タイトル:【AC】地中海の騎士マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/27 03:21

●オープニング本文


「艦長、航路はどんな様子だい?」
「は。敵影もなければ波もなし、順風満帆であります」
「そうか。今日もこのまま何事もなく終えたいものだね」
 艦長より一段高い司令席に腰掛け、朗らかにアントニオ・チアノ少将が笑う。年は50前後の筈だが妙に若作りで、40代前半の艦長よりも快活な印象だった。それが艦長には羨ましかったりしたが、ともかくとして戦隊は粛々と予定航路をなぞっていく。
 イギリスはポーツマスを出てジブラルタルから地中海に入ると、そのままアフリカ北岸を掠めるようにして東進。ピエトロ・バリウス要塞から戻ってくる艦隊と少しのランデブーを果たした後でシチリアとマルタの間をくぐってイタリア半島を回り込み、アドリア海へ入る。戦線がアフリカへ移行した現在では後方支援と言っても差し支えない、哨戒任務だった。
 旗艦となったこの軽空母の周りは引退寸前だった駆逐艦やフリゲート艦、コルベット艦しかおらず、まさに「使える物なら何でも使え」と言わんばかり。
 ――くたびれた婆さんだらけの偵察戦隊、か。
 艦長は各艦と連絡を取りながら、世の女性達が聞けば非難の嵐になりそうな事を考える。もっとも、世の女性の中にどれだけ艦船を女性扱いしている人がいるのかは極めて謎だが。
 ――俺も少将に毒されたか?
 空は高く、海は広い。
 そろそろシチリアが見える頃だろうか。
 艦長がブリッジから穏やかな波間に白い航跡を残して進む戦隊を眺め、小さな幸せを噛み締めていた、その時。
『ソナーに感あり! 方位――』
 前を行く駆逐艦から敵影発見の報。一瞬で空気が変わり、慌しくなっていく。万一に備えて戦闘準備に入らせる傍ら、続報を待つ。少将が、艦に乗せていた傭兵達に無線で呼びかけた。と、さらに入電。
『敵は我々を無視して南下している模様!』
「南、というと」
 ピエトロ・バリウス要塞。その港湾施設をやられればどうなるか、考えるまでもなかった。
「放っておいても向こうで見つけて処理するだろうけど、僕らが最初に見つけたからには戦果を上げたいところだね」
「ですな。敵の種類は分かるか?」
『水中からゴーレムらしき音は聞こえますが、他は不明。数は10前後かと』
「ふむ」
 こちらの艦の装備はSESもついていない魚雷やら対潜装備やらしかないが、傭兵は念の為に雇っておいた。敵が10程度ならば‥‥。
 少将は格好つけたように顎に手を当てて考え、徐にその腕を前へ突き出す。
「戦闘準備! 本戦隊は要塞へ無線連絡後、肉薄戦闘に入る!」
「了解!」
「アスロック射出、全速前進!」
 命令するや、対潜装備が火を噴いて飛んでいく。放物線を描いて敵進行方向へ向かったそれらが水平線に消えていくと、暫くして着弾の合図が管制からもたらされた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 4筋の軌跡を残して軽空母から飛び立つKV。4機は海面を掠めて上昇した。
「牽制に魚雷を。その後、空から強襲を掛ける」
『了解』
 月影・透夜(ga1806)機ディアブロ、月洸弐型が主翼を振って戦隊にエールを送る。ロッテ・ヴァステル(ga0066)機スカイセイバー、ダム・シュヴァリエは透夜機と高度をずらして並び、幸臼・小鳥(ga0067)機ウーフーはその後方。小鳥は爆雷とソナーの投下ボタンを間違えないよう確かめ、むむーと気勢を吐いた。
「要塞には‥‥友達もいるのですぅー。行かせる訳には‥‥いきませんよぉ!」
「何があっても‥‥絶対にね!」
「海中は任せた。こっちでできるだけ数を減らす」
『――了解。健闘を祈ります』
 里見・さやか(ga0153)の声を聞き、3機は高度を上げる。
 一方須佐 武流(ga1461)機シラヌイは発艦直後から艦の間を縫って海面スレスレを飛翔していた。
 ――敵は亀にゴーレムにEQに‥‥ま、亀からやるか?
 武流が引鉄に指をかけた時、無線から魚雷発射のカウントが聞こえてきた。

 空の4機を見守る暇なく、植松・カルマ(ga8288)機は次々跳躍して戦隊外縁の駆逐艦に移動する。
「ディアブロ昇天盛りカスタム、華麗に推参ッスよぉ」
 などと主砲砲塔に着地し――ようとしてやめた。艦長に怒られるのが怖い訳ではない。多分。それに。
 ――流石にここは通せねーな。
 カルマは甲板に棘付鉄球を置き、狙撃銃のスコープで彼方の海面を睨んだ。
「要塞には死なれると困る人がいるんでね。‥‥なんつって」

「‥‥折角、ノ、静カナ、海、デシタガ‥‥」
 仄暗い海面下。深度75の線をなぞって3機は潜航する。ムーグ・リード(gc0402)機パピルサグが潜航形態で海中にソナーを設置した。
 隣を榊 兵衛(ga0388)機リヴァイアサン興覇が邁進する。
「撃退すれば夜には海に映る月が見えよう。それに、この情勢下だ。例え旧式でも貴重な艦船をむざむざ沈めさせる訳にもいかぬしな」
「乗組員、ニモ、好カレル、艦、ノ、ヨウ、デス、カラ、ネ‥‥」
 ムーグと兵衛が並び進む。
 その後方、さやか機リヴァイアサンSS‐500かいりゅうは暗闇に紛れて追従していた。水泡が装甲にぶつかり、こぽ、と音を立てる。
 ――私、は。
 さやかがぐるぐると考える。体を縛るような包帯にじわと血が滲んだ。
 自分なりの信念がある。それを貫く限りきっと自分は自分を許せる。でも、それでは思うように成果が出せない時もあって。だから、苦しい。
 操縦桿を握った左手に映る旭日の紋様を見つめていた時、電探がポーンと音を発した。深呼吸。さやかは自身を鼓舞するように言った。
「トブルクを見るまでもなく港湾施設は補給、つまり戦略の要。絶対に破壊させません!」

●奇襲作戦
『ッてー!』
 少将の合図が無線に響く。空の4人が見下ろしても航跡はない。しかし数秒後、接近しつつあった敵群から突如水柱が立ち上った。4、5と次々噴き上がるのを見て小鳥は「綺麗ですぅー」などと思うが、ロッテの声で現実に戻された。
「此処で全て仕留める‥‥吶喊!!」
「まずは1発‥‥お釣りはいらないですぅ!」
 ロッテ、小鳥の2機が水飛沫を抜けてダイブ、爆雷投下と同時に機首を引き起こす!
 2機から放たれた爆雷は過たず敵群中央に吸い込まれ、轟音と共に爆発した。夥しい量の水が霧のように視界を覆う。小鳥機が戦隊方向へ旋回、速度を下げて海面にソナーを落す。
 一方ロッテ機は次いで誘導弾を放った。同時に超低空から透夜機と武流機が突っ込む!
「あの亀‥‥コンテナ積んでやがる」
「嫌な予感がする。先に潰すぞ」
 武流機から放たれた機関銃弾が海面に軌跡を描き、それが甲羅を露出させた亀にぶち当たる。亀が防御態勢を取らんとした時、アメンボ1体を通りすがりに翼で斬り捨てた透夜機がKA‐01集積砲を発射した。
 一瞬にして火線が甲羅を貫く。小爆発。追い越すように武流機が肉薄。ロケランを撃ちまくり、合せて緩降下したロッテ機がさらに誘導弾を発射した。甲羅に着弾、黒煙が混じる。
 その時になって漸く立ち直ったゴーレムが立ち泳ぎの要領で空を睨み、銃撃してきた。透夜はバーを踏んで僅かに横滑りさせる。機首を瀕死の亀に向け最小限で切り抜けるや、スラスター銃でコンテナを完膚なきまでに撃ちまくった。そして止めを刺さんとした、瞬間。
「EQ‥‥強引に‥‥突破してきますぅ!?」
 離れた位置で管制役に徹していた小鳥の警告が飛んだ。

 魚雷と爆雷、そして空から海面を叩くように放たれる誘導弾と弾丸。それらの発する大音量を機内で聴きながら、海の3機は敵群に側方斜め下から突っ込んでいく。
 海は私の居場所だと言わんばかり、さやかが戦端を開く!
「かいりゅう、セドナ魚雷発射準備。てー!」
「遠すぎないか?」
「私の意気の表れです!」
 兵衛機興覇とムーグ機が敵群へにじり寄る脇を、さやかの魚雷が越えていく。それは亀の下部に命中する――かに思えたが、僅かに外れて破裂した。が、間髪入れず発射した魚雷が、空の攻撃で瀕死となった直後の亀に直撃した。爆発で生じた水泡が標的を覆う。しかしさやかには見えた。50mを駆け抜けた自分の魚雷が亀を屠った瞬間が。
 兵衛が良い心意気だと声をかけるや、対潜ミサイルを放つ放つ放つ!
「今、DEATH‥‥!」
 ムーグがさらに肉薄してガウスガンの引鉄を引いた。銃弾は先の着弾で視界確保も難しい中を突き進み、対空迎撃に集中していたゴーレムを穿つ。気泡の幕がトビウオを隠した。1体が徐に海中をこちらへ突っ込んでくる。
 ムーグ機が補助腕で盾を構えた時、兵衛の放った小型魚雷群が敵に殺到した。回遊魚群の如きそれが命中すると、敵は大爆発を起して白い幕を作り出した。
「コレ、ハ‥‥!」
 奇襲は大成功だ。だからこそ、この事態に陥ったのかもしれない。
 気泡で真っ白になった戦場から突如飛び出したEQとゴーレムが、一旦戦線を整理せんとしていた3人の間隙を衝いて戦隊方向へ突撃したのである。

●海上の戦い
「こりゃイケメンの俺に相応しい展開ッスかね」
 カルマが狙撃銃を構えてじっと海面を睨む。爆雷等の余波で若干揺れる甲板。機を膝立ちにして視界を上下する敵機を捉え、カルマは少し息を吐く。狙いはゴーレムの砲口。標的を中央に。息を止め、引鉄を引く。
 ガァン!
 1発の弾丸が洋上を突き進み、戦隊に進攻し始めていた敵機を正確に貫く。
 小爆発を見届ける間もなくカルマは再装填、小鳥の管制に耳を傾けた。
『びゅりほー‥‥ですぅ。次は‥‥アメンボ3体と‥‥EQ最優先で‥‥ゴーレムは‥‥停止中ですぅー!』
「惚れんなよ、小鳥ちゃん!」
『えと‥‥どう言えば‥‥傷つけないで済むのかぁ‥‥』
 カルマは涙目で先頭のアメンボに銃弾を叩き込んだ。

 戦隊方向へ戻りながら海面に弾幕を撃ち込む透夜。綺麗な直線の水飛沫を抜け、月洸弐型はEQを追う。
 ――飽和攻撃でトビウオが上から見えないのが怖いが。
「外縁の艦は順次EQに魚雷を頼む!」
『了解』
 とにかく今はEQを止めるしかない。無航跡魚雷がEQに向かう。2本が外れ、1本が正面からEQにぶつかり水柱を上げる。透夜機が勢いの落ちたEQへ機首を向けた時、同じく海面スレスレを飛ぶ武流機がブーストと超伝導装置起動、一気に敵へ肉薄した。
「俺に喰いついてみろデカブツ!」
「集積砲で敵体勢を崩す、行け!」
 透夜機の機首が一瞬光ったと思うや、強烈な一撃がEQの背を海面ごと削り取る。直後、武流機が回り込むような軌道で主翼を煌かせた。
 斬、翻ってさらに一撃!
 敵咆哮が大気を揺らす。随伴していたアメンボからフェザー砲が放たれ、武流機尾翼を直撃する。ペダルを踏んで姿勢制御、翼端が海面に触れるも、辛うじて旋回して難を逃れた。入れ違うようにロッテ機ダム・シュヴァリエが緩降下でEQ群に突っ込む!
「こっちの手数が足りそうにないわね‥‥カルマ、フォローお願い!」
『任されたッスよぉ! やっぱイケメンは頼られすぎてつれーわー』
 ロッテがまず数を減らさんとアメンボを銃撃した刹那、EQがロッテ機目がけて跳び上がった。思いきり操縦桿を倒すロッテ。ロールして横滑り、辛うじて牙を躱すもその身が風防を叩く。ただそれだけで風防に亀裂が走った。
 EQは落ちながら身を捩らせ、武流、透夜と体当りしていく。ざぁん、と地中海の主であるが如く傍若無人に着水するEQ。堪らず、離れて待機していた小鳥機が援護すべく巴戦に加わると、最後のアメンボを銃撃で屠った。さらに小鳥は牽制射撃でEQの跳躍を封じんとする。
「私がただ‥‥飛び回っているだけだと‥‥思わないで下さいねぇ!」
 小鳥の気迫に後押しされ、他3機は入れ代り立ち代りEQを攻撃する。それでも敵体力は尽きず、逆に大口を開けKVを呑み込もうとしてきた。武流が咄嗟に口内にロケランをぶち込み、透夜が弾幕で跳躍を阻害する。が、その時。
『両翼からトビウオがいきます、衝撃に備え‥‥!』
 海中、さやかの警告が耳朶を打った。

●海中の戦い
 気泡の幕から飛び出したEQとゴーレムを追う兵衛とムーグ。さやかは後尾からゴーレムに七十式を放ち、口を結んだ。
 ――奇襲から退く機会を逸しました‥‥。
 奇襲後に防衛線を敷く為には、一旦退く事が必要不可欠だった。が、今回はこちらが退く前に敵が突っ込んできたのだ。
 踵を合せて付け入りのような形で交戦する海中。
 ゴーレムが反転、突撃銃で兵衛機興覇を撃ちまくる。数秒の弾雨に曝されるも、ムーグ機が射線に割り込んだ。
「先、ニ、EQヲ‥‥」
「了解。あっちは頼んだ」
 ムーグが盾をかざしてゴーレムに向かう。肩の砲を失った敵機はさらに銃撃。それを弾いて接近する。さやか機かいりゅうがムーグ機と兵衛機の中間へ進出、ゴーレムに魚雷を発射した。水中を貫くように邁進したそれが敵機に直撃し、水柱を上げる。直後、肉薄したムーグ機が補助腕を振るった。その先端には高分子の爪!
 確かな手応えを覚えるムーグ。沈黙、後、爆発。水を噴き上げ破片を撒き散らす敵に、ムーグが言った。
「ソノ、身、ヲ、闇ニ、捧げ、ナサイ‥‥」

 空からの苛烈な攻撃がEQを縫い止める。
 その間に兵衛は巨躯の下へ潜り込むや、人型となって渾身の力でベヒモスを繰り出した。途端に暴れるEQ。兵衛が何とか槍斧を引き抜いた時、敵体表から何かが連続射出された。1本目を躱し2本目を弾き、3、4本目が肩と腹部を貫いた。回転、槍斧を払う。敵の猛る声が海中まで轟き、臓腑を震わせた。
「セドナ魚雷準備完了、友軍は注意されたし。攻撃、始め!」
 さやかが警告するや、瞬く間に魚雷がEQ尾部を叩きくぐもった爆発音を響かせる。身を捩って海中に顔を出す敵。その眼が兵衛機を捉えるのと相前後して兵衛機は一気に突っ込んだ。
「水中とはいえ槍を使った戦で後れを取る訳にはいかぬのでな。墜とさせて貰おうか」
 練力充分、魔獣の槍斧が巨躯を抉る!
 が。
『――■■!』
「退避を!」
 咄嗟に七十式を放つさやか。牙を剥いたEQが兵衛機に迫る。10発もの魚雷が敵に突き刺さった。兵衛機が何とか半身ずらすも、左腕から腰部にかけてをEQは噛み砕いた。さらに兵衛機をEQの体が突き飛ばす!
「不覚‥‥!」
 兵衛がバーを踏み抜き姿勢制御及び損傷制御、辛うじて浸水を留める。
 さやかがカバーすべく急接近して魚雷を撃ち込まんとした時、両視界端を何かが斜めに流れていった。それは間違いなく戦隊へ航路を取っていて。
「トビウオ!?」
 そこで漸く、気泡で見失った3体の姿を再認識したのだった。

●艦上の戦い
 小鳥、透夜を除く6人はトビウオの優先順位を低く考えていた。そしてトビウオが再出現した時、透夜はEQと相対し、小鳥はアメンボを攻撃後、援護射撃に集中しすぎていた。それで生じた、間隙だった。
 さやかの警告を耳に入れ、カルマは嫌らしく舌なめずりした。
「これぞまさにイケメンの出番っしょ!」
 敵は艦首側2、艦尾側1。カルマは完全に足止めされたEQを捨て置き、まず艦尾に集中する。
 日光を反射する海面。輝く波間で時折跳ねる敵影を見つけ、カルマは銃口を向けた。少し観察すると跳ねる調子が一定だと気付く。カルマは引鉄に指をかけ、胸の内でそれを数えた。
 たーん、たん、た。たーん、たん、た。
「届け、愛の銃弾!」
 十二分に溜めて放たれた1発が、たーんと跳ねた敵を頂点で捉えた。同時に爆発。艦上にまで届きそうな爆風を背に、カルマ機は甲板を駆け艦首側へ。が。
 予想以上に近い。すかさずハンマーボールに持ち替え投擲せんとした次の瞬間、1体がカルマの乗る駆逐艦に特攻した。
 凄まじい爆発が喫水線下で起り、立っていられない衝撃が駆逐艦を襲う。咄嗟にカルマは小跳躍、遅れて艦に突撃せんとする敵に怒りをぶつけた。
「レディに何特攻カマしてんだオラァ!!」
 宙で放たれた鉄球が海面の敵へ向かう。ばぢゅ、と灼けるような音を立てて海面に突き刺さるや、鉄球はすぐ下を潜航していた敵をもぶち抜いた。
 カルマ機が早くも傾き始めた甲板に着地。同時に敵が爆発した。その爆風も少なからず艦に損傷を与える。
「クソ‥‥乗ってる奴ら、さっさと退艦するッスよぉ!」
 刻一刻と沈みゆく艦のクルーにカルマが告げた。

 戦隊外縁の艦が特攻を受けたのを確認し、空の4人は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「可及的速やかにデカブツを処理するぞ!」
「言われずとも」
 EQが海中へ潜るついでに尾を打ち鳴らして超低空の透夜機、武流機に襲い掛かる。武流機が尾と海面の僅かな隙間を潜り抜け、透夜はバーニアを噴かせ損傷制御。衝撃に耐えた直後、透夜が機首を巨躯に向け、集積砲を放った。力の奔流が敵を貫く。敵が身を震わせ海面へ顔を出した。武流機の主翼が強引に体表を引き裂く。吼える敵。ロッテはその隙を衝き、突っ込みながらエアロダンサーを起動した。機体各部が悲鳴を奏でて変形し、真上から敵に自然降下する!
 が。
『――■■!』
 それを待ち受け大口を開ける敵。ロッテ機が退避せんとした、瞬間。
『吶喊、シ、マス‥‥!』『了解。かいりゅう、七十式魚雷攻撃始め!』
 通信から響く海中の声。途端に幾つもの水柱がEQ周辺で立ち上り、敵が身を縮めた。虚無の入口がロッテ機落下軌道からずれる。ロッテがブーストして翼を構え、
「大いなる海に抱かれ眠りなさい!」
 敵頭部から一気に駆け下りる!
 断末魔が間近に轟く。ロッテは確実な手応えを胸に敵体表から跳躍すると、安定装置が切れる寸前で再変形した。
「ラ・ソメイユ・ペジーブル‥‥」
 戦闘終了を告げるようにロッテが言った時、巨躯は水飛沫を上げて沈んでいった‥‥。

<了>

 何艘もの救命ボートが漂い、艦に収容されていく。
 さやかは機体を海面に浮上させ、その光景を眩しげに見守っていた。
 ――事故もなさそう‥‥なんて思う事自体失礼ですよね。
 さやかは愛機の計器をそっと撫で、ゆっくりと息を吐いた。