タイトル:【京都】力継ぐ運命・急マスター:橘真斗

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/08 00:00

●オープニング本文


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『酷な話かもしれないが、お前にはエミタ適性がある』

 そう、俺には親から受け継いだ能力者の適正があった 

『エミタを移植することは人とは違う存在の仲間入りをするかもしれないぜ?』

 間違いとはいえ、人も殺してしまったし何より俺の親父が呼んでいた気もする

『止めはしないが、何かあって後悔しても責任は持たないぞ‥‥』

 後悔はしていない‥‥けど、あいつを止めないときっと俺は後悔する
 
 
「‥‥ぁっ! ここは‥‥」
 一年前、エミタを移植する手術の時に見た夢を回想していた山戸・沖那が目を覚ます。
 ぼやけていた風景が次第にはっきりしていき、手を握られている事に気づいた。
「ああ、沖那‥‥本当によかった」
 手を握っていたのは着物姿の天羽君(あまはのきみ)であり、沖那の本当の母親である。
 ここは丹後にあるUPC管轄の病院だ。
 部屋には沖那と天羽君しかいない。
「俺は確か‥‥タケルと戦って‥‥くっ!」
 全身が軋むの様な痛みに沖那は顔をゆがませた。
 一月前遭遇した沖那に似た男。
 写真で見た富士原・猛であり、そしてキメラとなっていた。
「もう、私から離れないで‥‥あの人を失い、貴方まで失ったら、私は生きていくことができません」
 天羽君の手が沖那の手を強く握る。
 病を患っているにもかかわらず、沖那が入院したと聞きつけてやってきたのだ。
「でも‥‥あいつ‥‥いや、親父は俺が止めなきゃ‥‥。全てがタケルで始まってきているんだ」
 沖那は天羽君の気持ちを察しながらも体を起こそうとするが力が入らない。
 全身がタケルという言葉を発すると震えた。
(「体は完全にびびってるか‥‥」)
「貴方は重体ですから5日間の安静が必要です。それが終わったら、エミタを摘出し破壊します」
 涙を拭った天羽君が沖那が起き上がれないことの説明と共に、力強い目と共に訴える。
「おい、勝手に決める‥‥つつぅ!?」
「む、『たいみんぐ』がわるかったかの‥‥」
 天羽君の訴えに沖那が反論しようとしたとき、病室のドアが開いて平良・磨理那(gz0056)がばつが悪そうに覗き込んでいた。
「お嬢‥‥誕生日のお祝いはっきりいえなくて悪かったな」
「ばか者、よそ様の土地で重体で運ばれるとは何たることじゃ。天羽君から連絡を受けて心配するであろう傭兵も呼んできたのじゃぞ」
 口を尖らせて磨理那が病室に入ると、その後ろにはここ数ヶ月共に戦ってきた仲間がいる。
「皆‥‥」
 嬉しさに沖那の目から涙があふれてきた。
「‥‥お友達がきたのなら、私は帰ります。でも、先ほどの話を忘れないで‥‥」
 沖那と磨理那達を見比べた天羽君は入れ変わるように外へとでていく。
「わかった‥‥」
 去り行く母親の背中に沖那はそっけない返事を返すのだった。

●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
佐伽羅 黎紀(ga8601
27歳・♀・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
鬼非鬼 つー(gb0847
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●半年ぶりの再会
「はい、バレンタインチョコ‥‥」
「あ‥‥ああ‥‥髪、きったんだ」
 山戸・沖那のリーゼロッテ・御剣(ga5669)との再会の感想はチョコへの感謝よりも髪の短くなったことが1番だった。
「うん‥‥いろいろとあってね。覚醒症状も沖那君みたいに変わったんだ」
「そう‥‥なんだ」
 硬い空気が沖那のいる個室の病室を埋め尽くした。
「落ち着いてという前に落ち着いてくれて何よりだ。普通の状態で歯が立たなかった相手に、満身創痍で挑んでも勝ち目がないことくらい分かるだろう?」
 サングラスをずらし、にぃっと白い歯を見せる新条 拓那(ga1294)が硬くなった空気を揉む。
「わかって‥‥る」
 俯きながら沖那は拳をぎゅっと握りしめて拓那に答えた。
「タケルキメラ討伐は回復後、俺達も一緒に戦わせてください。因縁という意味では俺達にだってあるから」
 沖那の握り締めた拳の上に手をのせフォル=アヴィン(ga6258)は協力させてもらえるよう願う。
「昔のことで責任おっているとかなら、勘弁だぜ‥‥でも、ありがとう」
 乗せた手を握り返し、沖那は初めて笑顔をみせた。
「沖那、お前が戦ったタケルキメラについて聞かせて欲しい。俺達が共に戦う相手なんだからな?」
 麻宮 光(ga9696)が両手を組み、壁にもたれかかっていた体勢を戻して沖那の近くへ寄る。
「ああ‥‥あいつは阿修羅のように六本の剣を自分の近くに舞わせて攻撃し合わせて戦ってきていたぜ」
「元々能力者のタケルさんにそんな力があったとは思えませんね。LHで調べていきます‥‥リーゼさん、お見舞いよろしくお願いします」
 沖那の答えから、疑問の湧いてきたフォルは荷物を整えるとすぐに病室をでていった。
 フォルは沖那がエミタ移植を行った病院へと向かう。
「沖那、おまえの報告書を読んだ。戦死者のエミタを引き継ぎながらも戦っている奴は他にもいるんだぜ?」
 拓那はフォルが出て行ったあと、ファイリングした報告書を沖那へと渡した。
 そこには悪夢に苦しむ男の姿と真実を得ようとする傭兵達の姿がある。
「こいつと‥‥話をしてみたいな」
「なら、死なずに生き延びてラストホープまで来ることだ。そうすれば出会うことだってできる」
 光は沖那の呟きに一つの答えを返した。
 選択肢の中の一つとして。
「でも、それがすべてじゃないから‥‥。怪我が治るまでゆっくり考えましょう? それまで傍にいるから」
 リーゼは沖那に微笑んだ。
 重体回復まであと5日‥‥。
 
●母と子と
「人間社会って不便だな。自分の気持ちに嘘なんてつきたくないんだが‥‥お前さんはどうだい?」
「神を守る狛犬に鬼の気分はわからないな‥‥本題を言うといい」
 沖那の病室まで来ていた平良・磨理那(gz0056)に顔をあわせることなく、鬼非鬼 つー(gb0847)は病院の前で八洲・狛と顔をあわせていた。
 己が想いよりも一人の少年の未来を優先したのである。
「聞きたい事は富士原猛についてさ。沖那の話ではキメラで出てきているらしいからな。決着をつけさせてやるためにも情報をくれ」
 ぐびりと自前の酒を飲み、手間賃といわんばかりに一升瓶を狛へと渡すとつーは目を細くして見据えた。
 狛が一升瓶を受け取りしばし考え込んでいると、天羽君が出てくる。
 その後ろには佐伽羅 黎紀(ga8601)が付いて着ていた。
「狛。この方が私に話があるそうですから屋敷まで戻ります」
「御意。こちらへ」
 天羽君へ礼をした狛はとめてある車のドアを開けて天羽君を乗せる。
「俺も便乗させてもらおうかな。答えを聞かせてもらってないからな?」
 黎紀が乗ったあと、ドアを閉じる前につーも乗り込んだ。
 車は天橋立を目指して進みだす。
「不躾なことを申しますが、天羽君様。子を失うまいとしての言も一方的な押し付けは愛情の重さに子が倒れますよ? 何より今の沖那さんは貴女様を母親として受け止めきれていないのですから‥‥」
 景色が流れ出してから、黎紀は隣に座る天羽君へと言葉を選びつつも率直に意見を述べた。
「わかっています‥‥でも、今の私には何よりもあの子を失うことが恐ろしいのです。戦いに身を投じさせないように出雲へと預けたのですから‥‥」
「親のエミタを受け継いだ沖那は今戦いに出ている。そして父親を超えようとしているんだ。それを応援するのも親の務めじゃないのかい?」
「戦い方としては攻防一体。返す刃を持って攻めに出る戦いをするお方であった。六本の刀剣を状況によって使い分け、更に相手を虚を突く攻めもできる。まるで腕が6つあるかのようなものだった」
 押し黙る天羽君に変わり運転をしている狛がつーへと答えた。
 すぐさまつーは携帯を鳴らし、仲間へとその情報を渡す。
「あの‥‥もう一つ。沖那さんに兄弟とかいませんでしたか? 彼が昔見た夢‥‥自分とタケルが女の人を取り合う夢というのものがあったそうで。天羽君様は何かご存知なのでしょうか?」
 黎紀の言葉に天羽君も狛も固まった。
 電話をかけながらもつーは二人の会話に意識を集中させる。
「沖那には‥‥双子の兄がいました。‥‥能力者の適正もなく山奥で蛇キメラが襲撃してきた際に行方知れずとなりました。討伐をしてその後探したのですが結局死体すら見つからない状態です‥‥」
 静かに天羽君は過去を語りだす、偶然か必然か一般人であった兄が存在したというのだ。
 生死不明であり、どこかで生きていると天羽君は信じているという。
「沖那さんを預けたのはその後‥‥ということですか‥‥」
 過剰な愛情の裏に隠された真実を黎紀は受け止めながら、窓の外を流れる景色をただ眺めだした。
 
●予測
「ふう、タケルは、親父ねえ? また、面倒な事だな。血縁だから、やりにくいとは、思うが此処で、決着をつけないと前へ進めない気もするな」
 丹後の沖那がタケルキメラと戦ったといわれる場所で神無月 翡翠(ga0238)は周囲を眺める。
 血飛沫が当たりに広がり、死闘のあったことを雄弁に物語っていた。
「ここにいましたかー刀の出所を〜探ってきたのですがー、丹後にーあった住所は出鱈目でしたね〜」
 ラルス・フェルセン(ga5133)は京都市で売られていた妖刀キメラについて探りを入れ直していたが、たどり着いた住所は銭湯だったらしい。
「収穫なしか‥‥目撃証言はちょこちょこあるが何かを探しているらしいという感じが多いな」
「狙いはー沖那君でしょ〜かー?」
 二人は情報を出し合い推理を広げた。
 結論として沖那を狙っている可能性はゼロでなく、町外れから町のほうへ目撃情報が移動してもいた。
「目撃証言でいくと病院に近づいてきているな。治るまで待っててくれればいいが」
 地図と照らし合わせを行った翡翠は頭を掻いた。
「天橋立付近にいるのならー海水浴場で叩きましょうか〜おや、つーさんから電話のようですね。もしもし〜」
 磨理那のところで話をしたかったラルスだが、時間の都合上後回しにせざるを得ない。
 そう思ったとき、つーからの電話がかかってきた。
 
●始まりの場所
「ここで聞き込みをしたのもずいぶん前になりましたね‥‥」
 ラストホープにあるULT関連の病院へ入りフォルは一人呟く。
 沖那が暴走をし、人を殺めてから彼を知るためにこの場所を訪れていた。
 死んだ能力者からエミタが摘出され、沖那へと再移植された場所。
「エミタにはどんな戦い方をしたり、どういう戦闘が得意だったかが記録されるといってましたね」
 病院を歩き回り、以前話をした医者を探していると当時の記憶がよみがえってきた。
「そうか! タケルキメラはタケルとなった沖那君のスタイルと一緒ということになる」
 足を止めて、フォルはUPC本部へと向きを変える。
 タケルとして戦ってきた沖那の戦闘記録、それが一番の鍵になるはずだ。
 UPC本部に到着し、依頼の履歴を眺めていると富士原・猛のものもいくつか見つかる。
「死亡原因は名古屋大規模作戦中に、九州方面から攻めてきたヘルメットワームを近畿地方で迎撃中に‥‥ですか」
 KVにて撃墜され、埋葬されたと記録では残っていた。
「生身の戦闘のほうが得意であったとありますね‥‥」
 記録を読みながら、フォルはできる限りメモを取り、最終決戦へ生かそうとする。
 このとき、沖那が病院に運ばれてから早三日が過ぎようとしていた。
 
●少年の出した答え
「何度もボロボロになって失敗した経験は俺にだってある。それでも「力」を一度得て、繋げる縁ができた以上知らん振りはできないさ」
「ああ‥‥俺もそう思う」
 沖那は拓那から話を聞きつつ、ポケットから一枚の写真を取り出す。
 紫陽花の花に囲まれながら仲間と共に撮った写真だ。
 この日、力に怯えながらも責任を果たさなければならないと誓ったことを思い出す。
「沖那さんは元気していましたか? 単独特攻が楽しいのはわかりますけど、頼ってくれないと私達がすねますよ? あ、それともリーゼさんに看病してもらいたかったのですか〜?」
「違う! 入ってきて早々何いってるんだよっ!」
 病室へ顔を覗かせにきた黎紀は機関砲のように沖那へ言葉をぶつけ、トドメにデコピンまで決めた。
「大分治ったようじゃないか‥‥。時間もないから手短にいくぞ。どうやらタケルキメラはお前さんを探して町の方まで姿をだしているらしい。沖那、人間の子よ。力持つ理由を何と考え、この状況をどうするつもりだ?」
 花を持ってきたつーが黎紀の後ろから病室へ入り沖那へと手渡しながら問う。
「シクラメンの花‥‥花言葉は『絆』だよ。沖那君」
 リーゼは沖那の手を握り、力強い瞳で見つめた。
「私は武者修行を推奨しますよ。この一件を死なずに終えてもキメラに狙われる現象が終わるとは思えませんから‥‥天羽君の言も愛情なんですよ?」
 俯いて固まる沖那に黎紀は一つの提案を行う。
「俺は戦災で妹を家族を亡くしている‥‥最初、この力を持った時「復讐」みたいなことを考えていたと思う。でも、今はどうかといわれたら判らないよ」
 静かになった病室の時を動かすように光が沖那を見ながら言葉を紡いだ。
「ただ‥‥今は俺の力で誰かが笑っていられるなら、失ったものの分使えるのならいいと思っている」
「失ったものの分‥‥か。俺はこの手で他人の未来を削って生きてきた‥‥だから、どこかで死んでいいと思ってもいたんだ」
 沖那はゆっくりとだが、自分の答えを口にしだす。
「でも、生きて京都にきて磨理那のお嬢に会って、狛に会って‥‥そして、おぼろげな記憶でしかなかった母さんにも生きていたから会えた」
 静かに語りながらベッドの横に置いてある相棒の夕凪を手に取った。
 出雲の依頼である能力者から手渡された『絆』の証。
「それらを守るために、俺はこの力を持ったんだと今は言える‥‥エミタの主でもある富士原・猛にさ」
 恐怖の対象であった”タケル”を信頼のできる”猛”へと沖那は受け止めた。
「沖那君。どんな道を選んでも自分を信じて前に進んで。私は貴方をずっと見守っているから」
 リーゼは沖那の答えに抱擁で喜びを表した。
 決戦は翌日。
 友との『絆』をもって『宿命』を断つのだ。

●決着
「海水浴場が近くて助かったぜ。この季節なら誰もいやしねぇしな‥‥皆さん、無理なさらずに、何かありましたら、下がって下さい。それでは、お気をつけて」
 府中海水浴場に現れたタケルキメラを前に覚醒した翡翠がフォルや沖那を連れて突撃をしていく。
『オレノ‥‥チカラ!』
 タケルキメラは6本の刀剣を浮かばせ、3人を連続して貫こうとけしかけた。
「決着に水を差すような無粋な刀は、消えて頂きましょう。バグアがいかにして貴方をよみがえらせたのかはわかりません。ですが、今一度眠りなさい!」
 【ファングバックル】と【急所突き】を使った攻撃でラルスは刀の一本を食い止める。
「因縁の鎖でつむがれる物語はこれにて終了、だね。さ、これからは君自身が物語を作る番だ。がんばれよ」
「気にせず進め! 理由ある者よ!」
「決着を自分でつけて来んだ!」
 拓那が二本を全力で近づいて体で止め、横に回りこんだ刀をつーと光が【瞬天速】で割り込みながら返す刃で活路を開いた。
「ほら、沖那君。いくよ‥‥これが、俺達の‥‥君の持つ絆なんだ」
 刀剣が舞い、能力者達とぶつかりあう中をフォルに援護されつつも沖那は夕凪を抜き構える。
『チカラ! トリモドス!』
「このエミタは俺のものだ! 俺はお前じゃないっ!」
 タケルキメラも一振りの刀を構えて沖那へと斬りかかった。
 その攻撃をフォルが受け止め、翡翠がタケルキメラへ【練成弱体】をかける。
『グオォ‥‥』
「負けないで! あの時も貴方は負けなかった! 自分を信じて! 最後まで戦いなさい沖那!」
 弱ったタケルキメラへリーゼがSMGを撃ちこみ、沖那もそれにあわせて夕凪を振るった。
 全身に傷をおって負けた相手を仲間と共に戦うことで沖那は追い込んでいく。
『チカラ‥‥オレノ‥‥チカラ‥‥』
 タケルキメラがおされだしたとき、浮遊していた刀を仲間が砕いた。
「今わかった‥‥本当の力は個人の技量なんかじゃない、仲間との絆なんだ! 人を捨てたお前に力なんてない‥‥眠りやがれっ! 親父ぃっ!」
 狼狽しだしたタケルキメラを沖那は一刀の元に斬り裂く。
 一年に渡る”タケル”との戦いが幕を下ろしたときだった。
 
●成長ということ
「磨理那様はー、京都を守るお手伝いをー、沖那君に、これからもして欲しいですか〜?」
 戦いの後、ラルスは平良屋敷にて磨理那とお茶をすすっていた。
 保護観察処分の件がどうなるのか心配だったからである。
「沖那は昨年末より自ら動こうとしておる。周囲に流され続けておったあやつがそこまで考えるようになったのならもう大丈夫じゃろう。処分の方も妾が撤回するよう伝えるのじゃ」
 お茶を置いた磨理那は年齢不相応な大人びた雰囲気でラルスを見つめて答えた。
「そーですか〜。私はー京都について欲しかったのですが〜ねー」
「沖那の力は京都という狭い場所で収まるものでもなかろう。広い世界を見て、それでもこの地で働くのであれば妾の側近として雇用するのじゃ」
 磨理那は言外に『今までは養っていた』ことをラルスに伝える。
 これからは一人の戦士として、沖那を雇う雇い主となるということなのだ。
「たしかにー、それも一つの〜ケジメですねー。お別れはいいのですか〜?」
 お茶を飲み終えたラルスは立ち上がり、尋ねた。
「ここで出て行ったらあやつも去りづらかろう、これも保護者のつとめじゃ」
 磨理那は淡々と答える。
 その目に涙をめいっぱい浮かべ、体を震わせながら‥‥。
 ラルスは何もいわず、静かに屋敷を後にした。
 
 2009年3月初旬、山戸・沖那‥‥ラストホープへ。