●リプレイ本文
●挙式の前に
「レオノーラさん‥‥この前も見ましたが、美しいですね? 自分には勿体無い位です。貴女を妻とできることを幸せに思います」
「そんなに褒めたって何もでないわよ‥‥それに、じろじろ見ないでよ。もぅ‥‥」
クラーク・エアハルト(
ga4961)から褒められたレオノーラ・ハンビー(gz0067)は頬を染め恥らうように俯く。
「新郎のクラークくんから招待状をもらって参上っ! しっと団を結婚式に招待するって、嫌味〜?? 肝の据わった男よのぅ」
身支度の終わった新郎と新婦に大泰司 慈海(
ga0173)がクラークから送られた招待状をヒラヒラさせて姿を見せた。
「しっと団だけでなく、味方もおりますぞ。クラークさんには依頼でお世話になったとです、心よりお祝い申し上げます!」
守原有希(
ga8582)が慈海の後ろより顔をだしてクラークに挨拶をする。
しっと団とは永遠のライバル(?)としているクラークとは何度も修羅場をくぐりぬけてきた戦友でもあった。
「二人共、ありがとう。主人がお世話になっていますというべきかしら?」
「レオノーラさん、それはさすがに照れるのですよ」
有希や慈海に対して気持ちが落ち着いたのかクスクスと笑いながらレオノーラが挨拶を返すと今度はクラークの方が赤くなって照れだす。
「仲がいいようだね? そんな君たちに祝辞ではなく賀辞を献じさせてもらうよ」
クラークが照れていると、国谷 真彼(
ga2331)が近づいてきて眼鏡をはずしながら静かに言葉を発した。
「賀辞は献ずるけど、祝辞は言わない。二人とも傭兵だ。いつ死ぬかわからないこの世界で、その決断ができたことを羨む。ここから、二人は互いの為に死んではならない。僕には重過ぎると感じる荷物だ」
真彼の目はまっすぐに二人を見詰め、その奥にある深い思いが映っている。
「だから、気を緩めては、ダメだよ。すまない‥‥僕には、人の幸せを願う言葉はいえないよ」
厳しい顔で語っていた真彼の表情は緩み、最後の方は小さな声となって二人に送られた。
「ありがとう、そこまで心配してくれる人がいることがとても嬉しいわ‥‥貴方が貴方自身を許せる日が来るといいわね?」
賀辞を受けたレオノーラは真彼の瞳を見ながら静かに言葉を返す。
真彼は言葉を受け止めるも何も言わず眼鏡をかけなおして静かに歩きさっていった。
「クラークさーん、えっと花束をプレゼントだよ!」」
挙式前という雰囲気に感極まった水理 和奏(
ga1500)が花束の入ったバスケットを持っていくと、メッセージカードがポロリと落ちる。
「ん、これは‥‥」
拾い上げたメッセージカードにはこう書かれている。
『
クラークさんは以前、大規模作戦でわかなが大怪我をした時に、泣いて心配してくれました
男の人にとって、人前で涙を見せるなんて恥ずかしくて普通はできないと思います
でもそんな事はお構いなしに、クラークさんはわかなに優しさを見せてくれました
そんな男の人は今までいませんでした
その時から、クラークさんはわかなにとって実の兄のような大切な存在になりました
クラークさんの‥‥ううん、二人の幸せを心から願っています
わかなより
』
「えへへ‥‥、いきなり失敗。えっと、これボクの気持ちだから‥‥ぐすん、あれ、涙が止まんないよ」
笑顔でクラークを祝福したかったわかなだったが、涙がボロボロと溢れて止まらない。
「わかなもありがとう。でも、泣いていたら折角の可愛い顔が台無しよ?」
泣き出すわかなの涙をレオノーラが屈みながら白いハンカチで拭いて微笑んだ。
「ありがとう、クラークさんを宜しくお願いします」
涙を拭かれたわかなはレオノーラに向けて深く頭を下げる。
「あ、二人ともこんなところにいたにゃー。神父さんが呼んでるにゃ、もうすぐ時間にゃよー」
「はい、今行きますよ」
白虎(
ga9191)に呼ばれ、クラークは軽く手を上げて答えた。
「今日はレオノーラ姉さまの裾もちをします。宜しくです」
レオノーラも立ち上がるとトコトコと近づいてきたヨグ=ニグラス(
gb1949)が少し大きめの白いタキシード姿で見上げてくる。
「ええ、ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」
クラークとレオノーラは手を繋ぎつつ神父の待つチャペルへと足を運ぶのだった。
●モデルをしよう
「いたたっ‥‥やっぱり夢ではありませんか」
頬をつねった奉丈・遮那(
ga0352)の隣ではオフホワイトのマーメイドタイプのウエディングドレスを着たリネーア・ベリィルンド(gz0006)が佇んでいる。
「サイズ合うのがあってよかったわね。遮那さん私の格好へんじゃない?」
ドレスの胸元を仕切りに気にしていたりネーアだったが、無事に収まって外から変ではないか遮那に聞いた。
「とても似合っていますよ。はい‥‥すんなりOKしてもらえるとは思っていなかったので意外ですが」
黒いタキシードを着こなした遮那は本物の新郎と新婦のいない控室で緊張気味に襟元を整える。
「準備できましたら写真をとりますよ」
「あ、はい‥‥どうぞです」
パシャッとフラッシュがたかれて遮那とリネーアの姿がフレームに納められた。
「綺麗でありやがるです‥‥」
ライディ・王(gz0023)がデジタルカメラで撮影をしていると、シーヴ・フェルセン(
ga5638)が憧れの視線を向けて息をつく。
「そうだね、急な仕事を手伝ってもらって助かるよ。女の子が手伝ってくれるとやっぱり気づかないフォローとかしてもらえるから本当に助かる」
「ライディは無理をしがちなんですから、もっと頼るです。何でもドンと来いです」
恋人に感謝され、シーヴは嬉しく微笑みながらも体を心配し少し見上げた。
「性別逆転での撮影なんてワガママ聞いてくださって、ありがとうございます‥‥今日はその‥‥お願いします」
「別にいいわよ。私はどちらかといえばドレスよりタキシードが似合う方だからね」
遮那とリネーアと入れ替わるようにして入ってきたのは金城 エンタ(
ga4154)と冴城 アスカ(
gb4188)のペアである。
二人の会話の通りエンタがウェディングドレスで、アスカがタキシードという姿である。
エンタは胸にシリコンをいれ、アスカはアスカでさらしを巻いてそれらしく見せる気合の入れようだ。
「二人とも宜しくお願いします。場所の希望とかありますか?」
「えっと‥‥その‥‥お姫様抱っことかしてもらいたいですし、式の最中ですけど花嫁達が出てくる前に花道で取りたいです。こういうときでもないとできませんから」
150cmにも満たない身長で細身のエンタが俯きながらもじもじ話す姿は男性ではなく女性そのものにも見えてくる。
「私はそれでいいわよ? それにしたって私より可愛いわよねぇ‥‥ほっぺにキスとかしたくなるわ」
恥らう乙女のようなしぐさをするエンタの姿にアスカは微笑みを浮かべると早速お姫様抱っこをして外へと連れ出した。
「ああ、待ってくださいっ!」
颯爽とかけていくアスカをライディがカメラや資料を片手に追いかける。
「この花嫁は私がいただいていく‥‥なーんて、いってもいいけれど私の結婚はいつになるのかしらねぇ?」
先をいくアスカがそんなことを呟いていると目の前から見知らぬ男が現れ片手を挙げて挨拶してきた。
「アスカじゃないか、人手不足らしいから呼ばれたけど外で撮影するのか?」
「えっと、どちらさま?」
「俺だ、俺。大地だよ」
グレーのタキシードに整髪料で整え、化粧の濃い顔をした男の正体は天原大地(
gb5927)だった。
「大地君だったのね。あまりにいい男過ぎて気づかなかったわ」
「ほ、本当か?」
「さぁ、どうかしらね? 撮影は好みの場所でやってもらえるから1人なら控え室の方がいいかもしれないわよ。相手はここにはいないものねぇ」
大地の整った姿を満足そうに眺めるとアスカは軽くウィンクを飛ばしてエンタを抱えて外へとでる。
「それをいうな‥‥って、もういないし‥‥」
整った頭を手で押さえた大地は1人佇むのだった。
●ブーケ争奪戦
結婚式もよいよ大詰め、邪魔をされない誓いのキスを済ませたクラークとレオノーラは寄り添って晴れ渡る空の下へと移動する。
「おめでとう、クラーク。レオノーラと末永く幸せにな?」
「一生に一度の晴れ姿、やはりステキですわね」
略式の黒い礼服姿の榊兵衛(
ga0388)が白いシックなドレスを着た婚約者のクラリッサ・メディスン(
ga0853)と共に今回の主役を祝福した。
「この次期旅立つ人が多いわね‥‥参加する場所も多いし伯爵にしてやられた感があるわ。あとで、私も主催するのであまり人のことはいえないのよね」
百地・悠季(
ga8270)は一歩はなれたところから予定されている式を指折り数えては少し遠くをみる。
自分もそのうちの一つなのでなんともいえない気分になった。
「いやぁ、クラーク氏もついに結婚までこぎつけるとはなぁ‥‥印象的なはにかみ笑顔をみてから数ヶ月か。愛の巣といっていた冗談が本当に愛の巣を作るとはねぇ」
拍手をしながら新郎と新婦を出迎える寿 源次(
ga3427)はクラークの兵舎を訪れたときのことを思い返しては感慨にふける。
世の中わからないものだ。
「この度は、ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに‥‥」
鹿嶋 悠(
gb1333)が源次の隣で静かに二人を祝福している。
「皆さん、ありがとうございます」
「本当にありがとう、それじゃあブーケを投げるわよ♪」
祝福を受けた新郎も新婦も参列者に一礼をすると、締めの儀式の用意をはじめた。
レオノーラはブーケを手にもつと後ろを向く。
これを受け取ることで近いうちに幸せが起きるという一部の参列者が真剣に取り組む余興なのだ。
「誓いのキスのいちゃつきブリは後でDVDにして送りますが、このブーケトスこそが真の目標。二人を呪った‥‥じゃない祝った分、幸せをおらにちょびっとだけ分けてくれ!」
式の最中は興奮しながらもビデオ撮影で大人しくしていた翠の肥満(
ga2348)が、サングラスを軽く手で直しながらニヒルに笑う。
「このメンバーで静かに終わるわけはないと思ったのですが‥‥さて、どうしましょうか」
ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)は気合の入った翠を見ながら対処をすべきか余興として見守ろうか考えだす。
「そーれっ!」
後ろを向いたレオノーラがブーケを高々と投げた。
晴天の空を白いブーケが舞い上がり、人ごみの中へと落下していく。
「こっち来るっ! がんばってとらなきゃ」
わかなが空を見上げながら落下位置を測り移動しはじめた。
「にっしー、あっちだよ。あっち!」
「ようし、肩車するから絶対に取れよ」
メリー・ゴートシープ(
ga6723)が恋人の零崎 弐識(
gb4064)に担がれながらブーケを取りに向かう。
「にゃー、ボクも負けないのにゃー!」
白虎もブーケを追いかけて走った。
「ほーい、さっ!」
空に手を伸ばした一同の上を無機質なマジックハンドが横切りブーケを掠め取った。
「このブーケは僕が頂いた、返して欲しければ泣いて媚びれば考えなくもない」
大人げないともいえる言動をしながら翠はブーケをしっかりと握る。
彼の目指す幸せはあまりにも果てしなく険しい道のため、ジンクスだろうとげんだろうと担いであやかりたいのだ。
「さすがに大人げなさすぎですが‥‥そこまでしたい気持ちをわからなくもないで難しいですね」
ハインの呟きが全てを物語る。
翠の『戦場の中心で愛を叫ぶ』伝説は有名なのだ。
「にゃぁ、ブーケ欲しかったにゃー! マジックハンドなんてずるいにゃー!」
「まぁ、落ち着け。あいつの目指すものがわかってないわけじゃないだろうに‥‥」
そんな大人の事情などお構いなしに駄々をこねだす白虎をアンドレアス・ラーセン(
ga6523)が宥めているとレオノーラが白虎に近づいてくる。
「男の子なんだから、泣いちゃだめでしょ? 代わりといってはなんだけれど、これあげるわ」
レオノーラはドレスのスカートを捲り上げるとガーターベルトをはずして白虎に渡した。
「にゃ‥‥ありがとうにゃ」
「どういたしまして」
泣き止んだ白虎がにぱっと笑うとレオノーラも笑いかえす。
「初めましてだな? 友人の奥方には花を‥‥てな、クラークをよろしく頼むぜ?」
騒ぎがひと段落するとアンドレアスはレインボーローズをレオノーラに向けて手渡す。
「綺麗な花ね‥‥。ありがとう、私の方が彼の世話になりそうだけれどね?」
レインボーローズを受け取り頭に刺すとレオノーラはクスリと笑った。
「れーおのーらーっ! おめでとーっ!」
アンドレアスとレオノーラの会話がひと段落したのを見計らってメリーがレオノーラに抱きつき出す。
あまりの勢いに転びそうになるレオノーラだったが、メリーを抱きとめて体勢を直した。
「もう、危ないでしょ? 折角のドレスが汚れちゃったら困るじゃない」
「だってー、間に合うか心配だったんだよ」
「それはメリーがこんなに花束買い込むからだろ? ほら、直接渡せよ」
弐識から渡された苺の花束をもらったメリーは改めてレオノーラへと差し出す。
「えへへ、おめでとう。幸せになってね? あなたもレオノーラを泣かせちゃ駄目だよ?」
「ええ、わかっていますよ。おや、メッセージカード入りとはこっていますね」
メリーの忠告にクラークが答えるも、花束の中にそっと入っているカードを取り上げた。
「そんなの仕込んだか?」
「ふぇ? にっしーじゃないの?」
「ああ、あの人ですか‥‥照れ屋といいますかアノ人らしいといえますね」
クラークが取り出したメッセージカードにはこうかかれている。
『
手に入れた幸せが永遠に続くように‥‥これを送る
―おめでとう。親愛なる友へ
Blaze
』
「よーし、それじゃあ旅立つ二人に俺からのプレゼントをやるとするか、一曲引くぜ」
アンドレアスが両手をパンと叩くと12弦のマイギターを持ち出して曲を奏でだした。
クラークの故郷であるアメリカの愛を歌った曲。
自分にとって「永遠」に続く約束はなくなったが、目の前の二人には今日の誓いを持ち続けて欲しいという願いを込めて‥‥。
●宴会ふぁいと、れでぃーごーっ!
「え〜、ご紹介にあずかりました、新郎クラーク・エアハルト氏の友人、伊藤毅でございます。さて、私と氏の付き合いは名古屋防衛戦の少し前あたりからになります。 もとは同じ軍事関係者だったこともあり、割とすぐ打ち解けた記憶があります。 それ以降の傭兵としての戦歴は、私よりも詳しい方も、おられると思われますので端折りますが、今まで赫々たる戦果をあげてこられたわけであります」
「前置き長いニャ、早く酒を飲ますのニャ〜☆」
長々とした友人代表挨拶をする伊藤 毅(
ga2610)をアヤカ(
ga4624)がせかす。
披露宴会場となっているホールには守原の作った鮎飯やピザなどが並び食べられるのを待っていた。
「もう少しだから待って‥‥。そんな氏ですが、昔から中性的な容姿がコンプレックスという、らしからぬ特徴をお持ちでして、おそらくこれからも、新婦との外出の際は苦労すると思いますが、奥方様はその辺も含めて、フォローしてくださるようお願いします」
「さて、最後に私ごとも入りますがひとつ、私にも、将来を誓い合った女性がおりました、おそらく今頃は、空のもっと上で自由に飛び回っておると思いますが‥‥前置きはこの辺にして、両人にお願いがあります、最後までともにいること、どちらかを残して逝かないこと、この一点だけ、どうかお願いしたい。 これで、挨拶を終わらせていただきます」
伊藤が頭を下げると拍手がおき、司会のライディが壇上に立つ。
撮影の仕事をひと段落つけての仕事であり、中々に忙しかった。
「それでは、乾杯の音頭を翠さんにしていただこうと思います」
「えー、こんにちは本日はお日柄もよく、キメラの襲撃もなく、青ロリの懐は潤い、研究所ではくず鉄が量産されるよい日に式を挙げられてよかったですねー、その幸せを分けてください‥‥ということで‥‥」
「カンパーイ☆」
司会の補佐をクラークより頼まれていた翠だったが、何をすればいいかわからなかったためスポットで音頭を取ることになったのだが、それさえも白虎に奪われた。
しかし、翠は牛乳瓶を掲げると腰に手をあて一気に飲み干す。
それをきっかけに会場の会食ムードは一気に加速した。
「こうやって汝と酒を飲むのって案外機会がないものだな‥‥まぁ乾杯という事で‥‥一杯どうぞ‥‥」
「ありがとう〜。それじゃあ、お返しに飲みなさいよ」
王零がリネーアに日本酒を注ぐと、リネーアは王零にスピリタスを返す。
アルコール濃度90%以上の飲み物を平然と出してくるリネーアに驚きを隠せない王零だったが、出されたものを飲まないわけにもいかなかった。
70回近い蒸留を繰り返し無色透明になった液体を一気に飲み干す。
「相変わらずといいますか、さらりと恐ろしいことをしますね」
遮那は苦笑しながらも、隣の席でマイペースに酒を味わいだした。
「リネーアちゃんもいい飲みっぷりだねぇ。どんどんいこうか、どんどん」
いい飲みっぷりを見せたリネーアに慈海は酒を次々と注ぐ。
「本当にいい飲みっぷりよね。まけられないわ、んぐんぐんぐ‥‥ぷっはぁー! ただ酒は飲み倒すわよ」
アスカが噂の酒豪であるリネーアの飲みっぷりに負け時と自らもビールをピッチャーであおり飲んだ。
ジョッキだけは物足りないというのは酒豪の証だろう。
「アスカちゃんもやるニャね。あたいと名前が近いから親近感も沸くニャ。ボーイさん、追加注文するニャよ」
アヤカはそういうと、ボーイを呼びとめXYG、アースクエイク、ラスティネイル、グリーンアラスカなどをまとめて一気に注文をした。
どれもこれもアルコール度数のかなり高いものである。
「なんというかすごいペースで飲んでるな‥‥勝手に祝いにきたけど、いいんだろうか」
ちびちびと別のテーブルで焼酎を飲みだす大地は酒豪3傑を眺め震えるのだった。
●モデルをしよう2
「あ、榊さんも婚約者さんと参加ですか?」
普段着に戻ったエンタがいれかわり結婚式衣装に着替え終えた榊とクラリッサ達に声をかける。
「クラリーに恥をかかせる訳にはいかないからな。それなりに格好付けさせてもらうさ」
常は無造作にしてある髪型をオールバックに纏め上げ、白いタキシードを着た榊は答えた。
「モデルなんて少し照れ臭いですけど、本番前にウエディングドレスが着られるなんてステキですものね」
クラリッサのほうはオフホワイトのAラインドレス、さらにパールをあしらった銀のブローチも合わせてつけている。
「中庭で撮影だっけか? 司会にライディがでているんでいろいろと手際よくないかもしれないけど、よろしく」
3人の前にカメラを持った沖那と鏡などの照明器具を持ったシーヴ、そしてリストなどの資料を手に持った男装のダークスーツに身を包んだ悠季が出迎えた。
「後2組なんで気合いれるですよ、沖那」
「披露宴で死体が増える前に終わらせないとね」
エンタを除いた一同が中庭へ向かおうとすると、遅れて着替えをすませた弐識がメリーを抱きかかえて姿を見せる。
「ちょっと待ってくれ、俺たちも写真とって欲しいぞ」
「そうだよー、折角着たのだからちゃんととってー」
メリーはAラインのスカートが短いドレスを着込み、黒のタキシードにカフスやシャツの意匠などにカジュアル要素を取り込んだ弐識に抱きついていた。
「外のものが多いから中でとるつもりだったのよ。連絡できていないくてごめんね」
悠季がリストと撮影場所を確認したあと、二人に理由を答える。
「あ、なーんだ。それじゃあ、にっしーと一緒に待ってるね」
「そっちの要望があってのことなら問題ないぜ。それまではずいぶん先になるだろうメリーの花嫁衣装をジーッくり眺めて頭に記憶しておくぜ」
「もう、にっしーのえっちー」
撮影前からノリノリの二人に沖那はため息を漏らした。
「じゃあ、後で来るからその辺でいちゃついていてくれ」
「さっさと済ましてくるです。披露宴が終わる前に済ませたいです」
「そうだな‥‥じゃあ、いくとするか。夕方前には終わらせたいし」
シーヴがどこかそわそわしながら沖那の背中を押してくるが、沖那はイマイチ何のことかわからないまま荷物をもって中庭の方へとでる。
「ふふ、あのパターンは予定表にはない一組の撮影がありそうね。手伝いしなきゃ」
悠季は1人にやりと笑い、二人の後ろを追いかけるのだった。
●終わり、そして始まり
「女三人寄ればかしましいといいますが、おぞましいの間違いではないかと思う今日を過ごしています。あ、お二人はご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに」
給仕をひと段落させたハインがクラークへと遅れた祝辞を送る。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「二人ともおめでとう‥‥これでクラークも無茶ができなくなるな‥‥まぁ‥‥一献飲め。ところでやはりクラークが尻に敷かれることになるのか?」
王零もリネーア達とは離れクラークへと酒を注ぎながら弄りだした。
決して敵前逃亡ではない‥‥はず。
「草食系に見えて意外と肉食だからどうなのかしらね」
隣にいるレオノーラはリンゴジュースを飲みながら艶やかな微笑を浮かべた。
「ですが、基本的に僕の方が不利なのは変らない気がします。惚れた弱みといいますか‥‥」
「おーおー、惚気るか? 惚気るか? 陳腐でありふれた言葉だが、二人の出会いは偶然じゃなくて必然だったような気がする」
出されている料理を食べ終え、腹休みをしだした源次がクラークに近づく。
「おお、源次兄様が何かかっこいいです。そんな源次兄様にはヨグのプリンをあげるですよ。リネーア姉様にもあげてくるです」
源次にヨグがプリンを渡すと空の酒樽と何故かゴミ箱が置いてあるリネーア達のテーブルへと駆け出した。
「お酒が実に美味しいですね。こうして飲める場があるというのも嬉しいものです」
数少ない男性陣の悠が静かだがピッチを緩めることなくアルコール度数の高い酒を次々と飲み干している。
「デザートにプリンどうです? ヨグのプリンですよー」
「甘いものは別腹よね。早速頂くわ」
酒樽をすでに3つほど転がしているリネーアはケロリとした顔でプリンを食べ始めた。
「酒でしたらこういうものを作ってみたとですがお口にあうでしょうか‥‥」
守原が用意したのはぬる燗に焼いた鮎を入れた鮎酒である。
「魚を入れているのは中々いいニャね。あたしはこういうの好きニャよ」
味わうようにアヤカの鮎酒を飲み、はぎゅっと守原に抱きついた。
「ぬおぁぅあぁうわ!? さ、捧げる相手は決めているとです!」
不意に苦手なチャイナドレスの年上女性にスキンシップをされ、思わず当身をしてその場から逃げ出す。
当身をされたアヤカの方はリネーアの胸にダイブしてそのまま縺れてゴミ箱に倒れこんだ。
「苦うるかと白うるかも美味しいわねぇ。この味は日本酒が進むわぁ」
むぐむぐとテーブルの料理を片っ端から食べているアスカは逃げ出した守原の用意したツマミを楽しむ。
「司会者がバックれたようなので、締めの挨拶を僕がするよん。披露宴は終わりだけど、CMのあともまだまだ宴会は続くよー。司会進行しなくてよくなるから、ただただ盛り上げちゃうよー! 夜明けのミルクを皆飲もうぜ!」
ライディに頼まれた最後の締めを終え、憑き物の取れたような顔で翠は牛乳を飲んでぷはーと一息いれる。
「にゃー、牛乳をこれ以上飲むとボクの飲むものがなくなるニャ。飲まれる前にボクが飲むにゃ! ブーケを取られた恨み忘れてはいないニャ」
更に白虎が再び乱入をして、第二ラウンドの宴がそのまま始まったのだった。
●月明かりの下で告白
「去年を思い出しやがる‥‥です」
ライディに呼び出され、誰もいない静かなチャペルに向かいながらシーヴは海の見える丘で取った写真を眺める。
オフホワイトのプリンセスラインドレス、アップに巻かれた頭部に白のロングヴェールとティアラが飾られ、白のロング手袋に白百合と青薔薇のキャストブーケを持っていた。
隣の白いタキシードを着たライディと腕を組み、ほのかに頬を染めて微笑んでいる。
去年の今はラストホープで同じようにモデルとして撮影をしていた。
この写真も今回は雑誌に使われない大切な思い出の一つである。
キィと静かな音を立ててチャペルの扉をシーヴが開けると写真と同じ白のタキシードに着替えたライディがいた。
「こんな時間に呼び出してゴメンね? その前にもいったけど、今日はこれを渡して起きたくて‥‥」
写真とは違い赤い顔のライディは照れたときの癖である頬をかきながら小さな箱をポケットから取り出してあける。
月明かりに照らされて箱の中にあったダイヤの指輪が光った。
シーヴは何も言わずにライディに近づき、そっと見上げて言葉を待つ。
「まだ、すぐに結婚というわけじゃないけれど‥‥シーヴをお嫁さんに迎えたいと思う。だから、この指輪を受け取ってもらえるかな?」
指輪をシーヴに向けたままでライディは静かに告白をした。
しばし、時間を空けてシーヴはそっと答える。
「Ja.Jag alskar dig‥‥愛してる」
母国の言葉でシーヴは瞳を涙で潤ませて手をそっと差し出した。
細く震える指にライディからダイヤの指輪を嵌められるとシーヴはそっと胸に抱きカットされた石を撫でる。
「我愛称‥‥」
『愛している』とライディは囁くとシーヴを抱き寄せていつもよりも優しく長いキスをした。
二人を優しく照らしていた月明かりが雲に隠れると二人はそのままライディの部屋へと戻っていく。
チャペルに静寂が訪れた。
●死して屍拾うものなし
「あら、酒樽が切れちゃったわ。追加よろしく〜」
「まだ飲むのですね‥‥日付も変られましたしそろそろおやめになったほうがよろしいかと」
12時を過ぎ、8時間近く続いている二次会はりネーアのペースに負けたものの死屍累々な光景が広がっている。
ハインはある種の戦場にいる気分を味わっていた。
それでも頼まれた酒樽は用意する。
「このまま朝まで行くつもりかしらね‥‥潰れている人は運んでおいた方がよさそうね」
つなぎ姿の悠季は死体のようにぐったりしている人を担いでは運び出していた。
「うぅ‥‥さすがに僕もこの辺で‥‥」
マイペースで飲んでいた遮那も限界に来てリタイアを宣言する。
朝まではやはり無理だった。
「師匠に匹敵するほど飲むな‥‥いったい、その体の何処に酒は消えているんだろうか」
ちびちびと飲んで付き合っている大地は目の前の女性に恐怖すら感じる。
「何をいってるニャ、リネーア姐さんの栄養はここに溜まっているに決まっているニャ」
酔っ払いオーラ全開のアヤカがリネーアの胸を鷲づかみして大地に答えた。
「ごほっごほっ! 何やってるんだよ」
うらやま‥‥もとい、破廉恥な行動に思わず大地もむせる。
「ふぃ〜、食った食った。これだけ食えばバグアとの戦いも勝てるんじゃないかな? 自分も上がらせてもらうとするよ。君たちの健闘を祈る」
「俺もこの辺でと」
食べることをメインにしていた源次と伊藤もあがりはじめた。
倒れるもの、自ら決着をつけるものと別れ、料理も減ってきている。
「‥‥ゆりお姉さん‥‥くぅ‥‥」
わかなも最後まで付き合おうとがんばっていたが、楽しい雰囲気に呑まれていたのか寝息を立てていた。
「さすがにこれ以上ここで飲むのは辞めたほうがよさそうだ」
ゆったり飲んでいた王零も周りの状況を鑑みてお開きにすることを提案しだす。
「そうね、ここで飲むのはやめましょう‥‥無人島じゃなかったら飲み屋を梯子したりできるのに残念だわ」
王零の提案に乗りながらもリネーアはまだ飲み足りないといった様子で答えたのだった。