●リプレイ本文
●グリニッジ標準時10:00―アメリカ某所上空―
「こちら『夜叉姫』。空域に赤い機影を確認しましたわ‥‥荷物が心配ですが、すみません、そちらはお任せします」
月神陽子(
ga5549)は飛び立った基地から5分とたたずにアスレード(gz0125)のファームライドを捉える。
『アスレードか、この間出たときは派手に暴れたようだな‥‥』
陽子に追随して偵察をしていた須佐 武流(
ga1461)の静かな声が陽子の耳に聞こえてきた。
「私情はあまり挟まないほうがよろしいですわよ? もっとも、そういう私もアスレードには色々と縁がありますの」
『分かっている。右腕一本で勘弁してやるつもりだ。先に牽制しておくぞ‥‥Falcon突撃するっ!』
加速する須佐機を見送り、陽子は眼下に広がる街をみる。
その中のひとつで陽子は1人の少女と死闘を繰り広げた。
「‥‥わたくしね。ラシェルさんのことは気に入っておりましたの。まるでわたくしの写し鏡のようで‥‥」
陽子は小さく呟くと須佐機の後を追うように飛翔する。
赤い機体はスゥーっと雲に紛れるように消えた。
●グリニッジ標準時09:45―輸送機内―
先行偵察に向かったKVの後を追うように、ガヴリールが乗っている輸送機も飛び上がった。
「さて、ここでなんだが荷物検査するぜ。博士!」
「まったく、いきなり何を言い出すかと思ったら‥‥君は子供かい?」
九条・運(
ga4694)がシートベルトをばちんと外して立ち上がったのを見て、ガヴリールは本を片手にため息をつく。
運よりも年下に見えるガヴリールの方が内面は大人だった。
「ファームライドも‥‥気になるけれど‥‥俺は荷物の方を調べたい‥‥嫌な予感がするんだ」
すでにカーゴエリアへと移動しだす幡多野 克(
ga0444)を運も追いかける。
「僕には聞こえなったけど‥‥ドライバーはどうだい?」
「‥‥興味はない」
「今回は不都合満載のようです。スピード調整は適時お願いします。正確にピットインしても爆発炎上なんて笑い話にもなりませんから」
操縦席の方に顔をだした宗太郎=シルエイト(
ga4261)はスポーツサングラスをつけたシルフィードに対し、一声かけてから手持ちの短剣を手渡した。
「あなたと同じ名前の武器です。もし、戦わなければならなくなったときは頼みます」
「‥‥了解」
シルフィードは宗太郎から『シルフィード』を受け取ると一瞬、宗太郎を見返すがすぐに目の前に視線を移して返事をする。
「仕方ない、僕も見に行こう。君達に触られてせっかくの届け物がムダになっても困るからね」
読んでいた分厚い資料を閉じるとガヴリールも立ち上がってカーゴスペースへと足を運ぶ。
「ばらさなければいけないのがコンテナ10個かぁ。スペースをとらない様に交互にやらないとな」
「そうだね‥‥確実にやっていこう。片付ける‥‥方が、大変だからね‥‥」
月村新一(
gb3595)と五十嵐 薙(
ga0322)もそろって席を立った。
シートには誰もおず、操縦席のシルフィード1人だけになる。
「俺は‥‥ただ飛ぶだけだ」
それは孤独を感じた自分に対する戒めのような呟きだった。
●グリニッジ標準時10:00―輸送機周辺空域―
『FRと交戦するのは、初めてなんですよね‥‥気を引き締めないと』
陽子から連絡を受けたクラーク・エアハルト(
ga4961)は輸送機周囲を警戒した。
『‥‥こちらのレーダーに敵機の反応はない。進路は特に変えずに行く』
「そちらはよろしくお願いしますよ。シルフィードさん」
確かな信頼をこめて、クラークはシルフィードに返事を返した。
「今度こそ風穴をあけてやりたいけど‥‥今は任務遂行だけを考えよう。宗太郎君‥‥空は僕に任せて‥‥」
月森 花(
ga0053)は唇をかみながらウーフーのジャミング中和装置を起動させる。
恋人共に戦う三度目の敵に花は冷静に状況を判断した。
「側面からファームライドが来る。後方からもヘルメットワーム3機とキューブワーム1機が接近中」
花はG放電装置をファームライドへ牽制で撃ち込むと共に、ジャミングの中和されたレーダーに映る識別信号から目標を割り出し、鈍名 レイジ(
ga8428)へと知らせる。
『軍学校の入学式には似合いの客だが、招待状がないからお帰り願うとしようか!』
須佐機と陽子機の攻撃をツインブーストを使用したアスレードが回避をしつつ輸送機に近づいてきた。
2機では足止めに厳しい。
『月森、ポジションチェンジだ。後ろの奴は任せたぜ! 花束もって挨拶をしてくるぜ』
レイジ機がペイント弾を仕込んだR−P1マシンガンを構えブーストで加速していく。
「了解、クラークさんも僕と一緒に後方の排除からお願い」
『ええ、キューブワームを先に片付けましょう。Good Luck』
輸送機の後方にレイジ機と入れ替わって張り付いた花に対し、クラーク機が掛け声と共に旋回してキューブワームの方へと向かった。
●グリニッジ標準時10:15―輸送機カーゴエリア―
「かなり狭い‥‥。スペースをとらないように交互にやるしかないな」
月村が大きくため息をつく。
いざ、異常があり戦闘することを踏まえるとカーゴエリアで空けれるコンテナはせいぜい二つ。
それ以上を空けるためには乗員スペースまで持っていかなければならなかった。
「一種類ずつ‥‥確認は完了ですね‥‥医療品に異常がなくて‥‥よかったです」
医療品のコンテナを確認していた五十嵐がほっとする。
「博士との再会、対キメラ兵器とくると‥‥ゴキメラがでてきそうだぜ」
「あれは駆逐したはずだよ。二度が来るなんて考えたくもないね」
運の嫌な予測に再梱包されたコンテナをコンコンとガヴリールが叩くと、別のコンテナからコンコンと音が返ってきた。
「今‥‥聞こえた」
克が敏感に反応し、コンテナに近づく。
「下がっていろ‥‥魚座の手回しな気がする。姑息でいて、こっちを試しているような奴の!」
宗太郎が黒い皮手袋をはめながらガヴリールを下がらせた。
音がしたのは食料品コンテナの1つ、克がゆっくりと音源を解放する。
『シギャァァッ!』
黒光りする50cmくらいのゴキメラの幼虫が10匹飛び出してきた。
「な‥‥なんだこの数は!?」
「やっぱり、でやがったか。感動の再会だぜ! この黒蟲ども!」
驚く月村を他所に期待通りでワクワクしているのか覚醒していた運はにやける。
食料品は食い荒らしたゴキメラがカサカサカサとカーゴエリアを這い回った。
「素早い‥‥だが、俺の方が上だ!」
宗太郎がカーゴエリアの出入り口に陣取り、床を這うゴキメラを蹴り上げ浮かび上がったゴキメラに抜き手を放つ。
腹側の柔らかい部分を宗太郎の手が貫きグジュリと緑色の液体があふれ出した。
「はぁっ!」
貫いたゴキメラの幼虫をもう一方の手で殴りつけて飛ばす。
「この大きさでこの数なのはいいが、成虫になったらどんな大きさに‥‥」
「1mを超えるぜ。こんな生物生かしておくわけにはいかないぜ! 俺の正義の心がそう訴えるんだよ!」
蛍火を振るい、運はゴキメラを斬り刻んだ。
「正義の心がなくても、想像しただけで倒す理由になる。成長しきらないうちに潰そう」
運によって弱められたゴキメラを月村のソニックブレードが止めを刺す。
数だけは多いがゴキメラの戦闘力は幼虫であるためかそれほど強くはなかった。
「大丈夫‥‥私でもやれる‥‥よね」
梱包を解いた荷物に被害が出ないようによけていた五十嵐も恋人からもらった首から下げられている指輪を握ると覚醒をする。
「虫ごときに‥‥大事な物資を無駄にはさせない!」
克が『二段撃』と『流し斬り』のあわせ技で一撃でゴキメラを倒していく。
短期決戦‥‥それが能力者たちの共通の思いだった。
●グリニッジ標準時10:20―輸送機周辺空域―
『おらおら、どうした? そんな攻撃はかすりもしねぇぞ!』
わざとらしくオープンチャンネルにしたアスレードの声が大空に広がる。
3機のKVの攻撃を強化されたブースターをふかし回転してよけていた。
背面をとろうにも慣性制御でよけられ、代わりに長距離バルカンのような攻撃を確実に当てにくる。
「さすがゾディアックだけある‥‥強い。だが、俺は俺の仕事をするだけだ」
須佐は回避しきれず削られていくことが多い現状を見て動きを変えた。
後方から来ているというキューブワームが近づくことを鑑みて先に落とすべき相手を悟る。
『くくく、そろそろ楽しいイベントが輸送機で起きてるはずだぜぇ?』
離れようとした須佐へアスレードから嘲笑が投げかけられた。
「何を仕掛けた! アスレード!」
『入学式祝いさ‥‥輸送機が落ちるのが先か俺がグリーンランドに着くのが先か、試してみるかぁ、傭兵!』
『なるほど、手の込んだことをいたしますわね。ですが、私たちが5人だけですべてをまかなっていると思っては大間違いですわ‥‥あなたの目論見は外れたのですよ』
須佐に対して意識を向けていたアスレードに陽子機からのソードウィングが襲い掛かかる。
ザシュと強化されていたファームライドすらも捕らえ、斬り裂いた。
『下等生物がぁっ!』
カウンターとばかりにアスレードもソードウィングを繰り出し陽子機を斬り返し、光学迷彩で姿を消す。
「陽子!」
『あんたは後ろ狙えっ! 輸送機がやばいならそっちが優先だ。中にいる奴に怪電波の影響がでたら沈むぞ!』
『ええ、この夜叉姫はこれくらいでは落ちませんわ』
須佐が叫ぶと同時にレイジ機がファームライドの消えた空間にペイント弾を叩きこんだ。
姿が見えなかった機体の輪郭がペイント弾によって浮かんでくる。
「さっさと片付けてくる。あんたらも深追いするなよ!」
須佐はアスレードの相手二人に任せ、クラーク機たちの援護に回った。
『人様の物に手ぇ出すのも大概にしとけよ! アスレード!』
『なぁんてな? ‥‥遊びはここまでだ。せいぜい輸送機の中の奴らが食われてないことを祈りなぁ!』
ペイント弾に続いて本攻撃に移ろうとしたレイジ機たちの前に煙幕を張る。
レーダーからはファームライドが高速でグリーンランド方面に動いていくのが映し出されていた。
●グリニッジ標準時―10:30―
「螺旋弾頭ミサイルを‥‥受けなさい」
クラークがヘルメットワームに向けてミサイルを放つ。
キューブワームによる頭痛で操縦がしづらいがそれでも輸送機を射程圏内に入れるわけにはいかなかった。
『僕の方で‥‥キューブワームは‥‥片付けるよ』
キューブワームから放たれるジャミングに頭を痛めながらも花がG放電装置を震える手で狙いを定めてキューブワームを撃った。
射程内に捕らえ、タイミングを計って撃った二回による光の帯を浴びるとキューブワームは爆発して消える。
「ありがとうございます‥‥これで、楽になりますね」
『おい、こっちは大丈夫か? アスレードは逃げたようだが輸送機の中に何か仕込んだらしい』
「何ですって? シルフィードさん、そちらの状況を連絡してください」
援軍に戻ってきた須佐機の支援を受けたクラークが輸送機のシルフィードに連絡を取った。
ヘルメットワームの排除に遅れて陽子機やレイジ機も来る。
『‥‥こちら、シルフィード。今、カーゴエリアで戦闘中。‥‥数が多いようだが、凌いでいる』
端的に用件のみでシルフィードはクラークに返事を返した。
「了解しました。安全運転でよろしくお願いします」
『‥‥了解した』
グリーンランドまであと1時間半。
何事もないことを願い、5機のKVは輸送機を守り飛んだ。
●グリニッジ標準時―11:15―
「何でこんなにいるの!」
10匹のゴキメラの幼虫を排除し、五十嵐が別のコンテナを開けると。
するとゴキメラの幼虫が10匹、カサカサカサと這い出してきた。
食料品のコンテナのうち、2つがゴキメラによって駄目になっている。
残ったコンテナと梱包しなおしたコンテナに挟まれたスペースで能力者たちは戦わざるを得なかった。
「空中投棄だけは本当に最後の手段にしたいぜ」
ガヴリールを上にあげ、カーゴスペースと座席のある区画を隔てる扉を運は閉じて本格的に戦闘に乗り出す。
敵の攻撃はそれほどでもないが練力の消耗としぶとさが能力者の危機感を煽った。
練力が切れてしまえばゴキメラの牙に自分たちがやられることは明白である。
「ふぅぅぅ‥‥腕を齧られたあの日を思い出すぜ。あんな目にあってたまるかよ」
龍人となった運が蛍火を振るい、逃げようとするゴキメラを『瞬速縮地』で先回りして斬った。
「これで最後と思いたいところよね」
残り練力を気にしながら五十嵐はゴキメラを両手に持った夕凪で一閃する。
「まったくだ‥‥ここの掃除も少しはしておきたいな。いやな匂いがするぜ‥‥」
蛇剋でゴキメラをズシャと床に刺した月村は鼻をひくひくさせると顔をしかめた。
10何匹というゴキメラの死体とそれからあふれ出た体液などでカーゴエリアは異常な匂いに包まれている。
「手とかを洗うというわけにもいきませんからね、到着まで我慢しましょう」
覚醒をといて穏やかになった宗太郎がハーミットについた体液を振り払いながらため息をついた。
「駄目になった荷物のコンテナに死体つめて空中投棄するか?」
「それが早そう‥‥換気もできるし、一石二鳥‥‥」
運が死体と食い散らかされた食料品の入ったコンテナを見比べてふと提案をだす。
克もそれに応じた。
「俺と五十嵐は死体処理をするから、コンテナチェックの方をまかせたぜ?」
「ちょっと‥‥嫌だけど‥‥しかたないね」
月村と五十嵐は3人にコンテナチェックを任せると倒したゴキメラたちを一度空けたコンテナ内につめだす」
『おい、君たち! いつまで僕を外に出しているつもりだ! ゴキメラがいるならサンプルとして、持ち帰らせてもらうからな! おい、聴いているのか!』
ドンドンと扉をたたいてガヴリールの抗議が聞こえるが能力者たちは聞き流す。
(「それにしても‥‥どうして‥‥キメラがこんなところにまで‥‥バグアは予想外に内部へ入り込んでいる?」)
克はコンテナのチェックを続けながら、一人考えていた。