タイトル:獅子舞お化けと演歌歌手マスター:牧いをり

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/18 22:26

●オープニング本文


 新年早々のとある小さな神社。
 お守りやら破魔矢やらを並べた小さな社務所兼授与所でヒマそうにため息をついている巫女が一人と、その隣でのんびりと猫をなでたり巫女にお茶を出したりしている神職風の男が一人。
 男のほうは神社の息子だが巫女姿のほうはアルバイトで、本職は知名度0付近の演歌歌手であり、名前を碓氷幸(gz0147)という。
 年末年始のコンサート依頼などあろうはずもなく、クリスマスはクソ寒い中サンタの格好でケーキを売り、新年は神社で巫女バイト。巫女といっても、本当に必要なのかと疑いたくなるぐらいヒマなバイトだ。

 とにかくヒマ。
 幸はひたすらあくびをかみ殺しているのだが、隣に座っているここの神社の息子はヒマそうなバイトの様子を気にした風もなく、何かにつけて話しかけてくる。
「幸さんは、どんなお願い事しはりましたん?」
「神様にですか? えーと、世界平和‥‥かな。‥‥酒井さんは?」
「うふふ、ぼくな、はよお嫁さんが来ますようにーって。ここの神さん、縁結びの神さんやから」
 にこにこしているこの神社の息子、酒井さんという。
 年は幸よりいくつか上のはずだが、見るからにぼんぼんといった様子で、少し話してみた限り腹の底からのんきな男のようだ。
(「あーあ、はよ帰ってミカンでも食べながら思い切り時代劇見たいわぁ」)
 幸が新たなあくびをかみ殺していたところ、酒井が突然頓狂な声を出した。

「あー、あれなんやろ?」

 酒井が指差す先をふと見ると、鳥居のあたりに唐草模様の風呂敷が見えた。
 風呂敷は真中が盛り上がっていて、よく見るとずるずると地を這って少しずつ移動している。
「‥‥」
 幸にはとても嫌な予感がしたが、口に出すとそれが本当のことになりそうなので黙っていた。
 風呂敷は鳥居から拝殿のほうへ、なおも境内をじりじり進んでくる。
(「悪霊退散、悪霊退散‥‥」)
 幸が念じていると、ごりっと砂利をこする音とともに風呂敷の向こうに隠れていた赤い頭がこちらを向いた。
「わあ、シシマイや。ぼく、シシマイ大好き! 幸さんは?」
「‥‥」

(「あんなところにいきなりシシマイが落ちてるの、おかしいやろ。しかも超低姿勢やで? おかしいと思わんか、ふつう‥‥」)

 むっつりして答えないでいたが、神社の息子は上機嫌。
「噛んでもろとこっと」
 酒井が立ち上がったと同時に、シシマイもぐうっと頭をもたげた。
 獅子頭がこちらを向いたかと思うと、ぱかっと口が開く。
 脇のドアから外に出ようとする酒井の袖を、幸は反射的に引っつかんだ。

 瞬きもせずに見つめていると、シシマイの開いた口から、青いゲル状のものがどろんどろんとあふれこぼれてくる。
 青い物体はゲロゲロ吐き出されて地面にたまり、つやつやと新春の陽光を受けてきらめきながらぷるぷる震えた。

「オ、オエ‥‥きしょくわる‥‥」
 青くなって思わず立ち上がった幸の隣で、神社の息子はけらけら笑っている。
「なあんや、ホラー映画のロケやったんかぁ。シシマイがエクトプラズム吐き出さはったわぁ。うふふ、シシマイさんにサインもろとこかな」
「ええかげんにし! あれはキメラや」
「き‥‥きめ、ら? うそぉ‥‥。さ、幸さん、巫女ビームとか出して追っ払ってぇ」
「言うとくけどな、私の本職は演歌歌手や。あんたこそ、おはらいするなり宮司パンチ飛ばすなり、なんなりとしたらええやろ!」
「いや、ぼく、実はまだ見習いやから‥‥」
「もうええわ!」
 ハリセンがあったら思い切りどついているところだ。
「‥‥酒井さん、こっちから回って行って鳥居の前で人が来んように見張っといて。私、すぐに通報しますから」
「は、はいな」
 おっかなびっくり駆けていく酒井。

(「‥‥新年早々ツイてへんわ‥‥もう帰ったろか‥‥」)
 対応に慣れてきた自分が切ない幸であった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
天戸 るみ(gb2004
21歳・♀・ER
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
世界のK.Y.(gb2529
26歳・♂・DF
エリス・リード(gb3471
18歳・♀・FT
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN

●リプレイ本文

●境内へ
「神社の境内で暴れるなんて‥‥何という不届きなキメラでしょう」
 石動 小夜子(ga0121)は、常は穏やかな表情に静かな怒りをにじませた。
 神社の一人娘である彼女、【OR】巫女装束も板についている。
「ほんと、そうです。初詣の神社にキメラなんて許せません!」
 こくこくとうなずくのは、天戸 るみ(gb2004)。彼女の実家も神社である。
 その横で、世界のK.Y.(gb2529)はイヤッフーと上機嫌。
「ザ・ハツモウデ!! ジャパンのオモムキはミーのロック魂を奮わせる気がしマース!」
 日本のお正月と神社に興味があるK.Y.。日本の趣とロック魂を結びつけるあたり、タダモノでない。
 一方、今回が初陣となるフェンサー、シルヴァ・E・ルイス(gb4503)の表情は硬い。
 依頼をこなすだけ。その自信もないわけではないが、不安がないといえば嘘になる。
(「他の方の足を引っ張ることにならねばよいが‥‥」)
 視線も我知らず下がり気味になっていると、空気は読まない男、K.Y.が突然大きな声を上げた。
「オゥ、トリイの前に誰か立ってマース。ビューティフル、メンズ・キモノー!」
 K.Y.が駆け寄っていくと、鳥居の前の男――酒井は一瞬びくりとしたが、すぐにいかにも頼りなさそうな笑顔を作った。
「すんません。今ちょっと取り込み中ですねん。お参りはまた今度に‥‥」
「あ、ボクらは傭兵です。あとはボクらにお任せ下さい」
 新年早々青白い顔をしている柊 理(ga8731)が説明すると、酒井は「あー、待ってましてん!」と安堵の表情を見せ、8人を境内へと迎え入れた。

「ワァーオ、ココがジンジャデスカー! チャーチとはまた違ったオモムキがありマース」
 境内は大して広くなく、鳥居から拝殿まで100メートルあるかないかといったところ。その真中辺りにシシマイがうずくまっている。
 そこから社務所よりに少し離れたところに碓氷幸が待っていた。
「ああ、よかった。‥‥新年早々お疲れ様です」
「お久しぶりです碓氷さん。お元気でしたか?」
 エリス・リード(gb3471)の声に、どことなく虚ろな表情をしていた幸はぱっと笑顔になった。
「おかげさまで。今日は眼鏡かけてるんやね」
 言うと、エリスはわずかに目を伏せて微笑を浮かべる。
「ミコサンもカンヌシサンもミーと一緒にレッツバーニング!!」
「は、はあ‥‥ゆ、ゆあびゅりほー!」
 幸は英語が苦手。
「この辺りに、戦っても大丈夫そうな場所はあるでしょうか?」
 この境内でも狭すぎて動きが制限されるということはなさそうだが、念のため小夜子が確認する。
「どうでしょう。このへんは古い家ばっかりやし‥‥裏手にも家があるし、ここがいちばんええかも」
 幸が首をかしげながら答えると、酒井が情けない声を出した。
「あの、できたら建物壊さんとってください。‥‥あと、よかったらお守り買うて‥‥いいっ!?」
 幸は思い切り酒井の腕をつねると、
「いつもお願いするばっかりで申し訳ないですけど‥‥どうぞよろしくお願いいたします」
 深々とお辞儀をして、酒井を引き連れ境内から出ていった。

●戦闘
 青いものがにょろりとはみ出しているシシマイを前にすると、ドッグ・ラブラード(gb2486)はすぐに覚醒を果たし、『GooDLuck』を発動する。
「この地に神がいるのなら、どうか、散りゆく魂に安らぎを」
 祈りをささげると、シシマイの風呂敷をばっとはねあげた。
 口からはみ出ていたのが一体、風呂敷の中に二体がくっついている。
 ドッグと組になって動く理もすぐさま覚醒し、お守り代わりの『GooDLuck』を使った。
「どこから出てきたんだ‥‥神社から追い出してやる!」
 そして、スライムの気を引くべく、「食らえ、僕の涙のくず鉄!」とくず鉄を投げつけてみた。
 くず鉄は、むにょん、とたいした手ごたえもなくスライムの上でバウンドしてぽとりと砂利の上に落ちた。
 元はなんだったのやら、その無常が涙を誘う。

 その間に、白をベースに金色のラインを入れたAU−KVに身を包んだるみは、スライムの後ろに回りこみ、エンジェルシールドを構えて『竜の咆哮』を使い、一匹を跳ね飛ばして拝殿から遠ざけた。
「さぁ刈り取って‥‥、‥‥そういえば神社にこれってどうなのかしら‥‥」
 エリスはスライムとの距離を詰めながら、覚醒のために背後に現れた死神をわずかに振り返り、それからにっと冷たい微笑を浮かべる。
「すぐに終わるわ。少しだけ辛抱してね、神社の神様」
 最初にスライムに追いついたるみは、その攻撃を盾で防ぎつつ、機械剣で攻撃を加えた。
「くっ‥‥」
 スライムの一撃は単調だが意外に重い。
「不届きキなメラは許しませんよ!」
 小夜子は、急所がわからないのなら寸断を狙って蝉時雨で斬りつけ続ける。
 エリスは周囲を素早く確認、『豪破斬撃』と『急所突き』を発動、大鎌「ノトス」で攻撃を加える。
「最後!」
 るみが機械剣を振るい、スライムの動きを止めた。

「まずは正月で錆びついた体を戻さねばならんか」
 重体から復帰したばかりのリヴァル・クロウ(gb2337)は、残ったスライムの一体に刀で切りつけた。
 スライムは大きくうねってリヴァルに体当たりし、さらに、攻撃を受けようと構えた刀身を巻き込むようにねっとりと張りついてくる。
 リヴァルはその何ともいえないおぞましさに声を上げそうになったが、すぐにチャンスと考え直してそのまま移動、三匹のスライムをそれぞれ引き離すことに成功した。
「迅速な殲滅を‥‥」
 覚醒のための金色の瞳で敵を見据えるや、シルヴァは一気に間合いを詰め、ヒットの直前に『円閃』を発動。蛍火は淡く輝く軌道の残像を残す。
 続いてリーゼントカツラを取ったK.Y.が『流し斬り』を叩き込めば、スライムは怒ったのか激しく震えた。
「敵の攻撃は俺が対応する」
 スライムの様子を見てリヴァルが前に進み出、その攻撃を受け流す。
「とどめだ!」
 シルヴァの一閃を受け、スライムはそれ以上動かなくなった。
「クーゥル!」
「見事に初陣を飾られたな」
 K.Y.とリヴァルの言葉に、シルヴァはようやく表情を緩め、短く礼を述べた。

 理はくず鉄を投げつけた後、後方にさがったスナイパーを守るべく前衛に立つ。
 スライムはシシマイ遊びが終わって不機嫌なのか、かなりの勢いで体当たりを食らわしてきたが、理はバックラーでがっちりと受け止めた。
「抜かせない‥‥僕の盾は皆を護る盾なんだ!」
 衝撃に耐える理の後方から、
「確実に、当てる‥‥!」
 ドッグは『狙撃眼』を使い、コンポジットボウから矢を放った。
 スライムがひるむと、理も洒涙雨で斬りつける。
「ラブラードさん、今です!」
 呼び声に答えるようにドッグは次の矢を放つ。『影撃ち』を乗せた矢はスライムを地に縫いとめ、そのままその息の根を止めた。

●お片づけ――神社は墓か?
 戦闘後、建物等に被害はなかったものの、境内は土がえぐれたり石が散ったり、どことはなしに荒れた印象を与える。
 そこで能力者たちは、神社の娘である小夜子とるみの指示の元、境内を掃除することにした。
「よ、傭兵さんたちって掃除もしてくれるんですか?」
 幸は目を丸くして驚いた。
 ドッグは持参したホウキで、さかさかと掃き清めている。
「えらい曲がったホウキですね」
 幸が話しかけると、女性恐怖症のドッグは「や! ご、ごめんなさい!」といきなり謝った。
「い、いえ、そんな‥‥こちらこそ」
 よくわからないが、お互いぺこぺこしていた。
 理は真心込めて掃除しながら、
(「小学校の頃に神社掃除当番なんてあったっけなぁ‥‥」)
 ちょっとした思い出にひたっていた。
「シシマイ、片付けておきますね」
 るみがにこにこしてシシマイを運んでいき、掃除はほぼ完了。
 境内には生命活動を停止したスライムが残るのみとなったところで、ドッグが酒井に提案を行った。
「野ざらしも後味が悪い。埋めてやりたいんだが‥‥よろしいか?」
「う、ウメる? 埋める? ここにですか?」
 酒井はぎょっとしたふうだった。
「ええやん、新名所になるやん。須羅威無塚、とでもしといたら?」
 どうせ自分はもう来ることもあるまいと思って、幸は勝手なことを言う。
「は、はあ‥‥幸さんがそう言うんやったら」
 全然主体性のない神社の息子の許可が下りると、ドッグは土竜爪で境内の隅に穴を掘っていった。
「私に‥‥手伝えることはあるかな?」
 シルヴァがそっと近づいていって問う。女性の声にドッグは一瞬びくっとなったが、そこは一緒に戦った仲間、なんとか答えた。
「‥‥もうすぐ掘れるので、あとで土をかけていただければ‥‥」
「承知した」
 そんなこんなで、三体のキメラはひっそりと埋葬された。

 掃除と埋葬が終わると、ドッグは「お茶と茶菓子でも」と【OR】お菓子BOXからお菓子を取り出してきた。
「わあ、気ぃきくなぁ。せやし、ドッグさんてほんまにわんこみたいに可愛らしい方やね」
 幸は頭をなでてみたい気がしたが、心臓発作でも起こされたら大変と思い自重した。

 社務所に戻ってお茶とお菓子で一息つき、せっかくなのでお参りとおみくじでも、ということになった。神社の手伝いを申し出る者もあったが、とにかくヒマで手伝ってもらうほどの仕事もないらしい。
「じゃ、せっかくついでに、揃って装束も着ちゃいますか?」
 るみが何気なく言う。
「あ、巫女装束、まだありますよ」
「私は自分の家の衣装があるんです!」
 るみは大きな笑顔。
「えっと、できれば私も着てみたいですが‥‥私が巫女ってありでしょうか‥‥?」
 おずおずとエリス。
「ありあり! ないわけない!」

●おみくじ
 お参りの作法についてはプロフェッショナルである小夜子とるみが丁寧に皆に教えた。
「ふふ‥‥とても簡単ですし、畏まる必要は無いですよ」
「御賽銭、鈴、二礼二拍手一礼、の順ですね。ちなみに鈴は綱をぴんと張るのが上手く鳴らすコツですっ」
 2人のおかげで、神社参拝は初めての者も作法に自信のない者も、楽しみながらお参りができた。
「ところで、この神社のご利益はなんですか?」
 巫女姿も初々しいエリスが問うと、「縁結びやて」と幸が答えた。
 その言葉の切れ端を耳にして、リヴァルはかすかに表情を動かした。気になる人がいるらしい。
「縁結びかぁ‥‥でも、私の願い事は決まってるしっ」
 るみは、
(「皆さんの期待に応えて、学園のアイドルになれますように!」)
 と熱心にお願いした。

 お参りが終わると、おみくじを引く。その結果は‥‥。

 ドッグ:大吉
 オールグリーン。失せ物・探し物すべて見つかる。リーダーシップを発揮できる。
 ラッキーアイテムはゴーグル。

 るみ:凶
 水難の相あり。李下に冠を正さず。諦めず努力すれば光は見える。
 ラッキーアイテムはオリジナルアイテム。

 小夜子:大吉
 長年の努力が報われる。秘め事は打ち明けて吉。己の道を進め。
 ラッキーアイテムは野菜ジュース。

 シルヴァ:凶
 正しいことをすべきか易しいことをすべきか迷いが生じる。後ろの正面に注意。意志を強く持て。
 ラッキーアイテムは巨大ハリセン。

 K.Y.:末吉
 判断を急がずじっくり考えて吉。雨の日の外出につきあり。食あたりに注意。 
 ラッキーアイテムはランタン。

 リヴァル:小吉
 挑戦の年。くじけず立ち向かえばつきが舞い込む。告白は糸電話が吉。
 ラッキーアイテムはコーヒー牛乳。

 理:中吉
 苦境にも救いの手が差し伸べられる。ゆるキャラに徹して吉。習い事上達する。
 ラッキーアイテムはレオタード。

 エリス:吉
 貴重な友情が得られる。心を開いて待て。空の旅が吉。巻き爪に注意。
 ラッキーアイテムはスリッパ。

「やった! ‥‥って、これって良いんですか?」
 ドッグはよくわかっていない様子。
「イッツファンタスティッーク!! コレで今年も何かイイコトガ起りそうデース!」
 K.Y.は何を引いても大丈夫そうだ。
「まぁ、吉と付いているだけ良い」
 リヴァルはクールに、
「えーと、悪くは無いって事ですよね」
 エリスもさらりと。

 幸はものの見事に凶を引き当て、震える手で中身を読んでいた。
(「なんやこれ‥‥ええこと一つも書いてあらへん。‥‥こんなヘボ神社のおみくじ、引かへんかったらよかった‥‥」)
「オゥ、ミコサン、キョウ引きマシター」
「おーいぇー」
 迷信深い碓氷幸、目も虚ろ。
「大丈夫デース、きっとイイコトあるはずデース!」
「りありー?」
「碓氷さん‥‥これで厄が落ちたと思いましょ? ね?」
 理も見かねて声をかける。
「わ、災い転じて福となすと言うじゃないですか! い、いいことありますよ! きっと! 多分!」
「柊さん、ワンちゃん‥‥」
 そろそろ涙目に。
「日本中にたくさん凶のおみくじがあるんですから、結果が本当なら大変な事になってますよ。いい結果だけ信じればいいんです。ね?」
 エリスが微笑みかけると、「そう言われてみれば、そんな気もします‥‥」と幸。
 さらにリヴァルがたたみかける。
「凶というのは一見あまり良くない印象を受けがちではあるが、俺はそうは思わない」
「そうなんですか?」
「気に留めておけば回避できる厄災もあるだろう。‥‥それに、どのようなことであれ最終的な結論を出すのは神でも仏でもない」
「‥‥」
「自分自身だ」
「はい‥‥と言いたいところやけど、リヴァルさん、けっこう気にしてるやろ」
「‥‥そ、そんなことはない」
「碓氷さん‥‥笑いましょうっ! 笑えば神様も味方してくれますっ。これ、私の家に伝わる秘伝なんです」
 自分も凶を引いたるみが明るい笑顔で言うにいたって、幸にも笑顔が戻った。
「そうですよね、自分次第ですよね」
「何事も気の持ち様ですよ」
 小夜子は柔らかに微笑し、利き腕とは逆の手で境内の木に結べば良いとアドバイス。
「そうです、幸さん。運気が回復するまで、ここにおったらええやん。いつまでもおってくれてええで。ぼく、大歓迎!」
「はぁ?」
「仲がおよろしくていいですね」
 微笑む小夜子に、幸は慌てて否定した。
「違います! ぜんっぜん違いますから!」
「まあ、そんなに照れなくても‥‥」

 ともかく、凶を引いた3人はおみくじを利き腕と逆の手で木に結びつけた。
「今日はありがとうございました。今年がええ年になりますように」
「今度はお守り買うてくださいねぇ」
 幸と酒井に送られ、能力者たちは神社をあとにする。

 ドッグは念のため、スライムを境内に埋葬したことを本部に連絡した(その後スライムは回収されるが、なぜか塚だけ残ることになる)。
 解散にあたり、
「もし他でご一緒することがあれば‥‥その折には、よしなに」
 シルヴァの顔には微笑が浮かんでいた。


<おしまい>