●リプレイ本文
●開戦直前
『止まりなさい‥‥黄金境を誇りとする者達よ‥‥』
ミカガミは終夜・無月(
ga3084)の声を発し、先陣をきって親バグア領コロンビアへとエルドラド側から突きすすむ。
足元にはユイリー・ソノヴァビッチが同乗したUPC軍人の運転するジープ‥‥レティ・クリムゾン(
ga8679)のシザーリオが走っていた。
「能力者が先にきたか‥‥アレを動かせ!」
旧エルドラド軍を率いているのはアンドリュー自身であり指示と共にR−01やS−01をはじめとしたボロボロの鹵獲KVが動いて間合いを詰めてくる。
「アンドリューさん! もうやめてください! これ以上争う必要なんてあるんですか!」
ユイリーがジープから身を乗り出してアンドリューに向かって叫んだ。
エルドラドが崩壊してから、半年以上立った再会である。
「ユイリーか、お前にはジャックの意志を告ぐものとして我々に協力してもらう。抵抗しなければ命は保障する」
『アンドリュー‥‥貴方に言っておくことがあります。ジャックは自分は一粒の麦だと最後にいった‥‥其のまだ育ち切らない願いと想いを貴方達は刈り取ろうとしている』
「はじめにこの国を潰しに来た傭兵が何を言う! その悪魔の機体でエルドラドを焦土と化したのは誰だ! 我々もジャック様の願いを持った麦である!」
ユイリ−の叫びに答えたアンドリューは無月のミカガミをにらむようにして吼えた。
「俺の恋人はエルドラド崩壊時の空爆でしんだ!」
「傭兵に殺された兵士の親に手紙を書かせる非人道的なヤツらがなにをいう!」
アンドリューと共に帰ってきたのは強い怒りや憎しみ。
それは無月がバグアに対してもつものとまったく同じものである。
「私は貴方達を受け入れることもできます‥‥お互いがお互いを憎みあったってしかたないじゃないですか。ジャック様はいません‥‥ですが、それを理由に争うなんて彼が可愛そうです」
ユイリーが涙を流して訴えると、静寂が訪れた。
「無駄なようだな‥‥どちらが正しいか、あとは生き残ったもののみが決める! 総員戦闘開始!」
アンドリューが静寂を破るとぞろぞろと兵が、KVがキメラが動き出す。
決戦がはじまったのだ。
●臨戦態勢
「なぜ無駄にしようとする。そんなにも皆が築き上げた物が許せないのか。妄執に捕らわれて全てを破壊しようとする事が、過去を取り戻す事に繋がらない事くらいなぜ分からない!」
レティは岩龍のコックピットで一人ごちると管制作業に従事しだす。
軌道エレベーターとして立てられていたものは今や破壊兵器であるマスドライバーへと姿を変えていた。
アンドリュー達の言っていることは事実であり、平和を目指している国にそのようなものがあることは確かに不釣合いである。
だからといって、そのために今作り上げてきたものを潰すことが許される訳ではなかった。
『こちらキョーコだ。ダンデライオン財団の方で避難誘導の協力をやってもらうことになったよ。じゃあ、国外迎撃にいってくる』
『こっちは任せていってきてよ。敵が進行しているのは確かなんだから』
先に出発した国外にいる無月とユイリーを追うように打ち合わせを済ませたキョーコ・クルック(
ga4770)が荒巻 美琴(
ga4863)に見送られ国境付近へと飛んでいく。
「了解した、あとは自警団の方だが‥‥」
『ナンナです。タランチュラさん、レティーシアさんと話がつきました。UPC軍の駐留地の方へ移動するよう説得に回ってもらっています。このまま私も作業に映ります』
ナンナ・オンスロート(
gb5838)からの通信を受けレティの不安は一つ解消された。
だが、その安心もレッドアラートによって打ち消される。
「抜けてきたか! 落下予測ポイントはポイントE22だ。辛うじて居住区ではないが避難経路の近い。ベルディット少尉、魔諭邏、迎撃を頼むぞ!」
エルドラドの空に黒い点が浮かんだかと思うと隕石のようにそれらが降り出した。
『あいよっ! でも数がちょいと多すぎやしないかいっ!』
『地上部隊の展開とコース変更も頼みます』
水無月 魔諭邏(
ga4928)のアンジェリカよりH−22短距離AAMが放たれる。
さらに撃ちもらしたものをベルディット・カミリア(gz0016)のロジーナが120mm対空砲にて落ちてくるキメラを次々に迎撃した。
爆発と炎が空に上がり花火のように彩る。
「第一波迎撃か‥‥だが、油断するなよ。地上部隊も距離を詰めている」
マスドライバーを防衛するためにベルディットとレティは直衛をせざるをえないために自由が利きづらい状況だ。
国内での戦闘が激しくなれば自分たちの手で護るべきものを壊すことになりかねない。
『了解、ボクが迎撃するから早く避難だけはすませてね』
美琴が考え込んでいるレティに言葉を返すと敵機の方へ向かった。
『私の方もミサイルが切れますのでドッグファイト体勢へいきます。お二人ともご無事で‥‥水無月魔諭邏、参ります!』
魔諭邏機も飛び、水際防衛へと作戦が写る。
『さぁて、この戦力で何処までできるかだねぇ?』
「できるかどうかなんて考えない、やりきるつもりで挑むまでだ!」
ベルディットの軽い問いにレティは力強く答え、レーダーに視線を戻すのだった。
●国外交戦
『エルドラドは去年の爆撃部隊護衛以来、久しぶりですね。‥‥今度は攻撃してくる方を迎え撃つ立場とは、分かっていてもちょっと複雑です』
「俺は去年がこの国がどうだったかは知らない‥‥けど、今いるユイリーやタランチュラをはじめとしたヤツラを正義の名の下に蹂躙することは許せない!」
昔のエルドラドを知る高坂聖(
ga4517)と今のエルドラドを知る鹿島 綾(
gb4549)は共にコロンビアで戦闘を続ける。
聖機、キョーコ機のK−01、K−02の小型ホーミングミサイルで空を覆っていたキメラ群を多く排除したためにエルドラド本国への襲撃の数は減っていた。
だが、数では敵のほうが多く抜けられることだけは防げない。
「ユイリー! 早く退けッ! ここでお前が死んだらエルドラドをどうするつもりだ!」
ジープを見つけた綾は周囲の芋虫キメラを試作型「スラスターライフル」で倒しながら、フォアードの無月機と動きをあわせた。
『綾さん‥‥すみません‥‥下がりますが普通の兵士達への声賭けだけはやらせてください』
「強情だな! だけど、その意志を無碍にするつもりは無いよ。聖っ!」
『わかっています。死にたくない方は隠れてください。いきますよ』
綾の指示を受け、聖機から奉天製ロケットランチャーによる空爆が始まる。
聖やエルドラド軍人‥‥そして、ユイリーにとってそれはトラウマのように映った。
放たれたロケットランチャーは木々を倒し、地面を抉って爆発し南米のジャングルの一部の地形を変える。
「うっ、うわぁぁぁぁっ!」
「敵前逃亡をするかっ! 裏切り者が!」
戦っていた兵士達の一部は逃げ出し始めるがそれをアンドリューは光線銃で撃ち殺した。
兵士の腰から上が光包まれ蒸発し、下半身が千鳥足で進んで倒れる。
「ふざけるなっ! 正義という単語に寄りかかる貴様にこれ以上蹂躙させるものかっ!」
アンドリューの暴挙に綾はディアブロと共に攻撃にでるのだった。
●難攻不落
「早く逃げてください‥‥。信頼されていなくても構いませんがこのときだけは私に従ってください、皆さんの命を守りたいんです」
ナンナが翔幻に乗りながら避難誘導を続ける。
都市部は完了したが、平野部に散らばる住民の安全確保がまだ終了していないのだ。
特に戦場近くは開墾したばかりの農地が多く、離れることを嫌がるものもでている。
一人一人直接話しかけてナンナは一時的な避難をすすめていた。
『すみません撃ちもらしました』
魔諭邏の謝罪と共に、上空から弾幕を抜けたキメラが降って来る。
「わしの畑がっ!」
一人の老人が大きな声を出してキメラが落下してくるであろう畑へと駆けた。
「危ないっ!」
ナンナの翔幻が老人をカバーするように動きキメラの直撃を受ける。
ドオゥンと爆発がおこり爆風が辺りを凪いだ。
畑の作物が幾つか駄目になったが、老人は無事である。
「早く逃げてください‥‥生きていえれば畑は戻せます」
プシュゥーと蒸気が排気されると翔幻の中からAUーKVをまとったナンナが降り立ち、老人を抱きかかえて避難所へ走りだした。
肉抜きされた翔幻はその場にとどまり、動けなくなっている。
『ナンナさん、そっちに芋虫キメラが向かってる! こっちは鹵獲KVにぶつかっちゃっているから頼んだよ』
「私は、私自身の為に力を振るいます‥‥だから、皆さんは生きてください」
美琴からの通信を受け、ナンナはすぐに老人を避難民と合流させるとガトリングシールドを構え芋虫キメラを倒そうと向かった。
ナンナが近づくと芋虫キメラは糸を吐いて絡めようとする。
「バルカン自動照準。攻撃開始‥‥」
はいてきた糸をガトリングシールドで防ぎつつそのまま銃弾をキメラに浴びせ間合いを詰めた。
その戦いはハイランダーチャージと呼ばれる勇猛果敢な西洋の戦士の姿にそっくりである。
「エルドラドの歴史に興味はないけれど‥‥。この現状は看過できません」
ナンナは一人呟きキメラを倒しきると、次なる戦場へと走りだした。
●一進一退
「アンドリューっ‥‥」
小さな人の姿をしたものに無月は機槍「ロンゴミニアト」を撃ち込もうと迫る。
ユイリーは爆撃を避けるために事前に辛うじて用意できた塹壕へと避難している、あとはKVとアンドリューをとにかく叩くだけだった。
だが、アンドリューをカバーするように無人機のKVが動いて身をもって受け止める。
機槍の炸薬を爆発させて間合いを取ろうとした無月だったが、無人機は大きく爆破しミカガミすら巻き込んだ。
「くっ‥‥元から、自爆するつもりだったのですか」
コックピットに頭を打ったのか無月の額から生暖かいモノが流れる。
「所詮は道具! 勝利のために犠牲はいとわん! 貴様ら傭兵とて我らを倒すために国民を犠牲にしてきただろうが!」
追い討ちをかけるようにアンドリューが跳躍しミカガミの脚部を蹴り飛ばした。
装甲がへしゃげまだ動く足に爆弾を持った兵士が突っ込み自爆をして吹き飛ばす。
『何でこんなことを‥‥これじゃあ、立場が逆なだけであの時と同じじゃないか‥‥』
ミカガミへの被害を見たキョーコが戦場に割り込み、悲しみと共に言葉を漏らした。
『何で【平和を望んだ国】を取り戻すために武力を使う! それで国を取り戻してもそれは本当に【平和を望んだ国】なのか?』
「武力を持って平和を崩した貴様らがそれをいうかぁぁっ!」
キョーコの言葉にアンドリューは食いつき、降りてきたキョーコのアンジェリカに光線銃を放つ。
バァッと大きな光りがアンジェリカの片腕を吹き飛ばした。
国を追われ今まさに仇として現れた傭兵に対する怒りの一撃である。
「そうだっ! うぉぉぉっ!」
アンドリューの怒りに鼓舞されたエルドラド軍人達が次々に捨て身の特攻を繰り出し、それを無月はGPSh−30mm重機関砲にて近づかれる前に潰していった。
国民を守る為に全力で戦うしかないのである。
「どれほど罪深きことであろうと‥‥俺はここをひくつもりはありません」
吹き飛ばされた片足のバランスをとるようにブーストを使いアンドリューへと肉薄した。
他のKVはキョーコ機や綾機が押さえているため、アンドリューを守るものは無い。
「これで‥‥終わりです」
「うぉぉぉぉぉっ!」
アンドリューが迫るミカガミに対して光線銃を撃つもそれを無月は練剣「雪村」にて貫き、そのままアンドリューを光りに包み返した。
ジュゥと燃え尽きる音と共にエルドラドを狙っていた脅威が消える。
『これが終わり‥‥いや、はじまりか‥‥王手だぞ、俺たちはこれ以上お前達に手を上げるつもりはない。UPC軍へも生死不明として処理するつもりだ』
決着を見届けた綾は呆然と様子をみる兵士達へ静かに投降を呼びかけた。
●復興再開
「報告書は受け取ったよ。ご苦労だったね‥‥人的被害は最小、家屋破壊にしてもごく一部なのだから十分な成果だ。功績をたたえて勲章を贈ろう」
戻ってきた傭兵たちに対してUPCのエルドラド駐留軍たる伊井木中佐は一人一人に手渡していく。
しかし、最大の功労者である無月の姿はその場に無かった。
「中佐殿、事前に渡しておいた手紙の件ですが‥‥」
爆撃の後でエルドラドにいち早く戻り、負傷者の手当てをしていた聖はマスドライバーの存在によるエルドラドの危険を回避する意見をだしていたのである。
「その件は国の代表たるソノヴァビッチ女史と相談したのだが、避難はしないとのことだ。誰一人ここから立ち去るものはいない」
「どうしてこの国から離れないのでしょうか?」
不思議そうに魔諭邏は首を傾げた。
「つまり、ここに生きる人はこの国が好きなのだろう。自立してこの国で生き抜くことに決めたということだ」
平和な土地を追い求めて逃げてきた人々だったエルドラドの国民だが、この一年で危険であろうと守りぬく意識が生まれたとレティは考える。
「そういうことでしたら、仕方ありませんね。無理強いはできませんし‥‥」
聖はレティの意見を受けて納得した。
「アンドリューという大きな脅威はさったのだ。今後は落ち着くだろう‥‥君たちもラストホープへ帰るといい」
話がつまらないとばかりに伊井木中佐は勲章を渡し終えると傭兵達の前から去っていく。
「‥‥これから、この国は‥‥どうなるんでしょうか」
怪我をしながらも聖に手当てを施されて動けるようになっているナンナが伊井木中佐の後姿を眼で追いながら呟いた。
「もし、また何処かの国が攻めてきてもボク達が守れるようにしなくちゃね‥‥そのためにも新しい機体にした方がいいのかな?」
ナンナの呟きに答えるように美琴は自分の機体について考える。
「新たな力を得るか、それともこの国の奴らのように自分の道を進むかは自由さね」
そのとき、伊井木中佐と入れ替わるようにベルディットが姿を見せた。
「少尉もお疲れだ。そうだな‥‥この国がちゃんと道を見つけたように私達も道を見つけないといけないな」
ベルディットの姿にレティがキャップを被りなおして言葉を紡ぐ。
正義を振りかざし暴挙にでた敵のようにならぬように道を見誤るわけにはいかないのだ。
復興を手伝うものは手伝いにでて、各自は黄金郷を後にする。
一つの区切りをようやく迎えた時だった。