●リプレイ本文
●希望の風が吹き始める
12月24日 20時30分
葵 コハル(
ga3897)は電話をかけていた。
駆けた先はロサンゼルスの中華店。
前に依頼でお土産をもらったところだ。
「あ、どうも葵コハルです」
『ああ、あの大食いに参加していた?』
「はい、その葵です。えっと、今回はお願いがありましてー。ラスト・ホープで営業中のラジオ番組のスポンサーになって欲しいなとー」
『そのラジオ番組って有名なの?』
「いえ、弱小も弱小ですけれど能力者と一般人の垣根を消したいっていう人で、私も力になってあげたいなーと」
ここで嘘を言っても仕方ないと、葵は全部正直に話し出した。
『そうか、ラスト・ホープに来年から支店を出そうって話もでてたし宣伝場所は探しているって、店長がいってたな』
「ホントですか!」
『今すぐ返事はできないけど、ラスト・ホープで店を出すときに能力者に協力してもらったりすれば、提携できるかも』
「ありがとうございます!」
葵は思わず声を大きくして携帯をぎゅっと握り締めた。
『そっちもいろいろ大変だろうけど、がんばってくれよ。名古屋の勝利おめでとう。よい年を』
電話の相手は優しい声でそういってくれた。
「はい、よいお年を」
そうして電話をきり、葵はスタジオに向かって駆け出した。
●準備時間
クリスマス・イブの放送に向けて雑居ビルの一角にあるスタジオはクリスマス模様に彩られていた。
「ケーキを‥‥もってきましたよ。すごいな、すっかりクリスマス一色に‥‥」
愛輝(
ga3159)はケーキを片手にスタジオに入った。
目の前にはクリスマスカラーでもある、赤や白で統一され、金と銀のモールがウェーブをつくってカーテンの上から飾られている。
「あ、どうも。とりあえずテーブルにおいておいてください。機材には触らないようにお願いします」
このスタジオの主、ライディ・王(gz0023)は機材を動かしたり、ターンテーブルの調整をしていた。
「了解」
そして、テーブルにケーキを置き、愛輝はテーブルの上にあるノートパソコンを覗いた。
そこには、ラスト・ホープで希望に支えられた人々からのメッセージが来ている。
(「ライディさんは、これだけのことができている。それに比べて俺は‥‥」)
はぁと愛輝の口からため息が漏れた。
「どうしたの‥‥ため息なんかついて、パーティ‥‥寂しくなるわよ?」
リン=アスターナ(
ga4615)は飾りつけをひと段落させ、咥えタバコを揺らして愛輝に近寄る。
「いえ、なんでもないです」
愛輝は無意識のうちに少し距離をとる。
「‥‥あら、嫌われちゃった‥‥かしら?」
「なんか、あったんですか?」
苦笑するリンに、調整の終わったライディが姿を出した。
「なんでも‥‥ないわ、番組‥‥はじめましょう?」
リンが微笑みつつライディに聞いたとき、スタジオの扉がバタンと開く。
「ぜぇ‥‥はぁ‥‥すみませーん、遅れました!」
扉のところには、葵が息を切らせながら立っていた。
ライディはスタッフとして集まった8人を見て、嬉しさに胸を高鳴らせる。
前回から一緒に来てくれた人、前回の放送に影響されてきた人が目の前にいる。
それだけでも、『希望の風』が吹いたことをライディは感じていた。
「それじゃあ、皆さん日付変更までの3時間よろしくお願いします!」
12月24日 21:00 『Wind Of Hope!』のクリスマス特番はスタートした。
●聖夜に希望の風が流れだす
西村・千佳(
ga4714)と樹エル(
ga4839)による即興とは思えない綺麗な歌声が小さなスタジオからラスト・ホープ全土に広がっていく。
思い出の欠片 抱きしめて
うつむき 耳を塞いでいた
誰かのせいだと 逃げること
覚えて ずっと歩き出せずいた
でも‥‥
君の瞳 君の笑顔
君の笑い声が 僕を強くする
元気を出して♪
辛いことに くじけないで
元気を出して♪
嫌なことも 全て吹き飛ばそうよ♪
二人の歌が終わったことを確認すると、伴奏を下げてライディは挨拶を始めた。
「ライディ・王による『Wind Of Hope!』皆さん、メリークリスマス!」
「「メリークリスマース!」」
能力者達の声を準備中にとっておき、それをSE(サウンドエフェクト)として流す。
「本日はクリスマスですね、恋人達や家族と、そして気の合う人たちと聞いていただければ幸いです」
第一回放送よりも、ライディが力の抜いたしゃべりができているのをその場にいた能力者は感じていた。
「特番でもある今回は時間帯も変更し、能力者の方々によるコーナーDJなどやってもらいます。そして、サプライズな企画もよういしていますので、3時間ゆっくりとお付き合いください」
そして、巷で流れているクリスマスソングがかかりだした。
マイクの音声をきり、ライディが一息いれる。
「ふぅ、緊張した」
「お疲れ様です、蜂蜜入りホットレモンですよ」
樹からの差し入れがライディの手元に届く。
『喋りも‥‥この前と比べて、だいぶサマになった感じ‥‥DJらしくなってきたじゃない?』
スタジオの外からリンがマイクで声をかけてくる。
「ありがとうございます。そういってくれると、気が楽‥‥かな? あ、ヒデムネさんの準備ができたら呼び込んでください」
リンへ伝え、リンはジェスチャーでOKと答えた。
「あの、私の歌はどうでしたか? 勝手に音源持ち込んできましたけど」
「よかったよ、音源もありがとう。できれば、このままおいていって欲しいくらいだけど」
「ふふ、考えておきますね」
樹は肩の荷がおりたかのように微笑み、トレイをもって下がっていく。
入れ替わってヒデムネ(
ga5025)が入ってきた。
「今日はよろしく。折角だから、ここも飾りつけをしたい」
よく見れば手にはモールや、スプレー缶がある。
スタジオは窓に面しているので、その窓に文字を書こうというのだ。
「えっと、よろしくお願いします。作業しながらでいいので、進行の話を聞いてくださいね」
「了解です」
スプレーで『メリークリスマス』と書きながら、ヒデムネは答えた。
●友達募集
曲も終わり、ヒデムネのコーナーが始まる。
ガラスの雪化粧やメリークリスマスの文字の効果か、道行く人もふと足をとめてスタジオのほうを見始めている。
「まずは友達募集のコーナーからです。サブDJとして能力者のヒデムネさんがスタジオに来ています」
パチパチと手を叩くとヒデムネにマイクの音量を上げて話してとライディはジェスチャーで伝える。
「俺がヒデムネです。まだ未熟者ではありますが、よろしくお願いします」
丁寧な口調ではあっても、どこか俗世とは一線を隔した凛とした響きを持つ声が流れる。
「ホアキンさんに続き格好いい人です。『ブシドー』を貫いているそうですが?」
「簡単に言えば信念ですね。ですが、実行するのは中々難しいものです。ひび自問自答をしながらすごしています」
はきはきと言い切るヒデムネを見ると悩みなど無いように見えた。
「では、メールを読んでもらいましょう」
ライディは進行をしつつ、なるべくヒデムネに話す機会を渡す。
能力者との橋渡し。
それを実現するために。
「まずはじめのお便り‥‥」
『いつもは大人の人に囲まれているから‥‥能力者問わず、やっぱり自分と同い年くらいの子の友達も欲しいな
RN:こぱんだ』
「傭兵になって、確かに年齢の違いは感じますね。こぱんださんはかなり若い人だと思いますが‥‥」
「どうして、そんなことが?」
ヒデムネの回答にライディは疑問を投げかけた。
「いえ、大体15〜18歳くらいの方が多いので、それ以下ではないのかなと。俺も27ですから」
顎を軽く手で持ちながらヒデムネは答えた。
「このパンダのぬいぐるみも可愛いですね。ラジオの前の皆さんには伝えられなく残念です」
メールには彼女の『一番の友達』としてパンダのぬいぐるみの写真がついていた。
「そうですね、『はっちー』という名前がどこからついたのか、気になりますねえ」
やや斜め上を行く返事がきたことにライディは少し戸惑う。
しかし、ヒデムネは気にした様子もなく印刷されたメールを読み出した。
「次のお便りを読みます」
『はじめまして。今回友達募集ってことで投稿させてもらいました。
こういった場を借りないと依頼ばっかりの日々じゃなかなか出会いも少なくて‥‥。
今日は普段いっしょに遊んだりできるような友達も含めて募集できたらなって思います。
能力者でこの放送を聴いているそこのあなた! 名前がなんかバグアに似てる俺を見つけたら友達になってくれ!(笑)
能力者といえども日常を楽しく過ごすのも大事なはず。こんな俺だけど今度いっしょに活動する機会があったら仲良くしてくれな!
もしこの放送を聴いて俺の電波を受信しようものなら交流申請どしどし送ってくれ(笑)
こういった形での友達募集だけどよろしくね♪
RN:名前に濁点つけたらバグア』
「気合が入っているメールですねえ、友達が欲しいという気持ちが伝わってきます」
ヒデムネが読み終えたあと感慨深くコメントをつけた。
「電波を受信しようものならとか、表現が面白いです」
ライディがクスクスと笑う。
「能力者も普通の人間ですからね、楽しみたいという気持ちはわかります。そのための兵舎でしょうし」
ヒデムネが自分が普段交流している人たちのことを思い出しながら語った。
その後、いくつか一般人からの手紙を読む。
新天地へきた人たちも不安がある。
バグアの襲来で家族を失ったものの多さに、能力者やライディは驚きを隠せなかった。
「最後にこれを‥‥ライディさんに読んでもらいましょう」
ヒデムネはメールの一つをライディに渡した。
『ライディ、はじめまして☆
つい先日、ロサンゼルスからラスト・ホープに来ました。
友達100人目指して、頑張ってます☆★☆★
が。差迫っての問題が1つ。そう、Xmas。
一緒に過ごす家族の居ない今年は寂しーヨカン(ノ_;)
クリスマスコール、または
心温まるオススメメロディーを届けて☆ライディクロース
RN:ニッポン大好き』
「あはは、ライディクロースですか。この曲がプレゼントになるかわかりませんが、クリスマスソングを一曲かけたいと思います」
「友達もライディクロースさんがプレゼントしてくれないでしょうかねえ」
「ちょ、ちょっと、ヒデムネさん!?」
意外な『口撃』にライディは戸惑った。
スタッフとして集まった能力者達はその行動に暖かく笑う。
そして、曲として樹と千佳によるカヴァー曲が流れていくのだった。
●闘牛士と風
番組の進行中、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)はずっとスタジオ外の喫煙所で壁にもたれて煙草を吸っていた。
手元の携帯でメールを打ち出す。
(「ライディには悪いが、口説くのは一人にしたい‥‥このチャンスを逃したくないんだ」)
そして、意を決したかのように送信ボタンを押した。
「ホアキンさん、こんなところにいると風邪ひくよ?」
ぴょこっと顔を出したのは風(
ga4739)だった。
「すまないね、戻らせてもらうとしよう」
煙草をもみ消すと、外に用意された喫煙所から室内へ移動を始めるホアキン。
「あったかい部屋で紅茶とか飲もう、私がいれるから♪」
風は笑顔でホアキンを誘う。
「それは楽しみだ」
ホアキンは風の笑顔を見て、自らも微笑んだ。
(「ライディなら、あのネタに食いつくはずだ‥‥そうでなかったときは、運がなかったとあきらめよう」)
ホアキンはそう思いながら流れる風を感じる。
冬の風は冷たかった。
●こういう形だからこそ伝えたい一言
次は葵のコーナーだった。
葵が曲を流している間にヒデムネと入れ替わる。
「あ、ライディさん。スポンサーの話だけど‥‥」
「ん、どうしたの?」
葵はちょっと遠慮気味に声をかける。
ライディは蜂蜜入りホットレモンを一口のんでから、葵に視線を向けた。
「うん、一つあてができるかもしれないって。これ、私からのクリスマスプレゼント」
指をぐっと突き出してライディに葵は伝えた。
「ありがとう! 本当に嬉しいプレゼントだよ。それじゃあ、コーナーの説明をはじめていいかな?」
ライディの顔が喜びにあふれ、葵の手をとって激しく拍手をする。
そのあと、はっと気づいて番組の説明に戻った。
プレゼントできてよかったなと、葵は思う。
機材の使い方を説明を聞き、読み上げるためのプリントされた用紙を持つ。
「BGM落としてください、はじめます」
曲の音量が下がり、マイクの音量を手元でライディは操作する。
「はい、いい曲でしたね。クリスマスらしくて」
「ここからのお便りのコーナーは、葵コハルがサブDJをつとめまーす♪」
葵は元気に声を出していく。
一度決めたら突っ走る彼女らしいといえば、らしいやり方だ。
「テーマは『こういう形だからこそ伝えたい一言』です。ありがとうとか、おめでとうなどいろんな一言がきています」
ライディがそれに乗っかるように話をはじめた。
「ネタばれしちゃだめじゃないですか、それではアオイが一枚目いきます!」
緊張をごまかすかのようにガンガン責める葵だった。
『クリスマスイブの誕生日、おめでとう
RN:二階建て紳士』
「すごいシンプルなのがっ!」
気合を入れていたのに空ぶるかのようなものがきて、元気の落としどころに葵は困っていた。
「Simple is best まさにそれを地でいくような手紙ですね」
読み上げられると、スタジオ前にいる眼鏡に白衣を着た二階堂 審(
ga2237)が眼鏡をくいっと動かした。
「もしかして、収録見学に来ているあの人かな?」
葵が審の方に顔を向けていう。
「さぁ、知り合いの人のかもしれませんよ」
ライディはあくまでも『ひき』としてそれを流した。
「次のお便りを読んでください」
「はーい」
『 拝啓 ライディ・王様
私は最近ラストホープに移り住んだ能力者です。
今日は、御親切にして頂いた方々に、この場をお借りして御礼を申し上げたく存じます。
ショッピングモールで迷った時、出口へ案内して下さった係の方、有難うございました。
携帯電話の使い方を丁寧に教えて下さった御店の方、有難うございました。
高層ビルを見上げて眩暈を起こした時、「大丈夫?」と声を掛けて下さった方、有難うございました。
兵舎への帰り道が分からなくなった時、教えてくれた傭兵の方、どうも有難うございました。
御礼を言いたい方が、まだまだ沢山いらっしゃるのですが、残念ながら紙幅が尽きました。
共に闘う戦友、兵舎の仲間には勿論ですが、ここでの暮らしを支えて下さる全ての方に、心から感謝申し上げます。
そして、この場を設けて下さったライディさんに。本当に有難うございます。
これからも、私達の耳に希望の風の音を届けて下さい。
RN:大熊猫』
「えー、本当の手紙できてますー。筆で丁寧な文体書かれていて、かなり本格的ですよ。そして、読み上げたのが私でごめんなさいっ!」
葵は映画とかで見るような折りたたまれ、筆で書かれた手紙を読み上げて、あっけにとられた。
「『こぱんだ』さんに続いて『パンダ』さんがきましたね」
「次は孫ぱんださんでしょうか?」
葵が冗談めかしていう。
「きてくれると嬉しいですね」
ライディもそうであって欲しいと願い返した。
偶然かもしれないが、手紙によってつながった関係。
それは新たな出会いの始まり‥‥かもしれない。
「じゃんじゃんいきますよ♪」
『キングさん‥‥もとい、王さん。そして、ゲストの能力者の皆さん、初めまして。
僕からラストホープの皆さんに伝えたい事があります。「大変な状況ですが、こ
ういう時こそ人に優しく。人
の心を忘れずに。いつの日
か、
全人類が幸せなクリスマスを迎えられますように‥‥」
一言じゃなくてごめんなさい。僕も能力者
として、
微力を尽くして行こう
と思います。皆さんもお体
に気をつけて頑張って下さい。
RN:ハサミで切れるものがある』
「なんか、改行がおかしくて、読むのがつらかったよ」
はふぅと、苦労をしたためか、ため息を漏らす葵。
「どれですか‥‥ああ、なるほど。隠されたメッセージありがとうございます」
ライディは葵からそのメールを受け取り読むとにやっと笑った。
スタジオ前の審もわかったらしく、にやりとする。
「どういうこと?」
「手紙では良くあるお遊びですよ。段落の一文字目だけを口に順にだしてみればわかります」
「えっと、『き、ぼ、う、の、か、ぜ、を、ひ、と、び、と、に』なるほど!」
葵はメールをもう一度いわれたように読み返し、つき物が落ちたような顔になる。
「そういうことですね。次、いってみましょう」
『屋台居酒屋なんでやねん、堂々営業中!!
RN:どら猫』
「宣伝広告だね〜、居酒屋屋台って何か面白そう」
簡潔な文章に葵は笑った。
「ははは、宣伝したのでスポンサーになってもらうべく訪ねましょうかね?」
ライディのほうも微笑みつつ、意地の悪い提案をしだす。
「それはいいね、報酬はただで飲み食いとか〜」
大食いの葵らしい答えが返ってくる。
「その辺は店主さんと交渉ですね。空いているときにでもいってみます」
「最後のお便りをお願いします」
『能力者の皆さんへ。
娘の迷子を親身になって捜していただきありがとうございました。
あの日のことは感謝しても、感謝しつくせません。
ラジオ番組という場所を使いまして、御礼を申し上げます。
記念写真は娘と一緒に宝物にしています。
大きな戦いがありましたが、ご無事であれば幸いです。
皆さんお体にお気をつけください。
RN:記念撮影の母』
「依頼で助けた人からのありがとうって、本当に嬉しいですよね。でも、中々一般人の人との接点がなかったりして大変だと思います」
ライディがそういっていると、控えていた愛輝の表情が変わる。
(「まさか、けど‥‥記念撮影というと、あの人しか‥‥」)
愛輝は自分の過去の記憶をさかのぼり、一つの依頼にたどりつく。
もし、そのときの人からの手紙であるのなら‥‥。
「能力者の人の中で、『記念撮影の母』さんのことを覚えている人は番組へメールをくださいね♪」
葵はそんな愛輝のことなど関係なしに話を締める。
愛輝の心に『そよ風』が流れ込んできた。
●今年一年を振り返って
曲を二曲流して少し休憩することになった。
3時間という時間は中々に厳しい。
「うー、予定より結構押してるな」
スタジオから出てきて、蜂蜜入りホットレモンのおかわりをライディがもらっていると、スタジオに来客がきた。
「どうも、RN:大熊猫です。先ほどはありがとうございました」
手に焼き餃子と肉包子を持った夏 炎西(
ga4178)がいる。
外からは冷たい風がはいってくる。
「いえ、こちらこそ。えっと、狭いフロアですけど、中にどうぞ。外は寒いでしょうし。こんなに寒いとはおもってなくて」
その風を受けてあわててライディは来客たちを中にいれることにした。
「それでは少しだけ」
そういって夏が入り、審もそれにまぎれるようにはいってきた。
他にも数人、一般人から能力者まで見学者がいる。
「狭くなりますし、番組再開しましょう」
ライディは樹の用意したサンドイッチをもぐもぐと食べると、気合を入れ直した。
「よっし、あたしの出番だね。久しぶりの業界の仕事だけどがんばっちゃうよ」
風が待ってましたとばかりに出てくる。
そして、ライディと共に収録スタジオへ入っていく。
扉がしまり、「ON AIR」のランプが光った。
「俺も少し席をはずさせてもらおう、煙草を吸いたくなったのでね」
ホアキンはそういうと、収録スタジオを一度みると、外へと出て行った。
「さて、少し外の風を浴びましたが、冷たかったです」
「そして、そんな風と共にやってきたコーナー担当者はあたし、フウです。風とかいてフウ。番組にぴったりだと思いませんか?」
マイクの前に立つと人が変わったかのように大人っぽい声が響く。
「いろんな希望の風を吹かせちゃいます! お便りの紹介の間お付き合いくださいね」
「頼もしいですね、さすが業界経験者でしょうか」
「そんなこといわないでくださいよ、ブランクあるんですから!」
少しむっとなりつつ風はライディに返した。
表情がころころと変わるのは見ていて飽きそうもない。
『今年一年悩み多き年でした。
積み上げてきたものを投げ打ち、一から人生をやり直す日々。
だけど今はその全てが無駄ではなかったと実感しています。
皆さんが希望の風を吹かすように、自分も人々の希望の糧となれたらと思います。
RN:イオス』
「大人なお便りですね。年齢は結構高いのかな?」
「どうなんでしょうね、イオスさんからはもう一通来てましたが、番組の時間の都合上読めなくて申し訳ありませんっ!」
風からの疑問に、ライディは申し訳なさそうに答え、謝った。
「あははは、どんまいどんまい♪」
風はライディの肩をぽんぽんと叩く。
「次のお便りいっちゃいますね」
『バグア襲来以来、私にとって喪失の年が続きました。
嘆く暇も無いほど忙しい日に救われた日も数知れません。
これに対し2007年は新たな出会いの年となりました。
激戦の名古屋では失われた命が多い一方で、多くの戦友と知り合うことが出来、今も交友が続いております。
出会いの中から新しい恋も見つけました。
1999年以来、初めて積極的に生を実感できた年でもありました。
私の想いに気付かない鈍感で可愛い彼女の為にも、来年が良い年になるように願っています。
RN:ホセ・リサール』
「この手紙ってもしかして‥‥」
風のリアクションが少し変わる。
「心当たりでも?」
「知り合いの人に似ているな〜って、となるとあの人のことかな? ふふふ、これを聞いているホセ・リサールさん。がんばってくださいね♪」
ライディの問いかけに風は笑顔で返す。
「う、何かすごく疎外感が‥‥」
何か寂しい気分を味わうライディ。
「あはは、気にしないで。ホセさん、最後は自分の言葉で直接伝えましょうね♪」
風は終始笑顔‥‥いや、にやけていた。
「だ、誰なのか気になります!」
「最後のメール読みま‥‥すね」
元気だった風だが、メールを見ると急に声のトーンが落ちる。
『どうしても護りたい女性と巡り会えました。
名古屋の戦空に舞った気紛れな風‥‥些細な仕草や表情に魅せられて。
俺は今、あなたを本気で好きになりかけています。
RN:青空の闘牛士』
「青空の闘牛士って!?」
「えー、第一回のゲストにでていた『ホアキン・デ・ラ・ロサ』さんですね」
真っ赤になる風にライディは頬をかきながら答えた。
そして、能力者達が控えているフロアをみるが、そこにはホアキンの姿はない。
審はニヤリと笑い、他の人たちも生暖かい視線を風に向けていた。
「えー、と、とりあえず。このまま別コーナーへ行きましょう!」
さすがにヤバイとおもい、ライディは巻くことにした。
「は、はいっ!」
びくんと風はなるも、すぐに赤面でうつむく。
「サプライズ企画、リアルタイムテレフォンコーナー! 電話番号の書いてある人の所へ直接かけます。今回は『RN:ニッポン大好き』さんにかけちゃいます」
コーナーをそのまま推し進めるライディ。
風はそのまま固まっていた。
●サプライズは風と共に
空閑 ハバキ(
ga5172)が家で一条 かがり(
ga5193)と一緒にクリスマスを迎えていると、ハバキの携帯が着信を知らせる。
「ラジオで予告してきたか!」
「ハバッキー、やったやん」
ハバキもかがりも喜んだ。
「もしもーし」
『あ、もしもし‥‥え、その風です』
「風ちゃんよろしく〜。元気がなくなったみたいだけど、どうかしたの?」
ハバキはとりあえず何気ない話題として聞き出す。
『な、なんでもないです! お便りありがとうございました』
しかし、風の口調はたどたどしく、必死に話しているのがわかる。
「兵舎のかなたではダチがパーティ開いてるけど、カップルばっかりでやんなっちゃうよね」
『え、えーと、そ、そうですね〜』
何か会話がかみ合わないので、ライディと替わってもらおうとハバキは一言いってかがりと変わるようにした。
「この放送を聴いていた人、俺の声を聞いたら、ぜひ交友頼むぜ! それじゃ、俺の友達の悩み相談を聞いて欲しいから、替わるな。そっちも替わってくれると嬉しい」
『あ、は、はーい』
心ここにあらずといった返事が返ってきた。
そして、ハバキの携帯はかがりに渡される。
「どうも、一条 かがりいいますー。今日は女の子ならではの悩みを聞いてほしいんやわ」
聞きなれないイントネーションの言葉が風と交代したライディの耳に響く。
『あ、はい。ライディです。女の子じゃなくていいのかな?』
「いいですいいです。ライディさんの方がいいです〜」
ちらちらと横にいるハバキを見ながら、かがりは悩みを打ち明ける。
「ほら、うちら能力者は見た目は『はんなり』とか、『か弱い』んやけど、周りのこより『ちょぉっと』体力あるしな。『らしくない』いわれるのん」
巫女衣装で語る姿は真剣そのものだった。
ハバキもかがりの真剣な姿を見守っている。
『ああ、能力者らしい悩みですよね』
能力者は一般人よりも基礎能力が高くなっている。
だからこそ、バグアとも戦い合えるともいえているのだが、それは利益だけかといえばそうではないらしい。
「せやねん、兄さんたちは強い女の子ってひく?」
『うーん、僕の個人的意見ですけれど‥‥カッコイイと思います。でも、彼女を守ってやれないのは男としてちょっと寂しいかもしれません』
苦笑する声が携帯からもれているのがかがりに聞こえた。
「そやねぇ‥‥やっぱり、あかんのかな?」
『でも、力が強い分、心が弱いんじゃないかなと思っています。ここ最近、能力者の方と接してきてそう思いました。だから、僕は精神面で支えればそれでいいんじゃないかなと思いますよ』
ライディの一つの答えがこれだった。
能力者として人と違う『力』を手に入れてしまったからこそ、『心』に足りないものがある。
だから、一般人は能力者の『心』を支えることで、バグアと戦えるのだと。
だから、ラジオ番組を続けようとしている。
「そか、相談聞いてくれてありがとな。良いお年を〜」
『はい、良いお年を!』
ぴっと、電話を切るかがり。
「よかったな、かがりん」
「うん!」
『では、もう一人。電話をかけてみましょう‥‥風さん、『青空の闘牛士』さんへ電話をお願いします』
二人が喜んでいるとき、ラジオでは次なるサプライズがはじまっていた。
●青空と風と‥‥
ホアキンは喫煙所で煙草を吸いつつ、ラジオを聴いていた。
『えぇ!? マジでいってるの?』
『マジもマジです。さっき、ホセさんにもいってましたよね『直接伝えてください』って、そのチャンス『青空の闘牛士』さんへ与えてあげてください』
ホアキンはライディの強気な姿勢に苦笑した。
「風は俺に吹いてきた‥‥か」
『う〜。それじゃあ、かけます!』
ピッピッというボタンを押す音がなる。
そして、手元の携帯が着信をしらせる音をだす。
「はい、青空の闘牛士」
『え、えーと風です』
「わかっているよ。担当直入にいおう。風‥‥俺は一生、あなたを護りたい」
ホアキンは告白をしたあと、目を瞑り答えを待つ。
じーっというノイズが耳障りだった。
だが、『早く答えを』と思うほど、時間の流れが遅くなっていくような感覚にホアキンはおちいる。
『あたしでいいのなら‥‥Te amo』
「『愛しています』か、最高の風をありがとう。スタジオに戻るとするよ」
『待ってます‥‥って、あたし何をいってるんだろ、きゃー!』
一人で盛り上がりだす風の声が聞こえるラジオをしまった。
ホアキンは頬を緩ませ、煙草を消す。
そのとき、粉雪が空を舞いだした。
「ホワイトクリスマスか、このときばかりは聖ニコラウスの加護に感謝しよう」
騒がしい声の聞こえるスタジオの方へ、ホアキンは足をすすめた。
●希望の風の行方
「番組も最後となりました、三時間ありがとうございます。今回は、この企画のためにご協力いただけた能力者の皆さんありがとうございました」
一礼をしながら、ライディは感謝の声をだす。
「でも、ちょっとタイムテーブルの調整もできず日付が変わってしまいました。まだまだ、未熟ですがこれからも付き合っていただけると嬉しいです」
そのときだった。
サンタクロースが突如収録スタジオにやってくる。
「え、サンタクロース!?」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、メリークリスマス。そして、ハッピーバースデーッ!」
サンタクロースが袋の中からバースデーケーキをだした。
「ライディさんおめでとう!」
葵を筆頭に、今回スタッフとして参加してきた能力者達がスタジオに入ってきてクラッカーを鳴らした。
「皆さん‥‥最高の誕生日プレゼント、ありがとう‥‥ござい‥‥ます」
最後は涙声になって、中々いえない。
「ライディ君‥‥締めの言葉。まだ、終わりじゃない‥‥でしょ?」
リンがそのまま言葉をかける。
「はい、皆さん。良いお年を! そして、皆さんの下に希望の風が吹きますように! さようなら!」
ライディは涙をぬぐって締めの言葉をつむいだ。
「それじゃあ、皆さん賛美歌を歌いましょう」
樹の合図で賛美歌をスタジオにいる全員で歌いだした。
ラスト・ホープ全土に祝福を与えて欲しいという願いを込めて‥‥。