●リプレイ本文
●走る正直者
「よぉ山戸‥んな急いで、何処行こうってんだ‥‥あ? 姫さんからの呼び出し‥‥? キメラ退治を手伝ってこい‥‥?」
未来研究所から出てきた玖堂 暁恒(
ga6985)は鍛えたての蛍火を肩でトントンと叩きながら山戸・沖那(gz0217)へ声をかける。
「玖堂かっ! 悪い、何か京都にいく依頼に心あたりないか? お嬢に呼び出しくらっていていかなきゃならないんだ」
「おや、沖那じゃないか。これから京都の白川って人に依頼を受けているんだが‥‥お前の方は依頼はどこかにいくのか?」
沖那が玖堂に詰め寄っているところに龍深城・我斬(
ga8283)が姿を見せた。
捨てる神あれば拾う神ありとはこのことである。
「我斬はこの間のサルベージはお疲れ様‥‥京都? 京都の白川なら俺も用がある。高速移動艇に便乗させてくれ!」
「‥‥暇潰しにゃ丁度良さそうだな‥‥俺も付き合うぜ‥‥」
沖那が我斬に頼み込んでいると、玖堂も便乗してニヤリと笑った。
「よお、話は聞かせてもらったぜ。沖那久し振りだな? お前も大変だな‥‥いきなり呼び付けられてさ」
「踊るゾンビキメラらしいんで‥‥とっとと潰しにいくです。沖那、ガン見とかするんじゃねぇですよ」
我斬と同じように依頼に呼ばれていた神無月 翡翠(
ga0238)とシーヴ・フェルセン(
ga5638)が3人のところによってきて沖那へ声をかける。
「二人とも久しぶり。‥‥一緒にいけるなら、心強いよ」
見知った仲間との依頼を受けることに沖那は心底安心したのだった。
●胸なんてのは飾りです
「ゾンビなのに見せびらかすようにプルプルプルプルと‥‥基本的に子供への教育にも悪いでしょうから早い所倒してしまわなければいけませんよね、ふふふふふ」
京都南丹の白川邸で話を聞いたタリア・エフティング(
gb0834)は黒い笑いを浮かべ生身神社へと移動を始めている。
「脂肪は真っ先に腐り落ちそうだけど‥‥胸で悩んでいる女性全般に対する嫌がらせかしら?」
日傘をさしながら歩くアンナ・グリム(
gb6136)は胸に対してコンプレックスを持っているわけではないが、話を聞くだけでも嫌悪感を抱きだしていた。
「そうですよねぇ。大きすぎる胸は重いですし‥‥あ、私は慎ましくなんかないですよ」
ぷるんと胸を揺らしながら雨音・ヘルムホルツ(
gb4281)は他の二人とは違った切り口から依頼をみている。
白川仁宇に慎ましいと思われていたのだが、着やせだった。
立派なものはタリア、アンナ、仁宇をたして追いつけるかどうかというレベルである。
「そこはかとなく怒りを感じる相手であるな。仁宇としても実に許しがたい」
雨音の胸をチラッと見た後、話題を返るように仁宇はレイピアを強く握った。
「‥‥ま、積極的なのは何よりだが、放っとくと無茶しそうで見ちゃいられないな。今回はその辺りを講釈してやる」
いつの間にやら師匠認定された風羽・シン(
ga8190)は仁宇の行動に不安を覚えつつも、フォローと講義をすること胸に誓う。
「仁宇は冷静ですぞ、師匠!」
明らかに冷静には見えない仁宇がシンをジト目でにらんでいると、一行の耳にぷるぷると肉の揺れる音が聞こえてきた。
●ぷるぷるぷるん
「京都は建物も大事な文化財多いでやがるですし、傷つけねぇよう注意しやがらねぇと、です」
打ち合わせの通りシーヴがシンのショットガンと共にエネルギーガンで胸を震わせて踊るゾンビキメラを撃つ。
由緒ある建造物はバグアによって壊されているものも多いために慎重にことを運ぶ必要があった。
「能力者に成り立てで練力が少ない事もあるが、最後に頼りになるのは己が身だからな。まずは限界値を見極めろ、フォローはしてやる」
「心得たり、そのため仁宇は弓を用意している」
遠距離で戦えるようにと弓を背負っていた仁宇は援護するように弓をゾンビキメラの胴体を射る。
動きの遅いゾンビキメラに矢は刺さるも、倒れる様子はなく見せびらかすように胸を揺らしながら踊り続けた。
20体ほどいるゾンビキメラはぷるんぷるんと音を立てつつ攻撃を仕掛けてきた3人に向かってくる。
「何か馬鹿にされた気ぃしやがるのは、気の所為でありやがるですか? 踊られると、やっぱし揺れる部分に目が行きやがるですし」
あり過ぎずなさ過ぎずと自信をもっている(?)シーヴは無表情ながら敵を見据え、エネルギーガンから使い成れたコンユンクシオへと持ち替えた。
「随分とふざけたゾンビね‥‥死体は土に返りなさい」
覚醒をし、4匹の漆黒の蝶を体の周りに回せたアンナは柄だけでも2m近くあり、刃が自分の首から下まではありそうな大鎌を軽く振ってゾンビキメラの頭部をなぎ払う。
『君を忘れない』という花言葉を持つ「紫苑」という名の大鎌は一瞥を持ってゾンビを斬り捨てていく。
しかし、ゾンビキメラは首が落ちようと動きをとめることはなく暴れることを続けた。
「ゾンビがねー巨乳でもなー、まるっきり嬉しくねえ。前に倒した牛頭女より尚ひでえ」
その姿に男として微妙な気分を味わっている我斬は長く見続けたくないと機械剣にてキメラを縦に『両断剣』で斬る。
スパッと斬られたゾンビキメラは真っ二つとなり地面に転がった。
「首を落とせば‥‥まともに動けないようだが‥‥目の毒だな‥‥こいつ」
『疾風脚』を使い、風のように動く玖堂は首を切っても胸を揺らしながら動いてくるゾンビキメラにため息をもらして蛍火による一閃を与える。
腐っている肉に刃を通す感覚は気持ちの良いものではなかった。
前の6人が頑張る中、数の多さで抜けてくる敵に対して4人の能力者が動き出す。
「それでは、罰あたりの後始末を始めましょう。援護しますが、無理なさらずに‥‥」
経験の少ないものが多いメンバーのため、サイエンティストの翡翠は『練成強化』で味方を支援した。
「腐っていて巨乳なんて親近感わきますけど、ここは心を鬼にして戦いますよ〜」
「どっちが敵かわからなくなる‥‥」
雨音の揺れる胸とゾンビキメラの揺れる胸を見比べながら沖那が戦っていると、冷たい視線が飛んでくる。
「男は皆巨乳巨乳と‥‥畜生、私が何をしたっ!」
撃ちもらした敵を全員で叩くということで沖那や雨音と共にタリアは同じ敵を狙うが、何か闘志が違っていた。
悲しみを怒りに変えたタリアの機械剣の一撃がゾンビキメラの胸を切り落とし、巨乳が虚乳へと変わる。
そのときのタリアの顔はつき物が取れたかのようだったと、共に戦っていた能力者は後に述べていた。
●来たときよりも美しく
「注意散漫だ‥‥数が多いのだから全身で敵を探れ」
『両断剣』と『ソニックブーム』をあわせた二連の衝撃波をシンは放つと、仁宇を叱咤する。
仁宇の動きは一対一をメインにした動きのため、多数の相手に対して若干戸惑いが見えていたのだ。
「くくっ‥‥昔の山戸みたいだなぁ?」
「シンの奴には負けられないと思っているが、やっぱ洗練された動きしてるな。我流の俺とはえらい違いだ」
指導をしている二人を見た玖堂は沖那と共に訓練をしていた一年ほど前のことを思い出して笑い、すばやく対応をしたシンに対して我斬は自分との差を感じる。
「うるさい、余計なこと言ってないで敵を倒せよ」
沖那は舌打ちをしながら戦うが、余計なことを言うまでもなく玖堂の蛍火はゾンビキメラを斬り裂いていた。
動きを時折あわせるなど二人は言葉に出すまでもなく息を合わせる。
「さすがに疲れるわね‥‥」
体当たりなどを受けて、疲労を見せだしたアンナが『活性化』をすると黒い蝶が一匹爆ぜた。
彼女の練力と呼応して姿を見せる蝶は幻想的であると共に力を見切られかねない。
「もうちょっとで全滅ですよー。う〜ん、円閃はやっぱり乗らないみたいです‥‥残念ですね」
機械剣で攻撃を続けていた雨音は数が減ってきたこともあり、実験をしてみたが物理攻撃を行う『円閃』は機械剣との相性はよくないようだ。
試せるだけ、救われているともいえる。
「攻撃は受け止めきります。デカ乳ごときに負けません!」
平らな胸に構えられたタリアのシールドにゾンビキメラ達はせきとめられた。
「仁宇、いくでやがるですよ」
「心得たり!」
シーヴのコンユンクシオと仁宇のレイピアがゾンビキメラを挟み込むようにして叩き込まれ、最後の一体が境内に崩れる。
「やれやれ、やっと終わったが、後始末だな? これは、めんどだが、さっさとやるか」
生身神社に散らばる肉片を見て、翡翠は大きくため息をついた。
「腐っている相手でしたが臭くはないですけね〜、でも、お風呂は入りたいですよね〜」
くんかくんかと自分の服の匂いをかぎつつ雨音もぼやく。
「来たときよりも美しく、京都の景観を護るためには必要な心構えというものですぞ。日の暮れる前に済ませましょうぞ、帰りは仁宇の屋敷で寛いでくれればよい」
「ほっといたらすごいことになりそうだもんな。明日には発酵していないとも限らない」
「その前に見た目が悪いだろうに‥‥あー、腹減ったー」
死体処理に仁宇を筆頭に動き出し始めると、アンナは一人キメラを一瞥する。
「生まれ変われるなら、今度はもっとまともな存在になれるように祈るのね」
『胸なんて戦うときには邪魔になるだけじゃない』とこっそり続けたのは内緒だった。
●風呂上りに
「そういや‥‥あのゾンビキメラは何できたんだ?」
道場の方で涼んでいた翡翠は胴着に着替えなおしてきた仁宇へふと感じた疑問をぶつける。
京都市や丹後では奇妙なキメラの発生には理由があった為、気になったのだ。
「仁宇にもわからない。しかし、この地は今はバグアとの競合地域となっている。あちらからの侵略が激しくなったと見るのが妥当と仁宇は見ている」
麦茶を傭兵へと配り、仁宇は真剣なまなざしで答える。
「この辺は静かっぽいけど、他は荒れているんだな‥‥」
沖那も麦茶を飲みつつ静かに呟いた。
「ここは南丹の中枢ともいえる場所。周囲にも近畿UPC軍に所属する猛者も多く、護りは堅くなっている‥‥だが、能力者の数は少ないためや仁宇は適正があったことを誇りに思っている」
苦境に立たされた指導者である白川仁宇の目に迷いはない。胸もない。
「だったら、今回みたいな戦い方では今後は厳しいな。少しもんでやる‥‥立てよ」
静かに話を聞いていたシンは立ち上がり、竹刀でもって仁宇に対峙した。
「万全な状態のお前と戦うのは‥‥随分久しぶり、だな‥‥成長した所‥‥見せて貰うぜ‥‥?」
戦闘中もシンと仁宇の姿に何かを感じていた玖堂は沖那を誘い、道場で向かい合う。
「お前達は本当に好きだな‥‥ま、俺は折角着替えたのが無駄にならないよう見物させてもらうよ」
風呂上りで着替えをした我斬は戦いあう二組を見て涼みながらの見物に入りだした。
「聞いてやがった通り、沖那もなかなかやりやがるですね‥‥胸をガン見していたのはどうかと思うですが」
シーヴも沖那の対決を眺め、筋のよさをまじまじと観察しだす。
戦いの終わりが見えない中、能力者は日々強さを求められだしていた。
己が精神を鍛えるべく、互いに腕を競い合い、学びあう。
南丹の解放に向け、白川仁宇もその道を歩みだしたのだった。