●リプレイ本文
「バイパー‥‥久しぶりですけど‥‥お願いしますねぇ」
森は蠢動する。自然ならざる侵略者に陵辱され哭くかの如く。ロッテ・ヴァステル(
ga0066)は自機を撫でる幸臼・小鳥(
ga0067)に機内から声をかけた。
「急ぐわよ‥‥出来る限り森を荒らしたくない‥‥」
「急ぎすぎたバカもいるみたいだけどな」
おいそこのバイク型、と外部出力で龍深城・我斬(
ga8283)が呼びかけると、南東に飛び出たヘルヘブン――守が無線で。
『もー何‥‥は、ユウ君を奪わんと差し向けられた刺客!?』
「アー‥‥」
ここでツッこめば仲良くなれそうにも拘らず反応の悪い植松・カルマ(
ga8288)。気勢を殺がれつつ我斬が続ける。
「そりゃどこの素敵組織だ。それよりお前、1人で突っ込‥‥」
『そして無垢なこの子をラチってヤク漬けにするんだ! なんて卑劣‥‥こんな所にいられるか、私達はうちに戻るっ』
「何それ、あたしもそんな死亡フラグ言いたいッス!」
あっけらかんと笑うエスター(
ga0149)だが、そうこうするうち守は森から迫る敵に気付いたらしい。エンジンを噴かした爆音が響く。
柳凪 蓮夢(
gb8883)機シラヌイSが南東に駆け出す一方、明星 那由他(
ga4081)と天龍寺・修羅(
ga8894)も呼びかける。
「ユウさんって言うんです‥‥ね、その子。見たところ、まだ慣れてないみたい‥‥ですから優しく‥‥」
「そう。最上さんとユウ君? は切り札なんだ、待機し‥‥」
『む。敵ながら世界の真理を突いた見事な論舌‥‥!』
噴かしたまま様子を窺う守。その隙に蓮夢機が半分以上距離を詰めた。
「それに、2人ならもっと華々しくデビューできる」
『!? う、く‥‥! だ、騙されないんだからぁっ!』
負け惜しみの如く叫び、発進する守。我斬が舌打ちしてペダルを踏む。そこに敵砲弾が飛んできた。巻き上がる土。
「ああもう聞きゃしねぇ! こっちも突っ込むぞ!」
「北からの挟撃で速攻狙えば‥‥彼女の負担も減るしね」
正面を避けブーストしていく我斬、ロッテ、那由他の3機。いち早く森を抜けてきた黒貂2体にエスターが引鉄を引き、カルマと修羅の銃弾が止めを刺した。
「しかし清々しいというか。ある意味見事だな。ある意味」
「じんせー楽しそうッスね〜」
「てかどうすんの俺‥‥流石にヤバくね? でももしカワイコちゃんだったら俺死ねるくね! あーイケメン故の悩みマジヤベェ!」
敵を撃ちながらも平然と雑念だらけなエスターとカルマ。防衛線の兵が不安になるが、次の瞬間、再度飛来した砲弾を修羅が正面から盾で防いだ事で兵も安堵の表情を浮かべる。
「こっちは‥‥絶対抜かれないよう‥‥敵を待ち受けましょぅー」
膝立ちのバイパー。機内で完全に準備完了の小鳥が、ぐっと拳を握った。
●迎撃戦術
「守ちゃん‥‥! そのまま直進するのは拙い、回り込んでいこう。そうすれば見栄えがいい」
『ぅ、うぅっ、誰も彼もが言葉巧みな‥‥!?』
返ってくる言葉は疑心暗鬼だが、それを『見栄え』が上回ったのか、北東一直線でなく東に入り敵側背を衝く動きに変わる守機。蓮夢が全力で追いかける。
そこに森から飛び出した化蛇が急降下してくる。素早く銃口を向ける。水弾が風防直撃。弾幕が化蛇の翼を削ぎ落とす。墜落する敵。構わず蓮夢が守機に向かう。森に入る。
「無事‥‥?!」
『ユウ君、はかいこうせんだっ!』
普通の矢を放つ守機。木々に隠れがちな化蛇左翼を貫いた。ふらふらと墜ちる敵を蓮夢が撃つ。何とか守が奥へ行く前に援護射程内には来たが、これ以上突撃を引き伸ばすのも無理そうだ。
森でも関係なく高速モードに移行する守。オシオキしてやろうかなどと蓮夢が考え、木々に遮られた残り60mを見たその時。
『聞こえる!? ユウを一人前にしたいなら‥‥私達に続きなさい!』
無線がロッテの言葉を伝えるより早く、森の中が爆発した!
敵砲弾が修羅機を捉える。構えた盾に直撃。衝撃に修羅の視界が揺れる。爆煙に紛れた応射。
真正面、森の奥から巧みに砲撃してくる窮奇。うち1つが背後の土嚢を吹っ飛ばした。小鳥と修羅が光った位置へ猛烈に撃ち返す。またしても飛来する砲弾。
衝撃‥‥!
その中において踏み出す修羅。ただでさえ防衛線前に陣取っているのだ。砲撃が集中しない筈がない。盾を持つ右腕が軋みを上げる。それでも退かない。軍を守るべく、修羅は一身に砲撃を受け続ける!
「フェニックス‥‥悪い、な」
「イイトコ全部持ってかれる訳にいかねーっしょ!」
カルマのリニア砲が大気を切り裂く!
轟。前面の木々数本が一気にへし折れた。薄くなった遮蔽物の先に微かに見える窮奇。嬉々としてエスターが撃つ。合せて弾幕を集中させる3人。反撃とばかり敵砲弾が土を巻き上げた。その時。
『黒貂8体‥‥南から行きます‥‥』
那由他の警告とほぼ同時に黒貂が森を飛び出してきた。即座にエスターが銃口の向きを変えるや、スコープも覗かず狙撃する。飛び散る血潮を避けるように散開する7体。カルマ機ディアブロから放たれる夥しい銃弾。
アテナイが敵を縫い止めた次の瞬間には膝立ちの小鳥機から必中の銃弾が放たれていた。2体目の頭が弾ける。脳漿の雨を潜り敵6体がKVに飛び込んだ。
「にゃ!? 出てくる場所さえ分かれば‥‥狙うのは簡単ですけど‥‥元気すぎますぅ!?」
「ミナサン、俺の見せ場きたッスよぉ! 漲れイケメン力!!」
風防に取り付き鋭い牙を覗かせた敵を払い、カルマの豪剣が唸りを上げる!
「斬り捨て御免! ‥‥やっべ、俺マジパネェ!!」
「確かに『ヤバイ』な。剣筋が荒すぎる」
盾を振って敵を除け、修羅。
「イケメンは型にハマらねェんスよ!」
一刀両断。地に叩きつける豪快な剣が土と肉片を撒き散らす。それを見た残る5体は塊となってエスターに飛び掛る。さらには先程と別角度からの砲撃が4機を襲う。
凄まじい敵圧力。遂には正面からも黒貂3体が抜けてきた。このままではじき軍が。一抹の不安が過った、瞬間――!
●森の旋風
「おおぉおぉおおおおお!!」
3機が突っ込む。群が乱れる。北の彼らが敢行した側面からの奇襲は敵の突進を弱めるのに充分だった。それまで目標が1つだった敵群は物理的にも本能的にも止められ、3機か防衛線かに狙いが分散したのである。
「一層パワフル且つスピーディになった雷電の力を見よ! 超伝導パワー、オン!! なんてな」
「有り余るパワーで敵でも集めるのかしら?」
「は、そりゃいい!」
「私達で引き付け‥‥これ以上森が傷つく前に手早く決めるわよ!」
敵陣ど真ん中を我斬が駆ける。右に左に高速で現れる木々を潜り抜け、こちらに気付いた黒貂に機関砲をぶっ放し。並走するロッテ。我斬が水弾を受けつつ左の黒貂を斬り刻み、右の黒貂にチェーンを射出する。幹を巻いて敵に絡みつく鎖。瞬間、ロッテ機が走りながら蹴り上げた。
鎖によって我斬の方に引っ張られる敵。アヌビスが跳ぶ。ブースターが煌く。生身の如く腰部を捻り、左ボレーを繰り出した!
『――■■!』
「僕が‥‥中距離から援護します‥‥から、暴れて下さい‥‥」
広範に軽機とバルカンをばら撒く那由他機イビルアイズ。蠢く黒貂が波のように跳び退り、同時に我斬のグレネードが炸裂する。
焼ける黒貂。破片で削られる幹。10m四方の空白地帯が生まれ、そこに身軽な那由他機が滑り込む。
「南から‥‥敵が迂回してきます‥‥っ」
「窮奇は?」
「正面奥3体‥‥迂回1体‥‥」
「突っ込むわよ!」
南から来る筈の守と蓮夢への指示も頼むと、ロッテと我斬が東に方向転換、一気に駆け出す。
砲弾が木の合間から飛来する。跳ぶロッテ機。横に我斬。止まる事なく駆ける2機が陰に窮奇を見つけた。ロッテがペダルを踏み込み跳躍。途端化蛇の水弾がロッテを襲う。葉に隠れた空間を我斬が撃ちまくる。
相次いで放たれる砲弾が遂に我斬機を捉えた。体勢を崩す。が、彼に追撃が来る事は、ない。
「森に抱かれて逝ける事に感謝なさい‥‥!」
空から強襲したロッテが、1体の頭蓋を叩き斬る!
重力を加えた一撃で頭を割られて尚、敵は角砲身で払ってきた。剣柄で防ぎ、回し蹴りで吹っ飛ばす。別の1体にぶち当たった。その間に我斬は3体の陣形に入り込むや土を抉って踏み込み、落葉を噴き上げる大回転へ移行した。
双刀を振り上げ袈裟斬り一閃し、鋭い嵐を巻き起こす!
「戦車ごっこは仕舞いだ!」
「いえ、まだ戦車としての役どころはあるわよ‥‥」
嵐を前に砲撃する余裕のなくなった窮奇。我斬の回転が緩んだ直後、ロッテがミドルを鼻っ面に蹴りこむと流れるように薙ぎ払い、敵が漸く砲口を向けた瞬間に大上段から斬り下ろした。
爆発。黒煙に合せた我斬の突進が3体目を襲う。右腕には黒竜の牙。近接され、されるがままの窮奇は断末魔もなく串刺しとなった。
「さて。例のどノーマルはどうなってんのかね」
「最上さん‥‥そっちの敵お願い、します‥‥スコア稼ぐチャンス‥‥です」
『わ、わ、解ってる! 私が育てるんだからぁっ!』
言い返すも、南から迂回の動きを見せた12もの黒貂の群に突っ込む守機。大剣を構えたチャージが2体の体を裂く。木を紙一重で避け那由他の傍まで走り抜けた。浅い。反転する守に襲い掛かる敵4体。遅れて突撃した蓮夢の弾幕が2体を穿つ。残りが守機を狙う。凶爪が火花を上げ装甲を削った。
『はぅあぁッ!?』
「だから、一緒に突撃しようと」
「こっちも‥‥来ます‥‥っ」
南から分かれたうち残る2体を那由他が細剣で仕留めつつ周囲を観測する。南の8体は森を抜けた。ロッテと我斬に乱された中央の群は漸く態勢を立て直し、こちらへ駆け始める。
「‥‥少し、でも‥‥」
盲撃ちでばら撒く那由他。中央で動く黒貂は7。それだけの敵が別の隙間を抜けてくる。蓮夢と守も弾幕を張る。3体が前のめりに倒れた。が、その時砲声が轟く。
1体だけ迂回していた窮奇だ。手が足りない。那由他が逡巡する間もなく守がそちらへ飛び出した。蓮夢が追う。中央黒貂は那由他の脇を一瞬で抜けた。振り返りながら撃つ。さらに1体が倒れた。だが残る3体が森を抜けてしまう。那由他が走る。
再度空気震わす砲声。
「待って、私が前を‥‥!」
『いけぇっ、でんこうせっか!』
砲煙漂う窮奇に斜めから守がぶち当る!
敵が守機を見た。すれ違って反転する守。そこを捉え敵の突進が守を襲う。弾け跳ぶ装甲。蓮夢機が白雪を手に取るや、低空を跳び肩から突っ込んだ!
斬‥‥!
超出力が胴を両断する。が、微かに動く敵。そして最期の砲撃が守に――
「私が護ると言った!」
爆発。盾が吹っ飛ぶ。瞬時に守と敵の間に割り込んだ、蓮夢の盾が。
蓮夢機――紅弁慶も爆風に煽られ守機を下敷きに倒れる。
『ぁ、だ、大、丈夫‥‥?』
呆然という体で訊く守に、蓮夢は淡く微笑んだ。
「‥‥守ちゃんが無事ならね」
●挟撃
銃声銃声銃声。
エスターに敵5体が取り付き、防衛班がそれに気を取られた刹那、森から現れる新たな3体。そしてそれを撃ち抜くイビルアイズ!
「窮奇は多分、大丈夫‥‥ここの敵に集中‥‥っ」
「了解!」
その機――那由他の報告のおかげで動きやすくなる4機。エスターが敵を払いつつ後退すれば、離れた1体をカルマが叩き斬る。小鳥、修羅、那由他、三方からの弾幕が黒貂7体を完全に縫い止め、着実に撃滅していく。
そこに急降下してくる化蛇。趨勢は決したと見てのカミカゼか。しかし。
――此れぞ我が銃 我が友 我が命
隻眼を補って余りある絶対の狙撃手が、見逃す筈はない。
――我 銃を制す者 我なくて銃に非ず 銃なくて我に非ず
素早く空に向けたD‐02から放たれる鉛玉。時の進みは極めて遅く、散りゆく羽が網膜に焼きつく。
――我ここに神に誓わん 我らを弑す全ての者に
装填音が心地良い。弾ける薬莢が地に着くより早く、次弾は次の1羽を撃ち落す。
――滅びの銃弾を贈る事を‥‥Amen
「Rest in Peace!!」
エスターが叫ぶや、化蛇2羽が真っ逆様に墜落した。続いて小鳥の狙撃銃が最後の化蛇を落す。
「ぅー‥‥」
「?」
先を越されたと小鳥が涙目でエスターを見るが、相手には通じない。そのうち最後の黒貂2体がカルマと修羅の銃弾で倒れ伏した。
「俺らにかかっちゃ楽勝ッスね」
軍の損害も1つの土嚢周辺の兵だけ。完勝といった状況を見回してカルマが言った時、迂回班が戻ってきたのだった。
●愛のカタチ
「ロッテさん‥‥無事で‥‥すにゃきゃ!?」
8人がKVから降り、最初に動いた小鳥が盛大に躓いた。文字通り『小鳥弾頭』がロッテに突撃する。
――ロッテさんなら、きっとロッテさんなら受け止めてくれる。
そんな想いを乗せた弾頭はしかし、無情にも後ろへ退いたロッテ足元の土に着弾した。可哀想な音を立て、動かぬ小鳥。
「‥‥小鳥。結局貴女はそうなるのね」
「‥‥心配して‥‥くれてもぉ‥‥」
「小鳥ちゃんみたいのもアレッスけど、肝心の守ちゃんの方は、と」
さらりと流しカルマがヘルヘブンに向き直ると、一斉にそちらに視線が集まった。泰然と降りてくる守。ショートの黒髪を手で梳って8人を見返し、直後
「はぁあっ大丈夫?! 大丈夫かな!? 痛かったよねごめんねもちょっとゆっくり優しくだよねごめんねぇえぇっ!!」
恥も外聞もなくユウ君のタイヤに抱きついた。がくりと項垂れるカルマ。
「チェンジで。ガキすぎっしょ‥‥」
「いいんじゃないかな。その人が幸せならね」
終始に渡って援護してきた蓮夢が進み出る。
‥‥2分。3分。
守はユウ君にひとしきりハグだのちゅーだのした後で8人を見た。機体に付いていた土で黒ずんだ顔に苦笑を禁じえない。
「さっきは、ありがと‥‥」
「守ちゃんが無事ならいいよ」
蓮夢が挺身して庇った事で守の妙な思い込みは失せていた。我斬が嘆息して雷電の脚をカンカンと叩く。
「自慢の愛機、乗り回したいのは解るが、生かすも殺すも乗り手次第さ。身も心もホットでいい。ただ思考はクールにな」
「う、その、恋する乙女は強いといーますか」
「ほんとオモシレーッスね〜」
今度戦場で一緒になってもこの調子ならあたし、いやあたしのバイパ‥‥もといあたしの鬼軍曹が黙ってないスけど。と自機を見上げ、エスター。那由他も知的好奇心を働かせる。
「750がお兄さん‥‥ですよね」
「えと、まぁ‥‥」
「その考えなら‥‥イビルアイズはR‐01の弟か‥‥。S‐01と01Hは兄弟で‥‥シラヌイも親戚‥‥通常とS型甲乙の3兄弟で‥‥W‐01とアルバトロスは異母兄弟‥‥家族だらけ‥‥」
「や、そこまでは考えてな‥‥」
「そうだ、家族とすれば‥‥互いの技術的相性‥‥」
感化されすぎである。腐女子の影響怖い。
ともかく、まずは営口市に引き上げる事にする一行。その時
「しかし、何故にユウ君なんだ?」
何気なく尋ねた修羅に、守は満面の笑みで振り返って頬を染めた。
「愛ゆえにっ! 好きな子の名前を呼ぶのに理由がいりますか?」
<了>