●リプレイ本文
●呼ばれて飛び出て?
「うー、寒いのじゃ」
ラストホープのUPC軍本部受付の一角で平良・磨理那(gz0056)は手に息を吹きかけて暖を取ろうとしている。
「あら、可愛い子ね? 迷子なの?」
磨理那に向かってチャイナドレスを着込んだ銀髪の人物が背をかがめた。
「あっ! 凛華ちゃん、お待たせー♪ あら、その子は磨理那ちゃんじゃいの。久しぶりねー」
チャイナドレスを着込んでいた凛華はナレイン・フェルド(
ga0506)に声をかけられると立ち上がり近づいてきたナレインを抱きしめる。
「そちは紫陽花祭りでカタツムリにさわいどった奴じゃな? 半年振りじゃが覚えていてくれて何よりじゃ」
「この子はナレインちゃんの知り合い? さすがに子供はないわよねぇ?」
「も、もうっ! 凛華ちゃんのばかっ!」
ナレインは顔を真っ赤にして凛華の背中を叩いた。
「もしや、そち達も『らいでぃ』の誕生日に呼ばれた口かや?」
「ピンポーン、そういうことよ。サプライズだから、本人に内緒にしなきゃだめよ」
口元に人差し指を当てながらナレインはウィンクをする。
クリスマスの夜に小さな奇跡が動き出した。
●会場準備
「ライディさんがお財布の心配をしなくて済むように、限りなくリーズナブルに! 料理は皆にお任せだね」
「だからといって、こんなにティッシュで花とか作らなくても‥‥」
篠森 あすか(
ga0126)と愛輝(
ga3159)はテーブルにティッシュと輪ゴムをつかって色とりどりの飾りつけようの花を作っている。
すでにティッシュの花によるピラミッドがテーブルの上に鎮座していた。
「そうだね、じゃあゴミを片付けて飾りつけにはいろうか?」
「俺がやりますよ」
何気なくあすかが立ち、手を飛ばすと愛輝の伸ばした手と触れ合う。
痛いわけでもないのに思わずびくっとして二人はガタガタと椅子を動かしながら退いた。
「ジングルベール♪ ジングルベール♪ クリスマースー♪ いやいや、ここも熱いねぇー」
にししと葵 コハル(
ga3897)はミーティングルームに立つ小さなツリーに飾りを付ける。
「二回目のクリスマス‥‥昔の狭いスタジオがとっても懐かしいよ」
飾りつけをひと段落したコハルがミーティングルームを見回してしみじみとした。
「俺が参加したのは4月からで殆ど昔のスタジオでの放送にかかわってなかったな‥‥」
アンドレアス・ラーセン(
ga6523)も長身を生かした高いところの飾りつけを終え、今はギターの調整をしている。
「あたしも料理ができればいいんだけどねー。和食はさすがに雰囲気合わないかなーと」
飾りつけを続けつつ、コハルは苦笑した。
「あ、飾りは『あっち』にいくつか回した方がいいよな?」
「ライディ君は‥‥気づいてないみたいだから、こっそりね」
アンドレアスは周囲を少し気にしつつ話題を変える。
サプライズの準備はひそかに進められていた。
「了解だ。この夜だけは世界中に幸せが降り注げばいいよな。このスタジオから希望が流れれば‥‥」
チューニングを終えたアコースティックギターをアンドレアスはボロロンと鳴らす。
トントンとリズムをとった後、軽く曲を弾き始めた。
●国際化キッチン
「過剰装備、かな‥‥」
「さすがにー、持ちこみすぎだとー思いますよ〜?」
守原有希(
ga8582)が持ってきた荷物を見て、ラルス・フェルセン(
ga5133)は汗をたらす。
ピザを焼くための小型の石釜を有希は裏口から運んできていた。
それだけでなく、鉄板やらコンロを積んだマイ屋台をライディの家の駐車スペースに運びこんでいるのである。
ラルスが汗をたらすのもしかたなかった。
「炎西、こうですか?」
「あ‥‥はい。おお、そうですそうです。基本がしっかりしているので上手ですね」
一方、夏 炎西(
ga4178)はシーヴ・フェルセン(
ga5638)と共に翡翠餃子を作っている。
翡翠餃子は三角錐の形をした餃子でクリスマスツリーに見立てていた。
皮にほうれん草ペーストを練りこんでいるため緑になっていてよりらしく見える。
「炎西にいわれると嬉しいです。シーヴの数少ない料理です」
まだ、少しぎこちなさが残りながらも丁寧にシーヴは餃子を包んでいった。
「はじめから、全部できる人はいませんから、ひとつずつ覚えていきましょう」
一生懸命なシーヴを見て微笑むと炎西はエビチリなどを作るために鍋のほうへ移動する。
「おお、うちも準備をしなかと! 釜を暖めて‥‥おや、ラウルさんがいないですね」
シーヴと炎西の作業に見とれていた有希がキッチンにラウルの姿がないことに気づいた。
「そーいえば〜、遅いですねー。寄り道してくるとは〜いってきましたがー」
ラルスは茹でポテト、手作りハムのローストなどスウェーデンクリスマス料理を完成させつつ首をかしげる。
「ごっめーん、遅くなったヨ。外の屋台って誰の?」
食材の入ったビニール袋とフラッシュメモリーを片手にラウル・カミーユ(
ga7242)がキッチンの方へ入ってきた。
「心配しましたよ、釜が暖まる前にブッシュ・ド・ノエルを作ってしまいましょう」
「ごめんねー。ライライをびっくりさせるためにちょっと仕込みをね。本場の人間として作るのは負けないヨ?」
有希に対して妙な対抗心を燃え上がらせたラウルは袋を置きエプロンをつけて準備に取り掛かる。
「何を作る気でやがるのか‥‥あ」
「シーちゃん。お肉も食べなきゃだめだよー」
シーヴが袋の中をのぞくと、ローストチキン用の鳥などが見えた。
●聖夜のラジオ
『ライディ・王の「クリスマス・レイディオ!」』
いつもと同じ調子で、いつもとは違う放送が流れ出す。
『先日、予告しました通り、本日はクリスマス特別企画でお送りしています。まずはイタリアから届いたお便りを紹介します』
『
能力者・一般人の諸君、楽しく桃色に過ごしているか!
忌々しい!
が、今日は私の大切な友人たちの誕生会もあるらしい。なので久方ぶりにペンを取ろう!
誰にだって自らを振り返る時が来る
哀しい過去や、思い出せない過去であったとしてもだ
でも今日君たちの周りにいる人は、君の未来への思い出をつくる!
これからの毎日が君へのプレゼントとなるように、君を祝おう!
ええい、忌々しいー!
RN:桃色みんなまっがーれ↓
』
『祝っているのか、悔しがっているのかどちらか判断のつかないお便りですが遠くからありがとうございます』
はるか遠くより届いたメッセージをライディは読み上げた。
『ラストホープ内でしか受け取れないメールをUPC軍の各地方担当者の計らいでこういうことができました。この場を借りてお礼を述べさせていただきます』
UPC軍の特別な計らいにより実現できた所業をライディは心から喜ぶ。
そうしていると、ファックスが動きのメッセージが届いた。
『東北の方からファックスです。『人の可能性を信じてこそ希望への未来が開けるわ』とのことです。RNはありませんがありがとうございます』
ラジオの前の人に見えないとわかっていても直筆でおくられてきたファックスを見せるように掲げる。
『最後となりましたが、南米より届いた希望のメッセージをお送りします』
『
人や子供達に希望を与えてくれるのはやっぱり同じ人と思うのだけど
僕や他のみんなも、常に子供達と一緒には居てあげられない‥‥
だから、離れていても子供達に希望を持ってもらいたくて‥‥
僕はこの物語を贈るんだ。僕は今度いつ来られるか分からないけれど‥‥みんな、これからも元気でね!
』
快活な少女の声がライディのスタジオからラストホープ全土へと流れ出した。
●傭兵だらけで人生げいむ
「こ、こども二人出産っ」
「し、新婚旅行‥‥です」
止まったマスに書いてある文字を読んでいるだけのはずだが、あすかもシーヴも顔をまっかにしている。
クリスマスソングが流れる中、ミーティングルームではすごろくをベースにした人生を追体験するボードゲームを遊んでいた。
「ゲームでは普通に恋愛したいとす‥‥」
「まったくだぜ、おっ企業買収!」
ルーレットに運を託して回す有希とアンドレアスの目はどこか真剣である。
だが、あすかやシーヴとは違い、二人ともお金は入るが結婚などには中々止まれなかった。
「むむむ‥‥妾が出遅れるとは何たることじゃ! あー、借金で回らぬー」
一方、磨理那は一番にはまっているがルーレット運に恵まれずに地団太を踏んでいる。
「もう、落ち着かなきゃだめじゃない〜♪」
あまりにも可愛い姿の磨理那をナレインは抱き上げて宥めた。
『曲も終了したところで、まずはラストホープの皆さんからのメールをお届けします』
BGM代わりに流れていた曲が終わり再びライディの声が流れる。
『
自分にとって大事な人を失ってから
ずっと無理に生きることを続けてきました
生きる道を選びながら、心の底では何時死んだって
構わないと思っていました
今まで『死』しか見てこなかった自分ですが
やっと生きる希望を見つけられました
今度は、俺が貴女の生きる希望になれますように
RN:熱くなり難く冷め難い珈琲
』
『
まだまだ先は見えないけどこれからは『最後』じゃなくて『最初』の希望になれるよう
来年ももっともっと頑張りたいと思う
RN:風桜
』
『
私の宝物に希望を与えてくれたキミに、心からの感謝を
二人歩む道が、希望に溢れていますように
and Merry Xmas!
RN:猫にまっしぐら
』
『
遠すぎて届かないと感じる時もある
だけど必要なんだ
見上げながら倒れるまで走り続けたい
RN:空飛ぶ海賊
』
『
God jul!
世界中の人が祝う今日は、希望に満ちています
何だかウキウキする気持ちを、明日も明後日も感じていたい
その隣には優しい風がありますように
RN:紅の炎
』
『
今晩はライディさん、特別企画放送おめでとう御座います
自分は傭兵1年目の年末を迎えてます。悲しい事も嬉しい事も体験しました
その中で生きる事自体希望と思うようになりました
辛くても生きてれば次がありうる
だから、希望なんだと思います
そして、その希望を教えてくれた全ての人に有り難うを伝えたいです
RN:無節操な菓子屋
』
『
初めての手紙になるのじゃ
荒れかけた土地ではあったのじゃが、傭兵という希望が救ってくれたのじゃ
これからも妾に希望を見せて欲しいのじゃ
らじおねーむ:京の姫
』
『共通テーマである、希望のお手紙をお送りしました。私が始めた『希望の風』がこうして皆さんの希望を届けられたことが今とても嬉しいです』
『世界はまだ荒れている場所もありますが、能力者が人類の希望となるように‥‥その能力者の希望となるようにこの番組を続けていきたいと思います』
ライディのメッセージに皆が集中しているとき、愛輝はあすかの隣にそっと寄り添った。
「これからも、俺の傍に居てくれますか? 俺と‥‥つきあって下さい」
「うん‥‥そばに、いさせて。私からも、お願いします」
愛輝が小さな声で告白するとあすかも俯き顔を赤くしながら答える。
「その言葉が聴けてよかったです」
久しくすることのなかった微笑を愛輝は浮かべた。
「その笑顔が‥‥大好きだよ」
あすかは愛輝の服の袖をきゅっと握る。
『‥‥長らく話してしまいましたが、ちょっと休憩。リクエストは大人気のこの曲ロッタ&ミユで『ミラ☆クリ』をどうぞ』
二人を祝福するかのような曲がラジオから流れ出した。
●一言メッセージ紹介
「いやー、ライディさん〜。折角なので食事をお持ちしましたよー。シーヴはすこーし調子が悪いみたいなでー」
曲の流れている間にラルスがグロッグと牛乳粥を持ってくる。
「そうですか‥‥大丈夫、ならいいんですが。ラルスさんは楽しんでいますか?」
「あはー、それがですね〜。新車で崖からダイブして入院してしまいまたよー。現実でなくて〜何よりですー」
努めて気楽に振舞おうとするラルスだったが、遠い目をしたのをライディは見逃さなかった。
「えと、がんばってください」
「はい〜、次の人生はまっとうに生きたいですねー」
「そんな他人事のようにいわないでくださいよ」
にこにことしているラルスを送り出すと、ライディは番組を再開させる。
BGMを下げてマイクの音量を上げた。
『いかがでしたでしょうか? 明るいこのクリスマスに似合ったいい曲だと私は思いますが皆さんはどんな印象を受けましたか?』
『ホームパーティ会場は盛り上がりをみせています、今私の目の前にも参加者の方に作っていただいた牛乳粥とグロッグと呼ばれるホット赤ワインがあります。放送中なのでアルコールは飛ばしてもらっていますよ?』
聞かれてもいないが、ライディはあえて訂正をいれた。
『では、次のコーナーに参ります。世界各地より送られてきました一言メッセージを読み上げさせていただきます。まずはとある別荘でパーティをしているところから‥‥』
『嫉妬心は世界を救う RN:ポセイエロン』
『願わくば、異星人が自分の星に帰りますように RN:寿茶店』
『生涯のパートナー、探します RN:銃騎士』
『今日の再会が、人生の出会いに繋がりますように RN:眼鏡紳士』
『おおきくなりますように RN:匿名希望』
『一人身パーティが開かれているようで、出会いに関する希望が多いようですね。興味のある方はメッセージの主を探してみるのもいいかもしれません。続いて中国からです』
『愛する者と共にこの騒がしくも愛すべき世界でこれからも生きてゆきたい RN:戦国最強』
『戦いが終って‥‥皆が他愛ない、大切な時間‥‥過ごせる様に‥‥取り戻せる様に‥‥ RN:匿名希望』
『大切な仲間、守りたい時間‥‥それがあれば私は希望を失わない RN:青薔薇 』
『愛するあの人と共にいつまでも変わることなく寄り添って大切な時間を過ごしてゆきたい RN:微笑の研究員』
『誰もが笑って暮らすのが当たり前な世界 RNなし』
『ハーレムルート突入。エロゲーゴッド的な意味で RN:体の半分は妄想で埋まってる』
『『ない』と思った時点で、見えなくなってしまうものです。 そして『ある』と思う限り、けして消えたりはしない RN:猫まっしぐら』
『無限の希望を酒と共に飲むぞ! 乾杯! RNなし』
『諦めない限りそれがいつか見つけられるモノ RN:hpa』
『こちらは決意に近いものを私は感じました。希望は与えられるものではなく掴むものという意思のある方が多いのかもしれませんね? 続いて南イタリアよりお送りします』
『愛し愛される事で心は満たされ、満たされた心から希望が生まれる。こんなあたしを愛してくれて‥‥有難う RN:Schwarze』
『変わらない毎日が、いつまでも続くこと‥‥それだけで‥‥ RN:フルーツ』
『希み望むコトを諦めなければ、絶対に無くなったりしないモノ。きっと皆の胸にある RN:なし』
『希望‥‥ですか。この良き日に同席できたこと。それ自体が希望かもしれませんね RN:学生騎士』
『その他【笑顔】が希望だというメッセージを多くいただきました。笑顔は人を力づけるものですね。私も皆さんの喜んだ顔に何度も救われてます。進むべき先に希望を見出せたとき人は諦めずに立ち向かうことができるのでしょう』
ライディは自身で経験してきたことも含めた気持ちを電波に乗せていく。
『そんな、希望を持っていって欲しいという思いを込めて一曲お送りします。当番組スタッフであり、元へヴィメタルバンドのギタリストであるアンドレアス・ラーセンさんのクリスマスソング生演奏をどうぞ』
『オーケー、直接ラジオに載せるなんて中々ないからちゃんと聞いてくれよ』
スタンドマイクに話しかけ、アンドレアスはギターを弾き始めた。
世界平和を祈る『争いを止めよう』、『望めば戦争は終わる』というポジティブなメッセージの添えられたクリマスソングを‥‥。
●プレゼント交換
「よーし、それではプレゼント交換いくヨー」
「いいわよぉ♪ KIAI十分いれてきたんだから」
ラウルがMCよろしく立ち上がり、集まっているメンバーに声をかける。
客としている凛華も怪しげな大きな箱を取り出して微笑んだ。
「輪になってー、ぐるぐるまわすよー。もう、期待させて落とされることなんてないんだヨネ」
ラウルは先ほど遊んだゲームでは『宝くじ1等大当たり! ‥‥するも券紛失。失意の1回休み』とか『結婚式当日、相手失踪。絶望の2回休み』などを経験している。
そのため、どこかムキになっているように見えた。
『曲が終わりまして、次のメールコーナーに移ります。ラスト・ホープの皆さんから『おめでとう』を送ります』
「おっと、悪いな。俺も入れてくれ」
スタジオからゆっくりと出てきたアンドレアスがプレゼント交換会に混ざる。
「大勢の方がー楽しいですからね〜」
紅茶をテーブルに注ぎラルスが微笑んでいるあいだもプレゼントは流れ出した。
『
若い子っていいですよねー
元気いっぱいで、こっちまで元気になっちゃうというか
嬉しそうな笑顔に「おめでとう」って言ってあげるのも
自分が一緒に嬉しくなれるからで
ずーっとずーっと
いろんなことにおめでとうって言ってあげられるくらい
そばにいたいです
RN:葉っぱ
』
『
やっと携帯から送れるようになりました
私が是非おめでとうを言いたい方は二人
一人はクリスマスに恋人と会えた方
一人は今日、誕生日を迎えられた方
顔を見、声を聞けば希望が湧いてきます
来年もどうぞ、お幸せに‥‥
RN:大熊猫
』
『
好きな人が結婚しました
憧れで追いかけていただけれど、いざ祝福できるかとわれると普通にはできません
だから、このような形でお祝いをさせていただきます
おめでとう。末永くお幸せに
RN:蓮華
』
『出会いも、別れもおめでとうといえるようなそんな人であり続けたいですね。人の幸せも素直に喜べるならこれ以上のことはないと思います』
ライディがコメントを述べ終わると流れていたプレゼントが止まる。
「すとーっぷ!」
ラウルの声で、プレゼント交換が止まり各自の手元にプレゼントいきわたった。
「それじゃあ、あける‥‥です」
シーヴが手に持ったプレゼントの中身はモノトーンのシンプルなボックス型オルゴールだ。
「お、それは俺のプレゼントだな。綺麗な音色がするぜ?」
確認したアンドレアスがニヒルに笑う。
「さて、俺のはどんなかな‥‥」
アンドレアスが手にした袋からものをだすと緑と赤の塗箸だった。
「それはうちが選んだのですな。プレゼントとかにも最適ですよ」
「相手探しからな?」
有希の口から出た『プレゼント』という言葉にアンドレアスは眉を狭めて肩を叩いて返す。
「うちは‥‥こ、これは」
プレゼントをあけた有希の顔が固まった。
中から出てきたのは白と赤のサンタ衣装‥‥しかも、ミニスカである。
「あったった限り『大切に』使ってくださいね〜」
ラルスの笑顔が今の有希にはまぶしすぎた。
「では〜、私もーあけましょう〜」
ラルスが箱を開けると、また箱、さらに箱とロシアのおもちゃのように箱が続き最後に水晶のペンダントが出てくる。
「大兄様が当てたですか‥‥なんか面白みにかけるです」
「そんな〜冷たいこといわないでください〜」
ラルスは妹からの冷たい視線を受けていつもの笑顔が崩れた。
「じゃあ、私もあけるわね♪」
「ナレインちゃん一緒にあけましょ♪」
凛華とナレインは姉妹のようにはしゃぎつつプレゼントの袋をあける。
何度もいうようだが、この二人は男性だ。
「あら『肩叩き券10枚』?」
「私は香水ね。青薔薇の色が綺麗ね〜」
「あっ! 凛華ちゃん。それは私のプレゼントよ? 嬉しいっ!」
ぎゅっとナレインと凛華は抱きしめあう。
「ナーちゃんがもらったか叩き券は僕が入れたのだよ。いつでもどこでも駆けつけるから使ってね」
抱き合う二人にかまわずラウルはサムズアップした。
「そういえばラウルのプレゼントは何でやがるですか?」
「僕のは中華焼き菓子詰め合わせだー。甘いの? ねぇ甘いの?」
「はい、餡が入っていますから甘いですよ?」
お菓子を見つけてラウルの顔が子供のように輝く。
「炎西にわたったのは私のねぇん♪ 中身はうちのウェイトレス服よ。マネキン付♪ サイズ合わないようならお店にきてね。交換するからぁん」
「え‥‥こ、コメントに非常にこまります」
喜ぶラウルを見てほほえましくなっていた炎西の顔は凛華の言葉で凍りついたのだった。
●ラストメッセージ
『番組も最後となりましたが、世界からのメッセージを改めて発表させていただきます』
『
ちょび髭が似合う英国紳士をめぐる「ここがあの女のハウスね!」な感じで殺傷沙汰上等の泥沼三角関係の末
幸せな家庭を築くも2年と持たず愛が冷め
真実の愛を求めて旅に出るけど結局大切なものは一番近くにあったね
とかそんな感じのB級メロドラマみたいな恋愛をしたい
RN:スイーツ
』
『
一時期輸送機に乗っていたことがあるのですが
敵機に襲われたときにやって来てくれる戦闘機には
希望を見出したものです。まあ、基地に帰ってから
絶望を味わいましたけど
RN:元自衛官(46)
』
『
‥‥ん。希望。諦めない事。望む事。信じる事
‥‥ん。希望。私にとっては。カレー。カレーを。明日も。明後日も。食べたいと思う。心
‥‥ん。希望。どんなに。辛い事が。あっても。腹が空いて。おいしいと思える事
RN:カレー魔女
』
『
なにやら、空の上の異邦人が神の名を語っているようですが
あんなものを神とは認めません
神とは、愛であり、希望であり、救いである
あのような禍々しい行いを救いとは、認めてはいけない
来年こそは、人に希望多き年になりますよう、AMEN
RN:音速牧師(45)
』
『
独りでさびしい人も、一緒にカオスな事をやると元気になれるんだよっ
カオスな試練を乗り越えたカップルは、より強い絆を手にするんだよ
だから今日も僕はカオスを振りまくの
それが明日への『希望』になると信じて
みんなカオスの力で幸せになりますように☆
RN:宇宙的最強ショタっ子
』
『
戦いが終わって、皆が他愛ない大切な時間を取り戻せますように‥‥
そして、願わくば来年もこんな時間が過ごせることを‥‥
RN:金より大切なものはある
』
『
【朝のこない夜はない】って誰かが言っていたね。いい言葉だ
今の戦いばかりの生活を【夜】とするならいつかは戦いとは無縁の人生を送りたいね
RN:これでも漢ですから
』
『
今隣にいる大切な人が
笑顔でいてくれること、かな
それが俺の希望で、願望
それさえあれば、どんなとこでも俺も笑っていられるし
その為ならどんなことでも出来る
RN:英国紳士
』
『さまざまな希望が皆さんから届きました。今回紹介したものはどちらかといえば願望に近いかもしれません』
一息おき、ライディは言葉を紡ぐ。
『辞書で調べますと『希望』は「将来に対する期待。また、明るい見通し」であり、『願望』は「精神分析で、無意識に心の緊張を解消させようとする動機」とあります。この二つが入れ替わってもなんとなく意味は通じてしまいますよね』
『ですから、希望も手に入らないものではなく、願い望むことで心を安心させる要素なのだと私は思います。今日という日をいろいろな形で迎えていると思いますが‥‥』
熱っぽいライディの言葉がそのまま続いた。
『望まない形で迎えていたとしても、希望を忘れないでください手を伸ばして手に入るものを大切にしてください。皆さんの希望はそうして段階を踏むことで手に入るでしょう』
いい終わると、終わりのクリスマスソングが流れはじめる。
『今日の特番はここまでです。皆さん、よいクリスマスをお送りください。メリークリスマス!』
明るいライディの声と共にクリスマス特番は終わりを告げた。
●サプライズ!
「大変だー! ライライ! シーちゃんが!」
「え‥‥えぇ!?」
ライディがクリスマスホームパーティの片付けもしている最中。
帰っていたはずのラウルが急にスタジオへ駆け込んできた。
「こっちは俺らに任せて早く行け!」
ライディが怪しまないようにスタジオの片付けを手伝っていたアンドレアスが大きな声でライディの背中を押す。
「そうよん、大切な子なんでしょ? 早くいってあげなさいよ」
一緒に片付けをしている凛華も話をあわせてライディをけしかけた。
「は、はいっ! すみません、後片付けをよろしくお願いします! ラウル、シーヴは今何処?」
「公園の方だよー!」
ラウルはアンドレアスと凛華にウィンクで合図を飛ばしあうと公園の方へと急いで向かう。
「刺激的なサプライズかな?」
「私たちも早く片付けて向かいましょう♪」
二人が出て行ったあと凛華とアンドレアスは急いで片づけをしていった。
●聖夜のハッピーバースデー
「もうちょっとでライディ君がくるかな?」
スタジオから少し離れた公園でコハルはランタンにセロファンを貼って演出準備をしている。
「遅れてすみません、兵舎に用意していた追加の食べ物をとってきました。湯気が出ないように少し木陰にかくしましょうか」
「それならうちの屋台を使って欲しいとす」
ずりずりと引きずってきた屋台を有希は炎西にみせた。
「ありがとうございます」
屋台の保温庫に炎西はホカホカの肉包子や熱いジャスミン茶をいれておく。
「シーヴは寒くない? 大丈夫?」
「‥‥大丈夫、です」
シーヴはベンチの影に身を隠し顔を俯かせて待っていた。
ライディに対する罪悪感が強くなっていたが、手に持ったマフラーをぎゅっと握る。
「お、ラウルが戻ってきたようでよ、皆、クラッカーもって隠れやて」
公園での設営に間に合ったサプライズイベントの首謀者である米田・時雄が有希の屋台に隠してあったクラッカーを配って指揮を執っていた。
「シーヴ! 大丈夫? シーヴ!」
駆けてきたラウルを追ってライディがシーヴのいるベンチへと近づく。
ベンチの影からシーヴが見るライディの顔は血相を変えていた。
「ライディ、ごめん‥‥です」
シーヴは小さい声で謝罪をするとベンチから身を出してクラッカーを鳴らす。
『Happy Birthday!』
「はぴばー!」
「おめでとう!」
パパンパパパパンとクラッカーがライディに向けられて鳴り響き、思わず両手で耳を押さえたライディが何が起こったかわからないといった顔で周囲を見回していた。
「王マネージャー、誕生日おめでとだがね〜。今回は俺の方でひっそり声をかけて誕生日の用意をしたでよ」
「よ、米田社長!? それにシーヴも普通にいるし‥‥ラウル!」
「僕はシーちゃんが大変可愛すぎるっていおうとしたんだヨー。最後まで聞かなかったのはライライじゃないか」
ぐるりと見回してラウルの姿を見つけたライディは顔を真っ赤に詰め寄るも、ラウルが持ってきたケーキに後ずさりをする。
ブルベリーを使ったクリームなのか綺麗な紫色をしたケーキに24本の蝋燭が炎を揺らめかせながら立っていた。
「ライディちゃん、お誕生日おめでとう♪ びっくりした?」
ナレインからハグを受けてようやく正気に戻り、ライディはとたんに小さくなる。
「ライディ君! 小さくなる前に火を吹き消してよ!」
「う、うん」
コハルに背中をばしんと叩かれ、ライディは蝋燭の火をあわてて吹き消した。
大きな拍手が起こり、公園の休憩所でライディの誕生会が開かれる。
「まずは、私から。手袋のプレゼントです」
炎西があったかそうな手袋をライディに手渡した。
「シーヴはちょっと汚いけど、マフラー‥‥です。一人で編んだから下手‥‥です。けど、一生懸命編んだです」
「うん、ありがとう‥‥」
二人からものを受け取りライディは目から涙を流しだす。
「僕からはダウンジャケットだよ。その格好じゃ、さすがに寒いヨネ?」
「ラウルが急がせたからじゃないか」
苦笑するも、ライディは怒らずその身を流れに任せていた。
「それと、こっちはキャロラインからのメッセージだヨ」
ポケットから出したフラッシュメモリーを再生用の機材にいれてラウルは再生をはじめる。
『
Hi! ライディ。 HappyBirthday
もうすぐあたしが放送を聞きだしてから一年になるね
客も増えたけれど、それ以上に友人が増えたのが素直に嬉しいよ
あんたにも大切な人達が増えているだろう?
その人たちのこと、大切にしなよ
新年会でも、忘年会でもウチを使いたい時はいつでもいいな、待ってるよ
』
「こういうサプライズもたまにはいいだろ? ん?」
「アンドレアスさんも知っていたんですね?」
「ボスは俺だでよ。履歴書にあったで、いわってやらにゃーと思ったわけだでよ」
プレゼントを受け取り終えたライディをアンドレアスと米田が囲む。
「驚かせるためにな‥‥でも、一重にお前に喜んでもらいたいって気持ちがあった上だぜ? 俺からは曲のプレゼントだ」
「お、それじゃああたしは歌を歌うぞー」
アコースティックギターを持ってきていたアンドレアスはそのまま誕生日に良く聞く曲を弾きはじめた。
リズムに合わせ、コハルやナレイン、凛華などが歌いだす。
暖かいお茶や肉饅頭を食べてパーティが盛り上がりだしたころ、ラルスがそっとライディにシーヴの手を引いてやってきた。
「ライディ君、私からのプレゼントです‥‥」
シーヴの手に赤いリボンをラルスは巻きつける。
「今夜、シーヴを預かってくださいね?」
そして、ラルスはライディにこの日一番の笑顔を向けたのだった。
●希望の夜明け
「ん‥‥あれ、俺は‥‥そうか、朝か」
ライディはベッドの上で朝を迎える。
机においてあるデジタル時計は12月25日を示していた。
「‥‥昨日の夜のあれは夢‥‥じゃないよね」
リボンを結ばれた少女をプレゼントに差し出されたことを思い出し、べッドの隣をみると赤い髪をした少女が規則正しい寝息をたてている。
「ありがとう‥‥これからも、よろしくね」
白く透明な背中を見せる少女の耳元へライディは静かに身を寄せた。