●リプレイ本文
●久しぶりの開発
「‥‥いかん、5000cも飛んだ‥‥」
近くのゲームセンター『ドリーム・パレス』でフォーゲル・マイスターを遊んできた夜十字・信人(
ga8235)がAC研の研究室へ最後に入る。
「これで全員そろったようですね。少し散らかっていますが、あまり気にしないでください」
「少し‥‥か、そういうことにしておこう」
白鐘剣一郎(
ga0184)が以前来た時よりも明らかに散らかっている室内を見回して苦笑した。
「アーク・ウイング(
gb4432)です。精一杯がんばりますのでよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼むのである。今回はフォーゲル・マイスターの前身ともいえるシミュレーターによる仮想試験である。我輩としては実物を動かして‥‥」
「そんな予算はうちの部署にはありません。それでも、生産ラインを間借りする交渉くらいはできますからまずは設計図を固める形になりますね」
カイゼル髭を指でいじりながら夢を語る八之宮・忠次をロレンタは現実的に押さえ込む。
「しばらくでなかった分、どれだけ進んできたか見させてもらおうじゃないか」
刃金 仁(
ga3052)が二人の方をたたきながらシミュレーターの方へと進みだした。
●架空の空で
「‥‥パパ‥‥私怖いんです‥‥空で戦えば戦うほど私が私じゃなくなっていくみたいで‥‥」
正面から頭上にまで広がるディスプレイに映された青空を見上げ、リーゼロッテ・御剣(
ga5669)はか細い声をだす。
一年前、この場所で空を飛ぶことを熱く語ったリーゼではなくなっていた。
『リーゼ‥‥高度が落ちてます‥‥』
「ごめん‥‥なさい」
憐(
gb0172)に注意され、ぐっとレバーを引いて機体を持ち上げる。
『調子が悪いなら無茶をするなよ。データ取りであっても万全で挑まないといい結果はでない』
元航空自衛隊に所属していたという堺・清四郎(
gb3564)が全体のリーダーのようにトップを飛び指示をだした。
「そう‥‥ですね」
亡くなった父親もこんな風にいってくれるだろうかとリーゼは再び自分の中に閉じこもる。
『敵機来ました‥‥あのデザイン、確かドローム社KVコンベでロングボウと争った『トーレタシェル』ですっ!』
相手のデータを少しでもメモしたいと思っていた白岩 椛(
gb3059)は目の前を飛ぶKVのデザインに声を上げた。
『性能はどんなものだ?』
『さすがにそこまでは‥‥私も事前に少し確認してきた分ですから‥‥』
そうこうしているうちに両者がミサイルの射程圏内まで接近した。
『各機ミサイルを発射と共にM3帯電加速粒子砲の砲撃準備を行え! まずは掃射テストだ』
『了解‥‥ジェット戦闘機での戦闘が何たるかはマスターしました‥‥漫画で』
「漫画ってそれじゃあ、マスターにならないよ。基本はKVと一緒でいいと思うよ。うん」
憐の真面目なのかぼけているのかよくわからない通信にリーゼの肩の力が抜ける。
今は飛ぼう‥‥。
ただ、それだけを考えてリーゼは目の前の敵に向かって飛びたった。
●ファルコンVSイーグル
トーレタシェルを一機ずつチームで倒したあと、次の機体が空中に姿を現す。
『む、あいつはVMに出てきた奴だ。5000cかけて遊んだ甲斐があったな』
ファルコンスナイパーカスタムと呼ばれる狙撃型のKVが4機だ。
射程外から、スナイパーライフルを構え時差射撃を行ってくる。
『ふっ‥‥その砲撃で何度落ちたかっ、ここは落ちんぞ!』
八つ当たり気味の文句をいいつつ、信人機は失速すると共に砲弾を避けた。
「おー、すごいです。‥‥う、粒子砲のチャージはまだかかりそうですねバルカンとかで勝負ですよ」
アークは直撃をギリギリで避ける。
しかし、粒子砲はデッドウェイトによる機動力低下が著しい上にチャージ時間が30秒は必要だった。
『一斉放射はすんだから、時間差攻撃をためしてみようか』
アークのいるB班リーダーである剣一郎の指示を受けアークは首を縦に振った。
スナイパーライフルであれば、リロードのタイミングの隙がある。
そこを狙えば旧式戦闘機でもあるF−15でも勝ち目が見える。
『まったく、前に来たときとさほど代わり映えがせんか‥‥もう少し希望は上なんじゃがなっ!』
仁機が現在の飛行スペックが気に入らないながらもデータを多く取るためいろいろな動きを試した。
剣一郎機とタイミングを合わせ、二発同時にチャージされた粒子砲を撃ち出す。
アークの一発は避けられるも、剣一郎の一発がヒットする。
「あーくんもやっちゃうよ。それぇっ!」
後衛でいるアークが僚機とタイミングを合わせ、攻撃を受けた方へ更に追い討ちをかけた。
二発の光弾がファルコンスナイパーカスタムの装甲を貫く。
よろよろとではあるが、まだ敵は生きていた。
「カッタイなぁ〜、もー!」
『敵は4機だから1チーム2機がノルマだ。落ち着いて確実に落としに行くぞ』
剣一郎機が仁機と共に選考してファルコンスナイパーカスタムへと向かっていく。
「ん? 何か敵のアイコンが増えたよ?」
アークがレーダーを見ているとポッと敵を示す赤いマーカーが1つ浮かんだ。
識別コードは『X−01 エレメント』と表示されている。
「エレメント? どんな機体だろう、ちょっとワクワク」
『ボーっとしていると撃ち落されるぞい、止まってないでミサイルやバルカンで戦わんか』
「は〜い、アーちゃんいっきまーす」
前方の二機を援護するようにミサイルを発射したアークは押さえきれない興奮を感じつつ空を飛ぶ。
「ファルコンが終わったら、エレメントに連続攻撃だねっ」
『楽しむのもいいが、それは無事に今を乗り切ってからだ。しっかりやってくれ』
明るく答えるアークの口ぶりに不安を隠しきれない剣一郎は静かに釘をさした。
『それに通常の戦闘だけでなく思い切り振り回しての耐久チェックも必要だよ』
幾分か落ち着きを取り戻したリーゼの声が聞こえてくる。
『近距離射撃とか‥‥やることいっぱい』
A班が合流し、ファルコンと戦い終えて合流をしてきた。
「最後までしっかりがんばろーね」
共に空を飛ぶ喜びで胸いっぱいにしてアークは戦いに身をゆだねるのだった。
●要望取りまとめ
「RF−15の愛称は‥‥決まっているのですか?」
仁が持ってきた煎餅を紙コップに注がれたインスタント緑茶と共に味わいつつ憐が忠次を見上げた。
シミュレーターでのチェックを終わり、ティーブレイクをしながらのブレーンストーミングである。
「いや、我輩たちは特につけていないのである」
「では‥‥ガンマイーグルでどうでしょう?」
「三番目のイーグルということですか、開発コードとしてはいいかと思いますよ」
ロレンタが忠次のと自分のお茶を持ってきながら席へとつく。
テーブルの上には資料や図面が山積みだったが、それは別のデスクで積み木のようになっていた。
「ふむ、そうであるな。では、各自の意見を聞こうか」
「そうですね。基本設計を見直すとかでしょうか‥‥やはり空戦専用KVというくらいにしてしまった方がよいと思います」
「ああ、フレームとかメトロニウムとかにしてしまった方が生存率は高まりそうではあるな」
椛が先陣をきると、剣一郎が便乗して意見を述べる。
「KVの基本素材でもありますメトロニウムというのはそれほど多く流通するものではないんですよ。貴方達傭兵の皆さんにとって当たり前だとは思いますが、それだけラスト・ホープの傭兵に期待をされているということですよ」
ロレンタが苦笑しつつ、各装甲材料の見積もりを見せた。
耐熱チタン、メトロニウム、その他既存合金の順で値段が下がっている。
「つまり、量産機としては金をかけれんのである。パイロットの生存性と反比例するかもしれないが、F−15は数を作ってこそ全てなのであるな」
「安いのは重要だ‥‥機体の値段が高いといってもKVに比べれば十分安いというわけだな?」
見積もりをみて信人は腕を組んでうなった。
「じゃが、相手はバグアF−15を想定しているのだろう? フレームの強化などは必須だが」
「その辺はAEEへ新型複合装甲の共用を打診するつもりである。装甲戦車用の素材ではあるが共用パーツが増えればその分コストは押さえられる」
仁への返事をカイゼル髭を指でいじりながら忠次は答える。
(「あの髭‥‥俺もあと10歳ほど年をとっていれば‥‥」)
腕を組んだまま唸っていた信人の興味はRF−15より髭へと変わりだした。
「基本システムもF−15S‥‥F−15Eの単座機の設計構想を持ち込んで流用しているデータになっています」
「積載量増加は願ってもないことだな。爆撃機ではなく、普通の空対空タイプになるか」
「相手を敵のF−15バグアカスタム‥‥UPC北中央軍では『グリフォン』と呼んでいるのであるが、そやつらとの交戦をメインにしているのである」
バリボリと煎餅を食べて忠次が堺に答える。
「あと‥‥今のままでは‥‥M3帯電加速粒子砲が使いづらい‥‥です」
「底面につけるのは離着陸にも不便ですからね」
「射程を‥‥短くしてでも‥‥命中率を‥‥上げる方向を‥‥望みたい‥‥です」
憐と椛は粒子砲について更に突っ込んだ意見をだしてきた。
「大幅にコンセプト転換をしなければなりませんね‥‥」
「ふむ、これがRF−15だけであれば苦労はしないのであるが、AEEのアストレアにもかかわってくるのであるからな」
「空を飛ぶから抵抗が少ない方がいいよー。小型化と軽量化をできればして欲しいーなー」
「どちらも現段階では難しいですね‥‥八之宮主任?」
カイゼル髭と鼻の間にボールペンを挟み、のけぞっていた忠次をロレンタが注意をする。
しかし、忠次は動かない。
視線は先ほどどかした資料の山を見つめていた。
「これであぁぁる! RF−15の機動性を確保しつつ、今のサイズで乗り切る方法が見つかったのであぁぁぁる!」
ばたんと背中から椅子ごと倒れた忠次はそのまま足だけを動かし資料の山へと体当たり。
ドサドサと崩れる資料の山に埋もれながらも三枚の図面を引っ張り出して能力者達の前へと持ってきた。
「去年、提案された機動力強化ブースター、そして今回のM3帯電加速粒子砲‥‥そして、F−15の融合はこうである」
三枚の図面を重ねるとF−15の上部に二基のブースターと戦車の二門型砲塔とがくっついた絵ができあがっている。
「なるほど、イーグルドライバーが耐え切れない速度を出すこのブースターの出力をあえてデッドウェイトになるM3帯電加速粒子砲で押さえ込むわけですね」
「ブースターの動力を回せばチャージも少なくできるかもしれないのである。これは新たな閃きであるぞ! ロレンタくぅん!」
「これはKVの兵器としても面白いかもしれないな‥‥と、そういえばマニューバ武装はちゃんとできているのか? まだ見たことないんだが」
鼻息を荒くして興奮している忠次をよそに、剣一郎はロレンタへ思い出したかのように聞き出す。
「あれはUPC北中央軍がメインで使っていまして‥‥ロングボウも出たことで、妙な動きのある武器よりただ普通にミサイルをばら撒く方が効率がいいと推奨兵器の方が流通しているしだいですよ」
疲れた顔をしたロレンタは苦笑して答えた。
開発者側としては折角能力者に考えてもらったものだから、能力者の手に渡したいがビジネスの世界はなかなか難しいものである。
「大人の世界って難しいんだね? でも、RF−15にこれがついたらどれだけ戦果がでるのか楽しみではあるかな」
後半は小さな声でアークは呟く。
「あとは何かありませんか?」
「あの、疑問に思ったのですが知覚兵器って一般人の方が持っていても意味あるのでしょうか?」
「SESについて何か誤解があるようですけれど‥‥このF−15も動力はSESエンジンです。皆さんがSES搭載武器でキメラを倒せるだけの出力をだせるのがエミタの力なんです。つまり、フォースフィールドを看破できないだけで使えないなんていうことはないんですよ」
「超機械はAI制御がいるため能力者しか扱えないのであるがな」
おずおずと手を上げる椛にロレンタと忠次が丁寧に説明を行ってこの日の討論は終了した。
●旅立ちと別れ
「パパは‥‥どうして出撃する時も家に帰ってきた時もずっと笑顔でいられたのかな?」
リーゼは一人、AC研のど真ん中に鎮座しているF−15の冷たい装甲を触る。
疑問を口にするが、返事はない。
頬をくっつけて目を閉じてみた。
リーゼの脳裏に幼き少女だった頃の記憶がよみがえってくる。
父親に頭を撫でられ、肩車をされて触れ合えた日々。
『リーゼ、父さんはね。お前や母さんの笑顔のために戦っているんだよ。父さんが悲しい顔をしていたらお前や母さんは心配するだろう? 笑顔というのは自然に生まれるものじゃない自分が笑えるから人を笑わせることができるんだよ』
その言葉が終わると共に背中を叩かれる感触がした。
「もう、高速移動艇がついたようですよ? 早くいかないと、置いてかれてしまいますよ?」
声の正体を探ろうと振り向けばロレンタが心配そうにリーゼの顔を覗いている。
「ごめんなさい‥‥すぐに行きます」
リーゼは飛びのくようにして離れ、駆け出した。
(「機会があったら今度は本物の空で会おうね。君の傍にいるとパパが傍にいてくれるみたいに安心できたから」)
ちらりと見えるF−15へリーゼは心の中でお礼を述べる。
RF−15‥‥プラン・ガンマイーグルと共に一人の少女は空を目指しなおした。