タイトル:【AAid】傭兵カレンダーマスター:牧いをり

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/12 19:08

●オープニング本文


●苦悩のオペレーター
 すでに一年近くもの間、バグア包囲下にある北京市。
 いまだ脱出できず市内にとどまっている民間人もいる。脱出できた者であっても、避難民としての生活は決して楽なものとはいえない。

 オペレーターとして軍に一席を占める李玉紅(リー・ユーホン)は、常々彼らのために何かしたいと考えていたが、目前の業務に追われるうちに日々は無情に過ぎていった。彼女自身は北京近郊の小さな村の出身だが、北京には何度か訪れたことがあるし、知人も幾人かいる。
 ため息の数が増え、周囲がそれをうっとうしく思っているのもなんとなくはわかっているが、どうしようもない。
 もともと人見知りしがちのうえに、このところ鬱々と思い煩うことが多く、愛想笑いのひとつもしない自分に、同僚が進んで近寄ってこないのは当然だ。
 またひとつため息をつく。
 すると、隣席の男性オペレーターが顔を上げて玉紅を見た。
 どことなく苦笑めいた表情を浮かべている。
「リー、あんまりため息ばかりついてると、幸せが逃げるぜ」
「‥‥すみません」
「謝ることはないけどさ」
 ふっと息をついて椅子に背を預けると、両腕を突き上げて人目もはばからず堂々と伸びをした。

「北京が気になるか?」
「‥‥」

 気にならないわけはない。
 だが、自分のような人間は珍しくもなんともないのも事実だ。まだ故郷と呼べるものが存在しているだけでも幸せな部類なのかもしれない。
 そう思うと誰に話す気にもなれず、いつも同じような考えがぐるぐると頭の中をめぐるだけだった。

「これ」
 男性オペレーターは玉紅のほうに書類を手渡した。
「上からもちかけられたんだけど、俺はこういうの得意じゃなくてね。おまえ、どう?」
「‥‥アジア援助活動‥‥ですか?」
「予算はつくみたいだが、その額で収まりそうなちょうどいい企画がないんだと。ついでに軍部の宣伝もできると理想的らしいが、そううまくはいかないよな」
 考えつかないというよりは、考えている余裕がないのだろう。下に投げておいてうまくいけばそれでよし、うまくいかなくとも少なくとも「活動はした」との実績は残る。
「どうだ? こういうの、得意か?」
「‥‥」
 玉紅はすぐには返事できなかった。自分をアイディアマンと思ったことはないし、企画力にあふれていると感じたこともない。
 だがこの活動を通じて、わずかなりと北京市含めアジアの人々を助けることができるかもしれない。
 その思いが承諾の言葉となり、気づいたときには口をついて出てしまっていた。

「‥‥やってみます」
「そうか。がんばれよ」

 言って、男性オペレーターは、ぽんと玉紅の肩を叩いた。

●カレンダー
 玉紅はあれこれと知恵を絞ってみたが、結局これといったものが思い浮かばないまま数日が過ぎてしまった。
(「‥‥もうカレンダーもおしまい‥‥」)
 機能的ではあるがあまり可愛らしいとはいえないカレンダーともそろそろお別れ。

「カレンダー‥‥悪くない‥‥かも」

 平凡な考えだとは思ったが、このまま流れてしまうよりはいくらかましだ。
 能力者の姿を写真に収めて売れば、軍の宣伝にもなるのではないか?
 どうせなら派手な格好をしてもらえば、撮られる側も楽しめるかもしれない。
 写真さえ撮れたなら、日付のデータなどどうにでもなる。直筆で何か言葉を添えてもらうのもいいかもしれない。

 それでいこう。

 ほかに考えつかない。もう迷っている時間はない。
 カレンダーなら時間的に遅すぎるぐらいなのだ。

 急いで企画書を仕上げて上に提出したところ、あっさりと許可が下りた。
 ほっとする間もなく、用紙や印刷の手配をする一方で依頼文を作成する。
(「できた‥‥」)
 一応の準備が整ってほっとなったとたん、玉紅は突然自分の人見知りする性格を思い出した。
(「わ、私、うまく説明できるのかしら。しどろもどろになって、怒らせちゃったりしたらどうしよう‥‥」)
 いまさらながらにドキドキしつつ、能力者の参加を待つのであった。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD

●リプレイ本文

●集合
 今回の企画者、李玉紅が参加者を待ちながら一人そわそわしていると、
「カレンダー、作りにきたよーっ!」
 美崎 瑠璃(gb0339)の元気な声とともにドアがぱっと開いて、能力者たちがスタジオにやってきた。
「‥‥これで全員ですね。あ、あの‥‥今日は来てくださってありがとうございます!」
 ぺこりと頭を下げる玉紅。
「傭兵がメインのカレンダー、面白い試みだよね。楽しい物が出来るとええね〜!」
 篠原 悠(ga1826)が明るく笑うと、緊張し通しだった玉紅も「はい!」とほっと息をついて笑顔を見せた。
「カレンダーの売り上げは、アジア支援のために使われます。よろしくお願いします」
「‥‥このかれんだーの売り上げで誰かが救える。‥‥ん〜、きっといい事だから冥華いっしょうけんめいお手伝いする」
 ぽそりと舞 冥華(gb4521)がつぶやき、
「責任重大だっ。プレミアが付くくらい素敵なものを作るぞーっ、くらいの意気込みで行きたいねっ♪」
 瑠璃もやる気満々だ。
「アジア支援活動にはわしも多少関わっておるが、チャリティカレンダーとは、また趣向が変わって面白いのう。微力ながらも協力いたそうではないかえ。わしも一応黙っておれば『美人のお姉さん』で通るらしいしの」
 カラカラと笑う秘色(ga8202)の声で、皆の表情も明るくなる。
「私も復興支援の為とあらば一肌脱がせていただきましょう」
 穏やかに微笑むアイロン・ブラッドリィ(ga1067)の端整な顔を、玉紅は思わずぽかんとして見つめた。
「‥‥字義通りに取らないでくださいね」
「す、すみません! ご協力くださるということですよね、すみません!」

 その後、玉紅は段取りや仕様等の説明をした。能力者たちの方からもカレンダーの仕様について提案があった。
「壁掛けであっても、1ページに写真を2枚載せるのは可能よの? 写真と日付を、二段にして互い違いに‥‥」
 秘色が紙に書いて説明すると、玉紅は何度もうなずいた。
「そうですね、写真は少し小さくなりますが、お一人お一人の写真を載せることができますね」
 打ち合わせの後、表紙と7・8月、11・12月は大判の写真を全員で、ほかの月は個人写真を撮ることとなった。
「ところで、この時期に季節物の撮影は大変ですね」
 鋼 蒼志(ga0165)の率直な疑問に、玉紅は恐縮しきって答えた。
「本当はロケできればいいのですが、そこまでの予算がないので‥‥」
「合成ですか」
「すみません‥‥皆さんには演技をしていただくことになりますが‥‥お願いしますっ」

 そんなこんなで、撮影が開始された。

●撮影
 個人撮影はおもに屋内で行われた。「本物」のない中で、能力者たちは見事に自ら四季折々の風景を作り出していく。
 そんな撮影の合間、アイロンは持参したミルで豆を挽き、コーヒーを淹れて皆にふるまった。
「いい香りですね」
 コーヒーの香りに、玉紅は曇った眼鏡の奥の目を細めた。
「玉紅さんのご出身は、もしかして‥‥?」
 アイロンの問いかけに、玉紅は自分が北京に近い村の出身であること、今回の企画発案の経緯などをぽつぽつと話した。
「よく知った大好きな町ですので‥‥いえ、知らない町だったらよかった、というわけではないのですけれど」
 アイロンが何か言いかけようとしたとき、最後の個人撮影が無事終了した。
「‥‥あ、皆さん撮影が終わりましたか。では、次はえーと、夏の写真を」
 スタジオでビーチバレーは難しかろうということで、近くの浜辺まで出て行くことになっている。
 立ち上がる玉紅に、水無月 春奈(gb4000)が話しかけた。
「一緒に写りましょう。水着‥‥とは言いませんのでパーカーを羽織ってみては如何でしょう?」
「わ、私ですかっ? と、とんでもない! ブチ壊しになります!」
 玉紅は首を横に振り続けた。

●水着月
「ふむ。季節柄見れないと思った水着を見ることができるとは。参加して正解ですね」
 さらりと言う蒼志の眼前、女性陣は季節はずれをものともせずにぬぎぬぎと上着を脱ぎ、水着姿になっていく。
「よーし、思いっきり楽しむのですよーっ!」
 撮影準備が整うと、悠は真っ先に砂上のコートに入った。
 白のビキニの右胸の赤いハートがアクセントになっており、デニムのハーフパンツから伸びる太腿もまぶしい。
 春奈は長い髪を背に流したまま、ブルーのセパレート水着が愛らしく清楚な印象。
 ふわふわフリルとリボンのついたゴスロリビキニ姿のレイチェル・レッドレイ(gb2739)がそれに続く。
 寄せて上げるまでもなく、谷間くっきりの見事なHカップ。いつブラの紐が切れるのではと、皆それぞれいろいろな意味で気が気でない。
 瑠璃は玉紅の用意したチャイナ水着。セパレートタイプで、赤地に意匠化された黄の蝶が一羽飛ぶ。
「俺は後ろの方がいいでしょうね。水着を着た女性が前の方がよいでしょう」
 苦笑まじりで言う蒼志は、シンプルなトランクスタイプの青い水着姿。
「そんなことないですよ! 鋼さんの水着姿、ステキです。貴重です! それに、男性を好きな男性もいます!」
 玉紅は慌てすぎてそんなことを言った。

 適当に2チームに分かれ、ビーチバレーの試合が始まった。
 アイロンはネット脇に椅子を置き、ゆったりと試合を見守る。とはいえ、しっかり水着姿。
 試合は徐々に白熱し、ついでにカメラマンも白熱、蒼志が高く上げたトスを悠が思い切り打ち抜いた。
「あっ」
 春奈とレイチェルが同時に声をあげ、反射的に飛び込んでレシーブしようと腕を伸ばしたところに、すかさずシャッターが切られた。

●大掃除
 7・8月用の撮影が終わると、次は11・12月の大掃除写真。
 今度はツナギに着替えて格納庫へ。
 一番手前の雷電から始まり、岩龍、ディアブロ‥‥順に少しずつずらしながら、飛行形態の機体が並べてある。

 蒼志は愛機の雷電をメンテナンス。
「激戦続きでしたからね‥‥。これからも頑張りましょう、Bicorn」
 レイチェルも雷電を持参のバトルモップでゴシゴシと磨く。ツナギの胸元が軽く開いているようですが、何か。
 悠はツナギの上は脱いでTシャツ姿。袖は腰でルーズに結んである。愛機のシュテルンへ新しくエンブレムのペイントするため、両手にペンキ缶とハケ、その他諸々の道具の入ったバケツをさげて運搬中。
 春奈は髪をまとめてお団子にし、ぶかぶかのつなぎ。水の入ったバケツとモップを肩に担いで、悠と交差するように急ぎ足。
 真っ白のツナギに身を包んだ冥華は、ツナギが汚れるのもなんのそのでデッキブラシで床をごしごし。

 それをよそに、床掃除をしていたはずの秘色と瑠璃との間でチャンバラごっこが勃発していた。
「あたしのデッキブラシが火を噴くぜっ‥‥!」
 瑠璃がブラシを握り締めれば、
「ふっ‥‥わしのモップが唸るのじゃ」
 髪を紐で一つに結び腕まくりの秘色も、負けじとモップを構える。
 きゃっきゃと楽しげな声を上げて、チャンバラに興じる2人。
「そぉれっ」
「む、やるな。わしも負けぬぞ!」
 火花散らすブラシとモップ。押し戻し押し戻されしているところへ、
「わわっ!」
 丁度通りかかっていた悠が2人の決闘にまきこまれそうになり、転びかかったところにシャッター音。

●表紙
 最後はスタジオに戻ってきて表紙のための撮影。戦闘装備での集合写真だ。
「これで最後です。皆さん、もうひとがんばりお願いします」
 玉紅が言って、立ち位置を確認していると、
「玉紅さんは、ここ」
 春奈がにっこりと中央を指さした。
「え?」
「バグアと戦っているのは私たちだけじゃありませんよね?」
 春奈は玉紅の腕を取って、真ん中にひっぱっていった。
「玉紅もオペ服で参加してくれぬかのう? 戦闘装備での決めポーズじゃで、資料を持ち説明しておる姿‥‥なぞどうじゃ」
「軍部の宣伝も兼ねているのですから、オペレーターさんもいらっしゃった方が軍部っぽく映えるでしょう?」
 秘色も説得し、アイロンも続く。
「え、でも、私‥‥」
「表紙は『皆で』映るって決めてたの。玉紅さんもその『皆』の一人なんだから、参加してほしいなっ♪」
「全員きょーせー参加だから、玉紅も参加する」
 瑠璃が元気に言えば、冥華も銀色の瞳でじっと見上げる。
「本当にいいんですか?」
 おずおずと玉紅が問うと、「もちろん」と能力者たち。
「‥‥じゃあ、あの、隅のほうに‥‥」
 玉紅は知人に自分と見分けられないように、と眼鏡を取り、いつもひとつにまとめている髪を解いていちばん端にそっと並んだ。

●撮影終了
 撮影が終わる頃にはもう夜も更けていた。強行スケジュールが終了して、能力者たちもほっとした様子。
「売れると良いですね‥‥。ちょっと恥ずかしいですけど」
 春奈が少しはにかんで言うと、
「とてもいいカレンダーになりますよ。きっとたくさん売れるはずです」
 玉紅は確信を込めた声で言った。

「ところでタイトルなのですが、何かよい案はありませんか?」
 玉紅が問いかけると、しばらく考えて秘色が提案した。
「『Shine』は如何かえ? 各自が其々の光を放ち、其れを受けた者がまた輝くのじゃよ」
「‥‥『Shine』‥‥とてもいいタイトルです。本当に」
 玉紅は目がしらが熱くなるのを感じた。
「皆さん‥‥今日は本当に、ありがとうございました」
 目の縁を赤くして言う玉紅にそれぞれ言葉をかけ、カレンダーに寄せるメッセージのある者はそれを彼女に託して、能力者たちはスタジオを後にした。


 ――そして待つこと数週間、能力者たちのもとに彼らが出演した『Shine』が届けられた。

●Shine
 表紙を飾るのは戦闘装備での全体写真。
 タイトルとともに、「われらは、人類の剣と盾」との春奈のメッセージが書かれている。

 向かって左、蒼志が愛用のドリルスピアを右手に構えている。今にもスピアの先を敵に突き刺さんとするかのような、迫力のある構えだ。
 白銀の弓を構えるアイロンは、美しく凛とした射手として画面を飾る。
 悠と瑠璃は背中を合わせるように体を傾け、ともに小銃を構えて可愛らしくウインクを送っている。
 藍の着物姿の秘色は、蛍火と黄昏の二刀流を十字に構える。優雅な微笑を絶やすことなく。
 レイチェルはゴスロリ風のワンピースにロングブーツ、澄まし顔でソニックヴォイス・ブラスターを構えている。
 そして、カンパネラ学園の制服に、お気に入りの壱式の真っ赤な刀身が映える冥華。
 春奈は彼女の寄せたメッセージの通り、盾と剣を地面に突き立てて立っていた。群青色のAU−KVはバイク形態でその背後に。
 その隣、玉紅は書類片手に普段から硬い表情をさらに硬くして敬礼していた。

 一枚目。
 表紙をめくれば、まずは大人の女性の魅力が冬を静かに彩る。

 1月はアイロン・ブラッドリィ。
 雪景色をイメージした白色の背景に、黒い服に身を包んだアイロンが、柔らかな微笑を浮かべている。
 長い銀髪の先は白い床の上で不思議なダンスを踊っており、神秘的な紫の瞳でこちらを見つめるアイロンは雪の精霊を思わせた。

 2月は秘色。
 雪の庭を和傘をさして散歩する秘色は、薄水色に古典柄の小袖に、黒地に金模様の帯といういでたちだ。
 椿の紅と、和傘の紅がはっと目を引く。その傘の下の和装の美女が、何かを語りかけてくるような椿の花にそっと指を伸ばして微笑む様は、えもいえず美しい。
「雪の中の花のように、凛々しく咲きたい」
 写真には、秘色のそんなメッセージが添えられている。

 二枚目。
 3月は鋼 蒼志。
 桜の花の満開の下、花びらがひらり、ひらり舞い落ちる中、蒼志は赤い杯を右手に桜を楽しんでいる。
 実は酒の飲めない蒼志だが、その杯には桜の花びらが浮かんでいる。
 いかにも雅を愛する風流人といった様子で、穏やかな笑みを浮かべていた。

 4月はレイチェル・レッドレイ。
 満月の空と夜桜をバックに、着物姿の少女がこちらに向けてほのかに輝くような白い手を伸べている。
 わずかに仰ぎ見るようなアングルのせいもあって、今にもふわりと飛び立ちそうな幻想的な雰囲気で、見る者を春の夜の夢へと誘っているかのようだ。
 同じ桜の風景ながら、暖かで心浮き立つ春の風景と、妖しい夜桜の幽玄とが好対照をなしていた。

 三枚目。
 5月は美崎 瑠璃。
 きれいに晴れた青空の下、初夏の陽光を受けてみずみずしい笑顔がはじける。
 毎朝迎えに来てほしいとか、トーストをかじりながら走る彼女と曲がり角でぶつかってみたいとか思う人間はたくさんいるだろう。
 写真には、彼女らしい「元気だして行こっ!」のメッセージが元気な字で添えられていた。

 6月は舞 冥華。
 レインコートに長靴を履き、傘を差して紫陽花の咲く小道をお散歩。
 紫陽花の葉の上に何か見つけたように、ちょこんと可愛らしく小首をかしげている。
 しとしと雨の風景だが、丸く鮮やかに咲いた紫陽花に囲まれた冥華。童話の主人公のような趣となった。

 四枚目。
 7・8月は水着月。
 撮影時期は季節はずれだったが、海の色、光線の具合などは真夏のそれにそれとなく加工されている。
 蒼志のトスを受けた悠のアタックをレシーブしようとする春奈とレイチェルが、ちょうど画面手前に向かって手を伸ばし飛び込んでくる。
 審判も攻撃側も、楽しげな笑顔でボールの行方を見つめていた。

 五枚目。
 9月は篠原 悠。
 並木道のベンチに腰かけ、口元には微笑みをたたえた悠が空を見上げる。
 背もたれに背を預けた彼女の視線を追うようなカメラアングルで、並木の向こうに秋の高い空がのぞいている。
 ベンチの悠がどこか人待ち顔に見えるのは、大切な誰かを思ってのことだろうか。

 10月は水無月 春奈。
 同じくベンチに座る少女の一枚だが、木々の葉の色が秋が進んだことを示している。
 ゴシック風の装いの春奈は、落ち葉の舞う公園のベンチに座り、文庫本のページをめくろうとしているところ。
 読書の秋を楽しむ令嬢然とした彼女だが、本に目を落とすその表情にはわずかなはにかみが見え、かえって初々しい。

 そして最後は11月と12月は格納庫で大掃除。
 はからずもアクション味いっぱいとなった大掃除の風景。
 愛機の手入れや掃除にいそしむ能力者たちがいる一方で、思い切りチャンバラごっこを楽しんでいる妙齢の女性と元気少女。そしてそれに巻き込まれそうになってこけそうになっている悠。次の瞬間どうなったか非常に気になる一枚となった。


 かくしてカレンダー『Shine』は無事発売された。
 蒼志の予想通り購買層はおもに男性だったが、無論女性の購入者もあったし、各月の登場者それぞれに男女を問わずファンがついた。だってほら、男性が必ずしも女性を好きだとは限らないし、その逆もまた然りだし。
 ともかく売れ行きは好調、支援金は目標額を上回りそうだ。

 ちなみに、玉紅のところには「写真集出ないの?」との問い合わせが少なからず来ているらしい。