●リプレイ本文
青天の野原。その通信は、唐突に鳴り響いた。
『ポイント――、こち――救援を――』
この地の討伐に参加していた傭兵達。うち5人にはその声に覚えがあった。
「アロンソさん‥‥ですぅ!?」
「彼もこの辺にいるとは。こりゃあれですな、僕の運命共同体?」
「いやそこは中将と共同しとけよ」
幸臼・小鳥(
ga0067)が驚き、翠の肥満(
ga2348)と龍深城・我斬(
ga8283)。続いて月影・透夜(
ga1806)が嘆息する。
「相変わらずの苦労性らしいな、あいつは」
「アロンソ、無事‥‥!?」
無線に返すロッテ・ヴァステル(
ga0066)。位置を含めこちらの情報を言うと、無線の向こうでアロンソが安堵した。
『近――、――いします』
「私達が着くまで無茶するんじゃないわよ」
『――う解』
そして徐に向こうの交戦状況を伝えてくる。
それを頭に入れ、8人は各々の車輌に点火した。けたたましい咆哮を上げる機械心臓。バイク5台に車1輌。6つの流線型が主人を急かすように光を反射する。
「しかし敵の素性が解らんな。植物で、液状化?」
「敵も方向性が定まっていない。実験段階かそれに類する状態ではないだろうか」
点検を済ませバイクに跨った須佐 武流(
ga1461)にリヴァル・クロウ(
gb2337)が見解を述べると、彼はインデースの窓を閉め、車内で通信に集中していく。
その2人や、緊張感を持ちすぎない翠達を如月 葵(
gc3745)は静かに見つめ、自らもバイクに跨る。
「慎重且つ迅速に‥‥」
自ら言い聞かせる葵。いよいよ計6輌の唸りは高くなる。それが頂点に達した瞬間、
「GO!」
誰ともなく、一斉に土を巻き上げ加速した。
無線の指示を聞き、蔓人間と対峙するアロンソ。至近の1体にアロンソが連射した。再装填。
「誰か一緒に頼む!」
「了解」
触手を繰る。左腕損傷。見当で発砲。敵が液状化した。兵がそれに手榴弾を投げてみると、一部が消し飛び、一部が付近に散った。
――蒸発する上、地中や敵に吸収される訳でもない。単なる死骸?
「!?」
考える余裕はない。西から集団で寄せてきた敵から幾本もの触手が放たれた。受ける。兵6人のうち2人がロケランをぶち込んだ。爆発。盛大に舞う土煙。再び歓声が上がりかけ、
「退避!!」
「了か‥‥!?」
煙からの触手と、北から接近していた敵の触手。両方が十字砲火の如く7人を襲う。1人の体が上下に千切れ、2人が脳漿をぶち撒けた。血を浴びながら応射するアロンソだが手数が足りない。西集団が肉薄する。発砲。北の触手が脇腹を抉った。発砲。敵1体が抱き着いてくる。銃把で殴打。触手3本が2方向から伸びる。衝撃。世界が回った。殴打した敵が寝転んだまま腕をもたげ絡みつき――
『よく持ち堪えた。後は任せろ!』
瞬間、北から嵐が突入する‥‥!
●窮鼠
地を駆け風を切る。流れる景色を置き去りに、6輌は長閑な風景を蹂躙する。
オフロードを過激に攻めるロッテ。透夜、武流が続き、翠、リヴァル、葵が併走する。前2輌の後部には小鳥、我斬が同乗し、阿吽の呼吸で重心を合せた。リヴァルが車内で通信するが状況はやはりジリ貧らしい。
加速、加速、加速、無心になって走らせ続ける。そして前方、緩い丘陵の向こうに爆煙が見えた刹那。
6輌が、稜線を跳び越えた。
「一気に突破する。我斬、攻撃は任せた」「応!」
「聞こえるかねアロンソ君。ふはは久しぶりだな! この声、聞き覚えがあろう!?」
『‥‥あ、はい』
「ええいノリが悪い!」
前に見えるは敵の背ばかり。集団左端を掠めて『5輌が』土を巻き上げる。我斬、小鳥が左端に攻撃を叩き込んだ。翠、葵が急停車し敵を抑える。脇を抜けるロッテ、透夜組。インデースが敵真横を通過直後に急ブレーキでハンドルを切るや、車体をブン回して敵と友軍の間に割り込んだ!
「これより撤退を支援する。αは全力で合流、βは敵を撹乱せよ」
雷撃が寝転んだ敵を灼いたのは、腕がアロンソを絡め取る直前だった。
「おお、良いタイミングすぎだろ俺!」
「騎兵隊の到着‥‥ですよぉ! 挨拶は後にして‥‥まずはやる事を‥‥やりましょぅー」
暴れる後輪を押さえつけ、完全に停まるより早く4人が躍り出た。我斬、透夜が伏した敵に止めを刺す。ロッテが隣で見下ろし、小鳥が肩を貸した。
「出来ればノンビリ会いたい処だが。アロンソ、下がって援護を」
「了、解」
「開演には遅れたけど‥‥間に合ったようね。じゃあ」
ロッテが西を見据えた。北の敵は完全に他班に向いている。ならば西を一気にやるだけだ。
「行くわよ!」
ロッテが爆ぜる。透夜が影の如く並び走る。小鳥は必死に追走し、三位一体となって敵集団へ突っ込んだ。我斬がその穴を拡げ、維持する形で敵の前に立ち塞がる。アロンソは苦笑して本日最後になりそうな狙いをつけた。
ガァン‥‥!
タイヤをロック、車体を横滑りさせる要領で丘陵を駆け下り敵集団『右へ』独り突撃する武流。1体を車体で吹っ飛ばすや捻って姿勢回復。スピンターンで四方へ土を巻き上げた。
「もっと付き合ってくれよ、俺のダンスに!」
『――■■』
呻き声を上げて4体が武流に殺到する。触手が伸びた。急加速で後輪を逃がす。タンク損傷。前輪固定で後輪をブン回した。1体吹っ飛ばすも傷はない。とはいえ敵の懐で暴れるだけで友軍の援護にはなるのだ。が、それだけで満足する武流では、ない。
「お前達の相手は俺がしてやる‥‥来い!」
オイルを撒き散らすバイクから手を放し、シートを蹴って跳ぶ武流。至近の敵へ後ろ回しで左踵を見舞うや空中反転、敵側頭へ右の魔狼を当てる。吹っ飛ぶ敵。着地、勢いのままに地を蹴り左当身。僅かに浮いた敵へ下から伸び上がって右、左と脚爪を叩き込んだ!
その間に武流を包囲してくる他3体。正面と左の触手をスウェー、右のそれを裏拳で払って軽減する。その腕に絡み付いてきた触手を左ハイで千切り、肉薄しながら武流が吼えた。
「遅ェ!」
●蔓人間
「欲と悪戯と迷惑の権化、翠の肥満参上! 僕に勝る悪は僕が許さんッ!」
バイクに跨ったまま銃を右肩に担ぎ名乗りを上げる翠。左手は咄嗟に置き場に困ったのか微妙に所在無さげだが、リヴァルも葵も敵もスルーだ。
「諸共斬っても構わないか」
「いやんクロウさんのばかん!」
車から飛び出したリヴァルが東端の敵へ突撃するや、月詠を大上段から振り下ろす。一刀で両断寸前までいった敵に翠が無意識といった体で鉛弾を撃ちこむと、敵は間近でゲルに変り果てた。顔を顰め、つい照明銃を真下に放つ翠。地で眩く輝き、ゲルを熱で蒸発させた。
「得体の知れない植物野郎か。久々の実践相手に不足無し、行くぜ!」
「今更格好をつけるな」
翠が背に括り付けていた超出力ライフルを引き抜き北西へ突っ込んでいく。それを見やり、リヴァルはさらに葵にまで意識を向け中衛の如く敵と対峙した。
「アレは放っておくとして。相互支援を密にしよう」
「はい」
返すや、翠の突撃を横に避けた敵との間合いを詰める葵。脇構え、左踏み込みから胴を抜く。翻って触手を剣腹で弾き、腰を捻ってバネの如く平突きを繰り出す!
「これなら!」
『――■■!』
心臓の位置を正確に貫いた乙女桜。間髪入れず横薙ぎに転換して斬り捨てると、宙でゲルとなって霧散した。
「よし‥‥!?」
「戦闘中だ、脚を止めるな」
ゲルの向こう、畝ってくる鉤付触手2本。リヴァルが動く。割り込んだ。1本を自身の肉体で受け、もう1本を刀の柄で叩く。リヴァルを抜けた触手は軌道を逸れながら葵を掠めた。礼を言うより早く葵とリヴァルの2刀が触手を刻んだ。10m先の敵へ同時に駆け出し振りかぶる!
「すみ、ません‥‥!」
「いや」
二閃三閃、煌く剣筋が宙を踊る。リヴァルは断末魔もなく液状化した敵を睥睨し、ふと腰の水筒を思い出す。中身を空けると水筒の口を土につけゲルを汲み取った。蓋を閉め、振り返る。
「装甲だけはそれなりにあるつもりだからな」
瞬天速からの跳躍が敵の触手をやり過ごす。眼下の敵を前宙で越えたロッテが敵後頭部に踵落し、その脚で敵の体を蹴ってさらに跳ぶやロッテは西の敵集団ど真ん中へ脚爪を振るって突っ込んだ!
「最近生身はご無沙汰だったからね‥‥暴れさせてもらうわ!」
着地そのままに両手の指に挟んだ短剣を左右へ投擲する。2本命中、2本外れ。結果を見る事なく前の敵にミドルを繰り出す。流れに任せ回し蹴り、側転から両脚を振り回した。
『――■■!』
背後から迫る敵。だがロッテは振り返らない。何故なら、
「何をしてるロッテ。突き抜けろ!」「魔弾の連携を‥‥見せる時なのですぅ!」
「どうせ群れるなら花でも満開にしてきやがれ!」
長槍連翹で一閃する透夜。払い切った刹那に切り離し、2本の槍を斬り上げ、下ろす。体液を散らす敵。そのゲルを貫いて小鳥の2丁拳銃が火を噴いた。穿たれた集団の穴に我斬が飛び込むや、触手を逆に辿る形で巻き込み腕を振るう。パッと手甲から3条の光が溢れ、敵を裂いた。
「しかしこういう奴はどっかに脳代りのコアでも持ってそうだが‥‥」
我斬が思案する僅かな間隙に銃声銃声。閃光が迸り銀閃が翻る度、3人を中心に抹茶の花火が描かれる。それらを踏み越え透夜、小鳥、我斬がロッテと合流した。4人へ集中する触手。3本が左右と上から小鳥を襲う。足爪で迎撃せんとした小鳥だが間に合わない。
「小鳥!」
咄嗟に首を捻る。予想以上に鋭い触手が脇腹を抉り、肩を打ち据えた。相前後してロッテの蹴りが触手を切断するが、その隙を突きロッテの腰に敵がしがみ付いてくる。敵口腔から伸びた針が腹に刺さった。
直後回し蹴りを放つロッテだが妙に力が入らない。透夜と我斬が槍と光爪を払って前へ出る!
「早くしろ。お前達の獲物はここにいるぞ」
「やー、雑魚に要求すんのは流石に酷だぞ透夜」
言葉を解した訳ではなかろうが、5体同時に襲いかかってくる。そこにはもはや、兵とアロンソに意識を向ける敵など存在しなかった。
●掃討
負傷者を収容してAPCを後退させ、戦闘を見守っていたアロンソだが、傭兵の働きでこちらを向く敵は1体もいない。
「本当に出番がない‥‥」
というか到着から1分程で敵半数以上が倒され、形勢は完全に逆転である。苦笑。
アロンソが兵にアルコールを貰って傷口にかけると、鈍い痛みが全身に走った。
コートが靡きフルフェイスが煌く。
敵の間を低姿勢ですり抜け翠が右左とEライフルの銃口を向ける度、確実に敵の腕が破裂する。が、触手は腕に限らず至る所から伸びるらしい。翠は一瞬男としてアレな事が頭を過りつつ、左の攻撃を銃把で落し、正面を反転して回避、下から突き上げ連射した。
「フムン。やっぱ反動が足らん反動が」
屈んだ翠へ敵の脚が絡みつく。手甲で殴打、僅かな隙間に銃口を捻じ込み発砲した。上から降り注ぐゲル。慌てて翠が横転する。
「全く。この美貌に傷がついたらどうす‥‥」
「ルァア!!」
翠を遮って裂帛の気合が木霊する。翠は敵を牽制しつつそちらへ向かう。
「もっとだ、もっと来やがれ!」
吼える武流。当初の3体を2体殺し、新手含め再び3体に囲まれながら武流の動きを澱みない。屈んで下段。崩れた敵の胸をバク転で蹴り上げる。左の触手をそのまま躱すが背後に回った敵に抱きつかれた。針が首筋に打たれ、途端に倦怠感が巡ってくる。だが武流は後頭部を敵へ打ちつけ肘鉄、緩んだ触手を引き、背負い投げよろしく前方へ体を投げ出した。
「化物に抱かれる趣味はねェんだよ」
抜け出し、前宙から踵を斧の如く振り下ろす。ぱぢゅ、とゲルが弾けた。間髪入れずブレイクダンスの如く他2体を牽制する。が、触手が支点たる腕に巻き付かんとした時――、
「こりゃ邪魔しちゃいましたかね?」
翠の射撃が2体を吹っ飛ばす。連射連射!
液状化した敵を見下し立ち上がった武流は、息を吐いた。
「いや。たかが雑魚に執着は無い」
翠と武流に気を取られた敵を背後から襲うリヴァルと葵。葵が赤く輝く刀身による十字連撃から斬り上げへ。敵が振り返り様に腕を撓らせた。右腕で防ぐ。転じて右踏み込み。
「フォローお願いします!」
「了解」
全体重を右脚に、左の乙女桜を思いきり突き出す!
深々と鍔元まで入る刀。絶対の自信を持てる程の経験は未だなく、一応警戒しての支援要求だったが、眼前で変り果てる敵に葵は安堵する。同時に前方、敵の向こうで2人が暴れる姿が見えた。
「俺達はあれを囮に、着実に仕留めればいい」
「‥‥ですね」
冷静に分析すればあの2人が敵に遅れを取る可能性は低い。ならば状況を有効活用するだけだ。
リヴァルが素早い連続突きで敵弱点を探りつつ1体を葬る。が、胴や頭にコアらしき感触はなかった。
小鳥の肩と腹から大量の血が滲む。凝固させない何かがあるとすら思える程の量に、小鳥を庇うロッテ。彼女自身もまだ力が入りきらないのだ。が、補って余りある破壊力を男2人が見せつける。
「これじゃ弱い者苛めになっちまうけど仕方ねーよなぁ!」
「因果応報。報いは受けてもらう」
光爪を次々振るう我斬。屈み、殴る勢いで突き刺すや、たたらを踏んだ敵へ雷撃を浴びせる。液状化するその後ろから迸る触手。我斬が半身ずらし受け、反転する勢いで薙ぐ。
呻く敵。透夜がついでのように左の連翹で止めを刺し長槍へ。柄で土を叩いて無理矢理ベクトルを変えると別の敵へ左袈裟から紅の刃を叩きつけた。
4人の周りに残る敵は2体。透夜がゲルを跳び越え連翹を上段から地へ叩きつける。巻き上がる土。その中で槍を再度切り離し、敵足元を左で払って右の本命を斬り上げた。
我斬が残る1体に飛び掛る。腕を伸ばす敵。その敵胴体をロッテの短剣と小鳥の銃弾が穿った。崩れた拍子に腕が我斬を掠める。刹那、渾身の連撃を繰り出す!
雷撃から斬り下ろし、払って距離を取ったと思いきや抉り込む。さらに体内で掌を上にして爪を顕現させ、アッパーの如く引き裂いた。ゲルのシャワーが降り注ぐ。服を翳し、透夜が考える。
「全体で1個体かとも思ったが、違うか‥‥?」
「そこまで妙なのじゃない気がする」
「だが、嫌な感じはするな」
頷く3人。ふと周囲を見やると、リヴァルと翠が最後の2体に止めを刺すところだった。
<了>
「解析を頼む」
「了解」
リヴァルがゲルを採った水筒をAPCの兵に渡す。またアロンソの無事を喜ぶ傭兵もいる中、葵は亡骸の処理を終えた野に腰を下し、ハーモニカに命を吹き込んでいた。
複音の音色が物悲しく吹き抜ける。鎮魂歌代りの曲を奏で、葵は遥かな空を見やった。何気なく南空を仰いだそれはしかし。
「?」
地平線の彼方、黒い影を発見した。
遠近感の狂いそうな妙な影。目を凝らすと蠢いているようにも思える。偶然軍用双眼鏡を持っていた透夜と我斬に話し、見てもらう。するとそこには。
「樹?」
「‥‥が、動いてるな」
少なくとも全長20mはありそうな巨木が、茂った枝葉を揺らして練り歩く姿があったのだった‥‥。