タイトル:デザート・ビーストマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/29 02:35

●オープニング本文


「‥‥流石に、ね。私もいきすぎたと思う」
「なんと。お嬢様がそうお思いになるとは! 成長、いたしましたな」
「しみじみ言わないで」
 排気ガスと砂煙を上げて、カブト虫は砂漠をゆっくり南下する。その車内でリィカ・トローレ(gz0201)――ヒメは、拳に力を込めて運転する老執事をじとーと睨み上げた。親バグア派組織へ突入した際に負った傷は既に回復しており、愛用の銃も対戦車ロケット砲も構えた感触は悪くない。
「でも、うん。前線の近くって言っても限度がある、よね」
「従軍商人、それも菓子商など、どこの19世紀でございますか。今考えてもよく船に乗れたものです」
 前線近くともなると娯楽は極端に少なくなる。そこで女に飢えた兵士達は娼婦等と円満に楽しむわけだが、当然味覚も恋しくなってくる。艦船や輸送機、コンピュータが発達し、兵站を扱う民間会社もある現代、軍にまさにくっつくように帯同する個人商人がそんなにいる筈がない。
 よく潜り込めたものです、と執事が繰り返す。ヒメは無視を決め込み、車内で地図を広げた。
 アフリカ大陸、チュニジア南東数km。
 砂漠で分かりやすい目印など簡単に見つかるわけもなく、見当でしかない。
「そろそろ戻‥‥」
 ヒメが言い差した、瞬間。
『――■■!!』
 野獣の雄叫びが、砂丘の上から木霊した‥‥!

『――こち――、――――?』
「キメラ出現、『ピエトロ・バリウス』の戦闘員は可及的速やかに‥‥」
『――――答願――。――――?』
 やはり橋頭堡、前線基地を建造したばかりの地域だけに少しでも離れると無線連絡など安定しない。執事が砂丘を避けるようにカブト虫を操り、右へ左へと蛇行しながら北西へ走る。
 その後ろを追跡する野獣。高さは5m程だろうが、全長が10mはありそうな3つの巨躯から放たれた礫弾が一瞬前に車の通った空間に突き刺さり、盛大に砂を巻き上げた。その砂煙を利用して前後左右へ微調整する執事。孤独なチェイスはひたすら続く。
 エンジンは必死に回転し、タイヤは砂漠という悪路に何とか耐える。綺麗に塗装されていた車体は砂粒で細かく傷つき、それでも後ろの敵に蹂躙されるよりはマシだとばかり走り続ける。
「敵はゴーレム1、ワニ? が3‥‥」
 ヒメが後部座席に移り、足元から無造作に対戦車ロケット砲を拾い上げる。窓を開くとそこから上半身を出し、無理矢理後ろへ狙いをつけた。右へ左へと揺れる車。敵は一見鈍そうな動きながら砂漠を舐めるように追ってくる。ゴーレムは3体のワニの後ろ。
 ――だったら。
「ワニの手前にぶっ放す!」
 ぽん、とスイッチを叩くと、衝撃と共にロケット弾が飛び出す。それが俯角に宙を駆け抜け、狙い通り追ってくるワニ達の手前に着弾した。
 ドッ‥‥!
 盛大に爆ぜる砂。震えた空気が車まで煽りそうになる。執事がハンドルを切りながらブレーキ、タイヤが砂を噛んだと思うや、すぐさまアクセルを入れ加速した。
「いきますぞ」
「了解! このまま一気に突っ走って!」
 カブト虫は砂漠を走る。
 後を追うは、砂漠の獣――。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
レオーネ・スキュータム(gc3244
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

 小跳躍を繰り返す機と、砂漠を走る機。各々が小さな砂塵を巻き上げながら1500時の日差しを反射する。
「暑いですし、早々に片付けて休みたいものです」
「中は快適ですけど、周り見てるだけで焼けそうですからね」
 レオーネ・スキュータム(gc3244)機ペインブラッドの横へ着地するファブニール(gb4785)機ロビン。眼前の砂丘西を掠める形で南下する5機だが、まだ敵影は見えない。
「しかし途切れがちでしたがあの通信、何だったんでしょう」
「ま、颯爽と現れる俺らすげー! できりゃいいっしょ。てか俺さっきから運命ぎゅんぎゅんきてる気がするんスけど!」
「運命?」
「桃色的な!」
「‥‥」
 自信満々言い放つ植松・カルマ(ga8288)に呆れるリヴァル・クロウ(gb2337)である。振動に合せて首の銀細工が揺れ、最愛の姿が思い起された。リヴァルが微かに目を細めた、その時。
「砂塵発見。一般車輌及び後方に敵影」
 レオーネの報告が耳朶を打つ。明星 那由他(ga4081)機破暁とファブニール機がいち早く加速した。リヴァル機シュテルンが続く。
「車輌確保が最優先か。これより――状況を開始する」
「車1台で出れるなんて、凄いな‥‥」
 那由他の言葉がカルマの脳をかき乱す。無線が車と繋がった。そして紡がれるキツめの声色。カルマとファブニールが同時に声を上げる。
「ちょ、リ‥‥ヒメさんかよ!?」「て事は」
 砂塵をよく見ると車輌――カブト虫が健気に砂漠を駆けているではないか。2機がブーストして砂を蹴る!
「僕が先行します!」「運命キタ――! ヒメさんは俺目指して来てくれッス。俺目標で!」
「‥‥。砂丘前で隊を分けたのが上手くいきそうですね」
 はしゃぐカルマは無視の方向で、レオーネがリヴァルに話しかけた。

「ヒメ‥‥怪我が治ったと聞いたら。全く」
「相変わらず‥‥ですねぇー。とにかく‥‥急ぎましょぅー」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)機アヌビスは砂丘の稜線に沿って東を回り、幸臼・小鳥(ga0067)機シュテルンはバーニア全開で砂丘頂上へ跳び上がる。が。
「待、跳ぶな‥‥!」「ふぇえ!?」
 ウラキ(gb4922)の警告に小鳥が急ぎ足を放るが慣性は遮断できない。ふわ、と頂上からはみ出ながら着地した。砂が舞う。
 照準器で敵影を観察するウラキ。鰐は変らず車を追いつつロケット弾に難儀しているようだが、ゴーレムは鰐と距離を置いている。つまり周囲を警戒している訳で、小鳥機を見られた可能性も高い。
「‥‥捕捉されていない事を祈るだけだな。しかし」
 敵がここまで深追いするのは何か意図があるのか、単なる視野狭窄か。何れにしろ要警戒だと、砂漠迷彩のウラキ機BoaAceroが稜線の砂を巻き上げつつ。
 一方砂丘の頂で伏せ、アグニを固定した小鳥機は、じっと砂塵の行方を見続ける。
「様子は?」
「正面班が‥‥距離を詰めてますぅ」
「踏み込みが効かないけど‥‥急ぐしかないか。あちらにばかり仕事させる訳にいかないしね」
 強引にブーストして速度を上げるロッテ機。漸く砂丘南に回り込んだ時、小鳥の声が響く。
「正面班接敵‥‥しますぅ!」
 そして小鳥機が狙撃の為僅かに胸部を反らした瞬間。200m以上を隔て、ゴーレムと視線が交錯した‥‥!

●カブト虫
 銃声銃声銃声銃声!
 跳んで光線を放つファブニール。リヴァル機電影が遅れて銃弾をばら撒いた。砂が舞う。鰐3体がたたらを踏んで左右へ分かれた。レオーネとカルマが小跳躍で鰐と車輌の間に割り込むや、レオーネ機ウィッチコフィンは鰐へ光線銃を放った。カルマ機が猛烈に砂を散らし車を完全に敵から隠す。
「ハッハァ! 白馬じゃねーけどKV乗った騎士の登場ッスよ!」
『貴方‥‥』
「ささ‥‥」
 言い差した刹那、カルマ機背部に礫弾が突き刺さった。崩れそうになるもカルマは気合で機体制御する。
「お姫様守る騎士役とか俺マジパネェ! もういっそ惚れちゃうのは如何スか!?」
『‥‥なら、マシな誘い文句でも考えなさい』
 自動迎撃がレオーネ機に肉薄した鰐を撃ちまくる。アクセル全開の車が北西へ走る。敵がこちらを向いた。竜杖でその敵顔面を叩くレオーネ。カルマ機が車の後を追う!
「後頼むッス! ま、俺がいりゃ車は心配ねーけど!」
 嘆息。やはりスルーでレオーネが通信に呼びかける。
「皆さん一旦退避を。コレで気勢を殺ぎます」
「‥‥了解」
 広く弾幕を張って鰐を抑えていたリヴァルとファブニールが後退る。それを見届ける間もなくレオーネがスイッチを押すと内部バッテリーが高速稼動し、沈黙と共に一瞬の熱量が全ての敵に降り注いだ。
 直後。
「そっちばかりに気を取られちゃ、だめだよ‥‥」
 戦場よりさらに南西から。
 単機回り込んだ那由他機破暁が一気に突撃する!

「武器を‥‥狙って‥‥そこですぅ!」
 砂煙に覆われゆく戦場。小鳥が引鉄を引かんとした瞬間、照準の向こうでゴーレムの砲口がこちらを向く。
 ガァン‥‥!
 小鳥とゴーレム、同時に放たれた砲弾。それが各々の傍に着弾し、2つの砂柱を盛大に巻き上げた。削れる砂丘。ロッテが通信で呼びかけるも無言。だが止まれない。超加速のまま西へ突っ込む!
「ウラキ!」
「陸の王者の名は譲れない‥‥今日は稼ぐぞ、ボア」
 ド、ゥ‥‥!
 大気震わす轟音が響き渡る。1秒にも満たぬ間の直後、ゴーレム左腕が突如爆ぜた。さらに2発目が敵機足元へ、3発目が鰐の背に着弾する!
 機体自体が後退しそうな衝撃の中、冷静に観測するウラキ。砂塵の向こうで車がディアブロに守られ北西へ退くのを捉え、人型に移行した。歴戦の戦友へ通信を開く。
「やろうか、クロウ。久々の共同戦線だ」

 前へ、前へ、前へ!
 熱砂の景色を遥か彼方へ、ロッテ機は一直線に敵へ向かう。こちらを向くゴーレム。彼我の距離100。グングニルを機体右脇に固定した。80。脚部が思うに任せない。無理矢理スラスターと合せ操縦桿を倒すロッテ。40。敵機砲弾が至近を飛び交う。左腕の大剣で機体中心を守り、一気に跳び込んだ!
「我が身魔弾となりて――」全ての力を神槍に、群青の機体が敵機に重なる!「敵を穿つ!」
 衝撃。
 遅れて金属の割れる音がする。懐に潜り込んだロッテが敵を見上げた。だがそれでも健在の敵。即座に槍を抜きながら蹴りつけるが、敵大口径がロッテを捉えた。2、3。衝撃を殺しきれない。胸部小爆発。風防に走ったヒビに舌打ちした刹那、中空から機影が飛来する!
「後は何とかしよう。ヴァステル機は安全を期して鰐を」
 ロッテが操縦桿を横に倒すや、敵機背後からリヴァル機電影の翼が翻る!

●分断
「この辺で一旦はいいッスかね」
 砂丘を多少北上して停止するカルマ機。戦場の様子が辛うじて見え、且つ慎重に曲射せねば砲撃も届きそうにない範囲に思える。
 ヒメが喉を潤す音がした。
『ありがと。貴方も戦場に戻って』
「アー仲間信じてるンで。てか今の俺の最重要任務はリィカちゃん護る事だろ」
『‥‥』
「キリッ」
『‥‥はぁ』
 本気を貫かないカルマに呆れるヒメである。
 戦況は那由他、ファブニール、レオーネが各々鰐を相手取り、ゴーレムにリヴァルが付いたようだ。ロッテ機は敵機と距離を取りつつ鰐へも行ける位置につけ、さらにウラキ機が思い出したように遠距離砲撃してくる。小鳥機は消息不明だが、1発で大破するとは思えない。
「後はやってくれるっしょ」
 カルマ機は戦場へ向き直り、鎖付鉄球を砂地にどかんと置いた。

「鰐なら噛み付きと尻尾に注意すれば‥‥」
 ガァン!
 側面から突っ込んだ那由他が強烈な一撃を見舞うや、呟きながら即座に操縦桿を傾ける。さらに敵の横へ回り込む那由他機。それを追って鰐の尾が振られるも左の剣で楽に防ぎ、返す刀で斬りつける。怒りに任せて大口を開ける鰐。瞬間、カウンター気味に那由他は光刃を突き入れ斬り上げた。
「これで‥‥威力半減です‥‥」
『――■■!』
 身を捩る敵の横っ面に光線を浴びせ、流れるように側面へ。長大な体躯のど真ん中を大上段の斬撃が引き裂く!
 硬い鱗と砂が舞う中、那由他機は大剣を振り下ろしたまま。数秒して那由他が操縦桿を引くと、漸く骸となった敵が傾いだ。
 おどおどと周囲確認する那由他。が、そんな態度と裏腹に、大胆な最初の一撃で全ては決まっていた。

 竜杖が煌く。鰐の上顎が限界まで開かれる。だが鋭い牙がレオーネ機を喰らわんとする方が早く、辛うじて左腕を出したレオーネは激しい衝撃に襲われた。コンソールから漏電。操縦桿を引きつつプラズマ銃を絞る!
「ッ‥‥」
 キリキリと僅かな人工音が機内を満たす。レオーネが両腕の駆動部に一瞬目を落し、それでも彼女は撃ち続ける。1条、敵左脇を抜け熱砂が小爆発。2、反った敵の腹にぶち当たるが、体当りしてくる敵を止めきれない。敵諸共後ろへ倒れたレオーネ機。素早く横転。敵の尾が巻きついてきた。0距離から撃ち上げる!
「これで‥‥!?」
 が。
 一層締め付けてくる敵。嫌な音が鳴り響く。赤い警告。レオーネが操縦桿とペダルを同時に押し込んだ、瞬間。

「砂漠の底には‥‥独りで逝きなさい!」

 横合いから突っ込んだロッテ機が、引き剥がすように神槍を打ち上げた!
「今よ!」
「了、解」
 中空に吹っ飛んだ鰐。それが地に落ちるより早く、レオーネの光線が敵を穿つ。
「ラ・ソメイユ・ぺジーブル‥‥」
 生々しい落下音。敵の血が砂に吸われるその光景をロッテは一瞥し、独りごちた。

「鰐、とくれば」
 レオーネ機の熱波で怯んだ敵へファブニールが突っ込む。反応して礫弾を飛ばす敵。アイギスを翳してそれを受けるや、ファブニールが肉薄した。
 辛うじて敵が尾を振り回す。が、それすら盾で防ぎ、その陰からワイヤーを射出する。
「弱点は決まってるでしょう!」
 直線的に突っ込んだファブニール機が直前で横にズレる。さらに腕捌きでワイヤー操作、見事に鰐の巨大な口に巻きつけた。手応え充分、一気に絞るや敵を蹴り上げ払い腰の要領で機体を捻る!
「水から出たのが運の尽きです!」
 地に叩きつける。衝撃。砂が逃げ出すように舞い上がった。朦々と立ち込める砂煙。20m先がぼやけた視界で、しかし至近の敵を見逃す筈がない。
 曝された腹へDR‐2を1射、2射。縛られたままの敵が前足で抵抗するも傷つけるに任せ、ファブニールは間髪入れず3.2cm光線銃を0距離射撃。くぐもった音と共に砂塵が次々吹き上がった。止めとばかり彼は粒子砲を撃ち下ろす!
『――■■!』
「‥‥さて、ゴーレムはと」
 断末魔が響く。
 焼け爛れ、動かなくなった鰐を見下ろし、ファブニールは東に目を向けた。

●1vs‥‥
 胸部と左腕から黒煙を噴く敵機。長砲身を失い中央から漏電激しい敵だが、それでも電影の斬撃を砲身で受け、体当りで距離を取り大口径をぶっ放してくる。
 大剣の腹を斜めに受けるリヴァル。返す刀で薙ぎ払うも浅い。敵が後退って機関砲連射。追撃しかけたリヴァルがやはり受け、弾幕で返した。右腕を前に被害僅少で抜ける敵。
 ブースト、固まった隙に敵正面へ潜り込む。敵が遅れて砲口を向けた瞬間、リヴァルはバーニア全開に敵頭上へ舞い上がった。さらにノズルを上方へ、逆噴射の如く無理矢理敵背後に着地するや左脚を軸に大剣を薙ぎ払う。が。
 それより早く反転した敵の大口径が直撃した。小爆発。やはり動作の段階が多すぎるか。姿勢制御して北へ後退する。
 ――どうにも主導権を奪えない‥‥砂漠用にカスタムされているのか? ならば。
「ウラキ!」

『徹甲散弾を頼む』
「了解」
 静かな機内。自身の声すら反響しそうな孤独に、ウラキは進んで没入していく。鼓動が煩い。無限軌道の振動が視界を揺らす。
 ――やはり良い。これこそ‥‥。
「距離160、方位――」
 仰角0.5度修正、怜悧な眼差しを照準の先へ。電影の弾幕が敵を圧した――すなわちこちらへ敵背部を露呈させた刹那、解き放つ!
「跳べ、クロウ!」

 轟音。数瞬後、着弾‥‥!
 跳躍していた電影が、全身に散弾を浴びた敵機へ空から襲い掛かる!
「終‥‥!?」
 が。
 誰もがゴーレムだからと敵を侮っていたかもしれない。ゼカリアの砲撃を受けて尚、敵は電影を見据えてくる。中空で格好の的となった電影。敵が暗い砲口を差し向けた。絞られる引鉄。砲口が僅かに瞬いたと思った、瞬間。

『ぅー‥‥砂は‥‥もう嫌ですぅ!!』

 200m東の砂丘。崩れかけの頂から飛び出した機影が銃弾を撒き散らす!
 ガガガガ!
 横一直線に引かれた弾幕が砂を叩く。気を取られた敵が僅かに砲口をずらした。さらに東空中の機影――小鳥機シュテルンは肩の大口径をぶっ放す。
 200mを1秒満たず駆け抜ける砲弾。背部着弾、爆発。敵砲弾が電影右腕を掠めて空へ消えた。リヴァルが操縦桿を押し倒す。
「作戦終了、だ」
 斬。大上段から振り下ろされた大剣が敵機を深々斬り裂いた‥‥!
 漏電、爆発。
 砂塵が舞う。砂漠の風に黒煙がたなびく下、リヴァルは機内で指のリングに触れた。

●『ピエトロ・バリウス』の戦場
 厳重な警備を幾重も越えた先に漸く基地は見えてくる。
 どれだけここを保持すれば報われるのか。先の見えない前線基地で、兵達は暗黒に楔を打ち続けねばならないのだ。
「ヒメさん‥‥無事で‥‥よかわひゃあ!?」
 そんな不安と無関係に、KVから降りかけた小鳥が転落した。

 サロンのような一角に一行は座り、静かに外を見晴るかす。今は敵影は無いが、いつ襲撃があるか分らない。欧州戦線から来た兵にとっては地獄に等しいかもしれない。
「星はよく見えそうですがね」
 と窓際でレオーネ。
「け、怪我とか、大丈夫、ですか‥‥?」
「ええ。私も爺やも掠り傷よ」
 ウラキの淹れた珈琲の香りが満たす中で那由他がヒメに訊く。ヒメが右腕を晒して返答すると、カルマががくと膝をついた。
「な、マジかよクソ! 俺が‥‥俺がついていながらよォ!!」
「過剰反応する事ではないだろう。この程度ならば2日で治る」
「ちょま、俺会心のボケ潰‥‥てヒメさんの柔肌触ってんじゃねー!」
 傷口を診るべく腕を持ち上げたリヴァルに涙目で突っかかるカルマである。
「柔肌‥‥気持ち悪い事言わないで」
「は、違ェし! ヒメさんYa wanna be loveっつったんスけど!」
「おかしいでしょ、その英語‥‥」
 カルマから目を逸らすヒメを眺め、ウラキが珈琲を含んだ。
「これがツンデレという人か?」

「まぁ、でも本当に‥‥心配させないで。貴女らしくはあるけど」
 夕日が窓から差し込む。きっと、と前置きしてヒメがロッテに返す。
「貴女だって能力者じゃなければ私のように諫められる側だった。なら、解るでしょう?」
「確かにぃー‥‥」
 心底同意した小鳥をロッテが小突いた。
「でも。前線に出る時は護衛をつけましょう。指切りでもしとく?」
 苦笑して右手を出してみるファブニールだが、ヒメはその手を軽く払うと、強気な瞳を輝かせて言い放った。
「私が出るより早く飛んできたら、考えてあげる」

<了>