのは痛いですが、それでも行くしかありません。彼――傭兵1人ならば戻る事はできるで‥‥」
「そう、我々は1人の戦友を失った‥‥しかし! だがしかし!」
 ティーダが言い差した時、先頭の方から妙な演説が響き渡った。
「それでもてめえらは進むか!?」
「「おお!」」
「くぅっ! 溢れる愛郷心と勇気を見せられて、不肖グリーン・ミルク・ファイター、どうしててめえらを止められる!?」
 コートをばさっと払い、木漏れ日未満の日差しを浴びて眉間を押える男。
「ついてこい、てめえら! 突・撃・じゃあぁああぁあッ!!?」
「「うおおおおぉお!!!!」」
 翠の肥満(ga2348)である。隣で月影・透夜(ga1806)が嘆息した。
「いや、待て」
「ぅぐむ。野郎ども、この男が邪魔をする! こうなりゃ北から無理矢理抜けてくぜ!?」
「いや、俺らァ邪魔モン全て薙ぎ倒してひた走るしかねェんだ!!」
 ノリが解らない。透夜は翠の頭を柄で小突き、武装勢力に向き直った。
「お前達の心意気も解る。解るからこそ、俺は言いたい」
 透夜が溜める。ファブニール(gb4785)も息を呑む。ロッテらの戦闘音が遠く聞こえた。
「お前達はこの先の拠点をぶっ潰せ‥‥! こんなどうでもいい所は俺達に任せろ、限りある弾薬と体力を無駄にするな!」
「そうです。こんな所で傷つくのは僕だけでいい‥‥一気に向こうに抜けて一泡吹かせてやりましょう!?」
 同調するファブニールを、八神零(ga7992)がペンダントに触れつつ見る。純粋さが眩しいような、しかし自分はこの銀細工の示す方へ行くのだと。
 ダメ押しに透夜が抑えた声で叫ぶ。
「UPCでもない。お前達が、ここを解放するんだ‥‥!」
 静まり返る武装勢力達。徐にリーダーが進み出るや、突撃銃を天に突き上げた。
「おいてめえら! 傭兵サン――いや。俺らの同胞に遅れんじゃねェぞ!!」

「「「おおおぉおおぉぉお!!!」」」

「やれやれ‥‥今回も忙しくなりそうだ」
 独りごちる零。
 傭兵の思惑通り、この窮地を北から抜ける事になる一行。が、一方でこのやり取りが多くの敵を呼び寄せていた事に気付く者は、いない。

●偵察
「何が来ようが怖かねえぜ、この僕様はよォ!」
 翠の銃弾が草木の間を抜け、先制してピューマを穿つ。
 怒りを露に跳んでくる敵を透夜が1本の槍で受け、跳ね返した。空中で吼える敵。透夜はすかさず分離した連翹を腰溜めに踏み込む。
「ッどこまで‥‥!」
 予想以上に足が埋まる。斬。浅い。襲いくる牙に左腕を差し出した。
 サプレッサー特有の抜けた音がし、翠が透夜に並んだ。3連射、思いきり敵を蹴り飛ばす。
「てめえら、僕についてこい! 転ぶなよォ!」
「ひぁあ!?」
 後ろで悲鳴が聞こえるが、気にしていられない。敵が怯んだ隙に透夜と翠は駆け出した。続いてリーダー、武装勢力。が、体勢を整えた敵が斜めから隊の真ん中に襲い掛からんとし、
 隊の横に位置する零の恐ろしい斬撃が、下から伸びる!
「‥‥心意気は、良い奴が多くてね。お前らに喰わせるには少々惜しい。つまり。お前らの餌は抜きだ」
 鍛え上げられた月詠二刀が同時に煌く。振り上げ、斬り下ろし、右の薙ぎに身を任せ、沈み込みながら左の刺突。連撃が血の雨を降らせた。
 が、1体を葬るや、さらに感じる気配。刀を背後に振るう!
 甲高い音。地を舐めるように突っ込んできた敵を受け止めた。
「‥‥状況は最悪。だが」
 舌打ちして肩越しに後ろの武装勢力を見る。瞬間的に力を込めて敵を弾いた。
「伊達に修羅場は潜っちゃいない」

「ひぁあ!?」
 案の定、足を取られて転ぶ小鳥。その拍子に番えていた矢を離してしまい、山なりに本隊横のファブニールに飛んでいった。
「ぁ、そのぉーっ!」
「そこですね!」
 偶然を伴って舞い降りる猿型。矢が足元に刺さって姿勢を崩した瞬間、ファブニールの刺突が猿を貫いた。渾身の一撃に猿が奇声を上げ、再び樹上に跳んでいく。とてもではないが追えそうにない。
「小鳥、服を直しなさい。でないと」引っ張って起こそうとしたロッテが、頭上の気配に逆手短剣を振り抜く!「敵も寄って来るわよ‥‥!」
「早く起きて。本隊を追いますよ!」
 横合いからティーダが爪を振るう。猿特有の動きで致命傷を避ける。敵は掠った腕の血を吸い、眼前のロッテに噴きつけた。咄嗟に目を瞑りながら超機械をぶっ放す。悲鳴を上げて樹に登る猿。
「ティーダ、小鳥をお願い‥‥! 私が露払いするわ」
「適当な所で切り上げて下さい。私達は大丈夫ですから」
 小鳥とティーダが走り辛い密林を疾駆する。ロッテは小走りに追いつつ、未だ枝上から虎視眈々とこちらを狙う猿の気配を探る。他の敵も集まっているようだ。
「貴方達の敵は私よ‥‥来なさい!」
 目標の樹に到達し、身を隠す小鳥達。その横を抜け、ロッテが挑発した。

●不確実の未来
 僅かな足がかりに足をかけ、非力な腕で極小の体を持ち上げる。また足をかけ、白衣が登る。密林に似合わぬ光景だった。
「幸臼さん、無理はしないで下さいね?」
「大丈夫‥‥ですぅ。特訓して‥‥木登り漫画も‥‥見たのでぇ」
 小鳥の動きが大きめの雑音を発するが、今のところ敵は本隊の方に釣られているようだ。北西に移動する気配をティーダは感じる。
 と同時に、全ての命が駆逐されたかの如き、不自然な無音も。
「‥‥動物達もいない。いくらキメラと言え、無害な動物まで全て‥‥? あるいは他に何かあったのでしょうか」
 小鳥が木登りに四苦八苦する間にティーダは細い木へ跳び乗り、跳躍して鉄棒のように小鳥の樹の枝に移った。ようやく小鳥もその枝に辿り着く。その時。
 衝撃。そして、大破したKVの破片が降り注いできた。
「にゃ!? これはぁ‥‥」「10時方向です」
 青空の遥か先。高高度に小さな点が蠢いているのが見えた。「点」の1つが激しく動き回り、他の点と交錯する。その度にここまで届く衝撃音。
 また付近に残骸が落ちてきた。
「早く双眼鏡を」「ぁ、はぃー」
 ティーダ自身も普通のカメラは持ってきていたが、これでは拡大しても難しいだろう。また強引に翠が貸してくれた小型ビデオカメラでも限度がある。しかし歴戦の傭兵が直に見られれば、資料に残らずとも感触は掴める筈。
 必死に戦い、人類として成長してきたのだから‥‥!
「えと、新型機はぁ‥‥」
 眩しさを堪えて倍率を絞っていく。するとそこには。
 圧倒的機動で軍を翻弄する1機。何か光線を放つや、KVに突っ込んでいく。瞬く間に2機撃破。残るはバイパー1機。KVが放ったミサイルは無情にロールで躱され、そして放電のような光と共に散った。
「――、ですぅー‥‥」
 小鳥の舌足らずな実況に拘らず戦慄が走るティーダ。急いで翠達の位置を樹上から確認し、その周囲で見える敵を把握する。
「9時方向、樹上より猿多数。振り切って下さい。私達も合流します」
『了解。意外なモンでも見つかりましたかね。僕のカメラがレア物を映し‥‥』
 残念ながら、とティーダが返した時、未だ双眼鏡を覗き続けていた小鳥が妙な光景を見た。あれだけの機動を誇った1機が、まっさらな空を楽しむかのようにゆっくり飛び去っていくのだ。あるいはトラブルでも起こしたように。
「急ぎましょう」
 小鳥達が樹を降り、全速力で北西へ駆け出す。
 が。
 それが悪かったか。気付くと、猿の群とピューマに取り囲まれていた。

●密林の恐怖
「翠の肥満様のお通りだぜェ!」
 両側に聳え立つ大木の間を抜けて先頭の翠がぶっ放す。枝から垂れた蛇型が怯んだ。武装勢力達は翠の姿を心強く感じ、より士気を高めていく。
 北から西へ。木々の向こうに切れ目が見えてきた。直線距離で90m。このままなら犠牲もなく済む。隊左翼を守るように併走していた零も9時方向から次々来る猿を1体ずつ斬り、いなしながら安堵しかけた瞬間。
「ありゃ何だ?」
「何だ。今ァ俺らの全てが懸ってんだぜ」
「いやよ、そこクダモン落ちてんぞ」
 翠と隊前半が通り過ぎた樹の根に黄色い実があるのを、1人が発見した。彼はそのまま傭兵に報せる事なくそれに近寄り、手を伸ばす。そして。
「待て、触‥‥!」
 零が気付いた直後、彼は首から上を失った。後に残るのは血を噴く胴体と巨大な顎から牙を覗かせるその実だけ。
 悲鳴と銃声が乱舞した。武装勢力の後ろ半分がそのマンゴーらしき実に射撃を加える。
 銃弾を平然と受け、実が跳ぶ。隊が乱れた。さらに1人が喰われ――る寸前、辛うじて回り込んだ零が敵を受け止める‥‥!
「ふざけたキメラが‥‥」
 押し飛ばすや、紅く輝く刃を大上段から振り下ろす。返す刀で両断した。
「全く」
 零が息を吐きかけたその時
「密林を抜けます。後少しの辛抱で‥‥!?」
 前方から翠の報告が響き、と同時にやはり前方から悲鳴が木霊した。

「何!?」
「鰐です。切れ目の方から2匹!」
 最後尾でピューマ相手に苦戦しながらロッテが訊くと、再度翠の声が聞こえた。拙い。今前進を止めれば側背の敵が大量に追いついてくる。
 ――つまり突破が最優先!
「ファブニール、前をお願い」
 ロッテが跳んで躱そうとするが、イメージとずれる。爪を足首に喰らって体勢を崩しながら、黒点を射出した。
 黒に包まれたその敵の心臓辺りを、横合いから透夜が一突きする。
「こっちはじき小鳥達も来る」
 未だ迷いを捨てきれぬファブニールに、穂先の血を払って透夜が叫んだ。
「お前はその盾で、守るんだろう!?」
「ッ、はい!」
 時を追う毎に増えゆく気配。ファブニールが殿から抜け、魔弾のロッテと透夜は2人で樹上に光る視線を受け止めた。
「狩る者と狩られる者。私達はどちらかしら?」
「当然、前者だ」
 2人同時に爆ぜる。腐葉土を無理矢理直進する透夜。三角跳びの要領で進むロッテ。3体の猿を受け止め、槍と黒点が迎撃する。その時、
『ぅー、ろってさ‥‥っ』
『数が多い!』
 無線から、か細い少女の声が聞こえた‥‥!

「動きを止めればぁ‥‥!」
 銀弓を引き絞る小鳥。一矢が脳漿を散らした。が、この密林でいくら素早く弓を扱おうと限界がある。せめて拳銃にすべきだったか。
 小鳥がもつれそうな脚を前に出し、走り続ける。合せて周囲の敵も包囲したまま移動。一向に突破できる気配はない。疲労した目を擦り、小鳥が弱音を吐く。
「あの、ティーダさんだけなら‥‥一気に抜けてぇ‥‥」
「そんな愚かな案を、私が呑むとでも?」
 右爪が敵を引き裂く。猫さながらに回転して前へ跳び、遠心力を加えた爪を縦に振り下ろした。その脇を抜けて小鳥に突っ込む猿2匹。小鳥は片方の脚を穿つや、自ら横転した。
 猿は余裕でついてくる。敵の両腕打ち下ろしを弓で辛うじて受けた。歯茎を剥き出しに奇声を上げる猿。必死に振り払う。飛び退いた敵の着地点で待ち構えるティーダが斬り捨てた。刹那。
 嫌な予感に、ティーダが跳んだ。
「幸臼さ‥‥!」
 警告は遅い。走りながら矢を番えていた小鳥に、左右から礫弾が突き刺さる‥‥!
 3、4。次いで猿4体の集団攻撃が小鳥の体を打ち付ける!
 拙い。枝のしなりを利用して小鳥の方に飛ぶティーダ。空中で反り、渾身の両爪を振り下ろした。1匹が血飛沫を上げ、残りが退避する。
「大丈夫ですか!?」
「‥‥ぃき‥‥わたし‥‥やく、つたえ‥‥」
 朦朧とする小鳥。頭から流れる濁った紅が、顎から腕へ滴った。
 2人しかいないにも拘らず目立ちすぎたのが拙かった。人数を増やすか、あるいは細心以上の注意を以て回り道すれば良かったかもしれない。忸怩たる思いでティーダが小鳥を背負い、瞬天速で飛び出す。木々スレスレを抜けた、次の瞬間。
 逆手短剣と重力銃を構えたロッテが、樹上を舞った‥‥!
「楽に眠れると」盲撃ちして引きつける!「思わない事ね!」
「一気に抜けるぞ。小鳥を頼む!」
 続いて透夜。傍若無人な2つの弾丸が駆け続ける。右、左、下、上。まさに小鳥を守る、いや小鳥の精神と溶け合ったように。無事ここを抜ける。その思いだけが、弾丸を動かしめていた‥‥!

 舌打ちして翠が引鉄を引く。二度三度。左右の鰐は意外に機敏な動きで致命傷を避け、人肉に喰らいつかんと草の中を這ってきた。
「目的地自体に敵が潜んでいるとは‥‥面倒な‥‥!」
 流石に翠だけでは草に隠れがちな2体を止めきれない。後退指示を出そうかと思案した時、盾を構えたファブニールが突撃してきた。
「僕が守る! この地を守るべき皆を助ける! それが僕の道なんだ!」
 そのまま盾を前に鰐にぶち当たる。同時に盾の脇から細剣を突いた。
 別の1体がファブニールの死角から脚に喰らいつく。右ふくらはぎを千切られた。痛みを力に、連続刺突を正面の鰐に繰り出す。1発が眼を抉った。やれる。
「皆さんは先に切れ目へ。零さん、お願いします!」
「おお、任せたぜ、同胞」
「了解」
「ここよりゃマシですな」
 翠の銃が火を噴く。ファブニール正面の鰐をリズムよく削っていき、遂に硬い皮膚を貫いた。絶命。残り1体。南方向から接近してくる敵群の気配を感じた。時間の勝負になる。
「こんなトコで遊んじゃおれん、僕は!」
 草木に隠れ武装勢力に接近する鰐に翠の連射が炸裂する。鰐がキレたように口を開け威嚇してきた。その口に細剣を突き刺すファブニール。咄嗟に脚で下顎を踏みつける。
「ロッテさん達は‥‥!?」
 猛烈な顎の力に押され、無理矢理盾を突っ込んだ。
「来たようです」切れ目側を向くファブニールに代わり、翠が冷酷に撃ちながら「や、あなた、面白いですな」
 透夜、ティーダ、ロッテの順にこちらへ突破してくる。小鳥はティーダの背でぐったりしたまま。2人の横を駆け抜けた。
「行くぞ」
「この先は楽に進みたいもんです」
 翠とファブニールの一撃が鰐を血で染める。
 そうして数秒。
 一行は武装勢力に1人の犠牲を出したのみで、この場を突破したのだった。敵新型機らしき機影を確認するという戦果を携えて‥‥。

<了>