●リプレイ本文
●聖夜の行進
「偶には聖夜にこういう仕事も悪くは無い」
九条・命(
ga0148)はスノーモービルを走らせながら後ろに積んでいる荷物を見る。
そこにあるのは子供達に贈るプレゼトではなく、拠点構築用の資材だ。
「後方の空が光った‥‥あれは‥‥ファームライド!?」
スノーモービルを動かしながら、双眼鏡で周辺警戒をしていた鯨井昼寝(
ga0488)が敵を発見する。
「援軍を呼んで、とにかく逃げようよ」
「そうだな、こういうサンタが待っているとは空気を読みすぎじゃないか?」
蒼河 拓人(
gb2873)が近づいてくる赤い機体に眼をむけると、命はすぐにトランシーバーから警戒中の味方を呼び出した。
『メリークリスマスだ! 傭兵ども!』
肉眼で全形が見えてきたファームライドからアスレード(gz0165)の声が響く。
「姿はまさにサンタクロースだね。ただ、流石にプレゼントはいらないなぁ」
赤い装甲に所々雪のついたファームライドを万華鏡模様の瞳となった拓人は一瞥した。
『さぁ、パーティを楽しもうぜ』
人型になっているファームライドは雪の上をホバーのように移動し、手の平をスノーモービルで走る3人ヘ向ける。
タンタンッと二発の銃声が鳴り、銃弾が飛んだ。
狙いは命と昼寝が引きずっている荷物である。
『間に合ったぁ!』
大きな声と共に射線を遮るように赤崎羽矢子(
gb2140)のシュテルンが現れた。
『ちっ! どこから湧いてきた!』
『あんたに言われたくないね!』
直撃を受け、シュテルンの装甲を砕かれながらも羽矢子は通せんぼをするように立ちはだかる。
しかし、一発はそれていたのか後方で爆発音がする。
『まずは一つだなぁ‥‥?』
ファームライドの目に当たる部分が鈍く光った‥‥。
●サンタはトナカイを連れてきて
「魚座のファームライドがこんなところに‥‥何とか追い払いませんと」
如月・由梨(
ga1805)は待機していた基地より出撃をしつつ一人つぶやく。
アスレードに対しては一人の少女について思うことが由梨にはあった。
(「ですが、今ここでラシェルさんのことを攻めてもしかたありません」)
怒りは冷静さを失わせ、戦場で冷静さを欠くことは死につながる。
『射程内に捕らえた、一気に攻撃を仕掛けて注意をひきつけるぞ』
戦闘を飛ぶ御影・朔夜(
ga0240)からの指示で由梨をはじめとした3機のKVが動き出した。
『来たか! さァて、どれだけ手強いッ?』
ビン牛乳を飲み干した翠の肥満(
ga2348)のGJr3が変形着地をする。
すぐさま、スナイパーライフルD−02をGJr3は構えてファームライドへと放った。
背中を狙って放たれた弾丸だったが、背中に目でもあるかのようにファームライドは避ける。
『さすがにワームとは違うか‥‥僕ちゃん、驚きっぱなしッ!』
『余裕ですね‥‥こちらも負けていられませんか』
試作型「スラスターライフル」で狙いを定めたリヴァル・クロウ(
gb2337)のシュテルンもファームライドへ攻撃を仕掛けた。
しかし、慣性制御でゆらめくように動く敵に当てることすらできない。
『終わりか、それじゃあこっちの番だぜぇ!』
「させません!」
由梨と御影機も変形着陸をし攻撃を仕掛けるもファームライドには一発もあたらなかった。
お返しとばかりにファームライドのアームガンが由梨たちを襲う。
『そらそらそら!』
掌手を放つ動作と共にアームガンが何発も放たれた。
衝撃波に見えなくもない攻撃がリヴァル機を何発も穿ち破砕する。
『損傷度50%!? なんという攻撃だ‥‥』
『こっちも一発やられました。まだ大丈夫ですよ』
「私と御影さんは無事ですか‥‥」
『だとしても、拠点を先に潰されては本末転倒だ。時間を稼ぐだけ稼ぐぞ』
仲間の状況を確認している由梨にアスレードの笑い声が聞こえてきた。
『ククク。俺に気をとられててもいいのかぁ? サンタにはトナカイが付きものだろ?』
「私は仲間を信じています。あなたとは違います」
KVのカメラに捕らえられたトナカイキメラの映像を確認しながらも由梨は目の前の敵を見る。
戦いはまだ終わっていない。
●迫るトナカイ
「物資集積‥‥完了、反撃といこう‥‥」
トナカイキメラから逃げ延び、負傷しながらも拠点に物資を置いた命はスノーモービルを反転させる。
『グリュゥゥゥイッ!』
トナカイキメラはそのまま拠点へと突き進んできた。
『固まってるところを逃すかっ! トナカイさんはクラッカーで歓迎!』
赤崎機から二発のグレネードランチャーが放たれ、トナカイキメラの背後を赤い光球が襲う。
「これで片付いてくれると楽なんだけど‥‥」
「そうも行かないみたいよ、迎撃にでて! トナカイの狙いはこの拠点そのものよ」
昼寝の言葉の通り、直径10mを超える爆炎の中を突き破りトナカイキメラ5体拠点へと攻めてきた。
「一匹もかけていないとは‥‥厄介だ。攻め込まれる前に‥‥撃つ」
傷の手当てもほどほどに命は小銃「M92F」でトナカイキメラを狙い撃つ。
命中に難のあるというリボルバーだが、確実に獲物を捕らえ屠った。
「まずは一体、いい感じじゃない。そう来なくっちゃねっ!」
昼寝もエネルギーガンを構える。
間合い詰められないように距離をとって巨体を光で貫いた。
「ここから先は通行止め‥‥さあ、お帰り願おうか」
番天印で『急所狙い』を行い、拓人もトナカイキメラへ撃ち込むが倒しきることができない。
「くっ、タフな相手だ‥‥しまった‥‥回り込まれる」
拓人が悔やむも、トナカイキメラたちの角は電撃を帯びて拠点の壁へと突き刺さった。
●サンタを出迎えろ
『‥‥なんだ、CWやMIは連れていなくていないのか? いや、なに‥‥ハンデがなくて戦えるのかと思ってな』
『はんっ、迷彩を使わないので十分釣りが来るだろう?』
高軌道戦闘を仕掛ける御影機だったが、アスレードに打撃を与えることはかなわない。
『ですが、仲間と共に戦う方が人間は強いのですよ』
御影機と戦闘をしている隙を狙った如月機からの試作型「スラスターライフル」がアスレードを捕らえた。
全長6.2mはするKV用ライフルの銃口から、60発の弾丸が迸る。
『甘いことをぉっ!』
アスレードは吼えるも交わしきれない銃弾が装甲に食い込んだ。
ファームライドののサンタ衣装がはがれだす。
「おうおう、生まれたままの姿にひん剥くってのは燃えるじゃないっ!」
さらに畳み掛けるように翠はチタンナイフを構えた。
『白兵戦をあてられると思うなぁっ!』
チタンナイフをファームライドは受け止める。
バシシィとフォースフィルドとチタンナイフが弾けあった。
「ふんばれよ、GJr3‥‥本当の『悪魔(ディアブロ)』がどっちか、おまえに教えてやらにゃあ」
そして、二の太刀とばかりに翠はアグレッシブ・フォースを込めたチタンナイフをはげた装甲部に突き刺さす。
SESエネルギーがフォースフィールドを貫き内部へ食い込んだ。
『てめぇぇぇぇっ! このまま刻んでやらぁぁぁっ!』
翠機の腕を掴み、アスレードはソードウィングをアームブレードのようにはやす。
「たかが賞金250万の男に殺られる僕じゃねえぜェェェェッ?」
アスレードの怒号に対し、翠はひるまず言い返した。
手は振るえ、喉がからからになるがそれでも怯みはしない。
『翠さん! 逃げてください!』
リヴァル機からの援護が飛び、その好きに翠は掴みかかった距離から抜けた。
「ふふん、君は僕に恋をしているのかい? 人気者は困るね」
『そんなことはありません。負傷している我々がここで落ちたら不利になります』
「分かってるって、あっちにも結構与えれているんだからもうすぐさ」
不安気味に問いかけるリヴァルをあっさりと翠はたしなめる。
「第二ラウンドといこうか、アスレード!」
そして、牛乳瓶を取り出し蓋を開けて飲みだした。
●雷撃のプレゼント
「敵襲! キメラの一波を受けたぞ!」
「電気系統がやられていく! ショートしないように動け!」
基地の中では待機しているUPC軍人の報告とそれに続く命令がだされた。
「くそ‥‥あのトナカイにやられたぜ」
「被害を抑えるように残り3匹を片付けるわよ‥‥」
スノーモービルのアクセルを回してトナカイキメラを追う。
トナカイキメラの一体は角に電流を溜め込み、壁に何度も体当たりを行った。
「こんどこそ、倒すよ」
自分の不始末は自分でつける。
そう心に決めた拓人はアラスカ454で拠点の中へ入ろうとしているキメラを狙った。
「図体がでかくてもこの距離から撃ち込めば」
壁にぶつかっている手負いのトナカイキメラに目掛けて撃てる限り撃ち込んだ。
『ギギャァァァ!』
キメラの一体が沈み、角が帯びていた雷撃は静まる。
「真っ向勝負をしかけるわ」
一方、拠点周辺から引き離すことを諦め、一気にトナカイキメラを片付ける作戦にでた。
『グキュッゥゥゥル!』
昼寝のエネルギーガンより放たれた光がトナカイキメラの足を貫いた。
「残念賞! 惜しかったわねトナカイ!」
「くっ‥‥もうすぐだ、もたせろ」
他の戦闘の様子を見ていた命の背にトナカイキメラの影が被る。
傷ついてはいるが4mの巨体は命を踏み潰すことを迷っていなかった。
鼻息を抗げ、角に電撃を帯びさせる。
「こんなところで‥‥死ねるかっ!」
命がキアルクローを取り出すとトナカイキメラの胸を貫いた。
「このまま、寝ていろっ‥‥」
胸を貫く拳をそのまま上に持っていき、首ごと落とす。
「これで‥‥終わり‥‥だ」
「命! こちらS班、キメラの殲滅を確認した。赤崎機はそのままサンタの迎撃に回ってくれ」
『あ、ああ‥‥そっちは任せた!』
昼寝から連絡を受けた赤崎は煙の上がる拠点に後ろ髪を惹かれる思いでファーム・ライドに対する狙撃体勢に入った。
雪山に足を着け、全長8.8mというKV用レーザーライフルをサンタクロースに向ける。
『この一撃‥‥はずせないよ』
赤崎は調整をしながら呟いた。
●サンタの逆襲
「それじゃあ、お返しだぜぇ! 悪夢ってのを見せてやらぁ!」
アスレードはソードウィングを広げさせ、翠機を襲う。
『ちぃっ!』
翠機はチタンナイフで受けようとするが、その腕もろともアスレードの攻撃で斬りおとされた。
「まずは、腕一本‥‥さらに、片足ももらっておくぜぇ!」
返す刃でアスレードは翠機の足を奪う。
『翠さん!』
一瞬で追い込まれた翠機を援護しようとリヴァル機がアスレードに向かってきた。
「大人しくしてろぉっ!」
アスレードのアームガンがリヴァル機と倒れている翠機に撃ちこむ。
その4発において翠機もリヴァル機も沈黙した。
『切り札は最後まで取って置く物だ――そうだろう?』
『ええ、こちらも忘れてはいけませんよ』
御影機と如月機が雪村を発動させてアスレードへと斬りかかった。
「なめたことをぉぉっ!」
アスレードは防御体勢に入ろうとするが、機体各部の損傷を示すレッドアラートがコックピットに響く。
「ちっ、切り札を使うしかねぇとはなぁっ!」
慣性重力最大にして、アスレードはフォースフィールドの出力を高めた。
御影と如月が放つ雪村の高出力レーザーがフォースフィールドに阻まれる。
『まさか、この直撃コースを防ぐなんて‥‥』
「てめぇらが束にかかってもかなわねぇんだよ! ほどほどにしておけばとどめをささずに置いてやるぜ」
弾ききったアスレードは狼狽する如月に返した。
『まだ終われん‥‥帰りを待ってくれる‥‥人のためにも』
そのアスレードに大破かけていているリヴァルの声がアスレードに届く。
「死に底ないが、何をするつもりだ!」
アスレードが倒れたリヴァル機のほうを向いた。
リヴァル機は垂直上昇をしたあと、ロケットランチャーをファームライドの足元に叩き込む。
「くそ、脚部バランサーまでがたがきやがった‥‥」
『言った筈だ――切り札は最後に取って置く物だとな‥‥』
御影の言葉が終わろうとしたとき、アスレードのコックピットに一際大きな声が響いた。
『お前に想いと命を踏み躙られた人形遣いの痛み、思い知れアスレードッ!!』
「ちぃっ! うざってぇことをしやがって‥‥ここは撤退だ、こいつはしばらく使えそうにねぇな」
すべてを耐え切ったアスレードは練力の残りを振りしぼって戦線を離脱しだす。
追いかけようとした能力者達だが、激しい戦闘をしたためか増援のヘルメットワームがアスレードといれかわって近づくのが見えた。
●報告書
『グリーンランドにおいての前線基地設営任務は拠点に電気系統破損の被害、一部の壁破壊などが発生した。
しかし、ファームライドへの大打撃を与えたことは評価に値する』