タイトル:【京都】今日から剣士マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/19 12:51

●オープニング本文


「南無尼丹生(びにゅう)如来、南無尼丹生如来。我を守りたまえ清めたまえ〜」
 慎ましやかな胸をした如来像の立つ、広い仏間の真ん中で一人の少女が手を合わせて祈りを捧げていた。
「大きな胸には欲望が詰まりやすく、邪念をひきつけやすい。白川仁宇はそのようなものには屈しませんぞ」
 ぐっと拳を握るこれまた慎ましやかな胸の少女。
 齢16歳であり、南丹を治める白川家一族頭取白川仁宇(にう)だ。
 崇めているのは尼丹生如来と呼ばれるいつの時代に作られたか定かではない如来像である。
「尼丹生如来様、ご報告がございます。白川仁宇もついに能力者として民の役に立てる日が着ました。これも如来様のお導きと仁宇は思っております」
 正座をし、手を軽く膝の上に置いた体勢で彼女は目の前にいる如来像に話しかけた。
「し・か・し! フェンサーというクラスはあまりにもスキルが少ないのです。これは試練としかいえません!」
 ぷるぷると震えながら、彼女は涙を流す。
「故に白川仁宇はフェンサースキルの開発のため、精進することをここに宣言します! 尼丹生如来様、見守ってください」
 三つ指突いてお辞儀をすると彼女は涙を拭って立ち上がった。
 これから学校へ出向き、そのあと傭兵達をこの白川邸に呼ぶつもりである。
 能力者剣士としての一歩を白川仁宇は踏み出したのだ。

●参加者一覧

九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
雨音・ヘルムホルツ(gb4281
15歳・♀・FC
榊 菫(gb4318
24歳・♀・FC
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC

●リプレイ本文

●特訓! 剣士スキル
「京都は初めて来ましたけど‥‥。この時期は寒いせいもあって観光客少ないですね? やっぱり」
 榊 菫(gb4318)は来るときに見てきた光景を思い出して呟く。
「まだまだ若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
 対戦相手の雨音・ヘルムホルツ(gb4281)が礼をすると、菫も礼を返し木刀を構えた。
「あの、よろしくお願いします‥‥可愛い子猫ちゃぁん」
 おどおどと挨拶をした菫だったが、スキルを使うために覚醒をした後半に性格が豹変する。
「え、えと‥‥なんか、人がちがいま‥‥ひぃぃっ!」
 積極的に叩き込まれる木刀を雨音は叫びつつも何とか受け止めだした。
「一つの動作を技にまで昇華させる。言うのは簡単ですが、容易な事ではありませんね」
「ん、今までの身体能力がエミタの力でどれくらい向上したのか‥‥試す良い機会」
 菫と雨音の対決を見ていた狭霧 雷(ga6900)とアルジェ(gb4812)は闘志を燃やしだす。
「私は受けに回りますから、どこからでもかかってきてください」
 雷の瞳が蒼くなり、純白の角と淡い翼のようなオーラを纏った白い竜人へと変身した。
「ん、守りに入られるか‥‥やってみる」
 一方のアルジェはベレー帽にレオタード、更にマントをつけた漫画やゲームに出てくるような姿で雷へと挑む。
 剣を抜かず、慣れ親しんだ体術を使って龍を倒すため、アルジェは駆けだした。
 
●真剣勝負!
「仁宇の相手は貴方か。よろしくお願いする」
 道場主である白川仁宇が風羽・シン(ga8190)に向かって綺麗な礼をする。
「能力者になったのが最近と聞いていたが、それなりに剣術はできるようだな」
「江戸時代くらいからの家なため、相応に修練はしている。でも、やはり覚醒の変化というものになれていないのは否めない」
 古流剣術道場の跡取りだったシンにとって、仁宇の姿は自分とダブって重なり、それでも逃げなかったぶん眩しくも感じた。
「実力差があるだろうが、同等ばかりを相手にしていても修練の足しにはならない。目標をもつことが‥‥」
「‥‥成長への礎なり。貴方も剣術を学んだものであるのならば、心強い」
 視線をそらし、話だしたシンだが最後は仁宇にとられる。
「やりづらい相手だ。手合わせ願おう」
「いざ‥‥参るっ!」
 花鳥風月を居合いでもするかのように構えるシンに対して、仁宇はレイピアでフェンシングをする動きをもって迫った。
「なかなか、いい動きをしている」
 踏み込んでの一撃をやすやす交わし、シンは鞘尻の方から花鳥風月を引き抜き、カウンター気味に狙う。
「なんとっ!?」
 とっさに受けようとするが、間に合わず仁宇の二の腕に赤い線が入った。
「‥‥いいか、実戦ってのは正面から正々堂々なんて上品じゃねぇんだ。相手を倒す為なら何だって利用する、その腹積もりでいろ」
「心得た‥‥こちらも白川の技を存分に発揮させていただこう」
 シンからの叱咤に仁宇は笑顔で答えると再びレイピアを構えなおした。
「派手にやってますね‥‥こちらも久しぶりに握る刀ですから、ちょっと新鮮な気分になります」
「折角の機会ですから、いろいろと試しあいましょう」
 うきうきした様子の九条院つばめ(ga6530)に御沙霧 茉静(gb4448)が冷めた口ぶりで構える。
 つばめが微風を湧き出せば、茉静の体からは白いオーラ出てきた。
 互いに間合いを見つつ、半歩ずつ足を動かす。
「こちらからいくぞ‥‥襲牙!」
 間合いを詰める際の踏み込む力を込めた一撃を茉静はつばめに向かって放つ。
「それなら、これで!」
 仁宇から借りた盾を使い、つばめは茉静の攻撃を受け流した。
 ただ、バランスを崩す追い討ちまで踏み込むことができない。
「無理に動かしているからですかね‥‥でも、こちらの反撃もいきますよ!」
 刀を握り、反撃とばかりに三段突きを繰り出した。
「よろしくお願いします‥‥っと。猫、遠慮はしなくて良いよ。ボクもあまり手加減できないかも知れないし」
 能力者が多数で組み手をしだし、広いはずの道場が狭くなっていく中で柿原ミズキ(ga9347)は楽しみでしょうがないと笑う。
「私もわくわくですよ〜。実力者さんたちと戦ってみて己の未熟さを知り、今後の鍛錬に活かすですよ」
 猫屋敷 猫(gb4526)は蛍火を構えて動いた。
「てやぁっ!」
 ミズキがすぐさま『ソニックブーム』を放つ。
 ブゥゥンという音が空気を震わせ、猫を襲いだした。
「そう、来ましたかっ」
 動きながらも、攻めではなくミズキの動きをリサーチしていた猫は『ソニックブーム』を避ける。
 その後も引かず攻めずで動きを見続け、ころあいを見て間合いを取り出した。
「逃げてばかりじゃ、勝負にならないよ?」
 確実に攻撃を当てだしているミズキは月詠をしっかりと握り、猫へと近づく。
(「私の抜刀術はまだまだ未熟で実戦で使えるものではないですが‥‥試すときです」)
 刀を鞘に収め、目を閉じ猫は精神統一をしだした。
 暗闇の中から音が少しずつ消え、最後にミヅキの足音だけになる。
 ゆっくりと近づいていた足音がドンと力強い踏み込みへと変わった。
「見えた! そこですっ!」
 流し斬りを使用としていたミズキの喉元へ猫の抜刀した蛍火が迫っている。
「やるなぁー、油断してたつもりは無いんだけど」
 ミズキは素直に負けをみとめると、下がって刀を鞘に収めて礼をした。

●びにゅう如来様
「なんででしょう‥‥何故か拝みたくなってしまいます」
 休憩の間に仏間に訪れたつばめは慎ましい胸をした尼丹生如来像を両手を合わせて拝んでいる。
「折角ですから、私も拝んでおきます」
 雨音も着てきて一緒に正座をして尼丹生如来像を拝みだした。
「お二方はこちらにおられたか。白川を守護してくださっている尼丹生如来様に仁宇も感謝をしなければ」
 仁宇も加わり、慎ましい三人娘がこぞって慎ましい胸をした如来像を拝む。
「スキルについて妙案があればこの場で仁宇が聞いておこう」
 一通り拝み終わったあと、仁宇が二人に体を向けて案を聞きだした。
「フェイントやカウンターがあった方がいいと思います。フェンサーは防御主体のイメージがありますから‥‥」
「私は必殺系というか、急所を狙った突きに特化した技がらしいかなと思います」
「なるほど、仁宇としても白川の技が再現できる方が心強い。お二方の意見は十分に進言したいな」
 3人が盛り上がっているところにアルジェが偶然通りがかる。
「アル、はこれから育つ‥‥から大丈夫」
 そして、己の胸を見て呟くのだった。

●一服をしつつ
「ささ、お茶ですよ」
 猫が道場に座る全員に向けてあったかいお茶を淹れる。
「ありがとう‥‥動いているときはそうでもなかったけれど、京都の寒さは身にしみるね」
 ミズキは包帯の巻かれた手でお茶を受け取とった。
「仁宇さんが離れているようですが、折角ですしスキル案の出し合いなどしませんか?」
 試合中は女王様のように振舞っていた菫も落ち着いた様子で話を持ちかける。
「‥‥まー、確かにフェンサーのスキルって数が少ないのを別として、威力上げたりとか攻撃回数増やすとか、剣士系って言う割りにゃ力押しで、今一つ汎用性に欠けるって印象が強いんだよなぁ」
 お茶をすすりつつ、シンがぼやきに近い意見をだした。
「接近戦が命のフェンサーにとっては、相手に一瞬で接近して尚且つ一撃を叩き込めるスキルは必要だと思う‥‥。移動だけでなく攻撃も踏まえた戦闘用スキルね‥‥。円閃やスマッシュとあわせて大きな威力を出せたらベストね」
 シンの意見に同意するよう茉静が模擬戦の手ごたえを踏まえたアイディアをだす。
 多くの能力者が移動系を希望していた。
「力押しのファイターとは違った感じになっているようですし、グラップラーの『疾風脚』のような回避補正スキルもあるといいでしょうね」
「2、3ターンもつといいですよね。あとはエキスパートの探査の眼みたいな『心眼』とか」
 ビーストマンである雷にはフェンサーというタイプについて考えを話す。
 対戦相手は守り重視の戦いを好むタイプだったので回避などの防御スキルも必要だと感じたのだ。
「いやいや、ここは剣や刀に限定して使える『回転剣舞』とかカウンター技なんかもあるといいよね〜」
 猫が眼を光らせて、出した意見は攻撃力を飛躍的に高めると共に受防御も得意とさせる技である。
「なにやら楽しそうではあるが、そろそろ休憩を終えて集団戦と参ろうか」
 実現可能かどうよりは、いかにかっこいい技がほしいかという方向にずれてきたが、仁宇が戻ってきたため話し合いは終了した。
 
●ガチバトーレ
 5対5の集団戦の準備がおこなわれはじめる。
 各自が武器をかえたり、作戦を練ったりと実戦さながらの緊張感があった。
 メンバーは以下の通り。

 龍組:つばめ、雷、菫、猫、アルジェ
 虎組:シン、ミヅキ、雨音、茉静、仁宇

 AやBでないのは仁宇の趣味だ。
 依頼を意識してフェンサーとそうでないクラスが入り混じった構成となる。
「間合いは50mよりはじめる。互いに、礼!」
 両チームが道場の端に分かれてから仁宇の合図で一礼をし、試合が始まった。
「その胸もらったぁぁぁっ!」
 猫まっしぐらという言葉通りに猫が茉静に向かって全力で攻め始める。
「本隊の前に、あなたから叩くしかないようね」
 踏み込んできた猫に向かい、茉静は自分の脳裏にスキルをイメージして体当たりを行った。
 エミタは経験をつんで成長していくものであり、スキルは先人の修練が編み出してきたものでもある。
 同じように経験を積んだデータを取り出して新たなスキルとすることだってできるのだ。
「正面から攻めるだけじゃ意味がないですからね」
「最もな意見だな。ビーストマンの足は今回の戦闘では厄介だ‥‥先に潰させてもらう」
 猫が大きく動いている間に『瞬速縮地』にて横から攻めようとした雷の前にマークをしていたシンが立ちふさがる。
 金髪のシンが流れる動きで花鳥風月を抜き放って雷を斬りつけた。
「雷、助けに来た‥‥味方を守るのアルは得意。アルの剣は守るための剣だから」
 あたるかと思ったとき、ギリギリのところでアルジェが割り込んでシンの攻撃を受け止める。
 しかし、パワーの差でアルジェの方が吹き飛ばされた。
「もっと良く狙わないとあたらないわよっ」
 自分の考えた回避スキルをイメージながら、菫は仁宇の攻撃を避ける。
「やや、これは手ごわい」
「反撃いくわよッ! そらそらぁっ!」
 『円閃』と『二連撃』を組み合わせた回転連撃を菫は仁宇へと返した。
「くぅっ‥‥されど、肉を切らせて骨を絶つ! でぇぇぇぃっ!」
 剣舞を体で受けながらも瞬時に見えた隙を仁宇が的確に突き返す。
「仁宇さん! 援護するよ!」
 攻撃を受けてひるんだ菫にミヅキが『ソニックブーム』を当てて、さらに踏み込んでいった。
「すまないミズキ殿」
「無理をしないでね。できることでかつ方法を考えよう。ボクもできるかぎり協力するからさ」
 仁宇の傷ついた腕にミヅキは救急キットで手当てをして再び戦いに戻る。
「一緒に、がんばりましょう。フェンサーというのはどうにも半端ですけれど」
 様子を見ながら戦っていた雨音が仁宇へと近づき、苦笑した。
 ダークファイターやファイターなどに比べると戦い方がいまだに導き出せないといった様子である。
「半端かどうかは仁宇にはわからないが、どのようなものでも極めればそれは一番の武器となりえる。戦いの中で『らしさ』を共にみつけよう」
 傷つきながらも気丈に振舞う仁宇に雨音は少しだけ恥ずかしさを感じながらも微笑んだ。
「基本スキルが一緒であれば連携は組みやすい。共に参ろうか雨音殿」
「がんばりましょう、仁宇さん」
 二人は頷きあい、前線へと挑んでいく。
 勝負は負傷者多数により引き分けという結果で落ち着いた。

●最後の仕上げ
「真面目に戦闘したのはエミタメンテのこともあったわけだ」
 傷がある程度癒えたあと、能力者達は南丹にある未来科学研究所を訪れている。
「ここでの戦闘データ解析がスキル開発の元となるらしくてな。仁宇も能力者になってから説明を受けたので今回のことを催したのです。師匠」
 エミタのメンテナンスを終えて出てきたシンへ仁宇は眼を輝かせて答えた。
 剣術の腕にいたく感動したらしい。
「あ、いいね。私もシンさんをお師匠ってよぼ〜っと。凄く強かったしね」
「便乗して私の動きを読んだシンさんを師匠と呼びましょうか‥‥」
「勘弁してくれ。そういうのが嫌だったから道場を抜け出してきたんだからよ」
 仁宇に続き、猫や雷までが持ち上げだしてシンは何とも言えない気分に浸っていた。
 今回の経験がスキルとして形にならなくても、貴重な思い出として心に残るだろう。
 フェンサーの戦いはまだ始まったばかりだ。