●リプレイ本文
「皆さん。観ていましたが、嫌味ではなくよく戦っていると思います。だからこそ後半、私達に賭けてみませんか?」
如才ない微笑で辰巳 空(
ga4698)。3丁目クラブチームの面々は突然近付いてきた8人に警戒するが、それも皇 流叶(
gb6275)の言葉で氷解した。
「力を貸す、という事だ。なに、向こうも無茶なメンバー変更をしてきたのだろう?」
「あんた達は?」
流叶がわざとらしく息を吐き、代ってファブニール(
gb4785)が心を燃やす。
「僕達は、市民の味方です!」
●ハーフタイム
「一応相手選手を検索してはみましたが成果はなし。プロではないようですので、前半から分析す‥‥」
「あぅぅ‥‥ろ、ロッテさ‥‥ひぁあぅ」
「しっかりなさい。戦闘以外で運動するのもいいものだから」
「みゃー!?」
空が白板に矢印を印す一方、ロッテ・ヴァステル(
ga0066)は固辞する幸臼・小鳥(
ga0067)の頭を押えつけた。小鳥は観念すると、自ら無理矢理テンションを上げるべく後ろ髪をアップにして鉢巻を巻く。
「前半から分析するしかな‥‥」
「地元に大きなクラブがあってね、よく父に連れて行ってもらったんだ」
「は、ぁ‥‥」
「聞いてる?」
「聞いてますはい柔らかくてきめ細かくてさささ触ってみたいなんて思ってみたりとか何とかでっ」
「?」
今度はマルセル・ライスター(
gb4909)とフランツィスカ・L(
gc3985)が柔軟体操をしながら妙な空気を醸し出した。
「‥‥」
空、涙目である。体育座りで話を聞いていた神城 姫奈(
gb4662)が満面の笑みを浮かべた。
「がんばろ! 私けっこー自信あるからねっ。男子に混じってやってたんだよ?」
「貴女が天使に見えました」
「あはっ、なにそれー」
太陽のように笑う姫奈に励まされ、空が分析結果を書いていく。
敵攻撃はとにかく体を武器にした個人重視だと。が。
「ほら、準備はしっかりしないと」
「ぁ‥‥っ」
向き合って座る。伸ばした足裏を合せ手を持たれ、マルセルに引かれてフランツィスカが前傾になる。そこから見上げる彼の生足半ズボンとふわふわ微笑といったらもう!?
「大丈夫なのかね」
くいくいと眼鏡位置を直す彼女を見、流叶が独りごちた。
▼4‐4‐2 監督ファブニール
小鳥
FW
ロッテ
MF MF
マルセル
姫奈 流叶
空 DF
フランツィスカ
●奇襲
『さぁ後半開始ですが。助っ人はどんなプレーを見せてくれるのか』
笛が鳴るや、3丁目FWから小鳥へ、そしてロッテにボールが回された。
突然のあり得ない選手交代に戸惑う敵が緩くプレスにくる。それをロッテが足裏で躱し右へ振った。
「まずは1点、いくわよ!」
「いきなり人を働かせる‥‥」
一気に流叶が駆け上がる。転がる球。敵MFが追う。前から体を寄せてきた敵をライン外から流叶が抜き去り球に触れるや、大きく縦に蹴り出した!
『おぉっと速攻です! 抜けるか!?』
「ワンツー頼む」
MFに預け、流叶がさらにライン際を駆ける。敵DF直前で左に切って後ろを見た。が、流叶に返さんとしたMFに敵のシャバが寄せる。こぼれる球。流叶が反転したその時、中盤の底から猛然と追い上げたマルセルが足を当て前に出す。流叶がDFを背負いつつ左脚でセンタリング!
「ヴァステル殿‥‥!」
『大きいか! 流れたボールを幸臼が追います! そして‥‥ああっと!?』
マーニと競る小鳥。中はロッテ、外から姫奈が切り込んでくる。ジャンプ1番小鳥の頭が辛うじて球に触れた。転々とする球に姫奈が詰める!
『き、きたかああああああ!?』
「オイシいトコ、もーらった!」
上体を捻る姫奈。贅沢な胸が主張するように跳ね、連動するように脚がしなる! ボレー!
ザッ‥‥!
ネットの音が妙に耳に残る。DFに圧し掛かられていた小鳥がゴールに顔を向けると、そこには。
『ゴ――――ル!!!! いきなりゴールです! これが市民の意地か、反撃の狼煙はこれからだ!』
1−3。歓声に手を振り姫奈が小鳥を起す。姫奈の服を押し上げてやまないソレが腕に当った小鳥は、人知れず心で泣いた。
「何をやっておる! 大枚叩いて雇ったのだぞ!」
再開する試合をよそに、副市長が怒鳴り散らす。その怒声が観客の火に油を注いでいる訳だがどうでもいいようだ。ファブニールが10m離れた所から副市長に向く。
「強い者が勝つのではなく、勝った者が強い。確かに勝負の理でしょう。でもサッカーはそれだけじゃない!」
こ、皇帝‥‥?!
ざわつく観客。副市長がこちらに気付く。激昂していく敵と正対し、ファブニールが言霊を乗せる!
「見る者に夢と希望を。それを叶えられるのはピッチに立つ者だけなんです! 貴方は、間違っている!!」
ずがーんとSEすら響きそうな指差しで攻めるファブニール。敵が気圧された。
その勢いが伝わったか、ピッチでも動きが見えてくる。様子見でパスを回していた敵が焦れたように左WGに楔を入れると、左WGが反転、突っかけてきた。
寄せる流叶。CB空から指示が飛び、DFが前から詰める。敵が流叶を振り切るべく蹴り出した球をDFが確保、GKフランツィスカに戻した。直後、空の手が挙がる!
●黄金ライン
59分。
フランツィスカに戻されるや、その単語が天を衝いた。
「カ・ウ・ン・ター!!」
駆け上がる姫奈と流叶。空に渡る球。空から長いフィードが放たれ、同時にMF2人が落下地点へ走る。
競ってくる永田と澤。ロッテが澤をブロック、永田に対して一般MF2人で立ち向かう。跳躍。挟み込んだ2人のどちらが球に触れたのか。それも解らぬ状況ながら、球はこちらに転がってくる!
「フォローは任せて!」
「了解!」
こぼれ球をマルセルが左に送ると、姫奈が前にドリブルしていく。
一方フランツィスカは自らのパスから始まった速攻を呆け気味に眺めていた。
「ぁ」
いけないいけない、集中しないと。集中集中。
球の行方を見る。
姫奈が球を跨いで腰を落すやセルヒオの股を抜いて押し通り、直後センタリング。小鳥と競ったマーニがそれを弾き返すもセカンドボールをマルセルが奪って今度は右へ。流叶はゴールライン直前まで突っ込むと、マイナスにグラウンダーを放り込んだ!
――集中、集ちゅ‥‥!?
そんな展開と関係なくフランツィスカの目は1人に釘付けとなる。スペースを消すマルセル――の躍動する白い肢体に。
「はぁあ‥‥こんなはしたない私に見られているのも知らずにマルセルさん‥‥眩しい笑顔‥‥」
ぞくりと危機を感じたマルセルだが、彼の目前で試合は動く。
「荒っぽいだけじゃ勝てないのよ‥‥小鳥!」
「にゃぁー!」
ヴァーロより前で地を這う球に突っ込んだロッテが爪先で軌道変更、浮かせた。敵の脇を潜った球がするりと人の間を抜ける!
「ここで‥‥決め‥‥っふゃあぁ!?」
押し込まんとした小鳥の脚が何故かつんのめった。芝のせいだと思い込みたい失態はしかし
『ここでなんとダイビングヘッドがぴたりとボールを捉えたぁああ!』
放物線を描く顔面と丁度衝突した球が、教科書通りGK足元を鋭く抉り、ころんとネットに滑り込んだ。
「ひゃぷ!?」
地に鼻をぶつけた痛みを堪え、小鳥が顔を上げる。その肩を叩くロッテ。マルセルが近寄って助け起すと、無邪気にはしゃいだ。
「すごい、すごいです! あと2点、もぎ取りましょうっ」
2−3。速攻から敵を幻惑する攻撃を見せた彼らを観客の熱狂が包む。
が。
「はァん。手応えはある、が」
敵MF澤は強敵に胸を躍らせる一方、そのパス回しに違和感を覚えていた。
「副市長。その貪欲に勝利を求める姿勢、確かに皆を纏めるのに必要です。しかし3丁目サポーターも守るべき市民でしょう! 我々は皆に希望を与」
「自惚れるな小童ァ!!」
この機に一気に攻勢をかけたファブニールを一喝したのは副市長の怒りだった。やや圧されるもファブニールは気丈に言い返す。
「それは僕の台詞だ! 副市長が手段を選ばず大会蹂躙? 何ですかそれは! 皆を愛し」
「私は! 私は市長と共に街を守る責任が、義務がある! なればこそどんな事も全力を以て当る。来るべき次の災厄にもこうして私は全力で立ち向かうのだ! 恐れるな、畏れて頼るのだこの私を!」
臓腑震わす恫喝が会場に響き渡る。成程それは詭弁に過ぎない。だが場の空気というのは往々にして人を狂わす。
敵が球を回す音がする。実況の静かな声が聞こえた。
優勢は、瞬く間に劣勢へ翻っていた。
●徹底守備
敵MFシャバと永田の交換から僅かな隙を衝いて縦に入る球。味方MFが澤に体を寄せると澤は直接戻し、それを永田が右に振る。上がるセルヒオ。ネナが中に絞るのに合せ姫奈が空の前を横切っていく。できた空間を空がケアせんとしたその時、高速で敵SBが突っ込んできた!
「マルセルさん後ろお願いします!」
「はい!」
正面から行く空。SBが急停止から跨ぎ、ライン側に上体を揺らした直後ラボーナで中へはたく。そこに猛然と上がってくる澤。マルセルが寄せる寸前、敵が右脚を振りかぶった。フランツィスカが小さく悲鳴を上げる。
「心配しないでリヒテン。俺が中盤を支えるから‥‥簡単には抜かせない!」
「っぁ、う‥‥」
幼さと凛々しさの同居したマルセルの当りを澤が左移動で往なし、左脚を振り抜いた。懸命に脚を伸ばすマルセル。爪先が球を捉える!
『ボールは大きく返る! いやー体を張ったディフェンスでチームを盛り立てます』
実況が言う間にこぼれ球に詰めた永田が直接ミドルをぶっ放す。体で止めるDF。さらにそのルーズをロッパンが蹴り出すや低姿勢でエリアに入ってくる。流叶がライン側から体を捻じ込んだ。倒れながら流叶がクリア!
「く‥‥無茶するものではない、な」
「マイボ!!」
中央に戻った空がMFに指示する。詰めるロッテとMF。その当りを物ともせずシャバがカットしセンターから縦パス一閃。下がり目のピジャが勢いを殺さず受ける!
「姫奈さんチェック!」「ぎり‥‥っぎり!?」
『3丁目寄せ切れない! その間にピジャがシュート!!』
ヒュォ!
恐ろしい威力のミドルがゴールを目指す。振り返るマルセル。フランツィスカが右に横っ飛びした。懸命に伸ばした拳が球に触れる!
ガッ!
「い‥‥っ!」
胸から地に落ちるフランツィスカ。弾かれた球をマルセルが懸命にクリアする。球はそのままサイドラインを割り、漸く一息つく事ができた。
「守れてるわよ、この調子でいきましょう!」
必要以上に守備に戻らず2列目で奔走するロッテが声をかけるが、その言葉に敵MF澤はにやりと返した。
「ハ。この調子、ね」
と‥‥。
●選択の差
71分。
無理せずキープし、奪取されてはプレスをかけてくる敵に攻めあぐねる3丁目。ロッテが前から球を追い、精度を欠いた楔をマルセルがカット。左右を見回すが両SHには敵がつきFW2人にもマーニとヴァーロがゾーンで目を光らせる。
『一転して相手は引いてきましたが‥‥攻め所が見つかりませんね』
寄せてきた敵の澤を背で防ぎ空にパス、空が落ち着いて姫奈に振った。ジョグのまま姫奈が前へ運び、ネナが塞いできたところでMFとパス&ゴー、ついてくるネナと体をぶつけて突っ込むがキープできない。こぼれ球を永田と競ったロッテが拾う。
が。
前を向けない。ガツガツと削ってくる敵。フォローに来たマルセルへ返すのがやっとの状態で、そこから今度は右へ振ってみるも流叶にはロッパン。それでも尚流叶が突っかける!
「そろそろきついのだが。そうも言っていられない‥‥!」
一瞬の加速。裏から球を蹴り出し流叶が爆ぜる。反転して追うロッパンだが僅かに遅れた。その隙に流叶が上体を捻じ込む!
動き出す味方。流叶が中を見る。前線に小鳥とFW、バイタル前にロッテ、逆サイの姫奈はまだ。となれば!
『皇、カロルトが寄せるより早くクロスを上げた! 幸臼競る、ヴァステルがスペースに走る!』
飛び出すロッテと小鳥の間に落ちてくる球。それをロッテが爪先でトラップ――しかけた刹那。
「届ッ!?」
「チィ‥‥!」
敵DFがロッテを押し倒す!
一瞬の静寂。ピィと笛がファウルを報せてくると、歓声が一際大きくなった。
中央、PA手前からのFK。ロッテと流叶が球の前に立つ。小鳥、姫奈、空等4人が壁の横に並び、マルセルは下り目で澤につく。
鼓動が体を縛る。
球から距離を取る。笛。壁が蠢く。2人が助走に入った。流叶が先に球へ。壁の半分が跳んだ。流叶がキック――フェイントから通り過ぎ、直後ロッテが蹴り上げる!
「小鳥!」
「ふぇえ!?」
GKとDFの間、ふわりと球が落ちる。そこに飛び込むGKと小鳥。小鳥の頭が球を押し込む。足から滑り込むGK!
『防いだ! だがボールはまだ転がっています!』
殺到する敵味方。FWがダイレクトにシュートするもDFの脚に当った。大きく返った球を澤と競りながらマルセルが送る。ロッテが跳んだ。それにつくマーニ。紙一重弾かれる球。守備に戻りかけていた空が偶然落ちた所に居合わせた。ゴールを見て空がグラウンダー。それをここまで戻ったネナがカット、顔を上げた――瞬間。
「判断遅いよっ♪」
死角から的確に奪い去った姫奈が。
切り込み、右インサイドでファーの隅にふわりと浮かす!
ぱ、さ‥‥。
『ご、ゴ――――ル!! 決まった、決めた、華麗に捻じ込んだああああ!』
無邪気にぴょんこと跳ねる姫奈に皆が駆け寄ってくる。
3−3。残り、約15分。
しかし。
「FKは仕方ない。だがもう点はやらん」
敵が左WGから攻めてくれば、何とか防いでこちらのカウンター。ロッテまで通るその攻撃も小鳥や駆け上がった姫奈の線でカットされ、今度は右から攻められる。コースを消し、シュートをとめると最終ラインの空から組み立て直す。その遅攻もやはり流叶から上がったクロスを完璧に弾かれた。
ここに来て漸く敵の意図が解る。
小鳥、姫奈へのマンマークだ。
苦い顔で睨めつけるロッテに澤が言う。
「あんたらの弱点は彼女ら2人を除いたシュート意識の低さだよ。ハ、3点取られて何言ってんだってね。最初から戦っていれば私らも戦い方は変えてたけどさ」
言い終らぬうち、後半終了の笛が鳴った‥‥。
●試合に負けて
『えー、字s‥‥時間の都合で延長無しのPK勝負でしたが』
結果は3−4。小鳥、姫奈、空が決めるも後が続かず、3丁目の敗北が決定した。だが。
「うおぉおお3丁目! 3丁目!」「よかったぞおおおおおお」
「お前らは勝ってた、俺が保障する!」「副市長の奴らも後半はまぁ頑張ってたぞ」「だが副市長は帰れ!」
冷めやらぬ観客の熱気に、そそくさと表彰式を済ませ退散する副市長。ファブニールは微笑する。
「試合に負けて勝負に勝った‥‥いえ、敵味方なんて関係ありませんね」
ここにいる皆がサッカーを愛しているのは、揺ぎ無い事実なんだから‥‥。
突き抜ける空を仰ぎ、ファブニールが何やら上手い事纏めたのだった。
<了>