タイトル:【El】Ceremonyマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 02:55

●オープニング本文


「ユイリー、本当に仕事に戻って大丈夫なの? もう少し休んでいてもいいのよ?」
「今‥‥行きます‥‥」
 学校建設の際にエルドラドヘやってきた小児科医の元で簡単な検査を受けていたユイリー・ソノヴァビッチはケイ・イガラスの呼びかけに答えて部屋を後にする。
 無造作に切られたショートヘア髪が軽く揺れた。
 ジェダイトと呼ばれるバグアの秘密兵器によって一時は石化され、その際に髪が砕かれてしまいユイリーはそのままの髪型を維持している。
『護られてばかりのお前に何がわかる』
 そう叫んだ兵士の顔がユイリーの心を支配し、しばらく食事もろくに取れないほど疲れていた。
 一ヶ月ほどの休養を終え、今はリハビリも兼ねて少しでも外を歩きたいとユイリーは思う。
(「ここで気持ちが負けては‥‥同じことの繰り返しになっちゃう。ユイリー、貴方は変わらなきゃいけないのよ」)
 重くなった足に力をこめて、一歩ずつユイリーは外にでた。
 眩しい日差しの中、小児科施設の裏手には二ヶ月という期間をかけて平屋の学校が形になっている。
 3月に入ってからは少しずつ住民の手伝いも増えたとケイからユイリーは聞いていた。
「日本だと、入学式が過ぎているのね‥‥9月には入学とかの準備も進めないと」
 病室から外に出れば嫌でもも時の流れがユイリーに圧し掛かり、やるべきことが次々と頭に浮かんでくる。
「ユイリー‥‥」
 ふらふらと動くユイリーを見るとケイは不安を拭いきれずにいた。

●記念日
「皆さんに依頼です‥‥とはいっても、エルドラドの内政に関することでも外政に関することでもありません。個人的なものです」
 ラストホープに届いた一通の依頼状。
 差出人はケイ・イガラスだった。
「ユイリーが一応の回復を見せましたが、まだ精神的に不安定です。そこで皆さんに少し外へ連れ出してもらおうかと思っています」
 息をつくケイの表情は重い。
 何があったかはベルディット・カミリア(gz0016)少尉より聞いてはいるため、仕方ないと思う反面早く立ち直ってもらいたいという姉のような心境だとその顔は物語っていた。
「私が調べたところもうすぐユイリーの誕生日のようですが、彼女自身完全に忘れていますし‥‥祝って息抜きさせてあげてください。投薬とかよりも一番の薬だと思いますから」
 ケイは最後に微笑みを見せるのだった。
 
●もう一つの記念日
「アンデスよりも撤退をよぎなくされ、同志も減ってきているか‥‥もはやここまでか」
 コロンビアとエルドラドの国境付近、廃棄された工場跡地内でアンドリューは部下の報告を受けながら伏せていた目を開く。
 バグアから奪ってきた兵力も少なく、またコロンビアからもアンドリューに対して厳しい扱いが続いていた。
 いずれは路頭に迷い、補給もなく全滅を待つだけだろうことは誰の目にも明らかである。
「だとしても、この情報だけは世間にさらさねばならない‥‥」
 アンドリューは拳を握ると立ち上がって歩きだした。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●国を離れて
「アーク・ウイングです。アーちゃんと呼んでください。宜しくお願いします」
 ぺこりとアーク・ウイング(gb4432)はユイリー・ソノヴァビッチにお辞儀をして挨拶をする。
「ユイリーです。小さい傭兵さんですね」
 自分よりも若い傭兵の姿に複雑な表情を見せながらもユイリーは挨拶を返した。
 ベルディット・カミリア(gz0016)が操縦する移動艇はエルドラドから京都を目指して飛んでいる。
「もしかして京都ははじめてか?」
「はい、初めてです」
 白鐘剣一郎(ga0184)がユイリーに尋ねると恥ずかしそうに俯いてユイリーは答えた。
「京都はいいところだ‥‥俺も二度ほどではあるがいったこともあるよ。おっと、挨拶がまだだったな傭兵忍者のホアキンだ」
「よ、傭兵忍者?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)からの聞きなれない言葉に首を傾げるとホアキンは忍者屋敷でのスタンプラリーの話をユイリーにしだす。
「そんなイベントが他のところではあるんですね‥‥」
 話を聞きながらユイリーの目が真面目なものへと変わりだした。
「ユイリーさん。ガス抜き、ガス抜き〜。肩に力が入っているわよ」
 仕事モードへと頭が入っているのかもしれないと思った鳥飼夕貴(ga4123)はユイリーの肩を揉んでリラックスさせる。
「きゃっ、ゆ、夕貴さんっ!?」
 思わず眼鏡をずらして驚くユイリーに能力者達は笑い出した。
『ほら、そろそろ着くよ』
 操縦席のベルディットから着陸への指示が飛ぶと、ユイリーが窓から外をみる。
 大阪湾や琵琶湖の見える中、飛行機は木造の建造物のある京都へと移動艇は近づいていった。

●劇的大変身
「お祝いの前にユイリーさんをきれいにドレスアップしましょうね〜まずは美容院からです〜」
「お祝い?」
「ばかっ、何でもないよ〜。気分転換のためにもね?」
 誕生日のことを口にしようとするエレナ・クルック(ga4247)を姉のキョーコ・クルック(ga4770)は額を小突いて誤魔化す。
 ユイリーに誕生日のことを知らせるのはサプライズとしてとって置くのだ。
「あ、はい‥‥美容院なんて何年ぶりでしょう」
 無造作に切られた髪をなでながら、ユイリーは京都の美容院へクルック姉妹と共に入っていく。
 その間にも残った能力者達は宿の手配やパーティ準備をこっそりと進めるために別れたりした。
「ユイリーさんはどんな髪型がいいですか?」
「うーん、今まで長い髪形ばかりでしたから、短いのは思い付かないですね‥‥」
 ユイリーが苦笑していると、お店の人が可愛くしてあげるねとお任せで髪を切り出す。
 ゆったりとした音楽の流れる美容室で髪型が整ったものへと変えられた。
 髪の毛と共に何かが落ちていくようにユイリーの顔が緩やかになっていく。
「次はメイクアップなの」
 終夜・朔(ga9003)が耳をピコピコ動かしながら手を引き、次の店へとユイリーを連れ出した。
「そんな、ちょっと‥‥あ、ありがとうございましたっ!」
 腕をひっぱられて、人形のように連れ出されるユイリーは消えゆく声で美容院でお礼をいう。
「ここではメイクアップをしてもらいますが、その前に着替えましょうね?」
 化粧品店ではルクレツィア(ga9000)はブランドもののワンピースとヘッドドレス、コサージュを手にユイリーを待ち構えていた。
「え、えっと‥‥」
「ユイリーさんもここで綺麗になるの」
 戸惑うユイリーに向けて朔は耳を動かしながらユイリーを見上げる。
「‥‥わかりました。お願いします」
「素敵にコーディネートさせていただきますね、まずはお手洗いで着替えましょうか」
 どこか諦めた様子でユイリーはルクレツィア頭を下げるのだった。
 
●京都散策
「ねぇ、ベルディットさん。ユイリーさんの護衛についている人とかって他にいるの?」
「こんな街で護衛つけるなんてことはしないよ。アメリカならいざ知らず、日本じゃエルドラドについての知名度や印象は低いさね」
 京都の町並みを歩く一同から、少し離れて歩くアークがベルディットに尋ねるとベルディットはそう答える。
 治安のいい場所をあえて選び、コースにしたのだから脅威があるはずはないし、何かあったら恐らくユイリーの再起は絶望だ。
「それにあたいら傭兵が一緒にいるだけで大抵の輩は手をだすことはしないさね」
 ベレー帽と軍服だけはずした姿のベルディットは火の付いていない葉巻を指で遊びながらニヤッと笑う。
「17歳でいろいろ背負っているのだから、息抜きをさせてあげないとな?」
 最後尾を歩き、ジャグリングをしていたホアキンがアーク達にそっと声をかけた。
「わかったよ〜」
 アークが二人に宥められて頭を縦に振っていると、ルクレツィアがユイリーの手を引き、お土産の相談を始める。
「ユイリーさん、お土産何がいいと思います? お菓子が無難かな?」
「えっと、試食できますか? ‥‥あ、これ美味しいです」
 背格好も近い二人は幼馴染といった風に見えた。
 ユイリーは眼鏡をはずし、コンタクトにしている。
「わぁ‥‥凄いですの‥‥綺麗ですの」
 京都散策が『覚えている限り』はじめてな朔もユイリーの傍で京都の町並みに感動していた。
「本当に綺麗な町並みですね‥‥」
 ユイリーは古都を眺め、目を細める。
「お土産も買いましたし‥‥次にいきましょう」
 ルクレツィアに案内されつつ次の散策ポイントへと一同はゆっくりと足を進めていくのだった。

●世界を眺めて
 ホアキンの作ったおにぎりで昼食をすまし、哲学の道を通って銀閣寺の展望台まで一同はたどり着く。
「同じ日本でも、例えば此処と大阪では全く雰囲気が違うのだがな‥‥ユイリーの感想は?」
 展望台へ来たときに、剣一郎はユイリーに向けて聞いた。
「自分が小さいなって思います。高いところから遠くを見たことってあまりなかったですから‥‥」
 目の前に広がる町並みを眺めて、ユイリーはほぅと息をつく。
 区画整理がされ、近代的な建物と古い町並みが共存している景色は美しさがあった。
「大分力が抜けてきたわね、表情がすごく自然よ?」
 夕貴がユイリーの顔をみてくすりと笑う。
 草木香る散歩道による癒し効果は抜群のようだ。
「わ〜、いい景色ですね〜心が安らぎます〜」
 エレナも京都の景色に心を躍らせ、展望台から少し身を乗り出す。
「危ないよ、もうちょっと大人しくなって欲しいね。手間のかかる妹で困るよ」
 妹に注意を促がしながらもキョーコもまんざらではない顔をしていた。
 能力者達自身も息抜きになっているようである。
「国のことを考えてばかりで、こうした時間が取れなくなっていましたね‥‥」
 ユイリーが外を眺めながらポツリと呟いた。
「人には領分があり、人それぞれの戦いもまたそこにある。ユイリー、あなたは剣や銃は持てないかもしれないが、それはあなたの領分でないだけの事だ」
 呟きに答えるようなタイミングで剣一郎がユイリーに向かって言葉をかける。
「人は一人で何でも出来る訳ではない。ならば己の領分で最善を尽くせば良い。俺はそう思っている」
 全てを見透かされたかのような言葉にユイリーは返す言葉もなかった。
「剣一郎のいうようにさ、最善を尽くせばいいんだよ。自分に出来ることをやっていれば、それでさ。考えすぎなんだよ。ユイリーは」
 キョーコがユイリーを引き寄せ、その胸に抱く。
「はい‥‥ありがとう‥‥ございます」
 暖かい思いに包まれ、ユイリーはこの日初めて涙を流して笑った‥‥。

●温泉宿で‥‥
「はぁ‥‥疲れました‥‥」
「部屋にこもって書類とばかり格闘しているから体力が落ちるんだよ」
 手配していた旅館の温泉に入りながらユイリーが背中を伸ばしているとベルディットがケラケラと笑い出す。
「ユイリーさん‥‥綺麗なの」
 朔がユイリーの傍に寄ってきてジーっと見上げてから微笑んだ。
「も、もう‥‥褒めても何もでませんよ」
「あ〜ユイリーさん照れてますね。‥‥でも、本当に羨ましいです」
 ユイリーが朔からの褒め言葉に照れているとエレナの視線が一箇所に向かう。
 地味な服装では目立たなかったが、ユイリーの胸は谷間がしっかりできるほどに大きかった。
「あはは、エレナはこれからだよ。あたしもエレナくらいのときは小さかったものさ」
 妹の頭を撫でてキョーコは宥める。
 たしかに、ベルディットにせよユイリーにせよ自分を含め立派なものをもった人が多いのは事実だ。
「あの‥‥ユイリーさん、お背中流しましょうか?」
「えっと‥‥では、お願いします」
 静かにしていたルクレツィアがユイリーに近づき、何かを訴えるような目でユイリーを見る。
 その目にユイリーは心動かされて湯船から上がり、座った。
 ルクレツィアはユイリーの背中を洗い出すと、少しずつ語りだす。
「‥‥元軍人の方に負目を感じる必要は無いと思います。あの言葉は嫉妬と感じました‥‥庇護を失った者の。それとも‥‥貴方はただ護られてるだけで何も護っていないのですか?」
「でも‥‥庇護をしきれなかった責任は私にあると思います。護れているかどうかの自信ももうないですよ‥‥」
 京都を歩き、湯船で疲れを癒したユイリーから貯めていた思いが零れだした。
「私はUPCや能力者への復讐行動は構わないと思います‥‥勿論殺されてあげるつもりは皆無ですが。ただ‥‥憎しみで本当の理想も守りたかったものも見失ってる様は悲しいです」
 ルクレツィアはユイリーの体を洗いながら自分の考えをユイリーに伝える。
「でも、そこまで追い込んでしまった‥‥私自身が彼らの痛みを知らないと互いを理解できないと思うんです。でも、ルクレツィアさんのいいたいこともわかります‥‥難しいですね」
 弱弱しくユイリーは笑いながら答えた。
 ユイリーの手が無意識に切られた後ろ髪をそっとなでる。
「あの時は怖い思いをさせて御免なさい‥‥それを謝りたかったのです」
「本当に怖かったです‥‥自分が石になって体が動かなくて‥‥今生きているのが不思議なくらいです」
 ルクレツィアが頭を下げて謝るとユイリーは背を向けたまま恐怖を思い出したのか震え始めた。
 そんなユイリーをルクレツィアは後ろからそっと抱きしめる。
「ごめんなさい‥‥」
 ユイリーが落ち着くまでルクレツィアは抱きしめ続けた。

●A HAPPY BIRTHDAY
 ユイリーが浴衣姿で風呂から上がると、笛の音が聞こえてくる。
「浴衣姿もお似合いですね‥‥あら、笛でしょうか?」
「何で笛が?」
 エレナが隣で音の正体を答えると興味が惹かれ、笛の音のなる方へ足が向いた。
 広間の前に立ち、扉を開くと忍び装束の男がバク宙をしながら広間の中央にあるクス玉を斬る。
 パカッと開くとパラパラと紙吹雪が舞、垂れ幕が降りた。
『A HAPPY BIRTHDAY』とそこには筆で書かれている。
「え‥‥これって‥‥」
 一瞬、何が起こったかわからず、ユイリーが唖然となった。
「お誕生日おめでとうでござる‥‥ふふ‥‥忍者たる拙者にかかれば、ざっとこんなものでござるよ」
 忍び装束を着たホアキンがユイリーに祝辞を送る。
「誕‥‥生日? ‥‥あ、今日は‥‥私の‥‥」
「誕生日おめでとう。皆からも色々とあるからな。是非受け取ってくれ」
「アーちゃんからはガーベラの花束です。花言葉は『希望』『常に前進』なのです。希望をもって進んでください」
 ユイリーがはたと気づくと広間の奥にある襖が開き、剣一郎とアークが花束を持ってきて手渡した。
「あ、ありが‥‥」
 お礼をいわんとするユイリーの目からとめどなく涙が溢れ出す。
「俺からは安物だけど簪を渡すわ。泣いていちゃ折角の美人が台無しよ?」
 まとめられたユイリーの髪に夕貴はかんざしをさしながらハンカチでユイリーの涙を拭いた。
「本当に‥‥皆さん、ありがとうございます」
 ユイリーが涙を拭きながら頭を下げていると、朔がちょこちょこと前に出て頭を下げる。
「まだまだデビューしたての新米だけど‥‥今日はいっぱい朔も楽しかったお礼も兼ねて。ユイリーさんの為に‥‥Noir歌いますの♪」


 −ひだまり−作詞・作曲:Noir

 ♪〜〜
 
 天気の良い日に♪
 私のお気に入り♪
 此処があれば何もいらない♪
 お日さまのプレゼント♪
 今日も今日とて私はお昼寝♪
 だって私は猫だもの♪
 お魚も好きだけど♪
 此処だけは別なのよ♪
 さぁ私は今日もお昼寝♪
 今日も今日とて私はお昼寝♪

 〜〜♪
 
 手拍子しやすいリズムの歌を自前のマイクで朔は歌い切り、拍手を受けた。
「皆さん‥‥本当に‥‥ありがとうございます」
 ぼろぼろと涙をこぼしながらユイリーは頭を下げる。
 残りのメンバーからもプレゼントを受け、全員で記念写真をとるとケーキをはじめとした料理で誕生日パーティを賑やかに送るのだった。
 
●新たなる始まりの日
「あの垂れ幕‥‥」
 翌日、ユイリーはエルドラドヘ向かう移動艇の中で驚く。
 エルドラドのUPC軍が管理している滑走路でケイや子供達が『ユイリーおねえちゃん17さいおめでとう』とロシア語で書かれたものを広げていたのだ。
「あたしからのもう一つのプレゼントさ。どうだい?」
「‥‥嬉しいです、皆も祝ってくれて‥‥ならば、このプレゼントはお返しします」
 ユイリーはキョーコとエレナから受け取っていたシルバーウィングと天使の羽飾りを返す。
「どうしてですか? お気に召しませんか?」
「違うんです‥‥気持ちは嬉しいですけど、私だけ高価なプレゼントを貰うわけにはいきません。あの子達だって誕生日を迎えていてもたいしたことしてあげれませんでしたから‥‥」
 しょぼんとするエレナをユイリーは撫でながら答えた。
 事実、かんざしなどはお土産としていくらか買って持ち込んでいるくらいである。
 気持ちは嬉しいが、高価なプレゼントを身に着けていることによる批判などがでないとも限らないのだ。
「ですから、お二人の気持ちと京都旅行で元気をもらえたことが一番のプレゼントですよ」
 明るくユイリーが答えると、クルック姉妹は良かったと笑い返す。
「ユイリーさん、一つお願いが‥‥お墓参りにいかせてもらえませんか? 花を手向けたいんです」
「ええ、問題ありま‥‥」
 ルクレツィアのお願いをユイリーが聞き入れようとしたとき、ビガガといやな音がスピーカーから響いたかと思うとアンドリューの声が聞こえてきた。
『私はエルドラド軍人であり、故ジャック・スナイプの側近だったアンドリューだ。これを聞いている全てのものよ。我々に正義があることを伝えたい』
 移動艇内の空気が緊張する。
『UPC軍はエルドラドを駐留して治安を護るといっているが、真っ赤な嘘だ。彼らはジャック・スナイプの軌道エレベーターをマスドライバーに改造して兵器として準備をしているのだ』
 反エルドラドの筆頭たるアンドリューの熱弁がノイズ交じりに響く。
 その内容に誰もが言葉を失った。