タイトル:【El】Estrangementマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/12 01:00

●オープニング本文


「頭が痛い‥‥」
 風邪も治り、新しくなった役所でのユイリー・ソノヴァビッチの初仕事は苦情の処理だった。
 大半が傭兵による支援の行き過ぎと、急激過ぎる変化に反発するものである。
『農地を広げてくれたのは感謝するが、新しい役所の管理をしていては時間がない』
『トラクターを子供が遊んで怪我をした』
『自分達の金に物を言わせ好き勝手やっているのが気に食わない』
 など、ごく一部ではあるが心無い住民がいるのは事実だった。
「今、世界ともばらばらなのに国の中がこんなことじゃ‥‥」
 小さなほころびはいずれ崩壊を招く。
 それは先代の指導者ジャック=スナイプが統治していたときもそうだった。
 だが、悪いことばかりではない。
 北米のをヲタクと呼ばれる人たちから学校のための資金や、制服の生産工場の設備投資も確保できていた。
 世界がエルドラドを見直してはじめているのである。
 倒れていた間にあった数々の報告書を見直してると、執務室のドアがノックされケイ・イガラス監査官が入って来た。
「ユイリー代表に報告があります。先日郊外で交戦をしたアンドリュー一派ですが、どうやらアンデス方面に戦力を固めているようです」
 ケイからの報告を受けて、ユイリーは眼鏡を治して立ち上がる。
 苦情の処理よりも第一にやりたかったことがユイリーにはあった。
 それは離反したエルドラド軍人達‥‥ひいてはアンドリューの引き込み交渉である。

●アンデス山脈アンドリュー軍アジト
「いつまで‥‥俺達はこんな生活を続けるんだろう」
 一人の青年が最後の一口となった保存食を食べて呟いた。
 能力者やUPC軍に追われてエルドラドを逃げ出し、軍備などを整えて侵攻をしたが能力者や、バグアのFRによって迎撃されている。
 武器も食料もわずかであり、死傷者もかなり出ている。
 指導者であるアンドリュー軍はバグアから勝手にキメラなどを持ち出したために親バグアからも見放されかけていた。
「帰りたい‥‥」
 青年は膝を抱えて蹲る。
 平和を望み、エルドラドへいったはずなのに今、自分は何をやっているのだろうかと青年は悩んだ。
「エルドラドのユイリーが交渉を持ちかけてきた。必ず能力者が来るはずだ。我々は秘密兵器を持って対抗する。彼らこそ諸悪の根源であり我々の憎むべき敵なのだ!」
 アンドリューの側近たる男がサーベルを掲げて鼓舞をしている。
 また、戦いが始まろうとしていた。
(「あんな化けものに勝てるわけがない‥‥」)
 エルドラド近辺のアジトから逃げてきた仲間から聞いたこと。
 一ひねりで人間を殺し、手榴弾の自爆にも耐えた『能力者』という存在。
 そして、青年は一つの答えを決めた。
 
 逃げよう
 

●参加者一覧

赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

●離反
「今はきちんと管理する事だ、な」
「それは私達がやることです‥‥貴方の手を借りることはできません」
 UNKNOWN(ga4276)がユイリーから苦情や要望の書類をもらおうと手を伸ばすがユイリーは拒んだ。
「君を手伝うことが赤いのから聞いた依頼だと私は聞いているが‥‥」
「確かにそうです‥‥でも、私は苦情の書類処理を頼んだ覚えはありません。何故直接自分で触れて考えないのですか?」
 意外そうな顔をするUNKNOWNへユイリーは俯き気味に尋ねる。
「ユイリー、何を勘違いしているのかね? 謝るだけで優位な気持ちに立ち動くのなら謝るのもかまわない。だが、それはUPC軍と同じ事をしようとしているだけ、だ」
「優位な気持ちになりたいために謝らせようと‥‥本当にそうおもっているのですか?」
 UNKNOWN言葉にユイリーの目から雫がこぼれだした。
「優位とかそんなことじゃない。わかりあうために頭を下げること‥‥それが良い国を作るために必要なことなんです」
「自分達の手で今ある物で何ができ、何を問題と思い何を出来たか。それを実感して貰わねば、なと思ったのだが‥‥」
 ユイリーの涙をUNKNOWNはそっと拭い優しく囁く。
「その言葉をお返しします‥‥貴方がこの国で何をして、どんな問題が起きたのか‥‥実感してください。この国は反バグアも親バグアのない国です。だから、貴方達がいることでその関係に亀裂が入るようなら‥‥私は国代表として貴方達の入国拒否も考えます」
 UNKNOWNから離れ、ユイリーは一礼と共に執務室を離れた。
「‥‥いうようになったな」
 帽子を被りなおし、UNKNOWNはユイリーの執務室の椅子に座る。
 いつまで待ってもその部屋に誰も訪れることはなかった。

●順応
「なぁ、爺さん達。知っている限りでいいんで向こうにいる兵士達の名前ってわかるかい?」
 キョーコ・クルック(ga4770)は先日助けた学者やエルドラド軍人が住まう区画へと足を運んでいる。
「わしが知っている限りはわかるが、聞いてどうするのだ?」
「家族からの手紙を渡せばこっちに戻って気安いと思ってね? 」
「俺も爺さんにあえて、着てよかったとは思えたけど‥‥国じゅうを回って探すのは骨がおれそうだ」
 共にいた元エルドラド軍人が荷物を仮住まいに運びながら答えた。
「ユイリーはあんた達みたいなのをもっと呼び寄せたいと思っているんだ。あたしはそれを手伝いたいのさ」
 キョーコの真剣な目に学者の老人は嬉しそうに目を細める。
「はぐれものを戻すのは骨だが、時間をかけてでもいい手を選ぶのはよいことだの。急がばまわれだな」
「引越しは順調か? プレハブの仮設住宅だが悪くはねぇだろ?」
 キョーコが話をしていると見慣れないガラの悪そうなスキンヘッドの男が学者に声をかけてきた。
 その後ろには鹿島 綾(gb4549)が付いてきている。
「今じゃこんな仕事をやっているのか‥‥」
「エルドラドでの組織力と他所へのコネは多少はな。裏の人間ってのは表の流儀なんざ気にせずにできるものなんだぜ?」
 トレードマークである毒クモのタトゥーを男は見せて綾と話をしだした。
「タランチュラは自警団みたいなものをやってる感じか。いろいろ問題ごといわたりするんじゃないのか?」
 綾がタランチュラと呼んだスキンヘッドの男に声をかけるとキョーコの視線もそちらに集中する。
 この国の問題はキョーコが気になる部分だからだ。
「そうだなぁ、この間の募集のお陰でやれることが見つかったこともあって俺達だけでやれることを探してやるようにはなってるなぁ。他所からの刺激がいい方向に向いてんじゃねぇかな」
 タランチュラは顎を撫でながら答える。
 他所からの刺激というのは傭兵による国政介入をさしていた。
「そうかい‥‥ユイリーから聞いたけどこっちが買い付けたもので問題があったようだからさ。あたし達はエルドラドの力になりたくてやったというのだけは判って欲しい」
「あれだの、急激な変化に対応できるのはごく限られた人間だぞい。作物もそう、いいものを作ろうとして肥料を大量に与えたとしてもいいものが育つとは限らんということだの」 
 老学者は柔和な笑顔をキョーコに向ける。
「今は時間を置くべきってことか。何か手伝えることがあったらいってくれよ。ユイリーの交渉を手伝ってからもしばらく滞在するからさ」
 綾がキョーコの代わりに答えると、エルドラド軍人の男から早速の要望がでてきた。
「それならトラクターの駐機場を作るのを手伝ってくれ、この間子供が怪我をして大変だったんだ」
「あたしが行くよ‥‥その話はあたしも気になっててさ」
 キョーコは老学者の言葉をしっかりと受け止めつつ、男の後に続く。
 仲間を殺されて一ヶ月も立たないのに精一杯国のためにがんばろうとしている『一国民』の力となるために‥‥。
 
●偵察
「この国に、人々に、謝らなければいけない。無為に国民を不安に陥れるだけではなく、本来国を守る筈の『彼等』を敵として叩いてきた‥‥必要であった事だとしても憎しみの連鎖になっているのなら立たなければならない」
 赤村 咲(ga1042)は前回エルドラドに訪れたときに起こった悲劇を思い返しながら、強く誓っている。
 仲間を目の前で殺され、恐怖と怒りに支配されながら攻撃をしてきたエルドラド軍人の顔が今でもちらついていた。
「兄さまはいい人なの‥‥朔達も化け物なんかじゃないの」
 咲の呟きに兄である終夜・無月(ga3084)より聞いていたことを思い出した終夜・朔(ga9003)は目に涙を浮かべて反論をする。
「では、キメラやバグアは化け物ではないのでしょうか?」
「バグアは敵‥‥だからなの」
「エルドラド軍人から見れば、私達能力者は敵であり銃もろくに効かない化け物なのですよ」
 アルヴァイム(ga5051)が静かに注意を促がすと、焚き火の跡を双眼鏡で見つけ、ハンドサインで誘導をした。
 ユイリーが交渉を行うとされるアジトへの先行偵察のために3人は動いている。
 焚き火の跡はもらった地図の場所よりかなりずれている。
「日がたっているか‥‥もっと早く着ていれば遭遇できていたかもしれない」
 エルドラドにて手紙やICレコーダーによる声をとっていたため、実際の偵察や交渉への動きはユイリーの計画より3日ほど遅れて動いていた。
 交渉相手側のほうで動きがあるのは当然である。
「焚き火の跡が残っていたり、足跡もあるとなればちゃんと訓練を受けたものではないか、移動するのに必死か‥‥追ってみる価値はありそうですね」
「もし‥‥兄さまを化け物と呼んだ人たちだったら‥‥朔はちゃんとお話したいの」
 アルヴァイムの意見に朔はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて答えた。
 罠である可能性も考慮して、周囲への警戒を怠らずに3人は足跡をたどりアンデス山脈を進む。
 地図でいけば交渉ポイントよりもペルーとの国境付近まで来ていた。
「この辺が引き際かな? ‥‥本来の目的とは違ってきてもいるし」
 咲が地図と太陽を見比べながら、撤退を考慮しだすと岩場に動く人影が見える。
「うわぁっ! キメラだ! くそっ、こんなところにまで‥‥」
 人影が声を上げ、銃声が響いた。
 ごつごつした岩がそのまま動き、兵士達を食らおうと口を大きくあける。
 岩肌をしたトカゲの口へアルヴァイムの放った真デヴァステイターの弾丸が吸い込まれて爆ぜた。
「だ、誰だ!」
 驚いた軍人の一人が震える手で銃口を3人へと向ける。
「まずは助けるの‥‥話はそれからなの」
 朔は銃口を向けられるのを気にせず、瞬天速で抵抗する軍人とキメラとの間に割り込んだ。
「お互いいいたいことがあるとは思うが、生き延びてからにしよう! ボクたちはこれからなんだ」
 使わないで置こうと思っていたアーミーナイフを咲きは抜き、朔と共にキメラの相手をする。
 生き延びるための共同戦線が始まった。
 
●交渉
(「あまりにも人の数が少ない? 前情報でいけばここは逃げてきた軍人達のアジトのはずなのに‥‥」)
 ルクレツィア(ga9000)は『探査の眼』を発動して探りをいれていたが人の気配が予想よりも少ないことに内心驚きを隠せない。
「私がエルドラドの代表をつとめています、ユイリー・ソノヴァビッチです。そちらの代表者と交渉するために来ました」
 ユイリーはルクレツィアの心など知ることなく、アジトの入り口で警戒する軍人に挨拶をした。
 同行者の綾は武器を自分から手渡すが、ルクレツィアは身体検査を受けるもただの扇子に見えた盾扇を持ったまま中央のテントへと案内される。
 アジトにいるのは怪我人が殆どであり、普通に動けるような人間は少なかった。
「よ、よく来たな‥‥代表のハンスだ。そ、そちらの交渉内容を聞こうか」
 代表と名乗った男は20代半ばほど若く、緊張しているのかろれつが回らず視線も泳いでいる。
(「代表というのは嘘‥‥罠‥‥でしょうね」)
 ユイリーの護衛として同行している無月は真デヴァステイターを取り上げられ少し遅れながらも通され、目の前のハンスを警戒した。
「私は皆さんにエルドラドへ帰ってきてもらいたいんです。今、エルドラドには働き盛りの人間が極端に少ないのです。ジャック・スナイプの時代に軍人として集められ、UPC軍によるエルドラド攻撃により貴方達を追い出すことになってしまいました。都合いいと思われるかもしれませんが、お願いです。エルドラドのために今一度力をかしてください!」
 しかし、ユイリーはハンスの素振りに一旦思案するも頭を下げて頼み込む。
「傭兵を連れてきて! さらに武器を持ってきたのに帰って来いとは貴様は何様だ! UPC軍の犬になることがジャック様や死んでいった同胞達のためになるはずがない!」
 頭を下げたユイリーにハンスは罵声を浴びせ、蹴りを入れようと動いたハンスの前に綾と無月が立ちふさがった。
「ほらみろ! 貴様は代表といいながら、ジャック様のように犠牲にすることなく護られてばかりだ! そんな奴のいうことが信用できるか!」
「違うっ! 私は‥‥」
 震えていたハンスは激昂に任せてユイリーを罵る。
「貴方達は‥‥」
 黙っていたルクレツィアが口を開くと、ハンスが至近距離で拳銃を構えた。
 カタカタと小刻みに揺れる手でルクレツィアの額に銃口を当てる。
「ジャック・スナイプの名前を出しましたが、彼は国を護るために犠牲になりました‥‥今の貴方達は何を護っているというのでしょう?」
「うるさいっ! うるさいっ! お前達傭兵が来なければ、俺達は戦わずにすんだんだ! この化け物めっ!」
「待ってください‥‥俺達は‥‥貴方達に手紙をっ!」
 子供のように頭を振ったハンスは胸元から試験管を出すと地面にたたきつけた。
 もわっとした感覚が広がったかと思うと無月の目の前でユイリーが一瞬で石像へと替わる。
「ユイリー! クソ、こっちも腕が固まった‥‥逃げよう」
「見たか! 我らの秘密兵器、ジェダイトの力を! このまま崩れてしまえばお前達化け物能力者とて恐れるにたらん!」
 綾がユイリーに声をかけるも返事はない‥‥そして、ハンスが銃を撃つとユイリーの石となった髪の毛が砕け散った。
「ユイリーさんを‥‥傷つけさせません‥‥たとえ、化け物といわれても‥‥俺は人の心迄なくした‥‥つもりはありません」
 『豪力発現』を使った無月は石像となったユイリーを掲げあげると、3日かけて集めた手紙の束を代りに置いて逃げ出す。
 綾とルクレツィアの体が徐々に石化していくが無月には何も起きなかった。
「悲しいです‥‥憎しみ畏れ妬み悲しみを怒りに摩り替え大事な事に気が付かないのが。心があれば皆‥‥痛いのに‥‥」
 石化し続ける体を引きずり、銃声の収まったアジトからルクレツィア達は逃げ出す。
 交渉は決裂した‥‥国民の思いが届いたかどうかはまだわからない。
 
●同調
「戻ってきたか‥‥交渉は上手くいったのか?」
「いえ、彼らはアンドリュー派からの『離反兵』でして‥‥キメラに襲われているところに遭遇したので救助してきました」
 手持ち無沙汰のUNKNOWNが10人近い軍人を連れたアルヴァイムを出迎えた。
「怪我をしているものはいるか? すぐに手当てをする。入国の是非はとわない」
 公務員として正式に採用された元海軍のレティーシアもUNKNOWNと共に出迎え、救急キットをもったラチェットが怪我人を手当てしていく。
 国の内部組織も確実に整備されてきている証だ。
「ICレコーダーで聞いていたけど、ここまで復興していたのか‥‥」
 疲労が見える軍人の一人が周囲の畑を見渡しポツリと呟く。
「ここから先をできればあんた達に作ってもらいたいんだ‥‥あんた達の国だし亡くなったジャックやリズィーが望んだことだろ?」
 畑で農作業をしていたキョーコが軍人に近寄り、鍬を片手に頼んだ。
「わかった‥‥けれど、交渉は失敗したはずだ‥‥元々交渉するつもりなんて無かった」
 戦いに疲れていた軍人達は故郷へと帰ってきた‥‥しかし、彼らの言葉は能力者達を動揺させる。
 しばらくして、石像と化したユイリー、綾、ルクレツィアが無月と共にエルドラドへと帰ってきた。
 UPC北中央軍の兵士がすぐにワクチンを使い治療をしたがユイリーの心に深い傷が残る。
 これから先、どうなるのか誰にもわからない‥‥。