●リプレイ本文
「うわぁ、改めて取材されてるってなると緊張〜。ね、ねー?」
LH本部。膨大なモニタの前で白鴉(
ga1240)が今回の仲間に話しかける。取材者は既にその8人に付かず離れずでカメラを回し、あるいは恐ろしい勢いで何かをメモしていた。
「うーまさか俺がゲーム開発に携われるとは‥‥っ」
「これで良いゲームになって沢山売れたら、報酬上乗せでしょうか?」
純粋に嬉しそうな白鴉と、多少オトナ的に楽しみな水鏡・シメイ(
ga0523)である。
「発売されたら、ソフト貰えるのかな」
年頃の少年らしく、秘かに燃えているのはラシード・アル・ラハル(
ga6190)。そんな彼を見て、
「兄さんが好きだったな‥‥」
とミオ・リトマイネン(
ga4310)は家で半ば強引に格ゲーの相手をさせられた事等を思い出していた。
「わたくしも派手なアクション等はスリルがあって好きですわ‥‥」
現実の戦闘の楽しさには敵わないのですけれど。鷹司 小雛(
ga1008)があくまで上品な振る舞いで、くすくすとのたまう。
その一方。
「全く‥‥責任者はどこだ! あなたか!?」
翠の肥満(
ga2348)がガッシと手近な一般人の肩を両手で掴んで。
「ぅ喜んで、全面的に、しつこく協力させていただきましょう! ああ愛すべき無駄な労力!」
細部まで自らの信念に従ってこだわるその精神に、自分にも通ずる物があると意気の上がる翠。やはり全体的に、男の方が多少浮かれ気味だった。
「あは‥‥なんだかビミョーな気もするけどソレはソレ! しっかりやろ〜〜!」
「ええ、ゲーム内に私も出られるようにやってやるわ!」
遊びに夢中な男を苦笑いで見守るようなMAKOTO(
ga4693)だが、その横で多少ズレた気合の入れ方をする三島玲奈(
ga3848)を見て、自分もとことん楽しんで取材されるしかないと考えを改めた。
「さて、どれがいいかなっと」
白鴉に釣られてモニタを覗き見る8人。そして決めたのは――。
●ケルベロス討伐隊
「無線は、大丈夫かな。最前線じゃないけど、これが使えれば臨場感が伝わるよね」
ラシードが隠密潜行で隊を離れ索敵を行う。隊の方は敢えて目立つように事前に地元猟師から聞いておいた開けた場所へ移動し、もし隊に敵が喰いついた場合は彼が別角度から奇襲する役となる。
森は鬱蒼と生い茂り、落ち葉は少ないものの陰性植物が足下を覆っている。昼にもかかわらず辺りが暗く、またケルベロスが入り込んだ事が分かっているのか、動物達の声は一切聞こえない。
『大丈夫ですか?』
「まだ、気配はない」
そんな森で先行するラシードに、無線からシメイの声。
『それもですが、迷子になっていないでしょうか‥‥』
心底心配そうなシメイである。
「地図と方位磁針もあるから」
『いえ、それでも人は迷ってしまうんですよ‥‥』
「そ、っか‥‥」
呆れてラシードが言いかけた時、空気が変わった。
狩場。獣が獲物を見つけ、凶悪な牙をその身体に突き立てんとする独特の緊張感。ラシードが即座に意識を高め姿を探す。‥‥発見。それは両者同時。しかし動いたのは敵が先。一瞬で跳び掛ってくるケルベロスを辛うじてかわす。
「ッ発見‥‥座標C2、最寄地点に誘導する‥‥!」
自動小銃を一連射して来た道を戻る。追ってくる敵。敵はその巨体が原因で木々に邪魔され速度が出ない。付かず離れずで本隊の許に連れて行くラシード。時折攻撃するが、注意を引きつける以外に大した傷は負わせられていない。延々と続く木々を抜け、目印の岩を越える。数ヶ所絞り込んでいた誘い込み地点が見えてくる。
「ラシードさん、横へ!」
右に跳ぶ。直後。ヒュンと風を切る音が通り過ぎる。そして敵の怒声。ラシードが前を向くと、そこには弓を構えたシメイの姿が。
「お前が地獄の番犬ならこっちは呑気な愚猫だぜっ!」
小雛、白鴉と共に翠が飛び出すと、一気に間を詰める。早くも斬り結ぶ3人。ラシードも別角度へ移動する。
「右手に告死天使、左手に堕天使、心にアッラーフの意思を‥‥!」
戦いが幕を開けた。
索敵中。4人は目星を付けた地点に適度に移動しつつ発見の報を待っていた。
「ケルベロスかー。かっこいいよなぁー。今回の任務にぴったりだね!」
白鴉がはしゃぐ。シメイが主に連絡を取り、前衛組3人は戦いを前に高いテンションである。
「楽しめそうですわ‥‥」
ゾクゾクと身体を震わせ、小雛が同意する。
「3つも首がありますからね」
「あら、翠様? 3つともわたくしの物ですわ。麗しく鮮烈な望美にぴったりですもの」
はう、と小雛が望美――月詠を抱いて不敵に笑う。そこに反論する白鴉。
「え――俺だって欲しいってばぁ!」
「申し訳ありませんが、渡せませんわ」
極上の笑顔に白鴉が怯む。
「では僕がトドメに本体を頂くという事で」
「「ダメ」」「だよ!」「ですわ」
ちゃっかり美味しい所を攫おうとした翠に猛反対の小雛と白鴉である。
そこに発見の報せが入る。C2。そこに近いのは。急行してブッシュに待機する。目の前には最近猟師が伐採したのか、切り株が多少邪魔だが広場があり、スナイパーの多いこちらもやりやすい。
疎らな銃声と豪快な音が近づいてくる。そして不意にラシードの姿が見えた。
シメイが矢を十分に引き絞り、叫ぶ。弦を離す。ラシードの真横を飛ぶ一矢。それは過たず敵の胴に刺さる。さらにシメイが矢を番えて放つ。敵の咆哮。3つ首が怒りに猛る。
「わたくしの望美で美しくして差し上げますわっ」
「人間シールド、いっきまーす!」
「傷があってのスタイリッシュヒーロー、精々カッコ良く傷だらけになってやりましょうや!」
飛び出していく小雛、白鴉、翠。
一息に間を詰めるや、勢いをままに白鴉が正面から激突する。いつの間にか左手にも刀。逆手に氷雨を持つと、
「取材者さん、この絵はちゃんと撮っててね! このォ!!」
一瞬の二連撃。跳ぶように両手の得物で斬りつける白鴉。敵が白鴉に狙いを定める。
しかしその横から小雛が左の首を一太刀で斬り落とす。さらに身を躍らせ側背を取ると望美を腰に溜める。薄く赤く輝く小雛。刹那の沈黙。次の瞬間、鮮烈な勢いで一気に右下から左上へ斬り上げた。
5M超の巨体が僅かに浮き傾ぐ。しかし敵は何かを吸い込む気配。火炎が来る! 翠とラシードが仕留めるべく追い討ちをかける。だが間に合わない。敵は2つの口から焦熱地獄を呼び出した。接近していた前衛3人は等しく炎を浴びる。切り株、雑草が燃え紅く輝く広場。
3人がたたらを踏む間に敵は白鴉を体当たりで吹っ飛ばし、小雛を斬り裂いた。
「っこの俺がそう簡単に参る筈‥‥って痛いなちくしょー!」
空中でトンボを切って着地する白鴉。その白鴉に追撃せんとする敵を止めたのは。
「今です! 止めを!」
神速の二矢を敵の足に放つシメイ。巨体の動きが止まる。
「キャンキャン吠えるワン公にはこいつが一番‥‥」
翠が懐から一発の弾丸を取り出すと、それに口づけ装填する。何千回と繰り返したその動作によどみなどない。1秒かからず本体に狙いを定め、
「とっときのドッグフードだ! 静まれェェェッ!!」
Hush Puppyと銘打った貫通弾が敵にぶち込まれる。耳をつんざく大音声。痛みの怨嗟か死の恐怖か。致命傷を負って尚足掻く番犬は、小雛が2つの首を斬り落とすと呆気なく動かなくなった。気付けば。まさに宣言通り小雛は3つの首を頂いていたのである。
「‥‥マ・アッサラーマ‥‥」
亡骸に向けたラシードの声が、広場に微かに響いた‥‥。
●LH修学旅行
同時刻。
「はいは〜いけーちゅー!」
MAKOTOが黄色三角な旗を振り振りして小学生を集合させる。黄色の真ん中には「橘小学校ご一行様」と書かれていた。
侃々諤々。喧々囂々。恐ろしくハイテンションな少年少女18名に、こめかみをひくつかせながらも表情は持ち前の演技で笑顔だ。
「っ続いては、公園に、参りましょ〜」
と最後の力を振り絞るように叫ぶと、MAKOTOはミオに旗を押し付けて列の最後尾に回った。さすがは超が付く程田舎の小学校。その有り余る体力で都会を蹂躙されては、ファンのあしらいには慣れていたMAKOTOも朝一から5時間で疲れ果てざるをえない。
「ぁ‥‥んん。皆、こっちに」
ミオが粛々と進む。その後ろでは玲奈が小学生に驚く程溶け込んで笑いを取っており、その横ではMAKOTOが未だちょっかいをかけられていた。
「ここは隠れ家的公園で‥‥のんびりしたい傭兵達が訪れるの」
入口。左右から手で巨大アーチを作っている2体の像をくぐって。中はロココな噴水があり、その周りにベンチ。少し離れると自転車道と草のベッド、柔らかな木陰があった。
「なんなんこれ?」「オレにきくなちゃ!」「ねーお姉さん強いと?」「お母‥‥先生!」
ベンチの初々しい男女が、騒々しさに立ち去っていた。
「辛い任務もあるけど‥‥こうやって」
ミオが実際に寝転がる。もはや遥か昔と感じる程の幼少時代、手を引かれて公園を歩いた情景が頭を過った。
「草に寝転んで空を見るとね‥‥心が安らぐから」
「お姉さん強いとー?」「何言ってんだよ。弱いんだ人間は。だからこそ支えあう。そう、俺とお姉さんみたいにな。さて、今夜は俺がゆっくり可愛が‥‥」
「無理かな」
マセガキをあしらいミオが向かったのは、公園内の高台。頭上には抜けるような青空。絶好の日向ぼっこ日和とも言えるが、ミオが見せたかったのは。
「そろそろかな‥‥ほら」
空気が爆発するような轟音が近づいてくる。
「天駆ける騎士の蹄の音‥‥」
ミオが狙ったのは、午前の訓練や哨戒、依頼から戻ってきたKV達。1機、2機、あるいは10機を超える大編隊。低速で高度を下げてきたKVは基地の方へ消えていく。うち数機はミオが事前工作しており、一回速度を上げ戻ってきてバレルロール等をしてくれた。
先程までバラバラだった子供達の挙動が全く同じになる。視線の先のKVを追いかけ、目を輝かせる。あんぐりと口を開き、感嘆の息を吐くばかり。連れてきたミオも、見せた甲斐があったというものである。誰が先に言葉を発したのか。しばらくして子供達は「すげー!!」と友達と感動を共有しあう。
「良かった?」
KVも疎らになった頃にミオが。
「オレもあれ乗りたい!」
「もしかしたら、ね」数歳差のミオがお姉さんぽく「次は‥‥降りていった所に行く?」
子供達の返事は、当然イエスだった。
「さって次は〜」
多少回復したMAKOTOと玲奈が、玲奈のKVを格納している所へ先導する。
「さーおいで! ほらほら、これよこれ!」
玲奈が早く見せたい気持ちを隠そうともせずに走る。格納庫は巨大で、無骨な造りが逆にKVの強そうな雰囲気を強調していた。そして玲奈が全身で見なさいと言わんばかりに示した機体はバイパー。鎮座する姿は荘厳。しかし最近の出動で、なかなか凄惨な傷が残っていた。メンテが簡単に終わらない程の戦いだったのだ。
「これが私の機体!」
「わ、また盛大にヤっちゃってるね〜‥‥」
子供達、歓喜。MAKOTOも思わず声が漏れる。
「でね、実はこれ高かったのね。もう食費も削ってお母さん達と内職もして‥‥」
何故か突然自分の世界に入っていく玲奈。KVに見入っている子と話を真剣に聞こうとしている子に分かれる。男子は勿論、女子も玲奈のような女の子が戦っているという事で興味を引かれていた。
「――って事! ‥‥愛する人を失っても、掴める絆がそこにまだあるなら人は再起できるの。だからこの中にもしも知ってる人が亡くなった‥‥」
さらに暗くなりそうだったので自らやめ、じゃあこれ触ってみよっかと誘う玲奈。
「さすがに今飛ばす事はできないけどね」
じゃんけんで順番を決め、一人ずつコクピットに乗り込んでみる。シートを動かしなんとか操縦席に隙間を作ってそこに乗せるのだ。メーターの説明をしたり変形の説明をしたり。そうしている間に他の生徒は主翼等を間近で見る。田舎でKVはおろか飛行機すらめったに見ない子供達は、ずっと興奮していた。
「ぁ、その中は危ないから‥‥」
ミオが子供を止める。唸る子供。
「ダメ」
「じゃあどうやったら乗ったり触れるん‥‥?」
「‥‥能力者になるか、整備士になるか、かな」
「分かった! そしたらオレそれなる!」
見事に夢が決まる。やはり良い企画だったようだ。
「わーなんこれ尻尾!?」
「ん? そだよ〜。せりゃ!」
一方で気晴らしに思わず隠れて覚醒してノビをしていたMAKOTOを発見した子供数人が、そちらにも心を奪われていた。うりうりと猫が遊ぶように尻尾で子供を翻弄する。
市内を観光していた時もうるさかったが、高台、格納庫とKV関連、あるいは能力者自体について等、LH独特の風景が一番面白いようで。
そうして時間を忘れて戯れていた一行だったが、それも終わりが近づいてきた。夕闇が世界を支配し、やがて夜の帳が下りるまでの一瞬の安らぎとなるこの時間。子供達はこの後ホテルに戻り、明朝に発つ。引率の先生の声を聞き、寂しげな表情になる。
そんな生徒を見て玲奈が一つの提案をする。
「じゃ、ここ! ここに皆の名前、書いて」
左側の翼、コクピットからも微かに見える位置を指す。
言われるままに1人ずつ書いていく。小山信太、佐藤亜季、曽我部拓‥‥。
全員が書き終え整列するのを待ち、玲奈が徐に口を開いた。
「私は、絶対生還するから。だから、ね、君達とずっと一緒だよ♪」
また会おうね、と。
最後にホテルに戻るまでの道のりを、出来るだけ楽しく。バグアの脅威に晒された世界の、ほんの少しの生活空間しか知らない子供達に、少しでも夢と幸せを。ゆっくり、ゆっくりと玲奈、ミオ、MAKOTOが夕暮れを背に歩く。
きっとこれが18人の子供達の世界を変えた。そんな充実した幸福感が、そこにあった‥‥。
<了>
――――お前は何故戦う。ラハドよ
――――ッアァァアァ静まれェェェェッ!!
――――来る‥‥天駆ける騎士が
――――私が足止めを。あなたは早く‥‥!
――――絶対、生きて帰るから――――
キミハ戦イノ果テニ何ヲ見ルノカ――――
――――One Thousandth Knights 税込 8390
累計売上本数:136万本