タイトル:Prank Frank Crankマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/04 11:21

●オープニング本文


「猫かわいいよ猫うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 道端の野良猫を見つけるなり、突如奇声を上げた少年。
 びくっとして硬直する猫に猛ダッシュで駆け寄り、
「猫猫猫猫もふもふもふもふもふもふ腹毛気持ちいいよぉぉぉぉぉぉぉ」
 逃げ遅れた所を捕まえて、お腹の毛をさわさわしまくりだす始末。
 そんなことをされれば当然、猫にバリッと引っかかれるわけで。
 顔にがっつりと爪の跡を刻まれ、痛みで怯んだ隙に、猫は少年の魔の手から無事に脱出した。
「いたたた‥‥あぁ、また逃げられちゃった‥‥」
 たらりと血がにじむ頬を手で押さえながら、悲しそうに呟く。
「なんで逃げられちゃうんだろう‥‥こんなに大好きなのに‥‥」
 あからさまに『しょぼーん』とした表情をしているが、本気で「なんで」と思っているならちょっと問題だ。
 しかしトボトボと歩く少年の背中は哀愁を漂わせており、どうやら真面目に悩んでいるらしいことが窺える。
 まだ幼いと言って差し支えない齢であろう少年では、自分の都合しか考えられないのは仕方ないのかもしれないが。

 それから数日後のことである。
 少年は、とある猫カフェの扉をくぐっていた。
「いらっしゃいませー」
 入ってすぐの窓口の中から、女性がにこやかに歓迎する。
「あ、あの、実はお願いがあってきました」
「あら、なんでしょう?」
 お客さんじゃないのかな? と不思議に思いつつも、丁寧な態度で応じるお姉さん。
「ね、猫の可愛がり方を教えて下さい!」
「へ?」
 ぽかんとするお姉さん。
 そりゃそうだろう。
 なんでうちに? と誰もが思うに決まっている。
「え、えーと、なんでここに?」
「え? だって、猫カフェの店員さんなら、猫の扱いに詳しいだろうと思って‥‥」
「う、うーん、まあそうだけど‥‥」
 お姉さんは、どうしたものかとちょっと悩む仕草を見せた。
 別に教えるのは構わないのだが、いきなりやってきて教えてくれというのは、なんだか思考がぶっとんでいる。
(色々と大丈夫かなーこの子)
 と思うのも無理はない。
 だが、少年の真剣で純粋な眼差しを見るかぎり、悪い輩には見えなかった。
「んー‥‥いいよ、わかった。任せて」
「おぉぉぉぉぉぉ! ありがとうございますー!!」
「あ、大声禁止」
 ぴしゃりと嗜められ、少年は大げさに両手で口を塞いだ。
 間抜けな仕草ではあったが、お姉さんは思わず口を綻ばさせる。
「じゃあ取り敢えず、手を洗ってもらえる? 君の後ろに洗面台あるから。ちゃんと消毒もしてね」
 少年は口を塞いだまま首を縦に振り、くるりと振り返って、背後の荷物置き場兼洗面所に入っていった。
 蛇口から流れる水の音を聞きながら、お姉さんは「さてどうしようかな」と考える。
(んー‥‥折角だから、今いるお客さんにも協力してもらおっかな?)
 フロアに目を遣ると、数人のお客さんが思い思いに寛いで静かに猫を愛でている。
 頼れそうだな、と判断し、お姉さんはフロアのお客さんに声を掛けに向かった。

●参加者一覧

最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA
ルティス・バルト(gc7633
26歳・♂・EP
葵杉 翔太(gc7634
17歳・♂・BM
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

 店内に流れる静かな音楽が、耳に心地よい。
 室温は猫たちが快適な暖かさで保たれており、気を抜いて目を閉じれば数分で眠りに落ちそうで、正に『癒しと安らぎの空間』と言える。

「‥‥なるほど」
 六人の臨時教官たちが教えてくれた内容を記したメモを、穂は真剣な表情で見つめていた。
 なにやら声の調子は少々暗いが。
「僕は今まで、大好きな猫に嫌な思いをさせてたんですね‥‥」
 少年は想像してみる。
 自分よりもずっと大きな生物が、大声を上げながら突進してきて、もみくちゃにしてくる様を。
「うわぁぁぁ僕はなんてことをぉぉぉ!!」
「だから静かにしろっ」
 頭を抱えて嘆く穂の頭を、ビリティス・カニンガム(gc6900)がスパンっと叩いた。
「お前、ほんっとうるさいな。猫と仲良くしたいなら、まずそのでかい声何とかしろって」
「すみません‥‥」
 葵杉 翔太(gc7634)の尤もな指摘に、穂は神妙な顔で首肯する。
「まあ口でなんのかんの言っても身につかないだろ」
 そう言って翔太は、先程まで一緒に遊んでいたティグルを抱きかかえて連れてきた。
「ほら、撫でてみろ。そっとだぞ」
 翔太の腕の中で大人しくしている、少々肉付きの良い三毛猫に、穂は恐る恐る手を伸ばす。
 ぷるぷると小刻みに震えながらゆっくりと近づいてくる不審な人間の手に、ティグルは興味深そうに鼻先を近づけてきた。
「焦んなよ?」
 落ち着いた声で釘を差してくれる翔太に頷き返し、穂はティグルを撫でてみる。
 ぎこちなくはあるものの、乱暴さは感じられない。、
「‥‥うん。やればできるじゃないか。そいつも気持ちよさそうな顔してるぜ」
 ビリティスはにやり、と穂に微笑みかけた。
「おぉぉぉぉ‥‥」
 初めての体験に、穂は歓喜に打ち震える。
「人と一緒ですよ。大きな声で騒がれると嫌ですし、そういう風に、少しずつ触れる感じで接するといいです」
 ぱしゃり、と記念すべき感動のワンシーンをファインダーに収めながら、未名月 璃々(gb9751)が言う。
 とその辺りで、ティグルが腕の中でもぞもぞとし始めたのを翔太は察し、そっと床に下ろしてあげた。
 すると穂が心底名残惜しそうにするので、
「猫はマイペースだからな。お前の都合に合わせてくれるわけじゃない。猫の様子を見ることも大事だぞ」
 と慰めてやりながら、肩を叩いてやった。
「翔太さん、優しいね〜」
「なっ、そ、そんなことねーしっ」
 ルティス・バルト(gc7633)の嬉しそうな微笑と言葉に、翔太は顔を紅潮させて狼狽えた。
 猫のようにじゃれ合い出した二人を余所に、穂はさっきの夢見心地が忘れられないようで、あからさまにうずうずとしている。
 しかしここで衝動のままに行動しなくなったのだから、教えたことはしっかりと頭に入っているようだ。
 そんな彼を見て、
「んー‥‥」
 と唇に人差し指を当てながら呟いたのは、エルレーン(gc8086)だ。
「ねぇねぇ穂君」
「ん‥‥あ、は、はいっ」
「ねこちゃんって、大抵はのんびりうにゃうにゃしたいと思うの。だから、こっちから仲良くして欲しい時は」
 そこで言葉を一旦切り、ソファーの一角を丸くなって占領している息吹の側に、ぽふりと座る。
 しばらくそのままぼんやりと過ごし、
「‥‥で、私がいるのにも慣れた所で」
 すぃっと、息吹には見えない位置に隠し持っていたねこじゃらしを取り出し、揺らして見せた。
 すると息吹は、ぱっと起き上がり、左右に揺れるもふもふした部分に猛烈に引き寄せられた。
「‥‥ね? かんたんでしょ?」
 ほわんと微笑みかけるが、既に穂の視線はねこじゃらしの虜になる息吹に釘付けだった。
「まー猫は気紛れだからな。もしねこじゃらしとかに興味を示さなくても、無理強いは禁物だぜ?」
「はいっ。了解ですっ。‥‥ん? どこ見てるんですか?」
「んぇっ!? い、いや、別に、ただ息吹を見てただけだぜ?」
 ビリティスの視線の先が、どうにも一点に集中しているらしきことに感づいた穂。
 変な所で目敏い少年である。
「さて、そろそろ出番ですねっ」
 機を見計らっていたのか、それまで妙に大人しかった最上 空(gb3976)が、颯爽と穂の前に現れた。
 後ろ手に何かを持っているようだ。
「ふふふ。皆さん流石です。でもやはり甘いですねっ。猫の気持ちを理解するには──」
 とここで、隠していた物をばばっと取り出した。
「猫になりきる事が大事ですっ。なので、コレを身に付けて下さいっ」
 穂の眼前に突きつけたそれは、猫耳と猫尻尾。
 つい先程、お店から借りてきたグッズである。
 そんなものが置いてあるのも驚きと言えば驚きだが。
「えっ‥‥えっ?」
 事態が飲み込めていないらしく、きょとん、とする少年。
「語尾に『にゃ♪』を付ける事を忘れてはダメですよ? 貴方は一匹の猫になるのですからっ」
「え、いや、それは、えっ?」
 猫グッズを手にぐいぐいと迫る空。
 どうしていいかわからず、じりじりと後退る穂。
 少年は助けを求めるように周囲に視線を向けたが‥‥返ってきたのは、笑顔、サムズアップ、カメラのレンズなどなど。
「写真は私にお任せですよー」
「いや、撮られたら困りますっ」
「そうですか。残念ですねー」
 どこまで本気か定かではないが、璃々は嘆息混じりにカメラを下ろした。
「さぁさぁっ。コレを付けて『にゃん♪』と可愛く鳴きながら、ネコじゃらしに夢中になるが良いですよっ」
 気がつけば穂の背後は壁で、進退窮まっていた。
 まさか中学生にもなって、小学生くらいであろう女の子に猫耳と猫尻尾の装着を強要されることになるなど、夢にも思わなかっただろう。
 しかし穂が若干涙目になりかけた所で、
「皆さん、飲み物とお菓子の用意ができましたので、良かったらどうぞ。サービスですよ」
 店の奥のドアを開け、店員が声を掛けてきた。
 お菓子、という単語に、空の耳がダンボになる。
「──命拾いしましたね」
 心底残念そうに言い残し、空は店員の方へと早足で向かう。
「い、命拾いって‥‥」
 へなへなとその場に座り込む穂に、
「ドンマイ」
 翔太はぽん、と頭に手を置いてやった。

 ◇

 少年へのレクチャーがひと通り済んだこともあり、一同は各々の時間へと戻っていた。
 カフェスペースではガラス越しに猫を眺めながらお茶やお菓子を味わえるので、一息つくには持って来いだ。
 今は空がケーキを次々と平らげ、その横ではエルレーンがのんびりとお茶を楽しんでいる。

 璃々は本来の目的である、愛猫家向けの雑誌の写真撮影の為に、鈴鳴を被写体として見定めていた。 
「店員さん。鈴鳴の好きなおもちゃはどれでしょう?」
「ボールですかねぇ」
 礼を述べ、早速おもちゃ箱から布製のボールを取り出す。
 鈴鳴の前に転がしてやると、なるほど、確かに抜群の食いつきだ。
 巨体──と言っても縦に長いだけだが──をしなやかに走らせ、バシバシとボールを叩いて戯れている。
 その様子を何枚か写真に収めてみたが、どうやらシャッター音は気にならないらしい。
 お客さんに撮られ慣れているからだろう。
「んー‥‥葵杉さん、バルトさん。もし良かったら、手伝ってもらっても良いですかー?」
 窓際のソファーに、数匹の猫たちと一緒に座っている友人二人に声をかける。
 邪魔をするのは悪い気もしたが、しかし二人は気にした様子はなさそうだ。
「別に構わないぞ。ってか、普通の写真も撮るんだな」
 璃々は変なキメラの写真を撮っている印象しかなかった翔太は、少々意外そうだ。
「どうすればいいかな?」
 足元にじゃれつく琥珀の頭を撫でながら、ルティスが訊く。
「じゃあ、ちょっとこのボール持ってて下さい」
 璃々は鈴鳴が遊んでいたボールをひょいと拾い上げ、ルティスに手渡した。
 鈴鳴はボールを求めてキャットタワーを駆け上がり、ルティスの手の高さにまで追いかけてくる。
「こんな感じ?」
「はい。そのまま、視線がやや上になるように」
 メインクーンの大きな耳が映えるように、璃々はやや下から煽り気味のアングルを狙う。
 シャッター音が、静かに連続して鳴り響く。
 翔太は真剣な眼差しで撮影をする璃々──ではなく、ボールしか見ていない鈴鳴を見つめながら、
「いやーそれにしても、猫はいいよなーほんと」
 と感慨深そうにこぼした。
「翔太さんは猫大好きだよね」
 ルティスに指摘され、翔太は「しまった」とでも言いたげな表情を浮かべる。
「なっ、お、俺は別にそんな猫好きって訳じゃないぞっ」
「猫、可愛いですよねー」
 撮影の手は止めず、璃々も追撃。
「か、可愛いとか思ってないぞっ。普通だよ普通っ」
「猫カフェまで一緒に来たくせに?」
「そ、それは、ぐ、偶然居合わせただけだっ」
「酷いなぁ」
 と言いつつ笑うルティス。
「あ、なるほど。俺とは運命の出会いだった、ってことにしたいんだね? うん、それなら納得だよ」
 そう言ってウィンクするルティスに、翔太はムキになって「偶然だっつーのっ」と否定。
「もう、翔太さんってばロマンチストだなぁ」
 けれどルティスはくすくすと笑う余裕の態度で、翔太を完全に手玉に取っている感じだ。
 本人もそれに気づいたのか、付き合ってられないとばかりに背中を向け、窓際のソファで毛繕いをし合っている天とティグルの所へ戻った。
「葵杉さんは、その二匹がお気に入りですか?」
「そういうわけじゃないけど、ほら、折角だからな。あ、遊んでやってもいい位の‥‥」
 言葉尻を曖昧にしながらなにやらブツブツと続けていたが、もう殆ど意味を成していなかった。
 友人二人に猫を愛でている所を見られるのは恥ずかしいが、今更猫の魅力に抗えるはずもなく。
 半ば諦めながらも、しかししっかりと笑顔で、猫と戯れてしまう翔太であった。

 ケーキをしこたま胃に収めた空は、意気揚々と猫スペースに戻ってきた。
 糖分補給の次は猫成分の補給だ。
 猫用ソファで寛いでいる涼白を、早速確保。
 気難しそうな表情の割に、何をされても動じないのが面白い猫だ。
 その涼白を頭の上に乗せ、次はむっちょんを探す。
 ざっと見渡しても見当たらないので、「むっちょーん」と呼びかけてみると、
『な゛〜』
 と、変な鳴き声が布製のトンネルの中から聞こえてきた。
 もう一度呼びかけると、もぞもぞと姿を見せる。
 しゃがんで顎の下をくすぐるように掻いてあげると、気持ちよさそうに目を細めて『な゛ぁ゛〜ん』と鳴いた。
「むっちょんは相変わらず、個性的な鳴き声ですね♪」
 ちなみにその間、涼白はずっと空の頭の上に器用に座っていた。
「涼白も相変わらず、貫禄の不動っぷりが堪りませんねっ」
 頭の上の涼白を抱っこし直すと、すりすりと頬ずりをしてみる。
 ふわふわ滑らかやわやわな感触が、実に心地良い。
「あぁー、癒やされますねー。俗世の穢れが落ちて、清められる感じです‥‥」
 うっとりとした声と表情。
 そんな空の足に、むっちょんが頭をぐりぐりとこすりつけきた。
「ふふふ、くすぐったいですよむっちょん」
 空はその場に座ると、腕の中に涼白、膝の上にむっちょんという贅沢な環境を構築した。
 正に極楽。
 まあ、しばらくすれば足が痺れ出し、しかしむっちょんが退こうとしないので地獄の苦しみを味わうことになるのだが。

 お茶を嗜んだ後、エルレーンは鈴鳴と戯れていた。
「ふあふあ、あったか、もふもふきゅーと、なの」
 謎の呪文を唱えながら、鈴鳴のお腹をふんわり優しく撫でる。
 触り心地の良い腹毛とやわやわのお腹の感触に、すっかり心が蕩けていた。
 そうして堪能していると、ぎこちなくうろうろしている穂が視界に映った。
 ふと閃いたエルレーンは、穂を手招きする。
「穂君もいっしょに‥‥ふあふあ、あったか、もふもふきゅーと」
「‥‥それ、言わないとダメですか?」
「うんっ」
 無垢な笑顔を向けられ、穂は顔を真赤にしながらも、素直に繰り返す。
 すると鈴鳴は、大人しく撫でられるではないか。
「ねこちゃんがごろごろ、って言ってるの、かぁいいねえ」
 嬉しそうに微笑むエルレーン。
 しかし鈴鳴はお腹を撫でさせてはくれるものの、特に目立った反応はしないため、穂は少々不安そうだった。
 見兼ねたエルレーンは、鈴鳴の尻尾をぴこぴこと揺らして頼み込む。
「ねえねえ鈴鳴ちゃん、穂君ともっと仲良くしてあげてよぅ」
 が、無視。
「お願い、鈴鳴ちゃ‥‥はうっ?!」
 めげずに食い下がり、頬ずりをしようと顔を近づけた途端、鈴鳴の猫パンチが飛んできた。
「う、うー‥‥こ、このように、ねこちゃんのごきげんを取るのは難しいの」
「なるほど‥‥やっぱり油断できませんね」
 エルレーンの誤魔化しを真に受けて、ごくり、と穂は緊張感たっぷりに息を呑む。
「あ、でもでも、それでもねこちゃんはかぁいいの!!」
「それはもちろんですっ」
 力強く肯定する穂と共に、エルレーンはにこーっと笑いあった。

 というやり取りが行われている傍らで、ビリティスは息吹に一心不乱にご執心だった。
 彼女の視線は、ある一点に注がれている。
 猫のオスのタマタマは、それはそれはキュートだったりする。
 しかも息吹のソレはぷりん、と大きくて可愛い。
 故に、彼のチャームポイントとして、去勢を逃れて健在だった。
「すごく‥‥大きいです‥‥」
 思わず呟いてしまう。
 仲良くなる為に、撫でたりおやつをあげたりしながら、慎重に息吹のご機嫌を窺ってみる。
 やがて息吹は気を許したのか、彼女の手をざりざりと舐め始めた。
 今しかない、と思い、『お宝』に触れる。
 ふわぽにょっとした感触が、指先に伝わってきた。
「こ、これは‥‥!」
 得も言われぬ至福の手触りだった。
 しかし感激したのも束の間、さささっと逃げられてしまう。
 見れば、じとーっとした目を向けられていた。
 ただ振り返っているだけなのだが、なんだか責められているように感じるのは気のせいだろうか。
 ビリティスは素直に「ごめんな」と謝った。
 息吹はしばらくそっとしておくとして、ソファで丸くなって寝ている宝を見つけたビリティスは、そっと近づいた。
 尻尾の付け根のあたりを掻いてみると、ぐぐぐっと体が伸びる。
 この箇所を刺激された時の猫の反応には個体差があり、宝はどうやら体が反るらしい。
 面白がってそのまま続けていると、宝が目を覚まし、ビリティスの手に噛み付いてきた。
 敵意があるわけではなく、ほんの甘噛みだ。
「ごめんごめん」
 と謝りながらも、甘噛みされるに任せて感触を堪能する。
 そうする内にだんだんと眠くなってきたビリティスは、宝の隣りで横になった。
 一緒になって丸くなり、
(このまま寝ちまおうかな‥‥猫と昼寝‥‥最高だぜ‥‥)
 静かに瞼を閉じた。

 猫と、友人と、思い思いの時間を過ごす彼ら。
 気がつけば、窓の外はオレンジ色。
 いつまでも続いて欲しい。
 そう願わずにはいられないような、やすらぎのひと時が、ゆったりと過ぎていく──