●リプレイ本文
●うぇるかむ
「ら、ラストホープに出回ってる市販チョコに当たりマーク‥‥しかも住所付きを付けるなんて、バグア‥‥っていうか、アスレードおそるべしっ!」
樋口 舞奈(
gb4568)はイスパニョーラ島ドミニカ共和国の中心に立つチョコ工房を前に首が痛くなるほど建物を見上げて驚く。
「専用のチョコ工房を作ってるとか噂はあったけど‥‥本当だったとは、舞奈も甘党を自認しているけど勝てないよ」
「どうした? 遠慮することはねぇぜ? あぁん?」
良くわからない敗北感を感じる舞奈だったが、紳士面をしながらも口調はヤンキーなアスレード(gz0165)を目の前にするとペコリとお辞儀をした。
「え、ここは一体‥‥あ、どうも」
モワモワしたチョコ坊に連れて来られた柊 理(
ga8731)はキョロキョロと当たりを見回して、舞奈とアスレードを見て頭を下げる。
「まぁ、響さんもこちらに来ていたのですね?」
「やあ、玲さんも招待されていましたか。こんなところで会えるなんて幸運ですね」
美環 玲(
gb5471)と美環 響(
gb2863)は合わせ鏡のように立ち、双方が挨拶を交わした。
粗暴なはずのアスレードがタキシードに身を包み、お城のような工房の主という状況もあいまってかなりのワンダーランドである。
「むう! 君はアスレード・チョコスキー君! 我輩を撃墜した憎きヤツ〜!」
そんなワンダーランドに現実の悲しみを怒りに変えてしまったドクター・ウェスト(
ga0241)がメスの形をしたペーパーナイフで持ってアスレードを刺しに飛び出した。
時代劇のワンシーンを彷彿させる状況である。
「あ、博士。これ、ちょっと味見して頂けませんか?」
騒ぎを酷くさせまいと北柴 航三郎(
ga4410)が大口を開けて特攻するドクターの口へ試作洋酒入りチョコを投げ込んだ。
ゴクリと喉を通り胃にまでチョコを飲み込むと、ドクターはその場にがっくりと倒れだす。
「なんだ、俺のチョコ工房のすばらしさに気を失ったのか! チョコ坊、こいつを運んでやれ‥‥さぁ、てめぇらもはいりな。最高の一日を味あわせてやるぜぇ?」
何があろうと関係ないような素振りで、あくまでも自分のペースを保つアスレードはモフモフした生き物に命令してドクターを運び、一同を工房の中へと案内するのだった。
●もげもげもふもふ
「き、貴様っ! 何をするっ!」
「一乳げとー!」
広間ではスリットの深いスカートを履いた長身でショートボブヘアの女性の胸を烏谷・小町(
gb0765)はむんずと掴んで歓喜の声をあげる。
”グリフォンライダー”という色気も何もない名前で呼ばれている秘書の胸は大きすぎず小さすぎず小町にとって満足のいくものだ。
「酒池肉林‥‥いや、チョコ池チョコ林ですね‥‥あーん」
「今日は貴方がお客様だから食べさせてあげているのですわ! べ、別に貴方様のためにやっているわけではないのですわ!」
ツンデレ美少女メイド”クインビー”にチョコフォンデュを食べさせてもらっている森里・氷雨(
ga8490)もご機嫌である。
こたつむりに入りながらコタツの上でクツクツと煮立つチョコにバナナやパンがフォークで塗られ氷雨の口へふーふーと冷やされた後に入れられていた。
数十分ほど前まで「バレンタインが何だ! チョコは戦闘粗食じゃなかったのか」とクドクド文句をいっていたのは秘密である。
ただいま鼻の下を伸ばし、絶賛至福の時を氷雨は味わっていた。
「楽しんでていいんでしょうか‥‥なっとくいかないのですが、それにすごくあの人を見ていると悪寒が‥‥」
小町が美少女メイドをターゲットにして乳を揉んで遊んでいるのをみた宗太郎=シルエイト(
ga4261)は背筋に寒いものを感じる。
無論、小町ではなく”クインビー”と呼ばれるメイドであるが、悪寒の正体はわからなかった。
「ここにいる人は皆チョコ好き=悪い人はいないんだよ☆ とてもよいこと! チョコ坊もモフモフで気持ちいーし」
ラウル・カミーユ(
ga7242)はチョコフォンデュを作るケモノのモフモフしつつ自らもパンなどをチョコにつけてその甘さを味わう。
「その意見には俺も賛成だね。チョコ坊は実にいいよ」
鳥飼夕貴(
ga4123)は広間のチョコフォンデュ作りを手伝いながらラウルに同意した。
交代したチョコ坊はカカオ豆の屑をもしゃもしゃと食べて共にお食事といった感じである。
『クエー』
チョコ坊も羽を手のようにして串を掴み、フルーツのチョコ和えを宗太郎へと捧げた。
(「ああ‥‥もう、なんて可愛いのでしょうっ!」)
円らな瞳で見られた宗太郎は悪寒など吹き飛ばしてチョコ坊に抱きつき、チョコフォンデュを楽しむ。
何かの抗いがたき魔力を感じる一同だったが、もはや誰もそのことを気にすることなどなかった。
●ちょこちょこぼんぼん
「うわぁ、早い早い! GO! チョコ坊!」
「あはは、僕も追いかけるヨー。モフモフー」
チョコ坊牧場ではチョコ色のモフモフした鳥系キメラに乗って柊とラウルが走って遊んでいる。
牧場にはチョコの木が生えていて、甘い香りを漂わせていた。
「あー、落ち着きますねぇ‥‥」
牧場の片隅でモフモフしたチョコ坊にくるまれて宗太郎は空を見上げる。
蝶々が飛んでいたり、小鳥が囀りしていてのどかだった。
「チョコと名前にもある通り甘い匂いがしますわ」
宗太郎の隣では玲がカカオ豆の屑をチョコ坊に食べさせてはチョコ坊の甘い香りを楽しんでいる。
「チョコ坊に首っ丈ですね、玲さん」
「あら、ヤキモチを妬いていらっしゃるのですか?」
黒色を基調とし、金銀の刺繍がアクセントのドレス姿で優美に微笑む。
響の姿と背景に見える城の形をした工房とあいまって時代が中世ヨーロッパか演劇の世界のようにも見えた。
「そんなことはありませんよ。どんなことをしていても玲さんの美しさは変わりません」
芝居がかった響の動きに磨きがかかる。
姿がそっくりなためになんとも奇妙な光景ではあるのだが‥‥。
なお、和服姿の夕貴が共にチョコ坊と遊んでもいるため実に和洋折衷だ。
「二人は双子なのかな? 僕とリュンちゃんも似ているとかいわれるけど、キミたちの方が本当にそっくりダヨ」
チョコ坊でひとしきり走り回ったラウルが響と玲を見てそんなことを聞く。
「「秘密です」」
二人は同時に答え、玲だけは続けて微笑みを浮かべ、流し目をラウルへ向けて囁いた。
「A secret make a woman woman」
●げきとうおれさまごはん
『折角ですから、あとでチョコの木の下でパーティしませんか?』
北柴のそんな発言から始まった厨房でのチョコ作り。
みんなで楽しく、いろいろな味のチョコを作るはず‥‥だった。
「アスレードさん、どちらがよりおいしいチョコレートを作れるか勝負です!」
「クックックッ、てめぇにチョコレートが何たるかを教えてやるぜ」
響の宣言より、何故か料理対決が始まろうとしている。
「面白そうだから僕も参加するヨー」
ラウルも混ざり、厨房はチョコ坊によって料理対決場へと準備が整えられた。
「んー、バグア脅威の科学力で作られたチョコと人類の技のチョコによる世紀の決戦って奴だよね。舞奈としても楽しみだよ」
【実況】と書かれた札を前において、持参した紙パックココアとチョコをぼりぼりと食べて舞奈がしゃべりだす。
食べるか飲むかしゃべるか選んで欲しいものだ。
『けひゃひゃひゃ〜、我輩が解説のドクターウェストだ』
【解説】と書かれた札を前において白く透き通ってみえる塊が話をしはじめる。
塊の下はドクターウェストの口に繋がっており、エクトプラズムが今机の上で解説を担当しているのだ。
「この対決だけど、ドクターさんは誰が勝つと考えるの?」
『我輩としては響君やラウル君に是非、仇をとってもらいたいのだ〜』
ドクターの幽霊とも言える存在が舞奈に対して答える。
「いやー、本当にどうしてこうなっているんでしょうか」
北柴は汗を流し、厨房の片隅で自分なりにパーティ用のチョコを用意しだした。
なんというか、もう見ないことにしたらしい。
「あれやな、判定はウチに任せとき、チョコ好きとして体重増加なんて何ぼのもんや! 堪能した乳のお返しもせーへんとな」
逆に小町にいたってはノリノリだ。
「ギャラリーもそろってきた、それじゃあ始めようじゃねぇか!」
アスレードがタキシードにエプロンという摩訶不思議な格好を整え、声高らかに競技の宣言を始める。
ラウルがチョコタルトを作り始めていると、響は懐からトランプを出して空中へ投げた。
「ショータイム」
響が指をパッチンと鳴らせば空中に散っていたトランプがチョコレートの屑に代わり、響の手元にあるボウルへ吸い込まれるように入る。
「おおー、今のはすごい! これはポイント高いよ!」
「アクションが腹はたまらへんからなー」
『響君は奇術が得意のようだからね〜ケヒャッ、これからも魅せてくれるんじゃないだろうかね〜?』
小町と幽霊のような姿であるドクターがそれぞれコメントを舞奈に返した。
アスレードは大きな鍋でチョコレートを煮込みはじめている。
「クックックッ」
黒魔術でもするかのような鍋でアスレードは邪笑を浮かべてはいるがフリルエプロンと鍋の中のストロベリーチョコがアンバランスだった。
「アスレードは何とストロベリーチョコ! 秘書さんの話によると夜や寝る前に食べるお気に入りらしいよ! らしいよ!」
その光景を見た舞奈が手に汗にぎり実況を続ける。
『彼のチョコづきは有名だからね〜。そう、チョコを食べたために我輩は‥‥アァァァスレェェドォォォ!』
解説を続けていたドクターが急に体を戻して立ち上がりはじめた。
「ああ、もうドクターはこれでも食べて落ち着いてください」
「そうそう、俺のアイディアチョコでも食べてね」
再びメスのようなペーパーナイフを右手に持ち暴れだすドクターを北柴と夕貴が焼酎入りチョコなどで沈める。
「ま、またしても〜」
最後の言葉を残しがっくりと首を横に倒し、ドクターは再び白く透き通った形で姿をみせた。
騒いでいる間にもラウルは着々とチョコタルトを仕上げていく。
普段から料理をやっているために動きに無駄がなく、初めて使う厨房だというのに手際も良かった。
「ラウル君は安定した調理をしてるね。普通においしそうだよ‥‥」
舞奈が2本目のココアパック飲料を開けて飲みながら、喉をゴクリと鳴らす。
「こちらにも注目して欲しいですね。ここに取り出したるウィスキーをごらんあれ」
食材としておいてあったウィスキーをハンカチをひらりとさせることで出すと、トランプで一閃して封をあけた。
「おお、今のはかっこええやん」
思わず小町が拍手をする。
響はあふれ出したウィスキーをシャーベットに振りかけて軽くまぜて小さな丸いボールにして響は冷蔵庫へと入れた。
「”ネゴシエイター”アレの用意は?」
「問題なく出来ております、主」
煮込みたったストロベリーチョコにワインなどを入れて味付けをしていたアスレードが執事をギラリとにらむと執事は恭しい礼で答える。
「何が出てくるんだろうワクワク」
ラウルがサブレ生地を焼いて手が空いているため、アスレードの様子を期待に満ちた目で眺めた。
そして、秘書につれられた氷雨がストロベリーチョコの入った鍋に投下される。
「え、コタツの次はお風呂? いやぁ、いたれりつくせ‥‥熱い! 熱い! 愛があついっ!」
鍋の中で素っ裸にされた氷雨がもがく。
体中にストロベリーチョコがつき固まりだした。
「え、えーとこれはなんでしょうか! ドクター!」
『これは傭兵の苺和えということではないだろうか〜? アスレード君は新鮮な食材をつかっているね〜』
「解説してないで助けて! 熱い! 痛い!」
「八ッ八ッ八ッ! 粋のいい食材だぜ! 大丈夫、死にはしねぇよ」
痛がりながらもどこか嬉しそうな氷雨を高笑いをしながらアスレードは眺める。
「さすが、アッスィーって。ダメだよ、助けなきゃダメだよ!」
一瞬見とれていたラウルだが、氷雨を急いで助け出し、料理対決は中止となるのだった。
●おおきなちょこのきのしたで
「アスレード氏は、何時からチョコ好きになったの?」
大きなチョコの木の下で、チョコで出来たKVジオラマと普通に塩やスパイス風味に味付けしたチョコを用意した北柴が不意にアスレードに聞き出す。
「知りたいかぁ? 知りたいかぁ?」
ギラっとした目を見せるアスレードに北柴は首を横に振って答えを保留した。
「チョコ坊の男女ってどうやって見分けるんだろう? これは元ヒヨコ鑑定士である俺に対する挑戦だな?」
モフモフしたチョコ坊は大きくなったヒヨコに近いということもあり、氷雨にとって何かそそられるものがあるらしい。
「すごいです! このお煎餅のストロベリーチョココーティングとか、マシュマロのブラックチョココーティングとか! ああ、喉渇いたな‥‥ってこれもチョコレートドリンク!」
チョコ坊から教えてもらったレシピで作った夕貴のチョコメニューを口にした柊はチョコドリンクでそれらを流しこむ。
「この99%カカオもええ味やな直接食べれる木なんてめっちゃええやん」
「そうだよね、結局勝負は見れなかったけど美味しいチョコに出会えれば舞奈は満足だよ」
チョコの木の枝をぽっきり折ってモシャモシャと小町と舞奈が満足そうに笑った。
「ククク、てめぇのチョコタルトも響のチョコボンボンも美味いぜ?」
アスレードは後ろに秘書やメイド、執事を従えながら料理勝負(?)で作った料理を食べあっている。
「おお、こっちもうまそうやね!」
小町がアスレードの後ろからチョコタルトに手を伸ばしては摘んだ。
「アッスィーのストロベリーチョコも美味しいよ?」
ラウルもアスレードの作ったワイン入りチョコを味わう。
氷雨がもがいていたことは、とりあず頭の片隅においておいてだ。
味はどれも本当に美味しく、何処か甘く酔える味わい。
ゆっくりととろける様な気分に浸りだした。
「ああ‥‥本当にチョコに罪はない‥‥」
宗太郎がそんなことを呟いて目を閉じる。
ふと、目を開けるとチョコの木も農園も、チョコ坊もない兵舎の天井が見えた。
「夢‥‥か? 何でこんな夢見てるんでしょう。あんな奴と楽しく会食とは‥‥」
アスレードの顔を思い出し、ロサンゼルスの夜まで記憶がたどり着く。
自分をボロボロにしながらも余裕に笑う声が耳に響いた。
「‥‥いや、どんな奴にも生きるべき道がある。それを忘れてはダメですね。そして、その道を断つ覚悟も‥‥」
ベッドから起き上がると宗太郎は決意を改める。
2009年4月1日、傭兵達の一部でアスレードとチョコを食べたという夢を見たものがいた。
●ゆめのつづき‥‥
「えー、諸君。今日、今をもってこのチョコ工房はUPCの管轄となる」
UNKNOWN(
ga4276)が不意にアスレードらの前に姿を見せる。
手には『差し押さえ』に関する資料が一式、正式な形でそろっていた。
「何だと? いや、確かにこれは‥‥間違いありません、主」
「てめぇ、どういうつもりだ?」
動揺を見せる執事だったが、アスレードは黒い姿できめるUNKNOWNを静かににらむ。
「Mrアスレード。カカオの実を毎日数える日雇い業務であれば、まだ仕事の空きがあるがどうかね?」
UNKNOWNが不敵に笑うと、ぞろぞろと黒服の男達がチョコ工房になだれ込み、『差し押さえ』と書かれた赤紙を家具や道具などへ次々と貼り付けていった。
『クエー』
「チョコ坊!」
麻酔銃を撃たれたチョコ坊も檻へと入れられて連れ出される。
「そこの生き物はUPC管轄の動物園へと移送される。安心しろ、サーカスなどには売らんよ」
アスレードの作り上げたカカオ農園のチョコ工房は一夜にして潰された。
「俺はみとめねぇ! こんな結果は絶対みとめねぇぞ! UPC!」
アスレードが広間で叫ぶ姿をUNKNOWNは生暖かく見守る。
「負けるな、アスレード。頑張れ、アスレード。きっと、君の幸せは2歩進んで3歩戻る。そんな人生の先にあるのだろう‥‥」
帽子を静かに下げながら、UNKNOWNは呟いてチョコ工房を後にした。
もわもわと景色が歪み、白い光と共に収束して戻る。
「いやな、夢だったぜ‥‥あの黒い奴、UPCとかいいやがったなぁ」
ゆらぁっと上体を起こしたアスレードはギリギリと歯軋りをした。
本星ワームのコックピットでの目覚めは最悪である。
「俺の夢をぶち壊した責任は命をもって償ってもらうぜ‥‥えぇ、UPCども!」
2009年4月1日、ロシアの大地にてアスレードはUPCへの恨みを高めたのだった。