●リプレイ本文
●ファーストステージ
「よいよオンリーライブなんだね‥‥合宿での頑張りがCDを作って更にライブにまでいけたんだよね」
活動を振り返りながらチョイ悪風な黒スーツ姿の田中 アヤ(
gb3437)は楽屋で感慨にふける。
ALPメンバー最年長ではあるものの、歌の経験でいくと他のメンバーに負けている部分もあり緊張が止まらなかった。
「あ、これALPの友人と作った杏仁豆腐。ライブ前にぱぱっと食べちゃってくれるといいかな」
そんなアヤの気持ちを知ってか知らずか沖田 神楽(
gb4254)が肩が大胆に露出した黒のスタイリッシュな振袖姿でカップに収まった杏仁豆腐を配りだす。
控え室で着替えなどの準備を済ませていくアイドル達はライブ前にひと時の甘味を味わう時間を設けた。
「冷たくてウメェな。外の暑さを吹き飛びそうだぜ」
トレードマークにもなっているサイドポニーを解き、ウェーブのかかったロングヘアと白いワンピースを着たテト・シュタイナー(
gb5138)は神楽の差し入れをおいしそうに食べ始める。
口が悪くなければ別人と思えるほど印象の変る姿だが彼女らしさともいえよう。
全体的に雰囲気が和み、杏仁豆腐を食べ終えたアヤが両手を叩いて立ち上がった。
「よしっ、あたし達はできる! みんな、笑顔でいこうぜ!」
「ALPの皆さん、本番いきます」
タイミングよくスタッフが楽屋に訪れ呼びかける。
「丁度いいタイミングだね。行く前にこれをもっていって」
神楽が一人一人にマスコットつきストラップを握らせていった。
「お守りじゃ、古臭いきがしたから‥‥それじゃ、がんばろう」
「おう、派手なステージにしてやろうぜ、仕込みもばっちりだからな」
各々が目標を持って楽屋から外へ足を踏み出す。
待っている観客のざわめきが聞こえてきた。
●Rock & Roll
「‥‥いいね。クールに熱くなってきた‥‥!」
嵐 一人(
gb1968)が舞台袖でチューニングの再確認をしながら客席を見る。
会場を埋め尽くすほどの人、人、人。
コミックレザレクションのミニライブと違い大きなステージでのライブとあって活気のレベルが違っていた。
『これよりアイベックス・エンタテイメントのお送りするアイドルグループALPによる、ファーストオンリーライブ「ALPhaステージ」を開催します』
ライディ・王(gz0023)の声が会場に響き渡ると歓声が沸きあがる。
結成から半年という短い期間でありながら、アイドル達の頑張りがこうして形となっていた。
『まずはじめに、今回のライブでは唯一の男性である嵐 一人のロックナンバーをお聞きください』
紹介のナレーションを受けた嵐はステージに上がるとピックで大きくギターを大きく鳴らす。
「ALPのステージで歌うのは今回が初めてになるが、楽しんでいってくれ!」
自前のギターとあわせた白地に赤と黒のラインが走ってるデニムのジーンズとベスト姿の嵐はスタンドマイクの前に立って歌い始めた。
―Heat― 作詞:Kaz
♪〜〜
『熱くなれ! 振り向くことなく 明日の先へ走り出せ
手を伸ばせ! 躊躇うことなく 夢見たものを掴み取れ
自由の価値も眠れぬわけも 判らないまま過ごしてた
胸のどこかで叫びがあがる 身体の奥が疼きだす
そうさ高鳴る鼓動 本当の俺を呼び覚ます
「何処までいけるのか」 ただその答えを知るがために
熱くなれ! 戸惑うことなく 「自分」の意味を確かめろ
解き放て! 留まることなく 未来に届く風になれ』
〜〜♪
スタンドマイクの前で嵐はギターをかき鳴らしながら、叩き付ける様に歌い上げる。
勢いのある曲には嵐の「突っ走れ」という思いが込められていた。
「Thanks!」
曲が終わった後もしばらく引き続けていた嵐が、フィニッシュと共に手を上げると口笛が響く。
ステージの暗転と共に嵐は一歩下がり、そのままバックバンドに混ざる。
嵐の変わりにステージ中央に現れたのは3人幼姫ユニット『DiVA』だ。
「こんにちは♪、DIVAなの♪〜」
終夜・朔(
ga9003)はすでに同じみとなっているネコミミをピコピコ動かし、手を振りながら先頭を動く。
芸能界の仕事への慣れもあってか会場の一部に出来たDIVAファンの集まりにさり気ない笑顔を向けた。
「ココまで来られたのは、皆さんの応援のお陰なのです、ありがとうございます」
続いてフェイト・グラスベル(
gb5417)が元気よく姿を見せる。
傭兵に成り立ての頃にゲームのプロモーション撮影を通じて傭兵アイドルの仲間入りをしたフェイトにとって、オンリーライブを歌うことなど想像できないことだった。
そんなフェイトも今日は応援してくれたファンのため、自分の成長を見てもらおうと気合が入っている。
「おお、すごいひと。めいかびっくり‥‥きてくれてありがとう」
最後に少しおどおどしながら舞 冥華(
gb4521)が出てきてステージ上に同じタイプで色違いのゴスロリに身を包んだ小さなアイドルが出揃った。
「Noir、今日も頑張って皆の心に響ける歌をお届けさせて頂きますの♪」
「今日は全力全開で行くのです‥‥Get Set!!」
フェイトの元気な掛け声と共に静かな旋律が流れはじめる。
―Catch the sky〜心に光を〜― 作詞・作曲:Noir
♪〜〜
光射す空
何処までも蒼く広い
優しく全てを
包み込んでくれる
其処に現れる闇の影
人々の心は閉ざされ
でも恐れないで
闇の分だけ光も輝く事を
In a heart shine
〜〜♪
一番の途中、『其処に現れる〜』よりバックの嵐をはじめにヒートアップな演奏に入る。
ドォンと大きな音と共にステージの端々から花火が上がり派手な雰囲気へと変った。
締めの『In a heart shine』で3人がそろって胸に手を当てる振り付けを披露する。
リハーサルを踏まえ、練習してきた成果を”魅”せた。
間奏の間にテンポが下がり、再びゆっくりとした綺麗なメロディで二番が始まる。
♪〜〜
闇に隠れ空
世界を蝕み黒く暗い
恐怖と悲しみ
広め尽きさせぬ日々
其処に現れる希望の光
人々から闇を退けよう
だから諦めないで
光を信じて闇祓う時を
Catch the sky
〜〜♪
歌詞の途中の『其処に〜』から再びヒートアップ、ラストに手を斜め下から上にあげ、『闇祓う』という歌詞と併せて払う様な振り付けで締めた。
完成された動きに会場から各自を呼ぶ野太い声援が贈られる。
「きいてくれて‥‥ありがとう」
冥華がマイクを持ちながら小さく礼をすると残り二人も礼をして次のメンバーへと交代するのだった。
●ソロステージ
「これが最初で最後かもしれないけど行くぜぇー!」
再び暗転後、姿を見せた神楽は自らを鼓舞するように大きな声をあげて手を振る。
(「あ、父さんと門下生達も着てくれたんだ」)
客席の中に知り合いをみつけた神楽は内心嬉しさで一杯だった。
大胆に露出してはいるものの、恥ずかしさはなく会場の熱気で寒さすら感じない。
「初めての曲で、思い込めすぎて何だか歌になって無い気がするけど。頑張って歌うよ、ミュージックスタート!」
スローテンポな前奏を嵐と覚醒をして大人に成長したフェイトがギターでもって神楽の背中を押した。
―RISE STAR― 作詞:沖田神楽
♪〜〜
輝いていこうあの星のように
いつのまに 追いかけた夢がぼやけていく
変わらない現実 なんとなくの形のない不安
燻ったままの想いを隠す 見せかけの笑顔
相手の居ない競争なんて ただ虚しいだけ
でも、きっと動き出さなきゃ変わらないから
あの時みたいに夢を信じてみたい初めて見たいに
例え叶うかなんて分からなくても
ここにいることに意味はあるはずだから
燃え尽きるまで輝いて見せたいあの時見た流れ星のように
これが間違えでも後悔はしない私が選んだ事だから
迷うことの無いようにこの思いを
明日を切り開く刃に変えて
〜〜♪
ラストに進むほどに力強く勢いづいた歌を終えて神楽は頭を下げた。
頭を下げるとき、客席からの拍手の中に喜ぶ父親の顔を神楽はしっかりと目に焼き付ける。
「よう、皆。元気にしてっかー!?」
神楽と交代してステージに出てきたテトは俺様節全開で挨拶をする。
テトのマイクまヘッドセットタイプで両手をフリーにし、空いた両手で麦藁帽子を掴み、不敵な笑顔を振りまいていた。
「暑さなんかに負けんじゃねーぞ。バテたヤツぁ、俺様が直々に気合を入れちまうぜ?」
掴んでいた麦藁帽子をクルリと回転させると、頭に被る。
それを合図にバックのダブルギターが静かな曲を奏ではじめた。
―Summer Cloister(夏の回廊)― 作詞:テト・シュタイナー
♪〜〜
青空の下 映える緑に
陽光が射して 貴方を導く
其はまるで回廊が如く 鮮やかな世界へと
振り返らせる事なく 誘いて歩ませる
見据える先には 碧瑠璃の踊り場
海は瞬き 空は囀る
見上げた先には 翠嶺の揺り籠
木々は歌い 川はさざめく
Summer Cloister
さぁ 戯れましょう
ここは夏の世 夢見る世界
Summer Cloister
さぁ 安らぎましょう
ここは夏の世 二人の世界
其はまるで回廊が如く 私達を導き
甘い夢の只中へ 誘いて眠らせる――
〜〜♪
先ほどまでの不敵な笑顔は身を潜め、聖女のような優しさを帯びた表情で手とは緩やかに彼方に向かって手を掲げたり、両手を広げて迎えるような仕草をする。
緑・青の照明とドライアイスによる幻想的な空間に響く透き通るような声と共に静かに切なく歌をテトは歌いきった。
お嬢様のようにスカートの裾を摘んでお辞儀をしたテトと入れ替わり最後に姿を見せたのはアヤである。
「やっほー! アヤですよー。皆もりあがってるー? というか、盛り上がってないと失礼だよ」
客席に向けて一人漫才のようにトークを持ち掛けながらアヤがステージの端から端まで移動した。
手を振るファンに向かって手を振り返したりして持ち前の元気さをアピールし続ける。
今回は初めて自分が作詞をした曲を歌うということ、合宿のときにまとめ切れなかった全体曲がこの後に控えているという緊張を吹き飛ばすようにトークをしていく。
「えへへ、今日はあたしが歌詞を書いてきたのだ。よかったら聞いてね? それでは、アヤで『I want‥‥』」
黒いスーツにアコースティックギターを持ったアヤはトントンとサウンドホール付近を叩いてリズムを取る。
アヤのトークに歓声を贈っていた客席が一瞬静かになり、スローテンポバラードが流れはじめた。
―I want‥‥― 作詞:田中アヤ
♪〜〜
want to be close‥‥
こんなキモチ 初めてだから
キミに伝えたい そのはずなのに
教えてもらった キミの番号
最後の「1」が 押せないよ
キミのココロ キミのすべて
何もかもが愛おしく
でも どうして ボクのキモチ
Wanderin’ 言葉にできないよ
I want my love close to you
I want your heart to be with me
I want you to love me
I want‥‥
〜〜♪
「最後まで聞いてくれてありがとー! あたしは嬉しいよ、ソロの方も応援してちょーだいっ!」
曲を弾き終り、ボロロンと鳴らすと拍手と歓声がアヤの新曲を祝福という形で出迎える。
ソロナンバーでの初ライブは上手くいったようだった。
そして、次はよいよ皆で作り上げた全体曲の発表である。
「ラストナンバーとなりましたが、あたし達ALPの全体曲『ALPha 夢への翼』だよ」
アヤの声にメンバーが集まり、ついにフィナーレを迎えようとしていた。
●ラストナンバー
「それじゃ、準備は良いよね行くよ」
演奏者にベースを持った神楽が加わって最後のチューニングを済ませる。
「めいかたちみんなで、ふれーずをだしあってつくったきょく」
「最後まで聞いていってね」
冥華と大人になったフェイトがそのままマイクから客席に向けて言葉を送った。
月並みな言葉かもしれないが、それしかいえないほど気持ちが一杯なのである。
「今回が最初だ、聞き逃す手はないぜ」
「耳だけじゃなく、心でも受け取るんだぜ!」
嵐、テトが横に並びながら更に続いた。
「心を込めて歌わせていただきますの♪」
「今日来てくれた皆に感謝を込めて、ALPで‥‥」
中央にはアヤと朔が立って、軽く深呼吸をする。
「「ALPha 夢への翼!」」
ステージに並んだ7人が同時に自分達の歌を歌いだした。
―ALPha 夢への翼― 歌:ALP
♪〜〜
We Can Fly
翼を広げて 遥かな明日へ飛び立とう
たとえ ココロ 不安なときも
諦め囁く弱気を振り切り いま前だけ見つめて
夢は見らずに掴み取ろう
※(夢は この手で 掴むもの!)
夢は見果てぬ 願いの数だけ
翼よ羽ばたけ 夢の果てまで
どんな嵐も 越えていこう 折れることない想いで
〜〜♪
アンプテンポで演奏と歌の織り交ざったメロディーが会場を包む。
結成から半年、グループとしてのALPが一つの集大成を迎えた。
この日最大の拍手と歓声と口笛をファンから捧げられ、アイドル達は満面の笑みを浮かべる。
新しい体勢で歌える機会は減るとしても歌えることが嬉しいと思った瞬間だった‥‥。